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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>小雪の訪れ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――冬が来る。
 少しずつその気配を、鉄帝の民は感じていた。
 ……鉄帝の冬は混沌有数の過酷な環境にある。
 それでも鉄騎種を中心に、民は毎年なんとか寒さを乗り切っていた――が。
「今年は些か事情が異なる……新皇帝が君臨し各地の混乱は未だ収まらぬ故、な」
 帝政派の一人たるレオンハルト・フォン・ヴァイセンブルク大佐は語る。
 例年にない程の……厳しい年になりそうだ、と。
 それもこれも帝都の動乱が全ての原因だ。帝都を中心に全ての政治機構が寸断され、今の鉄帝は最早隣の街に往く事すら簡単とはいかぬ。近頃は新皇帝派を除いた六派閥の勢力も拡大しており、それぞれの拠点となりうる地の付近は比較的安全になっていると言えるが。
 それでも懸念はある。やはり冬が近い故に。
 これが平時であればまだ帝都を中心に備える事が出来たのだろうが、先述の通り帝都は新皇帝が占拠していて頼りとする事は出来ない――故に。
「物資の確保に動く、っていう事だよね?」
「あぁ。調査の結果、まだ新皇帝派が気付いていない軍の備蓄庫が残っている事が分かった――サングロウブルクから北東へと進んだデントラ山脈。この一角に存在する地に部隊を派遣するのだが、イレギュラーズにも同行してもらいたい。あまり大規模に人員を動かせば賊に気付かれるかもしれん。故に少数が良いのだ――」
「――了解であります」
 備蓄確保に動くのだと、レオンハルトはセララ(p3p000273)やハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)に告げるものだ。備蓄食料などの確保はセララからの提案もありレオンハルトが各所を調べた結果、候補として判明した地があったのである。
 デントラ山脈に軍の管理する倉庫群が隠されているのだと。
 新皇帝派が気付く前に――確保に動こう。

 そして往く、レオンハルトにイレギュラーズ達が。

 レオンハルトの部下達も付き従い、彼らは馬車を幾つも率いている。
 これによってデントラ山脈の物資を持ち帰ろうと――思っていたのだが。
「……むっ。これは、想定よりも多いな。
 どうやら物資管理の資料が適当に処理されていたらしい」
「良かった……と言えるでありますが、しかし一度に運べる量では……」
 いざや辿り着いてみれば、レオンハルトの想定を上回る量が保管されていた――鉄帝軍の資料管理に粗雑な面があったのだろうか……まぁ量が少ないよりは良いのだが、しかしどうしたものか。人手を割き、何度か往復しなければならないだろうか。
 何度も人の出入りを増やせば賊に気付かれる可能性が高まる。多くの人員を割くのも手だが、こんな山中にそこまでする程の価値があるかは悩ましい所だ、と。そんな事を思っていれば。

「あれ? なんだろうこれ……線路じゃないかな? どこに繋がってるだろう」
「何――? これは、かなり古いモノだな。
 しかし使用には耐えれそうだ……方角的にボーデクトン方面に繋がっていそうだな。
 ……これもこの施設付近の資料にはなかったのだが。
 無事にこの国を取り戻せれば、一度あらゆるデータを見直す必要がありそうだな……」

 セララが見つけた。些か古いが、倉庫群の近くにまで伸びている線路を――だ。
 鉄道か。鉄帝にはこういったモノがあるとは知っていたが……ここまで伸びているとは。
 レオンハルトの推察によれば、これは帝政派が奪取に動かんとしているボーデクトン方面へと繋がっていそうである。となればボーデクトンを奪取できれば、ここの物資は鉄道網を用いて一気に運べるだろうか――
 人手や馬車を往復させる手間暇を掛けずとも、ボーデクトンを勢力圏内に納めれば安全に、そして迅速に運搬する事が叶うかもしれない。いずれにせよ今は持てるだけの物資を持ってサングロウブルクに一度報告がてら帰還しようと……思考した、その時。
「――むっ、なんだ? 空に影が……天衝種か!」
 感じたのは殺意。反射的に空を見据えれば――そこに居たのは魔物であった。
 天衝種ラルグ。怒りの炎を纏う、巨大な鳥である。
 いやそれだけではない。連中だけならず、近くからは狼の様な遠吠えも聞こえた――別の魔物が近付いてきている様な気配も感じる。人の気配を察知した、と言う事だろうか。やれやれ……
「……帰還する前に、この辺りの魔物を排除しておくでありますか」
「放置してたら物資を積み込む暇もなさそうだしね――ちゃちゃっと倒そうか!」
 応戦態勢を整えるハイデマリーやセララ。
 折角確保できそうな食料を見つけたのだ。
 こんな魔物共に荒らされる訳にはいかない――ここで全て仕留めておくとしよう!

