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シナリオ詳細

<竜想エリタージュ>本日スペシャル竜宮嬢・イレギュラーズさん入りまーす!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『海底に輝く満月(ディープシー・フルムーン)』店に輝く月
「はーい、今日のスペシャル竜宮嬢の、エルスちゃんでーす」
 ぱっ、とかわいらしい声が上がる。声の主は、紫をイメージした竜宮嬢(バニー・ガール)、キュール・クーディメルだ。かちゃん、とグラスを鳴らして見せるその相手は、少し恥ずかし気な様子を見せる、新人バニーガールのエルスちゃん、ことエルス・ティーネ (p3p007325)である。
 ここは『海底に輝く満月(ディープシー・フルムーン)』店。竜宮は竜王通りに存在する、『紳士淑女の社交場』である。誤解を恐れずにいってしまえば、キャバクラ、という現代日本のそれに近いお店である。竜宮嬢とお話して、お酒を飲んだりご飯を食べたりするお店であるわけだ。といっても、竜宮はとてもピュアなお店なので、明朗会計優良店なのでトラブルとかは存在しない。良いですね。
 そんなお店で、エルスはバニーとなって(これは竜宮嬢でも名誉ある服装である)、お店に現れていた。
「ひゅーひゅー! エルスさん、こっち向いて!
 あ、シャンパン開けて、シャンパン!」
 ぴゅー、と指笛を鳴らすのは、フィオナ・イル・パレストである。『シレンツィオに滞在するラサの公職として竜宮に視察に来た(たのしそうなのであそびにきた)』フィオナだが、顔なじみのエルスを見つけてこうしてからかっ……お仕事を応援しに来ているわけだ。
「うう、どうしてこんなことに……」
 顔を赤らめるエルスに、キュールはくすくすと笑った。
「ほらほら、恥ずかしがらないでさ。もしかしたら、エルスちゃんの好きな人も、こう言うの好きかもしんないよー?」
「あの人は……!」
 エルスが、わーっ、と声をあげてから、すぐに口を告ぐんだ。分からない。
「意外と好きかもしれないけれど、わ、私がこんなかっこしても、からかうだけで終わりそうで……」
「エルスさんはもっと度胸をつけた方がいいっす」
 うんうん、とフィオナが頷くのへ、キュールは「ふーん」と笑った。
「お客さん分かってるねー。エルスちゃんに必要なのって、押しだと思う。多分噂の男、俺様気質そうだし」
「そうっすよねー。いっそ押し倒しちゃえば」
「フィオナさん!!」
 エルスが顔を真っ赤にして、わーっ、と吠えた。フィオナがケタケタと笑う。もう、どうしてこんなことになったのか。エルスは困った顔をしながら、お店に掲げられた特別看板を見やった。そこには、『スペシャルディ・イレギュラーズが竜宮嬢になります!』などと書かれていたのである。

