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シナリオ詳細

<最後のプーロ・デセオ>奔れ、望む者の為に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「……状況は一刻を争う」
『ローレット』の内部は忙しない。その理由を知っている特異運命座標達は、鬼気迫る表情となった情報屋の少女に対して瞑目を以て返答とする。
「新型肉腫である『瘴緒』を介した内通工作、更に竜宮の乙姫メーアを自身らの傀儡へと堕とした敵方は、真の意味で悪神であるダガヌの復活を目論んでいる。
 若し仮にこれが成った場合、単純に悪神の復活と言うだけではなく、その余波によって封印の地である海底火山が大噴火を起こす……要は竜宮を始めとした大規模な災害が巻き起こるだろうな」
「だが、食い止める方法は存在する。そうだよな?」
 問うた特異運命座標に対し、今度は情報屋の側が視線だけで是と返した。
「自身の心象を対価として乙姫の力を継承したマール・ディネー。彼女は昨今まで失われていた竜宮の加護を取り戻し、更にこれまで集められた竜宮幣の力を励起させてダガヌの『神核』を表出させた。
 大局的に見て、戦況は私たちの劣勢にある。だが今この時に限るのであれば――」
 それ以上の言葉を、特異運命座標達は必要としなかった。
 状況は正に乾坤一擲の間際。その一助となるべく集まった彼らを前に、情報屋は静かな口調で依頼の説明へと移る。
「貴様らに向かってもらう場所は、ダガヌ海域に存在する……通称ディンギル岩礁地帯と呼ばれている場所だ」
「洋上戦か」
「そうでもあり、そうでもないと言える」
「何?」
「ディンギル岩礁地帯もそこそこの広さを有しているが、此度貴様らが向かう場所は竜宮の加護と悪神ダガヌの力が拮抗している影響で大規模な干潮と満潮が極めて短期間に繰り返されている。
 露出した岩礁地帯による陸上と本来の洋上。フィールドが頻繁に移り変わる場所だ。移動、戦闘ともに苦戦を強いられるだろうな」
「……敵は?」
 そのような場所に存在する敵勢力が如何なる存在か。そう問うた彼らへと、情報屋は続き淡々とした様子で声を発した。
「海賊集団、海乱鬼衆」
「……この状況下で火事場泥棒か?」
「まあ、そう考えるのも無理はないが……今回は違う。
 彼奴等は今現在、少なくない量の竜宮幣を抱えて悪神ダガヌの元へと移動している最中だ」
「……。それは」
 どう考えても、碌な目的ではない。
「竜宮幣はその用途として、女王が巨大な力を行使するための媒体『玉匣』の実質的な燃料に挙げられるが、それ自体が純粋なエネルギー体である以上、使う者が使えば悪用も不可能ではあるまい。
 事実、現時点に於いても悪神ダガヌはその力を介して竜宮幣を媒体にダガヌチと呼ばれる怪物を顕現させているらしいからな」
「目的は何であれ、易々とくれてやって良い代物じゃないと」
「無論だ」
 情報屋によると、敵の数は合計で10人。何れも小柄であり、また水中で活動する適正も有している為、干潮時、満潮時共に発見は容易ではないと推察される。
 その分敵の攻手は薄く、防御は更に薄い。「当てれば易い」を体現したような敵に、特異運命座標達は索敵と攻撃精度に重きを置いた作戦を早速考えるが、
「生憎、此方も過度な……否。大前提として『攻撃そのもの』が禁止されている」
「は!?」
「理由は簡単だ。敵方が運んでいる竜宮幣は粗末な麻袋に包まれた状態にある。
 若し仮に運び手である敵が攻撃で倒れた際、持っている竜宮幣はどうなる?」
 ――最悪、その場で戦場全体にまき散らされる。
 ましてや、戦場は潮流が不安定な岩礁地帯である。若し仮に散らばった竜宮幣が流れた挙句悪神ダガヌの元へとたどり着けば、最悪大量のダガヌチの生成が成されることは想像に難くない。
「つまり、行動阻害系の状態異常で封じろと?」
「或いはマークやブロックで挟み撃ちにするなどが挙げられるな。これで相当厄介な依頼であると理解できたか?」
 ……戦場は隠れ潜みやすい岩礁地帯であり、敵は逃走と隠形に適した相手。
 それを攻撃することも叶わず、捕縛のみで済ませろと言うのは……成る程、確かに厄介極まりない。
「それでも、彼奴等の『輸送』を許せば、行き着く先は悪神ダガヌに因る地獄の顕現だ。
 食い止めろ、イレギュラーズ。数多くの悲嘆と慟哭を望まないのであればな」
 臨む情報屋の瞳に対して、否やと返す者は居なかった。


