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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>死にゆく彼から。或いは、生きるべき誰かへ…。

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●流れ者の街
 「俺の治世(ルール)は簡単だ。この国の警察機構を全て解体する。奪おうと、殺そうと、これからはてめぇ等の自由だぜ」
 新皇帝バルナバスの放った勅令が、鉄帝全土を騒乱の渦へ叩き込む。
 解き放たれた罪人が、各地で悪徳の限りを尽くす。市民を守るために立ち上がる者がいる一方で、市民を害することを目的に動き始めた者もいた。
 混乱、騒乱、或いは混沌。
 そんな風な日々に疲れて、辺境の地へ逃げた者たちがいた。
 
 鉄帝辺境。
 戦火に焼かれ、ありったけの物資を奪い去られた小さな都市である。
 廃墟の化した街の各所に、ぽつりぽつりと人がいる。
 戦いに疲れた軍人に、怪我をした闘士、虐げられた市民たち、行き場を失くした犯罪者。すっかり痩せて、怪我をして、中にはもうじき、息絶えてしまう者もいる。
 食料は少ない。飲み水も足りない。雨風を凌ぐ場所も無い。それでも、不思議と彼らは安らかな顔をしていた。
 他人同士が肩を寄せ合い、あとは静かに死を待つばかりの身でありながら。
 彼らはすっかり疲れていたのだ。
 もう、争いたくは無いのだ。
 飢えと渇きと寒さに苦しみ、ゆっくりと死んでいくだけだとしても、戦火の中で恨み、怒り、憎しみ合って過ごすよりは随分マシだと、思わざるを得なかったのだ。
「あぁ、なんだ……あんたも流れ者か?」
 街の入り口。
 鉄骨で組んだ粗末なゲートに寄りかかる痩せた男がそう呟いた。
 顔には血の滲んだ包帯。
 焦点の合わない虚ろな視線で見上げる先には、奇妙な白い人影がいる。
「いや……死神か? はは、骨みたいな顔してらぁ」
 掠れた声で男は言う。
 今にも息絶えそうな様子で、しかり彼は笑っている。
 ルブラット・メルクライン(p3p009557)の被った鳥の頭蓋の仮面を見て、彼はルブラットを死神だと思ったのだろう。
「死神を前に笑うのか? 死ぬのが恐ろしくは無いのか?」
 ルブラットは問いかける。
 男は、掠れた声で笑う。
 きっと、もうじき息絶える。きっと、救うことは出来ない。
「怖いっちゃ怖いが、まぁ、このまま苦しみ続けるよりはマシだろうなぁ」
「……なるほどな。ここは、つまり死を待つ者しかいない街というわけだ」
 燃え尽きて、何も残っていない街。
 何も残っていない者たちが集まって、終わりを待ち続けるだけの、未来に繋がることの無い街。「最後に何か……望みはあるか?」
 ルブラットは問う。
 死にかけの男は、弱々しくも、嬉しそうに笑って見せた。
「死神に願い? あぁ、それじゃあ……俺の身体は、街の中央に運んでくれるか? ずっと火を焚いてるんだ。ずっと誰かが燃えてるからな。俺もそこで焼いてくれ……」
 目を閉じる。
 呼吸が浅い。
 目を閉じたまま、掠れた声で……。
「あぁ、死にたくねぇなぁ。腹が空いたし、怪我が痛むし……苦しいなぁ。俺も、きっとどいつもさ……死にたくなんか、ねぇんだよなぁ」
 それっきり彼は呼吸を止めた。

●死を待つばかりの街の真ん中
 飢えた子供が、身を寄せ合って震えている。
 喉の渇きに耐えかねて、若い男が泥水に手を突っ込んだ。
 重傷を負った軍人が、痛みに呻き声を零した。
 疲れた顔の罪人が、誰かの死体を引き摺って行く。
 街の中央、燃え盛る業火の中には幾つもの遺体があった。
 命を落とした誰かを、別の誰かが運んで来ては、炎の中にくべるのだ。
「……さて、死に行く男の最後の願いを、聞いてしまった責任がある」
 そう言ってルブラットは仮面を撫でた。
 必要なのは、怪我人の治療に、飢え渇いた者たちへの食糧供給。それから、彼らが今後も寒さを凌ぐための施設も必要だろうか。
 死にたくない、と彼は言った。
「手が足りない。物資が足りない。知恵が足りない」
 1つ、2つ。
 街を見渡し、ルブラットは足りない者を数え上げた。
 数えて、数えて、キリが無いことに気が付いた。
「まぁ、いいさ。生きているのは70人から100人程度か?」
 過酷な環境に身を置いて、けれどこの街の住人たちは誰もが不思議と穏やかな顔をしているではないか。
 きっと、すべてを諦めたから。
 どうでもいいと、そう思ってしまっているから。
 けれど、しかし……怪我の痛みと、飢えや渇き、住む場所のない苦しみだけは、生ある限り続くのだ。
 ならば、片っ端から、掬い上げてしまえばいい。
 きっと広げた指の隙間から、零れ落ちていく命もあるけれど。
 出来ることから手を付けなければ、誰も救えやしないじゃないか。
「死にほど近く、それでいて穏やかな……そんな彼らの助けになればいいのだが」

