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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>山脈に生えた四肢の如し<獄樂凱旋>

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●不壊の壁の向こうで
 新皇帝・バルナバスは力による支配、弱肉強食による国家の成立を是とした。その手始めとして行われたのが、囚人への恩赦。凶悪犯罪者から冤罪被害者に至るまで、ほぼすべての囚人が解き放たれたのである。
 無論、これは大混乱を巻き起こすほんの先触れであったが、しかし囚人のなかには圧倒的武力を誇るもの、組織力を駆使するもの、或いは知謀により混乱を助長させる者など、多種多様な者がいたのは事実である。
 そんななかで、『筋巌山』ロベロネリコ・バスピエズは殊更に異端であった。というより、暴力の二文字が常人の考えるそれとは大きく異なっていたのだ。
 彼を封じるために不壊ともいえる壁が、牢が用意された。彼の本領であれば壊せたやもしれぬが、結局のところそれはなされぬまま、『不戦勝』で終わったのだ。
「貴様たちまでもが俺と共に来てくれる……とはな。全く恵まれたモンだ」
「何を! この力を与えてくれたアンタについていかないなんて、あるはず無いだろう!」
「「「応!!」」」
 ラド・バウから数キロほど離れた位置に集まった屈強な男達を見回す禿頭の大男ことロベロネリコは、まさしく山という形容詞がふさわしい姿をしていた。しかし、見せるための筋肉ではない、躍動するための筋肉。その引き締まった全身からは圧倒的なオーラが見え、強者であることを疑う余地はなかった。彼が見上げると、空を旋回する大鷲――と呼ぶのも烏滸がましい巨鳥が三羽。口々に驚きの声を上げる手下達に、ロベロネリコはにやりと笑う。
「ああ、アレか? 俺達にラド・バウを襲わせたい篤志からの授かりものだ。喜べ、今回は力の限り暴れるだけで金が入ってくるぞ。目当てはラド・バウの破壊工作と闘士の殺害。ある程度殺せばボーナスだそうだ。俺は金にはあんまり興味はないが」
 強いやつには興味がある。それに闘技場は美学が足りないだろう、と近場の大岩をなぐりつけ、瞬く間に石像に仕立て上げてしまった。
「貴様達に不可能はあるか? そう育てた覚えはないのに!!」
「「「ライウェイッ!!」」」
「そうだ! お前達はやれる!」
 歓声とともに拳を突き上げたロベロネリコは、大股でずんずんとラド・バウにむけて進軍を開始した。
 危険は今そこに迫っている。明らかな危険が。

●筋肉には筋肉と物理をぶつける。昔からの筋肉言語だ
「なるほど! 僕を呼んだのは彼と話をつけるためだったんだね!」
「助かります、ムスティスラーフさん。あなたのお知り合いということで、ラド・バウに属する皆さんとも、あなたとも話を繋いだほうが良いと思いまして」
「……そして儂か。重畳、重畳」
 ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は、『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)と自分の隣に座す老人、ギード・ラングハイムを交互に見ながら頷いた。ムスティスラーフ自身は特に今般の鉄帝派閥で属するところはないものの、ギードとは浅からぬ仲である。内部の人間からの説得よりは、自身に伝手を頼ったのは正解だったなと感じた。
「で? これから襲撃に来るやつがとんでもない筋肉野郎だから俺達を呼んだって? おまけに魔法の一切が利かないときたか」
「HAHAHA、肉弾戦メインの連中を集めたと思ったらこの爺さんはソードマンか! けど鍛えてるな! ナイスマッスル!」
「新タナ 印ヲ刻ム!? 刻ムナラ プリンニシロ!!」
 亘理 義弘(p3p000398)は現状を的確に把握し、一言のもとに理解。郷田 貴道(p3p000401)はギードの内側に潜む『力』に関心を示し、同時にロベロネリコの強者ぶりを聞き、興奮を隠せない。……そしてマッチョ ☆ プリン(p3p008503)であるが、彼は単にロベロネリコが壁面に彫り物をしかねない、という情報一つで「最強たるプリンを刻みつけぬなら芸術に非ず」という断定的な言葉を吐いたのである。わかりにくいっつうの。
「なあに、おぬしらには迷惑をかけぬよ。なにより……おぬしらほどの者をなくしてはラド・バウの名折れ、損であるからのう、色々と……」
 『色々』の部分に薄ら寒いものを覚えたなら、きっとムスティスラーフのことをよく知っている証拠である。同類だからしかたないね。
「とにかく、部外者の私はそろそろお暇します。皆さん、ご健闘を」
「逃げたな」
「ナイスエスケープ! まあ狙われないだろうけどな!」
 要件を終えてそそくさと退散する三弦の姿を見送りつつ、義弘と貴道は現状を理解した。中途半端に理解できる程度なら、まだ楽だったのだけど……とにかく、まあ、そういうことらしかった。

