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シナリオ詳細

再現性九龍城:殺了、アウター弱肉強食

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●違法の城
「うるせェ! 負けたら黙って出て行きゃいいんだ!」
「もっと痛い目見たいのかアァン!?」
 突然外からやってきた一団が、圧倒的な暴力で住人を痛めつけ、居住区の一角に居座ってしまった。
(何だアイツら? 鉄帝に帰り損ねてたこの時に)
 コンレイはたまたま故郷であるこの地域に帰省していたのだが、昨今の鉄帝の混乱もあり戻る機会を窺っていたところにこの事件である。
(『明日』が保証されないここのスリルは好きではあるが……新入りごときにデカい顔されんのも面白くないな)
 ここは、こちらも『仲間』の手を借りておくか。
 一団が新たに定めた本拠地の位置を確認すると、手土産を手に腰の重い『魔女』の元を訪ねるのだった。

●再現性九龍城
 この度向かうのは『再現性九龍城』と定義され、名付けられている地域だ。
「何と言いますか。違法な土壌の上に違法な城が建っていると言いますか。
 いえ、存在自体が違法という訳ではなく……表舞台を追われた人やマフィア、売人などが多く根城にしている……と言えば伝わりますか?」
 イレギュラーズに説明するチャンドラ。もちろん、住人の全員が一人の例外もなく悪に手を染めている訳ではなく、自ら望んで住んでいるカタギもいる。
 しかし、元々がそのような土壌であるため、日々犯罪が横行しているようだ。
「この九龍城に、数日前に外からやってきて一角を占拠している一団がいるそうでして。
 内部の勢力同士で争うならともかく、住人を脅かす他所者にはお引き取り頂きたいと。そのようなお願いのようです」
 なかなかに手前勝手な依頼である――。
 しかし、この一団はどうもただのヤクザ者ではないらしい。
 取り巻きとして暴れ露払いをする下っ端はそうでもないのだが、ボス格として双頭を為す二人は現地の腕自慢をも軽くねじ伏せてしまう実力者であり、依頼主としても主に彼らをどうにかしてほしいのが目的のようだ。
「彼らの根城は既に割れておりますので、攻め込んでしまうもよし。炙り出すもよし。
 ただ、再現性九龍城の内部はかなり雑然とした路地ですので……地の利はあちらにあるかと。道に迷わない方法があればいいのですが」
 その言葉に、この九龍城に住まう黒龍やアーマデルをはじめとした幾人かのイレギュラーズは同意する。
 目の前にある道へ行くのに、別の家を突っ切って迂回する必要があったり。
 壁かと思いきや、板の一枚をどかせば通行できたり。
 特定の順序で取っ手を回さないと開かない扉があったり。
 違法建築の積み重ねで構成されている再現性九龍城は、他所者にとっては存在自体が迷宮なのだ。
「いずれにせよ、今回は一団の排除が目的ですので。詳しい詮索や探索などはまたの機会が宜しいかと。迷われてもお迎えに行けるかわかりませんので……ふふ」
 口では不穏な言葉を残しながら、その表情は愉しみと悦びに満ちていた。

●龍の魔女
 『魔女』もとい翠蘭は、元の世界の故郷に似るこの再現性九龍城をねぐらとして久しい。日々変化と成長を続ける生き物のような地域の全てを把握しているわけではないが、彼女の知識を以てすれば例の一団の本拠地近くまでは到達可能だった。
 しかし、手を出す気は無い。彼女自身もこの九龍城に縄張りを持つマフィアのご意見番的立場であり、どこかに肩入れするのは何かと都合が悪いのだ。
 というか、面倒くさい。
(まあコンレイに月餅なぞ貰ってしまったからなぁ。ちょうど暇だったしなぁ。力を貸してくれと言われて悪い気は……しかし……ん~~~~)
 ここまで本拠地に近付いておいて未だに煮え切らない魔女は、月餅を頬張りながら様子見を続けるのだった。

