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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>独立複合民族アルゴノーツ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●降る岩の中を進め
 鳴り止まぬ銃声と爆発音。吹き上がる土煙は連続し、その中をライフルを抱えた兵士達が顔を泥だらけにしながら走って行く。
「走れ走れ。兵士は走るのが仕事だ」
 カイゼル髭をつけた黒いヘルメットの男はそう呼びかけると、部下の一人にハンドサインを交えて合図を出した。
「例のヤツを出せ」
「は」
 命令に応じた兵士が何かの魔術的操作を行うと、それまでうずくまるように控えていた巨像がゆっくりと立ち上がる。青銅で作られたとおぼしきそれは顔面に憤怒の表情を宿し、両目から溢れる赤い光はバルナバスのまき散らす憤怒の力と同じものを感じさせた。
 そう、アンチ・ヘイブン――この鉄帝国にばらまかれた怪物たちのひとつである。
「タロスギア、起動確認。殲滅作戦を開始します」
 兵士の一人が縄を使って巨像へと駆け上ると、首元にできたくぼみへと滑り込み、専用の石版に魔力を流し込む。するとどうだろう、まるで兵士の意志を汲んだかのように巨像タロスギアが巨大な剣を手に取り、一閃するではないか。
 それだけではない。両目から赤い炎のごとき光を放射し、眼前の風景をなぎ払わんばかりに破壊するのだ。

「ふむ――」
 そんな光景を、『高潔なる族長』イアソン・マリー・ステイオーンは筒状の望遠鏡で観察していた。
「あれは、見たことのない兵器じゃな?」
「兵器。違う。あれ、怪物(モンスター)」
 横に立って呟いたのは『無垢なる兵器』ラピテース。
「ジグバルドのじーさんが変なモノを発掘してきた……わけじゃないんだよね?」
 反対側では、銅色の角をした『血涙の鬼』エリンが問いかけてくる。
「あれが何かの偽装でなければ、首都から派遣された新皇帝派の帝国軍じゃろう」
「偽装も、違う。アンチ・ヘイブン、他で使うの、見たことない。訂正――絶対使わない」
 三人は世にも見目麗しい美女達だが、ここ――ヴィーザル地方で見かけるにしては随分と奇妙ないでたちであった。
 まず言い切り口調で喋る青い美少女ラピテース。彼女は球体関節や頭部側面に露出したコアから秘宝種であることがわかる。
 一方のエリンはといえば、特徴的な角と『訛り』からカムイグラ出身の人間のようだ。
 この二人だけでも異質だというのに、中央に立つ白い狐耳の美女は複数の尾をはやしていた。獣種にはない神秘的特徴だ。ギフトによる特殊性か、あるいは後天的に『接続』されたものなのか。
 イアソンは望遠鏡を畳むと、隣のエリンへと目を向ける。
「わしらの――『アルゴノーツ』の兵力で抑えきれるかの?」
「無理だね。必要なものだけもってさっさと逃げたほうがいいよ」
「賛成じゃ。皆に伝達せよ。全部隊退避――!」

