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シナリオ詳細

川。或いは、流れずにはいられない…。

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●夏の嵐
 夏の盛りも半ばを過ぎた。
 熱波に喘ぐ人民たちを、きっと天が憐れんだのだ。
 数日の長きにわたり、ごうごうと雨が降り続けた。
 やがて、降り続けた雨はついに河川を反乱させた。
 土砂が崩れ、岩や樹木が激流に押し流されている。
 山の麓の集落は、早くにそれに気が付いて村を捨てて住人総出で避難していた。
 そのうち1人が、それに気が付いたのは偶然だ。
「おい、あれぁなんだ? 人じゃねぇのか?」
「人? この村よりも上にゃ、村里なんぞありゃしねぇぞ? 地蔵か何かを見間違えたんじゃねぇのか?」
「待て待て、あれは人じゃねぇ! ありゃあお前ら……」
 村人の1人が濁った川を指さし叫ぶ。
 濁流の中を流されていくのは、緑の肌に黄色い嘴、背には亀に似た甲羅を担いだ、頭に皿を乗せた妖であった。
「河童じゃねぇか?」
 その数は実に10と2。
 うち7人の河童はどうやら子どものようだ。
「童が流されたのか? 助けに行った大人の河童も流れに攫われちまったんだ!」
「この激流の中、沈まねぇのは大したもんだが……それもいつまで持つんだろうな? そのうち消耗して溺れっちまうぞ?」
 海にまで出れば、流れも幾らか緩やかになるか?
 それとも、増水していてはそれも望めないだろうか。
 どちらにせよ、下流まで河童の体力が持つとは限らない。
「誰か馬を走らせて、下流の村に教えてやれ。俺らは無理でも、誰かがどうにか出来るかもしれねぇ!」
 雨音に負けじと誰かが叫んだ。
 かくして、河童救出作戦の決行と相成ったのである。 

●河童が溺れないと誰が決めた
「流れている河童の数は12人。7人が幼い子どもの河童で、5人が成人済の河童っす」
 河童と言えば、川を自在に泳ぎ回る妖であるとイメージされるが、実際のところは少々違う。水かきを備えているため、普通の人間よりは格段に泳ぎは得意なのだろうが、だからといって洪水や嵐にあってしまえば、溺れることもあるだろう。
 イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)は、呼集したイレギュラーズの前に古びた地図を1枚広げた。方々に手を尽くして手に入れた、件の川とその周辺の地図である。
 元より寂れた辺境の土地だ。
 地図などあっても役には立たぬと、手に入れるのには苦労した。
「現在、この地域には雨が降り続けているっす。山の方で土砂崩れでも起きたんっすかね? 濁った激流には、岩や木、家屋の残骸が混じっているっすよ」
 河童が流されていることからも分かる通り、泳ぎが達者な者であっても危険が伴う状況だ。
 まず、生半可な船では転覆は免れない。かといって、大型の船では川幅の関係で十全に走ることはできない。
 加えて雨風も強く、飛行するのも一苦労。
 一たび強風にあおられて、川に転落でもすれば【ブレイク】【重圧】【懊悩】といった状態異常に見舞われるだろう。
「川を泳いで助けに行くにも【泥沼】みたくなってるんで、そこらの人じゃ到底耐えきれないっすね。そういうわけで、イレギュラーズにお呼びがかかったわけですが」
 妖と人、種族は違えど困っているなら見過ごせない。
 川の近くの村人たちは、そう言う風に考えたという。
「岩とか木とか家の残骸とかにぶつかると手痛いダメージを受けるっす。それに河童たちの中には【混乱】している個体もいるって話だったっすね」
 子供の河童などは、憔悴していることに加えての【混乱】だ。
 そう長く、溺れずにいられるとも思わない。
「とまぁ、状況の説明はそんなところっすね。次に、地形についてですけど」
 地図の数ヶ所にコインを置いてイフタフは言った。
 まず1つ目は、川の上流。
 大きく川が曲がった場所だ。ヘアピンのような急カーブで、川幅は狭い。陸地面積も少ないが、この位置からなら川に入らずとも河童に手が届くかもしれない。
 しかし、川幅が狭い分、流れも急だ。
 2つ目は、川の中流付近。
 川はまっすぐ伸びていて、近くには村もある。
 村が近いため物資を確保しやすいが、川幅は広くなっていた。
 また、数ヶ所が小規模な滝のようになっているため、救助対象を見失いやすいという欠点もある。
 そして、最後が川の下流。
 海までもうすぐと言う位置で、川幅はかなり広くなっている。その分、流れも比較的緩やかではあるが、大雨のせいで川の流れが不規則になっているようだ。
「下流まで体力が持てば、大人の河童なら自力で陸まで上がって来られるかもしれないっすね。子供の河童の体力が持つかは微妙なところっすけど……元々、全員を助けるのは難しいかもって感じっすから」
 数人でも助けられれば良い方だ。
 唇をきつく結んだイフタフは、吐き出すようにそう言った。