GMコメント

 冬が来る前に、少しでも多くの物資を――
 以下詳細です!

●依頼達成条件
・敵勢力の全撃退。
・備蓄食料の護衛。

●フィールド
 サングロウブルクより北東に進んだ先にあるデントラ山脈の一角です。
 此処には山の間に隠される様に、軍部所有の食料倉庫群がありました――この地の事は、新皇帝派は気付いていません。故に帝政派が冬を見越して奪取に動きました。
 そして幸いと言うべきか(鉄帝軍の情報管理が杜撰でもあったようですが)想定よりも多い食料が見つかりました。
 が、どうにも魔物が近くにいる様です。
 これらを排除しておかねば、連中に倉庫が荒らされないとも限りません――
 撃破してください!

 山の一角をくり抜いて、隠す様に倉庫群が存在している様です。中には大量の食糧などの物資が存在しています。
 山に近いからか、ちらほらと雪が降り始めている様ですが降り積もっている訳ではないので戦いにくいといった事はないでしょう。

●敵戦力
・天衝種ラルグ×10体
 アンチ・ヘイヴンとも呼ばれる、バルナバスが新皇帝となって以降に鉄帝各地に出現している魔物の一種です。飛行しており、空から強襲する様に襲い掛かってきます。
 『飛』を伴う蹴撃を行うほか、遠貫へ激しい炎を吐きます。
 全ての攻撃に【火炎系列】のBSを伴いますので、ご注意ください。

・天衝種グルゥイグダロス(巨狼)×10体
 こちらもラルグ同様の魔物で、巨大な狼の様な姿を持つ怪物です。
 鋭い爪や牙を宿しており【出血系列】のBSを付与してくる事があるでしょう。
 ラルグと異なり空は飛びません。また、シナリオ開始時はどこからか此方に近付いてくる気配がありますが、姿は見えません。連中が戦場に到達するまでそれなりの時間があると思われます。

●味方戦力
・レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルク
 帝政派に属する軍人です。
 軍式格闘術を用い、非常に優れた武力を持っています。後述する軍人達の指揮を行いながら倉庫の防衛をしつつ戦いますが、何かやってほしい事などがあれば、そのように協力して動いてくれる事でしょう。

・帝政派軍人×5名
 レオンハルト配下の帝政派軍人です。
 元々は倉庫の物資を運ぶための馬車を操る為の人員だったのですが、しかしレオンハルトが選んだだけはあってか戦闘能力もある模様です。銃や剣を持ち、皆さんと共に戦います。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <総軍鏖殺>小雪の訪れ完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日のフルール
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
星芒 玉兎(p3p009838)
星の巫兎
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

リプレイ


 雪の欠片が鼻先を擽った。
 冬の気配――感じ得るは『戦飢餓』恋屍・愛無(p3p007296)であったか。眼前には件の倉庫群があり……よもや杜撰な管理体制こそがプラスに働くとは驚きであった、と。
「ともすれば、こうした未処理の地区が他にもあるかもしれんな。ボーデクトンを奪還した際は使用可能な線路とあわせ周辺地域の調査をしてみても良いかもしれん。場合によっては金脈の如く見つかる地もあろう……まぁその前に目の前の障害が先だが」
「嬉しい誤算ではありますが――誤算があった事自体はどうなのでしょう。
 言っても詮無き事かもしれませんけれど」
 ともあれ迎撃が先かと愛無や『星の巫兎』星芒 玉兎(p3p009838)は天を見据えるものだ。
 天衝種ラルグ。空飛ぶ連中が此方へと次々飛来してこようか――
 故に愛無は周囲を俯瞰する様な視点の観察眼と共には位置を定めるものだ。施設と可能な限り直線状に成らぬ様に位置取りしつつ……咆哮一閃。激しき声が敵の注意を引き、直後には玉兎の、神秘を宿した原始の泥が放たれる。まるでそれは鳥共を纏めて呑み込む様に。

