PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ラベルのない缶詰

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 格子窓の向こうで、鳥の群れが騒がしく鳴きたてながら闇夜を飛び交っている。工場の外れで警笛が鳴りはじめると、侵入者はラベルを剥す手を止めた。
 ――捕まるなよ。
 だが、子供の足ではそう遠くまで逃げられないだろう。むなしい願いだと知りつつ侵入者は祈った。祈ることぐらいしかしてやれないからだ。つくづく、己の非力が恨めしくなった侵入者は下唇をかみしめた。
 この缶詰工場で働く未成年の児童労働者は多くの場合、貧しい労働者、または周辺の貧しい農村の子弟だ。生まれつき病弱なものや、身体に障害がある者も多い。
 たとえ生まれが貧しかろうと、『力』があればここゼシュテル鉄帝国では立身出世の道は万人に開かれている。文字道理、『力』がすべて……と言うわけではないが、強いものが優遇されるお国柄だ。だが、そんな立身出世物語はめったに起こらないのが現状だった。
 貴族の生まれであるなら、ある程度の補正が利く。弱ければ弱いなりの戦い方を、それこそ親や使用人たちから手取り足取り教えられる。もちろん、頭のほうもそれなりに家庭教師をつけて鍛えられる。よい武器と防具を与えられる。こんなふうに生まれの時点であからさまなハンディがつく。もちろん、本人に飛び抜けた才能があれば――。
 倉庫の近くで警笛が鳴らされた。
 侵入者ははっとして顔をあげると、首を左右に振って暗い通路に人影がないか確かめた。じっと息を潜めて、耳を澄ませる。
 しばらくすると侵入者は、床に落ちた大量のラベルをかき集め、大急ぎでポケットに突っ込んだ。これを残していくわけにはいかない。あとはここから出ていく時に、棚の足につけた縄を引っ張って缶を散らかせば終わる。
 売り物にならなくなった缶詰は、そのうち不法投棄されるだろう。ラベルを張り替えて出荷しようとしても、中身がわからないのでは無理だからだ。
 もちろん、万が一にも汚染された中身を貧民街の子供たちが口にしないように、慎重により分けてある。ラベルのない缶詰はすべて安全なものばかりだが、倉庫中がひっくり返ったあとでは連中には見分けられないだろう。
 侵入者は縄を手に、入って来た通風孔から倉庫の外へ這いだした。立ち上がろうとして、目と鼻の先に革靴の先があることに気がついた。


 ローレットの片隅で、ダンプPが大声を張り上げた。
「大量に廃棄される予定の缶詰を、イレギュラーズのみなさんで食べて始末してほしいのです。缶詰の中身は『開けてみてのお楽しみ』でございます。来たれ、Pちゃんの元に。好き嫌いも食アレルギーもない大食漢たちよ!!」
 玉子型の奇妙な体形をした男が言うには、なんでも鉄帝のとある港町にある缶詰工場に空き巣が入り、大量の缶詰ラベルが盗まれたらしい。ラベルがはがされた缶の中身は形や大きさの違う一部を除いて解らないので、もう売り物にならないという。
 廃棄するにも金がかかるし、なによりももったいないのでどうにか始末してほしいという依頼内容だった。
 依頼主は缶詰工場のオーナーだ。
「空き缶はリサイクルするので全部返してほしいとのことでございます。中身はご自由に。すべてイレギュラーズで食べてしまってください」
 

