シナリオ詳細
幻灯フュネライユ
オープニング
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涼風を通り過ぎ、季節が冬の入り口に辿り着く。
若木を護るように人々は『灰色の葬列』を辿った。美しき緑を一瞬にして攫った聖焔のその後を日輪は照らし続けた。
美しき世界、我々の愛する緑のアルティオ=エルムも穏やかな雪化粧を纏う季節が近付いた。
木々は安らぐように装うひとひらを舞い散らす。秋を過ぎ去り冬の入り口に立った頃になればある霊樹の民は木々を思い祭を開く。
スカイランタンを飛ばし、春を迎えに行くために、厳しい冬が来る前に温暖なる焔を空へと届けるのだ。
芽吹きの季節は目覚めの季節。
停滞の冬は、微睡むように過ぎ去るまで暫し留める。
逝く人が花咲く場所に辿り着けるように――そう祈りながら。
ざくざく、と地を踏み締めてメイ (p3p010703)は思い出す。
――こんなお祭りがあるそうですよ。
ねえさまはそう言った。彼女の故郷に程近い場所で伝統的に行なわれる祭り、幻灯フュネライユ。
ねえさまは困ったように、『作り笑い』で云うのだ。
――とても、綺麗な場所なのですよ。
彼女が幼い日、幼馴染み達と訪れて願いを託したというスカイランタンをメイは何時か見て見たいとそう願っていた。
淀んだ空気が取り払われ、クリアにも感じられた秋空に爽風だけが吹き去った。
「こんな所でお祭りがあるの?」
随分と遠くまで来て仕舞ったような気がするとエンヴィ=グレノール (p3p000051)が振り向けば、遠く大樹ファルカウが光を頂き実りを告げる。
巨樹の祈りを傍に、エンヴィは瞬いた。茂る木々の傍にクリスタルを思わせる霊樹が茂る青葉を揺らしている。
「きれいね」
――妬ましいほどに。
呟きに、メイは「本当なのです」と小さく頷いた。ぱちり、と瞬けば黄金の稲穂を思わせた瞳は丸い色味を帯びた。
パンケーキのようにまんまるに、その眸は不思議そうにその場所を見詰めた。
「霊樹の郷ですか。……実に美しい場所でございますね。
秋風に煽られた葉もクリスタルで出来て居るかのような……絵画のような場所でございます」
柘榴の色の瞳を細めて鬼桜 雪之丞 (p3p002312)は小さく笑った。
その祭は鎮魂の意味もある。願いを書いた短冊をランタンに飾って空へ高く、高く飛ばせば冬の精霊が其れを運んで春に待つそのひとへ、届けてくれるのだそうだ。
「春――ああ、『あっち』は綺麗な花が咲いてるんやろうか」
短くなった髪は、整えた。少しばかり寒くも感じられた項を気にするように蜻蛉 (p3p002599)は撫でた。
小さなおとがいを引いてメイは「屹度、綺麗な場所なのですよ」と微笑んだ。
手には白百合のランタンが。妖精焔を名付けられた美を花弁が抱き寄せて道行く物を誘うしらべとなった。
ねえ、願いを書いて届けましょう。
高く高く、届くように――
- 幻灯フュネライユ完了
- GM名日下部あやめ
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年11月23日 21時45分
- 参加人数4/4人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
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空へと願いを浮かばせれば、寂寞をも連れ去ってくれるだろうか。
嘗ての詩人はこう言った。
薔薇をかけがえのないものにしたのは、きみが、薔薇のために費やした時間だった。
その人が胸に抱いた一輪は、忘れ難いほどに鮮やかに咲いて、散った。
あなたが薔薇だったのだ。
わたしだって、薔薇だった。
その美しさに見惚れ、かけがえのないものだと咲く様を眺めていられたのはもう遠い――
黒いワンピースはシックな意匠のものだった。マーメイドラインのスカートに揺らいだのは猫の尾。
ブローチに携えたのは灯火の花だった。虹色珊瑚のアンクレットと翠玉揺らめくペンダント。忍ばした三日月を胸に『Love Begets Love』蜻蛉(p3p002599)は立っていた。
茂る木々の隙間から冬支度の風が舞い込み短くなった蜻蛉の髪を揺らがせる。目を細め、見上げた先には水晶の樹木たち。
「わあ」
呟かれた声音は純真無垢。姉の後を追うように修道女を思わす重たい黒のワンピースを身に纏っていた『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)は縺れる足で霊樹の郷へと駆け寄った。胸に飾られたのは追憶を咲かせた白百合一つ。
