PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<総軍鏖殺>愛も平和もありゃしない。或いは、荒廃世界の片隅で…。

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●誰が悪いのか
 弱い自分が悪いのか。
 弱いことが罪なのか。
 最後に残った食糧を奪われ、命を落とした娘の遺体を埋葬し、手元に残ったのは役に立たない幾ばくかの金銭と、錆の目立つ工具箱だけ。
 
 それから暫く。
 小さな砦が、数人の男たちに襲われた。
 自身らを“リベンジャー”と名乗る彼らは、戦火に家や家族を焼かれた者たちだ。
 リーダーを務めるのは“エンジニア”と名乗る中年の男だ。ぼさぼさに伸びきった髪と、火傷痕の目立つ顔、筋肉質な身体には鉄材を寄せ集めて造ったらしい鎧を纏っている。
「俺の流儀(ルール)は簡単だ。奪われた者には奪う権利がある。傷つけられた者には傷つける権利がある。家族を殺められた者には、他人を殺める権利がある」
 新皇帝バルナバスの放った勅令を真似た口上を述べる“エンジニア”。その声は、まるで割れ鐘のようだ。それからエンジニアは、手にした大鎚を振り上げる。
 鎚の先端から、ポタリと数滴、血が落ちた。
「装備は剥がして、遺体は路傍に捨てておけ。今後はこの砦を拠点とする」
 
●略奪者の流儀
 “エンジニア”と名乗る男は、とある街の出身だ。
 釈放された悪党どもに妻子と住処を奪われて、自身も酷い火傷を負った。
 燃える街を逃げた先で、1人の軍人に救われて治療を受けたことで命を拾ったという。
 けれど彼は、彼を助けた軍人を殺めた。
 悪党に襲われる街を、その軍人が見捨てたことを知ったからだ。軍人が1人でも街に乗り込んでくれれば、部隊に応援を要請すれば、彼の家族は命を落とさなかったかもしれない。
「仕方ないさ。運が無かったんだ。そして、抗うだけの力も無かった。お前は良かったな。運がいいよ」
 無辜の民を救えなかった己を慰めるためか。
 或いは、本心の吐露だったのか。
「弱い奴が悪いんだ」
 その一言が“エンジニア”を狂わせた。

「それからエンジニアは、同じ境遇の仲間3人と出会い“リベンジャー”を結成した、と」
 手元の資料に目を通しブランシュ=エルフレーム=リアルト (p3p010222)は悲しそうに目を伏せた。
 悪党や軍人を殺め、小村を襲って食糧た資材を奪い、そうして奪った資材を使って装備を整える。そんなことを繰り返していたらしい。
 エンジニアの技術力は大したものだ。
 ガラクタや、質の悪い資材ばかりで軍人相手に渡り合えるほどの装備を仕上げたのだから。
「ブランシュに与えられた任務は……エンジニアの説得ですか。あぁ、けれど“生死は問わない”と」
 呟くように言葉を零した。
 説得に応じない場合は討伐しろということだ。
 あぁ、当然だ。
 高い技術と、装備を整えた略奪者たちを野放しにしておいて良いはずがない。

 ブランシュに与えられた資料には4人分の情報が記載されていた。
 リーダー兼装備制作担当を務める大男、“エンジニア”。
 装甲車の操縦担当である“ドライバー”。
 そして前衛を担当する“アックス”と“パイル”だ。
 エンジニアの作製した装備は頑丈で、それを扱う本人たちも頑強だ。けれど、どこにでも鋼材を使って作った急ごしらえの装備である。直撃を受ければ大きなダメージと【滂沱】や【飛】の状態異常を受けるだろうが、逆に言えば“その程度”でもある。
「どなたか手の空いている方はいませんか! お話を聞いてくれる方はいませんか! ブランシュの任務を手伝ってくれる方は! 説得を手伝ってくれる方はいませんか!」
 革命派の拠点にて、ブランシュが声を張り上げる。
 そんな彼女へ視線を送る者たちがいた。

