PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<竜想エリタージュ>クッキング・オン・リュウグウ・キッチン

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●竜宮の台所
「あ、ゴリョウさーん! ゴリョウさーん!」
 ぴょこぴょことうさ耳が揺れる。声の方にゴリョウ・クートン (p3p002081)が視線を向けてみれば、マール・ディーネーが此方を呼ぶ姿が見える。
「おう! マールか! 元気かい!」
 ぶははははっ、と豪快に笑うゴリョウ。ここは竜宮のローレットの出張所。その掲示板を眺めながら、ゴリョウは新たな仕事を探していたわけだ。ゴリョウがマールに向き直ると、マールはぴょん、と飛びついてきた。なんとも気軽で距離感のバグった行いだが、マールはマールなので、大体の人間は軽く流してくることが多い。というか、もう、結構なイレギュラーズ達が、この子の距離感になれてきたころじゃなかろうか。それはさておき。
「ゴリョウさん、前に、竜宮の食べ物のこと、知りたいって言ってたでしょ?」
「おう、確かにそんなこと言ってたな……覚えててくれたのか?」
「うん! ゴリョウさんって、お料理上手なんだよね。だったら気になるかもーって。
 だから、竜宮の市場に案内してあげたいと思って。
 あ、勿論、お友達とか、他のイレギュラーズの皆も呼んで!
 そろそろ『品物』が上がってくる時間帯だったはずだから、きっとにぎやかだよ!」
 そう言ってにっこりと笑うマールに、ゴリョウは「ほほう」と頷いた。ゴリョウが、竜宮の食文化に興味を抱いていたことは事実だ。それに、市場となれば、観光がてら見に行きたい、という者たちもいるだろう。
「おう! じゃあ、早速で悪いが、案内してくれるか?」
 ゴリョウが笑うのへ、マールは頷いた。
「うん! じゃ、準備できたら、行こう!」
 ――かくして、ゴリョウを含めた八名のイレギュラーズ達が、観光に志願した。建前上は『マールの護衛』という仕事にあたるわけで、依頼料は支払われることとなる。これは好意という面もあるが、実際に竜宮内ならどこにでも顔を出し、最近は竜宮の外まで好奇心旺盛に遊びに行くようになってしまったマールを、実際に護って欲しいという実利面もあった。
 さておき、一行が向かったのは、竜宮の外れにある市場の一つ、『リュウグウノツカイ市場』である。大きな市場であるここには、主に海産物の水揚げ――海底なので奇妙な感じだが、とにかく世間の言葉に合わせれば水揚げ――が行われ、多くの海産物が並んでいる。
「やっぱり」
 あたりを見回しながら、ゴリョウが楽しげに言った。その瞳はわくわくとした感情を隠しきらずに、どこか童心に戻ったようにも感じられた。市場というものは、やはり料理人としては心が躍る場所だ。
「海産物がメインなんだな」
「うん。一番手に入れやすいからね。あ、お肉とか、お野菜とかも、ちゃんとあるよ。でも、此処の市場は近海のお魚とかがメイン!」
「ほう、深海魚って奴か。見た目はよくねぇが……」
 深海という関係上、いわゆる陸で見られるものとは違った姿のものは多い。マールは笑う。
「怖いよねー。がぶってされたら痛そう! でも、とってもおいしいんだよ。陸のお魚とは、ちょっと違うの。味が濃い……むー、なんていうのかな?」
「そういう時はな、濃厚な味わい、とか、脂がのってる、みたいに言うんだぜ?」
「なるほど! 濃厚! えへへ、教えてくれてありがと、ゴリョウさん!
 でね、この魚は煮つけにするの。オサシミで食べられる魚は、こっちかな」
「刺身で食える……身に脂があるようには見えねぇから、さっぱりした感じの食材になりそうだな。
 肝とかはどうなんだい?」
「肝って内蔵?
 あたしは苦くて食べられないけど、大人の人は結構好きで食べたりするみたいだよ。