 『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)は、人寄せをするダンプPの背を柱の陰から見ていた。あと少し、ローレットに戻ってくるのが遅ければ間に合わなかったところだ。
 依頼主は恐らく、イレギュラーズであれば万が一汚染された中身に当ったとしても、パンドラがある限りは死なないと踏んだのだろう。せいぜいが、腹を下す程度だと。
 不法投棄した缶詰を誰かが食べて死ねば、例えそれが貧民街の住人であろうと憲兵が動く。中身だけをとりだして地中に埋めても野良犬が掘り返す、海に捨てれば魚たちが食べて死ぬ。不審死が続けば、やはり憲兵が動く。あの辺りで缶詰工場といえば一か所しかないので、すぐに原因を突きとめられて営業停止、いや、廃業となるのは確実だ。
 どうするか悩んだ末に、犠牲者を出さず「中身」を始末する苦しい方法を思いつき、ローレットに依頼を出したに違いない。もしも、イレギュラーズが缶の中身を自分たちだけで食べず、他のものに分け与えたとしても――缶を開けた時点でいくらでも『汚染』の言い逃れはできる。誰かが死んでも責任をイレギュラーズにかぶせることができるのだ。
(「だが、そうはならない」)
 なぜなら、ラベルの張られていない缶詰は間違いなく安全だからだ。中身の安全は、あの晩捕まえた工場の生産ライン衛生責任者がお墨つきを出している。


 周りが依頼を正式に受ける者だけになると、ダンプPは急に声を落とした。
「ええっとぉ……実はぁ、みなさんにぃ、本当にお願いしたいことがぁ、別に『二つ』ありましてぇ……」
 コギャルのような言い回しに、イレギュラーズのうち何人かが怪訝な顔をする。聞いてやるから気持ちの悪い喋り方はやめろ、と声が飛んだ。
「あ、はい。実は、依頼主たちの監視の目をかいくぐって倉庫内に入り込み、『ラベルが張られている缶詰』を一つでいいから盗って来て欲しいのですよ。これが一つ目。二つ目は――」
 ラベルの張られていない缶詰の中身を自分たちだけで食べず、調理するなりなんなりして貧民街の子供たちに分けてやってほしいという。
「いい匂いにつられて、自然と子供たちが集まってくるはずです。もしかしたらその親たちも。ちなみにこの内緒のお願いをした人はシモ――いてっ!! なにするですかぁ!!」
 後頭部に手をやりながらダンプPが振り返った先には、誰もいなかった。

GMコメント

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●依頼条件
・ラベルのない缶詰、1OO缶を全て完食する。
 缶の中身はバラバラです。何か入っているか開けてみるまで判りません。
 最低限、クリアしなくてはならない条件です。

※!! 以下の条件は「依頼の成功」に影響しません。 !!※
それどころか、上手くやらないと依頼が失敗する可能性があります。
 ・倉庫内に忍び込んで『ラベルが張られている缶詰』を一つ盗み出す。
 ・貧民街の子供たちに『ラベルのない缶詰』の中身をご馳走する。

●場所
・鉄帝のとある港町にある缶詰工場の敷地内。
 昼です。
・常に潮風がふいており、気持ちよく過ごせます。
・広い芝地にテントと机が設置されています。
・バーベキュー用のかまどがあり、火を使って料理できます。
 「缶切り」「食器類」「基本的な調理道具」は工場が用意します。
 塩や胡椒、砂糖などの基本調味料も言えば出してくれるでしょう。

※敷地の周りには鉄柵が張り巡らされています。
 子供の手ぐらいは通る隙間が空いています。
※芝地のすぐわきに倉庫が建っています。
 当日は扉が開かれていますが、入口に見張りが2人立っています。
 もう1人別に、空き缶回収の名目でイレギュラーズの間を巡回します。

●缶詰の中身
※100パーセント安全です。ご安心ください。
・缶の中身は全部で25種類。
 1人につき2種類だけ中身を指定することができます。
 プレイングの冒頭に【】つきでにご記入ください。
  例1)【なまこフレーク】【ほぐしエビ】
  例2)【ジンギスカンもどき】【練乳】
 25種類に足りない分はそうすけが「適当」にひどいのを作ります。
 なお個数の指定はできません。
 パーセンテージで考えてください。
 例えば【なまこフレーク】と書いたプレーヤーが3人いたとすると、100個中12個の中身が【なまこフレーク】になります。
 1人で【なまこフレーク】【なまこフレーク】と書くと8個の中身が【なまこフレーク】になります。

