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シナリオ詳細

メイド喫茶『みるきぃ・みるふぃ』の危機を救え

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●メイド喫茶みるきぃ・みるふぃ、未曾有の危機

「マズい、困ったな……」
 メイド喫茶『みるきぃ・みるふぃ』の店長は肩を落として溜息を零した。
 先日、夜な夜な騒ぎ立てる謎の現象はローレットの計らいにより解決へと至った。どうにも除霊に明るい者ら(イレギュラーズ)が見事収めてくれたらしい。そしてそのまま除霊してくれた者らをメイド喫茶へとかり出し、更に収入を増やした。そこまでは良かった。
「今度は普通に人手不足なんだよな……」
 店長は周囲を見回し溜息を零す。
 いつもならば仕事を終えたメイド達によって喧しい控え室ではあるのだが、今日ばかりはもの寂しい雰囲気が広がっている。スケジュールを書いたホワイトボードには欠勤の文字ばかりが並んでいた。
 なにせ季節がら風邪なども流行りやすい。キャスト達は喉を痛めたり、高熱でうなされ出勤すら侭ならない状況であった。数えてみれば明日の出勤は0、休日だというのにキャストが0。
 このままでは中年の自分(男)がメイド服を着て接客せねばならない。そうすれば面白がる客はいいとして、純粋に楽しみに来店してくれた人からは罵詈雑言が投げかけられてしまうだろう。
「う~ん、でも新しい子を捕まえるのも辛――いやまてよ、前回除霊してくれた人達……普通にメイドとして動けていたな?」
 飛び入りにも関わらず会得があったのか、はたまた除霊騒ぎで慣れてくれたのか。彼らの動きは歴戦のそれだった。
 もしかして、もしかするといけるんじゃないだろうか。
「ついでに限定コンカフェとして特別感を演じられれば売り上げも上がるな……? これは商機!!」
 否、正気を失った店長は慌てて店を飛び出し、カフェ・ローレットへと向かった。

● カフェ・ローレット
「もう一回メイド服着ない?」
「藪から棒になんだ? 心の傷癒えてねえんだが?」
 綾敷・なじみはニコニコ顔でアデルトルート・バルデグント(p3n000280)に声を掛けた。
「ほら、前にあなたが依頼を受けたメイド喫茶の店長さん、キャスト不足で大変らしいのよ。だからお手伝いの仕事なんていかが?」
「夜妖が出たとかじゃねえのかよ!?」
「そんな同じ所でポンポン出るわけなくない?」
「メイドの依頼が立て続けに来るわけなくねえ?」
「まぁまぁ良いじゃないの。お金もちゃんと払ってくれるし、既に一回やったことじゃない」
「心の傷が癒えてないって言葉ガン無視する感じ?」
 メイド服を着て萌え萌えキュンを行うのには相当な精神力が必要であった。あの時のイレギュラーズには心より楽しんでいた者もいたが……少なくともアデルトルートにとっては違う。自分が自分でなくなっていく恐怖は耐え難いトラウマを生み出したのである。

「でも、そんな事言って良いの? ……次の限定ガチャ、輩出率激シブって噂じゃないの」
 なじみはアデルトルートに囁く。アデルトルートが遊んでいるソシャゲには定期的に限定ガチャがやってくる。そのたびに彼女は報酬の殆どをつぎ込み、再び仕事を探しにローレットへやってくるという流れを繰り返していた。
 そんなガチャ中毒のシスターにはそれはもう魅力的な誘い言葉だったのだろう。アデルトルートは思いっきり眉を寄せ、掌で顔を覆いながら呻き声を上げる。
「……待って、今考えてる」
「逃したらきっと半年後か一年後……ううん、もしかしたらもっと先かもよ。もしかしてそのまま実装しないなんてことも――」
「――やる、やるよ。やりゃあいいんだろ!!」
「うんうん、是非ともそうしてね。あ、先に何人かに声掛けておいたから来てくれると良いね。あと今回は限定イベントとしてメイド服以外も着られるらしいよ。良かったわね、選び放題よ」
「コイツ……本当にコイツ……自分が関係ないからってホントコイツ……!!」

GMコメント

●依頼達成条件
 休日のメイド喫茶(特別バージョン)の激務を乗り切り、且つお店の評判を下げない

●フィールド『メイド喫茶みるきぃ・みるふぃ』
 よくある繁華街のビル、そのワンフロアで経営されているメイド喫茶です。
 内装は店長こだわりのアンティーク家具で纏められ、格式の高さがうかがえるでしょう。
 メニューは様々なフレーバーティーがメインですが、軽食の種類も豊富なので食事目当てに来る人もいるほど。老若男女訪れるので、評判はかなり良いです。

