シナリオ詳細
第二十九シリーズ16話『ドリーム戦隊 対 宇宙海賊ワルイーゾク 人々の夢を護れ』
オープニング
●休日の朝
周囲の風景は酷く殺風景なものであった。
ゴツゴツとした岩肌が壁のように一帯に並び、どこまでも薄茶色の地面が続いているようにも思える。緑は遥か遠い彼方に映るのみであり、足元には草一つ生えていない。
もの寂しい印象ばかりがただただ広がっていた。
空は高く抜けるように青い。雲一つ無い快晴――そう思った瞬間、派手な炸裂音が響き渡る。
地を揺るがす衝撃が広がる。同時に焔も立ち上がった。
轟々と音を立てながらも黒煙は青空を徐々に侵蝕し、それを背景に名乗りを上げるものが居た。
「燃えさかる情熱、ドリーム戦隊――レッド!!」
自らをレッドと名乗った男は、機敏な動きでポーズを決め、爆発すらも背景に落とし込める。すると背後には先程とは違い、赤色の煙幕が周囲へと放たれた。
「清らかなる願いをこの胸に、ドリーム戦隊――ブルー!!」
以後、イエロー、グリーン、ブラック、シルバーとお決まりの台詞が並びたてられていく。
一人一人の演出に合わせ、背後からは名乗りカラーと同じ爆煙が上げられていった。
「我ら、ドリーム戦隊!! 蔓延る悪事を、この手で討ち――人々の夢を守るのだ!!」
最後の名乗りは全員で。背後では最後の爆発が生み出され、画面いっぱいに炎と煙が広がっていく。
「何を小癪な」
そして対峙するのはお決まりの怪人だ。
カタツムリのような殻を震わせ、現れたヒーロー達に、これまたお決まりの台詞を決めていく。
「我が主の命により、その命貰い受ける!!」
土が踏みしめられた。同時にドリーム戦隊らもそれぞれ構えを取っていく。
ザアアと風の音が鳴った。それを合図とし、ヒーロー達はそれぞれの武器を振るい、怪人を倒さんと獅子奮迅の勢いで向かっていった。
一対六。怪人の方が人数的には不利ではあるものの、怪人はそれをものともせず彼らの攻撃を往なしていく。暫し混戦が続き、剣戟には火花が伴った。しかし彼らは諦める事などしない、悪がいるのであればそれを挫くのがヒーローたる者の務めなのだから。
「皆、合体技だ!!」
レッドの声に合わせ、それぞれが立ち位置へと戻る。武器を天に掲げ、それらを重ね合わせれば目映い光が生み出された。怪人はそれを受け、僅かに怯む。大きくなっていく光は荒れ狂う風と共にその身を膨らませ、そしてヒーロー達に掛け声によってその形態を変化させていく。
「ハイパードリームキャノン!!」
合わさった武器が文字通り一つとなった。とてつもなく大きな主砲は怪人へと向けられ――放たれたのはそれぞれのカラーを模した光の奔流。
憐れ、怪人はそれに呑み込まれ、大きな爆発と共に散っていった。
それは休日の朝、誰もが一度は目にした事がある光景だろう。
ヒーロー番組というのは様々な形を成しながら継続されている文化。その一つだ。
目にした者の心を打ち振るわせるような何かがそこには存在し、老若男女問わずに受け入れられ、また愛されてきた。
結果、現在では多種多様なヒーローが生み出される事となる。
そのうちの一つ『ドリーム戦隊』は今年で三十年を迎える老舗のヒーロー番組であり、この時代には珍しい世代交代無しのヒーロー達だ。長年の活動や丁寧な番組作りの結果があり、知名度はかなり高いものだ。
……なに、初耳? いやいやそんな筈がない、だって彼らは三十年を超して活動しているヒーロー達なのだ。まさか知らないなんて事はないだろう。
第五シーズンでイエローがカレーの大食い対決で勝利するコミカルなシーンや、第七シーズンのブラックが願いを見つけて追加ヒーローとなった熱い展開。第二十シーズンでブルーが中指を立てて湖へと沈んでいくあの感動的なシーンはかなり有名なのだから。
……それでも知らない? 冗談はそこまでにしておこう。この街に住まう者ならば絶対に知っているべきヒーローなのだから。
きっとこのオープニングを見ている人も、幼き日々、あるいは大人になって知った彼らの活躍を見て、歓喜に打ち震えた事があるだろう。否、絶対にある。無かったらあったことにしてほしい、話が進まないので。