GMコメント

 ラド・バウにいる皆さんを見て作らなければならないという使命感に駆られました。あと色々摂取したからです。
 異論は認めます。

●成功条件
 敵勢力の撃破または撤退

●失敗条件
 ギード・ラングハイムに今後の防衛が困難になる程度の負傷が発生する

●『筋巌山』ロベロネリコ・バスピエズ
 帝都に収監されていた囚人で、身長は2mを超え、筋骨隆々。更に筋繊維の密度が高い所謂『超人体質』であり、体格以上の堅牢さを誇る。禿頭。
 罪状は筋肉による彫刻などを作りたいがためにそこかしこの建築物を片っ端からぶっ壊しまくったため。
 物理攻撃力、防御技術、そして反応が高い。動けるマッチョなのだ。また、魔術全般を「女子供の手習い」と下に見る向きがあり、実際彼には通用しない(神秘無効)。
 肉体を駆使した打撃の多くは【飛】を伴い、物中単【移】【飛】【乱れ系列】のドロップキックなども用いる。
 また、至近距離でのダブルラリアット(物至域)、ピンチ力に任せた引き裂き攻撃(【出血系列】)なども好む(あくまで一例)。

●筋肉囚人隊(きんにくしゅーとたい)×けっこう多数
 ロベロネリコが娑婆にいる時に結成した(そして監獄で鍛え上げた)筋肉集団。
 だがロベロネリコほど鍛え上げていないので、武器や暗器を用いる。
 なおこの中に何故か魔術師もおり、魔砲タイプ(神攻・物攻の両面参照攻撃)のいろいろな射程の攻撃を使ってくる。
 バフは甘えなのでブレイクもなんかしてくる。

●マッスルホーク×3
 筋骨隆々の鷹。天衝種。囚人隊を掴み上げて運搬して高度から落としてくるとかする(なおこれによるダメージは囚人隊には皆無)。
 こいつ自身も降りてきて戦闘とかする(ランディングアタック)。
 足が弱点だけど、それ以外全体的に硬い。
 こいつら倒すか運搬不能にしておかないとロベロネリコの逃走成功率が激増する。

●ギード・ラングハイム
 ムスティスラーフさんの『同志』で、魔法と剣技を駆使する一撃重視型。
 【移】と高い機動力での一撃離脱で防御の足りなさをフォローしている。そのためロベロネリコとの相性は最悪。
 B級だが、多分にランク昇降を自分で調節(戦績とかで)している疑惑すらあり、実力の上限は不明。だが「ノッてる」時とそうでないときの乱高下が激しいのは間違いない。
 この戦闘においては「そこそこノッてる」ので荷物にはならないが、相性問題がなかなか難しいか。

