PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<総軍鏖殺>赤靴と暴牛とサボり魔と

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「あーもう、忙しいッス! ここならサボり放題と思ってたんッスケド! ……まぁ、しゃーなしッスカ」
 手慰みにヨーヨーをくるくるしながらヴァイナは普段からは考えられないほどに鋭い視線を覗かせる。
「しかし、上もとんでもないものを押し付けてきたッス……」
 ヴァイナの手元にはある人物に関しての資料がある。
「こんな使いにくそうな奴、よりにもよって自分のとこに連れてくるとか……
 これ、どう考えても当てつけッスヨ……」
 口の中で転がしていた飴玉を気づけばカリリッと砕きそうになりながら、溜息を一つ。
「――おっ? この名前……」
 資料をぱらぱらと捲ってふと目に着いた名前に手を止めた。
「レッドちゃんが関わった人なんッスカ。
 へー、ラドバウへの移籍もレッドちゃんが推薦人の一人なんスネ……なるほどねぇ……」
 ヴァイナの瞳に知性の輝きが灯れば、すぐさまある人物への手紙を書き始めた。


 鉄帝動乱、六派閥に分かたれた混沌大陸北方の雄、ゼシュテル鉄帝国。
 レッド・ミハリル・アストルフォーン (p3p000395)はヴィーザル地方に訪れていた。
 赤靴命名領地『クラブゾン』――レッドが割り当てられた領地のほど近くだ。
 今は兵士に先導されて本営らしい建物の中を歩いていた。
(気づいたらボクの領地でサボってることはよくあったっすけど、向こうから呼び出されるのは初めてっす……)
 呼び出しに合ったのは8名――その中でレッドだけが名指しだった。
 呼び出した人物、ヴァイナ・ヴァールはクラブゾンの中でも特にヴォイテクへと入り浸っては仕事をサボる駄目将官――という印象がある。
「有事の際は頑張るからって言ってたっすけど」
 国の結束が緩みつつある鉄帝国、それに対して漁夫の利を得んとノーザンキングス連合王国が動きを見せつつあるのは知れた話。
 まさしくもって有事である。そんな状況で、彼が自分を呼び出すのはなぜなのか――レッドとしても興味がないわけではなかった。
 兵士が立ち止まり扉をノックすれば、中から入室するようにと告げる声がした。
 扉を開けてくれた兵士に一礼しつつ、中へ。
 中にいるのは2人。片方はヴァイナであり、もう片方は彼の副官だろうか。
「来てくれて嬉しいッス。それじゃあ、あいつを連れてきてもらえるッスカ?」
 こちらをみて笑いかけたヴァイナがその視線を副官に向ければ、小さく頷いた副官はこちらにお辞儀しつつ扉の外へと歩いていった。
「時間も無いんで、直ぐに本題に入らせてもらうッスヨ。
 実はレッドちゃんたちにある人物の監督をお願いしたいッス」
「ある人物、っす?」
「すぐ来ると思うッスヨ」
 そう言ってヴァイナがレッドたちの後ろへと視線を投げかける。
 それからしばらく。
 扉が開いて副官に押し立てられるように1体の魔物――いや、魔物のような威容の存在が姿を見せる。
 2mはあろうかという長身と隆々とした筋肉の着いた人の肉体に、牛の頭部。
 ミノタウロスなる怪物を思わせるその男には見覚えがある。
「グィエンさん!?」
「ブルゥゥ……誰かと思えば、あんときの……」
「レッドさんには説明は不要ッスネ。
 他の7人宛に説明させてもらうと、そいつは元鉄帝軍人ッス。
 対ノーザンキングス連合王国戦線と戦って武勲を挙げてきた人物なんッスケド、
 残念ながらちょっと性格に難があって軍規違反までし出したんで、除隊処分になったッス」
「……ブルル、ラドバウに入れられるとは思わなかったけどよぉ」
「ラドバウでの調子はどうっす?」
「……ふんっ」
 レッドが声をかけるとグィエンがぷいっと顔を逸らす。
 拗ねているかのような仕草だった。
「ノーザンキングス連合王国の連中が大規模攻勢に出るって話があるッス。
 ――だったらその対ノーザンキングス戦線で武勲を挙げ、
 連中にも多少なりとも名を知られた男を遊ばせとく理由はないっていう話ッスネ」
 鼻を鳴らすグィエンから視線を外せばヴァイナはさらりと彼がここにいる理由を告げた。
「挨拶は充分ッスネ。戻っていいッスヨ」
 そう言って視線を副官にやれば、グィエンは副官に連れられて部屋を出て行った。
「さて――それじゃあ、本題に入るッス。
 さっきも言った通り、レッドちゃんたちにはあのグィエンを監督してほしいッス」
「監督……?」
「レッドちゃんは分かってると思うッスケド、あいつはまぁ~~協調性がないンッスヨ。
 普通に将として使うのも、兵として使うのもまぁリスキーッス。
 あいつを最も効果的に運用するなら、もういっそのこと『戦術兵器』として扱うのが一番と思うッス。
 分かりやすく言うと、適切な位置に投入して勝手に暴れて貰う。
 あいつが勝手な動きをし始める前に退却させる。そういう監督が必要なんッスよ」
「そのタイミングをボクらが決めるっす?」
「そういう事ッス。自分が決めたっていいんッスケド、
 一度あいつに勝ってるレッドちゃんたちの指示の方があいつもすんなり受け入れると思うッス」
 そう言ってヴァイナは一枚の資料を取り出す。
「ここに天衝種が集まってるとこがあるッス。
 今はじっとしてるみたいッスケド、いつ動き出すか分からないッス。
 あいつの2度目の初陣には相応しいんじゃないッスカ?」
 自称無能なる智将、ヴァイナ・ヴァールの戦略眼が静かにイレギュラーズを見つめていた。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 レッドさんの関係者、ヴァイナ・ヴァールさんからの依頼が発生しました。