――ともかくドリーム戦隊の人気は不動。故に三十年も続けられてきた番組なのだ。
●控え室
「……とはいえ、三十年も続けてきたら身体にガタがくるな……」
そう呟いたのはドリーム戦隊のレッドである。
彼が初めてドリーム戦隊のレッドとして演じ始めたのは番組が始まったのと同じ年。つまり彼は業界入りをした二十歳の頃から、実に三十年もの間レッドを演じ、幼子や大人達に夢と希望を与えてきたのだ。
しかしながら寄る年波には適わない。そんな言葉もちらほらと脳裏に浮かんできた。
何せ三十年。しかもこの番組はスーツアクターを使わず、演者自身がスーツアクターとして動いている。
途中で大怪我を負った事もあった、後遺症も未だに残っている。
しかし求められているのは強きヒーロー。
弱音は見せられないと今の今まで走り続けてきたのだ。
「でもそうよねぇ。私達毎日撮影ばかりだし……お休みなんていつ取ったかしら?」
ブルーを演じている女性は深く溜め息を吐いた。番組が始まってから三十年、根強い人気のせいか、新たなる戦隊を生み出せぬままここまで演じる事となった。故に休みなど無いに等しく、ドリーム戦隊のメンバーは休む間もなく『人生の半分以上』をその役柄に捧げてきたのだ。
「そろそろ休みも取りたいよな……」
そう言ってレッドは手元の資料へ目を移した。
内容は今後の撮影スケジュール。往年のスケジュールに比べれば多少緩やかになったものの、それでも年を重ねた彼らにとっては忙しいままである。できれば纏まった休みでもとりたいのが本音の一つ。しかし休みともなれば番組の調整は難しくなるだろう。代わりの番組を引っ張ってきたり、過去作を流したりするのにも申請やら宣伝やらで多大な時間を要するものだ。
レッドは深く溜め息をついた。
その瞬間、控え室に駆け込んできたのはドリーム戦隊のイエローだった。
「おいやべえぞ、シルバーのじっちゃん腰いわしたわ!!」
「この前のギックリ腰が再発したのか!?」
「そうそう、暫くは安静にしろだってよ。まあ、じっちゃんは一番高齢だからな……」
シルバーは途中加入の戦士ではあるものの、加入した時の年齢が誰よりも高い。三十周年を迎えた記念も大事なことなのだが、彼の還暦祝いをどうすべきか悩んでいたところでもある。
「……来週の撮影に間に合うかどうか微妙なところだな」
ギックリ腰となれば一週間から二週間は動けまい。たとえ途中で参加したとしても、生半可なコンディションで挑めば、再びギックリ腰に襲われてしまうだろう。
三人は顔を合わせ、悩む。
そしてブルーが思いついたように言葉を述べた。
「あのね、思ったのだけれど……代打を用意したら良いんじゃないかしら」
「……代打?」
「そう、私達がお休みを取れるように、代打の子達で今回限りの番組を作り上げるのよ。……だって私達って声は別撮りでしょ?」
基本的には実写の撮影後、声を撮る手法を行っている。何せ彼らはフルフェイスのマスクを被っているので、普通のピンマイクでは音声が拾えないのだ。
「動きだけやってもらって、その後は私達が声を当てはめればそれで良いわ。それにほら、来週はそれほど重要な展開でもないし、代打でも十分何とかなると思うのよ」
「確かに……もしそれが出来れば、撮影スタッフに任せて、俺らは休みを取れる。だが、やってくれそうな者などいるだろうか?」
レッドは首を傾げた。
今からスーツアクターを探したとしても、撮影は来週。人気のあるスーツアクターは彼らと同じく常にスケジュールが埋まっているだろう。かといって若手に頼めばクオリティは落ちてしまう。
しかしブルーには心辺りがあるようだ。軽く胸を叩いて言葉を紡ぐ。
「……知り合いに面白い子がいるの、頼むだけ頼んでみましょうよ」と。
●カフェ・ローレット
「ドリーム戦隊って知ってる?」
綾敷・なじみはカフェでサボっていたアデルトルート・バルデグント(p3n000280)に声を掛けた。ニコニコとした表情ではあるが、アデルトルートにとっては警戒心しか抱けぬ表情である。
「あれだろ、長寿の戦隊ヒーロー。最近やってるソシャゲでコラボしていたな……」
