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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>アントーニオ・ロッセリーノ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●グリフィン第七機甲団による遭遇報告
 古代兵器をカスタムして作られた魔導ライフルを備え、男は推進力強化用のバックパックによって加速する。向かうはサングロウブルクからおよそ東。別拠点からの補給路として使われていたヴェッテンバーグ街道第二休憩地である。
 男がバックパックまで使って急いでいるのは、いわゆるパーキングエリアの役割をもつこの休憩地にてモンスターが発生。補給部隊が足止めを食っているという連絡を伝書鳩通信によってうけたためだ。
「無事でいてくれよ……」
 祈るようにつぶやくと、やがて休憩地が見えてくる。
 針葉樹林帯の中にあるこの休憩地は見分けがつくようにと木よりも高い位置に旗を掲げているが……その旗は奇妙にぼろけていた。
 男が神へ祈るような気持ちを抱いたが、すぐにやめた。この国に神などいない。いるとしても、きっと見放された後だ。
 なにせヴェルス前皇帝が敗北し、冠位魔種なぞが皇帝になってしまったのだから。
「止まれ!」
 後続の部隊に向けハンドサインを出す。
 休憩地はこれでもちょっとした基地だ。防衛能力もそれなりにある。
 だというのにモンスターの発生ひとつで足留めをくうなどおかしなことだ……と考えていたが。
 静寂の建物内から、ドウッという激しい音と共に巨体が出現する。
 巨大なカブトムシにも見えるそのモンスターを、男は報告書で知っていた。
「オートンリブス(大暴兜)――天衝種(アンチ・ヘイヴン)か!」
 巨大カブトムシことオートンリブスがこちらにぎろりと目を向ける。
 ハローと呼びかける陽気なやつはここにはいない。男は部下達に号令を出し、ライフルによる射撃を開始した。
 一斉射撃……だというのに、オートンリブスの装甲を魔術弾がはねていく。
「なんつう頑丈さだ。だが特殊弾頭なら――」
 防具を突破するための弾頭に切り替えよう……としたその時、オートンリブスの影から無数の火の玉が出現。それらがボオウと叫ぶような声を発すると人型に変化した。
 いわゆる『ヘイトクルー』。天衝種のなかでもよく見る個体だ。
 彼らは一体につき一つずつ機銃めいた幻影を出現させ、オートンリブスの防御に手子摺っているこちらの部隊めがけて雨のように乱射を浴びせてくる。
 銃弾によって倒れる仲間が一人二人と増えていく。
 不都合な状況は続く。オートンリブスはここぞとばかりにこちらに角を向け、突進を仕掛けてきた。
「回避!」
 隊長である男が叫びながらバックパックを起動。高速で飛び退いた――が、それゆえに木の幹にぶつかってしまった。
 かすむ視界で振り返る。すると、回避しきれなかった部下達がオートンリブスに轢きつぶされたさまが目に入った。
 復讐心と怒り。しかしそれらを、男は……この名も無き隊長は使命によって押し殺した。壊れた武器を放り捨て、森の中へと撤退。
 そう、この情報を持ち帰るのだ。持ち帰り、勝利を手にするために。

