シナリオ詳細
再現性東京202X:14へ行け
オープニング
●5時間目
ぶぅ……ぶぅぅん……。
プールの授業のあと、柔らかな倦怠が教室の中に満ちている。軽快なチョークの音がする。真面目にノートをとっている生徒もいれば、突っ伏して寝ている生徒もいるね。
この国語教師は、どうやら授業の妨げにならなければ生徒の居眠りも放っておくタイプらしい。
けだるい5時間目にとくにさざ波は立たなかった。
ここ「再現性東京(アデプト・トーキョー)」では、練達の技術によって再現された現実世界だ。
均衡を崩さないように慎重に、慎重にできている楽園だ。
おや、教室の隅っこで、退屈した生徒がノートの切れ端に物語を書いている。ちょっと恥ずかしくなるような(でも、とても大切な!)青春時代のひとつの形。朗読の順番が回ってきそうになって、慌てて消しゴムで消している。
あらら。消すことないのにね。みられるわけじゃないのにさ。
ノートの切れ端。頭の中、結末が紡がれる前に終わってしまった物語がいくつあるだろう。終わらせられなくて、クリアできない物語のことを、いったいなんといえばいいだろう?
ここ希望ヶ浜学園は、多面結晶体型の宝石のように実に実によくできた匣(ハコ)だ。
でも、綻びがでるのは人の常。
パラグラフ2:「放課後の異変」へ進む。
●パラグラフ2:放課後の異変
もうひとつ、説明しておこう。
悪性怪異:夜妖<ヨル>というのは、希望ヶ浜市の社会の片隅に巣くうモンスターのことだ。
……きっと言うまでもなかったね。
放課後の教室。
ここは、音楽室かな。ちょっとくらいけれど……。美術室にはどうやら行きたくなかったらしい……なんでかって? いや、そんなことはどうでもいいね。
ガコン、と、音がして、肖像画が壁から離れた。ヴェートーベンが両腕を伸ばして床を這おうとする。
でも、それを止めようとしている影があった。
「ブック」
とある生徒Aが小さく唱えると、彼の右手に、ちょうど分厚い本が現れたよ。
彼がページを開くと、具現化した本に小さな夜妖が吸い込まれていった。
彼はね、ほんとうにただの生徒だった。自分のことを英雄か何かだと思っていたんだ。そして、放課後に図書室でその「本」を見つけた。
ゲームブックっていう種類の本だよ。
R.O.Oなんてものも出てきてる中、いやはや結構レトロな趣味だ。本体は弱いこっくりさん、みたいな夜妖だ。文字を食って悪さをする。
タイトル?
そうだな、『bbb』。……とでもしておこう。この世界になぞらえてね。
夜妖が封印されたように見えたかな。
でも、この本こそが「夜妖」だった。
この本は、弱い夜妖を取り込んで無数の物語を紡いでいる、不完全な本だった。
生徒Aは自分だけ真実を知った気になって、この世界なら、じぶんならなんとかできるんじゃないかと思って……夜妖に取り込まれてしまっていたんだ。
本を片手に、捕食できそうな相手を探している。
・この異変を調べる
パラグラフ12:「依頼を受諾したあなたたちは」へ進む。
・そんなことは関係がない。家に帰って寝よう。
パラグラフ14へ進む。
あ、14とは、端的に言えば「GAME OVER」の意味だ。俗にね。
●パラグラフ12:依頼を受諾したあなたたちは
「やあ、なんだか確定ロールみたいな真似をしてごめんね」
一般人『N』が椅子を引いた。
あなたたちの目の前に、図書委員が立っている。図書委員だと感じたのは、この場所が図書室だったからである。貸出カードを整理していた一般人『N』は「今は電子だっけ?」とカードに持ち替えた。
「そう、ここは夜妖の作り出したゲームブックの中」
一般人『N』がいうと、周りに文字が浮かび上がった。
「矮小な夜妖を取り込む夜妖だったんだ。一つの夜妖が一つの段落になる。そして、いっときのR.O.Oの世界よりもひどいゲームバランスになっているし、クリアの道筋は……残念ながら、用意されていない。でもきっと、オマエたちは段落を渡り歩いて、たどり着き、切り裂いて、文脈を破壊して、つないで、……ボスを倒さないとならないはずだ」
ぺらりとめくって、一般人『N』は段落の塊を指し示す。
「こんな困難が待ち受けているんだってさ」
●静寂の章
旧校舎。
壁から這い出してきた骸骨がカタカタと音を鳴らしている。
指揮を執る人体模型。
「さあ、お前たちもこの中のアンデッドの一部となるのだ!」
無数のアンデッドたちがあなたたちに襲い掛かるだろう。
慌ててあたりを見回してみるが、扉は消えている。
ああ、なんてことだ、逃げ場はない!