 ――――――疾る。
 岩を駆け、水面を駆け、時として空すら駆け、我らは疾る。走る。奔る。
「アヤ、追跡は?」
「近くに敵は居ないけど、遠くまでは分からない」
「然様か」
 食うに困った群れであった。
 悪意を良しとせず、さりとて善意を信じることも出来ず、他者に迎合することも敵対することも出来ぬ彷徨者(さまよいびと)であった我らは、それでも平穏に暮らすことが出来ていた。
 あの日、あの時を迎えるまでは。
「ツクシ、ヒメ。念のため距離を取れ。広範囲の業に巻き込まれれば仕舞いぞ」
「はいな、おじ様」
 最初に、里から一人が消えた。
 二人が消え三人が消え、軈て百を超えていた我らの里に残るのは十に至らぬ数となっていた。

『消えた家族を取り戻したいか。悪神の贄とされることを拒むか。
 結構。ならばそれに値する献身をお前たちに期待しよう』

 シレンツィオ全体に広がっていた『夢遊病』。その被害に遭い、失踪した里の仲間たちを救いたければ、我らに与せよと彼奴等は言った。
 抗う力も持たず、我らはそれに従うことを強いられた。それがどれほどに望まぬ行いであろうとも。
「……アカ」
「おじ様。何時でも」
 最後の関門。インス島へと向かう我らの進路上に在るディンギル岩礁地帯には、やはり懸念した通りの敵が居た。
 イレギュラーズ。この世界の救済の為に在る英雄たちの姿を前に、我らは。

「――――――散れ!」

 我らは、しかし、救いを乞わない。
 敵に降った今、更に彼らに服する浮薄など、『飛魚』の民には許されぬのだから。

GMコメント

 GMの田辺です。
 以下、シナリオ詳細。

●成功条件
・『飛魚』6名以上が有する竜宮幣の確保

●失敗条件
・戦闘開始時点から一定ターンの経過(=『飛魚』の逃走)
・『飛魚』が有する竜宮幣が「6つ以上確保できない状態」となること(下記参照)

●戦場
『ディンギル岩礁地帯』
 フェデリア島近辺に位置する岩礁地帯です。時間帯は昼。
 悪神ダガヌと竜宮の加護と言う二つの大きな力が拮抗している影響から、現在この地帯では大規模な干潮と満潮がごく短時間ごとに何度も繰り返されています。
 それぞれのフィールドの説明は下記。

・満潮時:飛行、水上(もしくは水中)活動系のスキルやギフト、装備がない場合、あらゆる行動に大幅なペナルティを受けます。
・干潮時:陸上扱い。屹立した岩礁が身を隠せるレベルの障害物として多数存在しており、地上、空中共に目視を始めとした索敵は非常に困難です。

 シナリオ開始時、戦場は満潮状態。下記『飛魚』は一定距離を保った横一列に展開しており、水中から参加者の皆さんをすり抜けようと考えている模様です。

●敵
『飛魚』
 豊穣の一角に隠れ住んでいた漁師の里の住民たちです。数は10名。
 彼らの故郷は元々は100名ほどが住まう里でありましたが、昨今の夢遊病騒ぎによって住民たちが失踪、悪神ダガヌの元へと向かっていったと推察されています。
 事実上の人質となった彼らを救うべく、残った里の人間たちは悪神ダガヌの配下である海乱鬼衆・濁悪海軍に降り、集めた竜宮幣を届けると言う取引の元住民たちの解放を約束しました。
 本依頼に於けるリーダー格は年嵩の男性、その指示に従う形で年若い少年少女九名が付いております。

 シナリオ内の説明ですが、戦闘開始時点で彼らは全員が麻袋に詰め込んだ竜宮幣を抱えて移動しており、参加者の皆さんはこれを回収することが目的となっております。
 これに際し、敵は体力と防御性能が非常に低く設定されており、尚且つ戦闘不能~死亡状態に追い込んだ場合、彼らが所持している竜宮幣はシナリオ上消失した(=成功条件に於ける「確保」が出来ない状態)扱いとなります。
 凡そ戦闘に関する能力やスキルは乏しい反面、状態異常への独自耐性と素早さ全般、また水中活動や隠身に類するスキル等を多岐に渡って有しております。