「蜻蛉ねーさま、エンヴィねーさま、雪ねーさま、こっちなのです」
くるりと振り向き細められたのは甘い蜜色の瞳。子猫のように気紛れな色彩に誘われて『天啓』エンヴィ=グレノール(p3p000051)は「待って」と追掛けた。細かな細工の施されたフリルが揺らぐ。黒いゴシックロリータドレスの上に羽織ったケープはふわりと揺らいだ。
碧海を思わせた揺蕩うロングヘアーを抑えたのは黒いヘッドドレス。細やかなレースとフリルは乙女の心を解くように風に揺らいで。
「メイさん、寒くはないかしら」
「大丈夫なので――は、はくちゅ」
くすりと笑ってからエンヴィは大きめのストールポンチョをそっと被せてあげた。『ねーさま』の真似をしたシックなワンピースだけでは小さな猫が風邪を引いてしまうから。優しい気遣いに鼻を赤くして「ありがとうなのです」とメイは丁寧に礼を言った。
黒い組紐に飾るは白き鈴。永久に溶けることなき氷の響きがちりりと音鳴らせば『白秘夜叉』鬼桜 雪之丞(p3p002312)は涼しげな目許を緩めて見せた。
「ここが、霊樹の郷ですか」
「……ええ、とても綺麗ね」
メイの案内で訪れた雪乃丞とエンヴィは目を瞠る。水晶樹木達は目に麗しく幻想的。寒々しささえも感じさせる透す色彩は臈長けるものである。
「肌寒くなってきたこの季節、この景色は訪れる冬を一足早く感じさせるけれど……だからこそ、秋の初めに春を願う祭が生まれたのかしら?」
この寒さが遠離るように。雪解けにより訪れる春が芽吹き、優しきものであれと誰もが願っているのだろう。
らうらうじ美しき仕草で祭へと誘う幻想種達は「ご機嫌よう御座います」と目を伏せた。黒いヴェールに目許を隠し、悼むかの如くシンプルな黒いドレスにレースの手袋をしていた彼女達の様子にメイはごくりと息を呑んだ。
「ご、ごきげんようございます」
緊張し背筋を伸ばしたメイの背を撫でて蜻蛉は「お花を頂いてもええんかしら?」と穏やかな声音で言った。
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――とても、綺麗な場所なのですよ。
柔らかな声に、褐色の指先が髪を梳く優しい気配。微睡みの淵でその膝に頭を乗せて甘えるように「いつか」と唇を重く動かした。
「いつか、一緒に」
「ええ。いつか、一緒に」
体温の心地よさ。細い指先が髪を梳いて抜けて行く。その気配が今も残っているような気がしてメイの髪を撫でた風に遂い、振り向いた。
「いつか、一緒に行きましょうね」
その声音に、微笑みに。ただ、甘えていただけだったから――
「メイさん?」
呼びかけにふるふると首を振ってからテーブルに並んでいた花を眺め遣る。
色とりどりの花に短冊。ペンの各種も並んだ長いテーブルには白いクロスが敷かれている。
「好きな花弁を選ぶのよね……私はスズランにしようかしら」
指差ながら一輪一輪、確かめるようになぞらえば妖精郷らしい大きな花弁のスズランを。
その花に込められた意味は『再び幸せが訪れる』。姿かたちが変わったって、いつか再会できると祈る少女の思いが白花に込められた。
ベルの如くこうべを垂れた花はその姿だけでもランタンを思わせる。
「では、拙はこちらを」
雪乃丞が選んだのは記憶に存在した『ミヤコワスレ』。「ミヤコワスレ?」と首を傾げたメイに雪乃丞は頷いた。
「此方でも同じ呼び名かは存じませんが、時の帝が、都を忘れられると語ったと。
……それ以来、この花には『別れ』、『しばしの憩い』等の言葉が込められたとか」
花は淡青色と呼ばれるが、寧ろ、アメジストのような美しい紫苑であった。それは、彼女の眸と同じ色だ。
メイに説明しながら雪乃丞はそっと花を一輪手に取った。
彼女の道行きに。願わくば思い残すものなどなきように――『先に歩いて行ってしまった』その人はしがらみを置いていったのだ。
重たい鉛を携えて腰を低くし、暮らしてきた彼女の枷。眼鏡の奥の感情の発露。眼鏡(かせ)を置いて、解き放たれた彼女がどうか安らかに過ごせるようにと願わずには居られない。
「……少し寂しいですが、笑って見送りましょう。この想いが、彼女の枷とならぬように」
その言葉にメイは唇をきゅ、と噛み締めた。「ねーさま」と呟く声音に重なったのは小さな猫たちの鳴き声。
よし、と気合いを入れて選んだのは百合。傍らで丁寧に白百合のランタンを作っていた蜻蛉は「綺麗な花弁を選んだんね」と声を掛けた。
「はい! 百合は、ねーさまの好きな花なのです!
