PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<深海メーディウム>遺された物、遺された人、揺蕩う想い

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 フェデリア島のある一角。
 シレンツィオリゾートに存在するそのカフェには静寂の海を一望できるテラス席が合った。
 マルク・シリング(p3p001309)とタイム(p3p007854)、シンシア(p3n000249)の3人はそこで情報交換をしていた。
「せめて、これを本来の持ち主……遺族に返せたらいいんだけど」
 テーブルの上には大きなペンダントが1つ。
「海洋王国軍に聞いてみたけど少し時間がかかりそう。
 やっぱり、大柄の人が着てた衣装がとても古そうだったからかも?」
 タイムは少しばかり首を傾げた。
 思い出すのは1月ほど前に遭遇した存在の事。
 思い出すだけでゾッとするが、タイムたち3人は竜宮幣の回収に関連してゾンビのような深怪魔と遭遇した。
 その中でも大柄な偉丈夫が落とした遺品がこのペンダントである。
 大柄の偉丈夫が着ていた意匠は明らかに古い物であったため、タイムは海洋国軍に問い合わせていた。
「そういえば……」
 黙っていたシンシアが少しばかり考えた様子で顔を上げる。
「お二人ももうご存知かもしれませんが……
 シレンツィオリゾート内に『海洋王国海難事故被害者の会』なる団体の人々が来ておられるそうです。
 似たような組織は幾つもあるとは思いますが……」
「その話なら僕も聞いたよ。
 他にも幾つか遺品を回収したから、遺族の人達に聞いてみるっていうのはいいかもしれない」
「そういう団体があるなら、聞いてみるのは確かにいいかもしれないわ」
「ローレットからだったら面会要請もできるのかもしれませんね」

「あぁ――それは俺がうばわれたものだ」
 不意に聞こえた声は、声と認識するには複雑な色をしていた。
 ほぼ同時に3人が振り向いた先、そこには極彩色の何かがある。
 ――フリーパレット。
 数多の色が入り混じったそれは泡のような、あるいは人のような不思議な姿。
 死んだ個人あるいは団体の想いや未練、思念の集合体。
 竜宮幣へ砂鉄のように結びついて実体化した存在である――いわば幽霊の類だ。
「わたしのものもある?」
「おれのものも?」
「ぼくのものもあるの?」
 発せられる声は複数。
 フリーパレットは個人そのものではなく、記憶も人格も無いと言う。
 実際に複数人の声を同じ存在から聞こえるというのは不思議な感覚だった。
「おねがいします」
「おねがい」
「「おれたちもまた会いたい」」
「あの人に」
「あの子に」
「「合わせてくれ」」
 フリーパレットはその未練を晴らせば成仏する。
 その後に残るのは竜宮幣だという。
 このフリーパレットの未練――それが遺族たちの下へ連れて行って欲しいということなのか。
「……なら、問題ない。僕達に任せてほしい」
「そうね……あなたが安らかに眠れるようにお手伝いするわ」
「「ありがとう」」
「「ありがとう」」


 フェデリア島三番街。その一角にその建物はある。
 海洋王国大号令や海難事故での被害者たちによって構成される組合組織。
 そんな彼らが共同出資でフェデリア支部として建てた建物である。
 彼らは主に情報交換や遺体、遺品の回収の他、遺族間の互助会として機能しているものの一つである。
「聞きましたか? ローレットの方々から面会の要請があったこと」
「ええ……大号令の立役者……あの子が待ち望んでいた人達」
「面会の内容がダガヌ海域で遺品が見つかった人がいるかもしれないっていう話だ」
 容姿、年齢感のほか、国籍にも若干の違いを感じさせる。
「もしかしたら、あの子の遺品もあるかも……」
「あぁ、もしあればうれしいような……嫌なような……」
 ざわざわ、ざわざわと人々の囁き声が続いている。
「…………」
 それをどこか冷めた視線で見つめる人物が1人。
 誰からも何も言われぬその人物は――