パラグラフ14へ進む。
●未来の章
ここは……未来の世界だろうか?
未来は芳しくない。ありとあらゆる最悪のことが起こる。
エネルギーは枯渇して、人々は争いあうだろう。
タイムマシンで未来からやってきた超高性能な殺人アンドロイドが、全力で殺しにかかってくる。
ああ、なんてことだ、逃げ場はない!
パラグラフ14へ進む。
●いばらの音楽の章
いつのまにかあなたたちは、いばらに閉ざされた城の中にいた。
じわじわと茨の壁が迫ってくる。
巨大な薔薇は美しい歌声がきらいなようであるのだが、声を出せば出すほどに茨は強く締め付けるだろう。
叫んでも叫んでも、叫び声は外に聞こえないのだ。
パラグラフ14へ進む。
●潮騒の章
いつのまにか、海岸にいる。
「すまない。お前さんたちをだましてすまない。これも村のためなのじゃ」
老人が言った。
この予言が確かであるならば、もうすぐやってくる海の神が、旅人をくらって眠りにつくのだという。体に巻き付いた鎖が深海へといざなう。
巨大な蛇が口を開けている――。
パラグラフ14へ進む。
●オラボナの――
Nyahahahahahahahaha!!!
「あ。これはだめだった」
ページを開いた瞬間、インクがだばだばとあふれだす。制御できない黒い奔流があなたたちを包み込む。14へ行けという文字列は塗りつぶされてしまって強制的に次の段落に――。
「つまりね、こんな困難がたくさん起こるけど、ここが超常空間である以上、オマエたちだって超常的な手段で対抗できるってワケだ。さあ、いってらっしゃい」
……リプレイに続く。
- 再現性東京202X:14へ行け完了
- GM名布川
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年10月02日 22時05分
- 参加人数6/6人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 6 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(6人)
リプレイ
●著者近影
――混沌。
『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)は嗤った。
膨れ上がり続ける段落。
夜妖は気が付くべきであっただろう。
なんでもアリの、ルール無用の世界には……決して、『招いてはいけない者たち』がいると。
14へ――。
「やぁ初めまして。『夢野幸潮』だ」
ぱらりとひらかれたbbbは、夜妖の意に反してくるりと裾を巻いて、「著者プロフィール」のページを開いたのであった。
今日の『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)は仰々しく権威ある者である。腕を組み、専門家らしく椅子に腰かけ、もっともらしく解説を始める。
「敗れし幻想とは『物語』に於いて"描写"されなかった全ての事。
即ち地の文そのものであるこの世界は我が権能そのもの。
我が万年筆にて"執筆"を執り行おう」
幸潮の手には万年筆が握られていた。
超くだらない幻想讃歌は、本来であれば混沌では単なるエフェクトにすぎない。
だが、ここではペンは剣よりも強し、だ。ほかでもない夜妖がそう決めた。
「構わないよな? 本の中に合成したのが汝らの運のツキだ」
幸潮が足元からせりあがってきた脱出スイッチを押すと、いかにも上等な革張りのソファーが発射されて段落を突き抜けていった。追いかけてくる者の名前をさらさらと書き記し、死を念押しする。
「描写するだけでどのような危機《シリアス》であろうと喜劇《ギャグ》へと貶められる。
本当に物語というものは面白いな」
ああ、そうそう。
この我というキャラクター自体の話をしていなかったか。
我の分類は所謂メタキャラになる。
シナリオの中でシナリオを編纂するなどまるでマトリョーシカのようで笑えてくるが、視点は 汝らと同じだぜ。
誰だ、ってそりゃ──これを読んでいる汝の事だ。
わかってんだろ?