●オーダー
【1】天衝種の撃破
【2】『暴牛驍勇』グィエンの試運用を無事に終わらせる。

●フィールドデータ
 ヴィーザル地方、ヴァイナの任地及びレッドさんの領地にほど近い場所に存在する荒野。
 標高こそ高めですが傾斜の比較的緩やかな山がいくつも存在しています。
 盆地のように広がった場所、傾斜の緩やかな山、丘のように高くなった場所、
 盆地同士の間を切り拓いた谷のように狭い場所など様々立地があります。

 天衝種は盆地のように広がった場所に4~5匹ほどずつの群れとなって点在しています。
 このまま素直に盆地で戦うもよし、高台に登るもよし、狭い場所へ誘い込むもよし。選択は自由です。

●エネミーデータ
・グルゥイグダロス×???
 巨大な狼のような姿の怪物です。
 俊敏にして獰猛。強靭な爪や牙を受ければ【出血】系列、【致命】が生じる可能性があります。
 また、牙には【毒】系列、【麻痺】、【痺れ】を与える神経毒が仕込まれています。

・『獣爪』
 フード付きのローブで全身を覆った謎の存在です。
 かなり深く覆われており正確な風貌は不明ですが、獣種を思わせる体毛が僅かに覗いています。

 グルゥイグダロスの中に紛れています。
 この存在を中心に纏まっている群れの雰囲気は他の群れとも異なっているようです。
 詳細は不明ですが、味方ではないことはまず確実と思われます。

・ヘァズ・フィラン×20
 巨大な恐竜が鳥へと進化する過程に生じた存在を思わせる巨大な鳥型の怪物です。
 その巨体ゆえに飛ぶことは出来ません。
 その鳴き声は【足止め】系列、【呪縛】、【呪い】を与える効果があります。
 また、冷気を纏っており攻撃には【凍結】系列を与える効果があります。

・『飛天』
 フード付きのローブで全身を覆った謎の存在です。
 かなり深く覆われており正確な風貌は不明ですが、ローブを貫いて鳥類の翼が生えています。
 詳細は不明ですが、味方ではないことはまず確実と思われます。