 少し前(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8293)、ここでは夜妖が夜な夜な暴れ回る事件がありました。今は沈静化されており、それらしい姿も見えず平穏そのものです。
 しかしキャストであるメイド達が次々病に倒れ、店長以外出勤できない日が出てしまうそうです。
 なんとかその日を乗り越え、みるきぃ・みるふぃの評判が落ちないようメイド喫茶を助けましょう。萌え萌えキュン♡
 因みに休日なので死ぬほど混雑しています。
 補佐として店長が千手観音が如く調理場で獅子奮迅の働きをしてくれますが、店長以外にも料理スキルのある方がいれば、店長のやる気と速度が上がります。

●メイド喫茶
 古今東西のメイド服が用意されています。
 クラシック、フレンチ、ミニスカなーんでもあります。
 格式高い店内なんだったの? ってくらい丈が際どいのもあります、やったね。
 一緒に用意されたスケベな下着をつけるかどうかはあなた次第です。

 あと今回は特別デーとしてバニーやナースなどの服もあります。
 コンカフェみたいなものですね。勿論メイド服も売りとしているので、お好きなものをチョイスして頂ければと思います。

●お客様
 老若男女問わずやってきます。お昼時は行列で警備員が滞在するくらい人気店です。
 落ち着いた店内に惹かれた者や、メイドに会いにきたもの、メイド喫茶だという事を知らない人や、コスプレ目当てに来る人。近所の茶ァしばく場所という認識など様々です。
 中には迷惑客もいますので、あしらう自信がある方は穏やかにお見送りしましょう。難しければ脳筋のシスターか店長に頼めばあしらってくれます。

●アデルトルート・バルデグント(p3n000280)
 暇なときはカフェ・ローレットで煙草をふかし、酒を嗜んでいる生臭シスターです。
 限定ガチャと経済を回すため、今回の依頼を受けました。
 しかし一人では難しいだろうと考え、あなたたちイレギュラーズにも「良かったらメイドしねえか? 違う違う違う変な勧誘じゃねえよ!!」と話を持ち掛けます。
 一般人にはシスターらしく振る舞いますが、イレギュラーズに対しては生臭(素)全開で接してきます。しかしそれは素を見せる相手を選んでいるだけです。頼み事や連携などはホイホイ引き受けてくれるでしょう。いじっていいです、その為のキャラです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●GMコメント
 参加して頂けると森乃ゴリラの命が助かります。よろしくお願いいたします!!

  • メイド喫茶『みるきぃ・みるふぃ』の危機を救え完了
  • GM名森乃ゴリラ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年09月13日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 瑠璃(p3p000416)
遺言代行業
八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
エドワード・S・アリゼ(p3p009403)
太陽の少年
メイ・ノファーマ(p3p009486)
大艦巨砲なピーターパン
ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)
焔王祈
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く
トール=アシェンプテル(p3p010816)
プリンス・プリンセス

リプレイ

●メイド喫茶みるきぃ・みるふぃ
「予め店長に相談をしてメイド服を用意しておいたよ」
 八田 悠(p3p000687)はベーシックなメイド服に身を包み、両手いっぱいに抱えた紙袋をイレギュラーズの面々へと配っていった。この衣装達はメイド喫茶の店長より賜ったものであり、予めそれぞれの好みやキャラクター性を考慮したものである。
「あら、ありがとうございます。ですがこちら、下着も入っておりますのね……確かに一式揃えるのが良いのとは思いますが……」
 果たして見えない部分に拘った所で何か変わるのだろうか。志屍 瑠璃(p3p000416)は小首を傾げ、紙袋の中身を凝視している。中には丈の短いメイド服が詰め込まれていた。それに紛れるのはドロワーズとパニエ、そしてどうして入っているのか分からない紐のようなパンツである。
「パンツが見える事なんてあるのかな……? でもドロワーズが見えるのはちょっとドキドキするかもね」
 メイ・ノファーマ(p3p009486)は瑠璃の紙袋を覗き込んだ。
「あ、同じっぽい。どうせなら小物を揃えてみない?」
「そうですね……お揃いというのも楽しいかもしれませんし、見栄え的にもよろしいかと」
「うんうん、瑠璃ちゃんとお揃いコーデしようかな」
 メイは瑠璃と一緒にアクセサリーを手に取り、相談をし始めた。どれが可愛い、どれが綺麗。そんな言葉を並べ、楽しそうに小物を選んでいる。