「そうそう、それ。ところであなた、戦隊ヒーローって好き?」
「……嫌な流れだな」
既に面倒な依頼を引き受けたアデルトルートとしては警戒しかなかった。しかしなじみはそれを包み隠さず、満面の笑みで言葉を続ける。
「今回はなんと、戦隊ヒーローのお仕事がありますよ!!」
「やっぱ面倒ごとじゃねえか!?」
「何言ってるんですか、戦隊ヒーローですよ。戦隊ヒーロー、子供から大人まで憧れる戦隊ヒーローなんです。素敵じゃありませんか? それにちゃんとガチャ代も貰えますよ」
「あたしの扱い分かってきて怖い……でも、あたしはスーツアクターなんてした事がないぞ」
「ご安心下さい。詳しそうな方をお連れしました!!」
そうしてなじみは一度下がり、ムサシ・セルブライト(p3p010126)と耀 英司(p3p009524)を引きずってきた。間違いではない、文字通り引きずってきたのだ。
「仕事でありますか?」
「そうじゃねえの? まあ、いきなりすぎるんだが」
二人は顔を見合わせ、そして首を傾げる。急にも程があるのだが、事件は大体が急なものである。然して厭うような素振りもみせず、なじみへと視線を向けた。
「そうです、お仕事ですよ。イレギュラーズの皆さんで一緒にヒーローをしませんか? スーツアクターとして動いて、ドリーム戦隊の撮影を成功へと導くんです」
- 第二十九シリーズ16話『ドリーム戦隊 対 宇宙海賊ワルイーゾク 人々の夢を護れ』完了
- GM名森乃ゴリラ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年09月28日 22時21分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●準備
「演技のコツとしてははややオーバーに振る舞うことが大事だな。全身を使ってヒーローらしい動きをする、指先まで力を込めると尚いい……と。いや、毎秒決めポーズくらい言っておいた方が分かりやすいか……?」
耀 英司(p3p009524)はスーツアクターという経歴を生かし、イレギュラーズの為にメモを作っていた。撮影に望まれるのは何か、視聴者は何を楽しみにしているのか。製作スタッフから貰った、カメラの配置図も考慮し、どのような動きをしていくのか方針を立てていく。
「あとは怪我をしないように、爆薬の目印を見逃さないのも――」
「ねえ、ちょっとスーツがきついから後ろのチャック閉じてくれる……?」
そんな彼の言葉を遮ったのはノア=サス=ネクリム(p3p009625)だった。後ろ手にファスナーを持ち、露出の激しくなった背を英司へと向ける。豊満な胸のせいでスーツが上手く着られないらしく、どこもかしこもピチピチであった。
「それ、閉まるのか? あー……そうだ。今は忙しいからムサシに頼むといい」
反応が面白そうだから。英司は悪びれもせず笑顔で言い切り、際どいその背を見送った。
数秒後、ムサシ・セルブライト(p3p010126)の悲鳴に似た声が響き渡る。英司は着いていったほうが面白かったな。そんな事を考えながらメモ作りに勤しんだ。
「――人気なの分かるんだけど、よくよく考えたら奇妙な作品だな。ピンクやゴールドもいないし」
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)は衣装である鎧を袖に通しながらも首を傾げる。追加戦士という要素があるにしろ、キャストの変更が行われないのはやや異質だ。恵まれている環境といえばその通りなのだが、後続が見つかっていない以上番組的にはどうなのだろう。先を見ていないのか、今を生きているだけなのか。疑問ばかりが湧き上がる。
「それだけ人気があるってことなのだわ」
ガイアドニス(p3p010327)はマカライトの言葉を拾い上げ、その巨躯を揺らした。その大きさは悪役に相応しく、CGが無くとも華を齎してくれるとスタッフ達から大人気だ。
その隣には猿の着ぐるみ――英司がバナナを持ってやけにスタイリッシュ仁王立ちをしている。
機械傭兵クジャク、ワルイーゾク(巨大)、猿の怪人。
