PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<デジールの呼び声>血を求める歌声

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「おい、何か聞こえないか?」
「何かってなんだよ」
 インス島攻撃作戦のために、とあるシレンツィオ連合軍が岩陰に築いた海上拠点。そこで待機していたグレンが、何かを耳にした。
「ほら、聞こえないか? 耳穴かっぽじってよく聞けよ」
「はぁ~? ……――え、歌か?」
 海で歌、と聞くと、セイレーンの歌声を彷彿とさせるが、今聞こえる歌はその真逆である。男の、野太い声。美しい旋律とは言い難い、叫びにも似たそれは徐々に近づいてくる。

 ――黄金の盃を満たせよ、それは至高の酒となる。赤き血を注げよ、それは饗応の酒となる。

 始めは何を言っているのか分からなかった歌が、はっきりと、明確に、聞こえる。
「おかしい。ここは島からも離れているし、地理的にもそう簡単に見つからないはず。ピンポイントでここに来るなんて……」
「お、おい! あれを見ろ!」
 彼が指した先には、巨大な船。その船上にいるのは一度退却した筈の仲間・ユアンだった。グレンはそんな彼と目が合う。いや、確かにこちらを見てはいるが、目は合っていない。焦点が定まっていないのだ。
 裏切ったのか? いや、操られている? 目だけではない。ゆらゆらと揺れる身体。意識はここではないどこかにあるようにも見える。まるで、夢遊病のような……?

 ――さぁ、求め続けよ! さぁ、奪い続けよ! 盃が乾かぬように!

 咆哮。同時に、砲撃。
 急な襲撃に、退避せざるを得ない。だが、その前に、船上にいるユアンがいた方をもう一度見る。すると、彼の隣には狙撃銃らしきものを持った身なりの良い男。――あれが、あの船の船長だろうか。船長が部下に指示をしてユアンを拘束する。その最中に意識が戻ったのだろう。ユアンは思いきり抵抗し始めた。とはいえ、数には勝てない。こちらに気づいた彼は、叫ぶ。
「逃げろ!!」
 船長はすぐさまその声が放たれた方を見ると、ユアンたちの様子を見ていたグレンの肩を的確に撃ち抜く。二発目が放たれる前に物陰に隠れる。このままでは、危険だ。ユアンのことが気がかりではあったが、彼らは一度その場から退避した。


「――というわけさ。襲撃してきた相手は、海乱鬼衆の中でも巨大な勢力の一つ、濁悪海軍。その内の一部隊ってところだね」
 集まったイレギュラーズにそう説明するのは『黒猫の』ショウ(p3n000005)だ。どうやら、インス島攻撃作戦に参加したシレンツィオ連合軍のある部隊が撤退したらしい。
「どうもその濁悪海軍の奴らは、こちらの戦力を削るついてに、人を襲って回っているみたいだ。不気味な歌の通りなら、血を求めているみたいだよ」
 だとするならば、もうグレンたちが撤退したという例の海上拠点には既にいないだろう。どうやって探すつもりなんだ? とあるイレギュラーズがショウに尋ねる。
「ああ、問題ないよ。実はその船にはユアンっていうシレンツィオ連合軍の兵が囚われていてね。彼が情報を漏らしたんじゃないかって言われているみたいだ。だから次に襲うとしたら、ユアンが知っているもう一つの海上拠点へ行くはずだ」
 ならば、そちらへ向かって濁悪海軍のその一部隊を止めなくては。これ以上被害を広げるわけにはいかない。
「うんうん、その意気だよ。
 海上拠点に到着したら、シレンツィオ連合軍が軍艦に乗せてくれる。それに乗るなら、近くまで接舷してくれるみたいだから、そのまま向こうの船に乗り込んで白兵戦を展開すると良いよ。
 勿論、君たちで用意して拠点に寄らずに直接叩くのも構わない。拠点に寄らない分、早く辿り着けると思うよ。ただ、濁悪海軍の船には大砲を積んであるし、船の大きさも段違いだ。その場合も、上手く躱すか、受け流すかしながら近づいて、向こうの船に乗り込んで白兵戦辺りが無難だろうね。
 今は被害が小さいから良いけれど……目的は何であれ、遊撃部隊をそのままにしておくわけにはいかない。撃破……もしくは撤退させてきてくれるかい?」
 これでシレンツィオ連合軍の皆や、他のイレギュラーズたちが動きやすくなるならお安い御用だ。断る理由はない。
「それじゃあ、頼むよ。海上拠点までは彼が案内してくれるからね」
 ショウはそう言うと、背後にいた男――グレンを紹介する。グレンは簡単に挨拶をすると、イレギュラーズたちと共に次に襲われるであろう海上拠点へと向かった。


