PandoraPartyProject

シナリオ詳細

逝く道失う幽霊船よ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●海賊船『シーホース』の最期
「ーーーー!!」
 嵐に向かって、海賊船『シーホース』の船長は吠えた。
 響き渡る叫び声を、叩きつける暴風雨が打ち消す。
 嵐に飲まれ、霧で視界はほとんどゼロ。
 マストは真っ二つに折れ、海賊『シーホース』団のシンボルである海賊旗は、風に巻かれてどこかへいってしまっていた。
 船体が折れ、浸水が激しい。
 かつて海洋で略奪の限りを尽くした海賊船も、嵐の中では無力だった。
 この船は、決定的に沈みかけている。
 船が揺れて、船員の半分ほどが波にさらわれる。
「はっ、ばかげてるぜ!」
「ヘイ!」
「まさか海賊が嵐に飲まれちまうなんてよお!」
「ヘイ!!」
「悪名をとどろかせた海賊団シーホースも、ここでしまいとはよお!」
「ヘイ!!!」
「だが……俺たちゃ最高だぜ、そうだろォ!」
 嵐が船を巻き上げる。
「ヒャーハアアアアーーー!!! もちろんです、ボス!」
「俺たちゃ海の男、最後の日まで、略奪の限りを尽くして、海で死ぬ!」
「ヘイ! どこまでもお供しますぜ! ボス!」
 雷が鳴り響く。

 そして、船は霧の底へ消えた。

●そして現在
 それは、深い霧の日のことだった。
「ナァ、海賊『シーホース』団を知ってっか?」
 酒場の前で、不意に酔っ払いに絡まれる。
 酔っ払いの戯言だろうと無視するにせよ、真剣に耳を傾けるにしろ、男は好きにまくしたててくるだろう。
「海賊のくせして、嵐で沈んだ、馬鹿げた海賊を知ってっか?」
「海洋の海域、ちょうどこのあたりの……へへ、霧の深ーい日にだけ出るって話さあ。なんでも、嵐に沈んだ海賊が、未練引きずって、船ごと幽霊船になって、来るものみんな襲ってるんだとよ、へへへ……」
「何の未練かって? さあな! だが、嵐で沈むような間抜けな海賊さあ! そりゃあ、未練だってあるってものだろうさ!」
「へへ、討伐すりゃ、賞金も出るらしいぜ、へへへ」
 男は一人だったが、何かの問いかけに答えるように叫んだ。
「ハハハ! そうさ! 俺たちゃ最高さ! そうだろォ」

●海賊船シーホースの討伐
「本日の依頼は……幽霊船の討伐! なのです」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はWANTEDと書かれた手配書を得意げに壁に貼った。
「海洋に幽霊船……が出没するです。そいつらの討伐が任務なのです!
なんでも、幽霊船は今日みたいな霧の深い日に現れる、とのことなのです! ユリーカ調べによると、まさに今日! この場所あたりに出現する……と、思うのです。じゃーん!」
 ユリーカは海域を指し示す。
「船は必要ならローレットから出してもいいですし、操船できるものがいるなら自前で運転して行ってもいいのです! ……もっとも、ミイラ取りがミイラ、なんてことにならないように、気を付けるのです!」

GMコメント

●目標
 幽霊船『シーホース』の討伐。

●場所
海洋の小海域
(船で数時間ほど行ったところ。たどり着くのはそう難しくはない)

●状況
昼の霧。
視界は悪いが、嵐ではない。

●登場
幽霊船『シーホース』には、嵐で死んだスケルトンたちが乗っている。

・ダイダラ(ボス)
 シーホースをまとめ上げる海賊船長。船長帽子をかぶっており、2丁の拳銃で戦う。
 豪快だが、残忍な面も持ち合わせている。
 戦うのが心底楽しそうだ。

・スケルトンズ
 ボスのほかに、砲手が2名、操縦者が1名、戦闘部隊のスケルトンが10名ほど存在する。戦闘部隊は鉄砲やサーベルを持っている。
 踊ったり歌ったり、なかなか陽気なようである。
 こちらも、戦うのが心底楽しそうだ。