「えっ、待って。これ下着まで……? いえ、バニーよりは幾分マシ……かしら?」
 その横で困惑していたのはセレナ・夜月(p3p010688)だ。やや遠い目をしながら紙袋の中身を凝視する。露出の少ないデザインではあるが、一番上に載っている下着が気がかりで仕方ない。
 そも、こうして衣装指定の依頼が続くとは思ってもみなかったので心はやや死んでいる。まさか「ムエンのメイド服が生で見たかった」というフラグを見事に回収するコトになるだなんて。セレナは横に立つムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)へじっとりとした視線を投げた。
「……こっちを見るな」
「死なば諸共よね?」
「縁起でも無い言葉を述べ――またこれ!? またこれなのか!? 皆のは露出控えめなのに、どうして私のだけ背中全開の衣装が!?」
 先程まではベーシックからクラシカルまで、丈の短さこそあるものの格式高い店内に相応しいメイド服が入っていた。にも拘わらずムエンの紙袋には前回正気を失った曰く付きのメイド服が詰められている。
「なぁ、交換しないか?」
「しないわよ」
「背中以外は割と普通だぞ」
「尻尾と翼が出せるわね、ムエン専用じゃない」
 そう言われてしまえば何も返せない。ムエンはきゅっと眉を寄せて死んだ目を浮かべた。

「……普通以外のメイド服もあるんですね。私のはクラシカルタイプですが」
 セレナとムエンのやり取りを眺めていたトール=アシェンプテル(p3p010816)は紙袋を漁り、少しばかりほっとした表情を浮かべた。
「そうだな、私の衣装も普通のではない。というか、メイド服でもないな」
 三鬼 昴(p3p010722)に渡された衣装は一風変わったものであった。丈の長いシャツには様々な刺繍糸が縫い付けられ、複雑な模様を成している。とりわけ大きいのは背中の『夜露死苦』の文字と竜虎の絵図だろう。
「特攻服ですか?」
「らしい、中々センスがあるよな。それにこれならば胸のボタンが弾け飛ぶ事もないだろう」
 昴は前回、メイド服を着て胸ボタンをいくつか破壊していた。前回よりも締め付けは緩やかなものなので、動き回っても然程制限されることもないはずだ。
「目立ちそうでいいですね」
「ああ、これなら今回も『もえもえきゅん』を見せられる。こうやって筋肉をアピールして行うんだ」
 昴はフンッ、と声を漏らしサイドチェストを決める。腕の筋肉がぎゅっと凝縮され、所々には血管が浮かんでいた。
「かっこいいですね、こうですか? ……ふんっ!!」
「良い感じだな。掛け声と共に行うんだ、そうすれば相手を魅了できるぞ!!」
「分かりました、頑張りますね!!」
 トールは満面の笑みで応える。それに釣られ昴の表情も和らいだが、伝えられた内容は著しく間違っていた。

「さて、全員に衣装は回ったわね。僕は基本的にサポートと客層の動向を注目するよ、みんなが動きやすいようにね。食事や睡眠を抜いても大丈夫だから、休憩が欲しくなったら僕に言って」
 悠は手元の書類に目を向け、皆へ声を掛けた。
 休日のメイド喫茶はかなり混み合うと聞いている。これを乗り切るために、この人数では心許ないかもしれない。だが、依頼を受けたからには完遂を目指すというのがイレギュラーズというものだ。
 悠はリーダーらしく皆に声を掛け、それぞれを着替えさせるため控え室へと押し込んだ。

