PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<竜想エリタージュ>苺大福の君と黄色い毛玉

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「おいしそう」
「美味しそう」
「おなかすいたよぉ」

「――いやいやいやオイラ食えないから!!」
 人型らしきものをとる、虹色のモヤモヤ――フリーパレットに1匹の白文鳥が追いかけられている。その身はふくふく、もこもことしており、幽霊的存在から見ても美味しそうに見えるのだろう。
 誰か、誰か。このままだと目も当てられないスプラッタな光景が出来上がってしまう!!
 必死に走る白文鳥ことシューヴェルトは、曲がり角で何かにぶつかってぽてんと転がった。それは向こうも同じようで、黄色い毛玉が起きあがろうと足をバタつかせている。
「す、すみません」
「いや、こちらこそ……怪我はないか?」
 シューヴェルトが手を、否、翼を貸して黄色い毛玉が起き上がる。ひよこはふるふると体を震わせて身に付いた土を落とすと、シューヴェルトの後ろを見てギョッと目を剥いた。
「フリーパレット……!? どうしてこんなところに」
「あれを知っているのか? 突然美味しそうとかなんとか言いながら追いかけてきて、」
 一体なんなんだと詰め寄る勢いのシューヴェルトだったが、光に透けた複雑な色模様を地面に認めると、言葉を切って恐る恐る振り返った。
「美味しそう――」
「「――――っ!!!!?!?!?!?!?」」
 ぬっと伸びてくる手に声なき悲鳴上げ、2匹は再び走り出す。しかし逃げられたら追いかけたくなるものだ!
「た、食べないでぇぇーー!!!!」
「オイラは美味しくないっ! おいオマエ、こっちだ!」
 シューヴェルトがひよこを誘い、細道へ逃げ込む。ここならあの変なヤツ(フリーパレット)だって簡単には追ってこれまいと、勝ち誇った表情でシューヴェルトは振り返る。
「いや来るのかよ!? あ、あれはお化けなのか!?」
「そんな感じです! 走って走ってー!! 誰か助けてーー!!!!」
 路地をほうほうのていで抜けた2匹。ひよこはその先に見知ったイレギュラーズを見つけると目を輝かせた。
「メイメイさん! 助けてください!!」
「えっ……!?」
 突然声をかけられてびくっとしたメイメイ・ルー(p3p004460)は、見慣れたひよこと見覚えのある白文鳥にこれまた目を丸くする。それから、彼らを追ってくるフリーパレットにひくりと顔を引き攣らせて。
「め、めぇ……どうして、こんなことに……!?」
 メイメイは2匹を抱え上げると、ひとまず他のイレギュラーズを見かけた方向へと駆け出したのだった。



「めぇ……」
「すみません、ありがとうございました……良かったら、これ飲んでください」
 かくして、2匹の命は救われた。イレギュラーズたちの元まで走ったメイメイと、フリーパレットを宥め説き伏せ止めたイレギュラーズたちによって。
 走ってぐったりとしたメイメイへ、人型を取ったブラウ(p3n000090)が買ってきたドリンクを差し出している。目の前で心配そうにしているのは白文鳥の飛行種、シューヴェルトだ。
「ごはん」
「た、食べちゃダメです! 他のものなら用意できますが……」
 シューヴェルトを見てなお呟くフリーパレットを慌てて静止するブラウ。どうしても鶏肉が良いのかと聞けば、そうでもないらしい。
 そもそも、フリーパレットは思念の集合体だ。この海で沈んだ個人や団体の思いなどが寄り集まりできている。特にこのフリーパレットに関しては何を食べたい、などという明確なものがあるわけではないようだった。
「おなかすいた」
「あれが食べたい」
「あれは美味しかった」
「なんだっけ」
「美味しかったんだ」
「最後にあれが食くいたいなぁ」
 さまざまな人格が入れ替わり立ち替わりで要望を告げていくものだから若干わかりづらかったが、概ねフリーパレットとなった思念たちが望むのは美味しいもので、記憶のない彼らでさえ食べたいと思うような、印象深い――思い出に残っているような食べ物のようだった。
 ただの食べ物でも、おそらく全くの無駄ではないだろう。しかしフリーパレットは満足させ、成仏させなければならない。より確実を狙うなら美味しくて思い出のこもった料理を提供した方が良さそうである。
「近くのレストランで、調理場を借りられないか聞いてみますね」
 自分やシューヴェルトが食べられないためにも、ここはフリーパレットに満足してもらわなければ。ブラウはイレギュラーズたちによろしくお願いします、と声をかけて場所を確保すべく動き始めたのだった。