「魔法騎士セララ&マリー参上! 鉄帝の食糧はボク達が守る!」
「魔法騎士セララ&マリー参上……鉄帝の未来のために」
「むっ! だめだよ、もっと声を張り上げないと! マリーのパパもいるんだし、もっと気合がないとね――リテイクだよ!」
「えっ、リテイク? リテイクってあるのですか? ホントに?」

 次いで動いているのは『魔法騎士』セララ(p3p000273)に『空の守護者』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)のペアである。あれ、おかしいな。鉄帝軍人ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク推参……で行くつもりが、いつの間にかセララに乗せられて魔法少女状態に……ちょ、父様なんですかその目線は。母様に良い土産話が出来そう? ちょ!!
 ――ともあれ煌めくほどに気合の入っているセララはハイデマリーにも声を掛けつつ、同時にセララフィールドを張り巡らせる。ソレは周囲の地形を保護する為の結界。これで建物や線路を少しでも守らんとするのだ。
 同時にハイデマリーは低空飛行しながら射撃を敢行。極限なる集中から齎される、全てを見通すかのような瞳は――ラルグ達の動きを丸裸にし予測射撃すら可能とする。
 穿つ。引き金絞り上げ、その身を貫く様に。
 動きが鈍った所をセララの斬撃が追撃する様に一閃もすれば血飛沫舞うものだ――さすれば。
「あれがセララさんとハイデマリーさんの、魔法少女の動き……!
 私も遅れを取ってはいられませんね。頑張りましょう……!」
 彼女らの動きを羨望する様な視線で見据えているのは『深緑魔法少女』リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)だ。自身も魔法少女の一員として、かの魔法少女コンビと一緒に仕事が出来るのは実に――心が躍る。
 リディア自身は一歩引いて支援をまずは行おうか。倉庫の防衛の為にも、だ。
 それでも己を狙わんとする輩がいれば――悲しき亡霊の慟哭によって迎撃するけれど。
「ここにあるのは大事な食料なのです。魔物さんたちもご飯大事だと思うですが、渡すわけにはいかないのです! もっと別の所のご飯を狙って下さ……えっ? メイたちはエサ扱いですか? いやまさかそんな――うひゃああ! 突いてきたのです! メイもねこさんも食べても美味しくないのですよ!」
 ぴえ~! と、ラルグに突かれているのは『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)だ。メイはセララフィールドが満ちていない部分に、別の結界を張りつつ――己が頭を狙ってくるラルグがいれば邪悪を祓う光によって追い払おうか。ふぅふぅ!
「かのレオンハルト殿と共闘できるとは、何よりだ。
 二年前の海戦で受けた借りを返す、いい機会になる――よろしく頼む」
「ほう。二年前の海戦か……懐かしいな。あの件は同盟が故もあった、気にするな。
 ――だがそれはそれとしてイレギュラーズも頼りにさせてもらう。よろしく頼もう」
 と、そして各地に保護なる結界が行き渡ればいよいよ本格的に反撃開始だと、動くのは『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)である。ジョージは懐かしき海戦の記憶を瞼の裏に思い出しながら……今度は鉄帝の地で戦う事に、どこか縁を感じている。
 さぁ今度は此方が助ける番だ――と。
「うん――さぁ行こうか! 天義の聖騎士、サクラ。推して参る!」
 直後には『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)も剣を抜きて宣誓を。
 この地の食料は、冬を越す為の民に使われる為のモノであり、魔に渡すものではない。
 来るのならば斬り捨ててでも――護り切る!