●アントーニオ・ロッセリーノ
「ベルナルド君、よく来てくれた。狭い部屋だか、どうぞあがってくれ」
 そう語るのは鉄帝国貴族、アントーニオ・ロッセリーノ。
 ロッセリーノ家は大体皇帝に仕え、それが善政であっても悪政であっても支持し常にフォローし続けてきた国の支柱である。
 そんな彼がサングロウブルクの別荘に移っているということは……。
「アントーニオ……あなたは、新皇帝にはつかないのか」
 彼の家に招かれた『優しい絵画』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は、意外そうに……というとやや語弊があるが、やや控えめな口調でそう問いかけた。
「私が皇帝陛下に仕え続けたのは国家がため。国家を破滅させることを目的とするような皇帝には、それが魔種であろうとなかろうと」
 語気に怒りの成分が混じりすぎたのを恥じたのか、アントーニオはこほんと咳払いをする。
「君のような画家を前に、芸術以外のことで感情的に振る舞うのは紳士性を欠いていた。すまない」
「いや、いいんだ……」
 ベルナルドにとってこのアントーニオはお得意様であった。別荘を作るので客間に飾る絵を描いてくれ、なんていう直接的なオーダーもうけたほどである。そしてその絵は、いますぐ目の前にかかっている。大事そうに。
「まさかアントーニオ氏と知り合いだったとはな……世間は狭い」
 そう、部屋の中央にある椅子に腰掛けつつ述べたのはイズマ・トーティス(p3p009471)。
「と、いうと……」
「鉄帝国の音楽会が開かれた時に、少しな。ローレットの演奏家たちを集めたいということで招待されたことがある」
 なるほど、と言いながら椅子をひき、テーブルへとかける。
 アントーニオはそんな二人を歓迎するように自分も椅子にかけ、残るローレットの面々が集まってくるのを待った。
 そう、これはローレットへの依頼説明の場なのである。

「先日、東部補給路に向かったグリフィン第七機甲団が壊滅した。
 生還した隊長の報告によれば、天衝種(アンチ・ヘイヴン)が発生し休憩用基地を破壊してしまったとのことだ……」
 天衝種とはバルナバスに従う魔物達の総称であり、いわゆる憤怒の魔物である。
「ヴェッテンバーグ街道第二休憩地はここサングロウブルクへ補給物資を送り込むために重要なルートだ。ここが塞がれた場合、かなり深刻な被害が広がるだろう。
 君たちにはこの基地を破壊したモンスターの排除を頼みたい」
「ふむ……」
 ベルナルドとイズマは顔を見合わせ、そしてもう一度アントーニオの顔をみた。
「何故、その話を真っ先に我々に?」
「はは」
 アントーニオは笑い、その表情を苦笑に変えた。
「人は困ったとき、信頼するアーティストにこそ声をかけるものだ」

GMコメント

ヴェッテンバーグ街道第二休憩地に出現したモンスターを撃滅しましょう。
舞台は森の中の休憩基地……ですが、基地はほぼ倒壊してしまっています。
なので戦場は背の高い森か、壊れた基地のまわりとなるでしょう。

●エネミーデータ
・オートンリブス×1体
 人よりも遥かに巨大なサイズを持つ、大型のカブトムシ型の個体です。
 動きは遅いですが圧倒的な防御力と耐久力を宿しています。そして自らの重さを最大限利用した攻撃を成してくる事でしょう。
 通常個体よりもやや強力なレベルをもっているため、充分に対策して戦いましょう。

・ヘイトクルー(機銃型)×複数体
 周囲に満ちる激しい怒りが、陽炎のようにゆらめく人型をとった怪物です。人類を敵とみなすおそろしい兵士達です。
 機銃のような幻影による怒り任せの射撃や掃射で物理中~遠距離攻撃してきます。

  • <総軍鏖殺>アントーニオ・ロッセリーノ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年09月30日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
鳥籠の画家
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)
Immortalizer
結月 沙耶(p3p009126)
奪うは人心までも
クルル・クラッセン(p3p009235)
森ガール
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ

●希望は背中のうしろにある
「大事なパトロンに頼られて、断るクリエイターはいねぇ。とっととアントーニオの憂いを片付けちまおうぜ!
 そもそも俺も帝政派だ。娯楽ってのは国民の心に余裕がなければ立ち行かない。世紀末の世では真っ先に切り捨てられちまうモンだ。特に時間をかけて創り上げる絵画の類はな。
 俺やイズマだけじゃねぇ。鉄帝の全てのクリエイターのために、俺は負ける訳にはいかない!」
 いつになく、当人の深い背景とは別の所で珍しくモチベーションを燃やしまくっている男がいた。『優しい絵画』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)である。
 魔法の微光を纏う絵筆を握りしめ、その柄尻についた鳥のような金属装飾がきらりと光る。
「作戦は森の中ではなく基地周辺を使って戦うとのことでしたが……」
 『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)が確認を求めるように小さく振り向く。全身頭まで鎧ですっぽり覆っているせいで表情はわからないが、微妙な顎の動きや肩の上げ下げで感情がなんとなくわかる。
 不測の事態に備えて戦うべきだ。といいたいのだろう。
「ああ、分かっている。モンスターの情報も既に出そろっているんだろう?」
 『Immortalizer』フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)がぱらぱらとメモを広げ、オートンリブスとヘイトクルーについての記述を探した。
 巨大なカブトムシ型モンスター、オートンリブス。カゲロウのように揺らめく人型モンスター、ヘイトクルー。幻影の機銃による射撃で中~遠距離をカバーする。おそらくオートンブリスを援護する目的で随伴している歩兵といった所だろう。
 まず間違いなく、オートンリブスを前面に押し出し後方から射撃を浴びせてくるのは間違いない。
 何かしら突飛な戦術を立てるのでない限りは、森の中で襲ってくる彼らを一度突破してから基地内へ侵入。壁や天井を利用して籠城するという戦い方になるだろうか。
 となれば、やっぱり大事なのはやる気ということになるのだが……。
「補給ルートの確保と維持って、命を繋ぐ上で最重要な部分よね。
 きっとここが踏ん張り所、頑張りましょう!」
「確実な殲滅をもって、グリフィン第七機甲団の怒りを代行します。
 そして、情報を伝えた隊長殿に『貴方のもたらした勝利である』と伝えるのです」
 『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)と『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)はパチンと手を合わせ、その手を強く握り合う。
 どうやらやる気は充分のようだ。やはり基本は人道支援。
 『表裏一体、怪盗/報道部』結月 沙耶(p3p009126)もゆるくうでをくみ、乗っていた馬からおりた。
 森にさしかかる道はわかりやすい。木の生い茂っている部分とほとんど映えていない部分がくっきりと分かれていて、道はまるで洞穴の入り口みたいだ。
「あちらが信頼をしてくれるならこちらはそれに応えるのが礼儀だろうな。
 生憎アーティストではなく怪盗とかの類だが……心を盗む点では似たようなものだろう?」
「かもね。わたしは――わたし達の故郷を皆が救ってくれたから、わたしも皆を助けになりたいの。
 鉄帝国の情勢も気になるけれど…先ずは目の前の脅威を排除する事から、だね。さあ、怪物退治、頑張るよー!」
 同じ気宇馬から下りた『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)は、手にしていたショートボウにぴんと糸をはった。
 一見原始的な装備だが、弓に使われた木の霊力とはった糸の頑強さは目を見張るものがある。値段をつけられない程度には結構な価値があるものだろう。
「信頼か……信頼されてるとは嬉しいね。
 もちろん喜んで引き受けるし、しっかり達成して信頼に応えるよ。
 それに……鉄帝国を破滅させる皇帝は認められないってのは俺も同感だ。
 ここは魔物が居座っていい場所ではない、取り返すぞ」
 これはその第一歩だとでも言うように、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は森へと踏み入った。
 途端に、視界がうっすらと暗くなる。

