PandoraPartyProject

シナリオ詳細

蝶々に口づけて

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

・蝶々、舞う

 とある国の外れ。古びた造りの屋敷には、一人の魔女が住んでいるらしい。

 魔女について知られていることは、多くない。だから、一度その屋敷に入るともう二度と出られないだとか、人の食べ物を口にしないだとか、そんな突拍子の無い噂が飛び交うのだろう。しかし、分かっていることが一つだけある。

「お前さんはどんな夢がみたいんだい?」

 蝶を形どった飾りで、目元を隠している女だった。赤く塗られた唇がゆるりと弧を描き、幻のような言葉を紡ぎ出す。

「好きな夢を見せてあげよう。ほら、蝶に願ってごらん」

 魔女の指先に停まっているのは、半透明な翅を持つ蝶。その蝶が、目の前にいる少女に差し出される。

「願い事を言ってごらん。夢の中だ、何でも叶えてあげられるよ」

 少女は願う。お姫様みたいに綺麗なドレスを着て、お城の中を歩いてみたいと。

「それじゃあ、この蝶にキスをして」

 唇に近づく魔女の指先。そこに停まる蝶の翅がそっと動いて、少女の唇に触れた。
 ぱちんと弾ける光。途端に少女の瞼は重くなり、その場で眠りについた。

「さて、幸せな夢になるかねえ」

 この魔女は、蝶の魔女と呼ばれている。彼女が飼う蝶に口づけると、望む夢を見られるという。それが彼女について知られている、唯一のこと。
 皆がこの魔女を恐れつつも興味を失わないのは、彼女が見せる夢を見てみたいが故だ。彼女も夢を見たいと願う者を拒むことはせず、今日も一人、また二人と夢の世界に招き入れられる。

「お前さんも夢をみたいのかい? それならおいで。何だって叶えてあげよう」


・夢を見て

「見たい夢が見られるのなら、どんな夢がいいかしら」

 ゆるりと笑みを浮かべ、首を傾げたのは境界案内人のカトレアだ。彼女は蝶が描かれた本の表紙を、そっと撫でる。

「蝶にキスすると、見たい夢を見せてくれるんですって」

 とある国に、「蝶の魔女」と呼ばれる女が住んでいる。彼女について知られていることは多くないが、一つだけ分かっていることがある。それは彼女の飼う蝶に口づけると、見たい夢が見られるということ。

「夢の中で叶うことなら何でも叶えてくれるそうよ」

 お菓子の家をかじりたい。子どもの頃に戻りたい。会いたくても会えない人に会いたい。そういった、願い事を叶えてくれるという。

「夢を見られる時間は長くないけど、素敵な時間を過ごしてね」

 カトレアは静かに微笑んで、そっとお辞儀をした。

NMコメント

 こんにちは。椿叶です。
 蝶々に誘われて夢を見る話です。

世界観:
 魔女たちが住む世界の、「蝶の魔女」と呼ばれる女が住む屋敷が舞台です。蝶の魔女が飼う蝶に口づけると、見たい夢を見ることができます。

目的:
 蝶の魔女が飼う蝶に口づけて、望む夢を見てください。
 夢で叶う範囲のことならば、魔法は叶えてくれます。おとぎ話のお姫さまになることも、お菓子をたくさん食べてもお腹いっぱいにならないようになることも、もう二度と会えないひとに会うこともできます。
 夢を見られる時間はお昼寝する時間くらいです。

できること:
・蝶に口づける。
・夢を見る。


サンプルプレイング:

 夢で叶うことなら願っていいの? そうだなあ、じゃあ、僕の恋が叶う夢がいいかな。ずっと焦がれ続けているんだもの。夢でなら報われたっていいでしょ。
 蝶々にキス、ね。何だか勇気がいるけど、ここは思い切って。


 それではよろしくお願いします。

  • 蝶々に口づけて完了
  • NM名椿叶
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年11月07日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

結月 沙耶(p3p009126)
少女融解
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
温もりと約束
水無比 然音(p3p010637)
旧世代型暗殺者
レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)
青薔薇救護隊

リプレイ

・理想

 夢で叶うこと、か。
 目の前に飛び交うのは、赤と青の翅が印象的な蝶。その一羽一羽を目で追いながら、『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)は口の中で呟いた。

 魔女は指先で蝶を羽ばたかせている。彼女の隠された視線がこちらを射貫いて、沙耶はゆっくりと言葉を選んだ。

「そうだな。叶うなら、貧しさとか関係なくみんなと仲良く遊び、仲良く楽しめるような日常があるといいな」

 貧困で困る者もなく、自分も怪盗として盗みをやらずに済むような、優しい夢が良い。皆に排斥されて傷つけられることもない、そんな世界が良い。

 自分はずっと献身をしてきた。己の身が傷だらけになろうと、空腹で苦しくなっても、自分が犠牲になることで皆が幸せになるのなら良いとすら思った。怪盗なんかをしているのも、弱者が強者に虐げられているのが嫌だからだ。怪盗とは強き者をくじき、弱き者に味方をするもの。強欲かもしれないが、困っている者を見ると、どうしてもならわが身を削ってでも何とかしたいと思ってしまうのだ。