あれ……ええっと……んん……ちょっと不格好だけど……ちゃんとできたかな?」
「ちゃんと出来とるよ」
穏やかに微笑んだ蜻蛉は白い色の短冊を手にしていた。彼女が筆を持つ場面をメイは見ていない。「何を書く」と問う前に目の前で猫がぺたりぺたりとテーブルと短冊に『スタンプ』を押したからだ。
「ああっ! ねこさん。悪戯しちゃダメなのです! あ、あー……足跡が一杯に……」
「あら……」
ぱちくりと瞬いたエンヴィに雪乃丞は「猫さん、拙の短冊にも一つ、足跡を頂いても?」と問い掛ける。
猫たちの足跡にも様々な願いが込められているような気がしてならないから。慌てたメイは「いいのです?」とぱちりと瞬いた。
「……ええ。なんだか、私達らしいものに見えてきたもの。
メイさんと雪乃丞さんもそうするなら、そうね……私も、近くに来た子に一足押してもらいましょう。いいかしら?」
問うたエンヴィにメイは「ねこさん、ぺたん、をお願いするのです」とまん丸お月様の眸を覗き込んだ。
三人を見守りながら、蜻蛉は微笑ましいと唇を緩めた。準備はできているとランタンを幻想種に手渡して、椅子に座って文字を書くメイを眺め続ける。
「メイは『皆の毎日がぽかぽかおひさまに包まれたみたいに、あったかいものになりますように!』て書いたですよ」
自信満々に微笑んだメイにエンヴィは皆を一瞥してから『皆笑顔で、過ごす事ができますように』と書き込んだ。
彼女――『クラリーチェ』もスカイランタンが届いた先で笑顔で居てくれるようにと、そう願いを込めて。
「拙は、そうですね。同じでしょうか。皆が笑顔でいられますように、と書きました」
夜の女神に手を引かれ、坂を勢いよく走り下りた彼女。ともだちと、関係性に名付けてくれた彼女へと祈る言葉を悪戯な神様は届けてくれるはずだから。
●
蜻蛉の短冊は白紙の儘。「大丈夫よ」と気持ちを込めて。出来る事は三人と一緒に眺めるだけだった。
大丈夫。それだけを蒼空へと運んでくれるならばそれで良い。秋空に覗いた月を眺めたメイが「パンケーキみたいなのです」と呟く声だけで『時が進んだこと』を感じずには居られまい。
蜻蛉が立っているその場所も、代わる代わるに変化をする。あの初夏の草木を遠ざけて、秋は別れるように散り行けば、冬の雪は瞼を閉ざし、開けた春に華を咲かす。
目眩く、空へと登って行くスカイランタンの光彩がクリスタルの木々に反射をする。まるで人工のオーロラ。
ひとが、誰かを悼み作った火の道が空へ空へと高く風に誘われる。何処吹くように、それが向かう先を人知らず。
其れでも良いとメイは眺めた。
(……メイ、知ってるです。ねーさまたちは、メイにとても優しい。けれど。
時折寂しそうな顔をしたり、メイを通して『クラリーチェねーさま』を想っていたりするの、知ってる)
猫だまりに丸くなって眠るメイの枕。頭を乗せていた温もりは、固く冷たい石になってしまったけれど。
メデューサと目をあわせたように、固く閉ざしてしまった別れの先に自分がいたことだって知っていた。
メイはどれだけ頑張っても『ねーさま』にはなれなかった。
皆の寂寞に、皆の苦しみに、寄り添う度に痛いほどに分かる。メイが『そう』なる事を望まれて等居ないのだと。
陽の光の精霊種。『ぽかぽか』で温かな光が満ち溢れるように。メイがメイという存在として、ひとにぬくもりを与えられるように。
決意と祈りはランタンに乗せられて空へ、空へと運んで行く。
「ふわぁぁぁぁ……!」
光の道。『あなた』と見に行こうと約束した――
手を繋いで、優しく微笑んでくれたあの日を思い出す。凭れ掛かったぬくもりが遠離ってしまったことも、異邦のその場所はあの人にとっての大切な場所だったことだって。
光がほどけ、空へと融けて行く。涙が出そうだとメイは唇を引き結んだ。
毀れてしまわぬように、かんばせに無理矢理乗せた笑顔は、不格好だけれど。
「綺麗なのです」