●注意
工場側が用意している、と書かれているもの以外はすべてイレギュラーズで用意する必要があります。
ただし、アイテム欄に装備されていないものはリプレイで、何らかの理由により手に入らなかった、あるいは忘れて来たことにされてしまいますのでご注意ください。

  • ラベルのない缶詰完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年09月09日 21時45分
  • 参加人数10/10人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (10人)

奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女
パン・♂・ケーキ(p3p001285)
『しおから亭』オーナーシェフ
クランベル・リーン(p3p001350)
悪戯なメイド
ワーブ・シートン(p3p001966)
とんでも田舎系灰色熊
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
紅獣
ミシュリー・キュオー(p3p006159)
特異運命座標
イーフォ・ローデヴェイク(p3p006165)
水葬の誘い手
サイモン レクター(p3p006329)
パイセン
空木・遥(p3p006507)
接待作戦の立案者

リプレイ


 依頼主は一言で挨拶を済ませると、細く開いたドアの隙間に無理やり太った体を滑り込ませ、さっさと工場の中に引っ込んでぴしゃりとドアを閉じた。あっけにとられるイレギュラーズたちの前に案内役の男を残して。
「どうぞ、こちらへ」
 仕方なしにみんなで案内役のあとをゾロゾロついていく。
「感じ悪かったわよね。依頼人は実行者に誠実にあれって教わらなかったかしら」
 さすがに声は潜めているものの、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の目は恐ろしいほど尖っていた。別に熱烈歓迎を期待していたわけではないが、あの態度はいかがなものか。
 しー、という男たちの声を思いっきり無視して、『特異運命座標』ミシュリー・キュオー(p3p006159)はイーリンの言葉に力強くうなずく。
「おっしゃる通りです。私たちとまったく目をあわせませんでしたね。あの方、絶対に隠し事をしていますよ」
「もしかしてだけど、あの態度……ダンプP君の裏依頼と関係があるのかなぁ」
 手綱を引きながら『忘失の過去』クランベル・リーン(p3p001350)がいう。
 ヒーオウッと子ロリババアがしわがれ声で鳴き、案内役が驚いて振り返ったために、話はそこで打ち切られた。
 恐ろしい獣が深傷にうめくような低い音を壁越しに聞きながら、影になった路地を無言で進む。明るい中庭に出ると、海からの風がイレギュラーズたちに吹きつけた。
「モアイ? あれ、モアイじゃね?」
 『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)が指をさす。
 芝地に青い屋根の建物があり、大きな扉の両側に二体のモアイ像が三つ編みにした金髪を風になびかせて立っていた。