●独立複合民族アルゴノーツ
 ヴィーザル地方に、かわった部族が存在する。
 ノルダイン、ハイエスタ、シルヴァンスのどれにも属さずかといって古くからあるわけでもない。己を一つの部族であると主張する彼女たちは、己を『アルゴノーツ』と名乗った。
 奇妙な尾をもつ獣種イアソンをリーダーとし、秘宝種、鬼人種、そして多くの難民たちによって構成される彼女たちに血のつながりはなく、『血統なき民族』なのである。
 ノーザンキングスの独立宣言前後の混乱期に誕生した彼女たちは深い友情と疑似家族的絆によって結ばれ、痩せた土地を開墾しながら細々と暮らしていた。
 そこへ『徴兵』の知らせが来たのはつい最近のこと。
 冠位魔種バルナバスが新皇帝に即位したことによって分裂した鉄帝国軍の将校ロック・ハウグリンが彼女たちアルゴノーツを新皇帝派の先兵として徴兵することを要求してきたのである。
 というのも、彼女たちがノーザンキングスにも鉄帝国にも支配されずに細々とやっていけている背景に、イアソンたちの保有する強力な武力があるためだ。
 ごく少数でありながら部族を名乗り、それを『名乗りきっている』のもまた、そんな武力背景あってこそだった。
「とはいえ、帝国軍が本気を出せば潰せぬ戦力というわけでもない。
 とうとう本腰を入れてわしらを支配する気になったというところじゃろう」
 ローゼンイスタフに置かれたローレット仮支部を訪れたイアソンは、両脇のラピテースとエリンをぎゅっと抱き寄せて不敵に笑った。
「じゃが、この子らを誰かにくれてやる気は毛頭無い。そこで、新皇帝派と敵対しておるそなたらに依頼をもちかけたというわけじゃ」
「なるほど……ね」
 話を聞く係は沢山いたのだろうが、たまたまというべきか『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)――がテーブルについていた。
「要するに、その新皇帝派を排除してほしいってことよね?」
「うむ」
 イアソンは地図を広げ、ポイントに爪をたてた。
「ロック・ハウリング。軍の新皇帝派の少佐位にある男じゃ。ヤツの部隊がわしらアルゴノーツの土地を占領する状態で待機しておる。ここをまずは奪還してもらいたい。
 敵戦力についての情報は提供しよう。わしの部隊は消耗しておるが、ラピテースとエリン、そしてわしが戦力として加わる。どうじゃ?」
 まくし立てるように言うイアソンに、レジーナは口元に手を当て、周りに集まっていた仲間たちの顔を見る。
「うん。いいわ……このやり方は、我(わたし)もちょっと気に食わないし」
「決まりじゃな」
 イアソンはにこりと笑い、金貨の入った袋をテーブルにおとした。

GMコメント

ヴィーザル地方に存在する『アルゴノーツ』という小さな土地を、新皇帝派の将校ロック少佐の部隊が占領しています。
これを奪還するのが今回のオーダーとなります。

●エネミーデータ
 ロック少佐の部隊は潤沢な武装をした兵士たちに加え、アンチ・ヘイブンの『タロスギア』という青銅の巨像五体で構成されています。
 主力はやっぱりこのタロスギアで、巨大であることは勿論そのパワーから防御力からとにかく手強いモンスターです。特殊抵抗値もかなり高そうに見え、ハメ殺すのは難しいでしょう。
 が、割と明確な弱点があって首元に随伴している魔術師を倒すことができれば統率をうしなって勝手に暴れるようになります。流石に味方を狙って攻撃することはないでしょうが、巻き込んで暴れるくらいは普通にあるでしょう。
 また、彼らが『連携しない』というだけでとてつもなく有利になるはずです。
 歩兵達はそういう弱点をつかれないために射撃やブロックなどをして邪魔する係として存在します。彼らは割とBSが効くのでがっつり散らしましょう。

●味方
 今回はアルゴノーツの三人が一緒に戦ってくれます。
 彼女たちは非常に頼もしい戦力なので、しっかりアテにして大丈夫です。

・イアソン
 精霊の力と古代兵器を使いこなすハイブリッドな巫女。中~遠距離戦を得意とする。

・ラピテース
 鉄帝から出土した古代兵器に最近魂がやどったもの。エネルギー体の武器を生成して大量に投げつけるという範囲攻撃が得意。ちょっとレジーナさんの昔の戦い方に似てる。

・エリン
 格闘による近接戦闘を得意とする。古代兵器を用いた義手と義足を着用しており、純粋にパンチやキックの威力が高い。
 また、壁を駆け上ったり高い場所へジャンプしたりといった地味に役立つ機能を備える。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <総軍鏖殺>独立複合民族アルゴノーツ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年11月03日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
シャノ・アラ・シタシディ(p3p008554)
魂の護り手
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