自己を本と同化させた後での、否定である。
幸潮が自身へ万年筆を突き刺すと、姿全体に罅が入った。
●処理堕ち
ぼぼーん。
激しい爆発をものともせずに、『自称未来人』ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)は起き上がった。
「ヨハナ達またやられちゃいましたねっ!
なかなかどうして難しいですけど楽しいですねTRPGってっ!」
ころころ、とどこかでサイコロの音がする。
「ゲームブックというより、一度入れば生きては出られない"スローターハウス(食肉処理場)"のほうが適切かと」
『納骨堂の神』シャーラッシュ=ホー(p3p009832)は、爆発で空いた行間を割って介入する。その洋服には一切の汚れはなく、ホーは無感動に襟を正した。
「このような黴臭い場所からは一刻も早く脱出したいものですね」
「さて、脱出してほしいと思っているのはどちらかしらね?」
『玲瓏の旋律』リア・クォーツ(p3p004937)はふうとため息をついた。
「特異運命座標の中でも特に訳の分からん人達をここに連れて来たのは夜妖のミスじゃないかしら」
1段落目でこんなふうにめちゃくちゃにされるとは、まさか夜妖も思ってはいなかったことだろう。
「怪異としての格は……うむ。まあ、仲間達を見ればの。
一体どちらが人の側か知れたものではないわ」
「まあ、そうかもしれないですね!」
お主もだぞ、と『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)はヨハナに心の中で突っ込んだ。
ヨハナは友人であるが、冗談のような存在である。リアも、只人とは言えぬ者だ。
(他は……言わずもがな。まっとうな人間は我だけではないか?)
どこからか美しく、奇妙な旋律が聞こえる。
ふんぐるい むぐるうなふ
くつるぅ るる=りぇ
うがふなぐる ふたぐん
『まっとうな人間』、クレマァダの奏でる旋律を情報として押しとどめておけるほど、この夜妖は上等なものではない。
オラボナがゆっくりと指揮を執るように両手を動かす。
「私の頁を、我等の段落を、連中のルビを
ノンブルを雑に扱うとは如何様な所業か
数多は貴様の望んだ戯れだが、何者も上位存在には敵わないと謂う貌か!」
門にして鍵。――こじ開けることができるということだ。ぶちまけられた回復は削り取られた文字をあがなうに十分なほどに生き生きとしていた。
「滂沱と存在するこの黒渦、これこそこの世界であろう。
されば、さざめき立つものであれば、波濤は通る。
海嘯は記述を押し流す/消波は記述を消し飛ばす」
クレマァダのそこにあったのは、確定ロールを上回る、圧倒的な情報の洪水だった。揺らし、揺らされ、クレマァダの力で、この世界はずいぶんとぶれていく。
「ふん、如何なる怪異か知らぬが我を呼んだのは失敗であったな。
致命的な間違いと言っても良い」
「全員好き勝手に動いている訳だけど、この人数をひとりで捌くのって大変そうよね
心から同情するわ」
リアは本気でそう言っていた。
まぁ、可哀相だから一応付き合ってはあげるわ、と、断章に向き直った。びくりと文字が震えたのは見間違いではないだろう。
「ひとつだけ教えといてあげる
『確定ロール』に対抗する手段は『無敵ロール』よ」
●無敵ロール
「未来は芳しくないと思われたが、何処からか超絶可愛い聖女が舞い降りて世界に光を与えました」
リアは語る。あまりに無茶苦茶で、イレギュラーズに都合の良い一行だった。それを否定せんと夜妖は必死に反論を書き連ねるけれど、けれども、リアの一行には圧倒的な説得力があった。
馬鹿らしいと? そうかもしれない。それでも、この世界は判断したのだ。
どちらの方が、より「面白い」かを――。
「その聖女はついでにアンドロイド達を片っ端から粉砕していきました
ああ、光溢れる世界に幸あれ
14への道は必要なくなりましたとさ」
この世界は、聖女に味方している。
不意に、静寂が訪れる。
死骸のように貼りつき、動かなくなった文字をたどり、そこにはホーが現れる。
「静寂の章の攻略ならお任せください」
うごめく無数のアンデッド。ならば、やるべきことは一つだ。
壱式『破邪』の絶え間ない光が、邪悪を打ち砕く光となって満ちて、アンデッドを追いつめていく。
しかし敵の数は多すぎる。もちろん、ホーはなすすべもなく――。
「重要なのは緩急、起承転結、或いは三文字だと忘れたのか?