「これで良かったのかい? グレン」
 一人残されたショウが、その場から離れたグレンに向けて呟いた。
(ユアンっていう男。確かに、このままでは情報を敵に渡したってことで、一生軍には戻れないだろうけど……本当に操られているのか、もしくは演技なのかを見極めてから、救出したいだなんて)
 ユアンもイレギュラーズではないにしろ、元は軍人である。それなりに戦える者だ。白兵戦になった場合どうなるかは分からない。
「まぁ、君がそれで良いなら良いけど」
 ショウはそう言うと、紅茶を一口飲んだ。

GMコメント

 初めまして、こんにちは、こんばんは。萩野千鳥です。
 早速ですが簡単に説明致します。

●目的
 海乱鬼衆・濁悪海軍の一部隊の撃破or撤退

●地形
 荒れた海上です。
 濁悪海軍は大砲が複数備えられた巨大な船にいます。
 接敵前に海上拠点に向かえば、シレンツィオ連合軍の軍艦に乗り込むことができ、濁悪海軍の船に接舷します。
 小型船を持ち込み、直接向かうことも可能です。その場合は、拠点に寄らない分少し早く到着します。

●敵
『濁悪海軍・船員』×30
 一般的な海賊です。
 大砲を放ったり、狙撃してきたり、斬りつけてきたりします。

『濁悪海軍・船長』×1
 この船の船長です。
 部下に指示を出したり、狙撃したり、水を凍らせたり、氷の槍を降らせたりします。

『ユアン』
 裏切っているのか操られているのか不明ですが、虚ろな目で襲い掛かってくることがあるようです。
 その際は、水の弾丸を放ったり、斬りつけてきたりします。

●味方
『グレン』
 別の海上拠点で退避した海種の兵です。肩を負傷していますが、案内や自衛程度ならばできます。
 怪我が完全に治れば、銃による後方からのアシストが可能です。

『シレンツィオ連合軍』×10
 軍艦から乗り込む場合、イレギュラーズたちと一緒に乗り込んでくれる兵です。
 銃、剣は一通り扱えます。

●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 以上です。どうぞ宜しくお願いします!

  • <デジールの呼び声>血を求める歌声完了
  • GM名萩野千鳥
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月08日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
型破 命(p3p009483)
金剛不壊の華
柊木 涼花(p3p010038)
絆音、戦場揺らす