リプレイ

●闇夜に紛れて
 新皇帝派ロック・ハウグリンの指揮する部隊は五体のタロスギアとそれに随伴する歩兵で構成される。内容的な戦車小隊のそれであり、タロスギアの『メンテナンス』やオペレーション、その他雑務も含め結構な人員を要する。当然それらの人員をまかなうための食料や寝床も必要になるため、彼らがアルゴノーツの集落を占領するのは当然の流れであった。
「でよお、俺がその女買おうとしたら抵抗しやがってよお」
「ぶっ殺せばよくねえ?」
「だな、帰ったらやるわ」
 などと下卑た会話を交わしながら、彼らは夜のたき火を囲んでいる。食事を終え、戦闘作戦の疲れを癒やしているといった所だろう。
「…………」
 そんな様子を、一匹のリスが木陰からじっと見つめている。
 いや、ただのリスではない。『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)に使役され視界を共有したリスである。
「新皇帝派の勢力がヴィーザルにまで……。
 出鼻をくじいて、これ以上の勢力拡大を防がないといけませんわね。
 何としても取り返しましょう!」
 かなり離れた場所から様子をうかがっていたヴァレーリヤがぎゅっと拳を握る。
 同じく別の小動物を用いて偵察をかけていた『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)も、片目を覆うようにしてメモをとっていた。
「うーん、ちょっとこれは……懲らしめないと。新皇帝派、許さないからねっ!」
 すると、『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)と『闇之雲』武器商人(p3p001107)、そしてエリンが偵察から戻ってきたようで纏っていた黒いローブを脱いだ。
「魔術師は皆家の中だねぇ。歩兵よりも大事にされているようだよ、ヒヒ……」
 軍内部の格差に皮肉を感じたのだろうか。武器商人がにやりと笑う。
「腐っても軍隊って感じだったね。ピリピリしたプレッシャーがあった」
「ふむ、魔術師を、タロスギアに乗り込む前に倒すことはできそうか?」
 話を聞いたイアソンが問いかけたのは『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)だった。
「一人ならヤれる。二人以上となると難しいな。連中、馬鹿みたいに魔術師だけ無防備に晒したりしねえんだろう?」
「スクランブルがかかればなおのこと、な」
 『北辰連合派』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)は手帳を開き難しい顔をしていた。コネクションを辿ってロック少佐の部隊に関する評判を集めたが、充分に訓練された兵であることは確実だ。主力となるタロスギアの弱点を理解していないとは思えないし、カバーしないとも思えない。先ほどの『格差』がまさにその現れだった。
「多少の有利がとれれば充分だ。作戦に完璧を求めるのは、やる前から敗北を求めるようなものだからな」
 やれるか? という視線を『新たな可能性』シャノ・アラ・シタシディ(p3p008554)へ送ると、シャノは頷いてみせた。
「シタシディ、夜戦、本領。まかせて」
「心強い。イレギュラーズ」
 ラピテースが呟くように言うと、この作戦をまとめていた『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)へと視線を向ける。
 仲間たち、そしてイアソンの視線をうけレジーナは腕組みをする。
「ん、作戦を確認するわね。
 作戦決行は明日の深夜。魔術師が宿泊してる建物へ同時に奇襲をしかけて――」
 偵察によって判明した三件の建物を順に指さしていくレジーナ。
「可能な限りタロスギアへ乗り込まれる前に撃破する。
 後は敵の動揺を誘いつつ、タロスギアを優先して破壊するわ」
「魔術師の撃破に失敗したら?」
「その場合も同じよ。連携されるぶん戦いづらいかもしれないけど、バラけているなら影響も小さいはず。合流するまえになんとか倒して」
「そこは力わざなんじゃな」
 気に入ったぞ、とイアソンは首をかしげた。頭に飾られた鈴がころんと鳴る。
「領土の奪還、失敗は出来ないな。
 それに美しい女たちが助けを求めてきていると言うのだ。
 無様な姿は元より見せられんだろう」
「徴兵…偉そうに。誰も、部族、安心、脅かす、権利無い。
 新皇帝派、何度か、戦った。やっぱり、あいつら、嫌い。
 アルゴノーツ、協力して、敵、撃退、がんばろー」
 グッと拳を出すベルフラウと、それに応えるシャノ。
「クソ野郎どもから部族を守るっつー心意気は買うぜ。
 毛色は違ぇが、リーダーのねーさんは同じ獣種みてぇだしよ。
 ま、こっちはただのはぐれの獣1匹だがな」
 ルナも苦笑しながら拳を出し、仲間たちが次々と拳を合わせた。
「では、明日の深夜に――よろしく頼む」