「エルスちゃん、ひま?」
 そう言ったのは、エルスの友人とも、恋の先輩ともいうべき相手である、竜宮嬢のキュールだ。竜宮城の攻防が終わり、復興と新たな客を受け入れた竜宮にて、仕事探してお視察に訪れていたエルスを、見せに招いて相談がある、と言ったのが、キュールである。
「ひま、というか。お仕事は探していたけれど……」
 むー、と声をあげるエルスに、キュールは頷いた。
「ナイス~! じゃ、お仕事お願いしたいの!」
 そう言って、腕を絡めてくるキュール。ここの住人は本当に距離感がおかしい。エルスは苦笑しつつ、
「いいけど、どんなお仕事? 近くの深怪魔退治とか、あ、厄介なお客さんのトラブル?」
「んー? そういうのじゃなくて。お仕事。竜宮嬢としての」
 そういうキュールに、エルスは小首をかしげて見せた。
「裏方、ということ?」
「だから、竜宮嬢としての」
 そういって、ホールへと視線を移す。開店前の店には、準備の作業を行うぺんてん(竜宮のマスコットみたいなペンギンたちだ)や、竜宮嬢の姿があって――エルスは、「えっ」と声をあげた。
「まさか、竜宮嬢の仕事?」
「んー。そう言ったじゃん」
 にへら、とキュールが笑う。
「今ちょっとね、ほら、この間の戦いで、キャストも怪我した子が多くてさー。ちょっと大変なんよね。それに、外のお客さんも増えたから、対応しずらくて。一日だけでいいから、友達連れて手伝ってほしいんよねー。お願い! エルスちゃんとアタシの仲でしょ?」
「う、うえええ?」
 思わず声をあげるエルス。キュールとは、何度か話した仲で、確かに力になれるなら、力になってあげたい、と思う。
「け、けど! 接客なんて……!」
「そう? 簡単だと思うけどなぁ」
「それは竜宮の人だから……」
 むむ、というエルスに、キュールは、ぽんぽん、とエルスの肩を叩いた。
「大丈夫だって! ほら、噂のあの男(ひと)と話すより緊張はしないしょー?」
「それは……そうかもだけど……」
「大丈夫大丈夫、それにほら、お友達も呼んでくれていいから~。ね? お願いー、アタシ困ってるんだ~」
 そういうキュールは、確かに困っているのだろう。周りのスタッフも、普段よりも忙しそうだ。
 となれば、エルスとしても、手伝ってやりたい気持ちはあった。
「わ、わかった。わかったわ! それじゃあ、他の人にも声かけてみる……」
 そういうエルスに、キュールは思わずと言った様子で抱き着いた。
「やった~! エルスちゃん、マジありがと~!」
 わたわたするエルスを、キュールはぎゅー、と抱きしめるのであった――。

「そんなエルスさんが見れるとなれば、フィオナちゃんも客としてこないわけにもいかないわけっす」
 ずず、とストローでエナドリをすするフィオナへ視線を送るエルス。ちなみにフィオナは本当にただ面白そうだから遊びに来ただけである。
 エルスを通じてローレットに依頼として持ち込まれた本件。そんなわけだから、辺りには他のイレギュラーズ達の姿もあった。スタッフとしてはもちろん、客としてのやってきた者も多い。
「うーん、エルスちゃんと、イレギュラーズの皆のおかげで、いつも以上に大盛況だ~。
 じゃ、頑張ろうね。終わったらいつも通り、VIP席でお話しよーね♪」
 そう言って、肩を叩くキュールに、エルスは頷いた。
「とにかく、仕事だものね……えーと、こういう時は、たしか……」
 こほん、と咳払い。それから精いっぱい声をあげて、
「え、エルス、はいりま~す!」
 そういうのであった――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。イレギュラーズ達へのリクエスト。
 キュールさんからの依頼で、皆さんは竜宮嬢、或いは客として、『海底に輝く満月(ディープシー・フルムーン)』店での一日を過ごすことになります。

●成功条件
 『海底に輝く満月(ディープシー・フルムーン)』店で精一杯働く。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●状況
 竜宮嬢のキュールより、竜宮嬢として仕事を手伝ってほしい、と伝えられた皆さん。竜宮は昨今の事情から、スタッフが少し足りなく、同時に客が押し寄せて大変忙しい状況なのです。
 皆さんは、そんな『海底に輝く満月(ディープシー・フルムーン)』店の竜宮嬢として、バニースーツを着て接客や、料理、バーテンなどのお仕事を手伝ってあげてください。
 お客さんには様々な相手がいます。たくさんのバニーに囲まれたい人、一対一で静かにお話したい紳士的な人、井、バニーさんのお話を聞きたい人、逆に一方的に聞いてほしい人……皆さんの接客で、満足させてあげましょう。裏方として、調理担当やバーテンなども募集していますが、基本的にはホールに出てあげてくださいね。恥ずかしがらず!
 ちなみに、男性参加者の方も女装してバニーになってもらいます。絶対ですからね! お願いします!