 ヘァズ・フィランの中に紛れ込んでいます。
 この存在を中心に纏まっている群れの雰囲気は他の群れとも異なっているようです。

●NPCデータ
・『サボり魔将校』ヴァイナ・ヴァ―ル
 レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)さんの関係者。
 鉄帝の軍人であり、レッドさんとは領地と任地がご近所さんな関係性。
 普段はレッドさんの領地でサボりまくる駄目指揮官ですが、
 今回は事が事だけに実力の片鱗が見えつつあります。

 今回、グィエンが部下として新しく配属されてきました。
 今回の人事について、ヴァイナは『当てつけッスネ!』と考えています。

・『暴牛驍勇』グィエン
 レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)さんの関係者。

 参考シナリオ:https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/6804

 かつてヴィーザル戦線にて活躍していた武人です。
 猪突猛進の戦ぶり、驕慢な性格から鉄帝軍上層部に罷免状を叩きつけられ、
 イレギュラーズの奮闘により帝都に送還されました。

 ノーザンキングスの大規模攻勢が噂される中、かつての戦績が評価され、
『扱いづらいのは分かっているがある程度は許容して再起用』するながれになりつつあります。
 ――というのが表向きの理由。実は実力主義気味の性格が新皇帝派に転びかねないため、
 僻地に再度飛ばされたというのが本当のところです。

 シナリオ中、任意のタイミング、任意の場所に向けて誰かが突撃を命じることが出来ます。
 突撃を命じられたグィエンは指定された場所に向かって【移】付の超域攻撃で吶喊した後、常に敵陣に向かって突き進みます。
 処理的にはターン開始時にランダムの敵から【怒り】が付与されたような状態となるでしょう。
 解除することも一応は可能です。

 驚異的なタフネス(EXF)と高めのHP、物攻、防御技術を持ち、【飛】と【ブレイク】を有します。
 リソースの殆どを火力に注いでいます。
 独りで好き勝手やらせるといつの間にかガス欠を起こしていつの間にかぶっ倒れます。

 行動は2種類。何も指示が無ければ下記の2つのうち何れかを行動します。
【1】移動後、一番近くの敵に向けて近扇範囲を大斧で薙ぎ払う。
【2】移動後、一番近くの敵に向けて中貫範囲へ大斧を振り下ろす。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <総軍鏖殺>赤靴と暴牛とサボり魔と完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月18日 22時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レッド(p3p000395)
赤々靴
シラス(p3p004421)
超える者
ガヴィ コレット(p3p006928)
旋律が覚えてる
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
佐倉・望乃(p3p010720)
貴方を護る紅薔薇
レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)
青薔薇救護隊

