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シナリオ詳細

里長のすぺしゃるお料理教室

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 秋は美味しいものがいっぱいなんだよ!

 ある日の昼下がり、亜竜集落フリアノンの外で木の実を拾う珱・琉珂 (p3n000246)へとスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はそう言った。
「――と言う訳なの。美味しいものって何だと思う? みさ、鈴花!」
「待って、琉珂。里長の立場を使って秦家と斉家を呼び出して聞くのがそれ?」
 フリアノンの倉庫番と言えば斉家と秦家が代表的だ。琉珂とも交友のある二家の娘達、斉・美彩と秦・鈴花(p3p010358)は真剣な顔をしたフリアノンの里長を前にしていたのだ。
 現状の覇竜領域デザストルの巨大集落『フリアノン』は仮初めの平穏を保っている。
 それこそ、食事の話しをする為に倉庫番の一族の娘達を呼び出す程度には、だ。

 ――オジサマは姿を消した。
 ――リーベルタースも蛻の殻だった。

 フリアノンを中心にした『里長会議』では現状維持が採択された。それは相談役であり里の守人として立場を確立させていた男が『冠位魔種』であったからだ。
 魔種がどの様な存在であるかはイレギュラーズがこの集落を訪れた際に周知している。里長である琉珂も深緑でその驚異は目にした。
 故に、『暴食』のベルゼーを里の相談役として容認し続けることは出来ないという結論の元、どの様に里を運用するかが相談なされたのだ。
 勿論の事ながら外での活動を楽しみにしていた琉珂は遥か海原のリゾート地から帰還を命じられ、椅子に固定されているのかという勢いで議場への出席を求められていたのだが……。
「もう我慢できないんだもの! オジサマは行方知らず、何か知ってそうなアウラちゃんに聞いても『知らぬ』でしょ?
 追求すれば良いって意見も出たけど、アウラちゃんにとってはお父さんを亡くすような状態だし、あんまり聞きたくないのよね」
「琉珂……」
 鈴花は痛ましいと琉珂を見遣った。フリアノンで生まれ育ち、琉珂よりも年上である者なら誰もが琉珂の両親が見舞われた悲劇を知っている。
 父と母を一度に亡くし、若くして亜竜種達の長となる事に決まった『悲劇の』亜竜種の姫君。
 お飾りだと影口を叩く者が居ても、凜と笑顔で過ごしてきた彼女は彼女なりの考えがあるのだろう。
「で、よ! 天浮の救援には私は行けなかったわ。
 行こうとしたら皆が皆、私の部屋に鍵を掛けて窓の外で見張ってるレベルだったもの。
 全てが終わったらお礼参りに行くんだから!」
「ねえ、りゅーちゃん。お礼参りじゃなくってご挨拶じゃない?」
「言い間違いよ、みさ!」
 唇を尖らせる琉珂に美彩は「絶対言葉を間違えたよねえ?」と鈴花を振り返った。
 其れは兎も角、だ。
「腹が空いては何も出来ぬ! と思って、二人には来て貰いました。見て見て。私、ご飯作ったの。
 美味しかったら、天浮の里とかー、ローレットとかー、んふふ、色んな所にお土産に持って行けるかな?」
「……りゅーちゃんが?」「……琉珂が?」
「そうよ?」
「「………」」
 二人は絶句した。この場所に来る途中に食物庫をになっていた斉家の青年が渋い表情をしていた理由が分かった気がする。

「じゃーん!」

 包丁は握れません。火の扱いは得意です(攻撃技)。お料理なんて経験はありません。
 フリアノンの里長、珱・琉珂は料理が出来ない。
 胸を張り笑顔で見せ付けられた料理は『料理』と呼べない代物であった。
「よ、よし、任せてよね、りゅーちゃんりーちゃん!」
「任せられるわけないでしょ、美彩!」
 ……斉家の大食らい、胃袋が倉庫と揶揄われる斉・美彩。彼女もまた、料理スキルが皆無なのであった。
 鈴花は頭が痛くなった。此の儘ではフリアノンの沽券に関わる。
 芋虫でも食べてた方がましなレベルの料理を前にして、鈴花は「料理教室よ!」と叫んだのだった。

GMコメント

 一方その頃のフリアノン。会議疲れの里長です。

●目標!
 『食べられるお料理を一品』でも作れるようになりたいな!