リプレイ


 ダガヌ海峡、インス島周辺に一隻の小型船が走る。『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)が用意したその船は、『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)が舵を取り濁悪海軍が乗っている巨大な船へと向かっていた。
「グレンさん、今の内に治療しましょう?」
「良いのか?」
「そっちの方が動きやすいだろう? こっちは数が少ない。少しでも戦力になって貰えば御の字だ」
「そうか。それなら、頼む」
 グレンはそう言うと、応急処置だけ済ませた肩を『愛を知りたい』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)に見せる。ココロが怪我の具合を見ているのを、『元魔人第十三号』岩倉・鈴音(p3p006119)が手術の必要があるか後ろから覗きこんだ。
「弾丸は……貫通していたみたいだな。それなら、大がかりなことはしなくても大丈夫そうだ」
「ソレナラ良カッタ。コノママ回復スル」
 そう言ったフリークライは、グレンを回復し続ける。その合間に、『希うアザラシ』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)は他の誰にも聞かれないように、グレンに向けて話しかける。
『グレンさん、聞こえるっきゅ? レーさん、今グレンさんに念話でお話してるっきゅ』
「! ……」
 グレンはレーゲンから急に念話で話しかけられ驚いてはいたものの、すぐに冷静さを取戻し彼に返事をした。
『なんだ?』
『グレンさんは、ユアンさんのこと、助けなくても良いっきゅ?』
『現時点で操られているのか裏切ったのか、判別できない』
『でも、もし操られているなら今救出しないと、精神的な負荷とかもう戻れなくなるとかが怖いっきゅ』
『それは……そうかもしれないが』
『……人は脆いっきゅ。身体も心も。仲直りは早い方がいいっきゅ』
『…………』
 黙り込むグレン。その真剣な顔つきに、『奏でる言の葉』柊木 涼花(p3p010038)は「大丈夫ですか?」と声をかける。
「ああ、大丈夫だ。少し……考え事をしていただけだ」
 嘘は吐いていない。それはレーゲンが良く知っている。レーゲンはもう一言、グレンに声をかけた。
『こっそり伝えたい事があるなら、レーさんが代わりに伝えるっきゅ!』
『それなら――』
 グレンはレーゲンの言葉に甘んじ、ユアンに向けての言葉を託す。そうしている内に、ココロや鈴音も協力したお蔭で、グレンの怪我はあっという間に治った。グレンは治療をしてくれた三人に対し「ありがとな」と礼を言う。治療が終わったのを見計らって、船を操舵していたルーキスが話しかける。
「これからのことですけど……彼は連合軍の軍人です。彼の状態に関わらず、無力化して身柄を確保するつもりですが」
「己れも見つけ次第そうするつもりだ。でなければ、真偽の判定もできんからな。事情があるんだったら、なんとか助けてやりてえが……」
「勿論、説得はしてみるよ! でも万が一の時は……」
「……分かった」
『金剛不壊の華』型破 命(p3p009483)とココロの言葉に、グレンは渋々頷いた。彼が肯定したのを確認すると、イレギュラーズたちは彼にユアンの特徴を訪ねた。グレンは知る限り彼の特徴を答える。彼が最後にユアンを見た時は、変わらず軍服を着用していたらしい。ならば、海賊との見分けもつきやすいだろう――そう思っていたところだった。
「……ン 濁悪海軍接近。遠方ヨリ何カガ」
「歌、か?」
 フリークライの示す方へと鈴音が耳を澄ませると、彼女の耳に微かな歌声が届いた。なんとも野蛮な歌詞、歌のような咆哮のようなそれは、ゆっくりと音量を上げて近づいてくる。
「――接舷させて!」
「勿論です!」
 海賊船を視認した『太陽は墜ちた』メルナ(p3p002292)がルーキスに伝えると彼は小型船のスピードを上げて船へと近づく。流石に船に近づいてくるイレギュラーズたちに気づいた濁悪海軍たちは、ゆっくりと砲台を小型船へと向ける。ドンッ――と音が聞こえると数秒後に小型船の近くに弾が落ちる。
「大砲を避けながら、一気に接近します。振り落とされないよう、しっかり掴まっていて下さいね!」
 全員が何かしらに掴まると同時に、勢いよく小型船が揺れる。ルーキスは器用に大砲の弾を避け、一気に距離を詰める。流石に大砲は無理だと気付いた濁悪海軍は、銃を持ち、上から小型船を狙う。とはいえ、それも大した精度ではない。
「ユアンの姿は見えないね」
「それなら、こっちからも応戦するっきゅ!」
 双眼鏡で船上を見ていた鈴音がそう言うと、レーゲンが周りに様々な楽器を作り出し歌声と共に詠唱をし始める。紡がれた魔術はまるで大砲のように海賊船の方へと放たれる。小型船から攻撃されるとは思っていなかったのだろう。船員たちは慌てている。その隙に小型船を接舷させる。
「今の内に!」
 誰かが言ったその言葉を聞くと、水無月の羽根を使って乗り込んだ鈴音が即座に縄梯子を見つけ出し降ろす。降ろされた梯子を使い乗り込もうとすると、イレギュラーズたちを撃ち落とそうと邪魔が入る。しかし、鈴音がそんな船員の気を逸らし、その間にグレンが正確に撃つ。まともに排除できずにいるその隙に皆乗り込んだ。
「……数が多いな」
「うん。でも、手筈通りにやれば問題ないよね」
「そうですね」
 各々武器を持ち、事前に相談していた通りに動き船上で戦い始めた。