リプレイ


 巨大な鳥類が大地を闊歩し、双頭の狼たちが吼え、あるいは眠りながら地上を埋めている。
 多数の魔獣に埋められた戦場を臨んでイレギュラーズ達は準備を整えていた。
「意外な所でまたグィエンさんに会えるなんて思ってもなかったから吃驚っす。改めてよろしくっす!」
 そう傍に控える牛頭の武人に『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)が声をかければ。
「……ブルルゥ。言われた通り動くように努力はする」
 それだけ言ってグィエンがついっとそっぽを向いた。
「またそっぽ向かれたっす……」
 少しばかりとしょんぼりした様子を見せたレッドはそのまま戦場を見てから。
「まずは成長したボクらの戦い暫く見学してくっす。
 合図出たら思いっきり暴れていこーっす!」
「ブルルゥ」
 グィエンがゆっくりと斧を持ち上げた。
「とてもいい体つきで、気合も入っているし……戦ってみたいなぁ」
 そんなグィエンの様子を見て戦闘狂気質の片鱗を覗かせつつ、『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)はそんな言葉を漏らした。
「グィエン殿、今日はよろしくね、見せ場はもちろん用意するから」
「……ブルゥァ」
 小さな呟きとも鼻息とも取れる物だけが返ってくる。
「久し振りじゃなグィエン殿! ラド・バウでの生活はどうかね?」
 そう豪快に笑いかけるのは『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)である。
「ブルゥア……狭苦しくていやにならぁ……」
「ガハハそう言うんじゃない! 戦った経験がこの戦いでも生かせる筈じゃろう!
 この動乱でまた武勇を見せて欲しい!」
「ブルルゥ……」
「うむうむ!」
 オウェードはバシバシとグィエンの背中を叩きながら笑い飛ばす。
「グィエンさんとは、はじめましてですね。
 とても強い武人さんと聞いておりますので、凄く頼もしいです。
 わたしも精一杯頑張りますので、よろしくお願いしますね」
 続けて話しかけた『赤薔薇の歌竜』佐倉・望乃(p3p010720)にグィエンがどこか気をよくしたような顔をする。
 自己肯定感でも擽られたような様子だ。
 褒められれば気分を良くするとは何とも御しやすい。
「グィエンさんは枠に収まらない御仁なのでしょうね。
 けれども魔物と悪党が溢れる今の鉄帝では貴重な戦力に違いありません」
 過去の経歴を流し見程度に確認して、『旋律が覚えてる』ガヴィ コレット(p3p006928)は感想を漏らす。
「力を見事使いこなしてもらって戦線に復帰頂きたいです」
 ゆっくりと準備をするグィエンの方を見て、微かな笑みをこぼす。
「くくっ、いいですねえ、あの手の強い脳筋は。
 私にもああいう使いやすい部下がいると助かるんですがねぇ……」
 そんな呟きを漏らすのは『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)である。
(フリーならスカウトでもする所ですが……ま、引き抜きには応じないでしょうし、
 せいぜいこの仕事では働いてもらいましょうか)
 グィエンの様子から視線を外して、ウィルドは指笛を吹いた。
 姿を見せた鳥を空へと送り出せば、その視線を共有する。
(さて……こちらにとって都合のよさそうな場所へ誘導できればいいのですがねぇ)
「掃除の時間だ。倒しても倒しても次々に沸いてきやがって……ったく」
 魔獣の数を確かめながら『竜剣』シラス(p3p004421)は小さく吐き捨てるように呟いた。
 ヘァズ・フィランの方はまだしも、グルゥイグダロスの数は数えるのすら億劫になるほど。
「ちょうど良さそうな場所を見つけましたよ……行きましょう」
 シラスの呟きに合わせるようにウィルドはそういうと、胡散臭い笑みを浮かべて動き出した。
「……ええ、行きましょう」
 そう呟く『青薔薇の奥様』レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)は金色の髪を靡かせ、一歩前へ。
 青薔薇の御旗が風に引かれて戦場に翻り、静かに脚が雪の大地を踏みしめた。


