シナリオ詳細
再現性大阪2010:ミナミの覇王
オープニング
●ヤミ金に手を出した債権者達の運命
日も差さず薄暗い高層ビルの一室に、多数の男女が集められていた。年齢層は青年から老人まで様々だが、皆その表情は一様に暗い。
それもそうだろう。ヤミ金から借りた金を返せずに――いや、利息だけ支払うことさえも出来ずに――身柄をヤミ金に押さえられてしまったとあっては。
ガチャリ、と部屋のドアが開き、数人の男達が入ってきた。債務者達はその音にさえ怯え、ビクリと身体を震わせる。男達は、如何にもヤクザ者と言う風体であった。
「ほな、どないして金を返してもらうか、決めよか?」
一際体格の大きい、パンチパーマに厳ついスーツのボス格であろう男が、ジロリと債権者達を睨め付けた。債権者達はその圧に耐えきれずに、男から目を逸らした。
「ソープ」
「ヘルス」
「タコ部屋」
「マグロ漁船」
ボス格の男は、部下達から手渡された資料を流し読みしつつ債務者を品定めすると、次々とその処遇を決めていく。その処遇ごとに、債務者達は別の場所に連れて行かれた。
「くっ……こんな違法な金利、払えなくて当然じゃないか!」
ある債務者の男が、恐怖に震えながら抗議する。
「何をボケたことを抜かしとんじゃ、コラァ! 利息を承知で借りたのは、テメェだろうが!」
「ぐぼえっ!!」
ボス格の男は激怒し、債務者の鳩尾にヤクザキックを叩き付けた。債務者は壁まで弾き飛ばされ、高所から飛び降りたが如くグチャッと血の華を咲かせて即死する。
「チッ……おい、解体(バラ)して、使える臓器(モツ)だけでも回収しとけ」
やっちまった、とボス格の男は舌打ちした。そも、魔種の本気の蹴りにただの一般人が耐えられるはずはなく、ボス格の男もそれは自覚していたのだが、つい足が出てしまったのだ。
「いいかぁ、コラァ! テメェら、まとめて解体(バラ)して、臓器(モツ)だけ売り飛ばしてもええんやぞ!
そうならずに生きていられるだけでも感謝せえや、のう?」
ギロリと、ボス格の男の視線が債務者達を射竦める。
目の前で起きた惨劇に、それに続くボス格の男の脅しに、債務者達は今まで以上にガタガタと怯え震える。所々からアンモニアの匂いが漂うどころか、卒倒する者さえ出たりしていた。
●ギルド・ローレットにて
「今回の依頼ですが、再現性大阪で魔種の討伐です」
『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵(p3n000126)が、目の前のイレギュラーズ達にそう切り出した。
討伐目標は、強欲の魔種、億田 金太郎(おくだ きんたろう)。暴力団億田組の組長にして、ヤミ金億田金融の社長だ。
「再現性大阪で魔種?」
イレギュラーズの一人が、疑問を口にする。再現性大阪とは、異世界の大阪と言う都市を模して練達に設けられたエリアのことだ。
当然、そこの住民は大阪やあるいはその周辺から移転してきた旅人が中心である。旅人は呼び声を受けて狂気に陥ることはあっても、反転することはない。それなのに魔種が出るのは、確かに不思議であっただろう。
「それがですね。億田 金太郎は元は旅人じゃなくて、人間種なんです。
再現性大阪で二つの暴力団が抗争を始めたんですが、片方が練達の外から戦力を募りまして、その中に参加していたのが億田、と言うわけです」
雇われて暴力団の抗争に参加した金太郎は、その渦中で魔種になった。そして、魔種としての力で抗争していた二つの暴力団を瞬く間に乗っ取り、億田組を設立。
さらにその最中、金太郎はヤミ金にも手を出した。高利で金を貸し、利息さえも入れられないとなれば、あらゆる手段を以て貸した金を回収する。その中には、人身売買さえ含まれていた。
「ヤミ金の利益と下部組織から搾り取った上納金で、億田組は高層ビル丸々一つを組事務所としました。
さらに億田自身が魔種であるため、現地の警察も手が出せないでいます」
