PandoraPartyProject

シナリオ詳細

全てはその拳に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ────喉の渇きより苦痛を覚えていた。
 その男は物心ついた頃から武道に生きていた。男の家は代々、闘士を育てる名門であり鉄帝の中でも誉れ高き闘技者を何人も世に出す程だったのだ。
 そんな男が輝かしき道を違えたのは齢十二の年。
 父親含め門下生達と揉めたのと同時に十数人を闘士として再起不能にした事で破門とされたのがきっかけである。
 家を追い出された訳ではなかったが、男は若くして自分の居場所は此処ではない事を悟り。独り鉄帝の過酷な『外』へ旅に出た。
 自身の生きる国が如何に『力』に生きているのかを知り、自身が如何に弱いのかを理解した。
 男は自分に残されていた『選択肢』が強くなる事しかない現実を知った。
 己が求めて止まない渇きとは何なのか、男は遂に理解した。

 時は流れ、現在。
「ヌッゥゥゥウン!!」
 人が紙切れの様に宙を舞い、果実の様に血潮を溢れさせ地に墜ちる。
 怪力、怪腕。紫電散らす逆間接型の機械脚の男は、かつて過酷な旅へ出た少年その人だった。
 武装など要らぬとばかりに拳を構え、脚を地表で滑らせる。ユラリと動けば恐るべき機械脚か拳による強烈な一撃を与えるだろう。
 男を包囲する兵士達は攻めあぐねる。
「ヒャッハァァ! まだまだこっちにもいるぜぇぇ!!」
「オラオラァ!!」
「兄貴にばっかタカってんじゃねえぞゴラァ!」
 しかし、敵は。賊は他にもいた。
 恐るべき強さ。しかし徒手空拳の男八人は己が恵まれし身体能力か、磨き上げた武によって武装した兵士達を瞬く間に制圧していった。
 次々に倒れ行く兵達は自分達も相応に鍛え上げた武人だと自負していた。その筈だった。
 だが突如として彼等が常駐する村を襲った男達は信じられない強さで蹂躙して来たのだ。
「村の人間は一人も逃がすなよ。兵舎を探索する時は細心の注意を払え、兵の生き残りが居たら殺せ」
「了解兄貴!」
 兵達を蹴散らした首領の男は空を見上げる。
 曇天だが、彼の気分は晴れやかだ。これから始める事を思えば、男にとって永き旅が終わると思えば。これ以上ない喜びが胸の内を満たして行った。

 村を占拠した後。男達は最後の『仕上げ』に取り掛かる。
 とある者達を、誘い出す為だけの仕込みだった。
 

●緊急出動
 少しだけ、いつもと様相が違う事に気付いたのは勘の良い者だろう。
 『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)が卓に着いた時、イレギュラーズは一瞬の空白を覚えた。
「ゼシュテル鉄帝国のある西方領にて起きた騒動の解決に当たって下さい」
 彼女は静かにそう告げた。
「一体何が?」
「とある村を占拠されました。近辺に古代遺跡がある事から元々兵士が常駐していたのですが、全滅。一人も残らず抹殺されています。
 領主はこれを討伐すべく動こうとしていましたが、村人を人質にされた上に遺跡に関する貴重な新規調査報告書を交渉材料にされ、中断。
 相手は非常に狡猾な戦闘集団であることが予想されます」
 ミリタリアの手に持つファイルから幾つかの写真や数枚の資料が回される。
 資料以外に渡されたのは、転写された羊皮紙の文面である。記されているのは『人数ハ8人、ツワモノ求ム』という内容だった。
 なんだこれは? と数人が顔を上げたのを見て、情報屋は頷いた。
「今回、依頼人にローレットを呼ぶ事を要求したのは他でもない敵側です。
 詳細は不明ですが、相手の望みはイレギュラーズとの果し合いということでしょう。罠が無いとは言い切れませんが、
 領主による事前調査では村に現存する集団の数はこちらへ指定した数と同じく八人。全員が丸腰だったとの事です」
「村の屋内に伏兵がいる可能性は?」
「ある程度の索敵スキルでサーチ済みです、伏兵の存在は無いでしょうが武装や戦法の詳細は不明です」
「分かってるのは数だけか……」