●戦場
 ラド・バウ外周北。
 初期位置はそこそこ離れているが、マッスルホークによる降下奇襲を警戒する必要がある。ロベロネリコもこれで乗り込んでくる可能性あり。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <総軍鏖殺>山脈に生えた四肢の如し<獄樂凱旋>完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年11月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
目的第一
暁 無黒(p3p009772)
No.696
ニャンタル・ポルタ(p3p010190)
ナチュラルボーン食いしん坊!
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

リプレイ


「ラド・バウには避難民も多く居ると聞く…それを守る建物も破壊されてはかなわんからのう。何より強い者に挑むのは面白そうじゃ!」
「いい迷惑なんだよなぁホントよ。暴れてぇんなら新皇帝側に喧嘩売ってりゃいいのによ……おまえさんくらい純粋だったらもう少しマシだったろうに」
 『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)は向かってくる連中がいずれ劣らぬ剛の者(マッチョ)である事実に興味を示すも、ラド・バウの避難民に累が及ぶのは許せぬのは間違いない。『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)もロベロネリコら荒くれ者がより強いであろう魔種ら新皇帝派を差し置いて闘士や一般人に矛先が向くことに不快感を強くする。あまりに言行不一致がすぎる、と。
「ところで誤解しないで欲しいんだが、ミーは筋肉の信奉者では無い……なんだい、その目は? 本当だぞ??」
「肉体言語で語れって事っすね!」
「なあ何処を見て言ったんだ?」
 『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)はこの依頼に呼び出されたことも、ロベロネリコと同一扱いされている(と思われる)現状にも非常に不本意であるようだった。だったのだが、周囲の反応からして「そうは言っても」という視線なのが余計に痛い。『No.696』暁 無黒(p3p009772)の目を見ろ。キラッキラしてるじゃねえか。
「……分カッテナイ」
「そうだな、プリンを無視した時点で罪だな。きっちり白黒つけた上で教え込んでやらないとな」
 『甘い筋肉』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)が鼻(がどこだか知らんけど)息荒くまくし立て兼ねない状況を、『ラド・バウB級闘士』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)はさらっと流した。スルーしたのである。気持ちはとても良くわかるが話すと長くなるから適当なところで切り上げないと後々面倒なのである。英断。
「僕も……避難してきた側だけど……少しでも戦う力があるのなら……皆を守った方がいいよね……きっと……」
「力があるなら振るうが道理、それが人のためなれば尚更じゃな。おぬしは弱者の振る舞いをしておるが弱くはなさそうじゃの」
 『玉響』レイン・レイン(p3p010586)は戦闘には積極的な方ではないが、さりとて守らねばならぬもの、やらねばならぬことの線引きはできている方だ。だからこそ言葉少なながらもやるべきことを理解している。そんな彼を見たギード・ラングハイムはその芯の強さにこそ目を細め、満足気に頷き……少し離れたところに相次いで落下してきた塊に厳しい視線を向けた。
「来てやったぞラド・バウ! お前達の中に闘士はいるんだろうな!?」
「儂をご所望か。儂こそ――」
「ようこそ、ラド・バウへ。B級闘士の仙狸厄狩 汰磨羈だ。今から、御主等を盛大に歓迎させて貰う」
「同じく! B級闘士の暁 無黒っすよ!」
「オレモ B級闘士ダ! マッチョ ☆ プリン!!」
「ミーは郷田 貴道、B級だが……なんだ、思ったよりも小さいな? 見ての通り背丈の割にスリムなミーより小さいのに、筋肉達磨と見える」
 ギードの言葉を遮るように汰磨羈、無黒、マッチョに貴道と一気に4人がB級を名乗る(事実だが)。こと、貴道はロベロネリコよりもタッパも体重も大きく上回る。俺の知ってる超人体質でも『身長=体重』が精々なんだよなあ。
「けっ、むさ苦しいわ汗臭えわで最悪だね。華がねえよ、華があ。てめえらみてえなチンケなカスどもが鍛えたってモテやしねえぜ? ランク? 忘れちまったけど闘士だったと思うぜ俺様もよ!」
(おまえさんはB級だっただろ……)
 グドルフのすっとぼけた調子を脇で見ていた義弘はラド・バウに活発に出入りしていた仲間達を見て、その熱心さに少し気圧された。しかしロベロネリコを追って現れたマッチョ達には全く引けを取らないという自負はある。
「ここから……出てって欲しい……戦う相手が欲しいなら……ここの人達みたいに強いと思う人達だけで戦ったら……? 弱い人を巻き込むのは……本当の強さじゃない気がするよ……」
「分かってない!! 分かってないな小僧! 戦う相手が欲しいだけ? 俺達は手応えがあって蹂躙出来る相手! それがほしいのだ! それに加えてボーナスと来た! 最高ではないか!!」
 レインはロベロネリコの言葉に絶句する。自分を男と認識してくれる相手、というのは貴重で悪い気はしないが、それを通り越す程に弱い者を殺すことに躊躇しない態度こそが苛立たしかった。
「…………弱虫」
「ハ! 言うがいい! お前達、かかれ! 闘士だろうが誰だろうが、愚昧を蹴散らすのだ!」
 レインの煽りに気にしたふうもなく指揮を飛ばすロベロネリコの号令一下、筋肉囚人隊が待ってましたとばかりに壁面を破壊すべく突っ込んでくる。途中にいるイレギュラーズは余録だといわんばかりだ。
「ロベロネリコ! お前に足リナイ物を……プリンの凄さを教エテヤル!」
「うむ、奴等には魂が足りんからな! 一気に倒してやろう!」
 プリンは豪快にポージングを決めるとマッチョ達に流し目を送り挑発を仕掛ける。それに引っ張られた者達目掛け、汰磨羈の一撃が飛んでいく――!