GMコメント

●成功条件
 フリーパレットを満足させ、ドラグチップを回収すること

●場所
 シレンツィオリゾート、二番街。
 近くにあったこじんまりとしたレストランを一時貸切として、イレギュラーズが使えるようにしてあります。
 キッチンはそれなりに整っていて、大抵なものは揃っていると思って良いでしょう。
 必要であれば、レストランのシェフに代わりに作ってもらうことも可能です。

●フリーパレットの願い
 『美味しい思い出の料理』を食べたいようです。
 彼らに記憶はなく、特定の料理で喜ぶといったことはありません。また、出されるだけではその思い出を感じることはできません。
 料理を出したら、そこにどんな思い出が込められているのか話してあげてください。母親の得意料理、初めて自炊した料理、かつて自身の支えとなった料理、などなど。より語ってあげた分だけ、フリーパレットは共感めいたものを感じるでしょう。
 料理する過程をプレイングへ書く必要はありません。フリーパレットとともに料理を食べながら、思い出に浸ることも可能です。

●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

●シレンツィオ・リゾート
 かつて絶望の青と呼ばれた海域において、決戦の場となった島です。
 現在は豊穣・海洋の貿易拠点として急速に発展し、半ばリゾート地の姿を見せています。
 多くの海洋・豊穣の富裕層や商人がバカンスに利用しています。また、二国の貿易に強くかかわる鉄帝国人や、幻想の裕福な貴族なども、様々な思惑でこの地に姿を現すことがあります。
 住民同士のささやかなトラブルこそあれど、大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として、今は多くの金を生み出す重要都市となっています。
 https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio

●フリーパレット
 カラフルな見た目をした、海に漂う思念の集合体です。
 シレンツィオを中心にいくつも出現しており、総称してフリーパレットと呼ばれています。
 調査したところ霊魂の一種であるらしく、竜宮幣に対して磁石の砂鉄の如く思念がくっついて実体化しているようです。
 幽霊だとされいますが故人が持っているような記憶や人格は有していません。
 口調や一人称も個体によってバラバラで、それぞれの個体は『願い事』をもっています。
 この願い事を叶えてやることで思念が成仏し、竜宮幣をドロップします。

●シューヴェルト
 メイメイさんの関係者。白文鳥の飛行種で、愛称はシュー君。もこもこのもふもふ、美味しそうな匂いがします。
 今は見聞を広げるための旅の途中です。皆様が出す料理にまつわる思い出をフリーパレットと一緒に聞いてくれます。
 恥ずかしいから聞かないで! という場合は言えば席を外してくれます。立派な『ファーストバード』を目指しているので、人が嫌がることはしないのです。

●ご挨拶
 愁と申します。
 フリーパレットに思い出の料理を、思い出も含めて美味しくいただいてもらいましょう。プレイングみっちりの思い出をお待ちしています。
 それでは、よろしくお願いいたします。

  • <竜想エリタージュ>苺大福の君と黄色い毛玉完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年09月10日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)
甘夢インテンディトーレ
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
ニャンタル・ポルタ(p3p010190)
ナチュラルボーン食いしん坊!
レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)
青薔薇救護隊
アルモニア・リチア(p3p010801)
深き森の冒険者
宵闇 雪花(p3p010820)
カワウソ

