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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>鼠を狩りては冬支度

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●カナリアは死なず
 冷たい鉱山の中、タテ堀の無限にも思える穴には、ロープに吊された空車(カラバコ)がぶら下がっている。
 いつもであれば勇気を奮い立たせる鉱夫たちの歌は、今は聞こえない。代わりに聞こえるのは――。
「ああん? これっぽっちか? 一日中働いてこれだけかよ」
 新たな監督――ギャンルードの叱咤の声。
 ダラバト炭鉱山は、ギャンルードの支配下にあった。元囚人の彼は、勅令で解放された極悪人である。
「おい。やめろ、じいさんは足が悪いんだ!」
「だから?」
 ギャンルードの声に応えるように、あざ笑うようにカラスが鳴いた。人型の兵士が銃を突きつける。
 天衝種(アンチ・ヘイヴン)――鉱山を支配するモンスターである。
 新皇帝派組織『アラクラン』からの借り物だ。
「別に構わないさ。お前がこのじいさんの分も三倍働くってんならな――おっと、一倍は利子だ。俺にだってさんすうくらいはできるんだぜ、ははは!」
 嗤ったギャンルードの腰掛けた機械の足が折れた。掘削用の機械である。
「っち、使えんガラクタだ」
 いらだち紛れに蹴り飛ばす。
「おい、その機械は俺の友のようなもの。長らくの相棒で――」
「じゃあ、お前も墜ちな」
 突き落とされた鉱山用のロボットが奈落の底に墜ちていく。男もまた、落下する。
 高笑いだけが響いていた。
 ギャンルードに突き落とされた男の悲鳴がどこまでもどこまでも尾を引いて――。

 それからふかふかとしたものにぶつかって着地した。
「大丈夫?」
「あっ!? 配給の奥さん。バギー! あれ? お前たち、生きてたのか?」
 巨大なキノコの上で男は目を開ける。それから、導かれるままに横穴に逃げ込んでいった。
 生きていたのだ、仲間が。死んでいたと思った仲間は生きていた。全員が……。
「そう簡単に死んでたまるかね。あたしらにだって、鉄の血が流れてんだよ」
「こうして横穴に入って隙をうかがってたってわけさ。幸いにして死傷者は0だ」
「ああ……」
『今月の死傷者0! ノー労働災害』という旗を見上げて鉱夫は瞑目した。
「「冷血卿」がなんて言ったか知ってるかい?」
「この鉱山に価値はない。だから、いざというときは放棄して構わないと。ついでにいえば俺たちの救出に割くまでの戦力はない」
「つまり?」
「……こちらを気にすることはない。大いに戦え、だ」
――違う。
「自力で逃げてこい」であった。
 実際、逃げるだけならおそらく可能であったのだ。ただ、彼らは鉄帝人であるために、「戦って勝つ」ことが一番に来る。
「……わかってる。俺たちでアイツらを倒そう! それで、『あのこと』を知らせないと……ここはまだ枯れてない。きっと喜ぶな、あの人も!」
 まだ、この鉱山からは石炭がでる。

●「冷血」
『されど、一番強い者が国を治めるというこの滅茶苦茶なルールが鉄帝国が長く戴いてきた秩序なのだ』。
「冷血卿」グラナーテ・シュバルツヴァルトは言った。

 前皇帝ヴェルス・ヴェルグ・ヴェンゲルズの支配が、「古い体制」であるという自覚はあった。グラナーテ・シュバルツヴァルトは帝政派/バイル一党に名を連ねている。

 ――新皇帝のバルナバス・スティージレッドの勅令。この国の秩序を粉々にまで破壊し尽くし、ただあるのは全てを無に帰すような暴力の肯定。
 だが、表だって逆らうことはできない。それがこの国のルールだからだ。

