シナリオ詳細
蒼銃ヴァイン
オープニング
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引き金を引く。獣が死ぬ。引き金を引く。魔物が死ぬ。引き金を引く。人が死ぬ。
引き金を引くと、何かが死ぬ。何かが死ぬと、俺に金が入ってくる。殺し屋とは、そういう仕事。それ以上でも以下でもない。引き金を引き、何かを殺す。それはとてもとてもシンプルな事で、故に俺はこの仕事を気に入っている。難しい事は嫌いなんだ、俺は。
「アンタはそう思わないかい?」
「ぐ、クッ……!!」
血と硝煙の匂いが立ち込める一室で、俺は標的に銃口を向け、尋ねる。言ってから、柄にもない事をしたと気づいた。仕事中に標的と私語だなんて。
「は、はッ……知るものか……誰がそんな言葉に共感できるというんだ? 殺し屋なんかの言葉に。これまで何人殺してきた? 罪の意識は? 殺した相手の家族の悲しみは? お前には理解できないだろう? そして俺もお前を理解できない。これは平等な話なんだよ、蒼銃のヴァイン」
標的――辺境の領主の貴族様は、そう俺にまくし立てた。屋敷にいた人間は皆殺しにされ、こいつには戦闘能力など無い。それでもここまで口が回るとは、中々肝が据わっている。
「まあ、一理ある。俺は殺し屋。あんたは貴族。分かり合えるはずもない。実に……平等だ。だが、1つだけこの場に置いて不平等な事がある」
俺は引き金に指をかける。
「この場でアンタは死に、俺はこれからも生きていくという事さ」
そして俺は引き金を引――
「違うな。それでもやはり限りなく平等に近い。私とお前は」
「何故」
「お前は、必ず。近い未来。死ぬからだ」
「……何故」
「私は清廉潔白な貴族では無かったかもしれない。だが、家族からは愛されていた。私の家族は必ず、お前に復讐する。金に糸目を付けずに、必ず。お前がどれだけ優秀な殺し屋でも、お前より強い殺し屋などいくらでもいる。だから、お前は、死ぬ。必ず」
俺は思わず吹き出してしまう。
「ククク……だったら、やっぱりこれは不平等な話だよ、ドルマン卿」
「何故」
「俺は、誰からも愛された事なんかないからな」
「ふっ……そうか」
引き金を引き、ドルマン卿は死んだ。直後、俺の部下が焦った様子で部屋にやってきた。
「頭、終わりましたか? そろそろ引き上げねえと、騒ぎに――」
「分かってるよ。標的は死んだ。さっさと消えよう…………なあ、お前。お前は、嫌な予感って奴を信じるか?」
「は、はい? 嫌な予感? そりゃあ、こんな仕事やってりゃあ、いくらでも……」
「そうか。そういうもんか。俺は初めてなんだ。こんな感覚。俺は……」
ニヤリと口を歪めて俺は笑う。
「俺は近い内、死神に殺される気がするのさ。ククク……」
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「蒼銃ヴァイン。幻想内で活動している、殺し屋グループのリーダーの男。この男と、彼が率いる殺し屋グループ全員の暗殺依頼が入った。依頼主は、辺境の領主……だった、ドルマン卿の娘からだ。『全員必ず殺す様に。捕縛は依頼達成とは見なさない。必ず、殺して』と、言付かっている。だから、そうしてくれ」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)は、依頼書の内容を読み上げると小さく息を吐き、イレギュラーズ達に説明を続ける。
「蒼銃ヴァインが率いる殺し屋グループ。彼らは金さえ積めば何でも殺す。それが害獣だろうと獣だろうと人間だろうと。そして彼らは先日ドルマン卿を殺害した。そして、今度は卿の娘から暗殺指令が出た、と。まあ、改めて今回の経緯を説明するとこんな感じさ。別に聞きたくなかったかな? なら、失礼」
標的となった彼ら殺し屋グループは現在、森の中にキャンプを張って拠点としているらしい。だが、彼らは常に拠点を移動し続けており、その移動の痕跡は毎回巧妙に消しているらしい。幸運にも居所を掴めたこの機会を逃せば、次に彼らと接触できる機会はいつになるか分からないだろうとショウは言う。
