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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>マキーホ平原会戦<トリグラフ作戦>

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●最近の、勘蔵の日常
 新皇帝即位に端を発した、各勢力の割拠。その割拠する勢力の一つであるザーバ派の拠点、バーデンドルフ・ラインから北上する線路を、『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵(p3n000126)はうっとりとした表情で眺めていた。
(鉄道は漢のロマン……列車砲も漢のロマン……)
 この線路の先はスチールグラードをはじめとする鉄帝中に繋がっており、平時は補給を担っている。だが、現在鉄道の各施設と連絡を取ることは出来ない。おそらく、新皇帝派の軍人に占拠されているのだろう。
 その各施設を奪還するべく、ザーバ派では『トリグラフ作戦』が発令された。ザーバ派は最終的には、列車砲のある『ゲヴィド・ウェスタン』の奪還を目指すと言う。
 元の世界では軽度ながら鉄道オタク趣味を持っていた勘蔵にとって、この『トリグラフ作戦』は鉄道奪還と言うだけで心に沸き立つものがあった。それに加えて列車砲奪還と聞かされては、心が躍らないわけがない。列車でなければ運べないほどの大口径砲にロマンを感じない男子など、果たして存在するものであろうか。
(いやぁ、頼まれてとは言えここに参加して、よかったですねぇ)
 各勢力の割拠にあたり、勘蔵はザーバ派にその身を置いた。これは、勘蔵の知己である幻想の『バシータ領主』ウィルヘルミナ=スマラクト=パラディース(p3n000144)の要請によるものだ。鉄帝と国境を接するバシータを領するウィルヘルミナは、ザーバ派が倒れれば明日は我が身となりかねないと危惧を抱いており、過去の貸しの清算を条件としてザーバ派に助力してほしいと依頼した。
 もっとも、直接的な武力を持たない勘蔵に出来ることと言えば、ザーバ派からの依頼をイレギュラーズ達に知らせるぐらいであるのだが、その機会は少なくはなかった。
「羽田羅さん、すぐに来てくれませんか?」
 今もこうして、ザーバ派の軍人が勘蔵を呼びに来ている。また、依頼の話なのだろう。

「今回の依頼ですが、マキーホ平原での保線作業の護衛です」
 依頼の説明を受けるため目の前に集まっているイレギュラーズ達に、勘蔵が告げる。
「保線作業?」
「はい。列車が走れるように、線路をメンテナンスする作業です。
 ただ、場所がだだっ広い平原で守りにくいので、皆さんにも協力して欲しいと話がありました」
「もちろん、話があるなら受けるが――その口ぶりだと、ザーバ派からも護衛が出るのか?」
 勘蔵と話していたイレギュラーズが、ふと気付いたように問う。
「ええ。作業に直接従事する工兵を別として、五十名が出ます」
「随分と集めたな。余裕もないだろうに」
「地形からすると、守るには不利ですからねぇ……」
 とは言え、不利な場所だから保線作業を行わないというわけにもいかない。
「まぁ、依頼があるなら達成するまでだ。この状況は、一日でも早く落ち着かせたいところだしな」
「はい。そのためにも、よろしくお願いします」
 鉄帝における混乱を収束させたいのは、イレギュラーズ達も勘蔵も変わらない。依頼を快諾したイレギュラーズ達に、勘蔵は深く頭を下げた。

●トリグラフ作戦を妨害すべく
 新皇帝派の軍人達が拠点としている館、その一室に、数名の将校が集まっていた。部屋の中央には地図が広げられた机があり、入口から奥にはエカチェリーナ・ミチェーリ大佐が座している。そして、入口の側では数人の将校が直立していた。
「どうも、南部戦線の者共は鉄道の確保に躍起になっているようで……」
「ふむ……確か、この先の『ゲヴィド・ウェスタン』には、列車砲があるのだったな?」
「はい。おそらく、その確保を狙っているものと思われます」
 将校の一人が地図を指しながら、エカチェリーナに説明する。エカチェリーナは少し考え込み、そして。
「――そんなものを持たれては、少々面倒だな」
 ふぅ、と軽く嘆息した。魔種であるエカチェリーナ自身は、列車砲など恐れるものではない。例え撃たれたとしても一撃程度では斃れない自信はあり、次を食らう前に懐に入ってしまえばいいのだ。だが、通常の新皇帝派軍人や天衝種はそうはいかない。戦況を大きく左右しかねない代物をザーバ派に確保される事態は、エカチェリーナとしては避けたいところであった。
 列車砲の存在を抜きにしても、ザーバ派による鉄道の確保は放置しがたいものがある。輸送手段が確保されると言うことは、広範に作戦を展開する土台を作られると言うことでもある。
「鉄道から南部戦線の者共を排除しようという者は、いないか?」
「ぜひ、私にお任せ下さい!」
「ガトー少佐か、いいだろう。この件、貴様に任せるぞ」
「ははっ! 命に替えましても!」
 エカチェリーナの問いに、精悍な青年将校と言った風情の男が応じた。その将校、ガトー少佐を一瞥したエカチェリーナは、満足そうに微笑みつつ任を下した。