GMコメント

 アフターアクションありがとうございます。
 それでは早速始めましょう。

●オーダー
【1】遺品を持ち主へと返す。

 遺品は複数存在します。
 それらを該当するNPCに返却できれば成功となります。
 推理や非戦スキルを探して該当者を探しだしてください。

●フィールド
『海洋王国海難事故被害者の会』が共同出資によりフェデリア島に建てた会議所です。
 大きな吹き抜けのフロアに遺族の皆さんが集まっています。

●NPCデータ
・イサーク
 海洋国軍人の男性です。
 一緒に旅行に来ていたはずの妻子がクルーズに参加してから行方不明となり、姿を消してしまったとか。
 妻子は共に緑髪をした穏やかな女性と少女であったとのこと。

・ファニート
 飛行種の青年です。
 クルーズ船に参加した弟が行方不明となり姿を消してしまったとか。
 腰に短刀を挿しています。

・デイジリー
 商人風の女性です。
 海洋国海軍に属していた夫と弟が彼の海戦で戦死しています。
 綺麗なサファイア色の瞳が特徴的。

・ドロレス
 華奢な飛行種の老女です。
 海洋国海軍に属していた夫と息子が彼の海戦で戦死しています。
 いつもペンダントを握っています。

・ファビオラ
 鉄帝人風の鉄騎種の女性です。
 鉄帝国軍に属す恋人が戦死したそうです。

・オズバルド
 切れ長の瞳をした偉丈夫です。
 他の遺族たちを冷たい視線で見つめています。
 どことなくキャプテンが持っていたペンダントの子供に似ているようにも見えますが……。

●遺品データ
・鉄騎の腕
 あるバッカニアレイスが遺した鉄騎種の鋼鉄腕。
 手の甲に綺麗に刻まれた文字は霞んでいてよく読めません……

・海軍将校のペンダント
 あるバッカニアレイスが遺したペンダント。
 全く同じものがなぜか2つあり、よく似た風貌の軍人衣装の男性2人が映っています。

・海軍将校の盾
 あるバッカニアレイスが遺した小さな盾。
 持ち手側に何かの文字が掛かれていた様子です。

・サファイアのネックレス
 あるバッカニアレイスが遺したネックレス。
 大きなサファイアが埋め込まれています。

・きらびやかな模造刀
 あるバッカニアレイスが遺した刃引きのされた短刀です。

・幻想種の指輪
 あるバッカニアレイスが遺した指輪です。
 サイズ感の異なる2つの指輪があり、エメラルドが嵌められています。

・バッカニアキャプテンのペンダント
 バッカニアレイスキャプテンの遺したペンダントです。
 一枚の家族写真が入っています。

●注意点
 遺品の数とNPCの数は等しくありません。
 つまり、此処に要る人の物ではないものが紛れ込んでいる様です。

●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 このアイテムは使用することで『海洋・鉄帝・ラサ・豊穣』のうちいずれかに投票でき、その後も手元にアイテムが残ります。
 投票結果が集計された後は当シリーズ内で使える携行品アイテムとの引換券となります。
 ※期限内に投票されなかった場合でも同じくアイテム引換券となります

●シレンツィオ・リゾート
 かつて絶望の青と呼ばれた海域において、決戦の場となった島です。
 現在は豊穣・海洋の貿易拠点として急速に発展し、半ばリゾート地の姿を見せています。
 多くの海洋・豊穣の富裕層や商人がバカンスに利用しています。また、二国の貿易に強くかかわる鉄帝国人や、幻想の裕福な貴族なども、様々な思惑でこの地に姿を現すことがあります。
 住民同士のささやかなトラブルこそあれど、大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として、今は多くの金を生み出す重要都市となっています。
 https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <深海メーディウム>遺された物、遺された人、揺蕩う想い完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年09月08日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
彼岸会 空観(p3p007169)
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形
型破 命(p3p009483)
金剛不壊の華
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