 鉄帝内でのグラナーテ・シュバルツヴァルトの評判は良いとは言えない。今もなお、である。この騒動のさなかでも異を唱えず、法は法であるとして認め、しかしながらただ沈黙を貫いていた……表向きは。
 あのギャンルードとかいう男は幸いにも『アラクラン』の部隊ではない。勝手にやってきた男が、ただ勝手に暴れているだけよ。ここに鉱山を取り戻すための道理は立った。
 しかし……。
「放棄せよ、と言ったのだが。一向に逃げてこない。逃げられるだけの時間は確保したはずだが」
「ふむ、細い手足が必要なようだ」
「……」
 恋屍・愛無 (p3p007296)は状況を聞いて頷いた。
「評判の通り冷血であれば見捨てるという選択肢もあるだろうにな」
「利と損失を天秤にかけたまでだ。熟練した炭鉱夫どもの価値はあなどれん」
 冷血卿と呼ばれる男の声はどんな温度も伴っていない。
「作戦は?」
「忍び込み、騒動を起こして『ダラバト炭鉱山』を取り戻せ。損失はできる限り避ける必要があるが、鉱夫の生死までは問わん」
「騒動さえ起こして敵の目を引けば奴らも頑丈だからなんとかなる、と」
「……」
「卿、彼らが対抗するのも卿への敬意ではないか」
「だとしたら皮肉なものだ。それが作戦の阻害となっておる」
「だが、案外、「ダラバトは死んでいない」のかもしれないぞ」

GMコメント

ダイヤがでるまで、掘るぞー!

●目標
「ダラバト炭鉱山」の制圧

●状況
「ダラバト炭鉱山」内には天衝種(アンチ・ヘイヴン)が巣くっています。
放棄させ、爆破して一網打尽にする予定でしたが、鉱夫たちはカンタンに持ち場を放棄せず、立てこもってしまいました。
ところが、実はまだ埋蔵があるので、無事に鉱山を取り戻すことは利益になることでしょう。

●場所
・ダラバト炭鉱山
鉄帝の炭鉱です。複雑に掘り進められた地下坑道を持ちます。細くうねった道は道順を知らなければ迷ってしまうほどです。たて穴やトロッコ、コンベアやダイナマイトなどがあります。敵には使いこなせません。
※ダイナマイトでの爆破や、その他の手段での破壊は慎重に行えば廃坑となることはないでしょう。

●敵
ギャンルード(現場監督)
「で、お前は俺にどういう利益をもたらしてくれるんだ?」
元、囚人の男です。もともとラド・バウの闘士でしたがギャンブルで身を持ち崩し、ケンカの果てに人を死に至らしめて収監されました。勅令に乗じて解放されました。
酒を飲んで威張り散らしていますが、強敵でもあります。
闘士時代は大剣と力任せの攻撃が持ち味でした。今はチェーンソーを持っています。

ヘイトクルー✕10
天衝種(アンチ・ヘイヴン)。
人型をとった怪物です。人類に敵意があるようです。ほとんどが剣を持っていますが、うち3体ほどは機銃を持っているようです。
 
ヘァズ・フィラン(黒天烏)✕1
天衝種(アンチ・ヘイヴン)。カラスに似ています。見張りのような存在です。サボっているものを見つけるとつついて起こし、現場監督にチクります。

●友軍・救出対象
・クラフターズ✕6
ダラバト炭鉱山で働いてきて、隠れ住んでいるものたちです。
せまい坑道に逃げ込み、再起を狙っています。
ほぼ筋骨隆々の男どもとはいえ、モンスターにあらがうのは彼らだけでは厳しいことでしょう。

・働かされている鉱夫✕30
働かされているものがいます。
モンスターに見張られているため身動きがとれませんが、おそらくは大きな隙さえあれば安全な地帯に逃げ込むことができます。いくらかは消耗しておりケガ人もいるので過信はできませんが、それでも鉄帝の者たちです。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <総軍鏖殺>鼠を狩りては冬支度完了
  • GM名布川
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年10月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
※参加確定済み※
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
ジュリエット・フォーサイス(p3p008823)
翠迅の守護
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

リプレイ

●鉱山の沈黙
「炭鉱にいるはずの鉱夫たちが戻ってこない、ですか。
……もしかして、彼ら自身でギャンルードをどうにかする心算になってしまっているのでは……?」
『夜を斬る』チェレンチィ(p3p008318)は冷静に状況を推察する。
「そんな、無茶ですよ。悪い人につかまって、きっとごはんもちゃんと食べられてないです」
『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)は悲しげに三角の耳をぺたんと畳んだ。
「非道な労働を強いられているんですね」
『シロツメクサの花冠』ジュリエット・フォン・イーリス(p3p008823)は炭鉱夫たちの境遇の痛ましさに思いを馳せる。
「早く、助け出さなければ……」
「鉄帝の方々ですからね、戦って勝てば全て良し、と抵抗を続けているのかもしれません。……炭鉱内は広いでしょうし、少々骨が折れそうですが、助けに向かいませんとね」
 チェレンチィの言葉には、淡々とではあるが、仲間を安心させるような響きがあった。