●サポート参加について
 基本的には、竜宮嬢として、メイン参加者のサポートや、お客さんとしてバニーさんに接客してもらうことなどが可能です。
 参加者さんと合意がとれていれば、メイン参加者さんはサポート参加者さんをお客さんとしてもてなしてあげるといったプレイングも可能です。
 その際は、メイン・サポートともに、プレイングに相手のIDか、共通タグをつけて、合意がとれていることを示してください。記載漏れがあった場合は、描写漏れが発生する可能性があります。

●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができ、水中では呼吸が可能になります。水中行動スキルを持っている場合更に有利になります。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

●シレンツィオ・リゾート
 かつて絶望の青と呼ばれた海域において、決戦の場となった島です。
 現在は豊穣・海洋の貿易拠点として急速に発展し、半ばリゾート地の姿を見せています。
 多くの海洋・豊穣の富裕層や商人がバカンスに利用しています。また、二国の貿易に強くかかわる鉄帝国人や、幻想の裕福な貴族なども、様々な思惑でこの地に姿を現すことがあります。
 住民同士のささやかなトラブルこそあれど、大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として、今は多くの金を生み出す重要都市となっています。
 https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio

●登場NPC
 キュール・クーディメル
  エルス・ティーネさんの関係者さん。竜宮嬢で、その独特な雰囲気から人気を博しています。ちなみに彼ピ持ち。口説かないように。
  エルスさんの恋の先生的なポジションのようです。
  指示していただければ、お仕事を手伝ったりしてくれるでしょう。
  特に何もなければ、一生懸命働いています。

 フィオナ・イル・パレスト
  シレンツィオから遊びに来た、ラサのピーカン娘。
  基本的にお客さんなので、たまに接客してあげると喜ぶかもしれません。
  特に触れなければ、適当に飲んで遊んで楽しんでます。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <竜想エリタージュ>本日スペシャル竜宮嬢・イレギュラーズさん入りまーす!完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年09月12日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC2人)参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
※参加確定済み※
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
フローラ・フローライト(p3p009875)
輝いてくださいませ、私のお嬢様
ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)
焔王祈

リプレイ

●竜宮・スペシャルデイ!
 スペシャル竜宮嬢、今日だけ登場!
 『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)
 『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
 『金色凛然』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
 『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)
 『青鋭の刃』エルス・ティーネ(p3p007325)
 『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
 『華奢なる原石』フローラ・フローライト(p3p009875)
 『焔王祈』ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)
 素敵なキャストが、皆さんをお迎えします――。