●奇襲作戦
「獣の群れに手をあげて、逃げられると思うなよ?」
 背の高い木の中に紛れ、ルナはタロスギアを見下ろせるほどの高所をとっていた。
 ちらりと見ると、ラピテースが同じように高所に一度っているのが見える。木を上ったのか飛行したのかはわからないが……。
「アルゴノーツねぇ、聞かねぇ部族だが、必ずしも血の繋がりだけが部族を決めるモノとは限らねぇしな。
 てめぇらで『俺たちゃ部族だ』って通じてんなら、それでいんだろうよ」
 ルナはそう呟いてから改めてロック少佐の部隊を見下ろした。
 昨晩と同じようにたき火を囲んで雑談を交わしている。魔術師が宿泊する建物のすぐそばだ。何かあれば魔術師を守れるようにということだろう。
「しっかし……上空への警戒が甘ぇな。襲われても対処できるつもりでいんのか? それとも連中が無能なだけか……」
 後者であれば楽だが、前者であれば……腕の見せ所だ。
「さ、行くか」
 ルナはラピテースに合図を送ると古びたライフルを構えた。最近ある人物の影響で持ち始めたウッドストックライフルだが、身体に覚えさせるとまるで精密機械のようによく働く。弾詰まりもせずはるか遠くまで弾が届くのだ。
 スコープを覗くルナの一方で、ラピテースが無数のエネルギー体による剣を生成。兵士達めがけて投射する。
 次々と突き刺さっては消滅していく剣に、『例のヤツか!』と見上げる兵士。
 当然彼らはラピテースの排除……ではなく魔術師のフォローに回った。
 建物から飛び出してくる魔術師を庇うように盾を翳す二人の兵士。
 ラピテースは『邪魔』と一言呟き槍を生成すると兵士の一人を盾ごと射貫いた。
 続く二人目に槍を放ち――、その直後。ルナのライフルが火を噴いた。
 ラピテースが兵士の体勢を崩し動きを止めたその一瞬を狙い、魔術師の頭部を見事に弾丸が撃ち抜いたのである。
「狩りっつーのは、こうやるんだよ」

 時刻をあわせ、作戦は全く同時に行われた。
 アクセルを加えたチームにはリリーが奇襲役を担当し、仲間の魔術砲撃によって兵が動き出しスクランブルを発したところで、リリーが建物の屋根を走る。
「アルゴノーツが戻ってきたか。お前ら、防御陣形で俺を――」
 建物から魔術師が姿を現したその瞬間、リリーは絶妙なタイミングで屋根から逆さにぶら下がった。手にした『DFCA47Wolfstal改』を、既に構えている。
「奇襲、攪乱、電撃戦! いやぁ、リリーの好きな要素一杯で、ワクワク止まらないねっ!」
「な――!」
 咄嗟に回避を試みるたようだが、肩を撃ち抜かれた魔術師が転倒する。
 周囲の兵に慌てる様子が見えたが、行動自体は早かった。追撃を防ぐべく魔術師を庇う兵。回復を急ぐ兵。時間を稼ぐべくタロスギアを強制起動させる兵。
 しかしその点においてはリリーが上手だったと言わざるを得ない。
「遅いよ」
 リリーは既に地面へと下り、銃口を魔術師の頭に押し当てていた。
「まずは一人」
 仲間の砲撃が続く。魔術師を始末したリリーは走りだし、動き出したタロスギアを撃ちながら距離をとる。
「他の仲間と合流するつもりみたい。ここでできるだけ足止めするよ!」