GMコメント

●ミッション
“流れ者”たちに生きる希望を与えること

●ターゲット
・流れ者×70~100
生きる希望を失って、戦火から逃げて来た者たち。
大半は一般市民だが、中には元軍人や罪人、ラド・バウの闘士なども含まれている。
飢えや渇きを感じているのは全員。
軍人や罪人、闘士の中には重傷者も含まれる。重傷者は多くて10名程度。

●フィールド
流れ者の街。
鉄帝辺境の廃墟都市。
戦火に焼かれ、食糧や物資はほとんど何も残っていない。
建物の損壊が激しく、雨風を凌げる施設は無い。
街の中央では常に大きな火が燃やされている。命を落とした誰かをそこで火葬するためである。
流れ者たちは、街の各所に孤独に、或いは数人程度で身を寄せ合って、最後の時を安らかに過ごそうとしているようだ。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <総軍鏖殺>死にゆく彼から。或いは、生きるべき誰かへ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年11月06日 22時05分
  • 参加人数7/7人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
※参加確定済み※
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー

リプレイ

●死にゆく彼からの願い
 そこは荒廃した街だ。
 荒れ果てた道路に、半壊した家屋、硝煙や、何かが焼け焦げた匂い。それから、汗や垢を原因とする饐えた匂いと、人の遺体が焼ける臭い。
 何者かに攻め込まれ、何もかもを一切合切奪い取られた廃墟には、鉄帝の各地から大勢の人が流れて来ていた。争いを避け、平和な集落を築くために……ではなく、ただ静かに最後の時を過ごすためにだ。
 大人も子供も、女も男も、誰も彼も淀んだ目をして、ただ呼吸をしているだけだ。生きながらに死んでいる。そうしているのが一番、苦しまずにすむのだと。これ以上苦しい思いをしたり、辛い思いをしたりしないためには、すべてを諦めるのがきっと一番冴えた生き方なのである。
 生き方……或いは、死に方といった方が正しいか。
「もう、どこもかしこも傷だらけね……私に、どれほどできることがあるのかしらね」
『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は足を止めて、道路の端へ視線を向けた。そこにいたのは膝を抱えて蹲っている幼い少女だ。どんよりとした目で地面を見つめ、ヴァイスが前を通ったことにも気づかない。
 或いは、気づいているが、反応を示すだけの元気が無いのだろうか。
「飲める、か? 家ぞ……いや」
 少女の前にビスケットの袋と、小瓶に入った水が置かれた。『金色凛然』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は少女に家族の有無を尋ねようとして、言葉を止める。腹を空かせた幼い少女が1人だけ……家族の安否を尋ねるなんて、意味の無いことだ。

 力なく、細く乾いた手が地面に落ちた。
「“死は救いである”」
 煤けた地面に膝をつき『暖かな記憶』ハリエット(p3p009025)がそう言った。
 ハリエットの眼前には、穏やかな顔をして息絶えた女性の姿がある。女性の腹には、血の滲んだ包帯が巻かれていた。
 彼女はハリエットに声をかけ、1つ2つ、短い言葉を交わした後に静かに息を引き取ったのだ。
「文字の勉強をしてたときに読んだ宗教の本に書いてた言葉なんだけど、この街の人は正しく『死を救い』だと思ってるんだね。生きるって、楽しいことばかりじゃない。私だって一歩間違えばこの街の人みたいになっていた」
 遺体を放置してはおけない。
 ハリエットの前には3人分の遺体があった。