GMコメント

旭吉です。
復帰したらこれは出すと決めていた再現性九龍城! ようやくお披露目できました!
オープニングにご登場頂いたのは前景に顔が被らない方々です。

●目標
 他所者の一団を排除する(生死問わず)

●状況
 再現性九龍城外部。
 建築物に建築物を重ねた広大な迷路で、街の外観や住人のファッションは全体的に中華風。
 マザーの影響下にあるためモデルとなった九龍城ほどではないものの、練達の表舞台を追われた人間やチャイニーズマフィア、怪しげな売人などが根城にしているためアンダーグラウンドな部分が多い区画です。
 九龍城外部は『比較的』安全で治安が良く、そこから深部へ行くほど治安が悪くなります。

 外部地区には多くの看板や瓦屋根がひしめき合い、間に挟まるように居住区や廟、小規模な店などがあったりします。
 外から入ると内部の路地は狭く薄暗く、土地勘なしに目的地へ向かうのはかなり困難です。
 現地人や土地勘のある方と協力しながら、本拠地の他所者ヤクザをボコってください。
 (九龍城在住設定の方が参加された場合、ある程度の土地勘があるものとして判定いたします)
 最悪他所者ヤクザの部屋ごと燃やしても延焼はなんとか現地人で防いでくれます。

●情報
 下っ端ヤクザ×たくさん
  いかにも悪そうな下っ端っぽい奴らです。
  とりあえず拳銃やらドスやら殴る蹴るで仕掛けてきます。
  話とか難しいのでとりあえず喧嘩売る。

 ボス格×2
  眼鏡のデバフ・バフ撒きと逆毛のアタッカー(暗殺&格闘)コンビ。
  眼鏡はこの中で一番話がわかります。損得勘定的に。
  逆毛もちょっと話はわかりますが蹂躙とだまし討ちこそ正義。
  弱いやつはどうせ死ぬので価値ある部分だけ毟り取っておく。

 翠蘭
  本拠地近くで様子見してます。漢方薬草や魔術に詳しい不老長寿の魔女。
  迷路の5割くらいは構造を把握しています(これでもかなり高い割合)
  今回は『たまたま』暇で、『たまたま』月餅が美味しかったので、呼び出されれば『うっかり』イレギュラーズに協力してくれます。
  本当は宝石好き。茶菓子を持って頼み事をされると『無性に』応えたくなるだけ。

●NPC
 チャンドラ
  戦闘は回復メイン
  (土地勘は)ないです。特に言及がなければ描写なし。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 再現性九龍城:殺了、アウター弱肉強食完了
  • GM名旭吉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月13日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC1人)参加者一覧(8人)

冬越 弾正(p3p007105)
終音
シルフィナ(p3p007508)
メイド・オブ・オールワークス
クシュリオーネ・メーベルナッハ(p3p008256)
血風妃
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ユー・コンレイ(p3p010183)
雷龍
李 黒龍(p3p010263)
二人は情侶?