 別の場所にはシャノとエリンが配置され、早速襲撃を開始していた。
「出会えて、嬉しい。これから、仲良く、願う」
 前日は直接言えなかった挨拶をエリンになげかけると、エリンは『こっちこそ』とウィンクをした。眼帯をつけているのでただ目を瞑っただけに見えるのだが。
「まずはボクが敵を攪乱する。暗視能力はあるんだよね?」
 うんと頷くシャノに『やれ』のジェスチャーをするエリン。
「もし外しても心配しないで。兵士はボクが引きつけるから、タロスギアを落とすのをお願い」
「わかった。まかせて」
 言うが早いかエリンは待機する兵士たちへと突っ込み、最初の一人の首を無骨なナイフによってはねた。
 吹き上がる鮮血。兵士はエリンを排除すべく素早く銃をとり、撃ちまくった。
 戦いの音によってより警戒したのだろう、魔術師は自らの周囲に魔術障壁をはりながら建物を飛び出し、タロスギアへと走って行く。
「――」
 シャノが弓による美しいまでの射撃をしかけたが、それは魔術師の片腕を矢が貫通するのみに留まった。障壁によって込めた威力を殺されたためだ。
 腕をだらんと垂らしながらもタロスギアへと乗り込む魔術師。
 エリンは『かまうな』のサインをシャノにおくり、シャノもまた頷きつつ空へ舞い上がる。
 タロスギアは暗い視界をおぎなうためライトをたくが、シャノはその光をよけるように飛行し回り込んだ。
「大きな敵、よく見える。分かりやすくて、助かる」
 側面から魔術師を狙って弓を射る。今度こそ、魔術師を逃がさない。

「どっせえーーい!!!」
 闇夜を照らすほどのまばゆい炎。ヴァレーリヤのメイスがあげるそれに、兵士は咄嗟にライフルを翳す。それが無駄だと知るのは、メイスがライフルを粉砕した瞬間だ。
「数々の蛮行、許しませんわ!」
 勢いを殺すことなくそのまま兵士を叩き倒すヴァレーリヤ。
 『今ですわ』と呼びかけると、ベルフラウが地面にざくりと旗を突き立てた。
 ベルフラウは騎士の誇りと誓いを謳い、それは抗いがたい精神の波動となって広がっていく。
「チッ――!」
 タロスギアへ走る魔術師もその範囲から逃れることはできない。ならばどうするかといえば、すぐ近くの兵士を盾にするのだ。
「タルマン、今のうちに!」
 ベルフラウの誘引効果を受け、剣を抜いて斬りかかる兵士。タルマンと呼ばれたやや小太りな魔術師は跪くタロスギアの手に飛び乗ると、そのまま素早く首元へとよじ登っていった。
「そのような木偶に頼るとは鉄帝に生きる者として嘆かわしい。新皇帝派とやらは自身の力量にさぞ自信が無いのだろうな!」
 搭乗こそ許したが、ベルフラウの余裕は崩れない。
「悉くを殲滅しよう……我等が玉体の力を奴らに見せてやれ!」
 タロスギアが目から光線を発射するが、ベルフラウは自らの身体でそれをうけた。
 屈強な鎧によって光線が防がれ、周囲にバチバチと弾ける火花になって散っていく。
「血のつながり無き、血統なき部族。良い集落だ。ヴィーザルの地が目指すべき形はこの場所の様な物なのかも知れないな」
 ゆえに、とベルフラウは小さく笑う。
「ここで潰させるわけにはいかん! ヴァレーリヤ!」
「その通りですわ!」
 追撃とばかりに繰り出したタロスギアの拳をベルフラウは旗軸でうけ、ヴァレーリヤがその腕へ飛び乗り駆け上がっていく。
 メイスがあげた炎が光の残光をひき、青く黄色くあるいはグリーンに目に焼き付いた。
 次の瞬間。
(鉄帝の冬がいかなるものか、皆知っているはず。餓えと乾きがどれだけの悲劇を生むか、知っているはず。なのに、このような……!)
 集落を占領し食料や薪を惜しげも無く使う彼らの様子を思い出し、ヴァレーリヤの炎は燃え上がった。
「『主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え』――!」