 スケルトンたちは陽気に思えるが、説得、仲間の死などで心を動かされない。
 戦いは不可避と思われる。いくらかフレーバー的に言葉を交わすことはできるかもしれないが、あくまでフレーバーです。

幽霊船『シーホース』
 嵐で死んだ海賊たちが乗っている幽霊船。
 ボロボロにさび付いているが、スケルトンたちが動いている間はなぜか問題なく動く。
 逆にすべて討伐すれば、沈んでゆく。
 大砲を2つほど備え付けており、砲手が攻撃してくる可能性もある。

 内部には腐った食べ物や、ガラクタのみがある。価値のありそうなものはない。

●余談
シーホースを沈めてから、冒頭に出てきた酔っ払いは姿を見せなくなる。
代わりに手配書の貼ってあった酒場に報告に行くと、バーのマスターに「酔っ払いがあんたらにと……」と、かなり昔のブドウ酒(or未成年者には高級ぶどうジュース)が出される。

  • 逝く道失う幽霊船よ完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年09月14日 23時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
フロウ・リバー(p3p000709)
夢に一途な
恋歌 鼎(p3p000741)
尋常一様
リュグナート・ヴェクサシオン(p3p001218)
咎狼の牙
九重 竜胆(p3p002735)
青花の寄辺
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
しだれ(p3p005204)
特異運命座標

リプレイ

●大海原へ
「ああ、操縦なら大丈夫だ。俺たちがいるからな!」
 ローレットから操縦士を手配しようかと言われたが、『大空緋翔』カイト・シャルラハ(p3p000684) はやんわりと断る。
 カイトと『咎狗の牙』リュグナート・ヴェクサシオン(p3p001218)が操船の心得を持っている。
「朽ちた海賊達の退治、か……」
「死ぬに死にきれなくて海賊団が化けて出たってところかしら?」
『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)はまっすぐに大海原を見据えていた。『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735) のポニーテールが潮風に揺れる。
「未練を残して死んでそのまま、か……放っておけないよね、ちゃんと解放してあげないと」
「ええ。死しても彷徨うならば正しく導くのが筋というものです」
『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)と『夢に一途な』フロウ・リバー(p3p000709)は、今だ死に切れぬ海賊たちに思いをはせる。
「ああ。なぜこいつらが甦ったかなんて分からねぇがよ、この世に未練残してんなら、俺達がさっぱり晴らしてやるぜ」
「海に生き、朽ち果てる……それで終わったのならば唯の酒の肴となったのでしょうが、散り際を弁えぬというのなら藻屑と還すまで」
 義弘に同意して、リュグナートは静かに頷く。
 これからイレギュラーズたちは、さまよえる死者たちに道を示すことになるだろう。
 どのような形であれ。
(生憎と聖職者の類ではなく、魔法使いの冒険者ですがね)

「それにしても、死んでからも仲間と一緒にいられるなんて、海賊達が羨ましいね~。私はずっと一人だったからね~」
『幽霊……?』しだれ(p3p005204) は、のんびりした口調で言った。
『尋常一様』恋歌 鼎(p3p000741)は、かすかに笑う。
「仲良き事は美しきことかな、なんて言ってはいられないね。大人しくしてるなら未練を晴らす協力してもよかったのだけど。人を襲ってるなら話は別だね?」
「うんうん~。それでも生きている者に迷惑をかけるのはよくないから、さくっと倒しちゃおうね~」
「よし、船だ。遠慮せず荒っぽく扱っても問題ないよ」
「ありがとうございます」
 鼎は、リュグナートに自身の船を預ける。
「混沌に来てから海には何度かきたけれど、船に乗るのは初めてだよ~。楽しみだね~」
 潮風が吹いている。新しいような、懐かしいような、不思議な感触だ。

●霧深くまで
 イレギュラーズたちは、二手に分かれて行動する。
 片方はカイトが操縦する船だ。
 鼎、竜胆、しだれを乗せて、力強く海の上を走っていく。
 もう片方は、リュグナートが操船する。アレクシア、フロウ、義弘が乗っている。
 二隻の船は、迷いなく海を進んでいく。