 そんな掲示が、店の前に貼られている。ノリアがそれに目を移した。ローレットの仲間達の名前の踊る、スペシャルデイの掲示。むむっ、と気合を入れるように頷くのリアの姿は、バニー耳にメイド服のいでたちだ。
「スペシャルデイ がんばりますの!」
 ぐっ、と手を握るノリア。ほうきを手に店内に戻ってみれば、既にキャストやスタッフたちがあわただしく歩いているのが見える。
「おもてのお掃除 終わりましたの」
 ノリアが言うのへ、キュールがひらひらと手を振った。
「わ、ありがとー。助かっちゃうわー」
 にこりと笑うキュールの隣には、既にジュースなどを飲んでいるフィオナの姿がある。
「い、良いわね? 今日のことは、くれぐれもあの方には秘密に……」
 そう言っているエルスの話を聞いてか。「おっけー、おっけー!」とにこにこ笑いながらおつまみをパクパクしているフィオナ。エルスはこほん、と咳払い。
「さ、今日は頑張りましょう、皆!」
「いや、マジでこの格好で接客するのか!?」
 と、クレマァダが顔を赤らめた。というのも、クレマァダはバニースーツであったからである。というか、接客を担当するイレギュラーズ達は、当然バニースーツを着ているわけだ!
「……いやわかっておるのじゃよ……竜宮の者にとってはきちんとした正装……じゃから恥ずかしがっては失礼……。
 でも!!
 なんじゃよこのあみあみのタイツ。股の所は鋭角じゃし素材はてっかてかしとるし、胸も背中もぼーんと出……」
 クレマァダはむむ、とうなり。
「ええい、見るでない見るでない!」
 ぱたぱたと腕を振るクレマァダ。恥ずかしがっているのは、アクセルも同様。
「女装して接客、何てのも初めてだけど……」
 アクセルが言う。
「でも、お仕事だからね。オイラも頑張るよ!」
 頬を赤らめつつ、そういうアクセルはなんとも初々しい――初々しいと言えば、ムエンもそうだろうか。と言っても、ムエンは豪奢なドレス風のいでたちをしていた。
「ふむ……なんとも……心もとないものだが……」
 ムエンが嘆息する。とはいえ、とても似合っているのは、スタイルの良いムエンだからこそだろう。
「これで、接客か。
 接客自体は、練達でメイド喫茶の依頼を受けたこともある。経験はあるさ」
「あ、メイド喫茶の経験あるんだ。じゃ、大丈夫よ」
 キュールが言う。
「基本は、にこにこ、相手の気持ちに寄り添って、楽しませてあげる。これはメイド喫茶も同じのはずだし」
「そうだったな。あれか、おいしくなぁれ、みたいな奴もやるのか?」
 エクスマリアが、うん、と唸った。
「それは、食材適性を付与するスキルなのか?」
「うーん、気持ちの問題、でしょうか」
 あはは、とフローラが笑う。
「でも、うちのメイドは、やったことが……いえ、ありますね。たまに……私の反応を窺うように……」
 顔を赤らめて頬に手をやるフローラに、エクスマリアは小首をかしげた。
「それは、仲良しだと思う」
「なかよし……でしょうか?」
「仲良くなると、相手の色々な反応を見たくなるものだと思う。きっと、メイドさんも、そう」
 エクスマリアがそういうのへ、フローラは笑った。
「そう……だと、良いですね」
 この仕事を持ってきたのはメイドのあの人であったが、同時に「どうして私自身は参加できないのでしょうか……」と、すこし悔しそうにしていたのを思い出す。私の姿を見たかったのかな、と思えば、なんだか心があったかくなる気持ちがした。そう言えば、と思い出す。彼女から手紙を受け取っていたのだ……開いてみた。
『私メイド自身がサポートとして来店したい所ではありましたが残念ながらその資格がなく。お嬢様の艶姿もとい晴れ姿で頑張っているところを此度は直接目に焼き付ける予定でしたのに無念。大変無念で御座います。他の皆様のお姿も見て竜宮嬢で心ぴょんぴょんしたかったのに。そういう訳ですので私としては来店は控えますが映像はもれなく鑑賞させて頂きますのでアングルの方は是非良い感じによろしくお願いいたします。かしこ』
 怪文書だった。
 フローラはにっこりと笑って、胸元に手紙を締まった。
「メイドさんからか」
 エクスマリアがそう尋ねるのへ、フローラはにっこりと笑った。
「怪文書でした」
「?」
 エクスマリアが小首をかしげる。それはさておき。
「なんだか、こう言う格好にも慣れたものね……」
 アルテミアが言う。違和感というか、気恥ずかしさというか。そういうものを「感じない」あたり、本当に、まったく、慣れてしまったのだなぁ、となんだか遠い目をしたくもなる。
「はぁ……でも、目をそらしても意味がないものね。しっかり働いていきましょ。
 ……バニーを着ているだけだものね。今回はその、変なハプニングには巻き込まれないと思うし!」
「変なハプニング……? 今回は、って、よく巻き込まれてるの?」
 エルスが尋ねるのへ、アルテミアはにっこり笑った。
「聞かないで」
「あ、はい……」
 鬼気迫るオーラを感じて、エルスが頷いた。こほん、と咳払い。
「とにかく、お仕事を始めましょ!」
 その言葉に、アルテミアが頷く。
「ええ。それじゃあ、竜宮スペシャルデイ! スタートよ!」
 その言葉に、皆は頷いた。かくして、竜宮は『海底に輝く満月(ディープシー・フルムーン)』店の特別な夜が始まろうとしていた。