●開戦直前
 鉄道を南下したグリン・ガトー少佐麾下の軍は、保線作業のためにマキーホ平原に来たザーバ派軍人らを発見した。一方、ザーバ派軍人らもグリン麾下の軍を発見している。

「こうも容易く南部戦線の者共が見つかるとは、何と言う僥倖!
 V字陣に展開せよ! 奴らを包み込み、蹴散らすのだ!」
 グリンの指揮に、新皇帝派の軍人達は気勢を上げた。天衝種らも、興奮したように激しく踊り狂う。味方が指揮に従って陣形を整える間に、グリンは全高四メートルほどもあるパワードスーツを装着――と言うよりも、搭乗と言った方が正確かも知れないが――した。
「グリン・ガトー! コランバイン! 出撃(で)るぞ!」
 全身紫色の、ロボットのようにも見えるパワードスーツが、味方と共にザーバ派軍人らへと駆けた。

「ちっ! これから作業だって時に!」
「逆に考えましょう。あれを撃退すれば、落ち着いて保線作業が出来ると。
 ひとまず、私達は巻き込まれないように退避しましょう」
 工兵の舌打ちに発想の転換を促しつつ、勘蔵は退避を提案した。その提案は受け容れられ、工兵達は次々と後退、退避する。
「万一こちらまで来られたら、どうしようもありません。何とか、皆さんの所で食い止めて下さい」
 勘蔵は退避する間際に、イレギュラーズ達に懇願した。もちろん、イレギュラーズ達とて工兵達の所まで敵を通すつもりはない。
「ああ、任せておいてくれ」
 イレギュラーズ達は勘蔵に頷くと、紫色のパワードスーツに相対するように前に出た。如何にも、あの紫のパワードスーツからはよからぬ気配を感じる。
 工兵の退避やイレギュラーズ達の前進の間に、ザーバ派軍人達も陣形や戦闘態勢を整えていた。

 ――『マキーホ平原会戦』と後に呼ばれる戦闘が、もうすぐ始まる。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。
 今回は<総軍鏖殺>の中でも<トリグラフ作戦>のシナリオをお送りします。
 ザーバ派がマキーホ平原での保線作業を行おうとしたところ、トリグラフ作戦の妨害を試みたエカチェリーナが派遣した魔種グリンら新皇帝派の軍との遭遇戦となりました。
 魔種グリンら新皇帝派の軍に勝利して、マホーキ平原での保線作業を成功に導いて下さい。

●成功条件
 敵の全滅

●失敗条件
 工兵の一定数の死亡

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 マホーキ平原。天候は曇り。時間は昼間。
 足下には雪が降っていますが、戦闘に関するペナルティーは発生しないものとします。

●戦場MAP
至ゲヴィド・ウェスタン
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至バーデンドルフ・ライン

A:イレギュラーズ
B:ザーバ派軍人(各25)
C:勘蔵&工兵
D:グリン&護衛の新皇帝派軍人(10)
E:新皇帝派軍人(各10)&ストリガー(各10)&ラルグ(上空、各2)

※あくまで、ざっくりとしたイメージです。
 正確な距離関係を示しているわけではありません。
※イレギュラーズ達の初期配置は基本的にAですが、
 ザーバ派軍人を指揮したり支援したりしたい場合はBにいても構いません。