「ユアンの反応はないよ。見ている限りでは紛れている線もない」
「それなら、巻き込むことはなさそうだな。まずは数を減らす。
 ――さぁさぁ、ビビって逃げるなら今の内だぜ! かかってきな海賊ども!」
 空中でユアンを探していた鈴音がそう言った。命は挑発するようにそう言うと、船員たちは各々の武器で斬りつけようと距離を縮める。しかし、その武器が振り下ろされる前に、メルナが煌く光を宿した霊樹の大剣を甲板に叩きつける。「外したのか?」と笑う船員。だが、それも一瞬のことだった。光の刃が走り、船員たちを斬りつける。
「ガッ……」
 しかし、相手もやられてばかりではない。慣れた船上で正確に攻撃を仕掛ける。多勢に無勢。数の暴力。それには負ける。だが、それでも問題はない。
「――――!」
 涼花の歌声が船上を包む。その声が耳に届くと同時に、イレギュラーズたちの傷がたちまち癒える。まだ戦える。
「私はまだ歌えます! 支援は任せてください!」
「血など流させない! どんどん回復させるよ!」
「異常ガアッテモ 問題ナイ。ソレヨリ ユアンノ捜索ヲ」
 涼花とココロとフリークライの三人は他の者たちにそう伝えると、ルーキスが上空にいる鈴音に尋ねる。
「鈴音さん、ユアンさんは」
「エネミーサーチには引っかからないから……」
「敵対心は無い? それか、隠されている?」
 一体どこにいるのだろうか。船員たちの攻撃をいなしながらも探す。すると、ブリッジの方から氷の槍のような物が飛んでくる。
「っ! そっちだね!」
 メルナはブリッジの方へと駆ける。すると、その場にはニヤリと笑う船長と隣で抵抗している軍服を着た男性――ユアンが立っていた。船長は彼の口元に布をあてると、意識を失ったのか抵抗するのを止め項垂れる。
「ユアンさん!」
「……! ユアン!?」
 メルナの声にユアンの存在に気付いたグレンは近づこうとするが、船員たちに阻まれる。それと同時に、鈴音のエネミーサーチにユアンの存在が引っかかる。
「気を付けろ! 今のユアンは敵だ!」
「なら、遠慮なく気絶させるまでです」
「ユアンさんまでの道は任せるっきゅ!」
 レーゲンが再び歌による詠唱を行うと、目の前を塞ぐ船員たちをなぎ倒す。倒れた者たちの間を通り、イレギュラーズたちはブリッジの方へと駆ける。
「…………、」
 水の弾が先頭を走る命に向かって放たれる。それを避けることなく防ぎ前進する。その間も、涼花はユアンに向けて念話を試みる。だが、呼びかけても返事はない。抵抗していた時のような意志は見えず、その瞳は虚ろ。
「また、あの時みたいだ」
 そう言ったのはグレンだ。後方で様子を見ていたココロがユアンの方を見る。確かに、彼が言う通り操られているように見える。とはいえ、始めはあんなに抵抗していたのだ。完全に操られているとは思えない。
(……だとしたら!)
 ココロがすっと息を吸うと、ユアンに向かって叫ぶ。
「ユアンさん! あなたも仲間を傷つけたくないでしょう?
 友をもっと危険な戦場に送りたくない? それともそこの船長のせい? 話してよ、わたし達ならなんとかできますから!」
「…………」
 反応はない。ただただ、声が耳を素通りしているような状態だ。聞こえないのだろうか? そう考えもしたが、隣にいる船長が、なにやら指示を与えている。それに応答するように動いている。
 説得を試みている間も、船員たちからの妨害や、ユアンと船長の遠距離からの攻撃は続く。なんとかユアンの元へと辿り着いたルーキスが二刀を構えた。
「我々の窺いしれない事情がありそうですが……それは後程、詳しく聞きましょう。御免!」
 ルーキスがユアンに対し、峰打ちを試みる。それは避けられることも庇われることもなく、確実にユアンに当たった。痛みはするのだろう。表情をゆがめると、ユアンは腰に差していた剣で反撃する。それを辛うじて避けると同時に氷の槍がルーキスを襲う。一度後ろに下がると、船長はユアンの隣で余裕の笑みを浮かべながら話しかけた。
「眠っている間は良い子だなぁ? ――次はあれだ。盃に血を満たせ」
「――――、」
 こっそりと空中から二人の会話に耳を傾けていた鈴音にユアンはねらいを定めると、無数の水の弾丸を彼女に向けて放つ。流石に全弾避けきれはしなかったが、最悪の状態は防げた。近くにいたフリークライが鈴音を即座に回復する。
「フリークライ、ユアンについて何か気づいたことはある?」
「アノ布 何カ薬品ヲ使ワレテイルノダロウナ」
