シナリオ詳細
<デジールの呼び声>悪逆の徒は祝いを壊す
オープニング
●祝いの禍事
その日。
おもてなし処『あなたの隣のウサギちゃん(ネイバニー)』では、何本ものスパークリングワインが開けられていた。
店内には、グラスを重ねて作られたタワーがうず高く積まれている。
「RIRI(リリ)ちゃん、お誕生日おめでとう!」
集まった男たちは、一人のバニーガールへ惜しみない声援を送っていた。
立っているのは、白髪に褐色肌、真紅の目をしたダイナマイトな美女だ。
その表情は凛としており、あまりこうした場には不慣れであることが伺える。
にもかかわらず、彼女のために開かれたパーティは、こうして大盛況を迎えていた。
「ほら、RIRIちゃん! 何か喋って」
黒服にマイクを渡され、RIRIは少し戸惑った様子で会場を見渡した。
「ありがとう。……こんなにもたくさんの祝いの言葉をもらえること、嬉しく思う」
RIRIは、ペコリと深く頭を下げた。
「今日は、私が黒服からバニーに変わって、ちょうど1年目の……そう。記念日だ」
客たちから、わっと拍手が沸き上がった。
「よっ、リリちゃん!」
と声をかけられ、RIRIは気恥ずかしそうにはにかみ、手を振ってみせる。
「初めは不安だったが、みんなの声援のおかげで、こうしてここまで来ることができた。私を、立派に育ててくれた先輩方。オーナー。そして、いつも笑顔をくれるお客さま。今日は、私のための祝いの場ではなく、みんなが、誰よりも楽しむ場になれば……」
そんな、スピーチの最中だった。
店の入口側から、男の濁った悲鳴が聞こえた。
はっとRIRIが顔を上げた次の瞬間、一人の黒服が派手に投げ飛ばされ、客ごと倒れる。
騒然とする店内に、その男は悠然と現れた。
「はいどーも、どーもォ。いやねー。1周年パーティなの? オメデトーサン」
ぱちぱちと手を叩きながら現れたのは、深編笠をかぶった和装の男だった。
男は手下たちをぞろぞろと従え、店の出入り口をあっという間に塞ぐ。
不安がる客たちをかばうように立ちはだかるRIRIを見て、深編笠の男は軽く腕組みした。
「あー……。アンタ、表に看板出したはったなァ。リリちゃん言うん? なんや気ィ強そうやけど、さっきのスピーチやら、案外ウブでえぇ子やんな。えェ値で売れるんちゃう?」
男は自分の前に立つ客の腹を蹴り飛ばし、ずかずかと店の中央へ入った。
「今日は俺にとってもえェ日やねん。みんなであんじょう祝ったってな」
「貴様……ッ」
RIRIは素早く応戦の姿勢を見せる。
「店内での暴力行為は看過できない。お引取り願おう」
そんなRIRIを、深編笠の男はゲラゲラと笑い飛ばす。
「ァハッ! 君おもろいなァ。何ネムいことゆーてんの。お引取り願えるだけの身分が、君にあると思うてる?」
そういって男は、懐から一つの巻物を取り出した。
「なんや、まだ墨乾いてへんなァ。汚れてしもてるやないか。ま、えぇわ」
男はRIRIに向かって、巻物を広げてみせる。
「これな。今しがた君ンとこのオーナーが、命おしさに書いた新しい権利書や」
「なん、だと!?」
「君らここの従業員、及び今ここにいるお客さんぜーいん。俺ら海乱鬼衆(かいらぎしゅう)濁悪(だあく)海軍のオモチャにしてえぇよ、て」
男はひらひらと巻物を振ってみせる。
突然の事態に、客の誰かが悲鳴を上げた。だがそれも、男の部下に一瞬で殴り飛ばされ、黙らされる。
「それにしてもほんま、竜宮はきらびやかやなァ。金も富も幸せも、他人から奪わへんでもぎょーさん転がってそうや」
男は、グラスタワーの根本から、素早くグラスを抜き取った。そして、数歩RIRIへ向かって歩み寄る。
「こないにぎょーさんあっても飲まれへんやろ。いっぱいお裾分けでもろて、あとはほかしとくな」
派手な音を立てて、男の背後でグラスタワーが崩れ落ちる。
客の一人が悲鳴を上げた。それが、始まりの合図となった。
「ふざけるな……ッ!」
真っ先に動いたのは、RIRIだった。
鋭い蹴りが、男の深編笠を蹴り飛ばす。
「私の客には、指一本触れさせない……! 私に喧嘩を売ったこと、深く悔いるがいい!」