「冷血卿と“呼ばれている”、ねぇ?」
「なかなかどうして。グラナーテ君も慕われているようではないか」
『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)と『戦飢餓』恋屍・愛無(p3p007296)。冷血卿は咳払いをした。
 あくまでも、その態度を崩すつもりはないらしい。
「まぁ炭鉱夫さん達の救出に繋がる作戦に力を貸すのはやぶさかじゃないわ。「人の成す事績は、動機ではなく結果から評価されるべきである」って、昔の偉いマキャベリさんも言ってたらしいし」
「ふふ……」
『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)は、かつての蛍の世界に思いを馳せた。
「血の気の多い方々の中では、冷静は冷血と見られてしまうのでしょうかね。お仕事を請ける上ではその方がやりやすいですけども」
「熟練の炭鉱夫の価値はあなどれない、か。ゼシュテル人に価値を見出してくれるエライ人は今の状況だと助かるね」
『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)はにっこり笑う。
「冷血卿とは言われておりますが、鉱夫さん達の生命を慮る良い方なのですね」
 と、ジュリエット。
「「ダラバトは死んでいない」なら、やることは一つ。だよねぇ?」
『繋ぐ者』シルキィ(p3p008115)に、メイはぐっと胸を張る。
「もちろんなのです。資源は大地からの大切な恵み。鉄帝という国を、住まう人を潤す大事な恵み。
勿論鉱山だけじゃなくてそこで働く人も大事な存在。みんなみんな、守りきってみせるです!」
「だねぇ。いち帝政派として、保健の先生として。坑夫さん達を助けて、鉱山も取り返してみせるよぉ!」
「うん。資源はもとより、真っ当な人間は鉄帝の宝だからね! 頑張って助けに行くよ!」
「冬も近い。この時期に生きた鉱山を抑える意味は大きい。必ず奪還する」
 愛無はじっと旧知を見た。
「なんだ」
「爺のつんでれなぞ流行らぬとは思うが」
 またしても、咳払いをした卿に向けて……。
「どうした、風邪か? この時期だからな。気をつけると良い」
 と、軽口を叩いたのだった。
「あったかくして待ってるといいよぉ。良い知らせを持ってくるからねぇ」

●ダラバトの小さな鼓動
「囚人程度では、帝都の情報なども持つまい。さっさとケリをつけて工夫達をねぎらうとしよう。グラナーテ君も其れを望んでいるだろうしな。顔には出すまいが」
 愛無の言葉に、仲間は頷く。
 嗅覚。
 聴覚。
 視覚。
 暗く、手がかりのない鉱山の中でも、イレギュラーズたちはそれぞれに手段を持っている。
 イグナートは思い切り暗視のポーションを飲み干した。ジュリエットは少しずつ味を確かめるように瓶をあける。
 チェレンチィはその場から動きはしないが、それでもその目は、後方も含めて周囲をとらえている。
「うん、見えてきたよ。キミはどう?」
「はい、少しずつ……」
「なかなか入り組んでいるようだな」
 まだ暗い穴の底に向かって、愛無は匂いを嗅いだ。
「手分けをするなら、おまかせください」
 珠緒のファミリア―が、2つに分かれて坑道を走る。
「どうだ? 見えるだろうか」
「ありがとうございます」
 愛無はかすかに発光する。ジュリエットはまぶしそうに目を細めた。
「こっちは、モンスターの鳴き声、だね」
 シルキィが頼みにするのは、音と匂いの両方だ。
「……カラスの羽、ですか」
 チェレンチィはそっと羽をつまみ上げる。偵察のようなものに使われているとみていいだろう。
「まずは救助が先……うん、……こっちだね!」
 音の反響で、イグナートは周囲の地形を把握する。
 進路をあちこちにかえて進むが、注意を払って進むおかげで、敵と遭遇することはない。メイの前に小石が転がってきた。
「精霊さんですね。大丈夫です。助けにきたですよ。道は、こっちでいいですか?」
 道を教えてもらう……ついでに、火の精霊はぽひゅっと火花を散らした。
「ここは、……まだ役に立ちたいのですね。分かってるです、ぜったい取り戻すですよ」
 簡単な地図を書きながら、メイは土をつけながらも狭い道を進んだ。