●特殊ルール『竜宮の波紋・応急』
 この海域ではマール・ディーネーの力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。



 それでは、ご参加をお待ちしております。

  • <最後のプーロ・デセオ>奔れ、望む者の為に完了
  • GM名田辺正彦
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年11月03日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
黒水・奈々美(p3p009198)
パープルハート
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方
シェンリー・アリーアル(p3p010784)
戦勝の指し手

リプレイ


 ――刹那だけ、その姿が見えた。
 初老の男性。それに追随するようにした年若い仲間たちが、待ち構えている自身らを目視した時点で水上から水中に飛び込み、その姿を海中へと覆い隠す。
「……『彼らを傷つけてはいけない』。ワタシもそうは思うけれど」
 ぽつり、呟いたのは『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)。
「これは、この想いは、ワタシのエゴイズムなのかもしれない」
 救える彼らと、救おうとする自身ら。
 その立場が決定するまでの道程は、その距離も内実も複雑だ。或いは自らが彼らと同じ側に立っていた可能性もあれば、彼らも自分たちと共に在ってくれる可能性だってある。
 ……何よりも。
「彼らは未だ、決定的な過ちを犯してはいない」
「『それ』だって、望んでやりたいわけじゃ無いだろうしね」
 苦笑交じりに、波飛沫が上がる戦場にて竜宮イルカに飛び乗ったのは『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)だった。
「人質を助けるためにとはいえ、やりたくもないことをさせられているっていうのは心が痛む。
 だから、アタシも彼らを傷つけたくはない。目的は竜宮幣の回収、犠牲は必要ないよね?」
 傍らの仲間に問うたであろう言葉尻に対して、「甘い」と、何処か呆れたような表情を浮かべるのは『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)である。
 実際、彼の胸中も理解できよう。此度の戦いが、今相対する相手の目論見が成就すれば、その些細な切っ掛けを以て悪神の顕現と竜宮の崩壊を招きかねないのであれば。
「里の仲間を救うためなら手段は問わない……気持ちは大いに分かるが、彼奴らの行いを見過ごせる訳が無いだろう。
 倒さない、傷つけない、依頼達成のためなら大いに結構だが――俺はあくまでも、奴らを『敵』として見なす」
 自身の得物が役立つ機会が無い依頼で在ろうと、抱える狙撃銃の感触を確かめつつ、アルヴァは『敵』の同行を探り続けている。
「ま、実際説得に応じる気はなさそうだな、ありゃぁ」
 ――「戦えねぇなら、話し合いで穏便に手渡してくれねぇか……と思ったが」。そう続けて呟く『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)の表情は、幾許かの落胆を含んではいる。
 言葉の理由は、情報屋から受け取った説明だけが全てではない。戦場に到着以降常に励起させ続けているスキル……感情探知から発される相手方のそれは、縁にとって巌の如き硬きそれをイメージさせ続けている。
 まるで、戦士のような。そうした覚悟を持った相手は、縁にとって好まざる相手ではない。それを殺害する必要が無いと言うのなら猶の事。
 ざらざらと自らのギフトから聞こえる声を無視し続けながら、縁は水面に自らの身を潜ませた。
「……うん、向こうにどんな理由があるにせよ、敵対するというのならこちらも本気で行くまでだ」
 水中へ潜った縁の言葉に対して、『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)もまた独り言ちる。
 手にする指輪を基点に言祝ぐ詠唱。適性の無い仲間へと斥力操作を施した彼の視線には僅かな同情、憐憫が込められており――それを自覚した時点で、彼はかぶりを振って思考を切り替える。
(人質を取られちゃってるのは可哀想だけど……それはそれ、これはこれ!)
 皆が皆、一様に意識を相手へと向き直しているとき、戦場の波が荒れ狂った。
 通常は長い時をかける潮の満ち引きが、凡そ何十秒かの内に起こり得る。岩礁はその形を露出させ、瞬く間に巨大な陸地を形成した『海辺』に、互いの姿が確認された。
「……幾度も変化する戦場、相手はそれに適し、あまつさえ追手から逃れる手段も潤沢。
 正直言って、これ程めんどくさい物は無いな」
 何処か困ったような笑顔を浮かべ、そう呟くのは『だから、守るのさ』解・憂炎(p3p010784)である。
 それまで乗っていた竜宮イルカを安定した岩場に横たえ、岩場へと隠れていった敵を前にして、それを追うようにして駆ける彼は、「それでも」と呟き。
「だが、やって見せるのが僕らイレギュラーズだ……!」
 彼我が、交錯する。
 或いは自らに懸けた、互いの強き思いが。