リプレイ

●その日に至るまで
(海洋で生まれ育ったやつが言う台詞じゃねぇのかもしれんが……海ってのはつくづく大食らいで残酷なやつだねぇ。
 多くのやつらを飲み込んで、未練やら無念だけを遺しておいて、今はもうすっかりだんまりを決め込んでいやがるんだから)
 ゆらゆらと立ちのぼる煙管の煙を『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)と共に縁はフェデリアの土、シレンツィオの土を踏んでいる。
「さて、どこから聞いて言ったもんかね」
 十夜 縁という名のイレギュラーズの持つ海洋王国における名声とコネクション。
 それを駆使して引き上げられた遺品の持ち主や遺族について知っている者がいるか聞いて回ろうと思っていた。
「遺品自体を身に着けている姿を見たことがある、なんて話が聞けりゃぁ一番確実なんだが」
 ふぅ、と吐いた煙草の煙が円を描いて空に消えていく。
「せめて遺品だけでも、陸に帰してあげたいんだ。
 それが、帰りを待ち続けた人たちの区切りにもなるから」
 遺品を見るマルク・シリング(p3p001309)はその1つ1つを見つめている。
「だな。遺品、ってのはただのモノじゃねえと俺も思う。
 残された奴の心の救いになる事もあれば、
 別の奴にとっては呪いにもなっちまうんだ。
 出来れば今回の依頼の遺品が、呪いにならねぇ事を願うぜ」
 それに頷く『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)は並ぶ遺品の幾つかを眺めた。
「海で亡くなった人はわたしが思っているよりうんと多いのね。
 折角ここに還って来た遺品だもの。出来れば家族の元に返してあげたいな。
 何も音沙汰の無いまま待ち続けるのはきっと辛いもの。
 ね、シンシアさんはどう思う?」
 『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)は隣にいる少女へと問いかけてみた。
「私も、そう思います。
 ……亡くなった人は帰ってこないけど、
 区切りをつけたいっていう人がいるのなら。
 その人の下に返してあげるべきだと」
 目を伏せがちに言うシンシアの表情は遺された者の色がある。
「命さんがみんなの考えや予想を纏めてくれたのでとっても助かります!」
「それは構わねぇよ。それより気になるのは……」
 そういって『金剛不壊の華』型破 命(p3p009483)は視線を遺品の方へ向けた。
 海洋王国海難事故被害者の会――その団体と会うのはあと数日。
「『遺族と遺品の数は合わない』が『遺品と死んだと思われる人間の数は一致している』こと」
「そうね……それも気になるわ」
 命の発言に頷きタイムは頭をひねる。
 脳が甘い物を求め始めていた。
「うーん、そうだ! 折角だしシレンツィオ名物のスィーツでも持ち込んでやりましょうよ」
 顔を上げてタイムが言う。
 ちょうどここはカフェでもある。
「空観さんは飲み物運ぶの手伝ってくださぁい」
(別れとは悲しきもの。
 それが戦いや、事故に巻き込まれた物ならば尚更に御座いましょう。
 それに対して生きて居る者は何が出来るのか)
 静かに目を閉じて考えていた彼岸会 空観(p3p007169)はタイムの声を聴いて視線を上げた。
「……えぇ、分かりました」
 2人で立ち上がってカフェの中へと。
(肉体は帰ることが叶わぬとも、魂だけは帰るべきところに戻るように。
 旅の終わりを遺品に告げよう、よく頑張ったと)
 遺品たちにそっと触れながら、『死と泥の果より』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)はそれらに称賛の言葉を告げる。
 海軍将校の盾へと触れて意識を集中する。
(勇敢に戦った将校が懸命な気持ちで、故郷に帰ることを最後まで諦めずに存在したはずなのだ)
 ――でだよ、にいさん
 何か、声のようなものを聞いた気がした。
「想いはね。場所や、品物の傍で揺蕩うの。そして時に、形を作る……です」
 そういうのは『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)だ。
 猫の『人に対する感謝の想い』が形になった存在、それがメイという少女の本質。
(想いを集めた『ひと』は天に還ったけれど、想いも場所も、『わたし』も残り続けている……だから)
「遺品に遺された想いが、そのご家族の許に品物を導いてくれる。メイはそう信じて頑張るですよ」
 視線を遺品の方へ向ける。
 その両手にアーカシュの文明が持つ力、ゴーレムたちに搭載された思考ユニットのパーツ持って。
(精霊さん、おねがい。メイを導いて)
 メイの魔力に呼応した造花回路が無機物たちへと意思疎通を図る。
 合わせて、何処からともなく小さな光がふわふわと遺品の方へと泳いでいく。
「ねぇ千尋さん、鉄騎種の腕と海軍将校の盾の文字は読めるようにならないかな?」
「ちょうど持ってきてるんだなこれが。修理してみるか!」
「わあ、拳ひとつで海と空を割り冠位魔種を討ったあの伝説の男!
 準備が良い~! ……この話ほんと? 盛ってない?」
 持ち上げながらも半信半疑なタイムだった。
 これが本当なんだからすごいよ。
「マルクくん! いっちょテスタメントで俺を超絶強化してくれや!」
「それは妙案だね。うん、任せて」
「おほぉ~! 効くぅ~! よしっ、早速始めるか!」
 マルクの支援を受けた千尋はどうにも文字が刻まれているらしい部分へと手を入れて行く。
 マルク自身はある遺品のペンダントに視線を向ける。
 それはバッカニアレイス達の中でも特に強力だった個体が遺したペンダント。
(得られる情報はごく僅かかもしれないけれど……)
 意識を集中する。
 ――この子達が無事に育つことを願ってる
 ――無茶だぁ? 知ってるよ! 知ってっけど、それでも行かなきゃいけねえんだ!
 ――お前らも、俺も、帰る相手がいるだろ!
 ――はは、全く馬鹿げてる……くそったれ……俺はここで死ぬのか……
 断片的に聞こえる声を聴いて、短く呼吸する。