男はぼたりと落ちた深編笠を呆然と眺めていた。
そしてゆっくりとRIRIを振り向いた。
男の顔には、深い傷が残されていた。一方の目玉は義眼であることが伺える。顔の半分がずたずたに、誰かに壊されている。
「ーーほうか」
男はぽつんと言った。
「ほな、君のこと殺してまお。な?」
次の瞬間、男は腰に下げていた刀を素早く抜刀した。一瞬遅れて、RIRIの腹部から血が飛ぶ。
「みんな、私の後ろに!」
RIRIはそう叫び、ギッと男を睨んだ。
男はすでに、ヘラヘラ笑うのを止めていた。落ちた深編笠をかぶり直し、刀をまっすぐに向ける。
「濁悪海軍、攫い屋禅偈(ゼンゲ)」
男の名乗りに、RIRIは唇を歪ませ、笑みを作って答えた。
「私は、この店のキャストだ。刀ごときに臆して、バニーが務まると思うなよ」
RIRIは、背筋をまっすぐに伸ばした。傷をかばうことなく立ち上がり、スパークリングワインのボトルを手に、半身で正面から男に向き直る。
「ネイバニーNo.1バニーガール、RIRIだ」
しん、と、時が止まった。
と同時に、二人が地を蹴った。
「ーーいざ、参る」
●助けは、届くか
イレギュラーズたちの前に現れた一人のバニーガールは、泣きながら事の次第を語った。
「わ、わたし、おもしろそう、だからって、にが、にがされて」
ひぐっ、としゃっくりを上げながら、彼女は、真っ赤に泣きはらした目をイレギュラーズたちに向ける。
「リリさんが、応戦したんですけど、やっぱり、勝てなくて……、あの、海賊たち、このまま、うちの店も、近所の店も、どんどん、荒らしていくつもり、です」
そう伝えて、バニーガールは泣き崩れた。
「はやくしないと、りりさんが、しんじゃう」
「おねがい、たすけて」
訴える声は、ひどく震えて、たどたどしかった。
●海の動乱
海賊たち、という言葉にピンときたイレギュラーズも居たかも知れない。
シレンツィオや竜宮を襲う深怪魔が、悪神ダガヌに産み出されていることが判明した。
そのため、イレギュラーズとシレンツィオ連合軍は、ダガヌ神封印のための作戦を決行した。しかし、ネイバニーが位置する竜宮も、ダガヌ神たちの襲撃対象となってしまっている。
多くの救援依頼が届いているのが現状だ。
おそらくネイバニーに攻め入ってきた『攫い屋』たちも、ダガヌ神と契約してしもべに成り果てた濁悪海軍に違いないだろう。
震えて泣くバニーガールを救うため、ダガヌ神の手先と成り果てた濁悪海軍を討ち果たすため、イレギュラーズたちは竜宮へと向かったーー。
- <デジールの呼び声>悪逆の徒は祝いを壊す完了
- GM名三原シオン
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年10月13日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●お客さまだぜ野郎ども
「ほな、次の子。来よし」
衝立の中から男の声がする。怯えた顔で、黒髪ストレートの細身バニーガールが身を竦めた。動けなくなった彼女を、海賊たちが無理やり立たせて衝立の中へ放り込む。
深編笠をかぶった禅偈は、女を見るなりため息をついた。
「何やねん君。器量も愛想も度胸もアカン。せいぜいが豚の餌や」
早々に興味を失った禅偈が「次」と声を張り上げる。
そこへ。
「おぅ邪魔すんぜ、ネイバニーの皆さんよぉ!」
禅偈の声をかき消して、威勢のいい、豪快な声が轟いた。
「今日はちょいとこの店いただきに来たぜぇッ!」
フロアの空気が変わり、海賊たちの乱痴気騒ぎが、ぴたりと止む。
禅偈は眉根を寄せた。ひとり、バニーガールを逃しておいた。そうすることで、ここの治安を維持する連中を呼び出し、早々にぶちのめす算段だった。だが、どうも、治安維持とは縁のない客のようだ。
禅偈は得物の日本刀を手に声のした方へ向かう。
店の入口に立っていたのは、悪党に扮した『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)とマルク・シリング(p3p001309)だ。マルクは余裕のある素振りで店内を見渡し、海賊たちに聞こえるようゴリョウは話しかける。