「おぬしらに聞きたい。あの巨体、狩ってもええか?」
「いやぁ、あのチビハゲはミー達の相手だぜ!」
「筋肉ばっかり蓄えただけの弱い者いじめ愛好家を相手させられねえなあ!」
 ギードはそわそわとロベロネリコの方を向いたが、しかし即座に貴道とグドルフから否定された。あまりに早い反応に俄に表情を曇らせたギードだったが、言うなり迫ってきたロベロネリコと彼等のぶつかり合いを見れば、認識も改めざるを得まい。
「おめぇの肉体、神秘が効かねえってなぁ! 小賢しいカラクリでもあるんじゃねえか?」
「粋がってんじゃねえぞ、チビハゲが。世の中、ユーが思ってるより広いぜ?」
 グドルフの振り上げた斧がロベロネリコとぶつかり合い、鉄を弾いたような音を鳴らす。神秘を受け付けぬ肉体がそれこそ術式の影響かと疑ったグドルフだが、平然とするロベロネリコを見るに杞憂であったか。直後、横合いから打ち込まれた都合三発の打撃がロベロネリコの体内で炸裂、彼を僅かに蹌踉めかせるが即座にダブルラリアットを振るい二人を吹き飛ばす。――が、貴道はその腕に更に三発の打撃を叩き込みその威力を相当に相殺してみせた。
「ッくそが! 下らねえ仕込み技使いやがって!」
「おうおう、二人共ずるいではないか! 格上に挑むのは戦いの醍醐味じゃからな! ……参るッ!!!!」
 左腕を押さえ歯噛みしたロベロネリコに、爛々と瞳を輝かせたニャンタルが駆ける。突き込まれた大剣は荒々しく暴れまわるが、あろうことかロベロネリコは痛めた左腕で打ち払ってみせた。些かも効いていない状況、返す刀と叩き込まれた打撃はニャンタルの守りを貫いて痛打を与えたが、しかし彼女の目の輝きは些かも衰えることがなかった。
 相手はB級闘士をも上回る実力者。ニャンタルには到底荷が勝つ相手であるが……強者を相手にし、その実力に追いすがる自身の姿に喜びを覚える彼女にとってこの状況はなにより有り難い状況であった。
 血を吐いてなお喜ぶ異常性は、貴道とグドルフの戦意を高揚させるに十分だったといえようか。
「筋肉魔弾(マッスルショットガン)ッ!」
「魔砲勝負か――いいぞ。文字通りに魂を込めたビームで返礼しよう!」
 囚人隊の魔術師が両手を掲げ、やや離れた位置にいる者達目掛け魔力散弾を叩き込む。名前通り、投げつける筋力を上乗せした魔術弾。まず間違いなくそこそこ高い威力なのは確かだが、反射的に打ち込まれた汰磨羈の勦牙無極と比べれば……というところか。
「ちょ!? あっぶな! 今の魔砲っすか!? 筋肉と筋肉のぶつかり合いの場に魔術!?」
「馬ァ鹿め! 魔術に筋力が乗らないと誰が言った!? 魔術こそ筋肉よ! そんな若輩者にはこうだ!」
「この愚か者がああああああ! この熱く滾る漢達の狂宴に水を差す奴はあああああ! 俺の拳で死んじまえええええええええええええええええええ!」
 無黒は魔術師の行いに怒りを覚え、汰磨羈の一撃で弱った相手を近づいて蹴散らしにかかる。だが、魔術師が一人だとだれが言った? 接近戦で魔砲(と近い特性の魔術)が使えないと、誰が明言しただろうか?
 近づいてきた彼の拳を額で受け、もうひとりの魔術師が顔面にカウンターパンチを叩き込む。そう、拳に乗せた魔力を叩き込む、これも魔術! 瞬間爆ぜる炎も、衝撃も、混乱も――魔術!
「……やれやれじゃな。猪武者もその辺にせんかね」
「え? あれ? ……今殴られたっすよね俺?」
 顔面を凹ませて状況がつかめない無黒は、しかし離れた位置に放り出されていた。その場にはギードが立ち、魔術師の腕を切り飛ばしていた。素早くひいた彼は、追ってくる囚人隊を一瞥し、大剣を構え
「そこをどいてくれ! 鳥を落とす!」
「「――何(っすか)?」」
 ギードと無黒は同時に疑問符を浮かべ、次の瞬間、上を向いた。義弘が強撃を叩き込んだマッスルホークが囚人隊のど真ん中に落下してきたのだ。
「あと2羽か、面倒臭ぇがやるしかねえな」
「任セロ!」
 義弘が空中戦でやっとのことで倒したマッスルホークだが、ランディングアタックを待っていては倒しづらく、高所を取られては面倒くさい。だが、プリンが引き寄せたらどうなるか。意識して、彼等を狙ったらどうなるか。
「美味そうな肉が付いてるな。後でフライドホークにしてやる」
 答えは、鴨ならぬ鷹が葱を背負ってくるようなものである。
「ギード……大丈夫……?」
「儂よりその緑の若造を治してやれ。再起不能でも死ぬよりはマシじゃろ」
 レインはギードの大立ち回りに心配を向けたが、寧ろ無黒の負傷が深刻だ。死にはしないが継戦は不可能だろう。
「不甲斐ないっす……」
「それくらい喋れれば十分じゃろ。おぬしくらい向こう見ずなのも悪くはない」
「ッハハハハハ! 死に損ないの闘士がいるのか! いい、いいぞ!」
 ギードのフォローに口を引き結んだ無黒はしかし、ロベロネリコが自らを照準し足を踏み出したのを見た。三人の猛攻を受け止めつつ、ボロボロでもなお前進する姿を。