リプレイ


 再現性九龍城は、見馴れた者にはいつもの風景として。
 初めて見る者には、その姿の通りあらゆる印象を与えていた。
「わ、わ。すごーい……! すごくとっ散らかってる感じなのに……その名の通りお城! って感じがする。こういう場所好きだなあ、ダンジョンみたあい!」
 『リトル・ヴァンガード』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)にとっては、大切な人を誘って訪れたいデートスポットとして。
「こんな……魑魅魍魎みたいな街が存在するのですね。迷路の様になっていると聞いていますが、迷路どころでは無い様な……」
「無法にして無秩序、なれどそれ故の活気を感じられると申せましょうか。ふふ、私もこういう雰囲気は好きですよ♪」
 『はじまりはメイドから』シルフィナ(p3p007508)が魑魅魍魎と称した混沌の中に、『血風妃』クシュリオーネ・メーベルナッハ(p3p008256)は活気を見出した。
「ボクが居たスラムとは毛色が違いますが、まあ、こういうアンダーグラウンドな雰囲気は馴染みがありますから」
 一方、『夜を斬る』チェレンチィ(p3p008318)はその迷宮具合に多少辺りを見回しはしたものの、すぐに慣れた様子であった。
「因みにフラーゴラ、此処をデートスポットにするのはおすすめしねぇぜ? そこの李老師みたいな、こわーい師哥(おにいさん)たちがウロウロしてっからな。クカカ……」
「吾輩は可愛い弟子や大事な客人に優しくしたいだけの爺あるよ」
 心外だとばかりに『雷龍』ユー・コンレイ(p3p010183)へ泣き真似を見せる『尸解老仙』李 黒龍(p3p010263)。
「ま、此度の『客人』はちと迷惑な奴らだがの」
 そんな二人の応酬を何でも無い様子で見ていた翠蘭。古参の住人である彼女は大抵のことでは動じないのだ。
「翠蘭殿は菓子が好物だと聞いた。このハーブバタークッキーは俺がアーマデルから初めて貰った思い出のお菓子で、とても気に入っているんだ。よかったら食べてくれ」
 『残秋』冬越 弾正(p3p007105)が土産に持参したサクサククッキーになど、視線が吸い寄せられるはずはなく。
「あっ、ワタシも翠蘭さんに! コンレイさんも支店を持ってる……サヨナキドリのドライフルーツとナッツのケーキと……、チョコとイチゴの大福!」
「じゃあ俺からも追加で杏仁タルト。当分茶菓子には困らねえ量だな」
 フラーゴラの甘味詰め合わせや、コンレイの追い茶菓子にだって、これっぽっちの興味も無いったら無いのである。断じて釣られはしないが、しかし。
「そなたら、我を茶菓子で釣れる童か何かと思っておらぬか?」
「なァ小姐、不要な肩入れはしなくていいからさ、ちょーっとこの辺で最近イキがってる新参者に礼儀作法ってモンを教えてやってくれよ。このまま調子乗って、姐さんトコの人たちも舐めだす前にさ? な?」
「……暇潰しに、ちょっとだけだぞ?」
 コンレイの『可愛いおねだり』の結果、もらった茶菓子を小さな両手に抱える竜の魔女は『ちょっとだけ』協力してくれることになった。
「もし住人をヤクザが襲っていたら、『ちょっとだけ』助けてやってくれるか」
 より直接的な弾正の頼みにも、二つ返事である。
「世の中、暴力と金があれば大抵のことはどうにかなるものだ。『郷に入って郷を従える』……そんなストロングスタイルにも覚えがある。……だが、大人しく殴られてやらねばならん道理もない」
 『郷に入れば郷に従え』――そうできない、しないやり方を、『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はそのように表現する。
「行こう」
 『わからせて』やりに。


 目指す相手の本拠地は割れているが、この迷宮化した再現性九龍城ではいくらでも逃げ道がある。そこで、全ての逃げ道を塞いで追い詰められるよう土地勘のある者と組んで分かれることになった。

「再現性東京と違って、土地勘が無いので……一緒に行動出来てうれしいです」
「俺も今の寝床こそ鉄帝だが此処にも出入りしてるからな。ある程度は……っと」
 現地生まれであるコンレイの半歩後ろを付いてきていたシルフィナが、コンレイが歩みを止めると共に止まった。目の前には壁と、その中央に門がある。
 しかし、試しにシッディで門の取っ手を引いてみてもびくともしない。
「アレは今は使われてない門だな。近くにそれっぽい本物がありそうだが」
 いかにも現地人らしいコンレイの言い草だが、そこはシルフィナもメイドの端くれ。物を隠しやすそうな影や隙間にある程度目星をつけ、気になった小物を少しずつアポートで避けていくと、見えてきたのは大人一人が屈んでやっと潜れそうな隙間だった。物質透過を使えば屈まずにいけそうだ。
「お、いいねェ。この調子で先を目指してこうぜ」
 クカカと独特な表情で笑うコンレイ。二人の道行きはまずまずの滑り出しだった。