「へえ、なかなか悪くない店じゃ無いですか。手に入ればいいシノギになりそうですよ、親分」
マルクの言葉に、ゴリョウは豪快に笑ってみせる。
「ぶはははっ! 違ェねえ!」
そして、禅偈を見て挑発的するように唇を歪めた。
「なんだ、『露払い』が居たのかよ! お掃除ご苦労さん。よくやったじゃねぇか!」
普段の禅偈であれば、冷静に対処できただろう。二人きりでの侵入の違和感に、囮であると見抜けたかも知れない。
だが、ゴリョウの放つ強烈な存在感が、首領たる禅偈から余裕を削り取った。
「……なんやて?」
只者ではない圧倒的な風格。こいつを倒さねばこの場を乗っ取られると、焦燥すら沸かせるような振る舞い。
「耳悪ィのか? じゃあもういっぺん言ってやるぜ!」
ゴリョウはすぅ、と息を吸う。そして、大砲のように声を張り上げた。
「この店は!! 俺らがいただいた!!」
その声が、開戦の合図となった。
■影は騒乱に潜む
ゴリョウの声を聞いて、微笑むものが店内にふたり。
「ふふ、順調なようですわね」
騒ぎにまぎれて、物質透過でするりと店内に侵入した『悦楽種』メルトアイ・ザ・ベルベットムーン(p3p000674)。そして、二人の後ろからひょっこり、通りすがりのように現れた『毒亜竜脅し』カナメ(p3p007960)だ。
ゴリョウの放った存在感は、二人の店内への侵入を許す結果となる。
「祝いの席をぶち壊す海賊の皆様には、ひとつお仕置きが必要ですわね?」
メルトアイはちろりと唇を舐めた。
標的は、騒ぎを聞いて浮足立った海賊たちだ。注意力散漫のまま、得物を手に走り出した海賊たちを背後から狙う。
「なっ……!」
海賊は、敵がいることを知らせようとした。
「いやですわ。まだ始まったばかりなのに、声を上げるなんてはしたない……」
メルトアイの剣魔双撃による奇襲を受け、海賊は声を上げる前に倒される。
海賊の相手をさせられていたバニーガールが、小さく息を呑んだ。
メルトアイは、人差し指を立てて
「しー」
と促す。その仕草で、自分たちを助けに来てくれた人々なのだと理解できたらしい。バニーガールはこくこくと頷きを返した。バニーガールの安全を確認し、メルトアイは周囲を見渡す。
応戦している海賊とは別に、まだ酒をかっ食らいバニーガールを脅かしている海賊たちがいる。
「お仕置きはまだ、終わりそうにありませんわね」
メルトアイは小さくため息をつき、再び敵の遊撃に向かった。
一方のカナメは、慌てた演技をしつつ、騒ぎになった店内を見回っていた。
「あわわ、たいへんだー」
口先でそう言いながら、あわあわと店内を見て回る。
カナメは、キャストたちの位置を把握しつつ、彼女たちをうまく守る方法を考える。だが、気配を消したりスタッフに扮することなくその場に居たカナメは、たちまち海賊たちに見つかることとなる。
「なんだてめぇ!」
たちまち数名の海賊に囲まれ、カナメは苦い顔をした。
●救世主は屋上から
ゴリョウとマルクの大立ち回りから、時は幾ばくか巻き戻る。
ネイバニーの屋上に、三人の影が降り立った。『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)、『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)、『立派な姫騎士』雑賀 千代(p3p010694)だ。
「ひどいなあ。せっかくの祝いの席だってのに、空気を読まないやつはどこにでもいるんだね」
呆れ顔の史之に、千代もこくこくと同意する。
「我欲で無理矢理お店を乗っ取るなんて、なんて人達でしょうか! 仁義に反する輩はこの「烏天狗」が成敗してやりますよ!」
意気込む二人の隣で、Я・E・Dは辺りを見渡す。情報通り、屋上の鍵は壊れており、そこから侵入できる。
「少し待ってね」
Я・E・Dがピンと耳を立てた。
「人質のそば、見張りがいる」
「いなくなるまで待ちますか?」
「うん。そうできたらいいんだけど」