 狼の気配が此方に来る前に少しでも片を付けておこうと、跳躍した。


「自ら食糧になりに来るとは感心だ。来い! 貴様から焼き鳥にしてやる!
 安心しろ。あぁ……一片たりとも無駄にはせんよ!」
 ジョージは自らに注意を引き付けんと積極的に立ち回っていた――声を張り上げ、自らへと意識を誘うのだ。天舞うラルグ達は時に炎を撒き散らして攻撃もしてくる故に、好きにさせていればそのまま常に遠方に位置し続けるかもしれない……
 だからこそジョージや愛無は誘引せんとするのだ。
「さぁ仕事の時間だ。来なければ助かっただろうに、これは其方の選択の結果だと思いたまえ」
 引き付けられた個体からの撃を愛無は捌き続ける。纏めて己に襲い掛かって来れば――逆に連中を『喰らわん』としようか。肉を喰らい魂を喰らいて、自らの傷の治癒も同時並行し。
「さて、駆除しましょうか。念入りに、しかし手早く参りましょう。
 ――此処は冷えますわ。早々に終わらせて、温まりたい所ですわね」
「倉庫は害させないよ! どうしても来るなら……斬るッ!」
 次いで玉兎もジョージや愛無に引き寄せられている個体共を『泥』にて呑み込むものだ。それは神秘なる力を秘めた一撃であり、敵のみを呑み込む魔力の渦とも言える――続けざまにはサクラが跳躍し、数撃数閃。
 一機に斬り伏せんと立ち回る。『後』もあるのは分かっているが、しかし。
「ここは多少無理をしてでも、アドバンテージを勝ち取っておくべきだよ――!」
「メイもお手伝いするのです! みんな大事、倒れちゃだめなのです!」
「倉庫の方には近づけさせませんよ――ここで必ず止めてみせます!」
 早期に殲滅叶えば楽になる面もあるのだと、サクラは最初からかっ飛ばすものだ。然らばその動きを援護するのがメイやリディアである。彼女らの、治癒術が周囲の者達の活力を満たし、戦う為の闘志を齎そう――勿論その対象はレオンハルトなどの者達も同様に、だ。
 更にリディアは接近するラルグがいれば敵だけを穿つ亡霊の慟哭をもってして迎撃する。
 ――だがあまり前に出ることは控えておこう。必要以上に攻撃を受ければ、また治癒の仕事が増えてしまうだけ。あくまで支援をこそ主目的にする様に……と。
「よし。イレギュラーズ達の動きで此方の方には攻撃が薄いな……
 だが彼らだけに任せるのも、軍人としての名折れ。援護するぞ。
 総員、構え――撃てッ!」
「父様がいれば、倉庫の方は大丈夫そうでありますね。なら――セララ、我々は」
「うん! 今の内ラルグを減らしておこう! これで終わりじゃないし、ね!」
 であればレオンハルトも余力があれば援護の動きを見せる者である。配下の者達に指示を出し、銃撃をラルグ達へと投じようか――勿論、彼らの主目的は倉庫の防衛であるが故に無理をして攻撃まではしない、が。
 その動きに次いでハイデマリーやセララも敵を倒さんと動き続けるものである。
 飛翔する力を宿した彼女たちはラルグ達とも戦いやすい。セララはポン・デ・リング状のドーナッツを口端にはむりながら、自らに戦いの加護を巡らせるもの。動きが俊敏と成りて一撃紡ごうか。
「ずっと飛んでるなんてどうしたの? もしかして僕達が怖いのかな――?
 なんだ! 君、鳥の癖に弱虫なんだね!」
 更に挑発も重ねて、だ。怒り狂った個体がセララへと突撃してくれば――合わせてカウンターの一撃を交差させようか。であればハイデマリーも引き続き射撃を続行するものだ。
 無数の弾丸が空間内で弾け周り、暴力の嵐となる様に。
 セララの動きに合わせた一撃は敵の動きをまるで予測するかの様に――正確に狙い穿ちて。
 然らばラルグ達は順当に数を減らすものだ。元々此処に集まっているイレギュラーズ達は精鋭と言える能力を宿しており、同数程度であればむしろ圧倒するかの如く……そこから、倉庫の防衛を主体としているとはいえレオンハルト達もいれば負ける要素はない――
『ギ、ガ、ガ――ッ!!』
「おっと。増援――来るよ! 狼達だ!」
「ここで、でありますか。あと少し遅れてくれば尚助かったのですが」
「あっちから来ますですね……! 皆さんご注意を、なのです!」
 が。事はそう単純に片付かぬと、サクラはラルグへ斬撃放ちながら気付くものだ。同様に、優れた視力をもってして周囲の索敵に当たっていたハイデマリーも連中の到来を察知。更には周囲の精霊と意志を交わせていたメイも探知しようか。
 天衝種グルゥイグダロス……来たか、と。連中も天衝種であれば放置しておく理由はない。幸いにしてラルグの方は作戦が機能してか、かなり片付ける事が出来ている……連戦と言う形にはなるが、しかし!
「向こうから更に食料が増えてくれるとは殊勝な心掛けだな。
 さぁでは第二の狩りの時間だ。貴様も肉になるがいい!」
 むしろ望む所だと、ジョージは五指を握りしめ――拳を振るうものだった。