●グリン・ガトー&PSPJ02『コランバイン』 ✕1
 グリンは新皇帝派の鉄帝軍少佐にして、憤怒の魔種です。エカチェリーナより、トリグラフ作戦の妨害を命じられています。
 コランバインはグリンが装備――と言うよりも搭乗と言った方が近いのですが――している試作型パワードスーツで、一見すると重装甲のロボのようにも見えます。全高は4メートルほどで、カラーは紫。
 魔種の例に漏れず生命力が極めて高く、コランバインに装備している武装の火力も尋常ではありません。また、その装甲により防御技術も非常に高くなっています。一方、コランバインの重量もあって、回避は低めとなっています。
 コランバインの各種武装は左右1対となっており、薙ぎ払い以外の攻撃は1回の行動で2回行われます。
 なお、グリンが【怒り】を受けた場合、通常の効果とは違って特殊な挙動をします。

・攻撃能力など
 隠し腕 神至単 【邪道】【変幻】
  普段は装甲内に隠匿しているアームです。その先からは、ビームサーベルが展開されます。
 薙ぎ払い 神至範 【邪道】【変幻】
 肩部ビームカノン 神超貫 【万能】【防無】
 腕部ガトリング砲 物/近~超/範~域 【邪道】【変幻】【封殺】【致命】
 腰部・脚部ミサイルポッド 物円範 【多重影】【変幻】【鬼道】【火炎】【業炎】【炎獄】【紅焔】
 自動ポーション投与システム
  自動的に搭乗者にポーションを投与するシステムです。このため、グリンのHPは毎ターンある程度回復します。
 BS耐性
  特殊抵抗にプラスの補正が入ります。
 BS緩和
 自爆装置

・【怒り】を受けた場合
 グリンが【怒り】を受けた場合、【怒り】を与えたキャラクターに接近するのではなく、射撃武器何れかの射程に収まるように移動してから射撃を行います。その際、可能であれば出来るだけ多くのキャラクターを巻き込みにかかります。
 なお、何らかの理由で移動が不可能である場合、上述の行動が可能になるような最適の行動を取ります。

●新皇帝派の軍人 ✕50
 エカチェリーナ配下の、新皇帝を支持する軍人達です。このシナリオではグリンによって統率されています。
 能力はピンキリですが、攻撃力、防御技術、生命力が高く、回避、反応は低い傾向にあります。

・攻撃能力など
 剣 物至単 【出血】
 銃 物遠単

●天衝種(ストリガー✕40、ラルグ✕8)
 バルナバスに従う魔物達で、このシナリオではグリンによって統率されています。

・攻撃能力など(ストリガー)
 燃え盛る爪 物/至~近/単or列 【火炎】【業炎】

・攻撃能力など(ラルグ)
 嘴 物至単 【火炎】
 体当たり 物超単 【移】【火炎】【業炎】
 ファイアブレス 神遠貫 【火炎】【業炎】
 飛行

●ザーバ派の鉄帝軍人 ✕50
 マキーホ平原を確保するべくイレギュラーズ達と共に送り出された、ザーバ派の軍人達です。
 能力傾向としては、基本的に新皇帝派の軍人と同様です。また、1:1なら新皇帝派の軍人とも天衝種ともそれなりに戦うことが出来ます。
 彼らの動きについてイレギュラーズ達から提案があれば、余程無茶なものでない限りは基本的に乗ってくれます。また、イレギュラーズ達の誰かが彼らを直接指揮することも可能です。その場合、指揮できるのはイレギュラーズ1人につき左翼右翼のいずれか片方となります。

●羽田羅 勘蔵&工兵(多数)
 保線作業を行うべく動員された工兵達と、皆さんについてきた勘蔵です。
 共に戦闘能力はなく、数回攻撃されれば死亡する可能性があります。
 工兵が一定数死亡した場合、必要な人員の不足により保線作業は断念され、依頼失敗となります。

●サポート参加について
 今回、サポート参加を可としています。
 シナリオ趣旨・公序良俗等に合致するサポート参加者のみが描写対象となります。
 極力の描写を努めますが、条件を満たしている場合でも、サポート参加者が非常に多人数になった場合、描写対象から除外される場合があります。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • <総軍鏖殺>マキーホ平原会戦<トリグラフ作戦>Lv:30以上完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年10月31日 22時06分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC2人)参加者一覧(10人)

マルク・シリング(p3p001309)
軍師
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
高貴な責務
ルクト・ナード(p3p007354)
蒼空の眼
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
シャールカーニ・レーカ(p3p010392)
緋夜の魔竜
シェンリー・アリーアル(p3p010784)
戦勝の指し手