だが、いくらか待ってみても敵がいなくなる様子はない。
「人質の見張りは剥がれないかぁ」
「何人居るの?」
「部屋の入口に2人。部屋の中にももしかしたら居るかも」
困り顔のЯ・E・Dに、ふふん、と千代が胸を張る。
「お任せください! こんな事もあろうかと!」
千代は声を潜めつつ、自分の愛銃を取り出してみせる。
「雑賀煉獄衆『烏天狗』は伊達じゃないところをご覧に入れましょう!」
小声でにっこりと笑顔を見せる千代の頼もしい姿に、Я・E・Dと史之はこくりと頷いた。千代はそれをゴーサインと受け取り、素早い動きで死角に潜り込む。
「えいっ」
千代の奇襲は見事に成功し、見張りの男たちは、声を上げることなく、ばたりと倒れた。
「今です!」
千代が手をふると、Я・E・Dと史之も部屋へ向かう。史之は、見張りの閉じ込められた部屋のドアノブを回した。だが、鍵がかかっている。
「見張りの手荷物から鍵を探す?」
「心配ご無用です! こんな事もあろうかと!」
じゃーん! とでも言わんばかりに、千代は鍵穴スライムを取り出してみせた。鍵はかちりと、あっという間に開く。
「千代さん、準備良いなぁ」
「頼もしいね」
「えへへ……では、いざ救助へ! まだ中にも見張りがいるかも知れないので、私から!」
きりっと宣言した千代を前に、三人は部屋の中へ進む。ドアのそばにも確かに見張りは立っていたのだが、千代の至近からの……柔らかく豊満な恍惚を誘う攻撃で、あえなく崩れ落ちた。
「ぱ、ぱふぅ……」
情けない一言とともに崩れ落ちたその寝顔は、実に幸せそうだったという。
「これで一安心ですね!」
千代たちは、人質たちを見渡した。人心掌握術を知るЯ・E・Dは、人質たちが、自分たちを新手だと勘違いして怯えることに気がつく。
「もう大丈夫ですよ」
と、Я・E・Dはそばに倒れていた女性に近づき、縄をほどきながら穏やかに語りかけた。
「私たちは皆さんを救助に来ました。怖い思いをさせてしまったと思います。お待たせしてしまって申し訳ありません。だけど、もう、安心です」
その真摯な姿勢と言葉は、人々の心を確かに掴んだ。自由の身になった女性が、声を殺して涙をこぼした。三人は、人質たちを縛るロープをほどき、猿ぐつわを外していく。史之は人質たちを解放しながら、目当ての人物を探す。
「店長、いる? いたら手伝ってほしい」
その声に、スーツ姿の青年が手を挙げて答えた。
「私がここの店長です。ご迷惑をおかけしてしまい、すみません」
「大丈夫だよ。今は、助かることを優先しよう」
史之の言葉に、店長はこくりと頷いてみせる。
「店内は私が案内します。隣の建物へ逃げるための抜け道もあります」
「ありがとう。それじゃあ、怪我してないキャストは、俺が窓から逃すよ。他のキャストは、護衛しながら抜け道を目指そう」
一方のЯ・E・Dは、壁際で苦しそうに倒れているバニーガールを発見した。一人だけ、かなり負傷している。
「RIRIさん?」
声をかけると、バニーガールは苦しげに目を開けた。特徴も、聞いた情報と合致する。
「遅くなってごめんね、もう大丈夫だよ」
RIRIは目を細めて笑ってみせた。
「お客さんに心配掛けるなんて、バニーガール失格だな……」
「そんなことないよ。さぁ、これを飲んで」
RIRIはシャンパン・ゴールドを口に運ぶ。傷口はふさがっていくが、まだ全快とはいかないようだ。千代はそんなRIRIに肩を貸し、全員へ合図を送る。
「元気な人は史之さんの援護で窓から! 他の皆さんはこちらへ!」
人質たちは、イレギュラーズを信じて、移動を開始する。
「私は、権利書も気になるからここからは別行動。……頑張ってね」
そう言い残して、Я・E・Dは素早くその場を離れた。
●ハニートラップにご用心
Я・E・D、史之、千代の三人が無事人質を救出し終えた頃。
「見つからないものだな……」
圧倒的スタイルのバニーガールに扮した『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)には少し眉を寄せて倒れた男たちを見ていた。男たちはモカに、それはそれは「気持ちよく」してもらった一瞬の隙をぶん殴られ、どこか嬉しそうに気絶している。