 一方、分かれてじきに下っ端ヤクザ共と接敵してしまった組もいる。
「てめェこのやろ、」
 物陰から現れたヤクザに俯瞰視線で警戒していたチェレンチィが即座に反応、音も無くセレニティエンドを打ち込む。
「翡翠小娘(チェレンチィ殿)は再現性九龍城は初めてだったあるよな? もうすっかり慣れたあるか」
 殺しを全く躊躇わなかった様子を師匠のように見守っていた黒龍は、満足げに頷いていた。
「ただ吾輩としてはもう少しこう、慣れない小娘を影ながら応援したり、手を引いてすこ~し命がけのお散歩を楽しんだりとかしたかったあるがなぁ。慣れれば案外居心地良い場所あるよ」
「『お散歩』にしては中々ハードかなと思いますが、たまにはこういうのも一興ですね」
「思わぬ拾い物をすることもあるね。こういう物も使いようあるよ」
 何の気なしに黒龍が拾い上げて渡したのは、道端に落ちていた金属片。投げて使えばこれも残弾として扱えるものだ。
「無秩序にも無秩序なりのルールが存在するね。今日はもっと楽しい再現性九龍城の歩き方を伝授してやるあるよ」
「今日は仕事で来ているはずなんですけどね」
 狭い通路を少し先に歩いて壁を擦り抜ける黒龍を、窮屈そうに翼を畳みながらも壁の狭間を跳んでついていく。その行く先からは、住人にとっては聞き慣れないトランペットの音が高らかに響いていた。

「……いい音だな。いつもこうなのか?」
「いや、今日が初めてだが……イシュミル、そっちはどうだ」
 弾正とアーマデルがその音を聞いたのは、情報収集がてらにヤクザ共にやられたと思しき住人の治療中だった。
「以前買い付けた蛍光治療薬は使っていないよ。傷口を塞ぐ菌類もね」
「怪我人の容態の話なんだが……」
 もっとツッコみたいのをぐっと堪えたアーマデルである。ちなみに怪我人の命に別状は無さそうとのことだ。
(しかし……)
 黒服の弾正を見上げ。立ち上がったイシュミルを少し見上げ。
 何だか、こう。
「どうしたアーマデル、掴まった宇宙人のような顔をして。イシュミル殿と俺に挟まれるのが不満か?」
「いや、何でもないんだ……それより、連中のことだが」
 住人として、アーマデルは例のヤクザについて色々と考えていた。
 少なくとも彼らはこの再現性九龍城の外部地域――それも、良くも悪くも『力で押しのけ居座れる程度』の場所にしか手を出していないのだ。
「つまり、結局その程度の輩と見ていいと思う。……そんな輩の犠牲になってしまった者達が、哀れでならないな……」
 アーマデルが誰も居ない傍らを見上げるのに合わせて、弾正もその辺りを見る。弾正には知覚できないが、アーマデルは新参達の暴力で命を落とした霊からも話を聞いていたようだ。
「弾正。ここは俺の故郷とはまるで違うが、俺が自分で選んだ場所なんだ。幻想、豊饒、再現性東京、どこにも影はあるのだろうが……淀みの中からの方が、灯火が眩しく見えるのかもしれない」
「アーマデルが自分で選んだ場所だと言うなら、俺がこの砦を駆ける理由としては十分。俺も穢れた魂にイーゼラ―様の救済をくれてやるまでだ」
 光より影を、影より淀みを選んでしまう自分を迷わず受け入れてくれる弾正の姿が、アーマデルにとってはやはり光であった。

