PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<深海メーディウム>なりきり任侠伝説

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●映画『任侠伝説』
「俺は殺しはやってねえ。死んだアニキに誓った」
 白いスーツの男ケンジはコワモテだった。シャツの胸元をキッチリと閉じた姿はどこか真面目そうではあったが、堅く握られた拳は丸く、戦う者のそれだと見る者に実感させる。
「そんなことはどうでもいいんだ」
 対して、黒いスーツに赤いシャツ。低くダンディな声色で、男は――竜墨のリョウは両手をだらんとさげてどこかクールに振る舞っている。
「お前は組を捨てたのか? 俺と競い合ってたあの頃を……捨てちまったのかって聞いてんだ!」
 殴りかかるリョウ。ケンジはその拳をかわすことなく頬で受ける。
「俺は組には戻らねえ。殺しの真相を暴くためなら――おやっさんにだって遠慮はしねえ!」
「どうしてだ!」
 もう一度殴りかかろうとするリョウ。その顔面を、ケンジの拳が振り抜いた。
 吹き飛ぶリョウ。そしてゆっくりと身構えるケンジ。
 リョウは起き上がり、ハッと小さく笑った。
「どうしてもってんなら……その首に縄つけてでも引っ張って行ってやるぜ。俺がお前を止めてやる!」
「だったらテメエにも遠慮はしねえ、リョウ!」
「ケンジィ!」
 互いに殴りかかるその一瞬が、切り取られる。

 ――これは映画『任侠伝説』の有名なワンシーン。主人公ケンジとライバルのリョウのバトルシーンであった。

●竜墨のリョウ
「リョウさんですよね! なりきり任侠伝説の竜墨のリョウ!」
 ある日知らない人からこんなふうに詰め寄られた経験はあるだろうか。
「いや、違うが……」
「えー? またまたあー」
 シレンツィオリゾートへの旅行中、ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)に降りかかったのはそんなアクシデントであった。

 早速だが説明しよう。
 『任侠伝説』とは近年話題沸騰中の小説とそれを原作とした映画のことである。
 まっすぐな性格の主人公ケンジが騙し合いの任侠世界で信念を貫くという骨太なストーリーは広く愛されたが、ベルナルドがそれを知っていた理由はそれだけではない。
 ケンジのライバル役であるリョウがびっくりするくらいベルナルドに似ていたのである。
「いい絵の題材になると思ってきてみたら……今日だけでもう十回は間違われたぞ……」
「それは災難だったな。確かに、俺とお前は間違えても仕方ないくらい似てる」
 ベルナルドはシレンツィオ二番街にあるレストラン。そのカウンター席に座り両手で顔を覆っていた。
 そんな彼にコーヒーとサンドイッチセットを出してやったのは、そう――『リョウの本物』であった。

「『任侠伝説』の作者はその執筆中このあたりのホテルをカンヅメにしていてな。よくこのレストランにやってきたんだが……どうやら俺のコワモテの顔が気に入ったらしい。俺をキャラクターのモデルにしたいと言ってきた。
 当然俺はOKしたさ。あわよくば人気が出れば店の宣伝にもなるだろうしな。
 しかし人気は出すぎた。すぐに映画化の話が持ち上がり、当時新進気鋭だった監督は俺をその役に起用しようと持ちかけてきた。
 オイオイ、お世辞でもキツいジョークだぜ。俺はこの通りレストランのオーナーだ。カタギもカタギ。コワモテなのは顔だけなんでね。生まれてこの方暴力のひとつだって奮ったことがないのさ。演技だってもっての他だ! 当然断ったさ。
 そのかわり、俳優を俺にソックリに似せることに協力することになった。
 映画は見事に売れて人気がでたんだが……当時の俳優はそれで仕事が増えたらしくてな。二作目を撮ろうって話になったはいいが役者が捕まらん。
 もうかくなる上は――って段階になって、そう、お前たちが現れたのさ」
 パチンッとクールに指を鳴らすリョウ。彼が指し示すのは、ベルナルドだった。
 彼は低くダンディな愁仁声で言った。懐から取り出した竜宮幣をピンと投げ。
「映画の主役――張ってみないか?」