「薬品……あの船長、さっき『眠っている間は良い子』だとかほざいていたけど」
「眠ッテイル? ツマリ アレハ本当ニ『夢遊病』?」
「待ってください。それなら、今は既に意識が無い状態だってことですか?」
 二人の話に割って入るようにルーキスが続ける。「そうなるね」と答えたのは鈴音だ。
「それなら、まずは起こさないといけないっきゅ! レーさんが頭の中で騒いでみるっきゅ!」
「私も! さっきは反応無かったけれど、もう一度続けてみます」
「それなら、その間の船員たちは己れたちに任せろ」
 命がそう言うと、再びレーゲンと涼花が念話を試みる。その間も攻撃は止まない。命とメルナが中心となり、薙ぎ払っていく。
『起きてください、ユアンさん! 今、眠っているんですよね? どうか、目を覚まして……!』
『ユアンさん、起きるっきゅ! グレンさんから、あなたへ伝言を預かってるっきゅ!』
「…………」
『「どうか、戻ってきて欲しい」って、「どんな理由があっても、俺はお前の味方だ」って。お願い、目を覚ましてほしいっきゅ!』
『私たちも、できる限りあなたを助けます。ですから、どうか――』
「――あ、」
「っ!」
 先程のルーキスの攻撃に加え、脳内で響く声かけに意識が戻ったのだろうか。ユアンの瞳に生気が戻る。しかし、それは一瞬のことだった。再び船長は彼の口元に布をあてがうと、再びユアンの身体から力が抜ける。そんなユアンを船長は抱えると、イレギュラーズたちに背を向けた。
「! 逃がすか!!」
 命が船長の背に一撃を喰らわせようとする。しかし、その攻撃は割り込んだ船員がその身で受ける。
「邪魔だよ!」
 メルナも船員たちを振り払うように纏めて薙ぎ払う。レーゲンも彼女に続くように魔術を放つ。だが、数が多い。ルーキスが身体の自由を奪っていくが、船員たちのほとんどは逃げるつもりがないのだろうか。だが、船長はユアンを連れて、脱出・逃走用の小船に乗り込んでいた。ココロがそれに気づくと、その船を追いかけるように海へと潜り、離れていこうとする船に向けて魔力の閃光を放つ。しかし、それに応戦するように、氷の槍がココロを狙う。それを避けつつ追うが、逃走用に改造されたその小舟の方が速い。流石に射程外へと逃げられたら、打つ手はない。
「俺たちも撤退だ!!」
 どこから叫び声が上がる。生き残った船員たちが小舟を下ろし、次々に乗っていく。手の届く範囲内で各々追撃をする。しかし、逃げ足は早かったようだ。生き残った船員たちは荒れるダガヌ海峡をものともせずに、撤退していった。船長はユアンを連れ去ったまま、船員たちを引き連れるように遠く離れた場所へと走っていた。流石に濁悪海軍と名乗ることだけはある。
「くそっ!!」
 悔しそうに、そう言ったのはグレンだった。目的は確かに果たせた。だが、ユアンは連れ去られたままだった。しかし、収穫もある。
 鈴音は船長が落とした布の匂いを少し嗅ぐ。その独特の匂いに覚えがある。確かに、これは意識を失わせるのによく使われる薬品である。一般的に出回っているもので、精神を操るといった効果はない。
「ユアンは意識を奪われていただけで、ああなっていたみたいだな」
「二重人格とか……そういう話は聞いてない?」
「……いや、そんなことはない」
 メルナの疑問にグレンは答える。ならば、本当に夢遊病なのだろうか。だとすれば、随分と凶暴な夢遊病ではあるようだが。
「他の所でも洗脳されたような人が出てるっきゅ。それと何か関係あるかもしれないっきゅ」
「夢遊病みたいな状態の時だけ、敵対心があったというのも気になるところですね」
「意識ガナイトキニ アノ状態ニナル……ソンナ何カガアル」
「……ま、今考えても埒が明かねえ。一番の目的は果たした。一旦戻らねえか?」
 海賊船の場所は把握している。後はシレンツィオ連合軍に任せて、イレギュラーズたちは以来の達成を報告しに戻ったのだった。

成否

成功

MVP

岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人

状態異常

岩倉・鈴音(p3p006119)[重傷]
バアルぺオルの魔人
ルーキス・ファウン(p3p008870)[重傷]
蒼光双閃

あとがき

お疲れ様でした。
救出できずとも、一番の目的は果たしました。
ご参加頂き、ありがとうございました!

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