リプレイ


「皆さーん! こっちです!」
 レストランの入り口でブラウ(p3n000090)がぶんぶんと手を振っている。どうやらあそこの調理場を借りられるようだ。
「昼間はカフェで、夜は酒場になるんですって。丁度空いている時間で良かったです」
 夜の仕込みはあるものの、イレギュラーズたちへ厨房を貸すくらいの時間はある。オーナーとシェフたちはからりと笑った。
「外にテラス席を作っても良いかの? 町の者も呼んで食事会がしたいのじゃ」
「道にはみ出さないでくれりゃ問題ないさ」
「確か裏の倉庫に予備のテーブルがあったな」
 『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)は良いことを聞いたと目を輝かせる。それなら早速取り掛からねば。せねばならないことは沢山あるのだ。
 善は急げと各々配置につく。『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)は非常に真剣な面持ちで口を飛ひらいた。
「此れは非常に重大且つ、危急な状況と見ました。我々が死力を尽くさねばです」
 ここで努力が足りなければ犠牲になるのはブラウとシューヴェルトである。だってほら、今もカウンターの向こう側でフリーパレットが彼らを凝視しているではないか!
 本日振るうのは武器ではなく、しかし戦いに臨む我らが剣であることに変わりない。
「一心不乱の料理を、一気呵成の料理を。世界を燃やし尽くすぐが如く勢いで、作り上げ――」
「お嬢ちゃん! 焦げてる!!」
 滔々と語るアッシュへシェフの悲鳴。はたと見れば、オーブンで焼いていたチキンの色がこんがりきつね色を通り越して黒い。真っ黒である。これもう炭じゃないか?
 慌てて火を止め、一旦片づけをして仕切り直し。シェフへ謝ったアッシュは深呼吸をひとつ。
 つい本格的な調理機材を見てテンションが上がってしまったが、料理に失敗しては元も子もない。ここからは努めて冷静に、調理ミッションを果たそうではないか。努めて冷静に。大事なことなので2回言う。
(このフリーパレットは絶望の青の時代に死んだ者たちなんじゃろうか)
 ブラウ達を凝視するフリーパレットをちらりと見たニャンタル。カムイグラへ西の大陸から彼らが訪れるまで、間に横たわる海は越えられないものとして、『絶望の青』と呼ばれていた。それも越えた今となっては『静寂の青』とその名を変えている。
 記憶のないフリーパレットに問うても得られるものはなく、推測の域を出ない。けれどそうであったなら尚の事、幸せな記憶を贈りたいと思うのだ。
「おいしいごはんは、だいじですね」
 思い出だって勿論そうだけれど。『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)はこれまで得た美味しいご飯の思い出を掘り返す。だっておいしいに憧れたから。そこに付随する様々なものも一緒に味わいたかったから。
 積み重なった思い出は、ニルに「どれにする?」と言わんばかりに次々と浮かんできた。仲間と育てた米に豊穣風タコス、亜竜スケルトンウナギの骨せんべいに、虹色に光るカジキマグロ。けれど突飛な食材となるとこの場にはないかもしれない。というか、ないと思う。作れそうなものを考えなければ。
 悩むニルの傍らで、さっそくと腕まくりした『甘夢インテンディトーレ』ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)は材料の確認だ。美味しい思い出の料理と言えば、料理修行の旅に出るきっかけとなったもの一択だから迷う余地もない。
(今のボクがどこまで再現できるかわからないけれど、どこまで成長したか確かめるいい機会でもあるし!)
 きっとまだ至らない。けれどどこまで近づけたかの腕試しに、ミルキィは張り切った表情で作り始めたのだった。

「この辺りじゃったかの?」
「ああ、大丈夫だ!」
 ニャンタルは先に場所のセッティングだ。手伝ってくれると言うスタッフと共に裏から予備のテーブルや椅子を出して、テラス席や大テーブル席を用意する。これだけで重労働だが、まだまだ終わりではない。
「町の者に声をかけねばな」
「ええ。何人分の食器を準備するかなども変わりますから」
 ひとまずイレギュラーズとフリーパレット、そして店のスタッフ分のグラスを運んできた『青薔薇の御旗』レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)がニャンタルへ返す。人数が解らねばどれだけ準備するかも変わるもの。それは食器や座席だけでなく、料理もまた然りだ。
「大きな鍋はありますか?」
「厨房にあるもの以外なら、倉庫にしまってるはずだな」
 探して来よう、とレイアに問われたスタッフが踵を返す。レイアも待っているだけではいられないと後に続いた。
(大勢来たら良いのじゃがなあ)
 ひとりで食べるよりも、何人かで食べるよりも、大勢で食卓を囲む方が賑やかだ。その方が旨味も楽しさも温もりも、思い出だってひとりの比にならないくらい大きいはずだから。
 この季節ならば送り火となる花火も打ちあがるかもしれない。タイミングが合えば良いなあとニャンタルは笑った。