GMコメント

●ミッション
“リベンジャー”たちの説得or討伐

●ターゲット
・リベンジャー×4
家族や故郷を失い、略奪者に身を落とした男たち。
彼らに未来への展望はなく、また大きな目的さえも無い。
ただ純粋な暴力を、生きるための暴力を手に暴れ続けているだけだ。
或いは……誰かに殺められる日を待っているかのようにも見える。

メンバーは以下の通り
・エンジニア:リーダー兼装備制作担当を務める大男、“エンジニア”。
・ドライバー:装甲車の操縦担当を務める。
・アックスとパイル:前衛を担当する屈強な男たち。
その攻撃には【滂沱】や【飛】が付与される。

●フィールド
鉱山地帯にあった小さな要塞跡地。
鉄帝全土の混乱により人手が不足しているところを“リベンジャー”に襲撃された。
リベンジャーたちは要塞を拠点に、しばしの休息中。
砦の庭には装甲車が停まっている。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <総軍鏖殺>愛も平和もありゃしない。或いは、荒廃世界の片隅で…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年11月08日 22時05分
  • 参加人数7/7人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
レイリー=シュタイン(p3p007270)
騎兵隊一番槍
ンクルス・クー(p3p007660)
山吹の孫娘
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
死神の足音
※参加確定済み※

リプレイ

●愛も平和も無い世界
 鉄帝。
 人気の失せた小さな砦の門をながめて『盲信』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)は唾を飲み込んだ。身に纏うは革命派の僧衣。視線の先にある門は、簡素ながらも頑強に補強がなされていた。
 ところどころには歯車らしき機構が見える。おそらくは、見て取れる以上に複雑な機構だ。外部からは容易に開かず、内からであれば少ない労力で開門できる……そういう類の造りである。
「とても優秀なエンジニアですよ。是非革命を共に成し遂げる同志となって欲しい所ですよ」

 強引に門がこじ開けられた。
 初めにそれに気が付いたのは“アックス”と呼ばれる偉丈夫だ。愛用の戦斧を手に取ると、彼は建物を飛び出していく。
「……接近に気付かなかった? 入って来たのは大勢じゃないな」
 装備を整えた軍勢であれば、進軍にあたって何らかの“音”や“気配”が伴うはずだ。それが無かったということは、敵は寡兵だ。
 アックスは元々、木こりであった。獣の住まう森に分け入り、日がな木を伐り、薪や木材にするのが仕事だ。森での暮らしが長いおかげか、気配には人一倍敏感である。
「おぉ、出て来た出て来た」
 建物の外でアックスを待ち受けていたのは、数人の若い男女である。どうにも軍人ではないようだが、しかし、一般的な市民のようにも見えない連中だ。
 先頭に立った白いスーツの男性が、咥えた煙草を足元に捨て踏み消した。
「1つ訪ねたいんだが……弱い奴が悪いなんて誰がキメたんだ?」
 
「弱けりゃ何もかも奪われる。強く無ければ生きていけねぇ。お前ら、昨日今日この国に来たわけじゃねぇんだろう? 何も見てねぇのか? 路傍に転がったまま誰にも片付けられることのねぇガキの遺体を見たことは? 森の樹に首を括って命を絶った恋人たちの死に顔は? 強けりゃアイツらぁ、死なずに済んだんじゃねぇのか?」
 アックスに続いてもう1人。
 巨大な鉄杭を担いだ男が建物から顔を覗かせる。『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)の問いに答えを返した彼は、鉄の杭を頭上に掲げて全身のバネを使ってそれを投擲した。
 鉄杭の尻には太い鎖が繋がれている。鎖は男……パイルの背負った巻き上げ機に繋がっていて、投げたとしてもすぐに回収が可能となっているようだ。
 きっとそれも、エンジニアという彼らのリーダーの作だろう。
「私の名はヴァイスドラッヘ!弱きものを護るため只今参上!」
 投げつけられた巨大な杭は、同じく巨大な白亜の盾に阻まれた。
 衝撃で『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)の身体が、数メートルほど後ろに下がるが、弾かれた杭はガランと地面に転がった。
「弱いや強いだけで良い悪いが決まるのは大嫌いなのよ!」
 かくして戦いは始まった。