●海底に、美しき満月は輝く
 月が輝くのは日が落ちてから。真っ暗な深海に、ひときわ美しく輝く夜の月。人はそれを竜宮嬢という。
「クレマァダさん、6番テーブルご指名でーす!」
 スタッフから声がかかるのへ、クレマァダはどきり、とした表情を見せた。
「わ、わわわ、我か!」
 ぎくしゃくしつつも、しかし威厳を保つように。同じ海に生きる一族同士、モスカの姫としては、竜宮で痴態を晒すわけにはいかない……のだが、それはそれとして、緊張する。
「く、ククククレマァダ! コン=モスカの姫! ご指名感謝するぞ!」
 とん、と席に座るクレマァダ。にっこりと(精一杯)笑いつつ、シャンパンをとる。おっ、このシャンパン実家でよく見たことあるぞ(めっちゃ高い奴)、とちょっと思いつつ。
「よろしくね、クレマァダちゃん」
 そういうお客さんに、クレマァダはふふん、と笑――おうとして、にこやかに笑った。
「うむ、よろしく頼む――今日は、何か言いたい事でもあるのか? よいぞ、我に言うが良い。聞き役に回ろう」
 これでも精いっぱい接客している。まぁ、そういう所が可愛いので、お客さんもにっこにこである。
「んー、じゃあ、仕事の話とか聞いてもらおうかなー」
「ほう! 我もなにかアドバイスできるかもしれん……話すが良い!」
 ふふん、と得意げに言う。可愛い。すごい可愛い。お客さんも僕もにこにこである。

 さて、緊張が見て取れるクレマァダに比べれば、アルテミアなどは随分となれたものである。バニーはともかく、どうして接客になれているんですか……?
「ふふ、どうしたの? 疲れてるみたい」
 そう言ってほほ笑んで見せるの相手は、些か暗い表情を見せる客である。男は、とつとつと語り始める。シレンツィオから来たばかりの男は、貨物船の船員をやっているそうだ。航海中に何度かミスをして、上司を怒らせてしまったのだという。
「向いてないんでしょうかね、俺……」
 そういう男の唇を、アルテミアは塞いだ。あ、人差し指で。人差し指で、優しくね?
「そんな暗い事言わないの! せっかく今日来てくれたんだから、楽しまなくっちゃ! ね?」
 にっこりと笑うアルテミア。スタッフに声をかけると、
「ねぇ、ヘルプに何人か、あとお酒も持ってきて!」
 そういう。
「え、でも……」
 びっくりする男に、アルテミアは微笑んだ。
「大丈夫。ここはそんな、酷いお店じゃないから。ね、すこーしだけ奮発して、嫌なこと、忘れちゃお?」
 そう言って、優しく頭をなでる。
「私じゃ、根本的な解決はできないけど。一夜の夢を見せて、休ませてあげることはできるわ。だから、今日だけは、素敵な夢を見て?」
 アルテミアはそう言って、優しく笑った。男はもう、それだけで涙ぐみ、そして緩んだ笑みを浮かべていた。そこから彼が見た夢は、まさに極上のものであっただろう――アルテミアさん、なんでこんな接客慣れしてるの?

 別のテーブルを見て見れば、エクスマリアの隣で、おじさんが滂沱の涙を流しながら机に突っ伏している。顔は真っ赤なので、お酒のせいか。泣き上戸なのだろう。
「そうか、大変だったな」
 とん、と背中を叩くと、おじさんがうわあああん、と泣いた。
「おねえちゃあああああああん!!」
 そう言った。この時、エクスマリアはお姉ちゃんだった。
「わかる。泣いてもいい。甘えてもいい」
 とんとん、と背中を叩きつつ、自分の酒のグラスを空けた。お姉ちゃんはこう見えても成人しているのでお酒は得意です。
「ありがとう、ありがとう……ママ……」
 この瞬間は、エクスマリアはママだった。
「分かっている。マリアに甘えていいい。今日は、泣いて全部吐き出して、すっきりしよう」
「そうだね……ママ……お姉ちゃん……」
 おじさんは泣いた。おじさんは疲れていたのだ。そんなおじさんに最高の癒しを断与えて得くれるのは、少女ママお姉ちゃんであるエクスマリアしかいないのである。
「ばぶー……」
 おじさんが、エクスマリアの癒しの波動を受け手赤子返りした。
「そうだな、ゆっくり眠ると良い」
 エクスマリアが優しく微笑む。癒し……これが癒し……僕もエクスマリアさんに癒されてぇな……。