(霧になりそうだが)
 カイトが両翼を広げると、風読みの羽根が湿気を帯びる。
 しかし、いつもとは少し様相が違う。
(我が神の祝福でしょうか)
 リュグナートのギフト。オルカの祝福のおかげだろうか、イレギュラーズたちの操る船の周囲は比較的晴れている。
 珍しい天気もあるものだ。
 フロウの持つ青いカンテラが辺りを照らし、霧を追いやるがのごとく視界を照らす。
「ん? そうか。そろそろか……来るみたいだよ」
 鼎のファミリア―が舞い戻る。鼎がカイトに異変を告げる。
「気をつけろ」
 リュグナートたちの船では、聴覚を研ぎ澄ませていた義弘がいち早く反応する。
 薄い霧の奥に大きな影が見えた。
 スケルトンはにぎやかに騒いでいる。およそ十数名といったところか。
「あれが、海賊船ですね」
 フロウが目を細める。
「あれは船乗りの歌かな?」
 鼎が言う。わずかな響きに耳を傾けるまでもない。
「……大砲の音が聞こえるのは勘弁だがよ」
 義弘がいうやいなや、大砲の弾が山なりに飛んでくる。
 カイトとリュグナートが、するりと二手に分かれる。1撃目は、船と船の間の海に着弾した。
 水しぶきが上がる。
 続けて、二発目。
「伏せて!」
 アレクシアとフロウの放ったマギシュートが、はるか遠くで砲弾を叩き落とした。反動の波のしぶきに、フロウはレザーバックラーをかざしてリュグナートを庇う。
 波を避け、危うげなくリュグナートは船を旋回させる。
「油断するな、来るぞ」
 義弘にはもう一度、弾を込める様子が聞こえた。
「こっちは任せて。操船を頼むわ」
 竜胆が刀を構える。2対の業物から放たれる飛翔斬が、船を狙う砲弾を真っ二つにする。
 それでも、波から伝わる衝撃が船を襲う。
 しだれがカイトを支えた。
「おっと、すまねえな」
「乗り込む前に操縦士がやられるのは避けたいからね~。それに、他に特にやれることもないの~」
 カイトは仲間に背を託し、操船に専心する。スピードを上げ、幽霊船に近づいてゆく。
 リュグナートは、カイトたちの船に道を譲りつつ、砲弾の波を巧みに避ける。固まる必要はない。あえて囮となるべく、スピードを緩めた。
 蛇行や切り返しを織り交ぜ、狙いを定められないようにする。
 焦ったのか、大砲の弾は見当違いの方向に着弾した。
 アレクシアのマギシュートが、ついには砲手へと届く距離となった。砲手が照準を合わせようとするが、アレクシアの術式が狙いを妨害する。
「全員一緒じゃないと嫌と言っても、再び水面の下にご招待だね」
「だね~」
 鼎のファミリア―は、砲弾を避け続ける間、乗りこむのに適した場所を探っていた。
「ふふ、楽しげだね? 騒いでくれれば動きが分かりやすくて助かるよ。あちらだ。側面がいいだろうね」
「おう、了解だ」
 鼎の誘導に従って、カイトの船は恐れを知らず接近していく。