●役に立ちたい
「なんとかして……俺たちの力で少しでもあいつらの戦力をそぐぞ!」
 息をひそめた鉱夫たちが、決起の誓いをしている、……まさにそのときだった。
「あ、誰かいる、ゲンキそうだね」
「なんだ!?」
「よっ、と!」
 大きな岩を、イグナートがどかす。
「もうだいじょぶですよ! メイたちは皆さんを助けに来たです」
「た、助けに?」
「落ち着いて、蛍さんの話を聞いてください」
 ざわめく彼らに、珠緒はよく通る声で伝える。
「ボクたちは、グラナーテ・シュバルツヴァルト卿の依頼で救助に来たイレギュラーズ」
 蛍はぐるりと周りを見回す。
「そう、味方よ」
「戦うのはメイたちのお仕事です! 皆さんのお仕事はここで鉱夫として働くことです。
これからも働き続けるために、ここは任せて逃げてほしいですよ」
「敵を前にして逃げる、だって? そんなことはできないさ。加勢も来たんだ。俺たちは……」
「君、ケガをしているよねぇ? 保険医の目はごまかせないよぉ」
 ホワイト・クイーンの目がきらりとかがやいた。シルキィは腕をとる。
「みなさんも、こっちです」
 メイのクェーサーアナライズが、クラフターズのケガを癒していった。治療が必要な状態だったのだ、と、そのときに初めて自覚したものもいる。
「君は、骨が折れてるよぉ。ムリしちゃだめだよぉ」
 シルキィは救急バッグを開くと添え木を取り出し、固定する。
「へん、鉄帝の男がこんくらいで……あれ!? いた……く、ない!」
 天蚕癒糸。白い糸がしみわたるように身体を癒す。
「勇ましいのは良いことです。ですが、その状態では」
 ジュリエットが言った。
「卿は貴方達の経験と“力”を惜しんでいるのよ! 貴方達の真の戦場――鉱山での採掘のために!」
「そう! 冷血卿はキミたち炭鉱夫の価値を認めてる! ココよりも命を守るようにってさ! その方が利になるからって!」
 変に飾らずにそのまま伝えた方が冷血卿のイメージ的にも信じてもらえそうだと、イグナートは判断した。
(しかし……彼らも力になりたいのでしょうね)
 説得を……それか敢えて、危険のない程度に共闘してもらう方が、彼らの気持ちに沿えるのかもしれない。
「なら、一緒に戦うのはどうでしょう? ただ……」
 直接戦うわけではない。
「ああ、そうだ。炭鉱夫のミンナを逃がすのに協力してもらいたいな!」
「皆様の助けが必要です。……ですから、ついてきてください」
 イーリス国第一王女。生まれ持った王者の風格か、屈強な男たちですらもはいと言ってしまう迫力があった。
「大丈夫、歩けるようになった」
「……そういえば、おなかがすいてたんだ」
「うちゅうどうなつ、おいしいよお」
「おいしい、か。そうだな。食べることは必要だろう、働くなら」
 愛無が、どこか懐かしそうに言った。

●鉱山を取り戻す
「……魔物の一隊が来ます。休憩でしょうか」
 ジュリエットが、魔物の気配をとらえていた。
「数匹、ってところですねぇ。今ならまとめて叩けますか」
「もう廃坑にするならともかく、まだ価値があるならばなるべくあちこち壊さずに制圧したいです」
 メイは言って、頷いた愛無とともに保護結界を張り巡らせる。
「あの人たちが守りたいのも、きっとうそういうもの、なのです」
 愛無は音もなく、地面をけり、壁にとりついた。
「いきます」
 珠緒の魔光閃熱波が逃げ場のない通路で敵に降り注ぎ、チェレンチィの影が一体を倒す。立ち上がったヘイトクルーを、イグナートがうちのめす。
「よしっ、こうやって少しずつ……」
「! ……あれは!」
 イレギュラーズ一行よりも、かすかに遠いところ。
 男が、ムチで打たれようとしている。
「どうする?」
 愛無とチェレンチィは仲間に問うた。合理的に考えれば、あれを囮にして、より安全に制圧してもいい。
 けれども……。
「助けたいです、痛そうです」
 メイが言った。
「大丈夫です、行きましょう」
 と、ジュリエット。
「別にちょっとまとめて相手するくらい、わけないよ」
「きまりだね。それじゃあ、えーい」
 シルキィの放った、「聖夜ボンバー」が、見当違いの方向にばちばちと音を立てる。
 くちばしを開ける黒天烏に、ひゅっと石礫が飛んだ。ただの石ではない。回転の加わった石は掘削具のようですらあった。
 無影拳・穿孔礫花。
 イグナートの一撃である。
「よしっ!」
 これで、逃げる時間が稼げた。
「いまだ、俺たちも!」
 クラフターズたちが仲間を引きずっていく。