リプレイ

●新皇帝派軍を前にして
「――ふざけるな」
 『ザーバ派南部戦線』解・憂炎(p3p010784)が、忌々しげに吐き捨てた。敵将であり、魔種であるグリン・ガトー少佐が装着するパワードスーツ『コランバイン』を目の当たりにしたからだ。コランバインは全高四メートルあり、パワードスーツよりもロボットと言った方が相応しい印象を与える。さらにコランバインには、両肩にビーム砲、両腕にガトリング砲、左右の腰部と脚部にはミサイルポッドが据え付けられていた。
 憂炎が最も嫌う、単体で戦局を滅茶苦茶に出来る無双者であることは疑いようがない。
「なんだあれは。練達から輸入でもしてきたってのか? ええい、考えるだけでもプランが尽く崩壊する……!」
 苛立ちを吐き出しながら頭を抱える憂炎を余所に、コランバインには何人かのイレギュラーズが関心を示している。
「なにこれロボ? ……じゃなくて、人??」
 そう首を傾げる『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は、コランバインに格好良ささえ感じている。が、慌てて首を横にブンブンと振ってその感覚を頭から振り払った。
(だめだめ敵だし! どっちかというと悪役っぽい見た目だし!)
 そして、工兵達には指一本振れさせまいと意気込んだ。
「うんうん、なかなか素敵デザインなロボだね」
 『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)は、そうコランバインのデザインを品評した。もっとも。
「ボク本来の姿、造形美と性能美を追求したぱーふぇくとな姿にはかなわないかな! 見せてあげないけど!
 Haha、オペレーションポッポーの邪魔はさせないよ?」
 自身のデザインには及ばないとした上で、トリグラフ作戦の妨害はさせないと笑いながら言い放つ。
「さて、冗談はさておき……彼方も鉄道網の復旧は看過できないってところだろうね。
 態々来てくれたことだし、丁重にもてなしてあげようじゃないか」
 急に調子を真面目なものに変えたラムダは、魔導機刃『無明世界』の鞘を撫でながら、言った。
「ほう、敵にも機械を駆る者が居るのだな。面白い。可能なら是非とも破損させて奪いたい所だ」
 鉄蹄に割拠した派閥には興味は無いものの、列車に興味を持って依頼に参加した『蒼空の眼』ルクト・ナード(p3p007354)も、コランバインに関心を示している。もっとも、コランバインを鹵獲するにせよ、依頼を順調に進めて達成してこその話だ。そのためにも、ルクトは自身の役目をしっかりと果たさんと意を決した。

「線路が使えるようになったら、きっと助けられる人も増えるはずなんだ。
 だから、この作業を邪魔するなら容赦しないよ!」
(――工兵の人たちは、必ず守る。保線作業の邪魔は、させない)
 『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が新皇帝派の軍に向けて叫ぶ横で、『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)が静かに頷く。
 鉄道を運用できれば、物資や兵員を速やかに輸送できる。となれば、焔が言うようにより広範囲の人々を救うことが出来るようになる。また、今は戦闘のために運用されるとしても、鉄帝を巡る混乱が収束すれば人々の生活を豊かにするために運用されるはずだ。
 もっとも、オニキスの方は砲撃型の機動魔法少女として、列車砲が気になっていると言うこともある。列車砲を運用するには、当然線路は必要不可欠だ。
(はー、やれやれ。本当なら幻想貴族としては、鉄帝に利する仕事なんて避けたい所ですが……)
 内心で嘆息するのは、『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)。鉄帝と幻想は言わばこれまで争いあってきた敵同士であり、幻想貴族であるウィルドがトリグラフ作戦に関する依頼に参加するのは、敵を利するようなものでもある。だが。
(……ま、鉄道網やら列車砲やら、実物をこの目で確認できるなら儲けものですね)
 ある意味では、敵情視察とも言えた。何にせよ、依頼を受けた以上は達成に全力を尽くすまでだ。