「相手に人質を取られている以上、皆様にはこれに挑んで頂くしかありません。腕に覚えがある、あなた方の力が必要なのです」

GMコメント

 ちくわブレードです、宜しくお願いします。

 以下情報

●依頼成功条件
 村人への巻き添えが出ないように敵を全滅させる

●情報精度C
 不明な点が多く、不測の事態が起きる可能性があります。

●完全武闘派集団
 戦力:八人
 あくまで調査で判明しているのは人数、そして確かなのは手強いという事実のみ。
 イレギュラーズに迫る程の使い手が集結しているのは間違いないでしょう。
 村の外に棄てられていた兵達の死体を調べても、『多段の打撃痕』『両断された形跡』『反撃した形跡が無い』等といった所から予想するしかありません。
 これだけ用意周到だった相手がいざ尋常に勝負という流れになるのかは分かりませんが、村人へ巻き添えが出ないように戦闘を行うしかありません。
 万が一人質を盾にされるような事態になった場合、範貫列等の範囲攻撃に巻き添えを受ける者が出る可能性があるからです。
 情報精度が低い事もあり、何が起きても対処できるような戦闘隊形とプレイングが重要になるでしょう。

※アドリブ、戦闘スタイルの記載
 アドリブ可等の記載があると展開に応じて何かしらあるかもしれません。
 また、戦闘スタイルの記載もあると映えるかもしれません。

 以上。
 皆様のご参加をお待ちしております。

  • 全てはその拳に完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年09月12日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

テテス・V・ユグドルティン(p3p000275)
樹妖精の錬金術士
ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
大悪食
銀城 黒羽(p3p000505)
河津 下呂左衛門(p3p001569)
武者ガエル
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
Briga=Crocuta(p3p002861)
戦好きのハイエナ
ノエル(p3p006243)
昏き森の
アナスタシア(p3p006427)
コールドティア

リプレイ


 馬車を下りた一行へ兵士達は「健闘を祈る」とだけ伝え、直ぐに引き返して行く。
 巨大な崖の様に聳え立つ古代遺跡以外にあるのは閑散とした雰囲気の村しかない。ひび割れた土地には草も生えていない様だった。
「用が、あるなら、ふつうに呼べば、いいのに……なんの用、だろう、ね?」
 無表情のままに首を傾げる『孤兎』コゼット(p3p002755)は首を傾げる。
「村一つを人質に取って要求がツワモノ8人か、目的のためなら手段を選ばないのは好感が持てるな」
「村とは言え、兵士をいとも簡単に倒してしまうのなら、相当な手練れなのでしょうね。怖いです……」
 『樹妖精の錬金術士』テテス・V・ユグドルティン(p3p000275)の言葉に俯き胸元をきゅっと握る『コールドティア』アナスタシア(p3p006427)。
 『武者ガエル』河津 下呂左衛門(p3p001569)は訝し気に喉を鳴らした。
「人を殺めてまで拙者達との戦いを望むとは、ローレットに深い恨みでもあるのか、腕試しのつもりか」
「くそったれめ、面倒なことしやがって」
 『暇人』銀城 黒羽(p3p000505)は歯噛みして、敵が自分達を待ち構えているであろう村を睨む。
 彼等イレギュラーズに与えられている依頼は唯一にしてシンプル。
 これから見合う敵を、倒すのだ。