「はーい、はい、こちら♪ 我(アタシ)を殺しにおいで? 殺せるものならね。ヒヒ!」
 武器商人の尖ったスペックが特にどういうときに役立つか。初動の有利を得る時である。
 彼の類い希なる(そして攻略法が解ってしまえば崩しやすい)強さを前に、武器商人の襲撃を受けた兵士達は一時混乱した。
「超HPか!?」
「超再生……でもない!」
「BSが効かねえ、絡繰はなんだ!」
「まさか不死の化物――」
「んなもんいやしねえんだ、EXFか!?」
 何回かのトライアンドエラーが済んだ頃には、こちらが有意をとっている。
「隙だらけじゃ」
 『最新の古代兵器』であるライフルを構えるイアソン。連射によるなぎ払いは兵士達をまとめて吹き飛ばし、『武器商人ごと』いったものの、武器商人の被害は実質ゼロであった。そしてその中には、敵の魔術師も含まれている。
 タロスギアが強制起動され立ち上がり、巨大な剣を振り上げる。
「離れろ!」
 叫ぶイアソン。続いて衝撃。大地が吹き飛んだのではと思えるほどのそれは、実際地面におおきなクレーターを作っていた。
「こいつは任せて」
 レジーナは紅蓮の剣を両手に構えるとタロスギアめがけて走り出した。
 交差する斬撃を放とうと構えるレジーナ。
 剣を翳し防御の姿勢をとるタロスギア。これだけ巨大で頑強な怪物が防御に徹すれば、並みの兵士では傷一つつけられないだろうが……。
「装甲なんて我が攻撃の前では紙切れと大差ないのだわ」
 レジーナが豪快に剣を一閃。すると、タロスギアの巨体に赤く斜めの線が入った。
 一瞬遅れ、ズズ……と上半身がずりおちる。そう、胴体を中心に斜めに切断しきってしまったのである。
 と、その時。
 バイクのエンジン音が聞こえ武器商人たちは振り返った。
「これは……?」
 『バジリスク・サイト』の効果を発動。武器商人の明度処理を施された視界では、バイクにのった軍服の男が見えた。
 偵察の際に見つけたロック・ハウグリン少佐だ。そしてバイクの向かう先は、南西方角。他の兵士がいるわけでもなければ、まして合流に適したエリアもない。
「部下を置いて逃げるつもりかな?」
「指揮官失格じゃな。部下を庇って死ねとは言わんが、命を預かった責は追うべきだろうに」
 追いかけようと走り出すイアソン。古代の魔導バイクへ飛び乗ると、レジーナに『乗れ』と手招きした。
「――」
 ちらりと武器商人を見る。どうやら徐々に攻略法が見えてきたらしい兵士たちが、武器商人へと猛攻を仕掛けている。
 戦って倒せる戦力ではあるだろうが、放置していくのは……と思っていると、武器商人がにやりと笑ってロック少佐のほうを指さした。
「行くと良い。残りはかたづけておくからね」
「ありがとう」
 レジーナは礼を言ってから、イアソンのバイクのタンデムシートへと跨がった。

●新皇帝派、ロック・ハウグリン少佐
 バイクに跨がり、振り返るロック少佐。手にした拳銃を乱射する。
 僅かにカーブをかけることで回避したイアソン。その後ろでレジーナは剣を振り上げていた。紅蓮の光が剣に集まり、今にも燃え上がりそうだ。
 それがロック少佐めがけて放たれ――た、その瞬間。
 派手な音を立ててタロスギアが転倒。両者の間に割り込むように横たわり、レジーナの『砲撃』が命中した。
「た、助かった!」
 ロック少佐は裏返った声を出し、そのままバイクを加速させる。
 一方で砕けたタロスギアを前にブレーキをかけるイアソン。
「逃げられた、か」
「また来るかな?」
 そう問いかけたのは、タロスギアのうえに乗ってこちらを見下ろすリリーだった。
 どうやら合流前に倒すことには成功したらしい。運悪く(というよりロックの悪運の強さゆえに)割り込む形になってしまったようだが。
「その心配はないじゃろう。ここまで兵と兵器を失ったんじゃ。ヤツとて『おとがめなし』とはいかんよ」
 ふふ、と小さく笑うイアソン。レジーナも安堵からか肩をおとし、バイクから降りた。
「汝(あなた)達は他の勢力と合流しないのかしら?」
「そなた個人となら一緒になってもよいが?」
 頬にぽんぽんと指をあてると、イアソンは複雑そうな顔をした。
「鉄帝国にいくつかの派閥ができたのは知っておる。しかし、依存するには少々厳しい状況じゃな。
 強固な足場がなければ共倒れするじゃろう。まずは、自分達がこの先の冬を乗り切ることを考えねば……」
 振り返ると、シャノやベルフラウといった仲間たちがやってくるのが見える。
 東の空がうっすらと白みがかった。
 やがて夜が明ける。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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