「……モアイそっくりだな。ちゃんと足まで掘り起こされている」
 一悟の発言を理解できたのは、『紅獣』ルナール・グルナディエ(p3p002562)と『距離を詰める好色漢』空木・遥(p3p006507)だけのようだった。
 三人はまったく同じ世界から召喚されてきたわけではないのだが、どうやら驚くほど世界の成り立ちが似通っているらしい。混沌の住人や一悟たちとはまったく違う世界から召喚された者には「モアイ」がなんであるのか知りようがないのだが、それでもなんとなく「モアイ」というのは顔のでかい石像のことだと察した。
「しかし……混沌では……髪の毛まで……女性のバージョンもあるのか」
 モアイが動いた。石像とは思えないほど滑らかな動きで扉の前に立つと、おもむろに取手を握って引っ張った。モアイの上腕二頭筋が逞しく盛り上がり、石臼を引くような重い音をたてながら扉が開かれていく。
 『吸血鬼を狩る吸血鬼』サイモン レクター(p3p006329)は遥の腕をとった。
「出番だ、遥。頼んだぞ」
「いやいや、まてまて! どう見ても女じゃねえだろ、押すなって! 守備範囲外だ!」
「俺が見張りに取り入って引きつけるって言ってなかったか」
 道中で確かそんな話が出ていたはず、とサイモンが突っ込む。
「『女』は任せろって話だよ。ギフトを使えば仲良しだ……て、だから押すなって!」
「使えばいいじゃないか。いま使わずしていつ使う?」
「それ言うならルナールの魔眼だろ。俺のギフトよりそっちのほうが効果あるぜ」
「あ、俺? 無理。俺は『みんなが食べられない缶詰の中身』を食べるという重要な役目があるからなぁ、残念だなぁ」
 ルナールは台詞の最初から最後まで、見事なほどの一本調子で言い切った。棒読みの手本のようだ。全力で拒否する感が半端なく表現されていた。
 男子が押し合いへし合いしている後ろでは、女子が険悪な雰囲気でひそひそトークを行っていた。
 積み荷を降ろしながら『とんでも田舎系灰色熊』ワーブ・シートン(p3p001966)はは怯える馬やロバたちをなだめすかし、テントのまで運んだ。
黙々と調理器具を並べる『水葬の誘い手』イーフォ・ローデヴェイク(p3p006165)と『『しおから亭』オーナーシェフ』パン・♂・ケーキ(p3p001285)に、おずおずと話しかける。
「あっち……なんだかすっごく怖いですよぅ」
「ああ、女たちのことはおれもさっきから気になっていた。どうしたんだろうナ?」
「ここに来る途中からだな。どれ、話しを聞きに行くとするか」
 バーベキュー用のかまどを点検していたパンオスが腰を伸ばしていう。
 そこへ案内係がラベルのない缶詰をカートに乗せてやって来た。牛乳を入れて運ぶブリキ缶もいくつか乗せている。たぶん水が入っているのだろう。カートを押す案内人の後ろくっきりと、芝の上に二本のラインが刻まれていた。モアイ嬢たちが護る倉庫からまっすぐ伸びている。
 イーフォはテーブルの上を拭きながら、さりげなくワープに目配せした。
「……おいら、みんなを集めてくるですよぅ」
 パンオスはにこやかに案内人を出迎えると、一緒にカートからラベルのない缶をテーブルに移し始めた。