 壁を殴る音がした。
路地の影に身を隠し『玲瓏の旋律』リア・クォーツ(p3p004937)が壁を拳で殴りつけたのだ。白い手に血が滲む。
 声をあげずに、彼女は吠えた。
 先ほど亡くなった女性と、ハリエットの会話を聞いていたのだ。「私の遺体を火葬場へ」「私はアンリ。あなたの名前は?」……死を前にして彼女が最後に口にしたのは、以上のような言葉であった。
「救ってみせるわ。それが、修道女として……いえ、あたし自身が託された道なのだから」
 俯いたリアの表情は窺えない。
 嚙み締めた唇が切れて、顎にまで血が滴った。
「感傷に浸る時間も長くは取れまい。低きものを掬い上げる事こそが、神の信徒としての我が使命であり、彼の願いなのだろうから」
『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)の声が聞こえた。ペストマスクに覆われたくぐもった声だ。
廃材を組んで作った担架が、壁に3つ、立てかけられている。
「わかっているわ。もう、絶対に、誰も死なせない」
 そう呟いて、リアは口元の血を拭う。

 街の中央。
 絶えることなく、炎が燃え続けている。
 炎の中には幾つもの遺体。誰かが息を引き取ると、別の誰かが遺体をここへ運んでくるのだ。そして、その誰かもいつかは炎にくべられる。
「“おしまい” の場所はどこにでもある。そこに行きついたら最後、出られない。そんな場所だ」
 ギターの音色が鳴り響く。
 炎に背を向け、岩に腰かけ、ギターをつま弾く『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)は、誰にともなくそう告げた。
「だが、諦めている奴らの中にも、生きたい気持ちはある。ここは憂鬱に囚われており、皆、正常な判断ができなくなっているだけ。穏やかさは死を受容し始めている証拠だな」
 奏でられるのは葬送の曲。どこか物悲しく、そして少し陽気な曲だ。死した者へ、それがどれほどの慰めになるかは知れない。それでも、音を鳴らすのだ。
「エルフレームシリーズの皆は独自の幸せを皆見つけていった。だから、ブランシュも自分の見つけた幸せを彼らに送ります」
 炎を見上げる『航空司令官』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)の視線の先には、黒い煙と灰がある。炎の熱に煽られて、空の高くへ、細く細く昇って行って、そこから先は、暗い空色に吸い込まれるみたいに見えなくなる。
 演奏を終えたヤツェクが、ギターの弦を掻き鳴らす。
 それから彼は笑って見せた。
「だから、まずは――温かい飯と温かい場所、そして少しばかりの陽気な歌だ」
 世界を回す陽気な歌を届けるために、この地へ足を運んだのだから。

●明日まで、それから次の明日まで
 冷たい風が吹いていた。
 熱を奪っていくような冷たい風が。
 熱も命も奪い去っていくような風が。
 だから、冷たい風に何もかもを奪い去られてしまう前にイレギュラーズは街へと散った。怪我人を見つけて、治療して、炊き出しを行うことを告げて、少しでも明日に繋ぐために奔走しているのだ。
「死んだら意味がない……というか、生きねば意味は見つからないものだもの」
 ヴァイスは自分の手を見下ろした。煤と泥と血で汚れた手だ。
 何人かの治療を行い、何人かを炊き出し場へと見送った。今のところ、新たな死人は出ていない。けれど、いつ、どこで誰が息を引き取るかも分からない。時間が無い。焦燥感が胸を焼く。
「でも、手を洗わないと」
 水場は無いか。
 そうして視線を巡らせたヴァイスの足元に、1人の少女が歩み寄る。それは、街に入ってすぐに合った、暗い目をした少女だった。
「お姉ちゃん」
 掠れた声だ。
 少女の手には、空になったビスケットの包装紙が握られている。
「ごはん、ありがとう」
「えぇ、どういたしまして。向こうで炊き出しをしているから行くといいわ。もっとお腹いっぱい……は、無理かもしれないけれど」
 と、そこでヴァイスは言葉を止めた。
 少女の視線が、ヴァイスの携えた手籠に向いていることに気付いたからだ。手籠の中には、ヴァイスが持参した白い花が詰められている。
「お花、好きなの? よければ」
 花を1つ、少女に手渡す。
 少女は花を受け取って、小さく笑った。
「火葬場に供えて来てもいい? お母さんやお友達にも届けてあげたいの」

「ここ、少し木材で補修すれば雨を凌げるようになるね。そしてこの穴を塞げば隙間風も吹かなくなる」
 壁の穴を廃材で塞ぎながらハリエットは言う。
 返事は無い。
 狭い部屋の中には、身を寄せ合って寒さに震える老人たちがいた。
「私ね。少し前までは天涯孤独だったんだ。明日死ぬかもわからない。住むところも食べるものもない。一人ぼっちだった」
 少しだけ、自分のことを語って聞かせる。
 返事は無い。
 それでもいい。耳に届けば、それでいい。
「死んだほうが楽かな?て何度も思った。けれど、死ななかったから今がある。貴方達にもきっと、光が指す」
 ハリエットの言葉が、老人たちに生きる希望を与えるだろうか。
 ともすると、ハリエットの言葉には何の意味も無いのかもしれない。
 或いは、少しだけの意味があるかも知れない。
「ゆっくりでいい。生きることについて考えて欲しい」
 壁の穴は塞ぎ終えた。
 寒さも少しばかりはマシになっただろうか。
 老人たちの前に、幾らかの保存食と水を置いてハリエットは次の現場へ向かう。