暴力と資金をバックに、公権力さえ手出しできない権勢を誇る金太郎を、人々は『ミナミの覇王』とさえ呼ぶようになっている。
「ただ、さすがに億田はやり過ぎました。いろんなルートから、億田を潰すよう依頼が来ています。まぁ、無理からぬ話ですね。
ですから、億田の所業に苦しむ人々を助けるためにも、再現性大阪にこれ以上変な影響を与えないようにするためにも、どうか億田を倒して下さいますようよろしくお願いします」
そう告げて、勘蔵はイレギュラーズ達に頭を下げた。
- 再現性大阪2010:ミナミの覇王完了
- GM名緑城雄山
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年09月25日 22時21分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●高層ビルを前にして
再現性大阪はミナミの高層ビル。その前に、八人のイレギュラーズが集まっていた。再現性大阪の裏社会で蠢動する魔種、億田 金太郎を討伐するためだ。金太郎は抗争中の暴力団を両方乗っ取って億田組を設立し、さらには闇金融も手がけて、彼を知る者からは『ミナミの覇王』と呼ばれていた。
この高層ビルは金太郎が組事務所として買い取ったものであり、金太郎は最上階の組長室にいる。
「借りる方も借りる方じゃが、貸す方も貸す方じゃな。
まぁ、真っ当なルートから借りられぬ者が行き着く先がヤミ金なんじゃろうがな……」
どちらもどちらという風に、はぁ、と『鉄帝うどん品評会2022『金賞』受賞』御子神・天狐(p3p009798)が嘆息する。
「じゃが違法な金利で私腹を肥やし、あまつさえ人の命を奪うようなヤツを野放しには出来ぬな!
ましてや魔種ともなれば、大義名分としては十分じゃろうて」
「ああ。街の治安のためにも、魔種は野放しにはできないからな」
金太郎を捨て置けないと言う天狐の言に、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)も深く頷く。そも、魔種であるという時点でイレギュラーズ達にとっては放置しがたいものであり、悪事を働いているとあってはなおさらだった。そして、イズマもその例に漏れない。
「これって負けて捕まったらあーしもいろんなところに『沈められ』ちゃうの?
やんやん、こわーい。アデプトオーサカこわーい」
「フッ……みなまで言うな、夕っち。沈むときはみんな一緒だぜ?」
わざとらしく怯える『クノイチジェイケイ』高槻 夕子(p3p007252)に、つい反応してしまったのは『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)。どうやら、芸人魂に火がついてしまったようだ。
ちなみに、金太郎が魔種であることを考えれば、捕まったイレギュラーズが『沈められ』るのは風俗ではなく、コンクリート詰めにされた上で大阪湾にではなかろうかと思われる。
「再現性東京に領地を構えていた頃に、噂だけは聞いたことがあったな。
出会い方次第では交友を築く可能性もあったろうが……」
『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)は、ビルの上層を見上げながらそう独り言ちる。だが、そうはならなかった。そして、金太郎討伐と言う仕事は仕事である。
「――中々に濃い街ですこと」
それが、大阪の知識と言葉は練達のビデオで学んだと言う『夢先案内人』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)が、実際に再現性大阪に来て抱いた感想だった。もっとも、街が濃かろうとも薄かろうとも、リドニアのやるべき事は変わらない。
「では、町の掃除と参りましょうか」
「わっはっはっはっは! 上等だコノヤロー! カチコミじゃーい!
こちとら花も恥じらう乙女じゃーい! 身ぐるみはいでやんぞこらー!