目的は、権利書探しだ。一階に陣取って動く様子のない禅偈を確認したモカは、二階から三階へ移動していた。一階の連中の様子を探りたかったのは山々だが、特定の部下を前偈が気にかけているような様子もない。
もうじき、囮として悪党に扮したゴリョウとマルクが到着する頃だ。それまでには、権利書を見つけておきたい。
(思ったより数がいる。厄介だな)
そこへ、ひょこんとЯ・E・Dが顔を出す。
「権利書は見つかった?」
「いいや。これから三階を探るところだ」
「なら、力になれるかも。狼の名にかけて、ね」
すん、と、Я・E・Dは鼻を鳴らす。
「アタリがつくのは助かるな。先導を頼めるか?」
「もちろん。独特の匂いがするから、そんなに難しくないはずなんだけど」
Я・E・Dは感覚を研ぎ澄ませて、匂いを嗅ぎ分ける。酒の匂い、香水の匂い。その中に、かすかに、墨の香りがした。
「このフロアにある」
「本当か!」
「うん、こっちの方。なんだか、近づいて、きて……?」
角を指差した矢先、人影が見えた。Я・E・Dは近くにあった壺の裏へ隠れる。一方のモカはその場に残り、素早くヒール自分のヒールを脱いだ。現れたのは二人の海賊だ。男を魅了してやまないモカの姿に、二人はたちまち下卑た笑顔を浮かべた。
「何だねぇちゃん、こんなところで」
「一人で持て余してんのか?」
ニヤニヤと笑う男たちに、モカは困ったような表情を向けた。
「ずっとヒールでお仕事してたせいで、疲れちゃって……連れて行ってくれないかしら」
男たちに怯えた様子を見せない姿が、逆にツボに入ったのだろう。
「いいぜぇ。その代わりたっぷりサービスしてくれよな?」
ニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべ、男たちがモカに近付く。モカは二人の男へ、するりと手を這わせた。
「海賊さんって素敵ね。二人ともイイ男♡」
うっとりと囁きながら、モカは二人の耳元へ唇を近づける。
「ねぇ。これから気持ちいいコト……しない?」
そう尋ねながら男の懐をまさぐった指は、たしかに、何かの巻物に触れた。
「あった♪」
その呟きを、Я・E・Dは聞き逃さなかった。男たちの意識を自分にそらすよう、素早く姿を表す。
「何だァ?」
男たちの注目がそれた瞬間、モカは思い切り二人の頭同士を叩きつけた。
男たちは鈍い悲鳴を上げてたたらを踏む。その間にモカは思い切り、男たちの急所を蹴り上げた。倒れた男たちに猿ぐつわを噛ませ、手足を縛り、通路のすみにうまく隠してしまう。
「すごいね……」
感心するЯ・E・Dににこりと微笑みながら、モカはぱらりと巻物を開いた。確かに、権利書に違いなかった。
「匂いのもと、これだよ。燃やしちゃおう」
二人は、巻物を粉々に割いて灰皿の上で燃やした。
そこに。
「この店は!! 俺らがいただいた!!」
ゴリョウの大声が、轟いた。
●救いの手は、背後から
数名の海賊に囲まれてしまったカナメを救ったのは、メルトアイだった。
「殿方が寄ってたかって女の子一人を相手に……ふふ、はしたない」
海賊たちの視線がメルトアイに向いた瞬間を逃さず、カナメもすかさず海賊たちを迎撃し、意識を奪った。
「ちょっとカナ、痛めつけられるかもってドキドキしちゃってたかも♪」
「ふふ。お邪魔でしたか? ではまた、後ほど」
メルトアイは愛らしいウインクを飛ばして、海賊たちの遊撃へ回る。
カナメは周囲を見渡した。キャストたちは、乱闘騒ぎの中で小さく固まって怯えている。カナメは急いで駆け出した。その視線が一瞬だけ、禅偈とやり合うゴリョウ、マルクとかち合う。互いの武運を祈るような、励まし合うような一瞬が訪れた。だがそれも、禅偈に悟られぬほどの僅かな時間だ。
カナメはキャストたちを背後にかばうようにして立つ。そして、乱闘で襲いかかってきた海賊を、鮮やかに迎撃する。
「あなたたちは、しっかり守るからね」
目の前の少女が、自分たちの救世主なのだと、キャストたちに伝わるには十分だった。
●暗殺に、ご用心