 血と、腐った肉の臭いが満ちていた。
 蝋燭とランプで明るくされた、古い診療所跡地である。
 手術台には、意識を失った軍人らしき男が寝ている。
「そいつをどうするつもりだ?」
 手術室の壁にもたれた男がそう問うた。
「我々が怪しいと思うかね? どうせこの儘では死を待つ身だろう? 少しは信じてみないかね」
 壁際の男へ毛布を投げて、ルブラットは白衣を纏った。手には白いグローブを嵌め、手術台の横にメスをはじめとした手術器具を並べていく。
「……麻酔は無いな。まぁ、問題は無いだろう」
「手術か? 人体実験の類ならお断りだぞ。変な馬に乗せられて、こんなところに運び込まれて……俺たちからこれ以上、何を奪おうって算段だ?」
 壁際にもたれた男の声は掠れている。
 手術台に寝ている男よりはマシだが、重症人であることは間違いない。
「何も奪いやしないさ。痛みがマシになるよう、軟膏も塗ってあげただろう?」
「意味あるか? どうせ、死ぬんだぞ?」
 男の方へ視線を向けて、ルブラットはメスを手にした右手を顔の高さに掲げる。
「だから治療をするんだ。仮に死から逃せなかったとしても、手を握って看取ってやるさ」
 まずは1人。
 死の淵にいる軍人の命を繋ぐ。
 メスの刃を患部に走らせ、壊死した肉を切除した。
「そして、次はお前だ」
 血に濡れたメスに、ランプの明かりが反射する。

 小豆に雑穀、そしてエリザベスアンガス正純の缶詰。
 粥の材料は質素なものだ。けれど、暫くの間、まともな食事を採れていない住人たちにとってはそれもご馳走だ。
 リアやエクスマリア、ヤツェクの用意した炊き出しを求め、少しずつだが街中から人が集まって来ている。
 怪我人は治療し、粥を手渡し、食べさせる。
 たった一食。命を繋ぐにはあまりに細い。
「クラースナヤ・ズヴェズダーの足音を聞け。我ら全ての民の幸福を願う者なり。貴方たちは救われなければいけません。明日のパンを食べなければいけません」
 遠くの方から、ブランシュの声が聞こえていた。
 街中を歩き回って、集めた人を先導しているのだろう。
「その資格は全ての者が持っているのです。誰も捨ててなどいないし、奪われてなどいない。他者の為に尽くし、平和に手を取り合える事こそが幸せの一歩なのです。我々は奪い合ってはならないのです」
 ブランシュの後ろに、十数人の人影が見える。
 その中には、子供たちを連れたヴァイスの姿もあった。
 声を張り上げ、歩き回って、やっと搔き集められたのがたったのそれだけ。しかし、誰もが生きることを諦めていたのだと考えれば、十分な人数とも言える。
 既に炊き出し場へ集まっている者たちや、他の者が助けている者たちを含めれば、もっと大勢が救われたはずだ。
「それすら許されないのは何故か。皇帝が全てを手にしているからです。我々は立ち上がらなければいけません。我々から些細でもあった幸せを奪った皇帝を討ちに」
 もちろん、今の街の住人たちに戦う力など残っていない。
 生きるだけで精一杯。否、それすらも諦めているのが現状だ。
「焼かれた子が何をした? あの子達は死を望んだか?」
 飢えて死んだ子供がいた。
 焼かれた灰は、空高くへ昇って行った。
「否! 誰もそんな事は望んでいない! 立ち上がれ。誰だって明日が欲しい。その為の力は我々で与えます!」
 死にゆく者が残した想いは、生きている者へと引き継がれなければならない。
 死した者の受けた屈辱は、誰かの手により晴らされるべきだ。
「ギア・バジリカで共に革命を起こしましょう。人が人として死ねる為に! 自由、平等、博愛を!」
 1人、2人、3人と。
 集まっていた人々の目に、種火のような光が灯る。