彼らは今週の怪人として出演を予定している。
三者三様。個性豊かな悪役達が揃ったことに関して、きっとテレビの視聴者は不思議に思うことだろう。だが、こういう混沌さはヒーローものによくあるそれなのだ。コンセプトがバラバラでもまったく問題ない。何故ならいかに悪の組織といえども、個性を大事にする風潮があるのだから。
「俺達の出番はもうすぐか……ヒーロー達の名乗りが終わったら、俺とマカライト、そして雑魚役と一緒に飛び出るぜ」
英司がメモを確認すれば、マカライトはそれを覗き込む。
「段取りとしてはピンチからの逆転だったか? 攻撃が当たらないように注意しないといけないな」
後付けのCGがあるとはいえ、やるのであれば派手さは心掛けたい。そういったイレギュラーズ達の考えによって、ある程度は己らの力を解放する事にしていた。しかし、それは真なる悪や目的の為に振るう力であり、決して仲間を傷つけるものではないのだ。
「そういうことだ。爆薬の件もある、追い込むときは距離感を忘れないでくれ。ガイアドニスも準備はいいな?」
「もちろんだわ、おねーさんはいつでも良いわよ。頑張って悪役を演じちゃうのだわ!!」
見慣れた採石場、抜けるような青空。
ナレーションの声が聞こえてきそうなほど、カメラが映し出す絵は整っていた。
そこに映し出されるのはヒーローの姿だ。今はカメラが回る前なので、みなリラックスした雰囲気で待機している。
「いやあ、あの超有名特撮シリーズのドリーム戦隊のスーツアクターとして出演できるなんて……!! 凄いや、これは友達に自慢できるよ!!」
イエローに扮した山本 雄斗(p3p009723)は興奮した様子で拳を握りしめた。幼き頃より眺めていたヒーロー達、そんな彼らの代役を務めるということは、この上なく嬉しい出来事である。必ずしやこの回を成功に導こう。雄斗が意志を固めていると、声を掛けてきたのはムサシだ。
「雄斗さんもファンでありますか? 自分も毎週見ているでありますし、過去作も全て見てるでありますよ!!」
「そうなんだ!! 僕は第二七シリーズ31話のシルバーのお孫さんが初めてのお使いで何故か世界を救う回が好きなんだ。あれは涙無しじゃ語れないよね!! あとはイエローが徳川埋蔵金を見つけ出したいって理由もまた感動してさ……」
「わかるであります。自分もあの回にはいたく感動したのであります!! 第五シリーズ6話は覚えているでありますか? ヒーローとは何か、迷いの中を突き進む彼らの姿は――」
二人はファンらしく高々に語り始める。あの回は良かった、この回はコミカルさが良い。語る口調はとても楽しそうで、それを眺めていた三鬼 昴(p3p010722)の口角が緩やかに上がっていく。
「ヒーローか。私はあまり知らないが、それほどの熱量を持つ者がいるのならば手は抜けないな」
元より手を抜くつもりはないが。昴は呟き、隣に並んでいたトール=アシェンプテル(p3p010816)へと尋ねてみた。
「お前もファンなのか?」
「勿論です!! ファンをがっかりさせないように頑張りましょうね……!!」
長年放映していれば固定のファンはそれなりにつく。今もまだ最前線を走っているともなれば新規獲得も重要なものだろう。だからこそ今回イレギュラーズたちはより真剣に向き合わなければならなかった。敬愛するヒーロー達のためにも、彼らの活躍を心待ちにしている者達にも。等しく夢と希望を与えなければならないのだから。
「そうね、私も頑張りたいところだけれど……動けるかしらこれ?」
会話に入ったノアはピチピチのスーツを見下ろし、溜め息をついた。激しいアクションをすれば破れかねない。今回ばかりは大人しく、且つ映えるような演技をしなければならないだろう。
「随分と動きづらそうだな……?」
「仕方ないのよ、サイズがこれしか無かったんだもの。でも……やるからには全力よ、皆で頑張りましょう!!」
ヒーローと怪人達は顔を見合わせ頷いた。その瞬間、お馴染みのカチンコが鳴らされる。
第二十九シリーズ16話『ドリーム戦隊 対 宇宙海賊ワルイーゾク 人々の夢を護れ』いざ、開幕――!!