●魔物の潜む森
「こう暗いと透視能力もうまくはたらかないな」
 イズマは目をこするような仕草をすると、ベルナルドにくいくいと手招きをした。
「普通に木々の向こうを見透かせないのか?」
「遮蔽物の向こうが暗くちゃ普通に見えないんだ。せめて周りだけでも灯りで照らせないか」
「ああ、なるほど……」
 ベルナルドはペンで古代語の『灯』の意味をもつ言葉を描くと、ぼんやりと光るボールに変えてふわふわと浮きあがらせた。
「灯りをつければ位置はバレる。奇襲の対策をしておけよ」
「それは任せて」
 イズマは耳を澄ますとこちらに近づいてくるがさがさという音をキャッチした。
 オートンリブスは巨大なモンスターだ。動けば当然音がして、大きく草木も動くはず。
「そこだ!」
 イズマは機械の腕をぐっと突き出すようにしてある方向に構えると、開いた手のひらからリパルサーレイを発射した。
 衝撃を伴った光が周囲の木々を撃ち抜き、そのすぐ向こうにまで迫っていたオートンリブスの姿を露わとする。
「この場所で戦うのはつらい。基地まで走るぞ!」
 イズマが走り出し、ベルナルドはそれに続いて先頭を行く。
「開けた場所のほうが戦いやすいということでしたが……」
 珠緒は走り、地面から出っ張った太い根を飛び越える。
 その根を砕く勢いで、後方からヘイトクルーによる射撃が仕掛けられた。
「確かに、木や枝が邪魔で動きづらいね。足を止めて戦うスタイルのボクたちでも、挟み撃ちを仕掛けられやすいこの状況はすぐにでも避けたいかも」
 更なる射撃が浴びせられるが、蛍が一度反転し魔方陣を展開。魔法のコンパスと三角定規が浮かび上がったかと思うとそれらが素早く魔方陣を描き出し、拡大されたそれが銃弾を防ぐ盾となる。
 直後、逆方向からヘイトクルーの射撃がおこり蛍はハッとして振り返った。珠緒がせめてもと彼女の間に入って血の剣作りだし弾丸を撃ち弾くが、いつまでも続けていればじり貧になるだろう。
「――!」
 オリーブがそんな状況に飛び込み、ヘイトクルーにショルダータックルを浴びせた。鎧を着た人間のタックルは凄まじい威力がある。ヘイトクルーが幻影の機銃ごと吹き飛ばされ、「早く」と叫ぶオリーブに頷き蛍たちも再び走り始めた。
「やはり、挟み撃ちを狙ってきたか。まあそうだろうな。俺が森で奇襲を仕掛けるならそうする」
 フレイは低空飛行状態を維持しながら木の枝をよけ、時折『黒閃雷』を飛ばすことで牽制をしかけ続ける。
「今は、敵を引きつけるより早く走ることに集中したほうがよさそうだ」
 沙耶はカード状のナイフを取り出すとそれを後方に向けて複数投擲。
 回転しカーブをかけながら飛んでいくナイフがヘイトクルーによって撃ち落とされる。が、それで結構だ。相手の動きを少しでも遅らせたらこちらのものである。
 と思っていると、オートンリブスがとんでもない速度で追いかけてきた。
 周囲の木々をへし折りなぎ倒す勢いで、土などもはや掘り返されている。
 道路を引っぺがす工事現場そのものの音をたて、真後ろに巨大カブトムシが迫るというその状況にクルルは『うわっ』という声をあげつつも、なんとか転倒を回避。弓に矢をつがえ、オートンリブスへ発射する。
 刺さったことで霊力が解放されたのか、オートンリブスが大きな木に激突。追跡が一時的にとまった。
「今のうちに!」
 クルルが手を振り、仲間達が木の枝をこえるべくジャンプすると――開けた景色と崩れた基地が見えた。