●退かず。
「貴方達の望み通り、キッチリ8人で応じました。村人達に危害は加えていないのでしょうね?」
 イレギュラーズを迎えたのは黒髪の逆間接型脚部の男だった。男の傍には金髪の男が追随し、睨みつけている。
 その視線を涼やかに流して、『昏き森の』ノエル(p3p006243)はリーダー格らしき男に人質の解放を中心に交渉を望んだ。
 横並びに立つ男達とイレギュラーズの視線が交差する。男達のすぐ後ろで並べられている人質らしき村人達はその様子を不安そうに見ている。
 ノエルや下呂左衛門、黒羽の三人は村人達が奥の集会所に集められているのを聴き取る。怪我人は、今はいない様だった。
(……遠くの屋根上からこっちを視てるでござるな、しかしあれは村人。持ってるのは箒? ブラフのつもりでござろうか)
 並外れた視力で捉えた光景に下呂左衛門は目を細める。
「要求に応じた事には素直に感謝を……俺達の目的はお前達を破る事だ。悪いとは思わないが、ここで死んで貰う」
「ならば戦闘の前に村人を解放、もしくは戦闘中に危害を加えない事を望みます。
 人質へ危害を加える可能性があれば目の前の戦闘にも集中出来ませんから。私の言っている事、間違っていますか?」
 動じずに要求するノエルに、リーダーの男は首を振った。
「村人は解放しない。我々を倒して勝手に連れて行けばいい」
「解放しないというならテテス達は貴様達に全力を向けることはできないだろうな」
 観察し、或いは音を聴き取り、罠探知や直感の類を持った者ならば気付いただろう。
 男達の腰元のベルトから伸びる視認し難いワイヤー、それらは全て後方で立たされている村人に繋がっていた。長さは6m程度。恐らくは至近の間合い、盾にするつもりなのは明らかだった。
「ならばそれが『特異運命』とやらの限界というわけだ」
「うぅ……っ」
 リーダーの男が一歩進み出ると、背後で立っていた村人の一人が両手を引かれて呻く。手首に見える痣が痛々しく映る。

「老いて死ぬは。病で朽ちるは耐えられぬ」
「……なに?」
 『双色の血玉髄』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)、彼女の声がやけにハッキリと響いた。
「習い覚えた技を。磨き上げた力を。振るわずただ死ぬは耐えられぬ。願わくば敵を。叶うならば命賭けるに相応しい敵を──
 僕はそう思って生きてるけど。君は? こんな『回りくどい事』しなきゃ “真剣勝負” できないと思われてるのかな?
 失望させてくれるな。僕は戦いに来た」

 静かに宣言するヴェノムの言葉を、果たしてチンピラ同然の者もいる男達はどう受け止めたのか。
 イレギュラーズ側の面々がいずれも強面とは程遠い容姿だった事で、彼等は忘れていたのだ。今この場に居るのは彼等自身が求めた『強者』なのだと。
「……いいだろう」
 最早それ以上の交渉も、言葉も、不要。
 男達全員が一斉にベルトを引き千切り放り捨てた瞬間、幾つもの雄叫びが上がり大地を踏み砕いて跳躍した。
 視界が反転する。躍り出た複数の男達と真っ先に衝突したのは『戦好きのハイエナ』Briga=Crocuta(p3p002861)だった。コゼットへの飛び蹴りを真っ向から拳で打ち払いに行った彼女は獰猛に笑って見せた。
「回復役がいないか……ククッ、久々に刺激的な戦いになりそうだなァ?」
 中空で仲間のアップを受けた後続の鉄騎をBrigaは外骨格が軋むほどの勢いでカウンターを決め、顔面に拳が突き刺さった男が砲弾の様に飛ばされる。
「……!!」
「倒れるのが早いか倒すのが早いか……拳で決められるなンて、分かりやすくてイイじゃねェか!」
「ヒャッハハァア! 上等だ女ぁ!!」
 機械腕のラッシュに応じるBrigaがチラと味方へ目配せをする。
 同時だ。敵もならず者が八人いるわけではない。
「右舷、後衛を。左舷から車椅子の女を。正面は……好きにしろ」
 リーダーの男は歩を進めようとして、その脚を止める。彼の眼前に飛び込んで来たのはコゼット、少女だった。
 見た目は関係ない。彼女が薄氷のナイフを取り出した瞬間、男の逆間接型脚部に紫電が纏う。
 誰も彼もが退かず、進む先には闘争しかない。
「行くぞ」