「敵は大軍。状況判断が問われるね」
「とは言え、単純な力比べなら負けるつもりはないけれど……」
 彼我の軍勢を見比べた『浮遊島の大使』マルク・シリング(p3p001309)に、『決死行の立役者』ルチア・アフラニア(p3p006865)が嘆息しながら応じた。
「……野戦で護衛対象がいるのが厄介な所よね。何が何でも突破を止めないと」
 ただの戦闘なら、ルチア達にとっては問題ない。だが、守りには適さない平原と言う戦場で、後方にいる工兵達を守らねばならない。工兵達が損耗してしまえば今回の目的である保線作業が不可能になってしまう以上、新皇帝派の軍に突破されて工兵達が攻撃される事態は避けねばならなかった。
「いやはや、何とも困難な状況だな。だが、そうだな……覇竜で格上の竜種に囲まれて生きていた頃に比べれば、大したことはあるまいよ。
 何より、攻勢で鶴翼陣など……敵指揮官は戦術を知らんと見える。こんな相手に負けてやる訳にもいかんだろうさ」
 『緋夜の魔竜』シャールカーニ・レーカ(p3p010392)が、不敵な笑いを浮かべながら事も無げに言い放つ。その言葉に励まされるかのように、マルクもルチアも深く頷いた。

●マキーホ平原会戦、開戦
 彼我の距離は次第に縮まり、イレギュラーズを擁する南部戦線軍と新皇帝派軍との戦闘が、始まった。戦闘の火蓋を切ったのは、リュコスだ。
「――!?」
 新皇帝軍の最右翼を飛行していたラルグの一体が、突然迫ってきた黒い大顎にバリバリと噛み砕かれ、息絶える。
「まず、ひとつだね」
 今回、イレギュラーズは天衝種の排除を重視した。天衝種さえいなければ、南部戦線の軍人は新皇帝派の軍人と数にも実力にもほとんど差が無いため、互角に戦うことが出来る。その中でも、ラルグの排除は重要だ。飛行できる敵である以上、味方の軍勢を飛び越えられて工兵達を攻撃されると言う事態は防がねばならなかった。
 そのうちの一体を早々に撃破できた満足感から、リュコスはにっこりと笑みを浮かべた。
「味方を飛び越えさせるわけには、いかない」
 その近くにいたラルグの一体に向けて、ルクトは飛翔しつつ槍に姿を変えた深き水底のファム・ファタールを突き出した。刺突は衝撃波となって突き進み、ラルグに命中する。
「!」
 ラルグの受けた傷は浅いように見えたが、ルクトの本命はラルグに傷を負わせることではない。あくまでその動きを鈍らせ、足を止めることだ。そして、明らかに動きの鈍ったラルグの姿に、ルクトは目論見が成功したことを確信した。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。俺の目の黒いうちは、工兵達に指一本触れさせん!」
 ワイバーンを駆り飛行する『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が、敵の最右翼より中央寄りにいるラルグ二体に向けて戦意を放つと共に、名乗りを上げた。ラルグ二体と、地上にいる新皇帝派軍人やストリガーの一部が、その名乗りに呼応するかのように敵意と殺意をエーレンに向けた。
(ふむ……ならば、私はこちらに行きましょうか)
 敵右翼側のラルグは心配ないと見たウィルドは、敵の最左翼へと駆けた。
「幻想貴族ウィルド=アルス=アーヴィン、推参ですよ」
 新皇帝派軍人やストリガーの中に突っ込み、二体のラルグに声が届く位置を確保すると、ウィルドもまた名乗りを上げた。空中のラルグと、ウィルドの周囲にいる新皇帝派軍人やストリガーが、敵意を込めた視線を一斉にウィルドに向ける。