……もうどっちが悪役かわっかんねーな! ぶはははっ」
「うむ、カチコミの時間じゃの」
リドニアが言うと、秋奈と天狐が真っ先にビルの中へと突っ込んでいく。確かに、暴力団の組事務所に見えない高層ビルの中に「カチコミ」だとか「身ぐるみはいでやんぞ」とか言いながら突入すれば、イレギュラーズ達の方が悪役にしか見えないであろう。
ともあれ、秋奈達に続いて他のイレギュラーズ達もビルの中に突入していった。
●札束撒けどもイレギュラーズ動かず
ビル内には億田組の組員が詰めており、突然事務所に進入してきたイレギュラーズ達を通すまいと抵抗してきたが、イレギュラーズ達の相手にはならなかった。幾度となく危険な依頼を受け成功させてきたイレギュラーズと、平和な再現性大阪で精々組同士の抗争ぐらいしか経験してない組員では、潜ってきた修羅場の数があまりにも違いすぎたのだ。
イレギュラーズ達は、何の苦もなく組長室へと到着した。
「やたら騒がしい思うたら――そう言うことかいな」
金太郎は、組長室に雪崩れ込んできたイレギュラーズ達の姿を見るなり、その素性と目的を察した。
「言うても、この魔力には抗えへんやろ! オラ、拾いに来いや!」
ならばと、金太郎は自らの周囲に札束を盛大にばら撒く。この札束には金太郎の魔力が込められており、敵であろうがこの金を拾いたいとの欲望を抱かせる力がある。そうして敵がこの札束を拾いにのこのこと近寄ってくれば、腕っ節にモノを言わせて叩きのめすと言う寸法だ。これまでも様々な敵対者を叩き潰してきた、金太郎の必勝パターンである。
そして、その魔力はイレギュラーズ達をも襲わんとするが――。
「饂飩こそが世界の理であり真理である。宇宙を創りたもうた空飛ぶ饂飩神は、人々に叡智と饂飩を授けたとされる」
「……は?」
突然そんなことを口にした天狐に、金太郎は理解出来ないと言った反応を示す。無理もないが。
「金の大小なぞ些事よ、大事なのはそこに心や粋があるかどうか。
ただ闇雲に撒かれた札束なんぞよりも、たった一杯に捧げるワンコインの方が数万倍も価値があるというもの。
――よって、その札束に対しての回答はコレじゃ」
そう言うと、天狐は金太郎に向けて中指を立てた。空飛ぶ饂飩神への信仰篤い天狐にとって、饂飩を介しない札束など紙くず同然でしかない。
「そも、貴様の不当な金利がなかったら、どれだけの者がワシの店の饂飩をたらふく食えたと思うておる!?
遠回しにワシから客を奪った貴様は許さぬ!
「はぁ!? それとこれとは、関係ないやろが! 言いがかりも大概にせえや!」
「……何?関係ない? 言い掛かり? 知らん! 悪いのは貴様じゃ!」
そんな口論の間にも、天狐は自らに付与を施しながらオーラを漲らせる。そして、小型の神翼獣ハイペリオンの群れを召喚した。小型ハイペリオンは、次々と金太郎に猛烈な体当たりを仕掛けていく。
「ぐあっ!? だが――」
「まだじゃ。まだまだ、終わりではないぞ?」
延々と続いた体当たりが止み、金太郎もこれで終わりかと思ったところで、天狐が告げる。第二、第三の小型ハイペリオンの群が、金太郎に襲い掛かった。
セレマは、自らの中に湧き起こる札束を拾えという衝動に対抗するべく、平常心を働かせて感情を封じた。そして、客観的な視点から自身と状況を分析する。
(確かに、自身の全てをリソースとしてみるボクにとって、苦も無くリソースを得られる状況は魅力的だ。
だが、果たしてボクがそんな無様を晒していいのか? その醜態をボクは許せるか?)