 奇襲が決まった。
 相手の人数は当初の予定よりも多いが、だが、対応は遅かった。
「こちらだ」
 機銃を持ったヘイトクルーが愛無を狙う。だが、愛無の動きはヒトのそれとは異なる。無理な角度から狙いをつけた銃撃はかすることすらしない。代わりに、愛無の作り出した槍が突き刺さり、砕け散った。
 もう一体は、天井を狙っている。
 しかし、音もなく、前触れもなくどさりと倒れた。ヘイトクルーの銃は発射されることはなく、砲身が折れている。
 トライノーイシェスチ。チェレンチィの操るコンバットナイフは飛翔するかのように、最小限の動きで敵を打ちのめす。
 深呼吸したジュリエットは、紋章を浮かび上がらせる。タクトを正々堂々と掲げ、嵐を巻き起こした。向けられる刃に気丈に立ち向かう。
「負けません!」
「どうする。やっぱり、守って、戦ってもらってるばっかりじゃあ……」
「だめだ。聞いてたろ!」
 ジュリエットは、彼らに言ったのだ。
「勇敢に前に出るだけが戦いではありません。
時には敵に背を向け、生き残る事もまた戦いなのですから。
皆さんが生きている限りダラバトは死にません」
「でも。あっ!」
 こちらに気が付かれ、ヘイトクルーの攻撃が鉱夫を向いた。けれどもそこには、力の限りを振り絞って立っているメイがいた。
「メイつよいもん。攻撃されても大丈夫だよ!」
 メイはぎゅっと胸を張った。
「……!」
「ここは引こう。……でも、俺たちにもできることはある! 嬢ちゃんら、どいてくれ!」
 起動したトロッコが、思い切り天衝種にぶつかっていった。
「ありがとうございます」
 ジュリエットは振り返り、微笑んだ。
「あとはコッチの仕事だね!」