●ヘイトコントロール
 コップや家具の散乱する部屋へと駆け込んだベルナルドは、そのままスラディングをかけて大きなテーブルの下をくぐり抜ける。
 窓のそとから撃ち込まれる機銃がテーブルの上版に激しい弾痕を作り、滑り抜けたベルナルドはそのまま下から蹴り上げるようにしてテーブルを倒しバリケードとした。
 それでも尚撃ち込まれる銃撃を背にしながら、ベルナルドは絵筆を取り出しさらさらと宙に何かを描き出していた。
「なんだそれ」
 同じくテーブルの裏に滑り込んできたイズマが絵を覗き込む。
 女と鴉が一体化したような怪物に見える。
「名前はない。強いて言えば、恐怖の顕現だな」
 絵画芸術というのは元来そう言うものだ。などと言って、ベルナルドは最後の点をうち、絵画を窓の外へと解き放つ。
「ヘイトクルーは蛍と沙耶が引きつける予定だ。オートンリブスを引き離せるか」
「建物を回り込む形でならなんとか」
 イズマはそう答えてから、『後は任せた』のハンドサインを出して部屋の外へと走り出す。
 一方、蛍は崩れた壁を駆け上がるようにして基地の屋内へと侵入。それを追ったヘイトクルーたちが近接距離から幻影機銃を乱射するが、庇いに入った珠緒がそれを血でできた細かい網目状の壁によって防御。弾丸をネットが次々に受け止め歪む。
「引きつけたのはどの程度ですか?」
「4割!」
「充分ですね」
 珠緒たちはそのまま屋内の厨房へと走る。広い厨房には大きな台と機材類が並んでいる。人がまるごと入りそうなオーブンは開きっぱなしで砂がはいってしまっていた。
 そこへ入り込んだ二人はくるりときびすを返し、突入してきたヘイトクルーたちめがけてまずは一斉に弾幕をはった。
 蛍はページを束ねた剣を振り抜くことで桜型の紙吹雪を生み出し、その全てをカッターナイフの刃のごとく鋭利にかえ発射する。
 一方の珠緒は血をぱっと周囲に散らしたかと思うとその全てを花吹雪に変えて発射。二つの異なる疑花吹雪が、狭い入り口から突入しようとするヘイトクルーの先頭集団を穴だらけにした。
 そのまた一方で沙耶は大きな倉庫へと飛び込み、放置されたスチームトラムの前で反転した。倉庫のシャッターをおろす。
 ヘイトクルーたちがシャッターをこじ開けようと集まってくる――が、沙耶はスチームトラムのエンジンをかけると煉瓦をアクセルペダルの位置に放り投げ、そして発車させた。
 シャッターを突き破り飛び出していくスチームトラム。一人か二人を挽きつぶしたのを確認すると、沙耶は倉庫から飛び出しカードナイフを右へ左へ投擲。
 ――直後、スチームトラムを横から吹き飛ばしながらオートンリブスが現れた。
 その前方をイズマが猛烈なダッシュで逃げている。が、あの暴れっぷりから察するに怒りを付与して自在に誘導しているというわけではなさそうだ。単にターゲットされているのだろう。
 だが望むところ。
「かかってこい、さぁこっちだ!」
 イズマがくるりと反転し格闘の構えをとったのは、大きな煉瓦の壁の前だった。H字型をした基地のちょうどくぼみ部分に逃げ込んだせいで逃げ道がなくなったのである。
 今度こそ仕留めようとオートンリブスが咆哮ともとれるようの声をあげ突進――しかけたその時。
「上出来だ」
 フレイが屋根の上から現れた。
「狙い放題だね!」
 クルルが反対側の屋根から現れた。
 イズマにとっては袋小路だが、それはオートンリブスにとっても同じだ。
 左右の上方。そして後方に無言で現れたオリーブによって取り囲まれることになったのだから。
「あなたも、望まず生み出された命だったのかもね……おやすみなさい」
 フレイは矢を弓につがえ、ありったけの霊力を込めた。弓に刻まれた精霊語が風を呼び、渦巻く風によって加速された木製の矢は銃弾を越えるの速度で発射された。
 オートンリブスの装甲を穿つには、充分過ぎる威力を持って。
 フレイがそれにあわせて『黒閃雷』の魔術を発動。黒き閃光がオートンリブスを襲い、装甲を抜けて浸透する。
 暴れるオートンリブスに後方からオリーブが剣を突き立て、イズマの拳が顔面にあたる部分へと叩き込まれた。
 そんなことが幾度も幾度もくり返され……最後には、オートンリブスはずずんと音をたてて地面に身を付け、動かなくなったのだった。