その状態で自らに問うた結論は、「無理」であった。
セレマは「美少年」と自認するだけあって、自らの美には強い拘りを持っている。それなのに、敵がばら撒いた札束をホイホイと拾いに行く醜い姿を見せるなど、あってはならないことだった。もしそんな姿を見せてしまえば、セレマは自分で自分を許せなくなるだろう。
(ともかく、だ。まずはその生命力を削るとしよう)
セレマは、金太郎にほんのちょっとした魅了魔術をかけた。魅了魔術に付随する吸血鬼の呪いが、金太郎の身体を蝕んでいく。
「ぐっ!? テメェ、何しくさった!?」
呪いに急に身体を蝕まれた金太郎は、ギロリと憎々しげな視線をセレマに向けた。
「足りん。全部だ」
「――は?」
「わからないのか? もう一度言ってやる。この組の持っている金、全額寄越せ」
リドニアにとって、金太郎がばら撒いた程度の金は動くには値しないチャチなものでしかない。この程度の金でリドニアを動かそうなど、笑止でしかなかった。
「オラ、ヤクザなら倉庫にある金も金庫にある金も隠し口座にある金も全部持って来んかい!! シバキ回すぞワレェ!!
魔種だからって勝てると思ってんのかいコラァ!! まとめて解体(バラ)して、臓器(モツ)だけ売り飛ばすぞコラァ!!
第一、小切手の一つも用意できないってんなら……このビル燃やしてくれまさぁ!!」
ビデオで学んだ大阪弁を用いながら、リドニアは金太郎に啖呵を切る。そして、ヴォードリエ・ワインをドボドボとばら撒かれた札束の一部にかけて、蒼熾の魔導書で着火。ボオッと、蒼い炎が立ち上った。
「金を貸せって言ってんじゃねえんだわ。寄越せって言ってんだよ!」
「ぐおっ!」
さらにリドニアは、空になったヴォードリエ・ワインのビンで、億田の後頭部を殴りつけた。
「私には金より大切なことがある。それを、私は知っている」
金では動かぬとばかりに、マニエラは言った。その一つは、練達を脅かす魔種を滅することだ。いくら金を積まれようとも、そもそもイレギュラーズにとって魔種を見逃すことなどできるはずがない。それに何より。
「――金では、ミニチャイナで校舎を走り回ったりマイクロビキニで接客したりした記録は消せないことだよ」
自ら黒歴史を披瀝するマニエラ。
「だから、聞いた貴様は絶対に殺す」
「聞こうと聞くまいと、殺す気やったやろ……」
ビシッ! と金太郎を指差しながら、マニエラが告げる。一方金太郎は、勝手に聞かされて勝手に殺されても、と言う困惑混じりに、マニエラに返した。
「――で、秋奈は私の後ろで何をしてるんだ?」
「マニエラさんのお尻を見て、心を落ち着かせてる。誘惑に負けない平常心を保つために」
「……」
「……」
後ろの気配を感じたマニエラが、その主である秋奈に問うた。秋奈の答えに、マニエラも金太郎も微妙な表情で絶句する。だが、事実、秋奈はばら撒かれた札束の魔力への抵抗に成功していた。
「札束がなんぼのもんじゃーい! なっ! 張り切っていこうぜ、リドニアちゃん! 天狐ちゃん!