「これでも喰らいな!」
マルクが放ったケイオスタイドが、禅偈の手下たちを一掃する。
「ぶはははっ! 陸に上がった海賊ってな大したことねぇなぁ!」
ゴリョウも豪快に、スピーカーボムを乱発しながら海賊同士のやり取りを阻害している。
「ウザったいねん、ホンマ!!」
禅偈は、完全に頭に血がのぼっていた。鬼気迫る太刀筋でゴリョウに斬りかかるが、ゴリョウはそれをそれを真っ向から受け、いなしていく。かと思うと、空いたゴリョウと禅偈の間合いに、すかさずマルクが飛び込んでくる。
「親分に無礼は働かせねぇぜ」
チンピラ口調もなかなか板についてきたもので、禅偈を挑発しながらも、幻想福音でゴリョウを癒やすことも忘れない。
痺れを切らす禅偈に、ニヤリとゴリョウが笑ってみせる。
「いつから自分が『奪われる側』じゃねぇと勘違いしてた? なぁ? 教えてくれよ!」
「――ほざけ」
禅偈は、ビリビリと背筋が震えるほどの殺気を放った。
「全部奪ったるんや。何もかんも持ってる幸運なヤツから、むしり取る」
禅偈の深編笠が、ばさりと落ちる。
「この目の分、取り返さな気が済まん」
憎悪が膨れ上がる。ゴリョウとマルクも、険しい表情を魅せた。
あと数手。それがなければジリ貧だと、二人が腹をくくった、その時。
「させないよ!」
モカの声がフロアに響いた。禅偈は振り向かず、ゴリョウに向かって刀を振り上げる。だがモカのほうが早かった。モカの蹴りが炸裂し、禅偈の狙いが大きくそれる。
「チッ」
そこに、史之がDDを撃ち込み、禅偈の刀を見事に破壊した。
「何や、次々!」
史之は禅偈の殺気を物ともせず、フロアに向かって声を張り上げる。
「人質は救出した!」
その声と、何より史之の襲来が、合図となった。
禅偈の戦い方を見切ったЯ・E・Dが、リピートサウンドで禅偈の耳元に戦闘音をばらまく。
「マナーのなってない客は、お店から叩きだされても文句は言えないよね!」
至近からの音に、禅偈はとっさに反応してしまった。好機と見たマルクが、すかさず剣での攻撃を叩き込む。
「お前ら、最初からイレギュラーズやったんか! 殺せ! 全部殺してまえ!」
禅偈が怒鳴るが、フロアに居た部下の殆どはすでに、メルトアイの手によって片付けられていた。禅偈は、人質を取りにキャストの方へと駆け寄った。だが、カナメが立ちはだかる。
「隠し武器あるんでしょ? うぇへへ……いっぱい見せてほしいなぁ♥」
そう笑うカナメに、禅偈は容赦なくクナイを投げつけ、隠し爪で襲いかかる。後ろのキャストをかばいながらも、カナメは一歩も退かない。
その背後に、ゴリョウが追いつく。
「お前の相手は! 俺だ!」
ゴリョウへ狙いがそれると同時に、マルクとカナメが、最後の一撃を叩き込んだ。
「……くそ」
禅偈は、悔しそうにゴリョウを睨む。
「お前ホンマ、煩いなァ……でもやっと、静かンなった……」
からりと、禅偈の握りしめた最後のクナイが、床に落ちた。
●エピローグ
「どうぞ。こちらを飲んで、一息ついてくださいね」
史之が、店内に残っていたバニーガールたちへホットココアを振る舞う。
フロアの一角では、ゴリョウとマルクが、バニーガールたちへ頭を下げていた。
「怯えさせちまって悪かった!」
「怖い思いをさせてごめんなさい!」
頭を下げる二人を、バニーガールたちが囲んでいる。
「本物の悪党かと思ってすっごく怖かったんですから〜」
RIRIは、応急手当のおかげで一命をとりとめ、現在は病院に運ばれている。店は、明日には営業が再開できる見込みとのことだった。
「今度はお客さまとして、お店に来てくれなきゃ許しませんからね〜」
バニーガールたちは、くりんとした愛らしい目でイレギュラーズを見つめる。その微笑みは、夜に瞬くネオンのように、眩しい華やかさを取り戻していた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
大変お待たせしてしまい、本当に申し訳ございません……!orz
今回のMVPは、『権利書奪いに来た第三勢力』を演じる、面白いアイディアをくださったゴリョウさんへ!