●おやすみ
 壊された基地は、無人のものではない。
 戦っている間、この崩落に巻き込まれたかあるいはモンスターの襲撃に倒されたか野ざらしとなってしまった死体をいくつか見ることがあった。
 ベルナルドたちはそんな彼らを回収し、裏の森へと埋葬した。
 彼らがいかなる宗教に属しているかはわからなかったが、この場合は気持ちの問題だろう。弔う気持ちが、何より大事なのだ。
 沙耶は自分なりに冥福を祈る仕草をして、目を瞑る。
「君たちの仇は討った、今はゆっくり休むといい……」
 犠牲者の数はかなりのものだ。
 見つけて運び込むだけでも一苦労だったし、それだけで一日がおわりかねない労力だ。
 それでもやったのは、この基地を守って戦おうとした彼らを無駄にしないためだ。
 極論するなら過去のためのでも死者のためでもなく、自分達の未来のために弔ったのだ。
 クルルはつんできた花を墓標にそえてやった。
 白く美しい花だ。この地方ではSSフロイデというかわった名で呼ばれる花らしいが、クルルの故郷では弔いの時にそえる花によく似ている。
「もう大丈夫。お休みなさい」
「冥界に国境なんて無いもの。どうか安らかに眠ってね……。
 この国は、皆さんのご家族の平穏は、ボク達皆で必ず取り戻してみせるから!」
 ドッグタグを回収し、握りしめる蛍。珠緒はできるかぎりの遺品回収を行い、それを追いついてきた馬のさげ鞄へと詰め込んでいく。
 馬の背にひっかけて両側につりさげる形のこの鞄は旅の道具がまとめて入るくらいには大容量かつ頑丈だ。しかしそれでもパンパンになってしまう程度には、この基地に『思い出』らしきものは沢山あった。
 家族の写真。『シャーリーより愛を込めて』と刻印された懐中時計。故郷の息子にあてたとおぼしき手紙。大事そうにつけられていた勲章。
 ひとつひとつは小さくとも、基地全体の人々のものとなれば、だ。
「全てというわけにはいきませんけど、ゆっくりと探す時間がとれたのは不幸中の幸い、ですね」
「かもしれないな……」
 フレイは屋根の上に立ち、モンスターの追撃がないか警戒しているようだ。
 オリーブがその言葉をうけ、最低限の墓標へと向き直る。
 戦場には、ドッグタグすら持ち帰れない死者も多くある。今回の戦いがそうならない保証は、やはりどこにもないのだ。
「今度また音楽会を……と言うには安全と平和が不可欠だな。
 鉄帝国を守るため、できる限りの力を尽くそう」
 イズマはそんな風につぶやき、ベルナルドのほうを見る。
「その通りだな。ひとまず、基地を建て直して補給路を回復だ。地道に、一つずつやっていこう」
 芸術が戦争のなかに埋もれていくのを幾度か見た。
 皆が悲しんでいるときに描かれた絵画を、苦々しい顔で通り過ぎる人々を見たこともある。
 だがベルナルドは知っていた。芸術こそが、戦争のなかで人を人たらしめるのだと。
 兵隊がスコアの記録された肉と骨の兵器とみられないのは、彼らの胸に美しい勲章が飾られたからだ。
 彼らが恐怖を共有しながらも心を一つにして行進するのは、勇ましい歌があるからだ。
 そして全てが終わったあとに、描かれた絵画はその日の怒りや悲しみや、そして全てが終わったという安堵をくれるはずだ。
「勝とう」
 今すぐに冠位魔種に戦いを挑んだとて、勝つことは極めて困難だろう。
 だがこの混乱した国を立て直し、巨大なひとつの拳にすることができたなら、あるいは……。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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