 ラベルがないほかに、手に取った缶にはへこみや細かな傷がついていた。
 イーリンはここの雰囲気に何か犯罪めいたものを感じていた。機械が唸る音に混じって、泣き叫ぶ子共の声を聞いたのはついさっきのことだ。ミシュリーとクランベルに確かめると、二人も子供の泣き声を聞いていた。
 貧しい家の子を労働力として酷使する是非を工場に問える立場ではないが、腹の底から憤りが湧いてくる。恐らく、いまこの手にある缶詰の中身をここで働く子供たちは一度も口にしたことがないはずだ。
「中身がわからなくて売り物にならないというなら、私たちじゃなくて子供たちにあげればいいのに。ケチね」
 つい、本音が口をついて出た。
「まあな。アンタが言うように単にケチなのか、それとも何か理由があるのか。あ、フタを開く時は気をつけろ。ふちで指を切るなよ」
 サイモンが差し出した缶切りを受け取った。唇の間に鋭い牙を見て、つい先ほどの台詞を深読みしてしまう。いまは吸血ではなく口から食物を取り入れることで必要な栄養を摂取しているらしいが――。
「缶の中に血が落ちたら、パンオスたちがうるさいぞ。さっきも『先に手を洗え』って怖い目をして言ってからな」
 サイモンが共犯者めいた笑顔で言う。
「そ、そうね。イーフォも開ける前に髪を束ねてくれって。二人とも神経質よね。缶詰って、腐らないんでしょ?」
「いや、そうでもないぞ」
ルナールは缶の一つを目の高さにまで上げ、しげしげと見つめていた。
「この缶の中身は腐っている。見てくれ、フタが膨らんでいるのがわかるか」
 ルナールは缶をテーブルの上においた。比較できるように、他の缶を横に並べる。
「そういわれれば……」
 一悟は会話に割って入った。
「それ、たぶんだけど、はっ……ええっと、なんだっけ?」
 一悟は眉をひそめると、首を横へ傾けた。瞑想状態に入ったらしくピクリとも動かない。どうやら頭の中のお友だちと会話しているらしい。
「教えてくれてサンキュー! そうそう、発酵。発酵して膨らんでいるんだ。港で魚……種類はわからないけど水揚げされていたから、それが入ってんじゃないかな?」
「なに、もしかしてこの缶は……この世界の……アレなのか?!」
 ルナールはさっとテーブルから身を引いて、缶から距離をとった。
「どうしたの。みんなが開けないなら、おいらが缶詰を開けちゃおうかあぁ。あ、おいらはぁ、魚とか、好物ですよぅ」
 ワーブは長い腕を伸ばすと、件の缶を手に取った。さっさとフタに缶切りの刃を当てる。
よせ、と遥が怒鳴りながら走り寄って来て、ワープの手から缶を横取りした。
「アブねぇ、もうちょっとで大惨事だ。俺の知っているあの『世界一臭い缶詰』だったら、だけどな」
「そんなに臭いのですか。それは、人が食べても大丈夫なのでしょうか」
 缶詰の中身をガラスのボウルへ移し替えていたミシュリーが、テーブルの端から質問を投げてきた。二つのボウルには一口大に切られた洋梨と、オイルサーディンがそれぞれ入っている。横に口を開けた缶が八つ、重ねて置かれていた。
「私が開けた缶詰は美味しそうなものしか入っていませんでしたけど……」
「鼻がもげほどめちゃくちゃ臭いんだって。アルミサッシっていうんだ」
 一悟のボケにルナールが突っ込む。
「それをいうならサルミアッキ。全然違う。それはシュール'ストレンミングだ」
 間違いを訂正すると、そのままミシュリーのために解説を始めた。
「魚介類を直射日光の下で数日間放置したような臭いといわれているな。ニシンやカタクチイワシにたまねぎを交互に重ねて缶詰にしたものだ。殺菌しないで缶に入れるから中で発酵する。缶が爆発することもあるそうだ」
 通りすがりに聞いたクランベルがギャッと悲鳴をあげた。両手に持ったボウルの中身が波打っている。自分が開けた分を運ぶ途中だったらしい。ちなみにボウルの中身はグレープとマッシュルームだ。
「爆発して中身が飛び散ったら、洗濯が大変だよ。ついたら落ちないよ。ずっと臭いの……やだ、どこかよそで開けて!」
「おいらについたら毛刈り? それは嫌ですよぅ」
「その抗議ももっともだな。じゃ、後の処理は頼んだぜ、サイモン」
 遥はそっと缶詰をテーブルの上に戻した。
 ミシュリーとクランベルはボウルを持ってパンオスたちの元へ逃げて行った。ワーブも後を追う。
「俺は倉庫番のレディーたちとおしゃべりしてくる。料理ができたら呼んでくれ」
 あれほど嫌がっていたのにもかかわらず、遥は喜々としてモアイ嬢たちのところへ向かった。
 残ったもので及び腰になりながら、内側から膨張している缶を五つほど別に取分ける。
 なるべく遠く、工場の壁に並べて置くと、あとは黙々と缶開けにかかった。