「あと……二つ!」
 新皇帝軍の上空を飛行するラルグ七体のうち、まだ自由に動けるのは最左翼から中央寄りの残り二体。そのうちの一体に向けて、焔は炎の槍を放った。炎の槍はラルグの身体を貫通するが、ラルグは浅からぬ傷は負ったもののまだ息絶えない。
「ボクが、仕留める!」
 ならばと、ラムダが追撃にかかった。ラムダは、炎の槍に貫かれたラルグを、堕天の輝きで照らし出す。呪いさえ帯びた輝きに身を捩らせつつも、ラルグは一度は耐えきった。だが、再び放たれた堕天の輝きには耐えきれず、力尽きて地面へと墜ちた。
「――たったそれだけで私を相手する気か? 甘く見られたものだな!」
 憂炎とルチア以外のイレギュラーズは、両翼に分かれた天衝種――特にラルグへの対応を優先している。と言うことは、天衝種に当たるイレギュラーズ達は自然と左右に分かれる形となり、新皇帝派軍の中央にいるグリンの前には憂炎とルチアが残るのみとなった。それをグリンは、自分の相手は二人だけで十分と言う意図と取り、激昂する。
 ならば速やかに叩き潰すまでと、グリンは左右両腕のガトリング砲を撃った。弾丸の嵐が、憂炎を襲う。如何に防戦に長けた憂炎と言えども無傷ではいられないし、何より絶えず襲い来る銃弾の圧に、憂炎は動けなくなりそうだった。
(この程度で……負けていられるか。やるべき事をやれなかったら、何のためにこいつの抑えを買って出たかわからない)
 銃撃の圧に負けじと歯を食いしばって耐えた憂炎は、竜を思わせる咆哮を放つ。その雄叫びに、グリンは眼前の相手が油断ならぬ奴との意識を抱いた。
 ラルグはそれぞれ、ルクト、エーレン、ウィルドを狙ったが、一体が南部戦線の軍を飛び越えて工兵達へと迫らんとする。
「――目標確認。攻撃、開始だよ」
 だが、それは迂闊としか言えなかった。ラルグが味方の軍を飛び越えて工兵に迫るのは、イレギュラーズ達が最も警戒している事態であり、そう易々とやらせるはずがない。
 オニキスが、百二十mmマジカル迫撃砲を連射する。一射目の重力弾を受けたラルグの動きは鈍り、さらに二発目、三発目の重力弾を受けたラルグは斃れて地に堕ちた。
(急いで天衝種を倒して、グリン側の支援に回ろう)
 天衝種を如何に素早く殲滅出来るかが戦況を分ける鍵になると言うのが、マルクの認識だ。故にマルクは、ウィルドを中心として、世界に揺蕩う根源的な力を穢れた泥へと変えた。穢れた泥は、ウィルドの周囲にいる敵の運命を漆黒へと塗り替える。少なからぬ新皇帝派軍人や天衝種が、ぞわりとしたものを覚えて身を震わせた。
(オルレアンの乙女を気取るつもりはないけれど――)
 ルチアは自身に聖女の心を宿し、憂炎に状態異常を無効化する英霊の鎧を降ろす。これで、憂炎を支える準備は出来た。自分が倒れずにいる限り、火力を誇る魔種であろうとも憂炎を倒させるつもりはない。
「魔種に従う者どもよ、貴様らの相手はこの私だ。工兵を蹂躙したいのであれば、私を打ち倒してからにするが良い」
 レーカはウィルドとは逆、敵の最右翼へと走り、高らかに宣言した。その宣言に最右翼の隊全体が反応し、レーカへと敵意を込めた視線を向ける。並の者なら怖じ気づいたところであろうし、これだけの数を相手にすれば深手を負うことにはなろうが、レーカは恐れない。どれだけ攻撃されて傷を負おうとも、最後まで立っていられれば良いのだし、その自信がレーカにはあった。