 クシュリオーネはフラーゴラと共に翠蘭の案内を受けて、ついにトランペットの主を発見していた。音を頼りに壁の隙を縫い、隠れていた通路を掘り返すように進んできた先で見つけたのは、イレギュラーズの『黄金の旋律』フーガ・リリオ(p3p010595)だったのである。
 しかもそのフーガは、今まさにヤクザと対峙しているところだった。周りには演奏を聴いていた住人もいたようだが、ヤクザが迫ると走って散っていった。
「おいらは練達の言葉で例えるなら『バック・グラウンド・ミュージック』だ。適当に、でも楽しく演奏練習してっからお気になさらず」
「こっちはボスから黙らせろって言われてんだコラァ!!」
 凄まれてもにこやかなフーガへヤクザ達が襲いかかるのを、まずフラーゴラが割って入り悪意の魔弾で狙い撃つ。
「ねぇ……痛いでしょ?」
「この界隈から手を引くならば、これ以上手荒なことはしません」
 一見、盾は装備しているが非力な子供にしか見えないフラーゴラと、目立った装備を持たない豊満な肉体のクシュリオーネの姿は、ヤクザ達がつけ込める姿に見えたのだろう。
「女子供がイキがってんじゃ、ひぎっ!!」
 別のヤクザのドスが後方のクシュリオーネを狙うとこれを躱し、逆にクシュリオーネがデッドエンドワンで攻め立てる。
 しかし向こうも本拠地が近いのか、数人片付けてもすぐに増援が沸いてきた。
「住人の守りは我の方で受け持とう。そちらは存分にやるがよいぞ」
「BGMの盛り上げなら任せてくれ。ドンシャン騒ぎはここからってね」
 杖に炎を猛らせながら一歩退く翠蘭と、曲調を勇壮なマーチに変えて演奏を再開するフーガ。
 音の変化は、ヤクザの本拠地を目指す他のイレギュラーズ達にもたちまち知れ渡ることとなった。