 誰もが幸福になれる世界など理想論でしかなくて、夢でしか見られない幻なのかもしれない。だけど、だからこそ。

「私はその理想の世界を味わってみたい」

 蝶に口づけするのは少し恥ずかしいが、これで夢を見られるなら構わない。
 唇に翅が触れると、途端に瞼が重くなる。沙耶はその眠気に身を任せて、そのまま夢の世界に落ちた。


 目が醒めると、綺麗な部屋にいた。

「だいじょうぶ?」

 傍にいたのは幼い少女。初めて会う子だが、こちらを心配そうに見つめている。

「おねえちゃん、道でたおれていたんだよ」

 彼女が母親を呼ぶと、温かな食事を持った母親が現れる。どうやらこの親子に助けられたらしい。
 体調や事情を聞かれ、差しさわりのない範囲で答える。夢だというのに、言葉に含まれた優しさや善意が胸に響いた。

「見ず知らずの私にここまでしてくれるとは」

 どう感謝すればいいのか。そうぽつりと言葉をこぼすと、少女と母親はくすりと笑った。

「困ったときはお互い様だよ。当たり前さ」

 母親はそう言って、スープのおかわりを差し出してくる。よく聞けば、この場所は助け合って生きることに、皆が喜びを感じているらしい。

 ああ、なんて綺麗な世界なのだろう。こんな夢が、現実になればいいのに。
 そんな言葉が胸の奥で浮かんで、沙耶は静かに微笑んだ。この夢を、忘れたくないと思った。


・お菓子に魔法を

 魔女によって得意なことは違うらしい。友人の魔女は気持ちを形にする魔法を見せてくれるけど、目の前にいる彼女は望む夢を見せてくれるとのことだ。
 浮かんだものはいくつかあるけれど、起きたときに笑えるものがいいだろうか。そう思って『千紫万考』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は蝶の魔女に向かって微笑んだ。

「誰にも疎まれずに友人の魔女様とお菓子屋をしている、そんな夢をみたいのです」

 彼女も魔女なら分かるかもしれないが、現実で当たり前のように人々の間で生きるのは、自分たちには難しい。だから夢で少しだけ、そんな世界があればいいと願うのだ。

「お願いできますか?」

 期待を込めて尋ねると、彼女はゆるりと笑みを浮かべて、緑の翅の蝶を差し出してきた。


 街外れにある、小さなお菓子屋さん。黒猫の看板が目印のそこは、今日も明るい声が響いている。

「あ、マカロンがかわいい色になってる」

 店に並んでいるお菓子は、栗やさつまいもを使ったお菓子が多くて、穏やかな季節を感じられる。

「秋らしいですよね。こちらはマロン味ですよ」

 リコリスと揃いの服をきたジョシュアが、子どもたちに笑みを浮かべた。
 ここでのジョシュアの仕事はお菓子を並べたり売り渡しをしたりすることだ。接客は得意ではないけれど、訪れる人は穏やかな人が多くて、笑顔でお菓子を買っていってくれる。そんな人たちの優しさに触れていると、次第に温かな気持ちになるのだった。

 店が落ち着いた頃にキッチンを覗くと、リコリスがアップルパイを作っているところだった。

「おいしくなあれ」

 イリゼの雫がそこに数滴混ぜられて、お菓子に魔法がかけられていく。その様子を見ていると、彼女もこちらに気が付いて、照れたように笑みを浮かべた。

「来月はクリスマスがありますから、忙しくなりそうですね」
「そうね。クリスマスケーキも用意しなくちゃね」
「どんなケーキにしましょうか」

 ケーキの種類をいくつかあげていく彼女の横顔は輝いていて、来月が楽しみになってくる。
 クリスマスケーキの話をしている間にアップルパイはあっという間に出来上がって、甘く香ばしい香りが店に広がった。

 綺麗に焼けたアップルパイを並べていると、香りに誘われたのか、よく店を訪れる少女が顔を覗かせた。その様子に、思わず笑みが溢れる。

「いらっしゃいませ。中へどうぞ」


・願い

 願うもの、か。
 これが夢であるのは、理解している。単なる自己満足に過ぎないことも、勿論。だけど、それでも願いたいものはあるのだ。
 寄ってきた蝶は、黒い翅に斑に赤色が咲いた怪しい色をしている。『旧世代型暗殺者』水無比 然音(p3p010637)は魔女の言った言葉に従って、その翅に唇を寄せた。