「だからこそ、ここで確実に全員消しくれと。まあそういう訳さ。さて、他に戦闘に役立ちそうな連中の情報だけど……」
ショウはパラパラと資料をめくる。
「連中の正確な人数と武装は不明だ。だが、少なくとも全員銃を所持しているらしい。当然リーダーのヴァインもその異名の通り、蒼い銃を使うらしい。射撃技術もさる事ながら、その蒼い銃から放たれる弾丸はかなりの威力らしいね。ま、異名が付く程度の強さを持ってることは間違いないだろう」
その他の殺し屋も、当然の事ながら素人の訳もない。それなりの戦闘能力を持っている事は間違いないだろう。
「ま、俺からはこんな所かな。色々言ったけど、結局やる事はシンプルさ。行って、殺し、帰ってくる……それじゃあよろしく頼むよ。イレギュラーズ」
- 蒼銃ヴァイン完了
- GM名日下部あやめ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年03月01日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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幻想王国の片田舎に領地を有するドルマン卿はよく居る貴族だったとしか言う余地がない。
その娘であったエーレインとて、父が善人でないことは知っていた。だからこそ暗殺依頼が何処からか舞い込んで来たのだろう。
それでも目には目を、歯には歯を。愛する父を亡くした娘の判断が正しい物であるかは、誰も論ずることは出来まい。
雪嶺の麓には、淡い焔が立ち上っていた。薪を投げ入れる男は嘸、詰まらなさそうに冬の夜を通り過ごす予定なのだ。
星屑の一つも見えやしない夜の帳は何時だって嫌な予感を伴って膚を撫でる風になる。蒼銃ヴァイン、そう呼ばれることになった名も無き一人の男は殺しを生業としていた。
幾人もの部下を得たのは幸いな、ことであったが其れ等を信頼しきることは為ず、情を酌み交すことも男は避けていた。
ただ、その方が効率が良かったからだ。厚い雲が偃月さえも隠してしまった頃、八人の『暗殺者』が茂みに潜んだ。
オーダーは単純明快。同情の余地もない程に、そのひとの情報は少ない。立つ鳥跡を濁さずとはよく言ったものでヴァインは何を調べても足取りは依頼の功績程度にしか分からなかったのだ。
(――それこそ、同業者らしいのでしょうね)
今回のオーダーが同業者の始末というのも『旧世代型暗殺者』水無比 然音(p3p010637)は如何にもそれらしい仕事だと考えた。
人を殺す生業は即ち、他者の怨恨の代行者にしか他ならず、ひととひとの間に挟まれたものに集まる不和と因縁の糸は当然の末路を与える。雁字搦めになってしまった男の行く先が然音達による暗殺だというのだから未来とは何と薄暗いものか。
「まぁ、同じ事を生業とする者としましては数が減るのに越したことはないですね……」
「ええ。けれども、この結末も他人事とは思えませんねえ」
宵闇でも美しく、その色彩は星光にさえも劣ることはなき『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)の紅色の瞳が獲物を捕える。
上空で鳴いた梟の声色と、周辺に潜むであろう部下の数をカウントしたほっそりとした指先は今は衣服に潜ませた棒手裏剣を握りしめていた。
「せめて敵は増やさないように、注意して生活しましょう。その為にも、まずは仕事をきっちり片付けていかなくてはなりませんね。
……失敗してはエーレイン・ドルマン令嬢に次は此方が暗殺を目論まれてしまいますから」
囁かれたその声音に貴族たる存在の傲慢さを認識し『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)の表情が歪んだ。
殺しを生業にしている以上はそうなることも当たり前だ。幻想貴族フィルティスの娘であるアルテミアとて、そうした相手との取引が常態化しているこの国の在り方は否定しきれやしない。