「ノリアちゃん、裏方ありがと。そろそろホールに出て欲しいなぁ」
 そういうキャストの女性に、ノリアは小首をかしげた。
「わたし ですの……?」
「そう! メイド服の子、って指名来てるわよ?」
 笑うキャストの女性に、ノリアは苦笑した。
「えっと……頑張ってきます……!」
 とはいえ、これも愛するあの人のためだ。何かしてほしいか、と尋ねても、豪快に笑って「気にするな」と言ってくれる、あの人。それは心からの本音なのだろうけれど、しかし何か、愛する人にしてあげたい、というのも乙女心というもの。
「ここの キャストとして 働けば……なにか みえてくるはずですの……!」
 そう、言われなくても、相手の気持ちを察する力。竜宮嬢は高い共感能力を持つとされるが、その高みに近づけたならば――!
「きっと もっと 好きになってもらえますの……!」
 ノリアは勉強熱心だ。裏方の仕事をしながら、キャストたちの仕事を観察していた。
(観察していて わかったことは…… 機転のきいた話術や 面白体験談で たのしませるか たくさん おだてたり あまえたりして 自尊心を くすぐればいい ということですの)
 胸中で思う。自分は、話術は不得意だ。だが、自分には、このしっぽがある……!
「よく 食べられそうになる 体験談を わらいとばして
 そんな経験のない お客さんを うらやましがって もちあげますの!」
 ぐっ、とこぶしを握り、決意を示すノリア。果たしてその心と共に、ノリアは指名テーブルへと向かう。
 ここでの経験を、愛する人のために。これはある意味で、戦いであった。ノリアの戦いは、此処に始まろうとしていた――!

 と、ノリアが自分を磨くための戦いをしている中、近くのテーブルでは、『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)とアクセルが飲み物を飲んでいる。ウェールは客として、アクセルの下に訪れたわけだ。
「……ウェール! ありがとね! 助けると思って!」
 そういうアクセルは、前述したとおりのバニースーツだ。赤を基調にしたスーツに、のどぼとけを隠す蝶ネクタイ。腕の大きさをごまかせす大きめのカフスに、ウェストを細く視える工夫やら……徹底的な女装だが、なるほど、苦労のかいもあって中性的で可愛らしい。
「ははは、可愛いんじゃないか?」
 ウェールが笑うのへ、アクセルは頬を膨らませた。
「大変なんだよ! バレやしないかってドキドキでさ!」
「だが、似合っているのでは?
 ああ、そうだ、せっかくの機会だから、バニースーツの戦闘服を着てみないか?
 カジノやこういう場での潜入系や潜入からの荒事の時に一着あると便利だぞ」
「バニースーツの戦闘服って何さ」
 アクセルが胡乱気な顔をするのへ、ウェールは笑う。
「その名前の通りだ。最近は男性で着たことある人も少なくない、俺も着た」
「えーっ!?」
 アクセルが目を丸くした。何か誘うように、ウェールが笑う。
「このままこちら側へ来い……来年の水着でもいいぞ。
 ここにビデオカメラもあるから……思い出として、なっ」
「お、思い出はやだけど……でも、戦闘服としてのバニーかぁ。
 いい……のかなぁ……?」
 そう、割と本気で悩んでいるアクセル。このまま堕ちていくのだろうか……!

 さて、フローラも彼女なりに、精一杯接客の仕事をしている。もちろん、まだ話すことは得意ではなくて、少しばかり、聞き役に徹しているところはあるけれど。
 ……あと、やっぱり何度着ても、このバニースーツという奴にはなれなくて……いくら信用しているメイドさんの擁したものとは言え、それでも恥ずかしいものは恥ずかしくて。
(……うう、この、胸元とか、切れ込みとか……見られてないよね? うう、見せるための衣装ではあるのだけれど、見られたいというわけでは……)
「大丈夫? フローラちゃん?」
 そういうのは、女性のお客さんだ。竜宮のお店に女性が来ることももちろんあるのである。
「そのかっこ、恥ずかしい? 私も初めて竜宮に来たときは、びっくりしちゃった」
 そう言って笑うお客さん。シレンツィオから来た上品な女性だった。気を使わせてしまったかな、と申し訳なく思う。
「あはは、少しだけ……まだ、慣れませんね」
「えっと、嫌なら……上着でも羽織る? 大丈夫よ、私の接客をしている時だけでも」
 そう優しくいってくれるお客さんに、フローラは頭を振った。
「いえ……これ、私の……お姉さんみたいな人が、この仕事をするならって用意してくれたんです。
 ……一緒には、これなかったのですけれど。
 それでも……一緒にいてくれるような、気がして……」
「……そう」
 そう言って、お客さんは優しく笑った。お嬢様。地の文をジャックさせていただきます。ああ、そんなお気持ちを……ありがとうございます、この私、胸がいっぱいです。いっぱいついでに、もうちょっとこう、胸元を無警戒に……そうです、カメラ撮ってますか? よし、いい、すごくいい……。