 目の前の景色が歪みはじめ、不意に意識が落ちた。そして目が醒めると、聖堂の中を思わせる空間にいた。

 見覚えのあるようでないような、曖昧な場所だった。恐らくは、断片的な過去の記憶を繋ぎ合わせて構成した空間なのだろう。夢にしては妙にリアルだけど、この曖昧な雰囲気は夢と呼ぶのが相応しい。

 ぐるりと辺りを見回し、聖堂の中を歩き回っている間に気が付いたことがあった。自分の身体にこびりついていたはずの血の匂いがしないのだ。
 センサーの類は正常に機能しているようだったから、自分の身体から血の匂いが落とされたとしか考えられなかった。

 荘厳な雰囲気が漂う空間に、巨大な十字架を模したオブジェ。これらが目の前にあるのなら、することは一つだろう。

 十字架の前に跪き、両の手を組む。そして、静かに目を閉じた。

 然音は今まで自分の存在意義に従い、多くの人々を処分してきた。もし自分に許されるのであれば、その人たちの平穏を願いたかったのだ。
 こんなことは許されないと分かっていても、あの時殺さずに済んだ可能性もあったのではないかと考えてしまうのだ。

 自分は機械だ。だけど、そうやって、自らの手で殺めてきた人たちのことを思う機能はあるのだ。人間でいうところの「思い悩む心」が搭載されているから、魔女に願って、祈りを捧げようと思ったのだ。

 もし私に祈ることが許されるのであれば、かの者たちの魂に、安寧と祝福があらんことを。

 祈りを捧げていると、冷たい身体をじわりじわりと温めていくような、そんな温もりを感じた。それに身を委ねていると、誰かの声も聞こえた気がした。その言葉がきちんと聞き取れたわけではなかったけれど、慈しみと赦しが込められているように思えた。


 目が醒めると、蝶が唇から飛び立ったところだった。その感触を半分指で拭い、然音は立ち上がる。

 これからも自分は、己の存在意義に従って人を殺め続けるだろう。
 だけど、もし夢だとしても、あの時聞こえた声は確かに「赦し」だったのだ。そう思いたかった。


・愛されたい

 願い。夢。あるはずなのに、いざ問われると思い当たらないのは多すぎるからなのだろうか。

 しばらく館を歩き回った後、『蒼月組』レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)は思いついたように足を止めた。

 自分の夢は、「親子三人で過ごすこと」。そう願って赤と青の翅の蝶を引き寄せ、そっと口づけた。すると瞼が重くなり、レイアは眠りの世界に落ちていった。


 目覚めたその場所は、どこかの屋敷だった。自分の家のようでどこか違うのは、ここが夢だからだろうか。
 小さな飛行種の少女が、その屋敷の中でくるくると走り回っている。幼い頃の自分かと思って凝視してしまったが、すぐに違うと気が付いた。赤色の髪も、金の目も自分の特徴ではない。ならばその子は――。

「×××」

 少女が名前を呼ばれ、父親であろう男性の元に駆け寄っていく。お姫様のようなドレスを着た彼女は、彼に慈しみを込めて抱えられた。

 あの男性は愛する夫で、あの少女は自分たちの娘なのだろう。ならば目の前に広がる光景は、自分の将来の家族像。この夢はきっと、自分が思い描いている理想なのだ。

 見ているだけで幸せになれる夢だ。いつか彼と、本当にこんな風になれればいいとすら思う。

 だけど。

 かしゃん。硝子が割れるように夢は崩れて、世界の隙間から、自分と父が結婚式を挙げている映像が見えた。その二人の表情を見たくなくて、目を逸らすように夢から浮かび上がる。

 半ば茫然としながら身体を起こすと、近くを飛んでいたはずの蝶たちは皆いなくなっていることに気が付いた。魔女もどこにいったのか、部屋にはレイアが一人残されている。

 夢が、終わってしまった。

 自分は父のことも、夫のことも好きだ。二人を選べないことは分かっているはずなのに、どちらが好きなのかと聞かれれば答えられなくなる。

 父はレイアを満たしてくれる。夫は昔からずっと、レイアの良き理解者でいてくれる。だからできれば、三人で仲良くしたいのだ。

 だって、私は、愛されたいから。

 愛情は与えられた形しか分からない。例えそれが歪であっても、それを求めてしまうものなのだ。そうして底のないそれを埋めるように、多くを欲しがる。

 でも、分かっているのだ。本当の意味で愛を与えてくれるのも、見てくれるのも夫だけだということも。

 選ばなくてはならないのだ。そう一言呟いて、レイアは屋敷の外に向かって歩き出した。

成否

成功

状態異常

なし

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