 巨狼は振るう。その爪を、その牙を。
 生きている人間を食料とでも思っているのだろうか――全く。
「知能の無い輩の考える事は全て同じなのだろうか、な。
 ――一体たりとも逃せんな。全て叩き潰させてもらうとしよう」
「ええ。幸いと言うべきか、目前に見えるのが全ての様子。逃さず殲滅しましょうか」
 であれば愛無は此処が元々『餌場』として認識されている可能性に思い至るものだ――我々が来たから、ではなく連中が根城にしていた可能性もある……ならば、深追いまでする気はないが可能な限り叩き潰しておこうと。
 故に駆除の見解を示す玉兎と共に攻勢を仕掛けるものだ。
 愛無は特に施設を狙いそうな個体から優先して捕食せんとし、玉兎は引き続き神秘を振るう。敵を滅す泥を。そして、破壊の力を宿した一閃を叩き込みて確実にその命を絶たんとするのだ――同時に彼女は敵意を察知する術を走らせ、まだ見ぬ敵が隠れていないかも確認し。
『グルルル……ガゥッ!!』
「くっ――一斉に襲い掛かってきますね、しかし……こんな程度ではまだまだ!」
 同時。巨狼の牙を防がんとするのはリディアだ。味方の回復と支援に務める彼女であるが、巨狼が参戦すれば数は向こうが依然として上であり、攻撃が届かぬ様にするのは難しい。
 だが不意打ちを受けない様に防御優先であった彼女の傷は致命と言う程ではない。
 まだ戦える。まだ在れる。この程度で臆せるものか――!
「大丈夫なのです! メイが――支えるのです!」
 直後。そんなリディアや、他にも傷を負った者に治癒術を齎すのはメイだ。
 誰も落とさせない。誰もエサになんてさせない。
 メイは力の限り振るい続ける――己が此処に、在る限り!
「倉庫に敵さんが近づいたらそれを撃退してほしいです!
 メイたちも頑張るですが、漏れてそっちに向かうかもですから!」
「うむ。分かった、此方は任せよ――諸君らは眼前に集中してくれ」
「ありがとう! 必ず天衝種は倒してみせるよ……!」
 そしてメイはレオンハルト達に声を張り上げるものだ。彼らには倉庫の防衛に注視してほしい、と。然らばレオンハルトは、自身に近付いてくる狼などは相手にしつつも倉庫側へと布陣するもの。
 同時にサクラは巨狼達へと斬り込む。此処で退けば、後ろには倉庫しかないのだから。
「通させないよ。どうしてもって言うなら私を倒してみるんだね!」
「此処にお前達の必要とするモノはない。全て、鉄帝の為に使われるべきなのだから」
 故に奮戦する。幾つもの牙が襲い掛かってこようと、一切退かず臆さず。
 直後にはジョージも狼を殴りつけて踏みとどまるものだ――
 ラルグは殲滅し終えた。ならば後は地上の者達だけだ、と。
 ――激突する。
 連戦状態であるイレギュラーズ達には疲労もある程度蓄積しており、傷も見える。
 されど押し込む。ラルグの数を早期に減らせていたのが功を奏したか、戦って来た総数はともかく、敵の数との差は常にそこまで大きな差はないのだから。
「よし! 行こう、マリ――!
 ボクらが食糧と線路を確保すればたくさんの人々の命が救えるんだ!」
「無論であります。必ずや――勝利を」
 だからこそ踏み込む。セララやハイデマリーも、だ。
 此処の食料は、これから来る冬の為に使われるんだ。
 だから――頑張らないとね!
「鉄帝の皆のためにれっつごー!」
『――ガァァ!!』
 往く。狼らが強靭なる爪や牙を用いて此方を喰らわんとしてくる、が。
 その動きを害する形でハイデマリーの一撃が紡がれた。
 彼女の射撃が狼の首筋に放たれたのである――思わぬ痛みに狼は顔を歪め、そして攻撃の意志が若干に薄れる。然らばセララはその一瞬の間隙を――決して見逃しはしなかった。
「必殺! セララ&マリー・ライトブリンガ――!!」
 それは必殺技――と言っていいか分からないが。
 ハイデマリーとの合わせ技だ。息を合わせた一撃は防を崩して撃を叩き込む。
 たかが天衝種如き魔物が耐えられようか――絶叫と共に、魔が朽ちていく。
 ……さすれば後はもうイレギュラーズ達が押し込むだけであった。
 数の優位が完全に崩れれば精鋭たるイレギュラーズ達にどう押し勝てようか。