●アクション
「さあ、行くであります――宇宙保安……違った。焔の勇気が真っ赤に燃える!! 炎熱の勇者!! ドリームレッド!!」
「清らかなる願いをこの胸に……ドリームブルー!!」
「輝く希望の光、ドリームイエロー!!」
「これ声は後撮りだよな? とりあえず名乗りか……ドリームブラック!!」
「白銀の翼に夢を乗せて!! ドリームシルバー!!」
五名はそれぞれのカラーを身に纏い、色艶やかな爆発と共にポーズを決める。その姿は正に変わらぬヒーロー達のそれ。どこに出しても恥ずかしくない戦隊ヒーローっぷりである。
「ほざけ、ドリーム戦隊!! このワルイーゾク……奪えぬお宝等ありはせぬ!! 人々の夢、略奪してくれるわ。征け、部下共よ!!」
ガイアドニスことワルイーゾクが掌を差し向ければ、控えていた海賊衆が甲高い声を上げて突撃していった。それに続くのは両脇を守っていたマカライトと英司だ。
「敵影確認、残存兵力収拾――戦闘行動開始」
マカライトは装飾したティンダロスに跨がり、鎖を手にドリーム戦隊へと飛び込む。狼は地を滑るように地を駆け、彼らの陣形を食い破り突破口を開いた。それを阻もうと前に出たのはシルバー役のトールだ。先日発売された追加武器のドリームブレイザー(\3,980、好評発売中)を振るい、流れを断ち切ろうと鎖を弾き飛ばす。しかし相手の動き方は中々読み辛く、飛び退いたかと思えば無理矢理軌道を変えてくる始末。
「トールは援護に回ってくれ、ここは私が食い止める!!」
昴がトールの前へと飛び出し、填めたメリケンサックを高く掲げてから拳に力を込める。腰を落とし、ティンダロスと鎖を見定めそれを振るった。鎖は弾けた、しかし意のままに動く獣はそうにもいかない。昴は攻撃から防御へと切り替え、突進を受け止めようと試み、思案する。どうせならば派手に負けを匂わせたほうが流れ的に良いだろう、と。
昴は衝撃を逃がしながら後方へと転がった。同時に雑魚役らが昴へと襲いかかる。
「させません!! 白銀剣シルバーブレイカー発射ぁぁぁぁぁッ!!」
トールは武器を銃へと変え、早撃ちでそれらを牽制した。起き上がった昴は彼の動き方に合わせ、近くに居た雑魚役らにその拳を叩き付ける――ふりを見せた。すると相手は心得たとばかりに火花を散らし、その場へと転がっていく。
「こんな感じで大丈夫だろうか……喋らなくていいのは楽でいいが、タイミングを計るのが難しいな」
「大丈夫ですよ昴さん、この調子で演出していきましょう!!」
トールと昴は顔を見合わせてからマカライトへと視線を向ける。いつでも来い、そう言わんばかりに瞳は輝いていた。
「なら、もう少し派手に動いても良さそうだな――氷結界始動」
マカライトは地中より鎖を喚び出した。どれも冷気が帯びており、小石や小さな草に当たれば瞬く間に凍っていく。それを操り、昴とトールを追い込もうと巧みに操っていく。二人も負けじと攻撃を躱し、一進一退の戦いが続いた。
見せ場はもう良いだろうか。マカライトは放っていた鎖を纏め、複雑に編み込んでいった。そこに鎮座するのは龍の形を模したもの。
「――ドラゴファング展開、破壊、破壊、破壊」
数秒後、先程よりも大きな爆発が轟いた。
「さて、それじゃあ俺は小馬鹿にした動きで翻弄するか」
英司はだらりと腕を垂らし、背筋を丸める。猿らしい動きで、持っていたバナナをヒーロー達へと投げつけ始めた。時折、そこに仕込むのは火薬樽。爆発で画面に彩りを与えようという訳である。
「あの三人、ただものじゃないわ!! ……という訳で、私は英司さんと戦おうと思うんだけど、雄斗さんも来てくれる?」
ノアが雄斗へ目配せすれば、彼は心得たと武器を構える。
「確かノアさんはあまり派手に動けないんだよね……それならその分、僕が動くよ」
雄斗はノアの前へと歩み、ドリームソード――によく似た双剣を構える。
地を蹴り、荒れ狂う戦場へと身を投じた。上空からはバナナと火薬樽、周囲には雑魚役の皆さん。流れるような剣捌きでお馴染みの殺陣を演出していく。それを援護するのはノアの雷撃だ。痺れるような一撃は周囲の牽制に役立っている。画面映えも良い、きっとできあがりは素敵なものになるだろう。
そういった連携は二人をより強くしていった。しかし英司の動きはトリッキーそのもの。その上、彼は雑魚役を引き立てながら隙のない布陣を構えている。なんていやらしい動きなのだろうか、着ぐるみの表情はあんなにも間抜けだというのに。