 んー、後は、ちょっと高いのだと、あっちの方かな。ただ、毒があって、調理するのには免許がいるんだ」
 行ってみれば、風船のように膨らんだ魚が見える。ほー、とゴリョウは唸った。
「フグみたいなのもあるわけか。その辺は、豊穣の文化も強いってわけだ」
「そうみたいだね! でも、此処の文化の元になった旅人(ウォーカー)さんの影響も強いかも。
 昔のことだからあたしはよくわかんないんだけど、メーアはよく勉強してるから知ってると思う!」
 なるほどな、とゴリョウは唸った。豊穣にもよく似た、しかしどこか近代的な知識と調理方法、そして食材。なるほど、これが竜宮の文化の一端か、と興味は尽きない。
「あ、あっち! 深海船が帰って来るよ! 見に行ってみよ!」
 そう言って、マールがゴリョウの手を取って引っ張った。
「おいおい、走ると転んじまうぞ?」
 まるで子供をあやすように、ゴリョウが言う。まぁ、実際マールは子供っぽい所があるものだ。イレギュラーズ達がマールと共に市場の外れに向かうと、やってきた奇妙な形の船(平べったくて、例えるなら亀のようだ)が、一隻、戻ってきていた。パカリと窓を開けると、大勢の竜宮男子たちが、降りてきた。海の男と言えど、どこかスマートなのは、竜宮的な文化が見える。
「ああ、マールさん。見学ですか?」
 漁師がそういうのへ、マールは頷く。
「うん。今日は、おっきい魚を獲りに行った、って聞いたけど……?」
 そういうのへ、漁師は苦笑した。
「ああ、そうなのですが……やはり、最近は深怪魔が増えた関係で、漁そのものが難しいもので。
 今回は、無理でした」
「そうなんだ……」
 マールがしょんぼりした様子で肩を落とす。ゴリョウがふむ、と唸った。
「ちなみに、どんな魚を獲ろうとしたんだい?」
「この辺りに住む深海魚ですよ。スナズリウオって言う、かなり大型のやつでしてね。一匹捕まえれば、大通り一つのすべての店を賄える、ってくらいの大物です。
 陸で例えると……マグロに近い魚ですね」
「巨大なマグロ、か。そいつは気になるな……」
「深怪魔も問題ですが、スナズリウオ自体も、相当厄介な奴でして。戦える漁師や、竜宮嬢に手伝ってもらって、やっと捕まるか否か、って奴なんです」
「ふぅむ……で、そいつ、旨いのか?」
「もちろん! あらゆる部位がうまいんですが……スナズリウオって、名前の通りに腹で砂をこするように泳ぐんですが、その腹、砂に接触する面にあらゆるうまみが詰まってるって言われていて。実際、そこは捕まえるのに貢献した竜宮男子や竜宮嬢、漁師しか食べられないんですよ。一種の戦利品とお給料みたいなものですね」
「ほう?」
 ゴリョウがむむ、とうなった。
「気になるな……味もだが、調理方法も……」
「基本的に、刺身かステーキみたいに焼いて、ですかね……味の方は、脂はしっかり乗っていて、しかし大トロほどくどくはない。何しても美味い、ってよく言われますよ」
「へー、すごい。食べてみたいなぁ」
 マールがむむむ、と唸る。ゴリョウは笑った。
「俺もたべてみてぇもんだ! なぁ、俺たちイレギュラーズが護衛と戦闘を受け持つ。だから一つ、船を出しちゃあもらえないか?」
 ゴリョウが言うのへ、漁師は一瞬、驚いた後、
「そうですね、船長に確認してきます」
 そう言って、去っていく。
 はたしてその少し後にやってきた船長に話してみれば、意外とあっさりとOKが出た。
「ここ最近、スナズリウオは手に入らなかったんですよ。竜宮の危機をぶっ飛ばす景気づけに、一つ仕入れたいと思ってたところです。
 一番うまい『スナズリ肉』の部位はお譲りしますんで、此方こそ、お願いしたい」
 そういう船長に、ゴリョウは頷いた。
「おう、こっちも興味があるんでな! よろしく頼むぜ!」
 ぶはははっ、という笑い声が響く。なんだか楽しそうなので、マールもにこにこと笑った。