●海洋王国海難事故被害者の会
 そうして数日の後、件の団体との会合の日を迎える。
「亡くなった証拠を見るのは悲しいのかな、それとももう待たなくていいとほっとするのかな。
 大切な人を突然失うなんて……」
 団体が使っている建物の前に立ち、タイムはぽつりと呟いた。
 キュっと締まるような感覚に胸を抑える。
「……両方、だと思います。
 悲しいけど、何かが残っていて、それが自分の下に帰ってくるのなら、
 それだけでも嬉しいんだと思います」
 シンシアの答えに頷いて、タイムは一歩を踏み出した。
「人は死に場所を選べない。だからこそ日々を懸命に生きる。
 生まれてきた意味を探す、死んでいく意味を探す、それでも志半ばでの死というのは存在する。
 だから残されたものに伝えよう、彼らの意思を、生まれてきた意思が最後に何を伝えたかったのかを」
 マッダラーは視線を上げる。
 それは自分へと言い聞かせるものでもあった。
 この身は吟遊詩人である。
 詩人だからこそ、受け取った詩を伝えていくべきなのだと。
「せっかくだ、お前さん方さえよけりゃぁ、
 その人にまつわる思い出話を聞かせてくれや。
 こうやって話すことで改めて“けじめ”がつけられるモンもあるだろうし……何より、こいつらも満足するだろうからよ」
 縁は視線をやや後ろ――そこにあるフリーパレットへと向ける。
「な、なんですそれは……」
「あー……なんていうか……幽霊? みたいなもんさ。
 海の中に消えちまった奴らの、未練が集まってる」
 後ろ頭を掻きながら、簡単な説明を残せば、驚いたように人々が目を見開く。
「えぇ、私にも聞かせていただけないでしょうか?
 自身の愛しい者達の死が確定してしまうかも知れない事に心がざわついて居られるでしょう。
 それを慰め合うのがこの集まりの目的の一つなのかもしれませんが……
 それを少しでも和らげて差し上げることができるのなら」
「……ありがとうございます」
 1人がそう言って頭を下げる。
 それに続くように1人、また1人と頭を下げた。
「いえ、お気になさらず……私は戦のみを生業とする身。
 人の心に寄り添う術を知らぬ私ではこの程度しか出来ません。
 ですが、それでも聞くことぐらいは出来ますので」
 そういう空観にまず語り始めたのはデイジリーと名乗った女性だった。
 綺麗なサファイア色の瞳を潤ませながら言ったのは、返却されたペンダントに関する話だ。
 彼女の瞳の色にも等しい綺麗なサファイアは軍人が使うには大きいようにも思えるが。
「なるほど……貴女の瞳を海洋王国大号令に連れて行く、と。
 まだ見ぬ場所の景色を見に行く。君と一緒に……そうおっしゃられたのですね」
 空観は小さく頷きながら彼女の話を反芻する。
「はい……はい……あの人と、弟は幼馴染だったんです。
 それで、同じものを2つ……」
「きっとお2人は貴女の瞳に励まされながら、この地にまで至ったのでしょうね」
「……そうであれば、いいのに」
 そう悲し気に呟いたデイジリーを慰めるようにその背をさすってから、空観はそのまま視線を上げる。
 どこか侮蔑のような色を持つオズバルドの目。
(そして、それはオズバルドさんにしてもそう。
 そもそも遺品を受け取る気がないのであれば、
 如何に要請があったとしてもここに顔を出さないでしょう)
 あの目の理由は分からないが――ここにきている以上、受け取る意思はあるのだ。恐らくは。
「ファビオラはアンタだよな」
 千尋は鉄騎種の女性に声をかける。
 顔を上げつつあったファビオラはその途中で視界に入ったであろう物を見て目を瞠った。
「アンタの名前が書いてあるんだ。
 修理したら見えてきたんだけどよ最初は掠れて見えなくなっちまってた」
「これ、あいつの……あぁ、馬鹿なことを……
 腕に書くくらいなら、生きて帰ってきなさいよ」
 そう言ってファビオラは幾度も手の甲に刻まれている彼女の名前と何かの建物の名前を指でなぞる。
「馬鹿……プロポーズしたいなら、帰ってきなさいよ……」
 女性の小さな嗚咽が聞こえて始めた。
「……間違いないです。これは私の家族のものです」
 ドロレスと言う老女が、きゅっとペンダントを握り締めて言う。
「このペンダントの事、聞いてもいいですか?」
 タイムの問いに、ドロレスがこくりと頷いた。
 悲しさを堪え、懐かしむように微笑みながら、老女はペンダントを撫でる。
「これは私の子供が海軍学校を出て、正式に将校になった時に撮ったものです。
 夫は大層な喜びようで、2人で軍服を着て撮るぞと、そう言って聞かぬものですから……
 それでも結局、2人で一緒に写真を……」
 メイはきょろきょろと視線を巡らせ、1人の男性の下へ。
「あの……これは、アナタの大事なひとのものじゃないかな? と思うです
 そういってメイがイザークに差し出したのは2つの指輪。
 千尋によって磨かれたエメラルドは美しく、サイズ違いで2つ。
 ついでに、ちらりと指輪の裏に目を向ければそこにはそれぞれの女性の物と思われる名前が刻まれている。
「……念のためにお名前を聞かせてくださいです」
「あぁ――」
 彼から告げられた名前は指輪のそれと一致していた。
「……あの子らは、やっぱりもう」
 2つの指輪を手に取り、男はぎゅっとそれを包み込むように握りしめて下がっていく。
「あいつ……やっぱり波に……ちくしょう、ちくしょう……」
 悔し涙を流すのはファニートと名乗る飛行種の青年だ。
 その腰に佩いた模造刀と瓜二つなきらびやかな模造刀を握り締めている。
 千尋の手で磨かれた意匠と刻まれていた文字によれば、あれは2人がある年の誕生日に両親からもらったプレゼントのようだった。
「やだな。感化されて泣けてきちゃった」
 建物の中に満ちる遺族たちの安堵や悲しみの入り混じった嗚咽を耳にしながら、タイムはそっと目元を抑えた。
 ほろりと流れる雫が指を伝っていた。