「ただものじゃないわ……それなら大火力で片付けるのみよ!!」
「攻撃を合わせよう!!」
ノアが魔砲を担いだのを確認し、雄斗もまた剣を構える。相手の動きに合わせ、威力でこのピンチを脱しようというのだ。
斬撃と雷撃。二つの属性が一つとなりて猿の怪人へと差し向けられる。荒々しい音は地を削り、悪を討たんとその手を伸ばす。
しかし英司は攻撃を回避し、高く飛び上がった。勢いを利用し、バナナを刀のように振るえば、それは金色の輝きを放った。光は衝撃波となり、ヒーローの足元を抉りとる。
衝撃によって土煙が上がった。ヒーロー達の足元では小道具さん達が一生懸命仕込んだ火花達が甲高い音を立てて爆ぜていく。
「くっ、まずいわ。このままだと……!!」
「……このままだと?」
呟いたノアに雄斗は首を傾げる――のよりも早く、ノアは甲高い悲鳴を上げた。
「い、いやああああ!! 服がああああ!!」
そう、衝撃波の余波で服、それも胸元だけが器用に切り裂かれたのである。足元を狙ったはずなのに、なんて不思議な展開なのだろう。このままお茶の間が気まずさに包まれるのも時間の問題だ。だって今にも豊満な肉がはみ出すどころかモロ出しの機会を狙っているのだから。
「まずいP倫が動く!! 雄斗、隠してやってくれ!!」
英司が攻撃を続けながらも叫べば、雄斗はノアに駆け寄りマントをかぶせた。
危機一髪である。ほっとしつつも悪役を崩さない英司、食卓の気まずい雰囲気を守れた事に満足気な雄斗、そして何故かまんざらでもなさそうなノアはそれぞれ視線を交差させた。
「さあて、そろそろおねーさんの出番よね?」
乱戦を見守っていたガイアドニスは漸く腰を上げ、悠々自適に歩き始める。
爆発や火花を横目に向かうのは、リーダーらしく皆を指揮していたレッド――ムサシの元だ。
「邪魔をするな、ドリーム戦隊!!」
ガイアドニスは眼光をぎらつかせ、レッドに向かって吐き捨てた。目元を眇めれば、瞳は不気味に煌めく。普段の穏やかな仕草からは想像もつかぬほど、悪役に相応しき貫禄を醸し出していた。
「さぁこい、宇宙海賊ワルイーゾクッ!! この星にはドリーム戦隊がいる、貴様らの好きなようにはさせない!!」
「ほざけ、対峙したことを後悔させてやろう!!」
子供達の恐怖心を煽るような笑い声が響いた。それを止めさせようとムサシは愛銃レッドリボルバーを手にガイアドニスの元へと駆ける。
近くに居た雑魚役を巻き込み、速度による制圧を試みる。きっと放映時には派手なエフェクトが飛び交っていることだろう。そうであってほしい。ムサシはそんな事を考え、高く跳躍した。雑魚役を軽々と飛び越え、彼はガイアドニスへとその銃口を向ける。しかしそれよりも早く彼女の鎌が振るわれた。獲物の大きさから受け流しは不自然――瞬時に悟ったムサシはそのままわざと吹き飛ばされ、転がりながら着地する。
「うわああああ!!」
「あーっはっはっは、その程度かドリーム戦隊!!」
ガイアドニスが高笑いをすれば、英司とマカライトもその隣へと戻ってきた。目の前にはボロボロのヒーロー達、そして未だ露出の際どいノアの姿もある。
どう見ても劣勢。CMを挟むのならば今ここ!! そんな監督の幻聴を気取り、リーダーであるムサシは顔を上げた。
「諦めるな……!! 俺達が諦めたら、この星に住む人達はどうなる!?」
ムサシの声を受け、倒れていたヒーロー達は徐々に立ち上がる。
ボロボロとなっても心は一つ、人々の夢と希望を守るのがヒーローの務めなのだから。
「俺達、ドリーム戦隊は……負けない!!」
ヒーロー達は一カ所へと集まり、それぞれの獲物を掲げる。ここで再現するのは大技ハイパードリームキャノンだ。
放映時にはそれはもう素晴らしいエフェクトが用意されているに違いない。一同はそれを信じ、怪人達にそれを差し向ける。
『ハイパードリームキャノン!! 発射!!』
掛け声からやや遅れ、怪人の背後で大爆発が引き起こされる。炎は周囲を照らし、黒煙は天高く上がっていった。合わせ、怪人達の衣装に仕込まれた火花が深手を演出するように散り始める。
「馬鹿な……っ!? しかしそれならばこちらも大技を魅せるのみ……!! アンタ達の力をもらうぞ!!」
ガイアドニスは雄々しく吠え、身体を震わせた。
ここからはもうお約束、巨大ロボット対巨大怪人のターン。