 アックスとパイルの攻撃は、ジェイクとレイリー、そして『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)に向いている。
「悪いのは奪った奴だ。弱い事も罪じゃない」
 戦斧を剣で受け流し、イズマはアックスへ言葉を投げる。
 だが、アックスは何も言わない。対話する気など無いのだろう。
 そして、武器を持たない『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)や『純白の矜持』楊枝 茄子子(p3p008356)、僧服を纏ったブランシュを襲うつもりも無さそうだ。
「奪い、傷つけ、殺す権利なんて、自然にはありません。単に、権利なんて無くてもそうせねば生き物は生きられないだけ」
 非戦闘員を襲うことを良しとしないのなら、きっと彼らはまだ戻れる。
「説得、説得ですか……そうですね。彼らには償ってもらいましょう。この国ではまだそれが許される」
 数の上では、イレギュラーズの方が有利だ。
 戦闘員の2人を仲間が押さえ込んでいる隙に、少しでも話が出来ればいい。そう考えたエルシアと茄子子は、視線を建物の方へと向ける。
「俺たちを捕えに来た……というわけでも無さそうだな」
 ぼさぼさと伸びた長い髪に、手入れの届かぬ髭面の男。
 手には鎚を、肩には銃を担いだ男……エンジニアがそこにいた。

 空の高くで鷲が嘶く。
 円を描くように旋回を続けるその鷲を見上げ、『鋼のシスター』ンクルス・クー(p3p007660)が庭にあった装甲車へと乗り込んだ。
「……良い装甲車だね。私は秘宝種で創造神様信仰だから正直こう言うの作れるエンジニアは尊敬するなぁ」
 古い車だ。
 しかし、手入れは十分にされており、一部の部品は新しいものに取り換えられている。銃痕だらけの装甲も、きっと後から付け足されたものだろう。

●リベンジャーズ
 鉄杭が、レイリーの盾を打ち据える。
 衝撃は、盾を突き抜け、レイリーの腕骨を痺れさせた。重量のある鉄杭を自在に操る腕力は大したものだ。
 あり合わせの鉄材で作ったにしては、しっかりした造りをしている。
 だが、それではレイリーの盾を貫くことは出来ないだろう。
「それだけ、強さに拘るなら、私を倒してみなさい! 私を倒せたらその強さ認めてあげるわよ!」
「っ……死んでも恨むなよ」
 引き戻した鉄杭を、パイルは両腕で頭上に構えた。
 レイリーは盾を頭上に掲げ、腕と肩とで固定した。踏み締めた両足が、根でも生えたみたいに地面に沈んだ。
 叩きつけるように振り下ろされた一撃を、レイリーは盾で受け止める。衝撃が盾から腕へ、体を通じて地面へ逃げる。パイル渾身の一撃であっても、レイリーの防御は崩せない。
「貴方達、強いわね。でも、私はもっと強いわよ!」
 乗り越えて来た場数が違う。
 実戦経験の差を、実力の差を理解してパイルは強く歯噛みした。