「貴方のお父さんのもの、ですね?」
 マルクはそういってペンダントを取り出した。
 オズバルトにどことなく似ている家族の家族写真が入っているそれはバッカニアレイスキャプテンが落としたものだ。
「信じられないかもしれないけれど……僕は、君のお父さんと戦った」
 真っすぐに彼を見つめて告げる。
 ペンダントを見せられたオズバルドの表情は冴えない。
 どころか、冷たくペンダントを見るばかり。
「強かった。それは、帰りたい、家族に会いたいという思いの強さだったんじゃないかな」
「止めてくれ」
 鋭い声だった。視線を切る青年は、溜息をついた。
「確かに、それはうちの家の遺品だろう。
 でも、俺のじゃない。……そのペンダントを付けてたのは、俺の親父でもない」
 確信めいた言葉。それはまだ生きていると信じたいから、ではないことをマルクは気づいた。
「……教えてほしい、じゃあこれは、誰のなんだい?」
「……曾祖父のものだ。前々回だか3つ前だかの大号令で死んだな。
 曾祖母は生きてるって、そう信じ続けて狂いやがった。
 爺さんもそうだったし、そんな爺さんに育てられた親父も碌なんじゃなかった。
 あぁ全く……それが上がってくれて嬉しいよ。これで、俺達はやっと解放される」
 冷たい声だった。苦し気なけれど安堵したような声だった。
 よく考えれば、古めかしい衣装だったバッカニアレイスキャプテンの子がこの青年と言うのは違和感がある。
 こうして集まる人々を見る酷く冷たい視線は、遺族たちの傷が呪いになって次代を縛った時のことを知っていたからか。
「エンディカって名前の軍人がいる遺族を知ってるか?」
 千尋は海軍将校の盾を持ちながら集まる遺族へと声をかける。
 海軍将校の盾の裏には『王国のための忠節を誓う一文と共に所有者と思しきエンディカという名前』が描かれていた。
 癖なのだろうか、独特の誤字が幾つか見られる辺り、個人を特定できそうなところだったが。
「弟の名前です!」
 そう叫ぶのはデイジリーだった。
「……これ、あんたの息子の?」
 震える手で盾を受け取った彼女がそれを見て嗚咽する。
「たしかに、あの子の物です……あぁ、あぁ、なんてこと……
 結局この癖は直せなかったのね……あぁ……エンディカ……エンディカ……」
 小さく、弟の名前を呼ぶ女性の姿は居たたまれない。
「よかった」
「よかった」
「あなた」
「おとうさん」
 フリーパレットたちが声をあげる。
 意図が合って言葉にしているわけではないのだろう。
 フリーパレットにはあくまで残滓の集合体でしかないのだ。
 それらは亡くなった人達の意思とは言えない――それでも、解けていくフリーパレットの言の葉は、遺された人への安堵に満ちている気がした。