「フラーゴラさん、奈々美さん、反応は!?」
「……駄目、『薄い』!」
「こ、こっちも。意図して探知を潜り抜けてるわけじゃ、な、無いでしょうけど……」
 あらかじめ活性化していたエネミーサーチの効果を問うた咲良に対して、フラーゴラ、『パープルハート』黒水・奈々美(p3p009198)の反応は芳しいとは言い難い。
「自身に敵対心を有する者を探知する」、その効果は彼ら特異運命座標達を「回避すべき障害」として捉えている相手方には然したる効力を示してはいないようだった。無論全く探知にかからないと言うことは無いにしろ、得られる反応は極めて微弱で索敵と呼べるレベルには至っていない。
(彼らも被害者なのはわ、わかるわ……。
 でもそれはそれとしてあたしたちも事情があって、大事なお仕事なの……!)
 索敵と捕縛、その二者の内どちらかを分担している特異運命座標達のうち、専従している他方に然程の効果が見られなかったとしても、奈々美の戦意には些少の衰えすら見られない。
 それは自身の任務を果たすためだけではない。相対する彼らを「搾取されるだけの被害者」へと貶めないためにも。
「おまえたちが望むものはこの先にはない! 大人しく投降しろ! 悪いようにはしない!」
「よくも騙る……!」
 史之が口上をあげる。未だ敵の姿は伺えずとも、怒りの状態異常を付与する可能性が低くは無いことを反論から籠められる口惜しさが教えてくれていた。
「嘯く必要も無いだろう。お前らを捕えるなんて俺達には簡単な話なんだから。
 まぁ、素直に捕まるなら悪いようにはしないって約束するよ」
「……っ」
 だが、次いでアルヴァの言葉を受け、終ぞ最も年若いと思われる幼子が岩陰から飛び出し、彼へと殴りかかった。
 しかし、その拳が届くことは無く。
「放、せ……!!」
「……『飛魚』、仲間達為、デキルコト、ヤッテイル。ナラ、トヤカク言ウ、無シ」
 それを止めた秘宝種は、『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は、幼子の激昂を諫めることはしない。捕えられた同胞の為に動く彼らに、そのような言葉は必要ないと。
「ケド、フリック達モ又、使命、果タスノミ」
 ぐっ、と背負っていた麻袋を引きはがし、子供を拘束する。その所作に淀みは無い。
「史之、マダ大丈夫?」
「あと十回は使える、問題ない」
 斥力操作を介するための気力の補填の要不要に対して、フリークライの問いへと如才なく応える史之。
 それを問うた理由を、再び満ちかけた潮流の中で、淡々と縁が呟く。
「……感情探知は怪しいな。大まかな場所を見つけたとて、向こうが絶えず移動していれば曖昧な鬼ごっこになりかねん」
「干潮時の広域俯瞰もだ。情報屋が言っていた通り、地上からだけでなく空中からでも目視による索敵は困難と言わざるを得ない」
 憂炎共々返された情報は、言ってしまえば此度特異運命座標達が用意した索敵手段のほぼ全てが用を為さないと言われたのと同義である。
 焦燥を覚えた彼らの脇を通り過ぎる影。誰かがそれを追おうと走り、しかしそれが無為に終わる。
 若し仮にこの状況が延々続くとなれば、相手方が撹乱の果てに戦場を離脱し終えるのは想像に難くない。
「……させない」
 取れる手段は多くなかった。それでも。
 限られた『一回』を、携行品の照明が焼き切れるほど強く発し、偶然にも照らされた一人の影をフラーゴラが捉えれば、その袖口に指を引っ掻け、その後限界まで引き絞った身体で敵方の一人を捕まえた。
「絶対に通させない……! 捕まえる!」
 ――状況は極めて不利。前提となる索敵が機能せず、ならば敵を捕捉したのちに行使すべき捕縛や無力化の手段が役に立たない。
 それでも、特異運命座標達に諦念の意図は覗かず。
「アタシたちイレギュラーズも、助けたいって想いは同じだよ」
 彼らの想いを表するかのように、咲良が、その理由を声に出す。
「皿倉咲良! 正義の味方……じゃなかった。今回は正義の怪盗として、竜宮幣、回収するよ!」
 全ては、『皆』を救うために、と。