●萌え萌えキュン
「さーて、本職のウェイトレスにも負けないくらい頑張るよ。いつも通りに……そしてちょっと萌え成分を足せば良いんだよね」
 メイはスカートの裾を翻し、萌え萌えキュンの練習をし始めた。間違えないように数度繰り返し、手でハート型を作ってにっこりと微笑んでみる。あとは場数、慣れていない素振りでも、見ている方からすれば初々しく感じ取って貰えるかもしれない。
「でもどうせなら完璧なのを見て欲しいよね。うん、ちょっと集中して頑張ろう。急いでダッシュ!!」
 集中力はそう長くは続かない。出来るだけ一人でも多くの人に萌え萌えキュンを見せるべくメイはホールへと駆け込んだ。
 店内には沢山の人々が集い、皆楽しそうにお喋りをしたり店内を眺めたりしている。まだ開店したばかりだというのに、窓の外を見ればにわかにだが列が形成されつつあった。噂に違わぬ人気ぶりである。
「さあご主人様、ご注文はお済みかな」
 指先でハートを作ってみれば、客もまた同じようにハートを作ってくれた。こうして返して貰えるのは存外嬉しいものである。メイは自然と表情を綻ばせ、メニューを勧めたり、注文を取ったりしていく。紅茶を頼まれればそれに従い、手ずから入れてあげた。高い位置から注げば小さな拍手が生まれ、トーストにジャムでハートを描けばにこやかな笑顔が齎される。
「萌え萌えキュン♡ どうぞゆっくりしていってね」
 去り際にウインクを残せば、周囲に花が咲く。明るい表情は徐々に伝播していき、ホールの雰囲気が徐々に和らいでいった。
「うんうん、笑顔は大事だよ。セレナちゃんもスマイルできてるかな~?」
 メイがセレナの方へ向かえば、彼女は丁度トレードマークの帽子を取り出した所だった。
「笑顔はあなたに任せるわ」
「じゃあ何をするの?」
「パフォーマンスね。見ていて」
 セレナは魔女の帽子を被り、仮初めの幻を紡いでいく。キラキラと輝くそれは彼女を取り巻き、流星のように周囲へと広がっていった。同時に感嘆の息や、子供達の無邪気な声が響き渡る。美しい光は内装に違わず、落ち着いた光を残し続けていった。
「……それから?」
「これがわたしのサービスなのよ」
「萌え萌えキュンは?」
「も、萌え萌えキュン? えっ、もしかしてやらないと駄目なの?」
 言えばメイはわざとらしく溜め息を零した。
「萌え萌えキュンが見られないなんて……お客さんは悲しむと思うなぁ」
 その言葉を受け、セレナはぐぬぬと表情を切り替える。メイの言う通り、全てではないがメイドを楽しみにやってくる客は多い。そう言われてしまえばやらない理由はない。むしろやってこそメイドとして一人前なのかもしれない。
「……見てなさい、これが――萌え萌えキュンよ!!」
 セレナは手でハートマークを作り上げた。同時に煌めきを操り流星を一つに纏め、大きなハートの形を描いていく。
「おぉ、ヤケクソ萌え萌えキュンだ……!!」
「こうなったらなんでもやってやるわ!! あなたもやるんだからね!?」
「いいよ、じゃあ一緒に萌え萌えキュン♡」
 笑顔で萌え萌えキュンをするメイ、そしてヤケクソ萌え萌えキュンを見せるセレナ。
 後にセレナは語る。ヤケクソは時と場所を選ぶべきなのだ、と。

●厨房
「――注文を繰り返します、オムライス、コーンスープそれからサンドイッチ二人前。少しずらしてストレートティーとアールグレイティーをどちらもポットでお願いします。別卓の注文にビーフシチューが入りますので先にやられた方がよろしいかと」
 瑠璃はオーダーを取り、厨房へと声を掛ける。
 客は引っ切りなしに訪れ、矢継ぎ早に注文が寄越された。
 ただのメイド喫茶ではないという話は本当だったらしい。飲み物のみのオーダーはかなり少なかった。
「分かった。君は料理ができるんだっけ」
「できます。サポートに入りましょうか?」
「頼む。何品か作ったらそのまま表に出てくれ」
 瑠璃は返事の代わりにエプロンをつけ、厨房へと足を踏み入れた。
 伝票はいくつも並んでおり、どれもこれも手の掛かるものが多い。冷めて提供すればそれだけで評判は落ちてしまうだろう。
「作り置きがないのもきっと、お店の自慢なのでしょうね」
 瑠璃は店長と、そのサポートをしていたエドワード・S・アリゼ(p3p009403)の邪魔にならぬよう、盛り付けや飲み物の用意を務めていく。どれもこれも時間が勝負、特に冷めやすい飲み物に関してはより気をつけなければならないだろう。
「一卓分ありますね、このままホールに行きます!!」
 提供品をまとめてトレーに乗せ、瑠璃はホールへと駆け表情を切り替える。優雅に、そして出来る限り早く提供できるように。足取りを気にしながらも配膳を率先して行っていれば、少しばかり気がかりな客を見つけた。
「……なんだか不審な方々ですね」
 話に花を咲かせる訳でもなく、かといって楽しんでいる様子もない。ただただ食事を待つのは少しだけ不気味だった。勿論、そういう客もいるだろう。だが、こういった違和感は後々不和を齎す事もある。
「ムエンさんに相談しましょうか」