 かくして、一行は竜宮から亀のような形の深海船に乗って旅立つ。
 そして彼らが遭遇したのは、あまりにも巨大な、巨大な――スナズリウオの姿だった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 スナズリウオ漁のお時間です!

●成功条件
 イレギュラーズの手で、スナズリウオを戦闘不能状態にする

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 竜宮の市場に訪れた皆さん。そこで皆さんは、竜宮でも美味しい食材として知られる『スナズリウオ』の存在を知ります。
 スナズリウオ漁から戻ってきた船員たちと話しますが、しかし不漁との事。というのも、スナズリウオ自体が強力な戦闘能力を持つほか、付近の深怪魔たちに邪魔されて、漁が成功しないとの事でした。
 となれば、イレギュラーズ達の出番です!
 深怪魔を退け、スナズリウオを戦闘不能にし、漁を成功させましょう!
 作戦エリアは、竜宮近海。周囲は竜宮からの明かりで明るさは確保されていますが、別途用意した方がより便利に動けるでしょう。深海ですが、水中行動を持っていなくても、竜宮の加護で自由に動けます。もちろん、水中行動を持っていた方が、より有利に立ち回ます。

●エネミーデータ
 深怪魔・パラサイトシャーク ×10
  コバンザメのような深怪魔です。対象に食らいつき、そこから生命力を吸い取るような攻撃を行います。
  彼らの目的は、スナズリウオのようです。その為、イレギュラーズのみならず、スナズリウオにも攻撃を仕掛けてくるでしょう。
  ここの戦闘能力は低いですが、その分数は多めです。戦法にもよりますが、放置するよりは早めに散らした方がいいかもしれません。

 スナズリウオ ×1
  巨大な(例えば皆さんが乗っている深海船くらいに)巨大な、一匹の魚です。外見はマグロに近いですが、硬い鱗や鋭いヒレなど、戦闘面でも強大な敵となっています。
  巨体故に、マーク・ブロックに三人分(ハイ・ウォールは二人分と計算)が必要になります。動きは鈍いですが、強力な生命力と防御性能を持ち、強烈な一撃を、広範囲に行ってきます。
  長期戦を覚悟する必要があるでしょう。また、パラサイトシャークによる攻撃で戦闘不能になった場合、生命力を吸われて肉がダメになってしまいます。パラサイトシャークを何とかしながら戦う必要があります。

●おまけ
 首尾よく倒せれば、市場に戻って『スナズリ肉』を食べることができます。これはスナズリウオから取れる超希少部位で、とても美味なものとなっています。料理人に任せて、刺身やステーキで食べてもいいですし、何か味を追求して、自分たちで調理しても構いません。

●味方NPC
 マール・ディーネー
  竜宮のマールちゃんです。今回も皆さんについてきて、応援や簡単な回復術式で援護してくれます。
  打たれ弱いので、守るように動くか、遠距離において敵の攻撃を避けるように動かしてあげるとよいでしょう。
  特に指示が無ければ、そのように行動します。

●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <竜想エリタージュ>クッキング・オン・リュウグウ・キッチン完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年09月25日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
※参加確定済み※
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
裂(p3p009967)
大海を知るもの
ユーフォニー(p3p010323)
誰かと手をつなぐための温度
桐生 雄(p3p010750)
流浪鬼