「おう、鍛えてまでやりてえ事がそれかよ? せっかく鍛えた筋肉が泣いてるぜ? てめえが身体を鍛え始めたきっかけは何だよ。彫刻を作りてえからか。誰かを殺すためか。何にせよ、筋肉を育てるなんてのはただの選択肢を増やす手段に過ぎねえのさ」
「其方は其方の言い分が有るんじゃろう。疑問なのはお主が何故使われとる側なのかという事よ。自身の信条が至上と思うなら、何故その相手にもそれを貫かぬのか!」
「分かってねえなあ――芸術はそれだけじゃ腹の足しにならねえのさ! 囚われたのはたまたまだが、飯が食えただけマシだったぜ! それにパトロンがつくってんなら、人だって殺すだろ? そういうこった!」
 グドルフとニャンタルの言葉に、ロベロネリコは血を吐きながら笑って応じた。この男は筋肉に魂を売った愚物ではなく、芸術家でもなく、しかしそれしか個性のなかった逸材になれなかった俗物なのではないだろうか。
 高楊枝を咥えていられるほど、気高くはなかったのかも。
「ロベロネリコ、お前に一つ言っておく! プリンは……自分で作リ上ゲルノモとても良イ物ダゾ!」
「…………は? いや、成る程……?」
「隙ありィ!」
 プリンの言葉は短かったが、彼が伝えたかったこと――マッチョだけでも芸術だけでも、囚われてはいけないのだと。それだけに囚われていては…なぜマッチョは良いものなのか。 真にそれに気づく事は出来ない! と。
 それを理解し切るより早く、汰磨羈の乱打と貴道による胴部の一撃が叩き込まれ、彼はもんどり打って倒れた。死ななかったのは、慈悲か頑健さの賜か……。