 戦闘は基本はありませんが、琉珂の調理スキルは壊滅的です。
 モンスターと呼べるような生き物が現れる可能性もありますね……。
 また、琉珂のご飯を食べるとバッドステータス並に「くるしー!」となる可能性もあります。注意して下さい!
 そんなこんなでNormalです。

●フリアノンの食堂
「私達のための来てくれて有り難う!」と琉珂が調理場を貸し切りました。
 調理場には練達の技術がないので電子レンジなどは駆使できないので注意して下さい。
 調理用品は其れなりに調達してきたみたいです。先ずは基本のお料理から始めたいですね。
 何を作るかは皆さんにお任せです。皆で一品を教えても良いですし、色々と幅広く教えても良いですね。
 作ったお料理は最後に皆で頂きましょう! お残しは美彩が居るので心配しなくて大丈夫そうです。

●琉珂が一人で作ったお料理
 もうモンスターと呼んでも差し支えありません。なんか動いてます。
 食べきるか「えいや!」と倒さなくてはなりませんね。戦闘で……倒れるお料理……

●珱・琉珂(p3n000246)
 ご存じ、覇竜領域デザストルで一番大きな亜竜集落フリアノン。巨竜フリアノンの骨と洞穴で作られた巨大集落の里長です。
 両親を竜種の襲来で亡くし、父代りと慕った『オジサマ』は暴食の冠位魔種ベルゼーでした。
 里の行く末を定めるべく里長会議に縛り付けられていた様子ですが一先ずは現状維持を採択され、一安心した頃。
 お料理スキルはありません。包丁握れば血が流れます。手先が不器用、勢いガール。
『落ち着いて』と言われればなんとかお料理できそうです。天賦の才能『勢い任せ』!
 これでも女の子なので、美味しいお料理を作りたい所。イレギュラーズは皆『トモダチ』だと思っています。

●斉・美彩(せい・みさい)
 スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)さんがフリアノンで出会った倉庫番一族の女の子。
 食料庫を虎視眈眈と狙う大食らいガール。スティアさんのすぺしゃるなお料理にもすぺしゃるな胃袋で対抗できそうです。
 武器でカトラリーを手にしているので狩りは得意ですが調理はどちらかと言えば『素材そのまま』タイプ。
 琉珂と同じくらいにお料理スキルがありません。おにぎりくらい握れるようになりたいよね! ね!

  • 里長のすぺしゃるお料理教室完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年11月09日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
リック・ウィッド(p3p007033)
ウォーシャーク
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
秦・鈴花(p3p010358)
未来を背負う者
ライオリット・ベンダバール(p3p010380)
青の疾風譚
玖・瑞希(p3p010409)
深き森の冒険者