「ええっと……あっ、あそこの鳥の群れの中にローブ姿の人がいます!
 それから……うん、こっちの方に狼の中にローブ姿の人!」
 望乃は閃緑の目を覗き込んで戦場を見通していた。
 そんな彼女の周囲に、ふわふわと光が舞い踊る。
「……ええっと? オトモダチ?」
 それは精霊たち。
 エレメント・マスターたる望乃は周囲を飛び交う精霊たちへ、彼の魔獣の索敵に協力してもらっていたのだ。
 そんな精霊たちが、不意に告げた『オトモダチ』――友達は、もちろんというか望乃のこと――ではない。
 タイミング的にはローブ姿の人物を示した時のことだ。
(お友達……? どういうことでしょう)
 首を傾げる。
「私の名はレイリー=シュタイン!
 さぁ、獣共、私を倒せるかしらぁ。美味しいわよー!」
 声高らかにレイリーが叫び、その白亜の鎧を戦場へ晒す。
 城壁とさえ見まごう白亜の鎧はその美しさを以って魅了し、畏怖をも抱かせる不屈の盾。
 姿を見せた白騎士に魔獣たちが顔を上げて走り出す。
『クルゥゥオォォォ』
 独特な波長を放つ鳴き声が戦場を劈くように響き渡る。
 連続する鳴き声に続けて、レイリーへと到達した3匹のグルゥイグダロスが飛び掛かってきた。
 食らいつく牙の毒を物ともせず、レイリーはゆっくりと後退を始めた。
「敵はどう出るかのう……」
 ウィルドからの情報を受けオウェードは自慢のひげを撫でるように呟く。
 オウェードが自慢の戦略眼を駆使して導きだした立地は、盆地から下がって山同士が競り合う事で谷のようになった場所だ。
 レイリーの釣り出しを受けて魔獣たちの多くは怒涛の如く迫りきているという。
(ひとまずわしは……)
 愛斧を握り、オウェードは前線に向かう。
 敵が迫りきている以上、自分が出来ることは後はもう前線に出て戦うのみ。
 続けて、レイアが青薔薇の御旗を掲げた。
 旗は蒼き光を放ち、それは群れの中へと降り注ぐ。
 美しき光が戦場を包み込み、瞬く輝きは魔物達の動揺を誘う。
 真朱色の戦旗を風に靡かせ、レッドは祈るような仕草を残す。
「もうちょっとだけ待ってるっすよ!」
 静かに目を開いて、グィエンへとそう告げれば、動き始めた戦場の空に赤い穴が開いた。
 真朱色の光が瞬き、戦場を朱色に染め上げて行く。
「ブルゥァ……さっさと暴れさせてくれよ……」
「まぁまぁ。レッドさんもちゃんと考えてくれてますから。彼女を信じてください」
 不満を抱きつつあるように見えたグィエンをそう宥めるのはガヴィである。
「ブルゥ……」
「そうっす。グィエンさんも僕らに負けた時みたいなことにはなりたくないっす?」
「ブルゥア……しゃあねえ……」
 続けたレッドの言葉に、しぶしぶながらにグィエンが頷く。
「敵が集まってきたら、その時はお願いしますね?」
 重ねてガヴィが言えば、ブルルと鼻息を鳴らしながらグィエンはその場に留まっていた。
「それでは私も仕事を始めましょうか」
 ウィルドは背広の襟を正すと、魔獣たちの方の前線へと姿をさらす。
「くっくっくっ。私のような男が一人いれば無防備でしょう? ねぇ?」
 満面の笑みを浮かべるウィルドの様子に、敵対心を掻き立てられたが如く、1つの群れが雄叫びを上げて突っ込んでくる。
 最速で接近してきたグルゥイグダロスを自らの守りを固めるままに反撃の投げを打ち込めば、その一匹が大地へと叩きつけられて嫌な音を立てた。
「おかしなのが混ざってるな。魔獣がローブを羽織るわけもなし……調べておくか」
 歴戦の勇士たるシラスの視線は数多の経験から敵との力量差を大まかに把握する。
「……強いな。まぁ、敵の力量はどうあれ倒すしかないんだが」
 把握と同時、小さく呟いて――シラスは魔術を発動する。
 致命的な失敗へと他者を追い詰める混沌の泥は緩やかに戦場に満ちて行く。