●鉄の拳、鉄の魂。
 衝撃波を撒き散らして衝突したのは金髪の男とヴェノムの二人だ。蒸気噴き出す機械腕から繰り出される殴打は技術無くとも確かに鋭く、また重い一撃はそれだけで充分な威力を持った武器だった。
「俺はゲェラだ! 兄貴の舎弟の中じゃ俺が一番つええ! 分かったかゴラァ!!」
「戦士に相応しければ覚えておいてやる」
「だったら全員の名前を憶えてからあの世へ逝きなァ!!」
 対するヴェノムは機械剣を足元へ叩き付け、爆風で後退しながらゲェラの突きを躱す。
 耳元を裂く拳圧はヴェノムが躱す度に風を巻き起こし、素早いステップで距離を取ろうとする彼女を追い詰めていく。
 口ほどにもない、と男は笑う。しかし、ある程度移動した瞬間ヴェノムが彼の肩口から何かを見て、突如それまでの防戦一方だったスタイルを変異させた。
 身体を起点に振り回された機械剣がゲェラの連打を次々に打ち落とした直後、ヴェノムの瞳が妖しく揺らぎ、男の脇腹に無数の牙を突き立てた。
「が、ぁ……ッ!?」
 それは彼女の背から伸びた触腕だ。蠢く怪物はさながら魔物のそれと変わらぬ威容で男の腹に喰らい付いていたのだ。
 動きの止まったゲェラの胸元へ機械剣の柄が添えられた刹那。カキン、と軽い音が鳴ったのと同時に男の巨体が爆発の反作用で吹き飛んでいった。
「笑うにはまだ早かったな」
 ヴェノムが呟き、その場から一気に飛び退く。
「ちぇあぁぁあああッ!!」
「ムゥゥ……!!」
 ヴェノムが退いた所へ飛び込んで来たのは、二人がかりの連撃……否。鋭く磨き抜かれた鉄騎武人の手刀は文字通りの刃となって下呂左衛門を襲っていた。
 大太刀へ自身の体格、体重の全てを乗せて振るい、瞬きの間に無数の火花を散らしながら彼等は斬り合っている。
 回し斬りを回し受けで、叩き付けを切り上げで、袈裟斬りを手刀で迎え撃つ。
「やあやあ我こそは『井之中流』河津下呂左衛門! 遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!!」
「なんとォォーー!!」
 下呂左衛門の全身から迸る闘気は形を変え、鎧となって彼の身を覆い隠す。眼帯の男がその姿に驚き肩口から噴き出す鮮血と痛みを忘れる為に咆哮し、下呂左衛門と打ち合う。
 そこへ突っ込んで来たヴェノムがもう一人の敵を触腕で掴み、振り解かれるその一瞬で頭上へ飛び付いて機械剣の柄で脳天を一撃した。
「もう大丈夫……村人の方は、わたしが守ります!」
「了解、任せたぞアナスタシア」
 遥か後方へ駆け付け、巻き添えを食わない様に護衛しながらアナスタシアが魔弾を撃って叫ぶ。応じるテテスは車椅子を揺らし、その手の中から魔力を編み出し鋭利な糸となって戦場を駆け抜ける。
 向かうは、Brigaが相対する黒装束の男。ノエルが挑発射撃をする事でまんまと戦場の端から狙って来ていた者が炙り出されていた。
 糸は絡み付き、全身を切り裂く。
 Brigaがその隙を突いて一気に跳び、奇襲攻撃に特化した暗器が仕込まれた細腕の間接を決めて壮絶な音を奏でて砕き折った。
「~~!!」
「オリビエ! く、こっちが相手だ特異運命座標ぉ!」
 腕を折られた仲間を見て逆上した初老の男が一気に距離を詰めてBrigaの懐へ飛び込む。クロスカウンターが互いを殴り倒し、左右へ吹き飛ぶ。
 粉塵が視界を塞ぐ。だが、それすらものともせずに男達は全身から汗を迸らせて特攻する。
 それが悪手とも知らずに。