リプレイ


 フリアノンに棲まう者ならば耳にしたことが合った里長達の相談役。ふらりと郷にやって来ては姿を消してしまうと言う流浪のその人はこの地へと様々な恩恵を齎した。それが珱・琉珂 (p3n000246)の父親代わりであったベルゼー・グラトニオス。
 深緑の一件以降、彼が何処かに消えてしまったと知っている。オジサマと慕っていた琉珂の気落ちする表情を見れば『パンケーキで許す』秦・鈴花(p3p010358)はもう一発殴らなくてはと決めていた。
「ねえ、リュカ」
「なあに、鈴花」
「……私、オジサマに会ったら一発殴ると決めていたんだけど――二発にするって、今決めたわ。
 リュカに! 料理を! 教え込んでおきなさいよ! 暴食なら美味しい料理をね!?」
「だって、オジサマなんでも食べるもの」
「そういう、ね!?」
 叫んだ鈴花の目の前では大皿の上で何故か動いている料理を手にしている琉珂が立っている。料理教室と聞いて馳せ参じた『蒼輝聖光』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はその笑顔を硬直させてから徐々に目を逸らして行く。
「まともに作れる料理が芋虫ご飯っていうのはなんとかしないとね! 
 ……料理が動く!? 気のせいだよ……ウゴカナイヨ。ワタシシンジナイ」
「スティアは現実を見なさい!!」
「ウゴカナイヨ」
 目を逸らしたスティアの頭を掴んで此れでもかと琉珂の料理(であった筈のもの)を見せ付ける鈴花。そんな三人を見ながらフランスパンを手にしていた『恋揺れる天華』零・K・メルヴィル(p3p000277)は感じ入る物があった。
(ベルゼー周りじゃ俺も関わったし、琉珂に言った言葉もある。
 可能な限り力になりてぇとは思ってるんだよ―――でもそれは其れとしてよ)
 あの暴食はまだまだ年若い里長にどれ程の心の傷と与えたか。だからこそ、力になるとは決めていた、決めていたけれど。
「お前思った以上に料理がやばくねぇか????」
「ええ、そうかしら? ほら。これ、私が作ったお料理」
「え、えと、琉珂さんのお料理……? このお料理、もっと美味しくできると思うんです!」
 里長と初めて会うとにんまり笑顔でやって来た『ドラネコ配達便の恩返し』ユーフォニー(p3p010323)の表情が凍った。
 瞬いたと共にポーカーフェイスで笑顔を隠してなんとか作り笑顔を返したユーフォニーの内心は焦っていた。料理が、動いている。
 ドラネコのグルメ魂さん、と何度も祈る。えいやっと攻撃をするユーフォニーの前で琉珂曰く『パンケーキ』が弾け飛んだ。
「一族の長が料理一つできぬとは沽券にかかわります。たぶん、きっと。
 琉珂さんにはぜひ包丁の使い方を学んでいただかないと。もちろん美彩さん、あなたもですよ!」
「エッ」
「みさもよ。私達包丁を握ると流血沙汰じゃない」
 琉珂と斉・美彩と向き合っていた 『愛を知りたい』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は『多分』と『きっと』を着けながらも琉珂をその気にさせていた。小さな『ウォーシャーク』リック・ウィッド(p3p007033)はサポート役に回ると決めていた。調理場(せんじょう)を統率し、的確な調理器具を手渡すのも重要な役目だ。
「さ、早速おれっちと料理――」
 何かが横で動いた。「あっ、料理が逃げる!」と叫んだのは鈴花だ。ユーフォニーの笑顔がまたも凍り付いた。
「逃げ……?」
「あれが料理でなくモンスターって話なら、ひょっとしたらモンスター知識で味に理解が及ぶ可能性があるっスね」
 錯乱する『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)に琉珂は「違うわ、あれはお料理よ!」と言い直す。
『深き森の冒険者』玖・瑞希(p3p010409)は料理だと自信満々な琉珂に微笑んだ。
「料理! ボクも覚えたてだから、一緒にチャレンジだね!
 里長の事は、今日は仲良くなって友達になりたい。だから、琉珂さんって呼んで良い? ボクのことは瑞希って呼んでもらえたら嬉しいな」
「ええ、瑞希さん。一緒に頑張りましょうね!」
 朗らかな空気が流れるその背後を疾走する『料理』。ライオリットはそれを見詰めてから一先ずコンロの火を付けた。
「出されたものは全部食べる主義なのでなんとかなるっス。
 それに、いくら失敗作とはいえ食材がもったいないっスから、火を通し治せば多分、きっと、おそらく逝けるっス」
「早まるな――! アレはやばいぞ!」
 零の言葉にライオリットは「逝ってくるっス!」と宣言した。瑞希と琉珂の見守る前で、一人の青年が 『里長の料理』を口にしたのだった。