「そうね、クライアントの要望だもの。……叶えなくては、ならないことだわ」
それが仕事で、それが貴族のふるまいの一つだと彼女は翌々知っていた。
「ライ」
「ええ、リリー」
『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)の呼び掛けにリトル・ライは小さく頷いた。ターゲットは双眸が捉えていた。
リリーの耳にライが構えるライフルの立てる僅かな音だけが聞こえる。星さえ瞬かぬ寄りには悍ましいものが来る。
「暗殺対象は殺し屋グループ、かぁ……詰まる所、仕事はちゃんと熟す人達だったんだろうね」
だからこそ、無数に人を殺した。夥しいほどの屍の上に立っていた男は全能感を感じていただろうか。それとも、空虚なままだっただろうか。
何れにしたって、男は死神の鎌が喉元に据えられていることになどとっくに気付いて居るのだろう。
「この仕事の結末が分かって居たんだろうね。けど、そう思うと……リリー達も同じようなものだよねっ……さ、お仕事!」
もしも、ヴァインに家族が居たならば次に恨まれるのは自分(リリー)達だろうか、と。ストーリーを脳内に描いてから掻き消して、ただ標的だけを眺めていた。
夜闇に紛れた仲間達を遠く一瞥していた『納骨堂の神』シャーラッシュ=ホー(p3p009832)は太い幹を掌で撫でた。
屹度、今宵の凶行もこうした木々だけが見ているのだ。黙し、人に識られることはなく耐えていく命――
烏滸がましい事だと言われようとも構わない。人を淘汰するのは神ではなく、人なのだから。
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「最近風にいうと、インガオホー、というやつじゃなあ。殺せば殺されるじゃろうて、道理じゃな。儂も布団の上で死ねるのかのう……?」
感傷的になってしまったと頬を撫でた髪を指先でつい、と弄った『宝石の魔女』クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)は魔女の盛装に身に纏い、茂みで息を潜めていた。
(こういうものは先手必勝に限るのじゃ! ――と言うわけで、隠密は苦手なんじゃよなぁ)
作戦開始を告げたのは気を惹く『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)であった。仲間達が隠れた場所とは対照的に、敢ての場所よりずい、と貌を出した彼女は忘失の気配を纏い笑った。
「――貴様等が『賊』か。片付けの時間だとも。コッチの水は甘い、目玉は存在しないがな!」
「頭! 敵襲だ!」
突如として立ち上がった部下の男の耳朶を撫でたのはクラウデアの鋭き一射。予想だにしない方角からの攻撃に体のバランスを崩した男へとオラボナは臆することなく近づいてゆく。
「狩人が獣に喰われる。在り来たりだが、因果応報の化身と成って――我等はイレギュラーだがな。油断せず戯れるとしよう。Nyahaha!」
無貌の娘の姿を双眸に映したヴァインは「当たる勘も悪いモンだな」と唇を尖らせた。閑かな夜には何者かがやってくる。単独行動を行って居る者が居ないことは瑠璃の梟が告げてくれる。狩りなるものは往々にして包囲網を整えておいた方が上手くいくのだ。
「皆様、夜分遅くに失礼いたします。
私のことは死神でも悪魔でも貴殿らのお好きなように呼んでいただければ結構ですよ――そのようなことは些細な問題ですから」
背筋をぴんと伸ばしていたホーは忘却聖典の一端をも口にするように青年は停滞の呪術を放った。仲間達を巻込まないように、精密に気を配った呪術が纏った失意はその足を竦ませる。
突如の敵襲に対応できぬままの賊。統率されている訳ではなく、あくまでも個人の名を旗印にやってきたひとごろし。
彼等の間を走り抜け、地を蹴ったのはたったの一度。勢いの儘、宵闇を裂いたのは青き刀身。アルテミアの瞳がぎらりと夜に怪しく光った。
「死神が来るとは嘯いたが、本当とはなあ。しかも、イレギュラーズ様と来た!」
「ええ。此方も仕事だもの。殺しを生業にしているなら、分かるでしょう?