GMコメント

●オーダー
 竜宮幣を与える代わりに映画『任侠伝説Ⅱ』の役者になるというこの依頼。
 リプレイでは映画の内容がダイジェスト形式で描かれます。

●配役
 豪華! ローレット・イレギュラーズが出演! という売り文句をどうやら配給会社が気に入ったらしく、全員がキャストに選ばれることになりました。
 皆さんは相談して、誰がどんな役を演じるかを決めて下さい。(ベルナルドさんが参加していた場合、自動的にリョウ役はベルナルドになります)
 緯はカットしてその役を演じることになったものとします。
 映画の内容は、実は決まっていません。『任侠伝説Ⅱ』は一作目と違って原作がないのでアドリブで話がぐわんとねじ曲がっても全然OKです。そうスミス・ボンジュール監督が言ってました。
 今から一作目の内容を話すので、その『続き』を皆さんで作って貰うことになります。

●映画一作目の内容
 自分にかかっていた殺人容疑が警察によるねつ造だと突き止めたケンジ。
 最終的には味方となったリョウの協力もあって証拠を手に入れ警察上層部へと突きつける。
 しかし警察と彼らの所属していたタラント組が裏で繋がっていたことが新たに判明。
 信じた組に裏切られたケンジが失意の中見いだしたのは、組ではなくおやっさんから受け継いだ信念こそが守るべきものだという新たなる信念であった。
 『曲がったことを見逃すな。もし見つけたなら、ぶん殴ってもどしてやるのさ』
 ケンジとリョウを庇い射殺されたおやっさんを腕に抱き、彼らは警察とタラント組の両方と戦うことを決意する。
 そして――『任侠伝説Ⅱ』へ続く!

----用語説明----

●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 このアイテムは使用することで『海洋・鉄帝・ラサ・豊穣』のうちいずれかに投票でき、その後も手元にアイテムが残ります。
 投票結果が集計された後は当シリーズ内で使える携行品アイテムとの引換券となります。
 ※期限内に投票されなかった場合でも同じくアイテム引換券となります

●シレンツィオ・リゾート
 かつて絶望の青と呼ばれた海域において、決戦の場となった島です。
 現在は豊穣・海洋の貿易拠点として急速に発展し、半ばリゾート地の姿を見せています。
 多くの海洋・豊穣の富裕層や商人がバカンスに利用しています。また、二国の貿易に強くかかわる鉄帝国人や、幻想の裕福な貴族なども、様々な思惑でこの地に姿を現すことがあります。
 住民同士のささやかなトラブルこそあれど、大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として、今は多くの金を生み出す重要都市となっています。
 https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio

  • <深海メーディウム>なりきり任侠伝説完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月31日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

グドルフ・ボイデル(p3p000694)
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
アンジュ・サルディーネ(p3p006960)
海軍士官候補生
ライ・ガネット(p3p008854)
カーバンクル(元人間)
ティヴァ(p3p010172)
笑顔を守るために
綾辻・愛奈(p3p010320)
綺羅星の守護者

リプレイ

●キャストロール
 ケンジ――キアス・リーヌ
 リョウ――『優しい絵画』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
 警察官・ライト――『カーバンクル(元人間)』ライ・ガネット(p3p008854)
 人工知能・ディヴァ――『笑顔を守るために』ティヴァ(p3p010172)
 警察官僚の娘・岩下杏樹――『いわしプリンセス』アンジュ・サルディーネ(p3p006960)
 タラント組幹部・工藤――『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)
 タラント組長の妾・アンナ――『つまさきに光芒』綾辻・愛奈(p3p010320)
 ※この物語はフィクションです。登場する人物団体は実在のものとは一切関係ありません。

●任侠伝説Ⅱ
 そびえ立つカヌレ・ベイサンズ。三本タワーの頭頂部に巨大な船型のプールを鎮座させたその異様さたるや、シレンツィオリゾートの象徴的風景と言って良いだろう。
 そんな景色の中。広い早朝の二車線道路を駆け抜けるカーバンクルがいる。
 彼はシレンツィオ無番街を担当する刑事ライトであった。走る彼の瞳には、自分から今まさに逃げ続けている白いスーツの男ケンジの背がくっきりと映っていた。
 ビルとビルの間を間借り、ダンッとビールケースを蹴飛ばすことで積み上げたそれを崩しながら駆け抜けるケンジ。ライトは素早く飛び上がり崩れるビールケースタワーを越えるとケンジの頭上から赤い宝石を翳した。
「とまりなさい!」
 放たれる赤い光。ケンジはそれに気づき、咄嗟に横へ飛び退いた。
 地面を鋭く焦がす光の魔法。ライトは安全な高度までおりながら、ケンジに宝石を構え続けた。
「ケンジさんにリョウさん、でしたっけ? 大人しく捕まった方が身のためだと思いますよ」
 ライトの脳裏によぎったのは美しい女性の思い出だった。
 スモーキーチャイナを纏ったその女はあまりにも扇情的で、そしれそれ以上に美しく。タラント組の組長によって片腕に抱かれるその様子に、目が釘付けになったのだ。
 裏組織といえど社会に重要な存在である。彼らと実質的に法の監視下に置いたことにすべく、ライトは組織に派遣されていた。
 ライトとて正義を志し警察官となった人間のひとりだ。違法な組織の蛮行を自らの手で止めてやるのだと考えていたが……挨拶にと彼女の前に立ったとき、その誓いは一瞬にして崩れ去ったのだ。
 それからの日々は、彼にとって幸福といってよかった。
 容姿に悩むライトに優しく接し彼の心を救った彼女――アンナとのささやかな交流が続いたのだ。
 だがそんな折、あの事件は起きた。
 警察とタラント組が裏で手を結び、違法なビジネスに手を染めているという事実が露見してしまったのだ。
 だがまだ終わったわけではない。ライトとケンジを消し去れば、あの人が破滅することはない。
「僕は、あの人の恩に報いなければなりません……そのためならどんな手段だって取ります」
 ライトの宝石が魔法の光を放ち、ケンジの胸元から血が吹き上がった。