「ふぅ……私は何も見なかった。ってことで鈴花さんと協力して頑張らなきゃ、あまり難しい事をせずに基礎から教えないとだね」
 ライオリットを回復しながらスティアは何もなかったことにした。何もなかったのだ。そう、何も。
 胃薬を飲んで気を取り直して『攻撃』した鈴花は「料理に攻撃なんて前代未聞だわ」と呟いた。
 全力でサポートすると決めた零の前で、ココロは穏やかな笑みで琉珂に包丁を手渡した。穏やかさは崩さない儘、「包丁握れば血が流れる……理由がわかりました」と告げるココロに鈴花が頭を抱えて「あああ」と唸る。
「握る方は刃のほうじゃありません、こうです。包丁の持ち方からまず指導しなくてはなりませんね」
「「え?」」
「どうして美彩までそうなの」
 鈴花に「だって、武器で突き刺したらぐさって、できちゃうから……」と美彩がもじもじとした調子で呟いている。
「琉珂。今から包丁の使い方を教える。確かに危ないだろう。だが、此れは覚えておいて損は一切ない」
「ほ、本当? で、でも、今、ココロさんがこれじゃないって」
 刃を握りそうになる琉珂に零は首を振った。正直、『暴食』が父代わりで此れだ。もしかすると、誰も料理の仕方を教えなかったのかも知れない。
 ああ、仕方が無い事だ。彼女は幼くして里長になっている。料理を教わる前に治政を教わったのだろう。だが、これからは料理だって必要だ。
「失敗が怖いか? 馬鹿言え、失敗してなんぼだ。
 最初からできる奴なんてそういねぇ、俺だってそうだし……食料在庫はパンに限っちゃ気にすんな、その為の俺のギフトだ」
 パンは大量に出せると胸を張った零に琉珂は頑張る、と瞳を輝かせた。確かに、食材を無駄にする前になれることが出来る。
 零のパンはフォンデュ風やスープ、サンドに使えると考えれば問題はないはずだ。何だって食べてくれるライオリットの努力も此処で光る。
 美彩へとカトラリーを用意していたリックは「大丈夫だ、落ち着けば料理出来るぜ!」と声をかけ続ける。皆で教えていく工程は切る・煮る・混ぜる・焼く……そうした事を一つ一つ、調理工程を同時並行するのは難しいとリックもよく知っているからだ。
「料理スキルがないなら着実にステップアップが大事だからな! 血を見ることがないように落ち着いていこうぜ!」
「面と向かって料理スキルがないって言われるとががーんって叫びたくなるわね!」
 エプロン姿の琉珂に瑞希は「何事も挑戦だよ!」とレシピ集を示した。作る料理に合わせてきちんと工程を見ていく作戦である。
「此れも用意したんだ。スパイス。
 これ。ラサ産だよ。琉珂さんがローレットと開拓してる玉髄の路。
 その道を通って、覇竜でも。もっと使えるようになりそうだから……自分の行動が実る。これが、少しでも心の支えになるといいなって」
「玉髄の?」
「そう。琉珂さんが頑張った結果だね。これ使ってお肉焼いても美味しいんだ!
 今日は色々作りたいものもあるけど、ボクはカレーも勧めるよ」
 自身がローレットの皆と頑張ったことが実っている。それだけで琉珂は嬉しいと鈴花の背中をばしばしと叩いた。
「痛い痛い」と言いながらも彼女が喜んでいる顔を見るだけで鈴花も嬉しくなる。美彩は「凄いのね」と喜びながらココロの『包丁指導』を受けていた。
「美彩さん、琉珂ちゃん、二人に大事なことを最初に言っておくからね。包丁が握れるようになったら次の関門があるんだよ。
 料理の基本はアレンジしないこと! 慣れない内は手順通りに作るのが大切だよ。基本を大事にしていこうね」
「でも、瑞希さんが用意してくれたスパイスを入れたいわ?」
 唇を尖らす琉珂に「そんな段階に至ってません」とスティアはぴしゃりと言ってのけた。
「レシピを見て、決めた量で! 野菜の皮むきは、丁寧よりも安全に、大雑把に!
 失敗しても大丈夫。落ち着いていこう! 大丈夫だからね。ボクも覚えたてで初心者だし!」
 カレー作りのために微笑んで見せた瑞希にたっぷりの水を鍋に汲んでやって来た鈴花は「玉子って割れる?」と聞いた。
「え?」
「え?」
 鈴花は目の前の二人に頭を抱えたのだった。確かに本気で割りに掛かりそうな『脳筋』達だった。