 状況は、既に先ほど説明されたとおりである。
 敵方の数は10名。彼らは現在戦場に散り散りとなって特異運命座標達を撹乱しながら戦場の突破を図っている。
 これに対して特異運命座標が用いた索敵方法は大きく分けて三つ、感情探査、エネミーサーチ、広域俯瞰であるが……前者二つは「探知の対象とすべき感情(この場合は「焦り」や「不安」が挙げられる)が此方にとっても抱き得るものである」ことと「敵方から此方に対する敵意が然程存在しない」ことにより効果が示されず、残り一つに於いても元々が目視に難いとされていた戦場では功を奏さなかった。
 結果として、有効となったのは史之とアルヴァの名乗り口上、若しくは携行品を消費しての瞬間的な強化を果たした者たちによる殆ど奇跡的な捕縛だけだ。
 ……それとて、捕まえたのは四名。
 時間は迫る。変化する戦場に於いて敵はじりじりと悪神ダガヌへの進路を切り開き、特異運命座標達はそれを水際で止めることすら出来ずにいる。
「――――――!!」
 一人が、『抜けた』。続いてもう一人。
 それを逃さじと、奈々美が住んでのところで繊手を向けた。発されたアンジュ・デシュは――果たして麻袋を掠め、その内側の竜宮幣を幾らか零すことしか出来ず。
 命中することと状態異常が発露することは同一とは異なる。結果として好まぬ結果となったそれへと、奈々美も憤慨を隠し切れなかった。
「もう……大事なものなんだから、もっといいものに入れなさいよ……!」
 特異運命座標達が捕捉し、しかし追いつけぬと判断された海域へと走り去っていく敵方の二人を悔しげに見送ることしか出来ず、それに拘泥することすら出来ぬ現状に、フラーゴラが焦燥を抱く。
「……お前らの決断を攻めやしない。多分、俺が同じ立場ならそうする」
 アルヴァは、その状況下でも焦ることなく、表面こそ冷静な侭言葉を紡いでいた。
「けどな。お前らがそれを持って行ったとして、仲間を素直に開放するとは思えねぇんだ」
 応じはしないと、分かっていても。
 名乗り口上に自らの思いを込めて、アルヴァは淡々と言葉を吐き出す。
「――仮定など、誰にとっても同じこと」
 けれど、果たして言葉は返された。
 反響するそれらが何処かから聞こえるのか、必死に探る特異運命座標達を前に、声は響く。長と思しき、初老の男性の声が。
「貴殿らに助力したとして、我らの同胞は無事に戻ってくる保証など無い。
 悪神の眷属となって使い潰されるか、或いは見せしめに殺されるかと言う可能性も十分にあり得る」
「……平行線だな」
 憂炎が、苦笑する。表情は優しくも、しかし挙動は刃より鋭い。
 声の発生源を突き止めた彼が、男性の元へと疾駆したのだ。臨む痩身に対して、しかし彼は。
「如何にも。蓋しそれは貴殿らの責ではない。これは我らが信じるものを見出せなかった弱さがゆえだ」
 捕まえようとした手が、男性の身体をすり抜ける。幻影の類。それに気づくよりも、その映し身の向こう側に居た彼が再び岩礁の影へと姿を隠す。
「そして我らは――最早そこから引き返す術を持たぬ」
「ああ。お前さん方の事情は聞かねぇし、責める気もねぇよ」
 言葉は、違う方向から返される。
 男性が瞠目するまでも無かった。縁が構えた刀から放たれる波濤が岩礁の一部を文字通り『崩壊』させる。
 驚嘆し、その場を離れようとする彼の前に、堂々と立ちはだかるはフリークライ。
「……何と」
「フリック達、見ツケラレナイ。自分デ、捕マエラレナイ」
 後退は――間に合わない。
 フラーゴラ同様、フリークライが担っていた同様の光源が閃光の如く輝く、たたらを踏んだ男性から首尾よく麻袋を奪い取った
「ケド、飛魚。ソッチモ、見ツケラレナイ。違ウ?」
「……見事だ」
 諦観と共に座り込む男性。それこそがこの依頼の要点。
 敵方は索敵を抜ける手段を有してはいるものの、逆に自身らが特異運命座標達の場所を探る能力に於いては乏しい。それは逆説「受ける」ことに特化していても「攻める」側には秀でていないともいえる。
 とどのつまり、特異運命座標達は敵が通過し得るポイントに各員が配置されてれば良かったとも言える。そのルートを通るよう他の道を塞ぐ役割は縁が岩礁を攻撃することで果たされたし、これは同時に隠れ場所としての岩礁を失くすと言う意味でも意味を為している。
「……おじ様!」
 一人が、その脇を通り去る。
 けれど、その身が移動し終えた時、抱えていた麻袋は咲良の手に握られていた。
「正義の味方としてスリとか物を盗むとかは感心しないけど、今回は仕方ない……よね」
「お前っ……!!」
 少なくとも、依頼達成の条件とされる数の竜宮幣は手に入った。しかし。
「……それだけが、俺達の目的じゃない」
 呟いたのは、史之だった。
 定められた依頼を果たすためだけに此処に来たのではないと。彼らの想いを汲み、彼らに代わってその思いを果たしたいからこそ、自分たちは此処に来たのだと。
「助けたいんだろう? 仲間を、家族を。
 だったらすがるのはダガヌじゃなくて俺達イレギュラーズだ」
 残る敵方は二人。彼らを悪神の元へと往かせはしないと、いっそ彼は莞爾と笑った。
「こいよ。おまえたちの悩み、苦しみ、全部俺が受け止めてやる、だからまちがった方へ進んじゃだめだ」
 縁が、再び岩礁を打ち砕く。
 いよいよ隠れ場所を失った彼らは、そうして決死の覚悟で彼らから逃れるべく身を動かした。
 その果てが、双方にとって分かりきったものであっても。