リプレイ

●深海フィッシング
 まるで亀のような形をした深海船が、ゆっくりと海底を行く。深海船の中に視線を移してみれば、内部には獲った魚を保存・下処理などをするための処理場などがあって、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)と『大海を知るもの』裂(p3p009967)などは、その設備に驚いたものだった。
「大した船だな! しっかりと処理もできるし、そのまま調理にもうつれる」
「長期の漁となると、漁師の飯はとった魚だからな。下処理と料理がちゃんとできるのは、良い船の証拠だ」
 裂が笑った。
「これなら、お前の腕も充分に発揮できるんじゃないのか? 下処理やなんやらくらいなら、俺だって手伝える」
「おう! 頼りにしてるぜ! 何せバカでっかいって話の魚だからな! 手はいくらあっても足りないだろうし、出来れば一番おいしい状態で市場に持ち帰りたいからな!」
 ぶはははっ、と豪快に笑うゴリョウ。船員たちがもちろん、と声を上げた。
「せっかくのご馳走ですからね! イレギュラーズの皆さんにも、ご協力をお願いします!」
「えへへ、ゴリョウさんのお料理、楽しみだよ~。
 裂さんも、お久しぶり! この間以来だね!」
 ぴょんぴょんと飛び跳ねるマールに、ゴリョウと裂は笑ってみせた。
「おう! いい機会をありがとうな!」
「お前は相変わらず元気そうだな。漁牙のじいさんは元気か?」
「うん。竜宮で色々護衛とかしてもらってるよ。漁火水軍の皆は、今日のお仕事とは別の市場だけど、元漁師さんが多いから働いてももらってるみたい」
「それはそれは、だ。海賊なんぞやってるよりは、その方がいいだろうさ、爺さんたちも」
 かかか、と裂が笑う。
「ユーフォニーさんも、ありがとね。また会えてうれしいよ~!」
 ぴょこん、とマールが抱き着いたのは、『ドラネコ配達便の恩返し』ユーフォニー(p3p010323)だ。距離の近いマールにびっくりしつつも、
「あはは……マールさんを助けて以来、ですよね。竜宮に帰る時は、力になれなかったら……その分も、頑張ります!
 あ、ちゃんと、竜宮の正装のバニー水着も着てきたんですよ?」
 そう言って、くるっと回ってみせるユーフォニー。マールはひまわりみたいな笑顔を浮かべた。
「すごい! あ、一緒に写真撮ろ? えーふぉん? っていうので写真撮れるって教えてもらったよ~」
 楽し気に笑うマール。一方で、深海船の内部構造に興味津々な『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が、辺りを見回している。
「特別に分厚い素材、というわけでもない様だね、この船。それでも水圧に耐えられるのは、それこそ乙姫の加護、になるのかな?」
「ええ。竜宮の民は、乙姫の力に頼りきりとは言えますね……」
 船員が言うのへ、ゼフィラが頭を振った。
「いや、この様な場所では仕方ないだろう。それに、外との交流も始まったんだ。他の文化や技術に触れていけば、乙姫の負担も減るだろうね」
「そうなったら、メーア、もう少し楽になるかなぁ」
 マールが言った。
「負担……と言えば、負担だから。あたしも、何か手伝ってあげられればいいんだけど~~~!」
 むむ、と唸るマールに、ゼフィラが笑った。
「キミのような家族がいるだけでも、気がまぎれるものだろうさ。だから、キミはそのままでいいんじゃないかな?」
「そっかなぁ……でも、そうだったらうれしいかも!」
 えへへ、とマールが笑う。
「ふふ。そう言えば、食文化についても聞きたかったんだ。さっきの市場では海産物が主だったようだが――」
「そうそう、竜宮はパンとか食べるのか?」
 『恋揺れる天華』零・K・メルヴィル(p3p000277)が、続くように尋ねる。
「うん! 豊穣が近いから、おおいのはお米だけど、パンもみんな食べるよ~。
 そうそう、シレンツィオに行った時は驚いたよ! 硬ぁ~いパンとかあって、びっくりしちゃった! でも香ばしくておいしい!」
「なるほど。じゃあ、定期的にパンとか仕入れるの、需要あるかな……届けに行くぞ?」
「ほんとに!? 零さんのパンなら、きっとみんな、すごく美味しいって喜んでくれると思う!」