 アックスの戦斧が、網を千々に斬り裂いた。
 口笛を鳴らしジェイクは次の弾丸を放つ。
「これは……ちっ」
 通常の弾丸か、或いは網の仕込まれた特殊弾か。
 判断に迷ったアックスは、銃弾を回避し廃材の影に転がり込んだ。
「おぉ、いい判断だ。だが、まだまだ足りないな」
 銃弾が積み上げられた廃材を撃ち抜く。
 それは、廃材を纏めていた縄を正確に射貫く一撃だった。
「なにっ!?」
 崩れた廃材が、アックスの頭上に降り注いだ。
 頭上に戦斧を掲げることで、アックスは廃材から頭部を守った。
 判断が速い。胆力もある。
「お前らが言う強さとは、暴力により相手を屈服させる為の強さか? 本当の強さとは相手に屈服しない心の強さだ!」
 廃材を押し退け、アックスが立った。
 戦斧を引き摺りながら、前進を続けるアックスの前にジェイクが立つ。
 その銃口は、まっすぐアックスの額に向いている。
「言っておくが俺はお前らより戦場も地獄も潜り抜けているぜ」
「だからどうした。それが、俺に関係あるのか?」
 斧を振りかぶる。
 だが、先ほどの衝撃で腕の骨が折れていたのか、アックスは斧を取り落とした。
「あの冠位魔種やリヴァイアサンとだって戦った事もある。その俺が言っているんだから間違いない」
 ジェイクが銃口を降ろした。
 アックスは拳を振り上げる。
「今ならまだ間に合う、俺達と共に来い!」
「そうさせたいなら、力づくでそうしろよ!」
 アックスの拳が、ジェイクの頬に突き刺さる。
 ジェイクの拳が、アックスの腹を打ち据えた。

 装甲車に手を触れて、ンクルスは静かに目を閉じた。
 無数に入り組む回路や歯車を掻き分けて、ンクルスの意識が深くへ潜る。深く、深く……装甲車の動力部へと沈んでいく。
 暗闇の中に火花が散った。
「っ……複雑な造りを」
 掌握は難しそうだ。
 けれど、動力の一部を停止させることぐらいは出来るだろう。
 リベンジャーたちの足であり、戦闘の要でもある装甲車の制圧は、此度の作戦の肝である。戦闘で後れを取ることは無いだろうが、逃げられては元も子も無い。
 当然……そう考えているのは、イレギュラーズに限らないわけだが。
「俺の車に何してるっ!」
 そんな怒声と、後頭部に走る激痛にンクルスが車から転がり落ちた。
 ンクルスを殴りつけたのは、血の滲む包帯を体中に巻いた若い男だ。
 その手には、腕ほどに大きなレンチを握っている。
「いっ……」
 若い男性は、きっと“ドライバー”と呼ばれる男だろう。
(まぁ、分かるけどね。機体は家族みたいな物だろうし)
 突然の襲撃。時を同じくして、装甲車に取りついた不審な人物。当然、何らかの工作をしていると見るはずだろう。
 振り上げたレンチで、さらに数度ほどンクルスを打ち据え、ドライバーは装甲車の運転席へと乗り込んだ。
 だが、エンジンはかからない。
「くそっ! 俺の車に何しやがった!」
 装甲車の動力は、ンクルスが一部掌握している。だが、完璧ではない。
 回路を繋ぎ直されたり、エンジンに直接干渉されれば、装甲車は走り出す。
 けれど、しかし……。
「……もう十分だろう」
 一閃。
 細剣が閃き、装甲車に取り付けられた機関銃を斬り落とす。
「過ぎた行為にはいずれ限界が来る。単に終わらせてもいいが、俺は貴方達に新しい道を示したい」
 剣を身体の横に降ろして、イズマは装甲車の前に立つ。
 その間もドライバーは、運転席のカバーを開けてエンジンをかけようと足掻いていた。
 話を聞くつもりが無いのか。それとも、話を聞くだけの余裕が無いのか。
「この国を変えるために貸してくれないか」
 イズマは問うた。
 その直後、ドウと大きくエンジン音が鳴り響く。