●合流、そして猛攻
 憂炎とルチア以外のイレギュラーズによって、先ずラルグが、そしてストリガーが、次々と倒れていった。その巻き添えとなる形で新皇帝派の軍人達も少なからず倒れており、数だけで言えば南部戦線軍の方が有利となった。南部戦線の軍人達を癒やして支援せんとする『奏でる言の葉』柊木 涼花(p3p010038)もいるため、もう新皇帝派軍は南部戦線軍に任せても大丈夫だろうと、イレギュラーズ達は判断した。
 その間に、憂炎とルチアはグリンによって深手を負わされていた。憂炎に至っては、可能性の力まで消費させられている。憂炎は基本的にはルチアを庇っていたが、グリンがしばしば憂炎の雄叫びの影響から脱するためその都度雄叫びを放たざるを得ず、ルチアを完全に守りきることは出来なかった。それでもこれで済んだのは、ルチアによる癒やしがあってこそだ。そうでなければ、憂炎はとっくに倒れて、グリンは戦場を好き放題に暴れ回ったのは疑いない。

「待たせて、ごめんね」
「ぐおっ!?」
 目にも留まらぬ速度で急接近してきたリュコスの影から出てきたⅠ=《哀》が、グリンをアッパーのように下から殴りつける。加速の付いたリュコスから放たれたⅠ=《哀》を受けたグリンは、装備しているコランバインの巨体にもかかわらず宙へと跳ね上げられる。さらにそこに、同じくリュコスの影から出てきたDo=《怒》が追撃とばかりにグリンを殴りつけた。コランバインの装甲が、ぐにゃりと歪む。
「ルクト・ナード、突貫する」
「があっ!」
 グリンが地面に落下するよりも速く、ルクトがグリンに急接近した。雷の如くグリンに迫ったルクトは、そのスピードを乗せた槍をコランバインの歪んだ装甲越しにグリンに突き刺す。その衝撃は凄まじく、槍の穂のみならず柄までがコランバインの装甲を貫通していた。
「これで……燃えちゃえ!」
「ぐはっ!」
 グリンが着地したところを狙って、焔は炎の槍を放つ。炎の槍はコランバインの装甲など存在しないかのように、深々とグリンに突き刺さった。のみならず、コランバインごとグリンを炎に包む。さらに、コランバインの腰部と脚部で爆発が起こった。機体を包む炎によって、ミサイルポッドのミサイルが誘爆したのだ。
「憂炎さん、お疲れ様でした。さぁ。ここからは私がお相手しますよ。
 あなたが倒れるまでの間に、どれだけ私を傷つけられるでしょうかね?」
 他者から「胡散臭い」と言われる笑みを湛えつつ、ウィルドは憂炎を労い、グリンを挑発する。ウィルドの笑みはギフトによるものであるのだが、それを知らないグリンにはこの笑みが非常に勘に触ったようで、グリンは肩のビームカノンと両腕のガトリング砲の砲口をウィルドに向け、一斉に撃った。
 極太のビームと無数の弾丸に襲われたウィルドは、重い傷を負ったもののなおその場に立ち続けている。
「いやぁ、私を仕留めるには少し足りませんでしたねぇ。もう一回、やってみたらどうです?
 そうしたら、私を仕留められるかも知れませんよ」
(――そんなこと、私がさせないわよ)
 ウィルドは変わらず笑みを浮かべながら、重ねてグリンを挑発する。確かに、もう一度同じ攻撃を受ければ確実に倒れそうなほどに、ウィルドの傷は深い。だが、ルチアは憂炎と同様にウィルドも倒させるつもりはない。その初手として、ルチアはウィルドに英霊の鎧を降ろした。
「あれだね? 確かにその攻撃手段に守りの硬さは脅威では有るけど、些か鈍重に過ぎるんじゃないかな!」
「ぐああああっ!」
 ラムダは自身に魔神を降臨させると、その魔力を魔導機刃『無明世界』に込めた。そして、居合い斬りの如く抜刀して刀を振る。鞘の中で過剰に充填された魔力は、剣閃に合わせて斬撃へと形を変え、グリンを襲った。魔力の斬撃は、ミサイルポッドの誘爆が起きた腰部の装甲を易々と斬り裂き、グリンの腹部に一筋の深い傷を刻む。
 魔力の剣閃がグリンへと飛翔する間に、ラムダは素早く納刀して再度魔神を自身に降臨させ、抜刀と共に魔力の斬撃を放った。もう一筋、グリンの腹に傷が刻まれる。
「そうだね。ま、どれだけ装甲が固くても、私の砲撃には関係ないんだけどさ」
 魔神を自身に降臨させたのは、ラムダだけではなくオニキスも同様だった。二人の間に違いがあるとすれば魔力を込める得物で、ラムダは刀だったがオニキスは砲だ。
 オニキスは魔力を過剰に込めたマジカルゲレーテ・アハトをグリンに向けて構えると、撃った。ドォン! と言う轟音と共に、魔力の砲弾がグリンの腹、ラムダが刻んだ傷に直撃する。
「がああああっ!」
 グリンは苦痛に叫ぶが、オニキスの砲撃はまだ終わらない。最初の砲撃に重ねて二度、オニキスはグリンの腹を目掛けて砲撃を行い、命中させた。
「――さぁ、反撃と行こうか」
 今までさんざん攻撃されてきた意趣返しがようやく出来ると、憂炎は意気込んだ。まずは英霊の魂や生き様を己の身を以て具現化せんとの意志を固め、その意志を以て、グリンの腹を狙い漆黒の蛇腹剣・改で突きかかる。
「ぐうっ……!」
 蛇腹剣・改の刀身は、既に付けられた傷を抉るように、グリンの腹へと深々と突き刺さった。
「墜ちろ、コランバイン!!」
「うがああああっ!」
 グリンの背後に回り込んだマルクは、魔力を剣の形に収束すると、大上段に大きく振りかぶる。そして、勢いよく全力で振り下ろした。眩い光と共にコランバインの背面の装甲が縦に大きく斬り裂かれ、中のグリンもまた背筋に沿って深く長い傷を刻まれた。
「己の悪夢の中で、朽ちるといい」
「何を……うっ!?」
 レーカの言葉に誘われ、グリンは瞬時、悪夢の中に落ちた。その夢の中では、コランバインは現実以上にボロボロとなり、グリンも身体中に傷を負っている。すると、その悪夢を具現化するかのように――悪夢ほどではないが――コランバインには突然至る所に細かな亀裂が入り、グリンの身体中にもまた突然傷が開きだして、血を流しはじめた。