 近くまで至ると、大砲は飛んでこない。代わりに、スケルトンたちはそれぞれ銃を持つ。しかし、その様子をフロウはいち早く察していた。
 そして、スケルトンはカイトたちの船しか見えていなかった。
 ルーン・H。不可避の雹が、一方的に幽霊船に降り注ぐ。
「よし、今だ!」
 カイトが加速する。イレギュラーズたちの船の接近は、海賊たちの予想以上に早かった。カイトが素早くロープで船体を固定してしまう。
「船乗りだから慣れっこだな!」
「反撃、いくよ~」
 しだれの振るう卒塔婆うえぽんは、幽霊船にはこの上なくふさわしいものかもしれない。船の装甲を破り、穴を開ける。
 鼎の睨んだ通り、ここは装甲が薄かった。
「行くわよ」
 竜胆が身をひるがえし、飛翔斬を放った。
「さあ、骨狩りの時間だ!」
 カイトの広げる両の翼から、緋色の羽根が舞い落ちる。
 穴をふさごうと群がるスケルトンを、鼎が衝撃の青でもろとも吹き飛ばす。
「ふふ、船の作法は知らないけど。ノックには十分かな?」
 ガイコツがひるんだスキを逃さず、竜胆が素早く斬りこんでいく。
「穴開け放題なら気楽でいいね」
 スケルトンは、カイトらの対処へと回ろうと右往左往するが、船体が別の方向から大きく揺れる。リュグナートの船が着いたのだ。
 スケルトンの銃撃。アレクシアが射線に割り込み、拳を構える義弘に道を譲る。
「よし、存分にどうぞ!」
「今度はこっちの番だなァ!」
 義弘のクラッシュホーンが轟き、船体に大きな穴を空ける。
「よっ、待ってたぜ!」
 船の上で、カイトがひらりとスケルトンのサーベルをかわした。スケルトンは、怒声と共に骨をカチカチと打ち鳴らす。
 役者はそろった。あとは、決着をつけるのみ。

●乱戦、混戦、大合戦
 戦場に躍り出たフロウ。
 先ほど、破壊のルーンの威力をいやというほど思い知ったガイコツたちは距離を詰める。
 しかし、素早く懐に飛び込むフロウに虚を突かれる。
「陽気なのは結構ですが、些か長居が過ぎるというものです。お覚悟を」
 セイクリッド・インパクトが砲手を貫いた。生者には慈愛として降り注ぐ聖なる光は、アンデットに対して絶大な破壊力を持つ。
(……経験上、アンデッドは厄介なのが多いですからね)
 フロウが学び、編み出した魔法だった。

 フロウや仲間たちに多くのスケルトンが群がろうとするが、そこへアレクシアが立ちふさがった。
「私が相手だよ」
 アレクシアは障壁魔術『城』を展開し、名乗り口上をあげる。
「囲め、囲め!」
 躍起になってサーベルを振り上げるが、歯が立たない。決して重装備には見えないアレクシアだが、魔装と障壁に阻まれる。
 悪い冗談のようにサーベルが折れた。フロウの連撃により、1体が倒れる。

 しだれも砲手を狙いに行くが、スケルトンたちが邪魔だ。
「なら、こっちからいくよ~」
 しだれはゆるやかに拳を振るう。
 しだれの見た目からは想像もつかないほどの威力が、スケルトンを大きくのけぞらせる。
「まだまだ~」
 近場にいる相手を狙うのだから、こちらが移動する必要はない。しだれが大きく拳を振るうと、ガイコツがのけぞった。
 大げさに驚く骸骨たち。
 腕を拾い、体勢を立て直そうとしたところで、鼎のカラスがスケルトンの腕を拾い上げた。
「活きのいい骨で黒鴉も啄み甲斐がありそうだね?」
 躍起になったスケルトンを、リュグナートの飛翔斬が斬り伏せる。
 リュグナートの持つ波濤の蒼を、払暁の牙を、不浄を払う刀身を、スケルトンたちは恐れている。
 なおも鼎を追おうとするスケルトンの間に、炎をまとったカイトが降り立った。
 朱雀緋飄。炎をまとったカイトは、スケルトンたちを寄せ付けない。
 だが、それは捨て身の攻撃であるはずだ。スケルトンたちはサーベルを振るい、銃口を向け、カイトが弱るのをじりじりと待つ戦法をとった。
 カイトが焼き鳥となるのを待つだけでよい。そのはずだった。
 しかし、炎の中から現れたカイトは無傷。ざわつくガイコツ。
 いったいどんな訓練を積めば、このようなことができるというのだろうか?
 カイトを讃えてぴゅう、と口笛が鳴った。
 銃を持ったスケルトンに、カイトは勇ましく接近する。
 再び燃え盛るカイトを見て、もはやスケルトンは待つことなどできはしなかった。がむしゃらにサーベルを振るう。
 竜胆の飛翔斬が、さらに思い切り一体を斬り伏せた。
 金属のぶつかる音が、あちこちで木霊している。