 ────刹那。一条の矢が二人の男を深く、強かに抉り貫いて射抜いた。
「……っハぁ……ッ?!」

 機を伺い、それまで味方のサポートをしながら位置取りに動いていたノエルによる狙撃。彼女の弓から放たれた一矢は致命的な一撃でもって二人の戦士を落とした。
 次に狙い、矢を番えた先に見るのは黒羽の相対する者達だった。
 銀髪の全身が駆動金属になっている『双子』は黒羽の挑発に激昂していた。
「ほれ、手を出さねぇでやるからかかってこいよ! ひよっこのガキどもが……!」
 二本の釵を逆手に持ち替え、左右から繰り出される手刀による突きを捌いては片方の懐へステップで滑り込み、挑発的に嗤って見せる。
 火花が散る最中に混ざるのは彼自身の鮮血だ。全ては捌き切れず、躱し切るより前に次々とその身に殴打を受けて行く。
 しかしそれは効果的でもあるだろう、『双子』の役割は本来その連携で翻弄し大技を叩き込む事に真髄がある。口の端から流れる血液を拭い黒羽は眼前に振り下ろされた踵落としを刀身で受け止める。
「シャァアアアア!!」
 表情を崩さぬ様に努める彼の思惑は成功していた。中々倒れない黒羽と、ノエルが自分達を狙っているのに気付いた双子は焦燥から全力で攻撃に力を籠めていた。
 釵が吹き飛ぶ。瞬間、がら空きになった黒羽の胸元へ一対のコンビネーションが全て直撃した。
 凄まじい音が鳴ったそこへ突き刺さるのはノエルの狙撃だ。
「よくやった黒羽。……テテスも黙って見ている訳には行かないな」
 空気を切り裂く音が連続した後、乾いた炸裂音と共に双子の片割れに糸が絡み付いた。ギシリと鳴る金属音。水平に伸びた魔力糸はその身を切り裂かんばかりに引き絞られるが、雄叫びが上がる。
 呪縛拘束を弾いた双子がテテスを睨む。
 だが、それを邪魔する様に彼等の後頭部へ魔弾が飛来し仰け反らせ、次に再びノエルの狙撃が、再度アナスタシアからの魔弾が連続して粉塵が撒き上がる。
 轟音と共に白い柱が立った瞬間、カラカラと車椅子が駆ける音が鳴り響く。
「隙あり、というやつか」
 両手を胸元で合わせ、その中から黒井瘴気が噴き出す。それは魔力糸とは全く違う呪術の類。猛毒の霧が爆風の如く双子の方へ押し寄せて包み込んだ。
(次のターンであの二人は倒せる筈、後は……リーダー格の男でしょうか)
 アナスタシアへ手を振り、ノエルは視線を巡らせる。
「隣失礼」
「応、まだまだ行くぞオラァ!!!」
 視界の先ではヴェノムとBrigaが下呂左衛門と共に、ゲェラと二人の男を相手に立ち回っているのが見える。
 更にその先では。
「……! まさか……」

●誰もがその拳に握っている物
 地を這う様に駆けるコゼットはリーダーの男と対峙する。
 躍り出る目の前で紫電が散った瞬間、咄嗟に跳躍した彼女の足元を電流を帯びた一閃が走る。
 直撃を免れた小駆が刻むステップと共に残像を残し、地を蹴った彼女が手中に握った氷の刃を縦に振り下ろす。
 氷が砕け散り、微かにその中に鮮血が混ざる。腕で防いだ男は静かにコゼットを見る。しかし既に其処に姿は無く、頭上を飛び越えた兎が背後から幾つもの斬撃を浴びせる。
「向こうの、村人が集まってる、ところ、から……敵意を感じる。あれは、味方?」
 滑り抜ける彼女を襲う後ろ蹴りを逆手に、いなすと同時に氷の刃が砕け散り、その度に鮮血と氷結晶の残滓が尾を引いて。
 コゼットは男の攻撃を未だ一度も受けず、的確に、微々たる物でも強かに傷を増やしていく。
 兎が宙を跳ね回る。
 正面から受ける事はしない。コゼットの戦闘スタイルは小柄な体躯を最大に活かしたヒット&アウェイだ。それも常に至近を保った、今彼等以外にこの場を邪魔する者が居ないからこそ成立する戦いだ。
 突き出された拳に薄氷のナイフが添えられ、カウンター気味に切り裂き。少女の頬を拳圧が同じく切り裂く。
 互いに冷たい表情のまま。
「戦いたいんなら、戦って、あげる
 死にたいんなら、殺して、あげる」
 その後に続いたそれは、未だコゼット自身も体験していない程の全力の攻防だった。
「ねえ……あなたは、なにがしたい、の?」
 振り抜かれる拳が土砂を撒き上げる。衝撃から生じる礫の散弾をコゼットは外套を犠牲にして逃れ、黒髪揺れる男の背中へ激しく切り付けた。
 その手応えはまるで鉄そのもの。どれだけ鍛えればそうなるのか、彼女には想像もつかない。砕け散る氷は辺りに白銀の霧を漂わせる。
「越える。『個の強さ』では届かない物があると、俺はこの戦いに勝利して示したいのだ……ッ!」
「……だれ、に?」
 一瞬の空白に男は応えた。
「“自分”にさ」
 直後、コゼットが跳ねて男の顔面を蹴り飛ばす。同時に一閃される氷の刃が砕け、紫電纏う横薙ぎの蹴りが直撃せずとも風圧で少女を吹き飛ばした。
 飛ばされた勢いを利用して反転し、再び前へコゼットは飛び出す。
 男は先読みした。鉄拳は確かにコゼットを見切った。次の一歩を踏み出せば彼女に機械脚が突き刺さり、華奢な体躯を真っ二つにするだろう。
 しかし、その前に男は反射的に体をくの字に折って体勢を崩しながら後退“させられた”。
「……!?」
 コゼットが前へ出た瞬間に脚で折った薄氷の刃が再生成されるその時、宙に色濃く漂っていた残滓によって刀身が長さを増していたのだ。
 胸元を切り裂かれ鮮血が噴き出す様を見た男はコゼットを見て微かに笑う。
「それなら、あたしは……あなたを、越えるよ」
 倒れ伏せた無名の男へそう告げたコゼットは、その身に余る疲労が押し寄せ、同じく力尽きたように倒れるのだった。