●遺された物、遺された人、置き去りの想い
「……全員分、渡せたんだよな」
 そう呟く命は拭いきれぬ『違和感』にむず痒さを覚えていた。
(なにか、おかしい……なんだ?
 遺族と遺品の数は合わなかったが、遺品と死んだと思われる人間の数は一致してた。
 事実、ドロレスはペンダントと海軍将校のペンダントを返すことが出来た……)
 そこまで思考して、命は背筋に嫌な感覚を覚えていた。
(……おかしくないか? ペンダントは2つ。
 つまり、海軍に属した2人はたしかに死んでるはず。
 将校が持ってる盾ってことは、軍から支給されるもの、だよな)
「……なんで、将校の盾が1つしか残っていない?」
 小さく呟いた。
 ――盾の方は木っ端みじんに消し飛んだから。
 たしかに、そう考えればそうだ。何の問題も無い。
(けどよ……なんだ、この悪寒は)
 言い知れぬ不信感が胸の奥に溜まっていく。
 ――盾が木っ端みじんに吹き飛ぶような攻撃を受けてたのにペンダントは生き残ったのか?
 そのことに気付いた時、顔を上げた。
「そういえば……このことは彼女には伝えなかった」
 そう口を出したのはマッダラーだ。
「あの海軍将校の盾に霊魂疎通を試みた時、小さな声が聞こえた気がした。
「でだよ、にいさん……そう言っていたような気がする」
 確かに超えた声はあまりにもか細く。
 そして――もしも本当だったとして、サファイア色の瞳をした女に伝えるには、あまりにも酷な気がして言わなかった。
「なんでだよ……と、そう言っているとしたら、
 彼女の弟は義兄にどういう意図でそんな言葉を投げかけた」
 ――嫌な予感がした。
 考えたくもない、嫌な予感がしていた。

成否

成功

MVP

伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ

PAGETOPPAGEBOTTOM