「こんにちは〜本日限定特異運命座標キャストのエルスよ。
 特異運命座標キャストは私の他にも何人かいるから是非ご指名してね」
 そう言って笑うエルスは、何とも余裕の表情だ。
「君みたいな子が、こういうお店で働いていてもいいのかい?」
 そう尋ねるゲストに、エルスはむぅ、と口を尖らせた。
「もう……この扱いは何度目かしら……。
 私は大人なのよ、ちょっと背が低いからって嫌になっちゃうっ」
 いたずらっぽく笑うエルスは、何とも魅力的な表情だ。ゲストもこれにはめろめろである。
(……結構印象いいみたい。誘惑するまでもない……?)
 内心にこにこしつつ、エルスはゲストを席に案内した。
「さ、まずは乾杯よね? 素敵な出会いに」
 顔を近づけて、グラスも近づける。かちん、となれば、ゲストも思わず、顔を赤らめた。
「……あ、ごめんなさい。近かった……?
 まだ、慣れてないの……おかしかったら、教えてくれるかしら……?」
 そう、少しだけ上目遣いで言うエルスに、ゲストは轟沈されていた――エルスさん、意外と妖艶なタイプであるのか……!?
 この後も、素晴らしい接客で、お客さんを次々轟沈していくエルスであった――!

「あ、いらっしゃいませ、お席に案内しますので、こちらへどう、ぞ……!?」
 ムエンが目を丸くする。目の前にいたのは、友人である『ドラネコ配達便の恩返し』ユーフォニー(p3p010323)だったからだ。
「えへへ、来てしまいました!」
 そう言って笑うユーフォニー。ムエンは目を白黒させていたので、ユーフォニーは小首をかしげた。
「ええと、大丈夫、ですか?」
「あ、ああ、勿論。此方の席へどうぞ」
 まさか友人が来るとは……となると、ムエンも心中穏やかではない。ユーフォニーは知ってか知らずか、
「ドレス風バニー……すっごく似合ってると思いますっ!
 スタイルの良さがとても活かされていて、色合いも素敵で綺麗です……!」
 と素直に感激の言葉をあげている。
「その……録画とかは、してないだろうな?」
 ムエンが言うのへ、ユーフォニーが頷く。
「はい! 録画『は』してません!」
 写真はたくさん撮るつもりでいるが。あと友人にも見せるつもりであるが。これはもちろん、善意100%である。
「応援に来てくれたのは……素直にうれしいと思うよ。ありがとう」
「はい! あ、売り上げにも貢献しますよ! オーダーは、ムエンさんおすすめ特別スペシャルで♪」
 少しいたずらっぽく笑うユーフォニーに、ムエンは驚いた様子を見せた。
「す、スペシャル……!? う、うむ、待っていろ、用意してくる!」
 慌てて駆けていくムエン。驚きが心を満たしていたが、同時に遊びに来てくれた友人の心に、飛び切りの感謝を抱いてもいた。

 かくして。イレギュラーズ達の接客は、夜が更けるまで続いた。
 その日、お店は最後まで大盛況であり、特別な日に最後まで働き抜いたイレギュラーズ達には、しっかりと竜宮嬢としての資格と、呼び名が、与えられたのだという――。

成否

成功

MVP

アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。皆さんの接客が、色々なお客さんに、ひと時の夢を見せてくれたことでしょう――。

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