 ぴょんぴょんと飛び跳ねるマールは、可愛らしい子ウサギのようだった。零は苦笑しつつ、しかし新しい販売ルートの開拓を模索している。
「あ、イレギュラーズの皆さん! そろそろスナズリウオの生息域に入りますよ!」
 船員がそういうのへ、『流浪鬼』桐生 雄(p3p010750)が「ほう!」と声をあげた。
「噂のウメェって魚か。何でも、馬鹿デカイらしいが?」
「体躯は問題ではあるまい。巨躯なだけならこれまえでも多く見てきたであろう」
 『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)がそういう。確かに、デカいだけなら、これまで何度も、ローレットは相対してきただろう。問題は――。
「味、か。確かに、極上ってんじゃ気にもなるってもんだ。
 いやいや、大暴れ出来て美味い飯も食えるってんだ、最高の依頼を持ってきてくれたってもんだ!」
 がはは、と笑う雄。その視界、正確には深海船の窓の外を、巨大な壁が塞いだ。いや、厳密には、それは魚の鱗で、より正しく言うならば、それは動く魚の表皮である。つまり、窓をふさぐほどの巨大な魚が、今深海船と並走している――という事になる。
「おい、こいつか!?」
 ばん、と窓に顔を押し付ける雄。視線を上下に向けても、魚の全体像は拝めない。
「ふわぁ、すごく大きいですね……!」
 びっくりしたように、『眠らぬ者』ニル(p3p009185)が言った。深海船は、深海に接するくらいの高さで進んでいたが、その高さと同じくらいの深度を、この巨大な魚は泳いでいる。無理矢理に窓から下を見れば、ずりずりと、海底の砂に腹をこすらせているのが分かるだろう。なるほど、スナズリウオ、とはこの生態からついた名に違いあるまい。
「成程成程、匂う――良き食の匂い。故に気に入らない。嗚呼、嗚! 貴様は真逆、私よりも上質な肉が存在すると謂うのか!!」
 ぐにゃぐにゃと影が揺れる。激情のごとく。ニルは小首をかしげた。
「オラボナ様も、おいしい、のですか?」
「美味と断言させてもらおう――」
「オラボナ様は、おいしい、です。覚えました」
 にぱ、と笑うニル。ゴリョウが頭をかいた。
「いや、オメェさんを……というか、人を料理するのは……ま、今日はなしで頼む。マールもびっくりしちまうぜ?」
 苦笑するゴリョウに、オラボナはNyahaha、と笑う。
「よかろう――彼の娘を驚愕させることは、本意ではない故に。次回の機会としようか」
「わーい、おいしい、たのしみなのです!」
 ニルはぴょんぴょんと飛び跳ねた。イレギュラーズ達の手にかかれば、スナズリウオと言えど、捕らえることは可能だろう――だが。
「おい、なんかサメみてぇなのがいるぞ?」
 雄がそう言った。窓から覗いてみれば、確かに、数匹の、コバンザメのような形をした巨体(それでも、精々人くらいのサイズだ)が、スナズリウオに攻撃を仕掛けているように見える。攻撃を受けた個所が、しお、と生気を奪い取られた様にくすんでいくのが分かる。
「あれは、深怪魔です!」
 船員が言った。
「ああやって、生き物の生気を奪う……このままでは、スナズリウオが生気を奪い取られて、食糧として適さなくなってしまいます!」
「なんと、それは困ったね」
 ゼフィラが言った。
「我々の目的は、スナズリウオの食料としての捕獲――それを邪魔されては問題がある」
「ああ。せっかくのご馳走なんだ。それに、深怪魔だって言うなら、倒さない手はない!」
 零の言葉に、仲間達は頷いた。
「船員さん、俺たちが出ても?」
 零が言うのへ、船員が頷く。
「はい! 後部に出入り口があります。そこから出てください!」
「おう! まずは、魚獲り、と行くか! マール、オメェさんは――来るなって言ってもついてきそうな眼だなぁ」
 ゴリョウの言葉に、キラキラわくわくとした目で、マールが頷く。
「しゃぁねぇ、後ろに控えて援護を頼むぜ! 無理と無茶はすんなよ!」
「了解! 頑張ろうね、皆ー!」
 マールがにこにこと笑うのへ、皆も頷く。果たして、一行は深海船の後部デッキから外へと飛び出いした。そこには、巨大なスナズリウオと10匹の深怪魔、パラサイトシャークがいて、
「皆様、がんばりましょう!」
 と、ニルがそういう通りに、これからイレギュラーズ達の漁が始まろうとしていた。