「ががーん」
 卵に優しくすることはそれ程難しいのだろうか。スティアは無数に刻まれた零のバゲットを使ってサンドウィッチに出来るからと卵をそっと手にしてから「ゆっくり割ってね」と声を掛けた。
「ゆっくり、そっとね。力加減が大事だよ」
「うっ、ぐちゃってなった」
「が、頑張って……!」
 懸命に『卵を割るところ』から応援するスティア。美彩は「卵が無駄になっちゃう」と涙目で小さなリックに殻を拾って貰っていた。
「よ、よーし、卵も割れたところで。スクランブルエッグの作り方を説明するね。
 用意するのは卵、塩、胡椒、バター、ヨーグルト! 手本を先に見せてその後に実際にやって貰おうかな。見ててね……こうして……こう。
 焦らず落ち着いてやっていこうね。フライパンも使うし、気をつけなくっちゃ火傷しちゃうからね」
 スティアの説明を聞きながら鈴花は「これは火を使う基本よ」と声を掛ける。
 バターを全体に馴染ませて、溶き卵(殻が混じって居るのがご愛敬だった。リックが出来るだけ取り除いてくれている!)を投入。下の方が固まってきた頃に余熱調理をするのだ。
「こうすればちょっと半熟になるし、焦げないからオススメだよ!」
「あの美味しいヤツよね」
「あ、それは分かるんだ」
 呟く鈴花は湯煎までしなくてよかったとほっと胸を撫で下ろした。湯を沸かし火傷しない程度の温度になった頃に溶き卵を入れるというちょっとした『裏技(琉珂達曰く凄い裏技!)』を紹介しておいた。
「料理は強火! というのはちょいちょい聞くっスけど、慣れないうちに強火を使うのは余りにも危険っス。
 できるようになるまではレシピを見て、分量や調理手順をその通りにやった方が建設的っス。
 今日やったこともメモを取った方が良いっス。……まぁ、包丁については落ち着いて使うに限るっス」
「はーい」
「そうですね。ゆっくりと落ち着きましょうね」
 失敗料理から漸く復活したライオリットに琉珂が手を挙げる。共に包丁を学んでいたユーフォニーは「実は素敵なお料理の案もあるんですよ」と微笑んだ。
「どう調理しても美味しいというブタウシ鳥のスープはどうでしょう、琉珂さんのお料理も加えてさらに美味しくするんです♪」
「失敗料理を!?」
 ライオリットが琉珂が『包丁練習』に使ったフランスパンでチョコフォンデュやチーズフォンデュを作る準備をしている最中、ぐるんと振り向いた。
 フルーツや軽い材料も不格好になってもそれならば美味しく食べられるはずだと琉珂と美彩の包丁練習に材料を手渡していたのだ。
「や、やめておいた方が良いッスね……」
「そ、そんなにですか……?」
 業火でなければチーズやチョコは犠牲にならない筈だと美彩と琉珂に厳しく言いつけるライオリット。竜覇(火)系ガールに嘗めてかかればあわや大火事なのである。
「あ、琉珂さん。手許が不安なら、こんなこともあろうかと! 準備しておきましたよ。
 キッチン鋏を使いましょう。根菜は難しいですが葉物野菜やキノコ、お肉だって切れちゃいます。包丁練習も大事ですけどね」
 にこりと微笑んだユーフォニーが手許を支えてやりながら琉珂をサポートし続ける。ココロは2人の前に立ってから「それじゃあ、しっかりと切りましょうか」と人参を差し出した。
「――って、その背負った鋏で切ろうとしないの!」
 羽交い締めにする鈴花に「鈴花ァ、だめー腕がもげちゃうー」と琉珂がわたわたと動き始める。その様子が愉快でリックは「里長は面白キャラだぜ」と揶揄った。
「まずは人参の輪切りを練習してもらいましょう。
 皮……はいいや、取るの難しいし。手を添えて、トントンとリズムを取って包丁を動かしましょう」
「ぴえ」
 難易度があがったと琉珂は指先を切った痛みに慌てて振り返る。包丁を握りしめたまま動かれればユーフォニーも「あ、危ないですよ」と慌てるしかない。
「大丈夫ですよ。回復できますからね。APの消費は14、つまり475回ほど失敗できます、できるまで頑張りましょう」
 微笑んだココロ――10%位の本気が滲んでいて、とても恐ろしいのであった。