●お帰り下さいご主人様
「ありがとうございまぁす!! ご主人様に感謝を込めて、萌え萌えキュン……♡ では、ゆっくりとお楽しみ下さいね」
 ムエンは客の注文した除霊キャラメルパフェにソースを掛け、愛くるしい笑みでハートを作り上げた。その表情は明るく、開店前に「もう夜妖はいないのにどうして」と死んでいた顔からは想像がつかぬものであった。しかし目は変わらず死んだまま、そろそろ闇落ちでもしそうなほどである。彼女はそそくさと厨房へと戻り、天を見上げた。
「むり、鱗が逆立ちしそうだ……」
「あ、ムエンさん。ちょっと気になるお客様がいたのですが」
 そうして瑠璃が語り出すのは不審な客についてである。ムエンは疲れながらもそれを聞き、徐々に表情を正していった。
「怪しい、か。そっちは見ておくから、配膳を頼んでもいいか?」
 そうしてムエンは瑠璃に配膳を任せ、怪しい客の方へと向かう。すると、待っていたと言わんばかりに件の客が声を上げた。
「おいおい、オムライスに髪の毛が入っていたぞ。どうなってんだ!?」
「髪の毛……?」
 ムエンは首を傾げた。調理担当の店長はスキンヘッドのはず、毛なぞ落ちるはずもない。
「……失礼、髪の毛を見せて頂いても?」
 男は自信たっぷりに髪の毛をつまみ上げたが、見慣れぬ色合いをしている。今日出ているキャストにも同じ色はいないので、大方食事代を負けて貰おうという魂胆だろう。
「確認して参りますね」
 厨房へ戻ったムエンは店長に一連の流れを話した。すると店長も「またか」と呆れ顔だ。どうやら迷惑客として認知されているらしい。
「他のお客さんの居心地を護りたいので、追い出しても構いませんか?」
「構わないが、いけるのか?」
 店長が言えばムエンは目を眇め、笑った。
「問題ありませんよ、でも暴れたら困りますしアデルトルートさんを――」
「――それなら私も協力しようか」
 現れたのは配膳を終え、戻ってきた昴であった。
「穏便に行きたいのなら筋肉をチラつかせればいけるだろう? そのまま『お話し合い』をすればいい、二度とこないようにしてやれば店にとっても良いはずだ」
 昴がニッと笑えば、ムエンもまた同じく笑う。どちらもあくどい顔をしていたせいで、店長は少しばかり客に同情を寄せた。しかし悪いのはどう考えてもあちらだ、ここは丁重に『お帰り頂く』のが良いだろう。
「それじゃあ二人に任せるよ。くれぐれも注意してね、なんかあったらちゃんと呼ぶんだよ」
 店長が声を掛ければ、二人はそれはもう良い笑顔でそれに頷いた。

 その暫し後、裏口の方から男の悲鳴が聞こえてきたのだが――店長はそっと聞こえないフリをして、胸元で軽く十字を切った。

●筋肉
「さて、無法者の片付けは終わったし……仕事に戻るか」
 昴は少しばかり痛めた手をさすり、配膳へと戻っていく。前回に比べて今回の衣装はとても動きやすく、有り難い事に物珍しさから声を掛けてくれる客も多かった。
「悠、この衣装ありがとうな」
「うん、動きやすそうで何よりだよ。そうだ、もし良かったら午後はみんなで別の服に着替えてみない? そしたらもっと特別感が出るよね」
 実は他の衣装も用意してあるんだ。と、悠はこっそりと耳打ちしてくれた。
 どうやら店長と話が盛り上がったお陰で、色々な案が出てきたらしい。
「それも面白そうだな……ところで、悠はもう着替えたのか?」
 先程までクラシカルなメイド服を着ていたはずなのに、今は丈の短いタイプに変わっている。それどころか体つきすらも変わり、今は天真爛漫な少女に相応しき姿となっていた。見事な七変化である。
「うん、僕の特技みたいなものだね。こうやって姿を変えて、お客さんの好みを探っていたんだ。飽きないってのも良いスパイスだし、色々な姿にしておけば体調不良でキャストが居ないってのも隠せるからね」
 次はどんな見た目にしようかな、悠はそんな事を呟きホールへと出て行った。おそらく、次にすれ違う時にはまた違う見た目をしているのだろう。
「そういう楽しませ方もあるんだな……よし、私も負けないよう頑張るか」