巨躯のガイアドニス、そしてロボットスーツを着たムサシ。勝者はどちらなのかと知らしめるのみ――。
「――お、あっちは良い感じに〆にはいったな。少しばかり休憩するか」
昴は一騎打ちの様子を眺め、予め頼んでおいたケータリングに手を付けた。ここまで来れば撮影はもう少しだ。
「トールも食うか? 疲れには肉だ。肉を食えば全部解決する」
「ありがとうございます、いただきますね。……そういえば、後でシルバーさんに激励の動画を贈りたいんですが、一緒に撮って貰ってもいいですか?」
「あ、それなら僕も送りたい!! イエローさんのファンレターも一緒に届けたいな。いや……ここは全員に向けて色紙なんてどう?」
雄斗が輪に加われば、三人はああでもないこうでもないと激励動画の内容について語り始めた。それは徐々にTVシリーズの感想言い合いへと発展して、和やかな雰囲気が流れていった。
「お疲れ様、見事なやられっぷりだったな……というか、派手に脱げたなそれ」
英司はノアの破れたスーツを見て苦笑交じりの表情を浮かべる。しかし出で立ちはどうあれ、これは過去回の踏襲。リスペクトの一つだ。然程悪いようにはならないだろう。
「どうせなら原作再現したいもの、上手く破れてくれてよかったわ。まぁ、ちょっとばかしこれが疎ましいけど……」
ノアは己の豊満な胸を指さした。破れたスーツからは今にも中身が飛び出しそうである。
「お疲れーって、すごい破れっぷりだな……?」
飲み物片手に現れたマカライトはノアの衣装を見てやや後退った。死んだ目はやや泳いでいるものの、恥ずかしいからではない。後で映像処理が大変そうだな……という純たる感想だった。何せこの番組は日曜の朝にやるのだ、きっと上手い具合にCGなりカットシーン繋ぎが行われるだろう。
作業チームの仕事が増えたと思うべきか、はたまたサービスとして受け取って貰うべきか。マカライトはそんな事を考え撮影現場を見遣る。
同時に、格闘を続けていたロボット組から声が上がった。
「お前達がこの星を滅ぼそうとするたびに、俺達は命ある限り戦い続ける!!」
「おのれおのれおのれええ!! アタシのお宝がああああ!!」
どうやら決着がついたらしい。ガイアドニスは断末魔を上げ、迫真の演技でその場に頽れた。
●放映後
「評判が良かったみたいよ。見てちょうだい!!」
ブルー役の女性はニコニコと微笑み、スタッフから受け取った資料をレッドへ手渡した。
そこに記されていたのはSNSで収集した感想についてだ。評判は上々、新発売されたおもちゃの宣伝にもなったようで、玩具の販売金額は右肩上がりとなっている。
「これは有り難いな。俺達も久しぶりに休めたし、他人が演じるドリーム戦隊を見るというのも良い刺激になった。それに、悪役の人気が出たのも喜ばしい」
「ええ、頂いた激励動画と色紙も有り難いわね。……その期待を裏切らないように、これからもずっとヒーローでいましょう」
「ああ、これからも皆で共に駆け抜けよう」
和やかな雰囲気が二人を包む。しかしそれを破ったのは、覚えのある慌ただしさだった。バタバタと廊下を走る音。勢いよく開けられた扉。そして現れたのは何かと騒がしいイエロー。
「大変だ、じっちゃんが――」
覚えのある言葉を聞き、二人は身構える。ギックリ腰の次はなんだ、大病でなければいいが。二人が不安な面持ちで言葉の続きを待てば、イエローは一転、満面の笑みを浮かべた。
「初孫生まれたんだって、お祝いしようよ!!」
「まぁ、それはお祝いしないといけないわ」
「それなら還暦祝いと三十周年も同時に祝おう。……これからも健やかにヒーローとして生きられるように願いを込めて、な」
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
今回は第二十九シリーズ16話『ドリーム戦隊 対 宇宙海賊ワルイーゾク 人々の夢を護れ』にご参加頂き、誠に有り難うございます。
私事ではございますが、ヒーローものが大大大好きなので「いや書きてえなあ!!」という思いから今作を執筆致しました。
オープニングが長くなってしまったのにも関わらず、しっかりと読んで頂いたり、足りない設定を埋めて頂けたり、細かな所に気を使って頂きとっても恐縮です。
皆様のプレイング、どれもウホウホで拝見させて頂きました。
今回のお話しはお楽しみ頂けたでしょうか?