 怒涛のように迫りくる魔獣たちが、イレギュラーズの望む立地へと次々と突っ込んでくる。
 戦いは過熱している。圧倒的多数の敵勢がレイリーの釣り出しに応じていた。
 だがそれは同時に、多数の敵との交戦を呼ぶものだ。
 そして、その分だけ望乃にかかる負担は大きかったといえよう。
「わたしには敵を倒す力は無くても……皆を治すことは出来ますから。
 絶対に、誰の命も奪わせはしません!」
 非力なる亜竜の少女は、演奏と共に渾身の赤薔薇を咲かせ、仲間達の傷を少しでも、確実に癒していく。
 自分だけがそれをするわけではないが、指の感覚が疲労で無くなりながらも奏で続けた。
「ローブ姿の姿が見えました!」
 レイアは不意にその姿を認めて声をあげ、そのローブへと魔術を行使する。
「グィエンさんの腕の見せ所っす! さあ思いっきりGOーっす!」
 それに応じて、レッドはグィエンへと指示を発した。
「グィエンさん発射ぁ!」
「ブルゥア!!」
 咆哮1つ。グィエンが助走のままに一気に跳躍し、レッドが指し示した方角の群れ目掛けて跳び込んだ。
「おおー! 弾丸みたいに飛んでったっす!」
 突撃を仕掛けたグィエンを追いかけるようにレッドも走る。
 辿り着く頃には着弾したグィエンがグルゥイグダロスを2匹ほど叩き斬っていた。
「ブルルゥゥゥラァァ!!!!」
 そのまま斧を横に向けて思いっきり薙ぎ払えば、その群れを含めて迫ってきた敵が吹き飛んだ。
 なんの技も無い、力づくの押し通しである。
「グィエンさん、お話しを聞いてくれてますね……」
 それを見てほっと胸を撫でおろしたのはガヴィである。
 明らかに敵味方の区別のある類ではない暴力じみたグィエンの攻撃。
 それがあまり広範囲を巻き込まないようにと事前にお願いしておいたのである。
「馬鹿力すぎるでしょ!」
 それは敵の方から聞こえた声。
 ローブに身を包んだその存在は笑いながらそう言った。
 いや、声のトーン的に、どちらかというと『笑うしかなかった』という表現の方が近そうか。
「やっちゃうか!」
 カラッとした笑い声の刹那、ローブが揺れたかと思えば、一瞬でその姿がグィエンの懐に合った。
「ブルゥ――ァッ」
 驚きに満ちた声の直後、鮮血が舞う。
「グィエンさん!」
 ガヴィは叫び、彼目掛けて術式を行使する。
 調和の術式が、一気にグィエン目掛けて降り注がれていく。
「ようこそ、おいでくださいました」
 ウィルドは獣爪へと歩み寄る。
「それで、あなたは何者です?
 随分と他の個体とは違うようですがね……というか、魔物ではないでしょうが」
「あははは! でも、簡単に教えるのもな~~」
 そう答えた獣爪めがけ、ウィルドは動く。
 それは巨峰が如き防御主体の尚峰拳。
 守りを主体とするその力の全てを籠めて打ち出す右腕からの拳。
 振り下ろす雪崩の如き渾身の一撃が、強かに獣爪の身体を貫くように打ち出された。

 戦況は、悪い。流れの全体としてはイレギュラーズ有利であった。
 結果として、勝利は揺るがない――かは微妙な当たりだ。
 獣爪と飛天、魔獣とは思えぬその存在2つは、全く同時に動いてきたのだ。
 明らかに疲弊したタイミングで見計らったような分断は『知性』を感じるもので。
 故に最終的なここから決まるのだと、レイリーは分かっていた。
 けれど――そんな内心を露ほども見せず、レイリーはローブの女へと槍を突きつける。
「ねぇ、仲間が倒すまで私に付き合ってもらうわよ」
「白亜の騎士、ふふ。素敵ね。私の名前は『飛天』エリヴィラ。よろしくね、お嬢さん」
 エリヴィラと名乗ったローブの女が笑う。
 そう判断したのは名前もだが、それ以上に眼前に立って気づく彼女の身体の丸みと声だ。
「でもね? ――そうもいかないのよ」
「逃がさないわよ」
 ヘァズ・フィランの数はエリヴィラの周囲にいる4匹のみ。
 その一方で、まだグルゥイグダロスの数は多い。
 ここで耐えれば仲間の攻撃が来る――はずだ。
 レイリーは視線をエリヴィラから離さなかった。
「いいえ、退かせてもらうわ。じきにね」
 そういうと、エリヴィラとレイリーの間に魔法陣が浮かび上がる。
 パチン、と指を鳴らした刹那、そこから一斉に氷柱がレイリー目掛けて走り抜けた。
「――こんなもので、私の守りは抜けられないわ!」
 それらを白亜の盾で、鎧で防ぎながら、レイリーは真っすぐにエリヴィラを視線の中心に置き続ける。
「みたいね」
 レイリーの啖呵に応じて、エリヴィラが出力を上げてくる。
 続けて、エリヴィラの周囲にいたヘァズ・フィランが一斉に鳴きだした。
 呪いの声が耳を打つ。