「もえもえ……キュンッ!!」
 昴は前回完全に会得した萌え萌えキュン――もとい、モストマスキュラーを以て客の要望に応えていく。どうにも彼女は萌え萌えキュンを誤解しているようなのだが、その勘違いっぷりが客にウケているようだ。
 夜妖が見惚れてくれたのならばそれが正解。そう信じて止まない彼女はドンドンと筋肉美をアピールしていく。時に客と共にボディビルのポーズを取り、せがまれれば腕にぶら下がって貰う。サイドチェストを並んで撮った時など壮観であった。
「人気ですね、昴さん」
 一仕事終えた昴を出迎えたのはトールである。とてとてと寄ってくる姿は男性とは思えぬ愛らしさを含んでいたが、彼は昴によって徐々に方向性を変え始めたところである。
「さっき昴さんみたいに筋肉を見せたら、喜んでくれました」
「そうだろう? やはり筋肉は裏切らないものだ」
「ちょっと今からやってくるので、見ていて下さいね!!」
 そうしてトールは料理を手にホールへと戻っていった。
「ご主人様、お待たせしました。美味しくなる魔法をお掛けしますね」
 トールはパスタを「まぜまぜ♪」と言いながら器用に混ぜていく。そして混ぜ終えたパスタを客へと出し、最後の仕上げへと取り掛かる。
「おいしくな~れっ♡ ナイスバルキュン♪」
 実に可愛らしいウインクと、なんだか場違いにも思える力こぶを見せつけるポーズが繰り出された。本当ならばナイスバルクと叫びたい所であったが、元祖たる昴に比べれば己の身体は華奢そのもの。しかし心意気だけは継いだのだと自信たっぷりであった。
 そんな様子を見て「なんか違う」と言える者はいるだろうか。否いまい。一生懸命働いているメイドはそれだけで尊きものであるのだから。
「あの、おかしかったですか……?」
 トールが問えば、客はブンブンと首を振っている。やはり筋肉は至高、裏切らない。確かな力になってくれる。力こそパワーなのだ。
 トールはウキウキとした表情で客の隣へと座り、フォークでパスタをくるくると巻き上げ客の口元へと持っていく。
「ありがとうございます、ご主人様。はい、あ~ん♡ ですよ」
 客はやや恥じらいながらそれを受け止め、先程の筋肉ポーズについて話し始めた。
 そんな客とトールのやり取りを眺め、昴は頷く。
「やはり筋肉は至高……この調子で筋肉の伝道師として動くのも悪くないな」
 実に支障らしい貫禄を醸し出し、一生懸命働くトールの姿を見守った。

●目標達成
 あれほど賑やかであったホールはがらんとし、テーブルの上には未だ下げられていない食器が並んでいる。厨房を潜ればそちらにも食器が堆く積まれ、激戦の余波が至る所に広がっていた。
「いやあ、今日はありがとう。お陰でなんとか目標を達成できたよ」
 キャストの休みという苦難を無事に乗り越える事ができた。それもこれも、尽力してくれたイレギュラーズ皆のお陰だと、店長は顔を綻ばせる。
「細やかだけど賄いをご馳走しよう。なに、気にしなくてもいい。君らはとてもよく頑張ってくれたのだから。だから……ねえ来週も来てくれない!? 今度はなんかショーとかもやってさ――え、もういいって? あ、いや待って、帰らないで。もうちょっと話を聞いてくれないか!? なぁ!?」
 食い下がる店長を捨て置き、イレギュラーズは店の外へ出て行った。
 外には月が昇り、周囲のビルは鮮やかなネオンに包まれている。
 そんな中、鳴り響いたのは誰かのお腹の音だった。

 これからどうしますか。
 腹も減ったよな。
 それなら食べにいくか。
 どうせならお疲れ様会なんてどう。

 そんな話をしながらイレギュラーズ達はお疲れ様会を開くため、夜の街へと繰り出す事にした。

成否

成功

MVP

志屍 瑠璃(p3p000416)
遺言代行業

状態異常

なし

あとがき

 今回は『メイド喫茶みるきぃ・みるふぃの危機を救え』にご参加頂きましてありがとうございます。
 ちょっと特殊……いやどうですかね。特殊ですか? 普通ですか?
 ややトンチキなシナリオとなりましたが、皆様のプレイングを受けてとても楽しく執筆させて頂きました。
 改めてお礼申し上げます。

 それではまたどこかでお会いできるのを楽しみにしています。
 森乃ゴリラでした。

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