「官憲がいねえのもやりづらくてしょうがねえ。ところで、おまえさんに鳥を貸したのはどこのどいつだろうな?」
「そう焦って帰る事もあるまい。鳥もいなくなったんだ、どうせだからプリンくらい食べていけ。美味いぞ?」
「……う……」
 義弘は生き残った囚人とロベロネリコを縛り上げると、蹴り飛ばすようにその辺に転がす。呆れたように首を振る彼の傍らで、汰磨羈とプリンはプロテイン入りプリンを彼等に振る舞おうと(押し付けようと)していた。
「鳥……ああ、アレか。依頼人からだよ」
「だからよお、その依頼人は誰かって聞いてんだよ? 脳みそまで筋肉になってんのか?」
「ガッデム! 脳みそが筋肉になっていたら馬鹿みたいな言い方はよくないぞ! 脳みそだって働くんだから実質筋肉だろ!」
(そういう意味じゃ……無いと思うけど…………)
 ロベロネリコの「雇い主」を聞き出そうと躍起になるグドルフの揶揄に、何故かキレる貴道。突っ込みを心中で入れるレイン。話が全く進まない。
「ああ、そうだ、ペストマスクの男。『フギン総裁』? とか呼ばれてる奴が仕切ってる連中がお前等の首と派閥の地位を取引にかけてきたんだったな……」
「……成る程、フギンと言ったのだな」
 フギン、という単語に反応し、神妙な顔をした汰磨羈。仲間達はひとしきり終わったことを察すると、ロベロネリコ含む筋肉連中をどこで雇うかの奪い合いになっていた。
「まったく、敵味方お構いなしにむさ苦しい筋肉ダルマどもに囲まれて気分が悪ィ。イイオンナのカラダが恋しいぜ」
「なんだ、私はイイオンナではないのか」
「我も無視か! いい度胸じゃな!」
「筋肉が無い割にヘタな筋肉ダルマより脳筋なんだよお前等はよぉ!」

成否

成功

MVP

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳

状態異常

暁 無黒(p3p009772)[重傷]
No.696
ニャンタル・ポルタ(p3p010190)[重傷]
ナチュラルボーン食いしん坊!

あとがき

 大変おまたせして申し訳有りません。
 ひとまず、ギードも全体的にも無事です。
 もう少しギードを無責任に運用しても良かったんじゃないか、とは思いますが……かなりよい戦いぶりだと思います。

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