 ニャンタルの声掛けで何人程度の者が来るか把握すれば、『カワウソ』宵闇 雪花(p3p010820)は腕まくりをする。さあ、人数分の魚を選んで調理に取り掛からねば!
「す、すみませんが……お手伝い、頂けますか……?」
 『ひつじぱわー』メイメイ・ルー(p3p004460)はシェフに快諾を貰ってほっとする。思い出の美味しいご飯なら、きっと作ることができるだろうけれど。より美味しくしたいし、万が一ということもある。なにより、この厨房を良く知っているのは、他でもないここのスタッフのはずだ。
「まずは、豚汁を作りたいのです。フリーパレットさまも、一緒に」
「みんなで料理を作って食べる事で、新しい思い出の味を作るって事かな? 面白そう!」
 今の腕前なら菓子以外だって作れるから、と頷くミルキィ。とびっきりの豚汁を作り上げて、美味しく食べようではないか。
 フリーパレットを呼べば、ふよふよと厨房へやってくる。その雰囲気はどこか不思議そうな様子であったが、興味がそちらへ移った事でシューヴェルトは明らかに安堵の表情を浮かべ、カウンターに乗って皆の調理する様子を眺めることにしたらしい。
「野菜……め、めぇ。この大鍋に作るなら、たくさん、切らないと……」
 大人数が食べるということで、レイアが用意した鍋は大きい。途方もない作業になりそうだとメイメイが覚悟を決めた――が、店のシェフたちが手伝おうと名乗り上げてくれる。
「ごはんを作るのも、分けて食べるのも。みんなでと言うだけで、うきうきわくわくで、おいしくなると思うのです」
「はい。これも思い出の、美味しいごはんになると……良いのですが」
 ニルの言葉に頷いて、メイメイも作業に取り掛かる。記憶が例えなくなっても、何かが美味しかったのだと思えるような思い出が、想いが、フリーパレットに残っているのだ。失ったそれとはまた違った内容かもしれないが、どうかフリーパレットを満たすものとなりますように、そう願わずにはいられない。
「洗いものはこっちだよ」
 アルモニア・リチア(p3p010801)はすっかり洗い場の主となって、やってくる調理器具などを次々洗っていく。慣れない手で刃物や火を扱うことは躊躇われたが、これなら自分にもできるのだ。
 がんこな汚れや、調理器具の小さな隙間に詰まった汚れを丹念に、しかし手早く取っていくアルモニア。こちらは大丈夫そうだとニャンタルは出汁を取りにかかる。豚汁を美味しくするための『オマジナイ』だ。
「野菜の皮、向き終わったよ」
「わあ、早いですね!」
 ブラウは雪花の差し出したカゴに入った野菜に目を丸くする。あとは切って鍋に入れるだけという具合で、大人数分の料理を準備するのにも捗りそうだ。
「材料が足りない者がいれば買いに行くぞぃ!」
「問題ありません」
「ボクの方も大丈夫そうだよ!」
 ニャンタルの声にアッシュとミルキィが応える。さすがレストランというだけあって、食材は多い。とはいえ、使ってしまう分の事を考えたら補填の意味で買い出しに行くのはありかもしれない。
「これでいいんでしょうか……?」
「うんうん、大丈夫だよ!」
 手伝いたいが出来ることが限られてしまう、というレイアにはミルキィが手伝いを頼む。卵が割れるという言だから、飛び抜けて不器用ではないだろう。それならば簡単な作業くらいなら難なくこなせるはずだ。
 豚汁ができたなら、各々が作りたいものを作り始めていく。そんな中で雪花はフリーパレットに「味見しようよ!」と提案した。
「味見のやりすぎで怒られたなんて、とっても楽しかった思い出だよ」
「やりすぎで怒られる……なんだか懐かしいような気がする」
 フリーパレット――正確にはフリーパレットを構成するだれか――はそう呟く。その言葉に雪花はことさら嬉しそうに笑った。味見で怒られたことがある仲間なのかも、なんて。
「メイメイさん、ひとくち味見してもいい?」
「め、めぇ……!? ひ、ひとくちだけですよ?」
 だからイレギュラーズたちの元を巡って、大丈夫そうな人に声をかけてみる。味見のし過ぎで満腹になってしまわないよう、気をつけなくちゃ。
「味見、ニルもお願いしたいのです」
 そこへニルが2人を呼ぶ。おいしくなぁれの気持ちを込めているけれど、他人が食べて「美味しい」を聞いて、ようやくその料理が美味しくなったと思えるだろうから。
「もうひとくち、ダメ?」
「ダメ、なのです。またあとで、ニルや、みんなと一緒に、ですよ」
 勿論――食べ過ぎは注意するけれども。
 雪花はフリーパレットとともに、先ほど作って保温状態にある豚汁を小皿に取る。そしてフリーパレットへと差し出した。
「スープってさ。君達みたいな集合体だと思う」
 色々な材料が入っている。けれどそれらを入れる時は全て『美味しくなるように』と想いをこめて、願いをこめたはずだ。それらが寄り集まって、美味しいものが出来ている。
「皆の料理を全部食べて、最後に皆と一緒に「ごちそうさま」って言ってくれる? そうしたら嬉しいな」
 ごちそうさまは、込めた想いに返してもらっているような、そんな気がする。だからその言葉ひとつで嬉しくなれるのだ。
(……其々が如何様な想いを抱いているのか。其れを推し量ることは出来ません)
 何が食べたかったかもバラバラだろうし、同じ料理だとしても同じ味付けとは限らない。けれど、と思いながらアッシュは卵を薄く焼く。
 奇をてらわなければ、何かしらの記憶に引っかかる可能性はある。だからこそ巧拙に拘らず、出来ることを識る範囲で尽くすのだ。