あなた風に言うなら、殺されたから殺し返す、いたってシンプルな事。
別に私自身はあなた達に恨みは無いし、これでも幻想貴族の一員だから、殺し屋の在り方を否定するつもりもないわ」
クライアントから受けた仕事が絶対であるのはアルテミアも、ヴァインも何方も同じであったから。男は不格好に伸ばした髪をがりがりと掻いてから「いい女まで来た」と口笛を吹いた。
「受け入れる積もりがないなら、抗ってみせなさい。逃がすつもりもないけれど、ね?」
「構わねェぜ。俺は殺し屋はそう言うモンだと分かってる。ククク……ドルマンの野郎は預言者か何かか?」
――お前は、必ず。近い未来。死ぬからだ。
それがこのローレットの訪れを予期していたというならば大した狸だ。依頼主は、屹度、奴の娘か。
「クライアントにアテがついちまった所で、此処で俺が逃げりゃ次に死ぬのはあのお嬢ちゃんだろうな。
しっかし、あの嬢ちゃんも人が悪い。イレギュラーズって、ローレットだろう。あの何でも屋様が駆り出されるなんざ、俺も名が売れたか?」
「さあ、どうだろうな。俺は悪党専門の義賊でね。今までの愚行を悔いるがいい」
はたり、と白いコートが揺らめいた。白き隼が飆となる。ヒュウヒュウと風の音さえ遠離った夜に姿を現した『航空指揮』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)の言葉は存在感をも誇示して。
「何でも屋様は言うことが違うぜ。薄汚ねェ殺し屋なんて死んじまえって事だろう?」
「……いいや? 寄せ集めだからこそ、千差万別、人にも立ち位置ってのがある。俺みたいな義賊もきっと同じなのだろう。
時には人を殺し、持っている金品を奪い取るのだからな。だから俺は、お前が今まで溜め込んだ汚い金を”殺して奪う”ことにするよ」
同じ土俵に立ったならば、より戦いやすい。アルヴァの唇がつい、と吊り上がった。疾風のように、地を廻ったのは青年はヴァインと相対していた。
「カシラ」と呼ぶ無数の声音に飛び込んでゆくのは不可視の悪意。アンラックノートの恨み言は一筋の魔力となって蝕む楔へと転じた。
然音は黒衣を翻しながら暗澹の森を眺めた。暗き夜をも見通した紅玉髄の瞳は僅かなる感情を滲ませて。
「申し訳ありませんが、こちらも依頼ですので……」
蒼銃ヴァイン。その名は何処かで聞いたことがあった。広いようで狭い界隈だ。ひとごろしを生業とする者の中ではその名を聞くこともある。
(あれがヴァインの獲物――蒼銃ですか。実際に見れば結構な代物ですね)
然音の魔導銃とは又別の、青褪めたそれは人を殺す為に引き金を引かれ続けた。獣を、魔物を、人を。臆することもなく、当たり前の様に狩人が落とした撃鉄が、無数の命を散らしたかたち。
銃弾が散らばっていく。無数の星のようだとライはただ、感じていた。ライの眼はリリーの眼。姉妹に向けた合図はただ空気を一線奏でただけだった。
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――ただの、暗殺者だよ。
挨拶のように小さな娘が叩き込んだのは呪弾。炎の弾丸は堕天の輝きを帯び殺し屋達を狙い穿った。
小さなリリーに気付くことの無かった殺し屋の男達が「ぎゃあ」と声を上げる。
「遅いよ!」
リリーの焔の弾丸が重なるように撃たれてゆく。続く、クラウジアの弾丸は雨あられの如く、魔女の『小指』は魔力を手繰る。
美しき宝玉の気配を纏うクラウジアが蠱惑的に笑う。『蒼銃』の美しさを眺め、あれは依頼遂行の際にでもエーレイン・ドルマンにトロフィーとして届けてやろうかと考えた。
(壊れてなかったらコレクション的な意味でちょっと欲しいのう……しかし、あの気の強いお嬢は手放すことはなかろうか)
依頼主は徹底的に殺せと言った。あの憎悪に憤怒。その気配を察すれば、父を殺した凶器を墓前に手向けることだろう。
己がドルマンを背負って行くのだと覚悟のように胸に構えて。
「――貴様等が殺し屋だと謂うのは『頁に記された』通り。
――鼠。壁の中で燥ぐ事を忘れたのか」