 建物の1階。
 食堂らしき大きな部屋で、1人の男と3人の女性が向き合っていた。
 男の名はエンジニア。すっかりくたびれた様子の、けれど爛々と燃えるような瞳をした筋肉質な男性だ。
「ええ、ええ。わかります。弱さが故に、全てを失った悲しみ、怒り、その大きさを」
 胸に手を当て、視線を伏せて、囁くように茄子子は告げる。
 エンジニアは、黙って茄子子の話に耳を傾けていた。
「ですが敢えて言います。弱いのは罪です」
 そう言って、茄子子は視線をエンジニアへと向けた。
 冷たい瞳だ。
 そして、どこか嘲るような色を滲ませている。
「誰かに守って貰えなかったから。誰かに救われたい。誰かに殺してもらいたい。誰かに、誰かに、誰かに。他人に責任を委ねるのは簡単で楽ですね、ふふ」
 4人。
 1台の装甲車に、2人の戦士。そして機械工が1人。
 たった4人だけの“ならず者”が生き抜けるほど、今の鉄帝国の状況は温くない。
 遅かれ早かれ、彼らはきっと命を落とす。
 それを理解できないほどに、彼らはきっと愚かではない。
「死にたいのなら、自分で始末をつけるくらいの気概は見せてください」
 ならばこれは八つ当たりか、或いは癇癪を起して自暴自棄に暴れ回っているだけだ。
 ピクリ、とエンジニアの眉が震えた。
 鎚を握る手に力が籠る。
「今日までの貴方をここで殺してください。そして新たな人生を送ること。それが貴方に許された唯一の償いです」
 さぁ、と。
 茄子子は手を差し伸べて。
 瞬間、エンジニアは激怒した。

 振り下ろされた鉄鎚の前にエルシアが身を躍らせる。
 鎚は彼女の眉間を叩き、皮膚を深く引き裂いた。
 流れる血が、エルシアの金の髪を濡らす。
 それを見て、エンジニアは驚いたように数歩、後ろへと下がった。
「あ、いや……」
「可哀そうに。弱き事は罪ではないというのに。あの皇帝の事を真に受けてしまったのですね」
 動揺を顕わにするエンジニアへ向け、ブランシュはそう言葉を投げた。
 エンジニアの視線が定まらない。
 どこか遠くを見ているような。何かに怯えているような。そんな風な目をしている。
「弱き事は罪ではありません。貴方たちはほんの少しだけ運が悪かった。生き残ってしまった事を嘆く必要はありません」
「違う……生き残っちまったんだ。何で、俺の娘が死ななきゃならなかった? まだ10になったばかりの子供だ。死ぬ必要があったか」
 エンジニアの手から、鉄の鎚が転がり落ちた。
 彼は両手で頭を抱え、唸るように言葉を吐き出す。
 ポタリ、と床に零れたのは汗か唾液か、それとも涙か。
「獣から人に戻る為には時間が必要でしょう」
 エルシアは言った。
 エンジニアが、肩を激しく痙攣させる。
 死んだ娘とエルシアの顔を重ね合わせて見ているのだろう。
 自分の手で、娘と近い年頃に見えるエルシアを傷つけてしまったことで、彼はきっと激しく混乱しているのだ。
「でも、より豊かな国でなら、獣でも同族を殺めず生き延びられます。深緑の私の領地で、暫し傷を舐め合いませんか?」
「違う……俺たちは、俺たちが生きてちゃ……先に逝った家族や友人に、何て言って謝れば」
 敵意は既に失せている。
 そして、正気も失う寸前のように見えた。
 エルシアは手に灯した炎を消して、茄子子の方へ視線を向ける。
 茄子子は困ったように肩をすくめてみせた。
 自分で自分を罰することも出来ないで、誰かに自分を裁く重荷を背負わせようとするなんて、それはなんと都合の良い話だろうか。
 これ以上、エンジニアのやり方に口出しをするつもりは茄子子には無いようだ。
「…………」
 次いで、エルシアは視線をブランシュへ。
 1つ、頷きを返したブランシュは武器を降ろして前へと進んだ。