 零は持ち得る全てを琉珂に捧げた。そう。コック×パン屋×料理×エキスパート×非戦全部×携行品である。
 包丁の使い方を伝授し、無事に『料理くらいは切れる女の子』というよりも『少し位何かを作れる女の子(notモンスター)』に進化させるのだ。
「りゅーちゃんが大丈夫になったら問題ないね!」
「いいえ。美彩さん。かつて包丁の刃を向けるだけで騎兵を退けた伝説の料理人がいたとか。
 戦える人が料理できないなんてことない、むしろ逆です。
 カトラリーを使う普段と同じ持ち方をして包丁を持ち、大根を桂剥きしましょう。
 狩りとは違う円の動き、柄を強く握りすぎずに緩やかに動かして。……ほら、やれば簡単じゃないですか!」
 ココロに励まされて堂々と大根を桂剥きにした美彩はドヤ顔で琉珂を見ていた。
 ぷうと頬を膨らませた琉珂のそばで突如として料理が動き出したことに気付いてリックは「危ないぜ!」ときちんと討伐(?)しておく。
 きちんと動き出した料理を『シメ』て食べた瑞希は料理の前に立っていた琉珂に「良い感じだね」と頷いた。
「火はね。強くなくていいみたい。イメージは、焚き火に当って丁度いい所を探す感じかな?」
 サポート役の鈴花は「火の通りにくい野菜を教えて、順番に鍋の中へいれるのよ」と全てを『ぶち込み』そうな琉珂にアドバイスを送る。
「強火で早く仕上げたい気もしますけど、美味しくなる過程を見守る時間も好きだなあって……。
 味付けはレシピにある調味料の比率を守ることが大事です。
 一気に入らないようにちゃんとスプーンで掬って、濃くなったらお水を少しずつ足して味見しましょうね。えへへ、味見楽しいですよね……!」
「た、沢山食べ過ぎちゃうかも」
 味見をしながら味を調え――「完成!」

「手伝ってくれた鈴花さんにはスティアちょっとスペシャルでお礼をしないとね!
 張り切って映えるパンケーキを作るから楽しみにしててね!
 それに美彩さんが手加減なしのスペシャルを求めてるような気がする!
 どんどん作っちゃってもいいかな? 大丈夫? 食べきれるかな?」
「だいじょーぶ!」
 スティアが微笑んで遠慮なく『すぺしゃる』なお料理を作っているのを見詰めながら鈴花はよろよろと座り込んだ。
 多すぎればカレーでなんとかなるとは言った。
「――……そう思っていた頃がアタシにもあったわ。
 うっぷ美彩あとよろしく……ってスティアなぁにそのぱんけーきとかの山。す、すぺしゃる……うう、もうホック外すわ!」
 騒がしく料理を食べる美彩は鈴花を揶揄い笑う。
「料理ってのはもちろんセンスはあるっスけど、基本的にはやればやるほどうまくなっていくものっス。
 だけど、基本的なことを知らないまま続けても、上達は中々しないっスからね。
 まぁこれは料理に限った話ではないっスけど、人との付き合い方だって、相手を知らなきゃうまくいかないっスから。
 知らなかったのなら、これから知っていけばいいっス。そうしたら、いつかはわかり合えるかもしれないっス」
「そうね。私頑張るわ!」
 ライオリットに有り難うと微笑んだ琉珂のそばにリックがぴょんと飛び込んだ。 
「あんまり胃に入らないけど、努力の味はきっとおいしいぜー!」
 努力をしたからこそ美味しい――けれど、量が多いのだ。
「美味しく食べるまでが、料理だよ。
 ね、琉珂さん。次は、何作ってみたい? ……ボクは、また皆で料理してみたいな」
「私も! 次はね、お菓子が良いかも。レシピ集で探してみましょう?」
 瑞希の隣に座ってカレーを頬張る琉珂が「美味しい!」と微笑んだ。多く作ったのだからとフリアノンの皆へとドラネコ便でユーフォニーはデリバリーして里長の成長を喜ぶ声を聞いている。
「んでどうよ琉珂、料理、少しはやりやすくなったか?」
 にぃ、と笑った零は色々出来たなと琉珂に微笑んだ。大きく頷いた琉珂の背後で――「また動いてる!」
 何かが動いていたのは、キノセイダヨ。ナニモミテナイヨ。スティアはそっと目を逸らした。
「ま、どたばた大変だったけど、リュカも楽しそうだったし、里に人を呼んで賑やかになるのも――悪くないわね」
「また、一緒にお料理しようね。鈴花」
 にんまりと笑った琉珂に「もう料理は動かさないでね」と揶揄うように笑って。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ライオリット・ベンダバール(p3p010380)[重傷]
青の疾風譚

あとがき

 里長が「次は私クッキー焼きたい! クッキー!」と叫んでいました。
 自立って難しいなあ。フリアノン、今までお料理が駄目すぎる里長を生かしてくれて、ありがとう。

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