 コーヒーショップから出てきたリョウが、ポケットから取り出したキーを翳す。
 ビープ音をたてロックが外れた車の扉をあけると、リョウはふと天衣永雅堂ホテルを見た。
「ケンジ……」
 ある日殺人容疑で追われる事となったケンジ。リョウは組の一員として彼と対立するも、容疑が警察によるねつ造だと突き止めたことで、ケンジとの関係は一転してライバル関係からバディへと変わった。
 『曲がったことを見逃すな。もし見つけたなら、ぶん殴ってもどしてやるのさ』
 そのおやっさんの言葉は、自分達を庇って射殺されたおやっさんの姿と共に脳裏に焼き付いている。
「必ず、警察とタラント組の真実を……」
 決意を新たに車に乗り込む……と、素早く助手席の扉が開いて一人の少女が乗り込んできた。
「な! 誰だこのガキ、降りろ!」
「降りない。あとガキじゃないよ」
 少女――アンジュは懐から警察手帳を取り出して見せた。
「!?」
 咄嗟に自らの懐に手を入れるリョウ。
 だが、その腕にへんなロボットがしがみついた。
「マッテー!」
 頭のかわりにちっちゃいブラウン管テレビをのっけた人型のスクラップロボットである。
 リョウがそれを振り払おうとすると、ロボット――ティヴァの画面が『録音再生』のモードに切り替わる。
「『曲がったことを見逃すな。もし見つけたなら、ぶん殴ってもどしてやるのさ』」
 それは紛れもなくおやっさんの声であった。リョウの腕が止まり、そして次にアンジュを見る。
「……そうだよ」
 アンジュは警察手帳をしまい、顎で『車を出して』のジェスチャーをした。
「まずは、ゆっくり話せる場所にいかない?」

「ティヴァハティヴァ、デモ。ティヴァのなかにいるおやっさんの意思が、ティヴァに動く理由をクレテルンダヨ」
 錆び付いたドラム缶の上に立ち、ティヴァは両手をぶんぶんと振った。
「そんなことが……」
 リョウは口を覆うように手を当て、ティヴァをまじまじと観察する。照れくさそうに傾き、ジーッという歯車めいた音をたてるティヴァ。
「信じてくれるの?」
 覗き込むアンジュに、リョウはチッと舌打ちをして目をそらした。
「にわかにゃ信じられねえが……確かにあれはおやっさんの言葉だった。それに、今更俺を担いだところで大して得はねえしな」
 アンジュからの追求を逃れたいのか、それとも少女と目を合わせることが後ろめたいのか、ティヴァからもアンジュからも背を向けたリョウ。
 そこは廃品や馬車の残骸が大量に転がる広いスクラップ置き場だった。
 遠くには三番街のビル群が見える。
「……しかし、何故俺に見せた? あんた、警察の人間だろう」
 小さく振り向くリョウに、アンジュは両手を腰の後ろで組むようにして身体を傾けた。
「わかった。私の事情も、話すね」

 アンジュが語ったのは父と子の物語であった。
 幼い頃から警察官僚であった父の背を追いかけていたアンジュは警察学校を経てすぐに父と同じ警察官となった。イワシの水族館で水槽を前に、パパみたいな警察官になるからねと宣言したのは、本当に幼いころからのことだ。
 正義の執行者にして平和の守護者。そんな姿に憧れていたアンジュはついに自分も……そう思っていられたのは仕事を始めて数ヶ月までだった。
 このシレンツィオへと配属されがアンジュが目にしたのは汚職と怠慢。裏組織に頭を下げ『仲良く』犯罪を見逃す警察官の姿であった。
 それでも正義を信じていた……いや、父を信じていたアンジュは彼らがおこした収賄の証拠を集め始めた。父にこれらを見せれば、警察を正しい姿に変えてくれるはずだと。
 だが、皮肉なことにアンジュが手に入れてしまった証拠は……。