 やがて趨勢は決する。最後の狼が倒れ伏せば――周囲には別の敵影も見えず。
「ふぅ。やりましたね……! さ、後は備蓄されている食料のリストを作っておきたいですね。あっ、ドーナッツはないと思いますが……」
「あぁ。しかし随分と多いものだ……これは目録代わりに、カメラで撮影し、後にサングロウブルクで纏めた方が早いだろうか。これだけ数が多いと、リストにするのも一苦労だろう」
 然らば帰還する前に、とリディアやジョージは物資の確認を行うものだ。
 確認は後で詳しい者に任せれば映像だけでも十分だろうとジョージは動き、各地を撮影していく……後は、念のため敵が来たと思われる方角を観察しておこうか。敵影の類は確認できないが……万が一、と言う可能性もあるが故に。
「ではひとまず回収できる量の食料を馬車に積み込みましょうか。
 後はそれから……次に訪れるまでに怪物に襲われないように隠蔽を施すのも忘れずに」
「そうだな。物資周りを荒らしに来る輩がいないとは限らん。些か工作をしておくか」
「いいよねレオンハルトさん? カモフラージュしても」
「ああ構わんよ。むしろ助かるものだ……我々も手伝おう」
 続いて玉兎に愛無、そしてサクラは倉庫自体の隠蔽工作を行わんとするものだ。特に、野生の魔物も近くにいるのであれば……匂いの類も消しておいた方がいいだろうかと愛無は思考する。持ち前の技能で手際よく進めて行けば――見つからぬ程度に施せただろうか。
 新皇帝派や他の天衝種に見つからぬ様に、として。
「うむ。今回は実に助かったイレギュラーズ……感謝する」
「あ、マリーのパパさん! あのねあのね、これどうかな! ボクとマリーの大活躍が乗ってるよ! で、これを使ってさ……市民に食糧を配るついでにこんな戦闘があったんだよ、って配給係の人に宣伝して貰ったら帝政派の求心力が挙がるんじゃないかな。どうかな?」
「ふむ――成程。それは良い手段だな。
 分かった、サングロウブルクに戻り次第、至急執り行ってみよう」
「え、あの、えっ      えっ?
 あの。世の中にはプロバガンダの英雄譚の必要性があると存じてはいますが、しかし」
 と。イレギュラーズの数多の支援にレオンハルトが感謝を伝えれば、セララが何か手に持っている……これは、彼女のギフトにより作り出されたコミックか……! 成程中々迫力のある形に仕上がっているものだ。
 興味深げにページをめくるレオンハルト――の背後ではハイデマリーがあわあわと。
 ……いや、その、なんというか、魔法少女で宣伝されると……あぁ、そうだ、魔法少女正式に部隊になってるからこれちゃんと軍務してるんであります。つまりこれは軍務の一環としてちゃんと必要な事であります。詰んでる、詰んでいるであります――どうしてこうなった!!?
 レオンハルトがページをめくるたびに頭を抱えるハイデマリー。
 ――が。まぁひとまずサングロウブルクに帰還しようかと歩を向けるものだ。さすれば。
「……ボーデクトン奪取の作戦、絶対に成功させなきゃね」
「ああ。あの地を奪還できれば――帝政派の動きもより大きくなるだろう」
 そしていずれは帝都に、と。サクラの言にレオンハルトは紡ぐものだ。
 まだ鉄帝は混迷の中だけど、暗雲を斬り裂いてみせるよ。
 いずれこの国にまた、安寧なる光を――齎す為に。

成否

成功

MVP

恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者

状態異常

リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)[重傷]
木漏れ日のフルール

あとがき

 依頼お疲れさまでしたイレギュラーズ!
 この地の食料はやがて冬に対する備えとして使われる事でしょう――
 それもまたボーデクトンが制圧されてから、になるでしょうが。ともあれありがとうございました!

●運営による追記
 本シナリオの結果により、<六天覇道>帝政派の生産力が+5、求心力が+5されました!

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