「生憎、学も無けりゃクズみたいな生活だったんでな、溝鼠以下は案外閑かなもんだぜ?」
くつくつと笑ったヴァインが指先をくい、と動かした。青年がオラボナへと飛び込み叩きつけるナイフの刃先ががちん、と音を立てた。
こてん、と首を傾げたオラボナは注目する幾つもの目玉を感じ取りながら、侵されざる己の領域に立ち続けた。
「ここで生き残りなど赦しません。それは将来の禍根となる。
知っていますか? クライアントは殺せ、と言いました。それは――其れだけ強い復讐心であったからこそ」
瑠璃が地を蹴った。長い手脚を撓らせる。断片ばかりの未来視であれど、男達の動きは容易に避けることが出来た。
それだけ、彼等の技量は足りていない。頭(リーダー)ありきだったのだろう。蒼銃と呼ばれた男の手腕は裏社会ならば薄らと聞いたか。
縋り付く影のように、何もかもを逃すまいと手を伸ばす。
然音の熱砂が舞い踊る。その中で「頭ァ!」と呼ぶ声は、徐に弱くなっていくことを気付いた。
(――死神はただ、嗤うのみなのでしょう)
ホーは淡々と『確実な死』の訪れを預言し続けた。悪党が残らぬように、その全てを払除ける。まるで塵を残さぬ掃除のような落ち着いた動きだ。
リリーはヴァイン以外が倒れたことを知る。己の体内のギアを加速させるように、一気にその距離を詰めて。
零距離では鳴ったリトル・スタンピード。ぐん、と身を捻ったヴァインが辛うじて避けるが頬には弾痕がくっきりと刻まれる。
頬の肉をも抉り取るそれは止むことなき少女の決意。銃を構えた小さな娘を睨め付けるヴァインの至近距離でアルテミアが剣を振り上げた。
青褪めた月のような、美しい髪が揺らぎ、ヴァインの腕に鋭い傷を残す。取りこぼした蒼銃。手を伸ばすその腹を穿った瑠璃の弾丸。
「残念ね」
抉るのは声音と共に、アルテミアがただ、ただ、行なった。至ってシンプルな依頼だからこそ、『持つ者』である貴族のアルテミアが臆してはならないと背は語る。
「此処でお終いみたいだわ」
起き上がろうとしたヴァインの腕を切り落とすように、剣が鋭く振り下ろされた。
「ぐっ――テメェ!」
吼えた男の声音が地へと埋もれた。それは、アルヴァがヴァインの体を引き倒したのと同時だ。
背中から、転がるように地へと叩きつけられて男が息を吐く。
「ぐう」
それは、彼が人を殺したときと同じ姿だ。ただ、立場を逆転させただけである。
「要するにな、お前を殺したのは俺らでもあの貴族でもない。お前自身なんだよ」
囁く声音に、滲んだのは己もそうだと言わんばかりの苦さだった。
越えられない壁がそこにある。手を汚してしまったならば、その前で立ち竦むしかないことを、彼はよく知っていた。
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「生物の命を奪う行為が悪だとは言いません。しかし貴殿は少々やり過ぎましたね。
……慎ましく害獣や魔物のみを狩っていれば、貴殿も人々に愛される人生を歩むことも出来たのかもしれませんが」
ホーを眺めるヴァインの瞳がぎょろりと動いた。男は死神の鎌が首に掛かっていることには気付いて、頓着しなかった。
「今更このようなことを言っても遅いですが、自分がいつまでも狩る側でいれると思わないことです」
「分かってるさ、分かって居て――それでも何も持たない俺が生き抜くためにゃ必要だった」
誰にも愛されなかったから。誰かに愛される努力なんて知る止しも無かった。名を捨て、ただのひとごろしになった男が語る己のバックボーンなど存在しない。
それでも、言わずには居られなかったのだろう。
「生き残る為に求める奴と、其れを必要とする奴が居る」
殺しは金だ。金は殺しで。それは切り離せぬものなのだと男も――アルテミアさえ、知っていて。
「ええ、そうでしょう。私も貴族。だからこそ『私も仕事で承けた依頼』を損ねるわけには行かないの」
アルテミアは淡々とヴァインを見下ろしていた。逃がすつもりもなかった、けれど、あなたは逃げるつもりもないのだろう。