 町の者はフリーパレットの存在にも事前の説明があったおかげか、混乱などはなさそうだ。皆が揃って「いただきます」と言えば、それは小さな合唱のように響く。
「まだ暑いですから、こちらをどうぞ。シビック家自家製の茶葉を使ったアイスティーです」
 レイアはよく冷えたアイスティーをグラスに注いで回る。いつかの夏に遊んだ後のアイスティーもこのような味だったが、少し違うかもしれない。
「これも、思い出があるなら、ニルは聞いてみたいです」
「思い出……というほどでもないかもしれませんが」
 夏の事だった。家の近くには海がなく、父に抱えられてプールで遊んだのだ。小さな子供用のプールで、しかも父に抱えられた安心安全な水遊び。
 けれど水の冷たさも、プールの後のアイスティーの味も、難しそうな表情ばかりの父と遊んだ楽しさには負けてしまう。あの時は本当に――楽しかったのだ。
 知らずの内に口元を綻ばせたレイア。その目の前にコトリと出されたのは。
「猫さんオムライス……と言うものです」
 出したアッシュはケチャップを手に。よく見れば人数が多いので、数人のシェフも同じようにケチャップを持って。
「おいしくなーれ、おいしくなーれ……」
 むにゃむにゃと唱えながらケチャップの赤が黄金色の上に垂らされる。フリーパレットはそれが終わるまでじっとケチャップを見つめて、それからアッシュへ視線を上げて、「……猫?」と首を傾げた。対するアッシュは「猫です」と力強く頷いた。
 そんな前衛芸術的猫の描かれたオムライスは、店で出るようなプロの味ではない。けれどフリーパレットの口からは美味しいの言葉が零れ落ちる。
「其れを作る時、愉しく学べたのです。そして出来ることが増えた。其の喜びが、其の時のわたしにはあったのですよ」
 確かな一歩を感じた瞬間。まだ形は不出来かもしれないが、練習をしていけばうまくもなるだろう。だからこそ、キッカケという思い出は忘れることができない。
「僕はこれ。ちょっと……不格好かもしれないけれど」
 アルモニアが出した更には大量のコメ。じゃなくて、おにぎり。簡単に作れることもあってか、多めに握られているようだ。しかし本人が言う通り、形が歪だったり、少し崩れてしまっているところもある。
 そこまで大きくなくて、お腹がいっぱいになる。食べるのだって手軽だから色々な場所へお弁当として持って行っていたのだ。
「いつもと違う景色で食べるおにぎりは、なんというか……違う味がする」
 ここで食べるのもそう、とアルモニアは海の方を見た。味を変えたわけでもないし、特別な食べ物というわけでもない。店で買うことだって多い。それなのに食べる場所で味が違うというのは何とも不思議だ。
 そして景色を見ながら食べれば、あちこちで食べた時のことを思い出す。感じた事、見た物、共にいたヒト。ただの、何気ない思い出だ。
「あ、これ鮭だ!」
 焼き魚を一緒に出してきた雪花が嬉しそうにおにぎりを咀嚼する。きっとこういうことも、後のいつかに思い出すのだ。
「雪花さんの焼き魚も何か思い出が? 一見、ただ串に刺して焼いてあるように見えますが……」
「うん、そうだよ。串に焼いて焼いただけ!」
 雪花はうんと頷いて嬉しそうに笑う。昔、助けてくれた人に魚を獲ってきてあげたのだと言う。死にかけたところだったから、大した量ではなかっただろうけれど、1人と1匹で食べるには十分な量だった。
 しかし助けてくれた『彼』は料理ができなかった。故に、串に刺して焚き火で焼いたのだ。