出来損ないのゲーム・ブック、GMを見習い給えよ、貴様」
オラボナはないはずのページの隙間に身を躍らせる。登場を拒否することはできない。血のような何か――相手は、ホーが圧倒している。生命力を差し出す必要はなく、むしろ喰わせているともいえた。
肥え太る段落、インク、肉の染み。そしてホイップクリームの群れ。
「ええ。確かに逃げ場はありませんが、それは彼らも同じことではありませんか?」
ページのはじまで追いつめられたアンデッドには、もう逃げ場はなかった。
しかしながら、ホーに群がるアンデッドは凶悪で――。
なるべく、小さいフォントで書き記された反撃の文章はホーによって描かれた二重打消し線によってとどめを刺される。14の文字はろうそくと化し、ただ奇妙なオブジェとなっていた。
「Nyahahahahahaha!
――貴様、其処の生徒
美術室を避けるとはホイップクリームが不足していないか?
危機管理能力は人類に不可欠だが、嗚呼
――bbbは誰の手で発動する?」
●断章を切り裂いて
「いばらの城に天才音楽家が現れました
声が出せずとも何のその、だったら演奏を聞かせてあげればいいじゃない
音楽家の奏でる美しい音色はたちまち薔薇を虜にしてしまうのでした
14への道は必要なくなりましたとさ」
言うまでもないでしょう?
リアは段落を超えていく。だって、リアにはそれができるからだ。飛び越え、回り込み、物語を解決に導いていく。そんなはずはない。
そんな理不尽が許されていいはずはない。
夜妖は驚いて自分自身を見た。
いや、できる。可能なのだ。
幸潮が地の文をのっとっていた。
途方もない敵に囲まれ、脱出することもかなわず――。
ああ、どこからか、拍手が聞こえてくる。 崩れゆく空。 張り裂ける地。 氾濫する星海に。 命など失う為にあるのだから。
[Welcome to Valhalla]。
幸潮は地の文を改変し続けていた。
"イスカンダルで轢殺し突破した"。
「へい、イスカンダル!」
ヨハナがイスカンダルで乗り込んでくる。その通りになる。
「……ブレーキってどこでしたっけ?」
あると思えばある。幸潮が書き足す。
「あ、ほんとですね。どうもありがとうございます!」
危機が去ったと思ったら、もう一段落。
「懲りないわね……」
リアは行を追うのにも飽きはじめていた。
「潮騒の村に慈悲深い修道女が現れました
村を救う為、自ら海へと身を投じたのです
深海から大きな蛇が口を開いて……あぁ、もう面倒だわ!
とっととくたばりなさい! クォーツ式ドロップキーーーック!!!」
めりめりと、リアのドロップキックでページが割れる。そんな分厚い本を出すから背割れが起きるのだ。
「よし、次ですね、いってきますー!」
ヨハナが文字を渡っていく。
幸潮が万年筆を突き刺すと、天地に罅が広がり、最後に全てが割れる。
●オラボナの――いやこれいいでしょ
「こればっかりは付き合うだけバカバカしいわ」
リアは引いた。懸命な判断だろう。あたりを見回し、涼しげな声のもとに身を寄せた。
クレマァダだった。
「うむ。避難してきて正解じゃな。お主もいるか?」
はい、と幸潮は返事をする。
問題ないですよ、今、皆さんここにいます。
ホーとヨハナがやってきた。
「休憩所ですか。清涼な空気ですね」
「あ、こんにちは! ヨハナ、いろいろめぐってきたんですけれど、どうでした?」
「んな世界に於いても真っ当に相手はしない。
僧形をしておればいくらかこういう体験はするものじゃ。
コツはいつだってまともに相手をしないことじゃ。
相手は理の化身、理不尽の権化。相手のルールに乗った時点で負けということじゃな」
だから、用意された段落は歩かない。そうしなくても幾多も道筋はある。我が意を只管に押しつけ続けるーー夢見るままに。クレマァダには、それだけの力がある。
世界は我がものに。ドリームランドを裸足で歩くように。
(その世界を、受け止められるか?)