「こいつはどうだ!」
 シラスは獣爪めがけて握りしめた手刀を叩きつけた。
 手刀がローブを引き裂く頃には、掌に魔力を籠めて行く。
「どこの誰だか知らないが、ここで仕留める――」
 破壊的なまでの膨張した魔力を纏った掌底を獣爪の腹部めがけて押し付ける。
 暴れ狂う魔力の奔流が炸裂し、その身を包んでいたローブを完全に吹き飛ばす。
 姿を見せたのは獣種。モフモフの毛に覆われながらも多くの古傷を刻まれたそれが、歴戦の勇士の類であろうことは明白だ。
「ワシの守りの硬さは脅威にもなるじゃろうッ!」
 オウェードは続けるように斧を握り締めて突撃を仕掛けた。
 最優たる攻勢防御、ローゼンジェネラルを握り締めて振り降ろす斬撃は神威にも等しき苛烈なる斬撃。
 骨を断つばかりの壮絶なる振り下ろしが叩きつけられれば、ローブで見えなかった挙動が見えてくる。
 芯を狙う寸前を軽やかな体捌きで躱している。それでもなお傷は深いが。
「いったった、つっよ。死ぬかと思った!」
「あんた……なにもんだ?」
「ふっふっふっ! ヨセフィーナ! 『獣爪』とも言われてるよ!
 しっかし、は~~あっぶなっ。死ぬかと思ったよ、も~」
 シラスの言葉にさらりと答え、楽しそうに笑うヨセフィーナがくるりと周囲を見渡す。
「逃がしはせんワイ!」
 オウェードがそう言えば。
「う~~ん。皆楽しそうだから顔出したけど、死にそうになるのは勘弁だね!」
 あっけらかんと笑って、ヨセフィーナが懐から小さな笛を取り出して、短く吹いた。
 独特の音色が響き――獣の遠吠え。
 一斉に、グルゥイグダロスがヨセフィーネを庇うように動き、突っ込んでくる。
「ばいば~い!」
 それだけ言うと、ヨセフィーネは猛烈なスピードで走り去っていく。


「折角近いっすから休憩にボクの領地おいでおいでっす!」
 戦闘の終了後、レッドは折角だからと皆を引っ張るように自分の領地の方へと誘導していく。
「……なぁ、嬢ちゃん」
「グィエンさんもどうっすか? せっかくっすからね!」
「……ブルゥァ……あー……その、少し良いか……?」
 気まずそうに、グィエンが頭を掻く。
「……その、なんだ。あんたの言う通りに動いてるのは、気持ちよかった。
 だから……その。悪かったな……俺もよ。
 また、何かあったらその時は呼んでくれや。
 今回みたいなのだったら、俺も力を貸すからよ……。
 ……そんだけだ」
 決まりが悪そうにそう言った後、少しだけ何かが晴れたようにグィエンが笑っていた。
「まぁ、あの調子なら問題なさそうかのう……」
 そんな様子を見ながらオウェードはぽつりと呟いていた。
「で、どっちに逃げたんだ、連中」
「東へ……途中で『飛天』に鳥を殺されましたがね」
 シラスの言葉に、ウィルドは笑顔のままに答える。
「そうか。なら……多分、連中の言う通りノーザンキングスの連中か?」
「かもしれませんね……」
 2人は情報を共有すると、それを他の面々とも共有すべく声をかけた。

成否

成功

MVP

ガヴィ コレット(p3p006928)
旋律が覚えてる

状態異常

レイリー=シュタイン(p3p007270)[重傷]
ヴァイス☆ドラッヘ
オウェード=ランドマスター(p3p009184)[重傷]
黒鉄守護
レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)[重傷]
青薔薇救護隊

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

PAGETOPPAGEBOTTOM