「……塩は?」
「ないよ。不思議だよね、ただただ魚の味だけなのに」
 でも美味しかったんだと雪花は笑いながらその時を振り返る。本当に魚の味しかしなかった。けれど2人で食べたから、きっと美味しかったのだ。
「わたしは、もし……フリーパレットさまのように、最後に食べてみたいと、思うかもしれない……そんな料理を、選びました」
 メイメイがカゴで持ってきたのは、パリッと焼かれたパン。母が作ってくれたチーズ入りのパンだ。自家製チーズは再現できなかったものの、パンを齧ればチーズがとろけでてくるのは変わらない。朝、昼、夕と、家族でテーブルを囲んで食べる暖かい味だ。
 それは良く慣れ親しんだもので、当たり前にあったもので。今は――遠い味。
「本当は、思い出の料理……たくさん、あるのです。ふふ、贅沢なこと、ですね」
「たくさん、おいしいを知っていること。ニルは、すごいと思うですよ」
 もっと美味しいを知りたい、とニルはパンをかじりながら顔を綻ばせる。
 ――と、そこへニャンタルの手がずいっと出てきた。
「我の思い出の料理というものじゃ。ささ!」
 促されるままにそれを口へ含んでみる。周りの面々も同じようにして――あまりの酸っぱさに目を丸くし、あるいは口をすぼめ。其れを見るニャンタルもまた梅干しを食べて顔を顰めながら笑う。
「すっぱ……ムフフ、これよこれ。大ばぁばと家族と作ったものじゃ」
 なんとも強烈な味だと言うのに、どこか癖になる不思議なものだ。ニャンタルは口直しに――何度食べてもすっぱいものは酸っぱいのだ――豚汁を飲む。野菜などから出た出汁と、予めニャンタルが作って置いた出汁が良い具合に美味しさを引き出していた。
「作る者たちの好みで入れる物も味も変わってゆくのが面白いのよな」
 まるでフリーパレットの思念のようだ、とニャンタルは思いながら、人参を口の中へ放り込んだ。
 さあお腹も膨れてきたところでデザートである。ミルキィはゴージャスなパフェらしきものを皆の元へ運んできた。
「完全に再現はできなかったけど、記憶を頼りに出来るだけよせてみたよ♪」
 故郷では元々甘味のレシピに対するレベルが高かったが、それすらも突き破るくらいにインパクトのある美味しさだったのだ。いつか、あの時の味以上のものを振る舞いたい。まだまだ精進あるのみだ。
「ニルは、ムースです。おいしいって笑って欲しくて、たくさんたくさん練習したのです」
 三重奏ムースを出したニルはその時を思い出してふわりと笑う。食べた人が笑ってくれて、美味しい気持ちになったこと。誰かの為に作られるご飯はとても素敵だと思ったのだ。
「最後に、今日の思い出、を」
 どうぞ、とメイメイが出したのはひよこのおまんじゅうと苺大福。ブラウとシューヴェルトが互いを見合わせるのを見て、メイメイはふふっと笑う。
「これでしたら、食べても大丈夫、ですので」

 最後は最初と同じように皆で「ごちそうさま」。一緒に呟いたフリーパレットは美味しかったと呟いて――竜宮幣を残し、消えていった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 美味しいと思い出が沢山ありましたね。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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