 リュグナートは、控えていた砲手に接近すると、豪鬼喝を放つ。全身全霊から、びりびりと駆け抜ける声が船を震わせる。
 思わずスケルトンたちの動きが止まる。
「お前ラも海の男だなァ! だが、どっか違ぇなあ! ……ハ!」
 リュグナートは答えず、すさまじい反射神経で銃撃を避けた。
「海洋において海賊とは様々な意味を持ちます」
 フロウは、再び一体のスケルトンに距離を詰める。ちょうどリュグナートに背中を預ける形となった。
 リュグナートの波濤の蒼が、払暁の牙が、そしてフロウのセイクリッド・インパクトが、同時に3体を塵に返した。
「ハッハア!!!」
 ガイコツが恐ろしく楽しそうに笑う。
「このノリも嫌いではないですが、亡者を放置するわけにはいきません」

 残ったスケルトンが竜胆を囲む。
 竜胆は刀を構えた。一気に、残りのスケルトンを始末するチャンスだ。しかし、この位置では……。義弘とカイトを巻き込んでしまう。
 どうする?
「行け!」
「任せな!」
 気丈な声が聞こえて、ふと緊張がゆるむ。
「ごめんなさいね!」
 戦鬼暴風陣が、辺りを薙ぎ払っていく。恐ろしい嵐は火炎とまじりあい、竜巻のごとく舞い上がる。嵐だ。スケルトンの一体が、そしてもう一体が崩れ落ちる。
 残ったスケルトンたちは一瞬、動きを止める。
「恐れるなア! 進めェ!」
 船長の一喝で、スケルトンは我を取り戻す。
「俺たちは海の戦士! 勇敢に戦って散れェ!」
 声は弾む。
 強敵と戦う興奮があたりに満ちていた。
「それが望みなら、そうするさ」
 鼎の式符・黒鴉が、一体にとどめを刺し、船から突き落とす。
「しかし、どいつもこいつも楽しそうに戦いやがる、まったくよ」
 義弘がしっかりと相手の攻撃を受け止める。言葉を交わさずとも理解できた。
「いいぜ、この俺がもっと楽しませてやらぁ」
 クラッシュホーンが、一体を打ち砕いた。
「よくも、仲間を!」
 イレギュラーズを責める声は、どこかセリフっぽさを帯びている。
 まるで劇のような。
 嬉しそうな声。手拍子、手拍子、そして次の挑戦は止むことがない。
 振り下ろされるサーベル。義弘は受け止める。
 攻撃を受け止めるたびに、あるいは華麗にかわすたびに、熱狂が増していくのが分かる。
 リュグナートがスーサイド・ブラックを放つ。
 義弘に注意を向けていて、完全に意識の外だった。
 骸骨に髑髏が刻み込まれる。は、は、は、スケルトンは笑った。洒落ている。そして、耐えかねて砕け散る。

●俺たちは海賊だった
 イレギュラーズとの戦いの中、スケルトンたちは、おぼろげであった記憶がよみがえってくる。
「満足できてないんでしょう! だったら相手してあげるからかかってきなさい!」
 アレクシアの名乗り口上が、改めてあたりに響き渡る。船長とアレクシアは、しばし、ほんの短い間向き合った。
「噂のシーホース海賊団もその程度なの? 全力を出しなよ! 後悔しないくらいに!」
 アレクシアがダイダラをまっすぐに見据える。
 ふと思い出す。
 そう、俺たちはシーホースと呼ばれる海賊だった。
 俺の名前は、ダイダラだった。
「ここにきて、遠慮する必要はねぇよな?」
「来なァ!」
 義弘に答えるように、海賊船長はくるくると銃を回す。すさまじい速さで引き金を引く。
 義弘は、あえてまっすぐに駆け抜けていく。
 クラッシュホーン。なんとか受け止める……。いや、この威力は殺しきれるはずもない。
 船が大きく揺れる。
 ダイダラはカラカラと笑う。
「行くよ~、豪腕粉砕~しだれちゃん~……くらっしゅ~」
 しだれのゆっくりした動き。
 何倍にも質量と時間が凝縮されたかのような重み。
 ダイダラは銃で受け止めようとして、腕ごと吹っ飛ばされた。面白い。面白いというように腕を鳴らす。銃を乱射する。
「おっと、危ない危ない」
 鼎のヒールオーダーがカイトを癒す。
「ありがとよ!」
 しだれは一瞬、倒れたものの立ち上がる。ふらりと、しかし、はっきりと。
「まだ、終わらないよ~」
 そうだ。そうでなくてはならない。ダイダラは狂ったように笑う。視界の端では、フロウとリュグナートが、一体のガイコツを土に還す。
 義弘と取っ組み合いになる。義弘は立ち上がる。何度でも立ち上がりそうな気迫があった。