●裁きの日まで
 急発進する装甲車へ向け、ンクルスはまっすぐ腕を伸ばした。
 その手が車体に触れた瞬間、ほんの僅かに速度が鈍る。
 刹那、装甲車のフロントにイズマが跳んだ。
 一閃。
 細剣による鋭い刺突が、フロントガラスを突き破りドライバーの肩を貫く。
「ぎっ……おぉっ!?」
 肩を貫かれながらも、ハンドルから手を離さなかったのは大したものだ。けれど、それが命獲りとなった。制御を失った装甲車が、轟音と共に転倒したのだ。
 速度が僅かに鈍っていたのが、幸いと言えば幸いか。
「どうにか、息はあるみたい。暫く動け無さそうだけど」
 運転席からドライバーを引き摺り出して、ンクルスは安堵の吐息を零す。息があれば、治療も出来る。治療が間に合えば命を繋げる。
 細剣を鞘へと仕舞ったイズマは、ひとつ大きなため息を吐いた。
「これでも収まらなければ殺める用意はあるが……そこまでさせないでくれよ」
 
 庭に倒れた男が3人。
 疲労困憊といった様子のパイルと、青あざだらけのアックス、それとジェイクの3人だ。
「貴方達は強いわ。腕っぷし以外にも誇れる強さがあるから私の2倍強いと思うわよ」
 額に滲んだ汗を拭ってレイリーは言った。
 それから彼女は、呆れたようにジェイクを一瞥。わざわざアックスに付き合って、殴り合いなどする必要も無かったとは思うが、きっとそこには男同士にしか伝わらない何かがあるのだろう。
 白いスーツを血と泥で汚したジェイクは、それでも満足そうだった。
 否……ジェイクだけではない。アックスもパイルも、憑き物が落ちた様子に見えた。

 床に膝を突き、項垂れている男が1人。
 その前に立つブランシュは、胸の前で手を組み告げる。
「我々の流儀(ルール)は簡単です。奪われた者には施す義務がある。傷つけられた者には癒す義務がある。家族を殺められた者には、共に立ち上がる義務がある」
「立ち上がる……立ち上がって、なにが出来る?」
 項垂れたままエンジニアは呟いた。
「こんな事になった原因である皇帝を討ち果たし、人民の為の国にするように……さあ、我々と共に革命を成しましょう。応報せよと奪われた者は嘆いている。胸を張ってお前たちの仇を討ったと言える為に人々に幸福を与えましょう」
 幼い娘を失って。
 故郷を戦火に焼き尽くされて。
 戦う力はあっても弱い。そんな自分に何が出来ると問う男に、ブランシュは手を差し伸べた。
「革命派は貴方たちを優秀な技師として迎える用意があります。さあ、手を取り合って謡いましょう。自由、平等、博愛! 民主主義に乾杯しましょう!」
 ブランシュがそう告げた時に、窓際に立った茄子子はするりと横へ数歩ほど移る。
 窓の外では、エルシアが火炎を炊いていた。
 煌々とした明かりは、まるで後光のようにも見えたことだろう。
 燃えるような炎を背負ったブランシュは、戦の女神にも見えた……遥か後に、エンジニアを名乗る男は、この日のことを以上のように語ったと言う。
 エンジニアは床に額を押し付けて、押し殺して泣いていた。
 娘を見送って以来、彼が初めて流した涙だ。
「こんな世界……もう嫌だ」
 戦争を終わらせてくれ。
 立ち上がれない男から、想いを1つ受け取って、ブランシュはゆるりと微笑んだ。


成否

成功

MVP

ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
死神の足音

状態異常

ジェイク・夜乃(p3p001103)[重傷]
『幻狼』灰色狼

あとがき

お疲れ様です。
アックスとパイルは帝政派へと参加。
エンジニアとドライバーは、エルシア・クレンオータ(p3p008209)さんの手引きで療養へと移ります。
依頼は成功となります。

この度はシナリオのリクエストおよびご参加ありがとうございました。
またのご参加、お待ちしております。

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