笑うだけ。綺麗だね、と笑えばそうだと返してくれる人が居る。
「今日、此処に来れてよかったです」
そうだと返してくれる――『ねーさま』のお友達が、一緒に居てくれる。
忍ばせた短冊の願いも、届いてくれれば良いのに。『いつかどこかで、何かの形でまた巡り合えますように』。
灰色の毛並みに、紫色の瞳の猫がこそりと遊びに来てやくれないだろうか。淡き願いを胸に秘めて。
「……空に浮かぶスカイランタンの光景は、周囲の木々も相まってより一層幻想的ね」
「そうですね。メイさん、お誘い頂き、ありがとうございます。素敵な光景を見ることが出来ました」
本当は『ねーさまが』と言い掛けてからメイは「はいなのです」と微笑んだ。
どうか、届きますように――
雪乃丞は祈るように指を組んだ。遠く、遠く離れても時の果てに巡る糸が結ばれることを願わずには居られない。
「これなら、確実に冬の先へランタンが届きそう……。
皆で押した猫の足跡が、クラリーチェさんの元へスカイランタンを導いてくれるって、そう確信できるわ」
「猫さんのおかげです?」
「ええ。猫のお願いも籠もっているから」
エンヴィの眸に映り込んだ淡い焔。ランタンを空へと運ぶ柔らかな橙色。毀れた、日輪のようなひかり。
その淡い焔の揺らぎに、メイはぎゅうと眸を伏せて。涙が零れないように、笑っていて、小さな小さな光。
「お返しに、次は拙らが、素敵な光景をお見せ出来れば。……その時を楽しみにしていてくださいね。
もうすぐ冬。眠りの季節がすぎれば、目覚め。芽吹きの季節はすぐそこですから」
「……はい!」
ひかり、解けて。空へと、溶けて。
綴る願いが届くようにと、祈らずには居られない。
――ねーさま。
ねーさまは、いま そちらでしあわせですか。
かぞくには あえましたか。わらえていますか。
メイは、わらっています。だいじょうぶです。がんばって、あたたかなひかりを、とどけます。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
この度はリクエスト有り難う御座いました。お祭りへの参加お疲れ様でした。
皆さんのお願い事が遠い空の向こう、その場所で叶いますように、と切に祈っております。
GMコメント
日下部あやめと申します。リクエストをありがとうございます。
●目的
スカイランタンに願いを乗せましょう
●幻灯フュネライユ
花弁で作ったランタンに願い事の短冊を折りたたみ冬の精霊に運んで貰うお祭りです。
春を待ち望んだ人々の願い事や、鎮魂の意味合いがあると言われています。
ここは深緑のとある霊樹の郷。クリスタルのような美しい木々が茂った、冬を待つ場所。
少し寒々しい空気を感じますが、それさえ心地良く感じる穏やかな場所です。
白百合に妖精焔と名付けられた実をくくりつけて作ったランタンが飾り付けられています。
祭の参加者は花弁で作られたテントでランタンが空へと運ばれる様子を見ることが出来るのです。
<楽しみ方>
皆さんはスカイランタンに願いを乗せることが出来ます。
ランタンに使用する花弁や、短冊の色彩なども全て選び取ることが出来ます。
選択がない場合は白百合に、白色の短冊を添えて。
鎮魂の意味もありますが、別のお願い事も構いません。ランタンは幾つでも飛ばすことが出来ます。
冬精霊が運んでいくと言い伝えられており、ランタンは空高く昇り、そして、ふわりと姿を消すのだそうです。
鮮やかに光を灯して登っていくさまは灯籠流しを思わせます。
深緑を襲った恐ろしい出来事により、今年は参加者が多く居るようですね。
ドレスコードはただひとつ、黒色をその身のどこかに纏うこと。
喪服を思わせるシックなワンピースでも、髪飾りだけでも構いません。偲ぶ思いを心に添えて。
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