 捕まえられた敵は――否、『飛魚』の民は、拘束されることは無かった。
 何よりも、彼らに敵対の意図はない。敵意が無く、害意も無く、またそれを果たすだけの能力が無いと言うのならば、その動きを封じる理由も無いと言うのが特異運命座標達の決定である。
「自身の弱さを受け入れ、それ故に僕たちの提案を拒んだ。それとも『飛魚』の民のプライドが故かな。
 立派な心掛けだ。だが無意味だ。無駄なプライド程理解し難い物は無い」
「……自らの行い全てに意味を見出すほど、我らは賢者になれませんわ」
 確保した麻袋の中身……竜宮幣を確認しながら呟く憂炎に対して、歎息と共に言葉を返したのは一人の少女であった。
 落ち着かせるために史之が差し出したホットミルクに対しても、ついと顔を背けるばかり。これは反抗から成る行いではなく、「虜囚に其処まで気を遣う必要は無い」と言う彼らなりの意思表示なのだろう。
 ――自らの行いの過ちを知り、しかし留まることが出来なかった。そんな彼らへと、縁はただ静かに言った。
「俺達はダガヌを倒すために、お前さん方からこいつを“奪った”。それだけだ。だろ?」
「……有難い話ですな」
「捕まっている人たちも、必ず開放する。
 それが全て済んだら、新しい職でも探そう。ワタシたちも協力するよ」
「あ、あたしと同じぐらいかもっと幼い女の子もいるしね……。
 ど、泥棒なんかやめて魔法少女になってみない、なんてね……?」
 苦笑を浮かべる男性へと、フラーゴラが、奈々美が応える。
 アルヴァは、そんな彼らに対して言葉を告げなかった。あの戦いの中で自らが発すべき言葉は全て伝えたのだからと。
 ――自らの言葉は、その全てを諦観ゆえの否定で返された。けれど戦いが終わった今もそうである保証は無いのであれば。
「……タガヌ討伐決戦直前、コノタイミングマデ、飛魚、頑張ッタカラコソ、救出、繋ガル。
 飛魚、コレマデ行イ、無駄、違ウ」
「……うん。ここから先は、アタシたちの役目」
 フリークライに、咲良に、敗北と言う結果に加え、自らの罪悪感の為に明確な答えを返すことを拒む『飛魚』の子供達。
 目立った、一際大きい岩礁へと小型船を停泊させていた奈々美が近づいてくる。次の干潮が来る前に手早く『飛魚』の民と仲間たちを乗せた彼女は、その後すぐさま小型船を発進させる。
「………………暗い、空」
 訥、と呟く言葉。悪神の影響か、未だ晴れぬ空はその曇暗を色濃くしたまま。
 この後、その果てに覗くのは晴天か、或いは完全なる闇か。
 その未来を、今は誰も知る由が無かったのだ。

成否

成功

MVP

フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守

状態異常

なし

あとがき

シナリオの成否を握る作戦部分を立案しましたフリークライ(p3p008595)様にMVPを付与致します。
ご参加、有難うございました。

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