このシナリオがイレギュラーズ達の思い出、その一つとなってくれると森乃ゴリラはとっても嬉しいです。
ちなみに私は影を秘めたり背負ったりしている追加戦士が好きです。
それでは森乃ゴリラでした。またどこかでお会いできるのを楽しみにしています。
GMコメント
●依頼達成条件
第二十九シリーズ16話『ドリーム戦隊 対 宇宙海賊ワルイーゾク 人々の夢を護れ』の撮影を無事に成功させる
●依頼詳細
お休みを取りたいドリーム戦隊に変わり、スーツアクターとして怪人と対峙してもらうシナリオです。
台本には『お決まりの登場、雑魚戦、そしてリーダー格は必殺技で〆る』としか書かれていませんので、多少好き勝手しても問題ありません。後でCGを付ければなんとでもなります。性別や体型が違う……? ヒーローには身体強化の技ってもんがあるんですよ。
それにドリーム戦隊を知っている方々ならポーズくらい目を瞑ってでもできるでしょう。そうですよね?
※プレイヤーの皆さんはドリーム戦隊なんて知らないと思いますが、昔から知っている事にしてください。三十周年ですよ、三十周年。そりゃもう子供から大人まで知っているべく常識なのです。イヤーナツカシイナー、ドリーム戦隊。見てた見てた、第16シリーズで敵の攻撃によってブルーの衣装が破れた時は興奮しましたね!! ……ね!?
因みに今回はそれほど重要な回ではありませんので、たとえレッドが8人いても、イエローが8人いても構いません。分裂や分身はよくありますよね、うん。
勿論、普通にフルカラー揃えても構いません。重要なのはかっこよく悪役を倒す、それだけです。
尚、台詞は後付けとなりますので、普通に喋っても問題はありません。フルフェイスのマスクに搭載されているインカムでやり取りが行えます。
●ドリーム戦隊を知らない……? いやまさかそんな……。
ドリーム戦隊は三十年ほど続いている戦隊の一つです。
レッド・ブルー・イエロー・ブラック・シルバーの五人で悪と戦い、人々の夢を守り続けています。女性はブルーのみです。
彼らは交代せずに演じてきた人気者ですが、忙しいスケジュールと、腰をいわしたシルバーのお陰で撮影が侭なりません。
イレギュラーズが動いてくれるのであれば……と、温泉の予約や短いバカンスの計画を立てています。
●敵
いわゆる雑魚戦。数はおおよそ10~15人+リーダー格となります。武器は近接向けと、遠距離向けが揃っています。海賊の下っ端的な見た目とお考え下さい。
また、ご希望であれば『悪役側』も行えます。
しかし悪役は負けるのが常……。もし悪役になるのであればヒーロー達の動きが引き立つよう、見事な負けっぷりを見せつけましょう!!
尚、悪役候補がいなければNPCのアデルトルートがヤケクソで悪役をします。その場合は人質を取ってドリーム戦隊と対峙しようと考えています。
●フィールド『見覚えのある採石場』
なんだかとっても見た事のある採石場です。
爆破や煙幕などに対応できるため、とても広い造りをしています。周囲にも森はありますが、やや遠いですしそちらは火気厳禁です。
ワイヤーアクションは想定しておりませんが、対応スキルがあれば魅せる演出も可能でしょう。
●アデルトルート・バルデグント(p3n000280)
ガチャの費用を稼ぐために依頼を引き受けた『生臭ソシャゲ狂シスター』です。
彼女は悪役を予定していますが、余ったカラーや細々としたサポートをする予定ですので、基本的には人の居ない役割を務めます。
口調は悪いですがガチャ代がかかっているので必死です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●GMコメント
森乃ゴリラです、ウホウホ(挨拶)
ちょっと特殊な依頼ですが、ご興味がありましたらよろしくお願いいたします。
あとオープニングが少し……そう、少しだけ長くてすみません。ウキウキで書き切りました。
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