●世界は回る
 いつ以来の音だろう。
 炊き出し場に集まった数十人が、温かな粥を食べながらヤツェクの歌に耳を傾けている。
 4曲、続けて歌を歌ったヤツェクが、ギターを降ろして声をあげた。
「まずは、信じてくれ。おれ達が来たからには、ここは「おしまい」の場所じゃない」
 ライブにはMCが必要だ。
 静かな声だ。けれど、その声は誰の耳にも届いた。
「『我が剣にかけて、新皇帝をくたばらせる』し――『不幸なままでは、逝かせない』。だから、おじさんの我儘を聞いてくれんかね。もう一晩、夜を越えてみないか?」
 明日があると、気軽に口にすることは出来ない。
 生きろ、とたった3文字を口にするのは重かった。
 けれど、言わなければならない。
 生きてさえいれば。
 生きてこそ、つなげる明日もあるはずだ。

 広場から少し離れた大通り。
 遺体を燃やす炎を囲む、十数人の人影がある。
 彼らは元軍人たちだ。その中には、ルブラットの治療を受けた者もいる。
 広場での炊き出しと、ヤツェクの声を聞いた後、彼らは誰からともなく移動を始めた。
 炎を前に整列し、静かに何かを思案している。
「新皇帝、バルナバスは言った。『弱い奴は勝手に死ね』と。その戯言の通りに、このまま死ぬのをよしとする、か?」
 コツン、と背後で足音が鳴る。
 エクスマリアに背を向けたまま、軍人たちは黙っている。
「生きてどうするかは、自由、だ。望むなら、ラドバウ独立区に連れて行こう。安全は保証する」
 応えは無い。
男たちは微動だにせず、炎を見つめ続けている。
「この国に嫌気が差したなら、他国へ連れて行こう。なに、話は付ける。任せろ」
 応えは無い。
 炎の中で、誰かの遺体が燃えている。
 彼らの仲間も、かつてここで焼かれたのだろう。
 同じように何人も見送って来たのだろう。
「なんにせよ、今暫く、生きて待っていて欲しい。バルナバスを、マリア達が倒すまで、な」
 男たちが、火炎へ向けて敬礼を捧げた。
 死した仲間へ、犠牲になった市民たちへ捧げたものだ。
 それを見て、エクスマリアは僅かに口角をあげた。
「何だ……戦うの、か? ならば、負けるな。希望を、捨てるな。まだ我々がいるのだと、バルナバスへ知らしめろ」
「イエス、マム!」

「生きたいと願った貴方達の意思が、明日往く人達の為に炎を残し先立った彼らの遺志が、あたし達をここに引き寄せたのよ」
 群衆の真ん中でリアが言葉を紡いでいる。
 リアの言葉をよく聞くために、1人、2人と立ち上がる。
「貴方達は決して弱者ではない。自分達の運命を切り拓く、強さを持っている」
 花を手にした少女が頷く。
 建物の影から、老人たちが顔を覗かせた。
「だから、共に生きましょう。あたし達が託され、そして誰かに託していく、希望の灯を残す為に」
 ブランシュの馬車がリアの後ろへ移動して来た。
 住人たちが、馬車へ乗り込む。
 全員ではない。怪我や病気で、自力で動けない者もいる。
 争いの止まぬ地へ、戻りたくない者もいる。
「冷たい雪を溶かして、暖かい春の陽を迎える為に!」
 
「あなた達は残るのね」
 炊き出しの片付けを手伝う住人たちへ、リアはそう問いかけた。
 もちろん、可能な限りの支援を続けるつもりだ。
 残るという選択肢も、そう悪いものでは無い。
 無論、生きるという意思があってのものだが。
「あぁ、今戻るのは辛いからな。でも、平和になったら、そしてその時まで生きてたら、復興の手伝いでもしに行くよ」
 痩せた老爺がそう言った。
 それから彼は、近くに転がる樽を数度、叩いて見せた。
 小気味の良い音が鳴る。
 それはヤツェクの演奏していた曲に似ていた。
「ここでドラムを鳴らしながら、その時が来るのを待ってるからよ」
 
 ギアバシリカを始め、幾つかの都市への移動を決めた者は数十人にも及んだ。
 全員を一度に連れて行くことは出来ない。
「無理強いはしない。疲れ果てた者に必要なのは、恐怖の元凶とは隔絶されたこの町での、ただ穏やかな時間なのだろう」
 ルブラットは言う。
 分かっているわ、とリアは答えた。

成否

成功

MVP

ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
廃墟都市での支援活動が完了しました。
廃墟都市の状態は幾分改善され、また数十名の人員が各地へ移動を開始しました。
依頼は成功となります。

この度はシナリオのリクエストおよびご参加ありがとうございました。

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