よっしゃオラー! かかってこいや! 音呂木の巫女なめんなおらー! 札束なんかに負けたりしない!」
「ぬうっ!」
マニエラのお尻を十分堪能したのか、秋奈はテンション高く金太郎に急接近。金太郎の右肩から左脇腹に向かって、緋い光が迸る。光が走った跡には剣閃による傷が刻まれており、そこからは血が流れ出していた。
なお、その最中にちらっちらっと秋奈の視線が札束の方に向いていたので、もしかしたら完全には抵抗できていないのかもしれない。
「お金、欲しいよ? でもあーしを買うにはぜーんぜん足んないわ。JKの価値が全然わかってないのね、オジサン」
呆れた様子で、夕子は言った。
「大体、無造作にばらまくとか何それ? きちんとそろえてから頭を下げて『どうぞお受け取りください』って感じじゃないと受け取る気もしないわ」
金の渡し方がなってないと言わんばかりに、夕子がまくし立てていく。さらに言えば、金太郎も金持ちと言うよりはただの成金でしかなく、そんな相手に金を渡されたところでJKとしてはキモいだけでしかなかった。
「スーツ新調してから出直してきなさい。ダサオジサン♡」
そう言いつつ、夕子も金太郎に肉薄。
「JKのアソビ、オジサンに教えてア・ゲ・ル」
「くっ!」
手にしたくない苦無「ねこねこくにゃい」で、左肩から右脇腹にかけて斬りつける。秋奈が付けた傷と合わせて、金太郎の胴体にはX字様の傷が刻まれた。
(報酬、領地、縁、他にも色々。力を尽くし実績を積み上げて得た財産が俺にはあり、それは俺の誇りでもある。
そして俺が求めるのは、音楽でも仕事でも活動そのものだ)
そんなイズマにとって、金など重要なものではない。必要なら、自ら動いて得るまでだ。そもそも、再現性大阪や再現性東京でしか使えない札束など、混沌全域で活動するイズマにとっては不十分な代物でしかない。
「――だから、単なる金でしかない誘惑には従わない!
俺の人生において、金銭で満たせる瞬間などありはしない!!」
イズマはそう咆えると、七度、石礫を金太郎に飛ばす。飛ばしたのはただの石ではなく、特製の毒の魔石だ。
「うぬっ! 小癪なっ!」
身体に七個の魔石を叩き込まれた金太郎は、その痛苦とそこから身体を蝕んでくる毒に、苦々しげに顔を歪めた。
「やれやれ。金貸しを名乗る割には、金の本質が何たるかをご存知無いようだ」
「なっ、何やてぇ!?」
『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は、如何にも呆れたと言わんばかりに、両手を左右に広げると掌を天に向け、肩をすくめてみせた。思わず、金太郎は問い返す。
「現金というものには、物理的限界があります。この部屋に撒ける金額は、数千万から数億がせいぜいでしょう。
日常的に指先一つ、声一つでビリオンダラーを動かすファンドマネージャにとって、その程度は『はした金』です。
それで私を誘引しようなどと、笑わせないでいただきたい」
そこまで言うと、寛治は白紙の小切手をひらめかせるようにしながら金太郎に見せつけて、その足元に落とした。
「ご覧の通り白紙の小切手です。好きな金額を書けますよ。十億でも、百億でも」
「うぐっ……」
ゴクリ、と金太郎は生唾を飲み込み、足元の小切手を凝視する。
「金とは、目的ではなく手段です。適切に投資し、世界を変えるイノベーションを生み出し、それにより得た利益で更に世の中を変えていく。
金は巡ってこそ、価値を発揮します。そう、この部屋の札束は文字通り『ケツ拭く紙にもなりゃしない』のですよ」
その間にも、寛治の講釈は続いていた。もっとも、金太郎が寛治の言う金の本質を理解していないのは無理もない。金太郎は本来は、金目当てに暴力団に雇われた言わば傭兵に過ぎないのだから。
「――もしくは、貴方の副葬品ですね」
「ぐあああっ!」
そこまで言うと、寛治もまた金太郎へと接近し、零距離射撃を敢行。タン、タン、タン、タン、タン、タンと六発の銃弾が、立て続けに金太郎の身体に叩き込まれた。
●『ミナミの覇王』斃れる
足下に白紙の小切手を落とされた金太郎は、堪えようとはしたが堪えきれずに、それを拾ってしまった。魔に堕ちる程の強欲であったが故に、己の欲望に耐えることが出来なかったのである。結果、その後に金太郎がいくら札束をばら撒こうとも、イレギュラーズ達がそれに誘引されるようなことはなかった。
イレギュラーズの各々に耐える理由があったのはもちろんであるが、寛治が言うように無限たる白紙の小切手に比べればやはり取るに足りず、またそれを金太郎が拾ってしまったことも大きかった。