●深海の大獲り物
 さっそく外に出てみれば、スナズリウオにまとわりつく10匹のパラサイトシャークの姿が見えた。パラサイトシャークが、突撃するように牙で噛みつけば、スナズリウオの表皮が黒く汚れていくのが見える。
「生命力を吸われてるっつーことは、だ」
 雄が言った。
「仮にあいつらがスナズリウオを殺しちまったら――」
「おいしくなくなってしまう、のですね」
 ニルが続いた。その言葉通りだろう。食事を、生命をいただくことと規定するならば、今のパラサイトシャークはまさに、食事の途中と言えた。ならば、既にパラサイトシャークが食べきったスナズリウオは、もはや食べ物ではないものとなってしまう。
 この時、パラサイトシャーク、そして人間たちの、食糧の奪い合いともいえた。食料に認定されたスナズリウオはたまったものでもないだろうか? いや、これも自然に生きるもののさだめと言えれば、冥福を祈りはしても、止めるわけにはいかないだろう。
「なら――あの寄生鮫どもを何とかするとしよう」
 オラボナが言った。
「私の肉の美味、まさかわからぬとは言うまいな?
 ――その巨大魚を狙うほどの美食家(グルメ)だ。こっちの肉は、甘いぞ――Nyahahahaha!」
 ずぁ、と引き込むように放たれるのは、肉の匂いか。されど、ただ食らわれてやるような存在では、無い。パラサイトシャークたちが、引き寄せられるように、オラボナへと迫る――同時、スナズリウオが解放からか身をよじった。それだけで、辺りの水流が、まるでプレッシャーのようにイレギュラーズ達、そしてパラサイトシャークたちを押さえつける。
「おっと、動くだけでこれか……巨大なだけあるね」
 ふうん、とゼフィラが感心したような声をあげる。零が頷いた。
「さっさと片付けないと、持たなさそうだ。
 皆、パラサイトシャークたちを一気に片付けるぞ!」
 放たれた『パン』が、パラサイトシャークへと突き刺さる。弱点であろう頭頂部を叩かれたサメが、ぷか、と浮かんで気絶した。
「さぁデカブツも小物も揃ってかかってきやがれ!
 食うか食われるか丁々発止と洒落込もうじゃねぇか!」
 ゴリョウが叫んだ。突撃してきたパラサイトシャーク、一体を受け止める。ず、と深海の砂にわずかに足が沈み、同時に力強く、パラサイトシャークの頭頂部を殴りつけた。ずどん、と強烈な振動が響き、パラサイトシャークが白目をむく。
「リーちゃん、上の方をお願い!」
 ユーフォニーが声をあげる。水中仕様に水着を着たドラネコのリディアが、ぴょこぴょこと泳いで頭上から戦場を俯瞰した。
「……スナズリウオさんの動きは遅いみたいです。パラサイトシャークたちを早めに散らせれば――!」
「距離を話すことなく追撃ができる、ですね!」
 ニルが声をあげる。同時に振るった手から、混沌の泥が吹き出し、複数のパラサイトシャークたちをその身の内に飲み込み、地へと叩き落とした。そこへ迫るのは、竜宮イルカ――いや、シャチに乗った雄だ。地にたたきつけられたパラサイトシャークへと、追撃の斬撃を繰り出す。破壊の暴風は海底に吹き荒れ、好きを晒したパラサイトシャークたちをまとめて薙ぎ払った!
「所で、こいつら食えるのかい!?」
「グルメ魂さんが、食べられるよ、って!」
 ユーフォニーが笑う。
「なら、やる気がわくってもんだ!」
 裂が吠える。竜を斬る刀が深海にて躍り、近づくパラサイトシャークたちをなます切りにしていく! 後に残るのは、見事に『処理』されたコバンザメたちだ。
「血抜きはしとくぜ、ゴリョウ!」
「おう、助かるわ!」
 ぶははは、とゴリョウが笑う。
「オラボナ、オメェさん、スナズリウオを抑えられるか!?」
 叫ぶゴリョウに、オラボナは頷いた。
「ふぅむ、やってみよう」
 オラボナが水中を泳ぐ。スナズリウオの正面にたどり着き、その『気配』を増幅させた。強烈なプレッシャーは、そのとき、スナズリウオの足を止める。強烈な『壁』がこの時、スナズリウオの動きを制限したのだ。
「汝、動くこと能わず――Nyahahahaha!」
「見事だね。さぁ、今のうちに、仕留めてしまおう!」
 叫びと共に、聖なる気配が、ゼフィラを中心とした膨れ上がる。その気配は仲間達の傷を癒し、あと一歩を踏み出す力を与える。
「零様、どこから狙えばいいでしょう?」
 ニルが声上げる。全力で叩きつける魔波の一撃は、しかし巨体にはまだまだ致命打となりにくいようだ。スナズリウオが身体をよじるだけで、身体そのもが強烈な凶器となって、イレギュラーズ達を傷つけている。なるほど、一筋縄ではいかない漁である。
「これ、モンスター知識というか、料理知識じゃないのか……!?」
 苦笑する零に、裂が叫んだ。
「魚と同じなら、脳天を狙え! 血抜きをするときは、えらの奥と、尻尾の付け根に一撃だ!」
「だ、そうだ! ウメェ飯のためだ、やるか!」
「今井さん! 尻尾の付け根、です!」
 雄が叫び、ユーフォニーが続いた。今井さん(係長)が手裏剣のように名刺を投げ飛ばす。水中でも勢い衰えぬそれが、尻尾の付け根の動脈に突き刺さった。じゅ、と血が吹き出すと同時に、雄が竜宮シャチと共にスナズリウオの頭頂にまで泳いで、その頭に強烈な斬撃を喰らわせる。それは頭骨を破壊するには至らなかったが、強烈な衝撃を与えるには充分だった。ぐらり、とスナズリウオが体勢を崩す――。
「ゴリョウさん、倒せますか? いま、左側のしっぽに切り込みを入れましたから――」
「おう、こっち向き、だな? オラボナ、オメェさんも手伝ってくれ!」
「承知――」
 ゴリョウ、そしてオラボナが飛びあがった。その身体に、強烈な魔力の奔流を纏うオラボナ。かたや、鎧のエンジンをフル稼働させて、飛ぶように泳ぐゴリョウ。二人の放つ、砲弾のような強烈な一撃が、スナズリウオを『横転』させる。その衝撃波がイレギュラーズ達の身体を打つが、ここまで来て止まるわけにはいかない!
「零! エラの奥だ!」
 ゴリョウが叫んだ。
「了解!」
 零がパンを射出する! それがエラの奥に突き刺さり、頸動脈を切り裂いた。ぶわ、と健康な色合いの血が吹き出す。ぐる、とスナズリウオが白目をむいて、そのまま大地に身を横たえた――。