 逆上した男が村人を護衛していたアナスタシアへ走った事に、危うく彼等は気が付かない所だった。
 黒装束の男、オリビエ。もしイレギュラーズ側に二人もの知覚能力に優れた者が居なければ、この時間違いなく神の賽が投げられる事態になっていたであろう。尖兵にして伏兵の戦士。
 しかし、ノエルは常に戦場を俯瞰していた。ゲェラ達が自らを狙い始めてもだ。
 ノエルの目配せに気付いたテテスは、即座に進路先を阻む様に猛毒の霧を放出した。
 そしてその直後、ヴェノムの機械剣とBrigaの拳が男の胸元を貫き絶命させたのだった。
「……馬鹿が、人質を盾にしようとするなって言ったろぉぉがぁ……」
 満身創痍のゲェラが掠れた声を漏らす。
 見渡せば……もう既に彼しか生き残っている者はいなかった。首領さえもが、彼より先に逝っていたのだ。

「……もう、投降してください。あなた達は、何を求めているのでしょうか?
 ここを自身の終わりにするつもりなのですか……? 
 わたしは、生きて欲しい。やったことは許されるわけではないけど、それでもここで終わらせたくはありません」

 フラつくゲェラへ近付くアナスタシアは、彼だけでもせめて。と思う。
 しかしそれに対して彼は首を振った。
「ここが終わりなんじゃねえ……! 俺達は、兄貴の未来を見たくてついて来ただけの……亡霊だッ
 兄貴はなァ、すげぇ強いのに頭が良いんだ……なんかよぉ、俺達鉄帝人は強いだけじゃだめなんだって言ってたんだ、
 だがてめーらみたいに、群で強いだけでもだめなんだ……おれ達は。それを見出す事が出来るって、兄貴は言ってた。『可能性』を越えたもんが……」
 瞬間。彼は倒れ伏せると見せかけてヴェノムへ殴りかかる。
 ……斬撃、そして鈍い音。寸前に見切っていた下呂左衛門が居合抜きで斬り、続いてヴェノムがゲェラの拳を受け止めて分厚い胸板を触腕が貫いた。
「……ッ……」
 今度こそ、彼は倒れていく。
 冷たいひび割れた地面に、男達は皆己が命を散らせて逝った。

「善悪の是非はさて置き、迷いの無い生き様というのは羨ましくもあるな。拙者などは迷い続けた挙句、生き恥を晒しているようなもの故」
 誰も彼もが退かなかった。その過程と結末にどれだけの死が在っても、内に秘められた物は尊ばれるべきだろう。
 それは誰もが拳の中に握り締める、手放せない物だ。
 ヴェノムは最後まで執拗に自分と戦おうとした男の骸を見つめ、それから他に名前がついぞ知る事も無かった男達を見渡した。
「戦士に墓は要らぬ。負けて地に伏せば其処が墓よ。残す物など何もなく。路傍で死ぬは本望なり。故に名前は問わぬ。
此奴らが『戦士』に相応しい者ならば、覚えておくさ」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

コゼット(p3p002755)[重傷]
ひだまりうさぎ

あとがき

依頼は成功となります。
お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。

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