暗澹に月が僅かに差し込んだ。細やかな月明かりは厚い雲の隙間からちらりと顔を覗かせただけ。偃月の向こう側に、しあわせなんて言葉はない。
「嗚呼――嗚呼、真っ青だ! 気分が悪いのか?」
オラボナの問い掛けにヴァインは鼻先で笑った。じくじくと痛んだ腹は瑠璃が放った一弾だった。貫かれれば臓物が悲鳴を上げた気さえする。
「サイッコーだぜ!」
男は天を仰いでから笑った。己の上に被さったアルヴァの瞳を見る。
”お前も同じなんだろう?”と問うこともせずに男はくつくつと喉を鳴らした。死への階段を転げ落ちる男を前に、どの様に言葉を手向けるか。
「……でもまぁ、災難だよね、仕事で殺しをしたのに関わらず、こうやって殺されるんだもん。
まぁ、仕方ないよねっ。……リリー達も仕事だから。殺し屋を殺す、っていうね」
見下ろすリリーにヴァインが唇を吊り上げて笑った。端から滲んだ血潮をぷ、と吐出す男は腹の底から笑っている。
「は、は、は、――何言ってやがんだ、因果応報。殺しを生業に、する奴が『生きてて良い訳があるか』
お前も俺を殺すんだ。お前も死ぬときが来る。惨めったらしく、人を殺した罪を背負え」
男の声音は悍ましくも地を這う蛇のようであった。人の命を奪う事は呪いのようなものだとアルヴァは知っていた。
リリーを見る男の視線を奪うようにその間に入ってからアルヴァは拾い上げた蒼銃を男の額に当てた。ごり、と鈍い音をさせてそれは押し付けられる。
「俺は義賊、お前は殺し屋。今は敵同士だが、もしかしたら互いが分かる仲にも成れたかもしれない。それが今失われるのが、俺は残念だよ」
「……俺も残念だ」
徐に引き金に指が掛かってゆく。死は理不尽であるべきだ。万人に訪れるからと言って平等に考えてはならない。
死を与えた者は不平等な未来を手向けているだけだ。死神がやってきた。ぞろぞろと葬列を引連れて、無数に朽ちた棺と共に。
「そして今度こそ、限りなく不平等だ。お前は死んで、俺は生きるんだから」
「それでこそ、だ」
アルヴァはヴァインにだけ聞こえる声で言った。
――嗚呼、ヴァイン。これがお前を殺す依頼でなければ、俺はきっとお前を生かしていただろう。
不平等な終わりを与える前に最後に一言囁けば、男は其れまでになく人間らしい顔をしてから、笑った。
お前とは美味い酒が飲めそうだと呼気にも混じった血の気配が濃く、そうして事切れる刹那までアルヴァの言葉を噛み締めて居た。
――けどね、一個だけ、平等な話がある。俺も――誰かに愛されたことなんてないんだ。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
この度、シナリオの代筆を担当させて頂きました。
日下部あやめです。殺しに対するスタンスの違いなどが特に際立ったシナリオだったなあと思います。
どうか、平穏無事な未来が待っておりますように。
GMコメント
殺し屋達を殺す殺し屋として、仕事を行っていただきます。
●成功条件
キャンプに滞在している、蒼銃ヴァイン率いる殺し屋グループ全員の死亡。
●戦場情報
深い森の中に建てられたキャンプ。時間帯は夜。周囲には草木が生い茂っている。
キャンプの中心には大きな焚火が組まれ、それを取り囲むようにいくつものテントが張られている。
●殺し屋達
蒼銃ヴァインの部下である殺し屋達。正確な数は不明だが、少なくともその場に居る殺し屋を全員殺害すれば依頼達成と見なされる。
全員銃を所持しており、『出血系列』『窒息系列』のBSを伴う近~遠距離の物理単体、貫通攻撃を行う。
●蒼銃ヴァイン
殺し屋達のリーダー。熟練の射撃技術を持ち、その精確さと威力は折り紙付き。物理攻撃力、EXA、クリティカルの能力に秀でている。
幅広い距離に対応した単、列、域攻撃を持ち、『連』『弱点』『ブレイク』などを伴う。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
以上です。よろしくお願いします。
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