頁を端から端まで浸潤して、大海と成して。ここはもうクレマァダの世界。渦巻く海に耐えられるわけもない。
「そうだ、生徒はいた?」
いることにしよう。
本来なら遠く、段落を渡り歩いてようやく会えるはずの生徒。捻じ曲げられてそこにいる。リアが教師であることを説明する。今起こっていることを受け止めきれてはいないが、とにかく頷いた。
「はは、皆呼吸はできるか?
或いはこの解放感こそ敵の狙いか?
まあ、知ったことではないのう。今はこの力の赴くままに」
力を振るおう。
●隔離された混沌
それは、夜妖が決して立ち寄らないようにしていた『混沌』の段落。
行きたくなかった。
だからこそ道をつなげていなかった、段落。
(でもそれじゃつまらないよね、さすがに)
一般人が笑う。
「悉くが14とは莫迦のひとつ憶えと解せ、結局のところは捲る術を有した者の勝利だ
それを勝利ではないと謂う輩は少なからず在るが『プレイヤー』が『キャラクター』だと如何に
――そのコマを突き破り地の文を踏み越え作者の脳味噌を啜って魅せよう」
真っ黒に塗りつぶされた、そのページをオラボナは歩いている。なんとか追い出せやしないかと逆さに振ってみるのだが、うまくいかない。
「では――貴様の名前は、確かに布川だったな
素晴らしい――直接会話がしたかったのだよ、同一奇譚と奴隷の鳴き声に愉悦していたのか?」
何のことなのかわからない、とぼける夜妖にオラボナは指を振る。
「そろそろ消しゴムかバックスペースの用意をすべきか
けっしてたおせぬ悪辣に消去の二文字を叩き付け給え
おや、十円玉で削った方が『良かった』のか?
燃やすのは他に委ねるべきだ、私自身も紙故に
特殊生命体故に溺死や不眠拷問、餓死は不可能なのだよ
『約束』が在る故、我等は『御伽噺』と洒落込もう」
さあ、まほうの言葉を唱えよう。
おしまいだ。
●14番の先へ
「インクの滂沱、チョコレートの誤嚥、キーボードの惰性、タブレットの芳香!
ゲームは無効だ」
オラボナがゲームセットを宣言する。
倒せない、倒せない、倒せない。
段落をめぐってどこにおびき寄せても、蹂躙されるのは夜妖のほうだった。確定で死をもたらそうとしても、彼らはなぜか死なない。
都合の良い叙述をせんとすれば、どこからか幸潮が現れて塗りつぶしてしまう。けれども、この世界の構築をサボることもできない。目を離すと、ヨハナが丹念にあちこちをめぐっている。ならば殺してしまえと放棄すると、ホーが拾い上げて「見つかって」しまう。
「そして聖女は生徒を助けて、悪い夜妖をやっつけてしまいましたとさ」
リアが迫ってくる。
ああ、物語の中に、イレギュラーズたちをとらえることができない。
「無茶苦茶に遊び倒しますっ!」
ヨハナはめぐる。同じ段落を飽きもせずにめぐる。変わることのない文字列に解釈を加えて何度だって新鮮に驚いてみせるのだ。
「何週かしてわかりましたけど、これってプログラムと同じですねっ!
演出内容はともかくとして、特定の手順を踏んだら終了の命令(14番)が入るのであればっ!あるならばっ!」
ヨハナは『それ』、に向かって武器を構える。
「人生バックトゥザフューチャー勢のヨハナにこそ得意分野っ! 悪い未来は全部ゴミ箱に捨てちゃえっ!」
おぞましい感触に夜妖は身震いした。いつのまにか、物語を書き足されている。
『しかし、諦めなければきっと未来は変えられますよっ! 続行の意思があるなら次の文章の通りにっ!』
本来であればもう二度とたどり着かないようにふさぐだけで済むはずであったのだ。
書き記された処理を、何度もなぞってしまう。14番に行けというがゆえに、言わなければいけないがゆえに、同じ場所にたどり着いて無限に膨れ上がっていく。
(相手がルールに逆らえないプログラムなら、ルールにのっとっての次善と遅延で勝負しましょうっ!)