 残った船員は、あと、一体。
 あと、一人。
 ダイダラのみだ。

「海賊団シーホース、今度こそ終わりよ。悪党は悪党らしく、嵐ではなく私達の手で引導を渡してあげる」
 竜胆は深く、間合いまで足を踏み込む。
 一刀両断。
 ダイダラには、もはや前は見えていなかった。
 でたらめに銃を乱射する。
 頭蓋骨が宙を飛んでいく。
「ここでしまいかァ。引き上げるぞォ!」
 ダイダラの一喝が響き渡る。
 引き上げるも何も、もうすでに部下たちはいない。応、とどこからか声が聞こえたような気がした。頭蓋骨は塵となる。
 舵がひとりでに動こうとした。船体を不完全に反転させようとして大きく軋む。
(おっと、まずいな)
 ファミリア―の力により戦場に目を配っていた鼎はロープを手繰り寄せる。
 崩れ落ちる。
「これで少しは満足出来たかしら?」
 竜胆はそっと呟いた。イレギュラーズたちも、船が崩れ落ちる前にそれぞれの船へと戻っていく。
 去り際、リュグナートは僅かに立ち止まり、さび付いた銃を拾い上げる。
「こちらまで幽霊船の仲間入りは御免ですからね」
 フロウは船に乗り込み、後続の仲間たちに手を貸す。
「アイツラも海の男なんだ、海の底で眠れるなら本望だろうさ」
 先導は、これで十分だ。
 道は示した。
 最期まで付き合う必要はない。
 カイトはロープを切り、沈みゆく船を見送る。

 かすかな魂を、アレクシアは見て取っていた。命の灯火。
 死者の魂をその身に取り込む。苦痛が身を焼く感触と共に、海賊たちの思いをかすかに感じ取った。
(この人達も、冒険が好きだったのだろうから……)
 あとには真っ青の海と、晴れやかな空。
「よし、戻るか!」
 きっと満足してるのだろうとカイトは思った。

●エピローグ
 ふらりと酒場に入っていくしだれを見かけて、アレクシアはその後を追いかけてみる。
 酒場に顔を出すと、すでに仲間たちがいた。
 こちらに気が付くと、アレクシアが座れるように席をあける。
「酒場での飲み物はいいよな! 生きて帰れた実感が湧いてくるぜ」
 船乗りらしく、カイトはぶどうジュースを一気にあおる。
 出された飲み物は、何者かからのおごりだという。
「嗚呼、やはりあの方は……いえ、言わぬが花でしょうね」
「……なるほど。美味しいですね」
 リュグナートは葡萄酒を遺品に捧げ、彼等の絆に想いを馳せる。
 フロウも詮索する真似はせず、ただ葡萄ジュースを口に運ぶ。
「あっちでもにぎやかかな~」
「きっと……そうでしょうね」
「よう、そこで呼び止められてな。何かあったのか?」
「どうです? おごりらしいですよ、彼らの」
 続いてやってきた義弘に、リュグナートが酒を勧める。
「おっ、悪いな……そうか」
 誰も、何も聞かない。ただただ静かに、飲み物の味を楽しむのみだ。
「ふふ、一番未練があったのは誰だったんだろうね」
 鼎が静かに笑う。
 年代物だが、さっぱりした味だった。晴れやかで透き通った味だ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

航海、お疲れ様でした!
イレギュラーズのみなさまのもたらした、ド派手な幕引きに、今度こそシーホース海賊団も満足したことでしょう。
機会がありましたら、また是非一緒に冒険しましょう。

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