 パンオスの前にはゲテモノを除いた缶の中身がガラスのボウルに入れられて並べられていた。
「持ってきた食材と合わせると結構、いろんなものが作れそうだな。パスタをいくつか作くろう。イーフォは何を作る?」
「缶詰って保存食のイメージがあるケド、最近の缶詰製品はあなどれないんだよネ。そうだな……ピンチョスやら、適当に作るかナ。串系ならあの隙間からでも手渡せるダロ?」
 料理を始める前から、鉄柵の向こうに子供たちが集まり始めていた。あれがダンプPの言っていた『缶詰料理をふるまって欲しい』子供たちだろう。
「工場で働いている子たちみたいですね。制服? みんな同じ服を着ています」
 パンを切り分けながらミシュリーが言う。
「事前にご馳走が食べられるって話が回っていた感じがするナ。やけに大人しいく柵の前で並んでいるヨネ?」
 パンパンと手が打ち鳴らされた。
「はーい、じゃんじゃん食べる準備するわよ。おしゃべりはあと。ちょっとそこ、塩コショウと砂糖くらい持ってきて」
 イーリンがワープや一悟にてきぱきと指示を出す。
「美味しい料理を作って子供たちにたらふく食べて貰おうじゃないの。さ、さっさと手を動かして」
「よし、腕によりをかけて美味しい料理を作るぞ。クランベル、パスタを茹でてくれ」
 はーい、と返事して、クランベルは子ロバの背に括りつけてあるバスケットからパスタの束を取り出した。
 指で輪をつくり、パスタを1人分に小分けする。それから沸き立つ湯に塩を入れ、五人分の束を鍋の縁に沿って回し入れた。
 横でパンオスがフライパンに火を入れ、オリーブ油――【オリーブ】の缶詰からとったものをひく。程よく温まったところで、匂いづけに細かく刻んだ【ガーリックソーセージ】を投入した。ふぁっと食欲をそそる匂いがフライパンから立ち昇る。そこへ潰した【トマト】と【オイルサーディン】が入れられた。
「パンオスさん、もうすぐゆで上がりますよ」
「うむ。それは冷水を入れて二重にしたボウルで冷やしてくれ。【桃】と【カニ】と、持ってきた干し肉で冷製パスタにする。次を頼む」
 イーフォはイーリンを呼んだ。
「こっちを手伝ってヨ。おれが味を調えるから、小さく切って具を【乾パン】に乗せてネ。乗せたらそこの小さな串で刺して止めて。あ、そこでブラブラしている男たち。フルーツを絞ってジュースを作ってヨ。料理が出来上がるまで暇でしょ?」
 そうこうしているうちに、テーブルの上に次々と料理が並べられていった。
 【白桃】【洋梨】【グレープ】【チェリー】はジュースにしたり、一悟が持ってきたアイスと合わせてパフェにしたりした。
 【鮭フレーク】は【ポテト】と合わせてポテトサラダにされ、ミシュリーがてきぱきと切り分けたパンの上に盛った。【豆】を潰してペーストにしたものも盛り付けていく。
「これはどうするぅ? おいらがそのまま食べようかぁ?」
 ワープが調理済みの食材をパンオスに持ってきた。開きにした魚に何かタレをつけて焼いたもののようだ。
「【サンマの蒲焼き】か。それは赤ワインで蒸し焼きにしよう。オレは貝とア スパラガスのパスタにとりかかる。イーフォ、頼めるか?」
「任せナ」
「なぁ、これも使えそうじゃないか?」
 ルナールが【コンビーフ】を差し出す。
「そのままでも食べられるけど、これ蒲焼のたれを使ってしぐれ煮にしちゃおうか。ワインのあてに」
 【サバ缶】はパンオスが作ったジェノベーゼソースをかけて、ポテトと一緒に添えた。
 イーリンが【スパイシーカレー】に持ってきた独自の調味料を加え、【マッシュルーム】と合わせてカレーパスタのソースにする。
 そうやって出来上がった料理はまずイレギュラーズで味見をした。
 依頼主がイレギュラーズだけでと指定をしてきたことに、ミシュリーをはじめとして疑問を感じていたものが少なくなかったからだ。何か裏がある……例えば、毒が入っているとか。
「うめー! 最高!」
「こら、一悟。一人で全部食べるんじゃない!」
 口いっぱいに頬張る一悟を見て、ワープは安心した。どうやら大丈夫なようだ。