寛治がそこまで狙っていたかどうかは定かではないが、金太郎は己が得意とする手段をそのままやり返され、しかもそれに乗せられてしまった。それに気が付いた金太郎は寛治に集中して攻撃し、重傷を負わせるところまでは追い込んだが、そこまでだった。もっとも、これはマニエラが寛治の傷をひたすら癒やし続けていたことも大きい。そうでなければ、セレマが盾になりでもしない限り、寛治が可能性の力を費やすのは避けられなかっただろう。
金太郎は魔種相応に強力ではあったが、札束をばら撒いてイレギュラーズ達の行動を阻害できなかった以上、イレギュラーズ達に勝てるはずもなかった。数で不利であるのはもちろんだが、それに加えてセレマやイズマによって継続的に生命力を蝕まれていた上、寛治によって再生レベルの自然治癒力を封じられていたのだから。
かくして、『ミナミの覇王』との異名を取った魔種、億田 金太郎は斃れた。そのため億田組は崩壊し、闇金融が貸し付けた金も有耶無耶になり、再現性大阪は平穏を取り戻したのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
シナリオへのご参加、ありがとうございました。
皆さんの活躍によって魔種億田 金太郎は討伐され、再現性大阪には平穏が戻りました。
MVPは、白紙小切手で金太郎の札束撒きの効力を減衰させた新田さんにお贈りします。
それでは、お疲れ様でした!
GMコメント
こんにちは、緑城雄山です。
今回は再現性大阪で『ミナミの覇王』と呼ばれるまでに権勢を誇りつつある魔種、億田 金太郎を討伐して下さいますよう、お願い致します。
●成功条件
億田 金太郎の討伐
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
億田組ビルの最上階、組長室。時間は夕方。
組長室は高層ビルの1階を丸々使っているので、引き撃ちでもしたりしない限りは、戦闘に十分なスペースがあります。
また、組長室にあるオブジェクトは、戦闘の障害にならないものとします。
●億田 金太郎 ✕1
再現性大阪のミナミを中心に、闇社会で『ミナミの覇王』と呼ばれるほどの権勢を誇り始めた魔種です。属性は強欲。暴力団の組長とヤミ金の社長の二つの顔を持っています。本来の名前は別にありますが、このシナリオではこの名前で通します。
暴力団の抗争に雇われるぐらいなので、元々個人的な戦闘力は非常に高く、能力に隙はありません。それが、魔種化によって強化されています。
それ以上に問題となるのは、後述する札束撒きでしょう。
・攻撃能力など
格闘 物至範 【弱点】
遠当て 神遠単 【防無】
再生(大)
BS耐性(大)
【封殺】耐性(大)
・札束撒き
毎ターンの開始時に、自身の周囲に魔力を込めた札束を撒きます。そして、金の魔力によって敵の行動を、「金太郎に接近して撒かれた札束を拾う」と言うものに変えます。
この影響は戦場全体に及びます。また、如何なる反応値を以てしても、この行動に割り込むことは出来ません。なお、金太郎はこの札束撒きとは別に、本来の自身の反応によって通常の戦闘行動を行います。
これは精神に直接するので回避は不可能であり、特殊抵抗だけでは耐えることも出来ません。
では如何すれば抵抗できるかですが、金銭的な誘惑を退けようとする何らかの意志があれば、その意志の強さに応じて行動を変更される確率を減らすことができます(ただし、どんなに意志が強くても、行動を変更されるのは完全には阻止出来ません)。
言うなれば、プレイングの中でどれだけ金銭的な誘惑を退けようとする意志が強いかを示せるかが、肝と言えるでしょう。
----用語説明----
●再現性大阪(アデプト・オーサカ)とは
練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
その内部は複数のエリアに分けられ、例えば古き良き昭和をモチーフとする『1970街』、高度成長とバブルの象徴たる『1980街』、次なる時代への道を模索し続ける『2000街』などが存在している。イレギュラーズは練達首脳からの要請で再現性東京内で起きるトラブル解決を請け負う事になった。
――その区画の一つに何故か存在する、大阪をモチーフとした地区のことを言う。
それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。
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