「おい、一体なにしてやがる!?」
 ギャンルードが遅くやってきた。
「ここのボス、ですね。重役出勤とは。少々遅かったですね」
 御霊守を握りしめた珠緒は、術式を編んだ。
 魔光閃熱波。神秘が降り注ぐ……。
「くっ、貴様らあ! ただじゃ済まさねぇぞ、野郎ども、かかれ!」
「自称現場監督だそうですが……怒鳴るだけですか? 楽なお仕事ですね」
「ああ?」
「で、貴方は炭鉱にどんな利益をもたらしているんです? 役立たずに見えますが」
「ふっざっける、なあ! とっつかまえて、死ぬまで働かせてやる!」
 ギャンルードは吠える。だが、怒っているのはイレギュラーズも同じだ。
「強制して労働をさせるなんて、とても酷い事です。
反省して下さいませ!」
 ジュリエットはびしりとタクトを突きつける。
「けほっ……」
「……」
 咳をする珠緒に、蛍は大丈夫? とは聞かなかった。
 代わりに、「大丈夫」と言って、刀を振るう。
 吐血、出血は慣れたものだ。この世界なら、立っていられる。目を離せなくなるように、珠緒は負傷も気にせず煽り続ける。それが自分の役割だと珠緒は決意していた。幻想の福音が傷を癒す。心配そうなメイも、力を貸してくれる。
 黄金残響。可能性を蛍に。自分の分までもを託して、戦場に立ち続ける。
「嫌ですね、無様に落ちぶれた敗残者というのは……自身を顧みることもできない」
 こちらは、一人ではない。
(皆さんが他の敵を排除して合流すれば、それで終わり)
 チェレンチィのナイフが、半月を描くように軌道を変える。ヘイトクルーは、愛無の槍で貫かれてその場に崩れ落ちる。
「はあっ!」
 ヘイトクルーをひきつけたイグナートは、拾った線路……のかけら、鉄の棒を思い切り振り回した。あるものは何でも使う、それがイグナートの流儀である。
 そしてもう一つ。
 頼みにしていた武器をつかまれるやいなや、おもむろに投げ捨て、拳に切り替える。最後に頼るのは徒手空拳。自分の肉体である。
「はっ」
 イグナートを強く恨んでいる黒天烏が、吠えたてるように迫る。
「だーめだよぉ」
 しかし、シルキィの糸にからめとられ、黒天烏の翼が折れ曲がる。無軌道な罠ではない。それは、高度に組み上げた掌握魔術。
 ヘイトクルーの2体を同時にからめとりながら、鳥は、粉々に砕け散った。
「アリガト! これでシュウチュウして戦える! よし、ぶっ飛ばすよ!」
 イグナートは拳を前に突き出すと、壁を蹴りそのまま突進していく。
 覇竜穿撃。
 ぶっ飛ばすという宣言のもと、威力は並ではなかった。受け止めたギャンルードの装備が妙な圧力を受けてへこむ。
「ぐあ、なんだ……!? 貴様、何者だ?」
「イグナート・エゴロヴィチ・レスキン」
 一瞬だけ、落ちぶれた男は、かつての闘士のような表情をみせた。だが、それも一瞬。
 チェレンチィの置き去りにした雷鳴が轟いて武器を伝った。
「だいじょうぶ。そのまま通り抜けて、いいよぉ」
「ああ」
 仲間の攻撃の精度を疑うこともない。
 シルキィの糸をくぐりぬけ、愛無は飛んで、一撃を食らわせる。
「なんだ、この技は!?」
「戦う養護教諭《ほけんのせんせい》の技、見せてあげる!」
 警戒して防御の構えを撮ったギャンルードであったが、今度のこれは攻撃技ではない。
 シルキィの天糸癒糸が、傷を拭った。大丈夫、と、勇気づけるようだった。
「メイも、お手伝い、するです!」
 メイの歌声。コーパス・C・キャロル。それは声。誰かに伝えるようにという願いを込めた声。
「いきます!」
 ジュリエットの魔光閃熱波が、敵を貫く。それと同時に、見えない衝撃を受けてギャンルードは膝をついた。
「毒だ」
 愛無が言い放った。
「また。妙な攻撃を隠し持っていやがって……」
「観念した方がいいと思うがね」
「は、とんでもねぇ。俺はまけぇねぞ!」
(退かないか。その判断こそが毒だが、都合が良い。下手に逃げられない方がいい)
 ここで決着をつけるべきだろう。
 桜吹雪が舞い落ちる。
 狂咲。狂ったかのように、蛍が巡らせる花弁の数々が、ギャンルードに血を登らせているのだ。
(こいつ、なんども、何度も立ち上がってきやがる)
「リターン(利益)よりもまずリスク(損失)を考えないと、長生きってなかなかできないらしいわよ?」
 この流れに身を任せて、少しでも。
 メイの声が響き渡る。武器を取り落としそうになったとき、シルキィの糸がくいと手を引いて、大丈夫だよと包み込んでくる。
 まだ戦える。血の味を飲み込んで、珠緒は待つ。蛍を待つ。仲間を待つ。
 ひきつけた蛍は、美しく藤桜と桜雲を操っている。
(蛍さんの世界の、かけら、ですね)
 今、ともにあるのが、うれしい。
 美しく繰り出される技はきらめいていて、いくつもに分岐していく。ギャンルードはひきつった笑みを浮かべる。
「もっと手はあるわ、これはどう?」
 突き上げるような急所への三突をおとりに、蛍は後ろからツキを刈り取る。
 メイの幻想福音が、後押しとなった。
 負けない。
 攻撃は終わらない。
「ここだああっ!」
 イグナートの一撃。覇竜穿撃。坑道を穿つ一撃。
 まるで掘削のドリル、かのようだった。

●奪還成功の報
「よしっ、おしまいだね。うーん、もっと技の改良ができるかな……」
「終わりました」
 ジュリエットが振り返り、炭鉱夫たちに声をかける。
 チェレンチィが油断なくギャンルードをぐるぐる巻きにする。
「全員、いるか?」
 愛無の声に、炭鉱夫たちがのそのそと顔を出してくる。
「がんばったです、もうだいじょうぶですよ」
 えへんと胸を張るメイのすがたに、戦士たちは本当の戦士の心を見出した。
「はいはーい、ケガ人はいないよねぇ? 大丈夫、すぐ治るからねぇ」
「さて、ボク達と冷血卿にとって評価できる結果を掴めたかしら?」
 蛍は微笑み、珠緒に手を差し出した。
 ダラバト鉱山は無事だ。そこで生きるものたちも。
 冷血卿は当然の結果だ言わんばかりにすんとしていたが、それでもイレギュラーズたちをねぎらったのであった。

成否

成功

MVP

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃

状態異常

なし

あとがき

無事のダラバト奪還、お疲れ様です!
冷血卿は当然であると表情を崩しませんが、誇らしげであったのではないでしょうか。

●運営による追記
 本シナリオの結果により、<六天覇道>帝政派の生産力が+10されました!

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