 ボスの元へ、異変を報せに下っ端が駆け込んでくる。
「歯が立たねえ相手? ンなこと報せるために尻尾巻いてきたのか!」
 逆毛からの怒号に下っ端が縮こまっている間に、早くもイレギュラーズが前線を突破してくる。本拠地の護衛に当たっていた下っ端のドスをシルフィナが弾くと、他の下っ端も含めてコンレイが短刀で血祭りに上げたのだ。
「殺す必要はあまり無いと思いましたが……」
「これくらいで死ぬ奴がマフィアなんてやるかよ。ったくよぉ、コッチは鉄帝支店を封鎖したってのに人の庭でキャンキャン吠えやがって……」
 コンレイが愚痴を溢しながら、ボス二人に向けて『お話』をしようと持ちかける。
「『お話』ってのは……こういうことかよ!!」
 逆毛の男から振りかざされたのは議論ではなく拳。素早いが軽くは無い一撃へ、コンレイの外三光が交差する。
「聞く気が無いってんなら、ちょっとした『見せしめ』は仕方ねえよなあ!」
 その隙に下っ端が逃走を図るも、行き先には壁の如く立ちはだかり笑みを貼り付ける黒龍が。
「怖いことはねぇあるよ。とっとと尻尾巻いてこの九龍城から出てってくれるとお互いにありがてぇと思うあるが、汝もそう思わねぇあるか?」
 黒龍の提案に怖々と頷き、下っ端はそのまま脇を擦り抜けて外へ。
「なんてな、がら空き――」
 それが、下っ端の最期の言葉。通り抜けた先で拳銃を手に振り返った所へ雷鳴が落ちた。
 後には倒れ動かなくなった男と、雷撃を落としたチェレンチィの影が落ちるばかりである。
「『負けたら黙って出て行けば良い』そうではないですか。自分達のやり方もわからないとは」
「所詮は雑魚だからな」
 眼鏡の男が一歩下がると、一帯に紅い閃光が走る。動きを阻害する系統の技らしく、コンレイと、フラーゴラと共に下っ端を相手取っていたクシュリオーネの動きが止まった。
「コンレイさん! クシィさんも、今治すよ……!」
 すぐさま、フラーゴラが辺りに百花号令を発する。『開花』による不調からの回復を促すと、ボス二人への道を阻む下っ端へ炎乱を咲かせた。
「助かりました。……あなた達は手を引いてください。ボスの方と話がしたいのです」
 悶える下っ端が退くのに合わせクシュリオーネが降伏を促すと、逡巡しながらも何人かは従ったが未だ武器を持つ者も多い。
「イーゼラー様に捧げる価値もない穢れた魂よ、貴様らに救いを与えてやろう!」
 戦意を残していた下っ端の一部が弾正の堂々たる名乗り口上に引き寄せられると、彼の横から前へ躍り出たアーマデルが英霊残響を響かせた。
 既に閃光によって乱れていた足並みに、『怨嗟』の不協和音で更なる苦しみを。
「まだやるか。下っ端どもは使い物にならないぞ」
「おい、とっとといつもの寄越せよ」
「いや……これほどの相手だ、用件くらいは聞いてもいいだろう。目的は何だ」
 逆毛の男と対照的に、早くも対話の姿勢を見せ始めた眼鏡の男。眼鏡の眼鏡をブレイクするまでもなかったか――などとアーマデルが考えた一方で、邪魔立てする下っ端をプラチナムインベルタで薙ぎ倒したクシュリオーネが交渉に出る。
「私達は、この一帯を荒らし回る『他所者のお掃除』を請け負っています。しかし、大人しく立ち退くなら其処で手打ちとする意志はあります。無駄な血は流さないに越したことはありませんものね?」
 ――まあ、私は他人の血が流れる分には一向に構わないのですが。
 空気を読んだ丁寧な言葉の裏に、彼女もまた残忍な本音を隠していた。
「郷に入っては郷に従えという諺、知ってるあるか? ”ロクでもねえ死に方したくなけりゃ大人しく掟に従え”という意味ある」
 まだ笑顔だが、より直球で迫る黒龍。
「ここの『住民』になる気があるなら取りなしてやってもいい。だが、踏み荒らそうというなら……分かるだろう?
 俺はな、ここを割と気に入っている。だから荒らされるのは面白くない。そういうことだ」
「確かに此処はロクデナシの巣窟だがよ、だからこそある程度の"筋"を通さない他所者には敏感だ。このままだとアンタら、俺たちの助言を聞いてれば……いや、『殺されときゃよかった』って思う死に方するぜ?」
 更にアーマデルとコンレイも『住民』として圧をかける。アーマデルは無表情に、コンレイは口角を上げてと正反対な顔ではあるが、黒龍を含め彼らの意見は概ね同じだ。
 既に勢いで劣っている上、『住民』の言葉を聞いたボス達は。
「確かに……そいつは穏やかじゃねえよなァ……」
 逆毛の男が考える素振りをすると、眼鏡の男は黙って手を伸ばす。
 それが逆毛の男へ何かを施そうとする動きだと気付いたのは黒龍だ。
「全く油断も隙もねえ客人あるな。年長者として文字通り影から見守る心算であったが……汝らを見ているとどうも武の血が騒ぐね」
 それまで体の前で両袖を合わせ手を出さなかった黒龍が、ついに呪いの尸解刀を振り抜き悪意の赤き魔弾を放つ。
「なっ、クソ!!」
「そこまでです」
 眼鏡の男からの援護を受けられなくなった逆毛の男へ、気配を闇に溶かしていたチェレンチィが姿を現し男の背後から斬り付けた。
「やっぱり口より体にわからせた方がいいみたいだな!」
「殺さない程度に致しますね」
 体勢を崩した逆毛には自身を強化したシルフィナが剣魔双撃を叩き込み、コンレイは逆毛の後方にいた眼鏡の男へ飛刃六短の刃を放つ。
 眼鏡の男は傷付いた腕を庇いながら自分へ青い光を灯すと、一瞬の間に逆毛の背から遠く離れ路地へと退避した。
「逃げるのかテメェ!」
「お前と違って、俺は四面楚歌では生き残れん」
 二手に分かれたボス格二人。相手が下っ端であればこのまま眼鏡を見逃す手もあるが、ボス格となればそうもいかない。
「キミは逃がさないよ……」
 壁一枚を擦り抜けたフラーゴラがすぐに追いかけるが、眼鏡も先ほどの光で機動力を増したのか差が縮まらない。ならばと一旦気配を消せば、男も逃走を停止した。
「今のはあくまで戦略的撤退であり、まだ降伏はしていない……ということでよろしいですね?」
 少し間を開けて追い付いたのはクシュリオーネ。眼鏡が再び逃走しようとするより早く、ディアノイマンによって先手を打った彼女のデッドエンドワンが炸裂する。
「大丈夫……殺さないよ」
 トドメに通路の壁から飛び降りてきたフラーゴラが神気閃光の光を降り注げば、眼鏡の男はついに沈黙した。