「美味しそうな感じですよぅ。オイラも食べるですよぅ」
 他のイレギュラーズ達も料理を口にする。イーフォも調理の傍ら味見と称して手を伸ばした。
「ウン、とってもオイシイ!」
「はい、そこまでです。あとは子供たちに食べてもらいましょう」
 ミシュリーは遥がモアイ嬢たちに運ぶだけのものを残し、料理をトレーに移した。
 案内役にはすでにイーリンが取り入っており、赤ワインと料理で釣りつつ缶詰の製造方法を聞いて気をそらせている。
 工場側に気づかれないうちにと、クランベルは裏の二つ目の依頼を果たしに倉庫の裏手に向かった。こっそりと物質透過で忍び込み、まんまとラベルのついた缶を盗み出した。あとは自身のギフト『不可思議の秘め事』で缶を小さくして懐に隠すだけだ。
「それじゃ、ゲテモノ消費といくか」
 サイモンはこきこきと首の骨を鳴した。
「……というか、なんでこんなもんを缶詰にしたんだ」
 残されたボウルと例のフタが膨らんだ缶五つを前にして、ルナールがあきれた顔をする。
 【たくあん】【イナゴの佃煮】【羊の睾丸】【乾燥ナマコ】そして【シュールストレンミング】。食べられないものはないが、微妙なラインナップだ。
 虫はダメ、と一悟は早々に手を上げる。
 ルナールも顔をそむけた。
「あぁ、これは流石に俺でも食えない気が……サイモン頼めるか?」
 やれやれ、今度の仕事は廃棄処理か、とサイモンがイナゴの入ったボウルを手に取る。
「早くシュールストレンミング開けようぜ。どのぐらい臭いか興味あるー」
 缶は一悟が開けることになった。
 シュールストレンミングが何かを知らないワーブが、興味深げに鼻を缶に寄せる。
「おいらにかけないでよぅ」
「わかってるって」
 缶切りの刃がブリキに食い込んで、ブシュ、と音を立てると同時に、想像を絶する悪臭とともに灰色の液体が勢いよく吹きだした。
「ヴオォオオオオォゥッ!!」
 思わず吠えるクマ。
 吸血鬼も戦闘要員は素早く鼻と口を手でふさいだが、コックたち同様、防衛に間に合わなかった。
 遥はモアイ嬢たちと素早く倉庫内へ撤退した。中にクランベルがいない事を確かめ、すぐに扉を閉める。
「これでよし、もう大丈夫――?!」
 四つの巨大な目が、遥かに迫ってきた。分厚い唇を突き出しながら。
「じゅ・てーむ(はーと)」
「ぎゃーっ!」
 数秒後、半裸状態の遥が倉庫から転がりでてきた。
 遠くから見ていた子供たちと女性陣、それと案内係が笑い声をあげる。
 その手前で男性陣が、白目をむいて芝の上を転がり回っていた。
 ミシュリーは臭いの引くのをまって、風上からテントに戻り、鼻水と涙を流しながらゲテモノを食べる男性陣のためにアイスティーを入れた。
「お疲れ様です、お茶でも飲んで休憩されませんか?」


「嘘と思うなら子供に聞けば『貰ったことがある』と答えるはずよ」
 あの缶詰工場は安全で衛生的。しかも強者の余裕として、近隣の貧民街の子供に缶詰を定期的に分け与えている。帰る道すがら、イーリンは出会う人にそういって聞かせた。
 うまく行けば、あの工場は優良企業にならざるを得なくなる。そうなって欲しい、と願いを込めて。
 イーフォたちも噂の流布に協力した。
「結局、何だったのかな。今回の依頼……」
 クランベルが『ラベルのついた缶詰』を手につぶやく。
「ローレットに戻ったら聞いてみましょう」
 ミシュリーは子供たちの笑顔を思い出し、神に彼らの幸せを願った。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

大成功です。
盗み出した「ラベルのついている缶」はダンプPが受け取り、クルールに手渡しました。
そのうち、これに関する依頼を出すかもしれないと言って詳細は教えてくれませんでしたが……。

それでは今回はご参加ありがとうございました。

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