●コランバインの自爆
 さすがにグリンは魔種だけあり、イレギュラーズの熾烈な攻撃を受け続けても耐え続けた。だが、ルチアの癒やしを受けたウィルドに攻撃を誘導され、効率的な反撃が出来ない以上、死までの時間が延びているだけに過ぎなかった。コランバインはもう元の紫ではなく血の紅に染まり切って、潤沢だったグリンの生命力も潰える寸前まで来ている。
 トリグラフ作戦の妨害を任された以上、おめおめと逃げ帰ることは出来ない。しかし、任務達成も叶いようのない今、グリンに出来ることは一つだった。
「ミチェーリ大佐……任務を果たせず、申し訳ございません。このグリン、一命を以てお詫び申し上げます。
 ――せめて、此奴らだけでも道連れに!」
 グリンの言葉が聞こえていたわけではないが、最早死に体のコランバインが突如活力を得たかのように動き出したことに、マルクは危険を看取した。
「皆、全力で逃げるんだ!!」
 その危険の正体が何なのかわからないまま、胸騒ぎのままにマルクは叫ぶ。既に戦闘を終えている南部戦線の軍人達も、後方にいる工兵達も、マルクの警告によからぬものを感じて全力でコランバインから離れるべく走る。
「バルナバス陛下、バンザァーイ!!」
 グリンが自爆装置を発動させると、コランバインは周囲を巻き込む規模で大爆発を起こした。マルクの警告があった故に、南部戦線の軍人達も元より後方に退避している工兵達も、爆発に巻き込まれることはなかった。だが、直前までグリンと戦闘していたイレギュラーズは、爆風から逃れることは出来なかった。
 ――ともあれ、コランバインの自爆とグリンの死を以て、後に「マキーホ平原会戦」と呼ばれることになる戦闘は終結した。

 その後、イレギュラーズと南部戦線の軍人は互いの労を労いながら傷の治療を行いつつ、工兵達の保線作業を見守ることになった。癒やしを施すための涼花の歌が、そのBGMとしてマキーホ平原に響き渡った。

成否

成功

MVP

ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
高貴な責務

状態異常

マルク・シリング(p3p001309)[重傷]
軍師
炎堂 焔(p3p004727)[重傷]
炎の御子
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)[重傷]
高貴な責務
ルクト・ナード(p3p007354)[重傷]
蒼空の眼
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)[重傷]
神殺し
ラムダ・アイリス(p3p008609)[重傷]
血風旋華
オニキス・ハート(p3p008639)[重傷]
八十八式重火砲型機動魔法少女
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)[重傷]
微笑みに悪を忍ばせ
シャールカーニ・レーカ(p3p010392)[重傷]
緋夜の魔竜
シェンリー・アリーアル(p3p010784)[重傷]
戦勝の指し手

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。
 皆さんの活躍により、トリグラフ作戦を妨害しに来たグリン麾下の軍は壊滅し、マキーホ平原での保線作業は無事に完了しました。
 MVPは、その癒やしにより憂炎さんとウィルドさんを支えたルチアさんにお送りします。本文中にも記述しましたが、ルチアさんの癒やしがなければ憂炎さんがグリンを抑えきることはできず、グリンは好き放題に暴れていたことでしょう。

 それでは、お疲れ様でした!

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