●戦いの報酬
 市場に戻ってみれば、総員大出でスナズリウオの解体が始まっていた。当然のことだろう、めったに食べらられないご馳走だ。捨てるところなどはない。戦いの報酬に、パラサイトシャークとスナズリウオのスナズリ肉を分けてもらったイレギュラーズ達は、市場の調理場で、早速それぞれの食材と相対していた。
「……ふぅむ、見た目は大トロに近いな。だが、筋は柔らかくて……」
 調理台の前で、ゴリョウが唸る。目の前にはスナズリ肉があって、わずかにそぎ落として味見をしてみれば――。
「成程、脂の甘味、肉の野趣――それが混然となって、あっという間に口に溶けていく。濃厚にして、華やかなうまみ。
 これは活かすには――」
 その数十分後に、食卓には様々な料理が並んでいた。スナズリ肉は、握り・炙り・ネギトロの三種の寿司。それから、バターを利かせてステーキにしたのちに、フランスパンに切り身を乗せたカナッペ風。パラサイトシャークの肉は、すり身んしてはんぺんにしたり、骨から出汁をとっておでん風に焚いている。
「一応、手伝ったけど……」
 零は苦笑した。
「ほとんど見てるだけだったかもな」
「いや? 助かったぜ? 次は包丁の握り方も教えてやろうかな!
 さておき、食ってくれ!」
 ゴリョウの言葉に頷いて、早速たべてみれば、
「おお、これはなかなか。私の肉がホイップクリームなら、この肉はカスタードクリームのよう」
 オラボナの三日月のような口がさらに吊り上がるような、美味が口中に広がった。
「お魚の味……なのですけど、くどくない脂が口の中で溶けて……お寿司にすると、シャリと一体になったような……!」
 ユーフォニーも思わず目を丸くする。スナズリ肉の味もさることながら、作ったゴリョウの腕も相当なものと言える。
「いいねぇ、こりゃ! 酒が進む……日本酒はあるか?」
 雄の言葉に、裂が頷いた。
「おう、辛口のを持って来たぜ! 飲ろうじゃないか!」
 酒瓶を取り出して、笑うのへ、雄もにやりと笑う。
「しかし、この味を我々だけ、というのももったいないな。持ち帰ってあげたい所だが――」
 ゼフィラが言う。ニルが笑った。
「そうですね。皆で食べれば、もっとおいしい、です!」
 その言葉通りだろう。その日、竜宮には珍しいご馳走があちこちに配られ、多くの人々が久しぶりの珍味に舌鼓を打ったという。
 そのひ、竜宮に生まれた、沢山の「おいしい」という気持は、間違いなく、イレギュラーズ達の活躍によって生まれたものであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 この日は、街を総出のお祭り騒ぎになったようです。

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