「見て」
 ティヴァの画面に表示させたのはタラント組と警察が繋がる収賄の証拠であった。
 振り返り……そして、リョウは画面を両手で掴んで食い入るように表示された情報を見た。
「これは……岩下……」
「うん。パパの名前だよ。パパはエンジェルいわしの密輸を幇助してた。そのために、沢山のお金がパパに入って……」
 何不自由ない暮らし。尊敬すべき父。それは全て、悪と犯罪の上に成り立っていた。
「パパは……悪者だったのかな。正義の味方じゃ、なかったのかな」
「アンジュ、迷ったなら自分の目で見定めな。正義と悪の判別なんざ、そいつの掲げる信念で変わるもんだ」
 リョウはティヴァの画面をデフォルト状態に戻すと、小脇に抱えて歩き出した。
「俺は、曲がったもんを元に戻す。それが俺の……おやっさんから貰った信念だ。
 どんな背景があったって、信じた俺は変わらねえ。
 アンジュ、あんたは親父さんから何を貰った?」
 歩き出すリョウ。
 アンジュは目元をぐしぐしと拭って、小走りでリョウの横へ並ぶと一緒に歩き出した。
 と、その時。
「――!?」
 何かに気付いたリョウがアンジュを突き飛ばし、自らも飛び退く。
 同時に銃声。すぐ後ろにあった場所にあったスクラップから火花が散る。
「証拠に証人。一箇所に集めてくれてサンキューな」
 物陰から現れたのはグレーのスーツを被った深い髭の男。
「――工藤(クドウ)!」
「久しぶりだな、リョウ」
 工藤は拳銃を構え、立っていた。


 キーを刺し、エンジンをかけ、走り出す黒のスーパーカー。
 後ろから付け狙うように走り出したのは赤くパワフルなスーパーカーであった。
 バックミラー越しに後続の赤い車を見るリョウ。ひょこっと後部座席から顔を出し振り返ったアンジュとティヴァ。
 ハンドルを握る工藤が運転席側の窓を開け、拳銃を突き出してきたのが見えて二人は慌てて頭を下げた。
 幾度もの銃声。ひび割れるガラス。

 工藤は鼻歌交じりにリボルバーピストルの空薬莢を地面に放り捨てると、手放し運転でリロードを始めた。
「この俺の邪魔ァしたんだ。生きても死んでも地獄だぜ。野郎はぶっ殺して臭ェドブに、オンナはヤク漬けにして泡風呂に沈めてやるさあ!」
 そして再び銃撃を始める。

 一方こちらは今まさに後方から撃たれ放題になっているリョウ。後部座席ではアンジュが頭を下げながら呼びかけてくる。
「あれ、タラント組の工藤よね!? たしか幹部のひとり!」
「今は唯一の幹部だ。おやっさんがいない今、組長の座に一番近いのはあいつだろうぜ。実際おやっさんを殺したのはアイツだがな……」
 などと言っていると、スピードを上げた工藤の車が器用にリョウの車の真横に並んだ。シレンツィオ一番街の大通りを暴走する二つの車に、対向車線にいる馬車やスチームカーが慌てて避けていく。
「てめえらはおやっさんのお気に入りだったしな。目の上のタンコブってやつだ。この俺より、てめえらが組長になる可能性が大きかった!」
 工藤が窓越しに銃撃を浴びせてくるが、リョウはシートへ冷静に身を預けることでかわした。ハンドルを大きくきり、工藤の車両にぶつける。
「あんなクセェ綺麗事ばかり吐くジジイなんかより、ガンガンカネを生み出し、稼げるこの俺が組長に相応しい!! だから殺したのさ!」
「……」
 リョウは運転席から拳銃を取り出し発砲。アンジュも意を決して撃ちまくり、工藤の車は派手に脇道へ逸れオシャレなカフェへと突っ込んでいった。
「これからどうするの!?」
「姐さんのところへ行く。こいつを見せなきゃな」
 ティヴァにちらりと視線をやると、当のティヴァは首をかしげてジジジと歯車を鳴らした。