それぞれに見せ場のある、素敵なプレイングで迷いました。
GMコメント
お読みくださりありがとうございます。
三原シオンです。
めでたい祝いの席をぶち壊した悪党たちをぶちのめすシナリオです。
思う存分、鉄槌を叩き込んでやってください。
また、今回は2つの特殊ルールが適用されます。
予めよくお目通しの上、ご参加ください。
======================
●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。
●特殊ドロップ『竜宮幣』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru
======================
●成功条件
①濁悪海軍攫い屋首領・禅偈の討伐
首領である禅偈が倒されることで部下は逃げ出すかも知れません
②権利書の破壊
攫い屋の一味が保有しています。
探し出し、煮るなり焼くなりしてしまいましょう。
③店内スタッフ及び客の救出
攫い屋たちはあくまで人員を痛めつけてさらうことが目的です。そのためよほどのことであれば殺そうとはしません。
一方、明確に逆らったRIRIは重傷を負っています。急ぎの手当が必要でしょう。
●フィールド
・竜宮内おもてなし処『ネイバニー』
ビル丸々1つがおもてなし処になっています。外部から見るといわゆるキャバクラなのですが、竜宮で働くたちは純粋に歓迎しており、夜のお店としての意識はないようです。
4階建てであり、ほとんどの客とキャスト、黒服たちは4階に閉じ込められています。
それぞれのフロアでは、濁悪海軍たちが一部のキャストを無理やり引き連れて、接客をさせている状況です。
フロアには柱や壁、衝立が多く、死角がかなり存在します。(本来は、キャストの接客時に、他の客が目に入らないようにするための工夫でした)
●敵1:濁悪海軍攫い屋首領・禅偈
和装の小柄な男性です。
深編笠をかぶっていますが、右目が義眼となっており、死角が存在しています。
しかしその死角を聴覚で補うことで、人間離れした戦闘力を発揮しています。
主な得物は日本刀ですが、海賊らしく卑怯上等主義で戦うので、暗器や飛び道具にも留意が必要です。
●敵2:攫い屋
禅偈の部下の海賊たちで、腕っぷし自慢の男たちです。
やたらめったらたくさんいるのですが、所詮烏合の衆です。無双しましょう。
みな酒を飲んで酔っ払っており、普段よりも暴力性が増しています。一方で注意力は散漫なようです。
●救助対象
店内スタッフが15名、客が20名捉えられています。
一部の店内スタッフは濁悪海軍に隷属を強いられていますが、ほとんどの救助対象は4Fに閉じ込められています。
店長を助けることが出来れば、隠し通路から隣接するビルへ客やスタッフを逃がす手伝いを率先して行ってくれるでしょう。
大々的な戦闘になると彼らが人質に取られる恐れがあるため、人質を逃してから大々的な戦闘を仕掛けることを推奨します。
●その他
屋上の鍵が壊れており、最上階である4階への侵入が可能です。濁悪海軍はその事に気づいておらず、警備は手薄でしょう。
陽動作戦などと並行しての侵入を推奨します。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
Tweet