 一方、残された逆毛は数の不利を覆せず怪我が増えていく。
「生きていれば道を選ぶこともできるぞ?」
「うるせえ!」
 アーマデルの言葉にも聞く耳を持たない逆毛。もはや致し方なしと、弾正の残影百手が彼の足を地へ縫い付ければ、アーマデルのデッドリースカイが高らかに男を跳ね上げた。
 地へ叩き付けられた逆毛の男は、もはや指の一本も動かせない。
「逆毛の。俺も俺も元々は弱者だが、守るべきものの為に強くなった。……貴様の敗因は愛だ!」
「笑わせん、な……――」
 その言葉を最期に、逆毛も口を開くことは無かった。

 ボス二人が倒れたことで行き場を失った下っ端の内、九龍城の住民となることを望んだ者は、アーマデルが霊を証人に立て誓約させるなどして今後の身の振り方も決まっていった。
 少なくとも、今回九龍城を騒がせたこの集団による被害はこれで収まることだろう。


 他所者ヤクザ達の処遇も一段落したところで、フラーゴラがそわそわと翠蘭に話しかける。
「えっとえっと、翠蘭さん……ワタシ九龍城でお茶してみたい! 皆で行きたいなあ……」
「事態もとりあえず収束したことだし、俺も少し砦の中を観光してみたいな」
 貰った菓子の分の仕事はしたつもりでいたのか、フラーゴラに加え弾正まで九龍城の観光を望むと翠蘭は悩んむような声をあげた。
「観光か……内部に触れない範囲なら、しかし……」
「なら、吾輩の移動飯店に来るよろし。点心でも飲茶でもご馳走するあるよ」
 イレギュラーズの店なら現地勢力に配慮する必要は無いだろう。黒龍が案内するのを、楽しみについていくイレギュラーズであった。

 一方、九龍城の薄暗い路地には二つの影。
「すこしばかり語らう時間を如何かな?」
 互いに地理は明るくないため、先ほど依頼で通った道の近くだ。
 そして影のひとつ、辻峰 道雪に跪いて項垂れているのは幾人ものヤクザ達――イレギュラーズとの戦いで命だけは救われたが今後を見失ったままの者達だ。
「彼らはただ牙を削いで命を助けた所で、行き場を失うだけ。ならばイーゼラー教へ導いてやればいい……という弾正の提案だよ。全く、こういう所が相変わらず甘い」
 都合の良い手駒が増える分には構わないがね、とヤクザ達を一瞥する道雪。彼が一瞥したものを、もうひとつの影はうっとりと見つめた。
「強すぎる導き(アイ)は破滅をもたらしますが……我(わたし)は羨ましく思いますよ」
「では、君も『破滅』してみるかい? イーゼラー教幹部・隠者様のお言葉によって」
「我は既に破滅しておりますから」
 ここで眺めて(アイして)いますね、と傍観を決める『千殺万愛』チャンドラ・カトリ (p3n000142)。
 かくして教導の言葉は紡がれる。《隠者》の言葉を『代弁』する道雪によって。

 昨日の隣人が、今日の他所者が、明日どうなろうと保証されない。
 ここは再現性九龍城。今日と同じ明日は来ない。

成否

成功

MVP

李 黒龍(p3p010263)
二人は情侶?

状態異常

なし

あとがき

長らくお待たせ致しました。
流石住人の皆さんは凄み方が違う……住人じゃなくても違う……これが九龍城。
命だけ助かった下っ端どもがどうなってしまったのかは、まあこれも九龍城の日常ということでひとつ。
スリルがいっぱい再現性九龍城。いいところです。

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