『直ちにサイコロを10個振り、14にその合計値を足したパラグラフへ進みましょうっ!』
『この本を放り投げてたまたま開いたページの好きなパラグラフへ進みましょうっ!』
夜妖の制御を、bbbは離れていく。これはもう新しいゲームだ。
インクが、海の音色でにじんでいる。
もう、この世界を保てない。
「制御不可能な乱数で、あなたの知らない未来へ解決策を求めましょうっ!」
新しい可能性を。
無限の未来を、ヨハナは引き寄せる。引き寄せてしまえる。
死に体である。
bbbは、実体化した本はまだ本の中にいる。けれども、もはやその機能をうしないつつあった。このまま消滅すれば一網打尽にできるか……いや、そうはならない。ホーが目ざとくそれを拾い上げる。
「けしてたおせない、ですか。
ゲーム内では文脈を繋いだり、切り離したりと様々な手段での干渉が可能でしたが、この夜妖は「消す」行為では倒せないという意味でしょうか」
「そんな記述は、はて、どこにあったか。しとどに濡れたこの本のどこに。ひょっとして、流れてしまったのではないか?」
クレマァダはにやりと笑い、不死性を簒奪した。
倒せない敵などいるはずもないね。
幸潮が言った。
「"消して"倒せないのであれば、この本は"燃やして"しまいましょうか?
こっくりさんと呼ばれる怪異に似た存在であれば、類似する対処法も存在するかも知れません。
確か「交霊術に使用した紙は燃やし、10円玉は三日以内に処理」すればよいとか」
「ふうむ。海岸でよいか?」
すっかりこの世界を掌握したイレギュラーズは、ブチ開けた穴から好き勝手に移動できるようになっていた。穴あきチーズのような世界で、オラボナが何かを夢中になって読んでいる。
ルールブックか。
「お焚き上げのようなものですね。
おや? 以前ビジネスホテルから拝借したマッチをポケットに入れておいたはずですが……」
ホーがそういえば、そうなる。もう、怪異には意を唱えるほどのインクも残ってはいないのだ。
そして、この世界へともどってきた。
かくして夜妖の怪異は去る。ぐしゃぐしゃに水にぬれたルールブックが一冊残された。中身が膨れ上がった本には、原因となった10円玉がはさまっていた。ホーは、10円玉を賽銭箱に入れる。拒むようにあちらこちらにはねていた10円玉は、音呂木神社の賽銭箱に入った瞬間におとなしくなった。
「このような場所であれば、二度と人間の手に渡ることもないでしょうから」
リアが保護した生徒は無傷だった。このことを口止めされ、日常に戻っていったが――さて、覚えていたとしても、夢だとしか思っていないのではないだろうか。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
サインとかねだりたかったなあ~~~!(爆発四散しながら)
GMコメント
●目標
ゲームブック「bbb」をクリアする。
●状況
本の中に閉じ込められています。
状況は本のページに再現されている他、空間に文字列となって叙述されています。文字列は状況に応じて変化します。
段落ごとに訪れる理不尽な困難を打ち破り、この世界から脱出しましょう。
●干渉
ゲームブックの世界ですが、様々な手段で干渉が可能です。
なんでも好き勝手に自由に書き換えることができる……とまではいきませんが、壁を破ったりページを破ったり屁理屈をこねたり段落を飛び越したり、そういったことが可能です。
何かされた場合、相手も負けじと展開を書き換えてこようとはしますが、スピードはそれなりに遅いようです。
ゲーム内とはいえパラメーターや能力は健全です。戦闘も有効であることでしょう。
●ピンチ
オープニングのような段落をはじめとして、
・「巨大な血液が押し寄せてきた。押し流される!」
・「食虫植物だ。食べられてしまう!」
・「毒ガスが噴出する」
というようなだいぶ荒唐無稽な段落が無数に散らばっています。
いくつかは休憩できそうなものもあるようですが、異常に行きづらいです。
冒頭の例の段落は、寄っても寄らなくても構いません。たまたま見えただけです。
●敵
終わりのない本:「bbb」
ひたすら確定死ロールを行おうとしてくる何者か……ですが、正体は本にとりついた狐(こっくりさんめいた夜妖)であるようです。
媒体は、本に挟まった10円玉で、最後の段落にはさまっています。
「けしてたおせない」と書かれています。
憑りつかれた少年は段落のどこかをさまよっています。
●登場
一般人『N』
「今日のボクは栞だよ」
謎めいた案内人ではあります。とりあえず敵ではないようですが、明確な味方でもありません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はEです。
無いよりはマシな情報です。グッドラック。
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