 豪奢な和服に身を包み、椅子に深く腰掛けるアンナ。
 艶めかしく晒した足を組み、膝に乗せたドラネコを撫でていた。
 彼女の目の前にはライトが立っている。
 部屋の外では激しい戦闘の音がする。
 誰が乗り込んできたのかなど、想像に難くない。
 暫くあって、開いた扉から部下の一人がよろよろと部屋に入り、そしてうつ伏せに倒れた。
「……何をしているのです。私はその男を殺せ、と命じたはずでは?」
「努力はしたようだぜ」
 ゆらりと姿を現すリョウ。そして、同じく姿を見せるケンジ。
「ケンジ。あなたは消されたとばかり思っていました」
 ちらりとライトの横顔を見るアンナ。ライトはうつむき、暫くの間黙っていた。
 そして……。
「思い出したんですよ。僕が小さい頃に、命を助けてくれたひとのこと。
 ハイスクールのサマーキャンプ。皆からはぐれ湖で溺れた僕を、あの人は救ってくれた。孤独の痛みと、それでも生きる強さを教えてくれた。
 アンナさん。あなたは人生の恩人です。
 けれど、ケンジさんも等しく命の恩人なんです。
 あの人を殺すことは、僕にはできません」
「……ハア」
 ため息をついて、アンナは足を組み直した。
 彼女から放たれる殺気を感じてか、ドラネコが慌てたように走り去っていく。
「姐さん、こいつを見てくれ」
 リョウが見せたのはティヴァに記録されたエンジェルいわし密輸の証拠であった。
「この組はもう筋を通せてねえ。やり直しましょう姐さん!」
「知っていましたよ」
「え?」
「そんなことは、知っていたのです。
 ケンジ、リョウ。わかるでしょう。タラント組の金看板が無くなれば、大勢の人間が路頭に迷うことになる」
「わからねぇよ姐さん。組が生き延びりゃおやっさんの意思は二の次か? そいつぁ仁義が通らねぇ!」
 アンナはもうそれ以上いらないとばかりに、一丁の拳銃を取り出しリョウたちへと向けた。
「貴方達は、シレンツィオの水底で眠っていなさい」
「姐さん……」
 アンナの指が引き金にかかろうとした……その時。
「テメェら全員死にやがれ!」
 部屋に乱入してきた工藤が両手にもった拳銃を、アンナとケンジそれぞれに向けて発砲した。
 ケンジを庇い割り込むリョウ。
 そしてアンナには――。
「アッ!」
 思わず割り込んだティヴァが、銃弾に当たり床に転がる。
「――!?」
 身を挺して己を守ったそのみすぼらしい箱に、気付けばアンナは駆け寄っていた。
 雨の日。捨てられた娼婦であった彼女を道ばたから拾いあげ、自分を庇ってくれた男の姿になぜだか重なったのだ。
 困惑しながらもティヴァを抱き上げるアンナに、ノイズ交じりの、そしてひび割れた画面が映る。
「『曲がったことを見逃すな。もし見つけたなら、ぶん殴ってもどしてやるのさ』」
「チッ、邪魔しやがってテメェら――」
「堕ちるところまで堕ちたな、工藤…曲がりきったテメェの狭気、ぶん殴って戻して――」
 工藤が次なる銃撃にうつろうとした矢先、アンジュが近くに置いてあった黄金のイワシ像で工藤を殴り倒した。
 血を流しながら立ち上がり、拳を握った所まではいったリョウが倒れた工藤とアンジュを交互に見た。


 記者会見が行われた。警察官僚の辞職や、責任の追及や、再発防止云々といった発言がフェデリア総督府のホールで行われている。
 あちこち傷だらけになったリョウは、フェデリアハウス前の階段に腰掛け煙草を吸っていた。
 隣にはケンジ。同じく煙草をくわえ、煙をはく。
「リョウ、お前……姐さんのこと……」
 言いかけたケンジに手をかざし、立ち上がった。
「なぁケンジ。お前は、真っ直ぐでいろよ」
 ゆっくりと階段を降りていく。その様子を、遠くからアンジュは見つめていた。修理されたティヴァをその胸に抱え。
 ひらりと風に舞った新聞には、警察官僚大量辞職の記事と、タラント組幹部工藤とアンナの逮捕の記事。その影にあったのは、自らの収賄を認め証拠を提示することで全てを明るみにだしたライトの存在があったという。
 アンジュはケンジへと歩み寄り、後ろから問いかける。
「これで終わったの? 警察も、タラント組も。これで全部が解決したなんて思えない」
「それでもいいさ。俺は……戦い続けるだけだ」

 空は青く、海鳥が飛んでいく。
 カヌレ・ベイサンズの聳える街の風景は、今日もまた賑やかだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――任侠伝説2、完!

PAGETOPPAGEBOTTOM