GMコメント

●ミッション
河童5人以上の救助

●ターゲット
・河童たち×12
子どもが7人、大人が5人。
激流に流されており、子どもの河童は【混乱】状態にある。
山の上に暮らしていたが、土砂崩れに巻き込まれ川を流されているようだ。
河童たちは疲弊していて、元気がない。

●フィールド
豊穣。
とある川沿い。
雨が降っており、風も強い。要するに嵐である。
イフタフが見繕った河童の救助ポイントは3つ。
①川の上流。
ヘアピンのような急カーブで、川幅は狭い。
陸地面積も少ないが、この位置からなら川に入らずとも河童に手が届くかもしれない。
川幅が狭い分、流れが急。
②川の中流付近。
川はまっすぐ伸びていて、近くには村もある。
村が近いため物資を確保しやすいが、川幅は広い。
数ヶ所が小規模な滝のようになっているため、救助対象を見失いやすいという欠点がある。
③川の下流。
海までもうすぐと言う位置で、川幅はかなり広くなっている。
川の流れも比較的緩やか。
大雨のせいで川の流れが不規則になっている。海から流れ込む海水が関係しているらしい。
子どもの河童だと、下流まで体力が持たないかもしれない。

※川を流れる岩や木、家屋の残骸に当たるとダメージと【ブレイク】【重圧】【懊悩】の状態異常を受ける。
※川に長く使っていると【泥沼】の状態異常を受ける。
※風が強く、【飛行】中は突風に煽られ川へ転落するリスクが伴う。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 川。或いは、流れずにはいられない…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
型破 命(p3p009483)
金剛不壊の華
コータ・ヤワン(p3p009732)
鍛えた体と技で
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
ことはる(p3p010563)
かけだしのエイリアン

リプレイ

●川を流れる
 雨が降っていた。
 風は強く、空は暗い。
 嵐の夜には決まって人が死ぬものだ。
 そして、人死にが出た土地に住む者の多くは、その回避手段も熟知している。

「河童の川流れ、とはいうが生命の危険が迫っている以上笑ってもいられない」
 ごうごうと雨の降りしきる中、黒衣の男が道なき道をひた走る。
『報恩の絡繰師』黒影 鬼灯(p3p007949)は、生き人形の愛妻、章姫を胸に抱えて視線を左右へ巡らせた。
 目的地である川へ向かうためのルートを、そうして素早く“選んで”いるのだ。何しろ嵐の夜である。当然に整備されていない道はぬかるみ、場合によっては土砂崩れの危険さえ伴うとなれば、それはすなわち“最短ルート”が最短では無くなる可能性もあるということ。
「勿論、二次遭難には最大限注意しながらね」
 鬼灯に続く『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)がそう告げた直後、遠くの空で雷が響く。
 空気を震わす轟音は、緩んだ地面の一部を崩落させた。
「緊急事態だな。冷静に、迅速に。行こう!」
 森を抜けた『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)の視界に、水嵩を増した河川が映った。荒れ狂う濁流と、濁った川を流れる木材や岩石……その中から、12人の河童を救助するのは、どうにも骨が折れそうだ。
「河童も溺れるレベルの激流か、こりゃあ準備をしっかりしないと己れ達まで危ないな」
 雨に濡れた金の髪を掻きあげて『金剛不壊の華』型破 命(p3p009483)が溜め息を零した。依頼の内容を脳裏に浮かべて命は唸る。
 半数も助けられれば上出来といった依頼であるが……それはつまり、イレギュラーズの出動が無ければ全滅も止む無しという状況だということだ。
「こいつは酷いな。泳ぎの得意な河童ですらも流されるって相当な氾濫だ」
「“一人でも多く”ではなく“全員助ける”であります! ここに集う皆と一緒ならば、必ずや叶えられましょうぞ」
 『鍛えた体と技で』コータ・ヤワン(p3p009732)は、近くの樹へとロープを結び救助の準備を整える。コータに手を貸す『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)も、台詞に反してその表情には焦りの色が滲んでいた。
 河童たちを助けるチャンスはそう多く巡って来ないだろうか。
 中流で救助の準備を続ける仲間たちを横目に、鬼灯とエーレンは上流へ向けて駆けていく。

 粗末な木戸を拳で叩いて『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は雨音に負けじと声を張る。
 夜間の来訪者を迎えたのは、疲れた顔をした老人だ。
「どなたか? こんな雨の中、旅人かな? 泊めてやる程度は構わんが……大したもてなしも」
「悪天候の中すまない、俺たちは神使だ! 川に流れたものの救助に物資を借り受けたい!」
 神使という言葉に、老爺はピクリと眉をあげた。
 練の慌てようから、ただ事ではないと判断したのか「待っていろ」と一言告げて老爺は部屋へ引き返す。
 小さな村の、小さな民家だ。
 練へ貸せる物資は極僅かだが、村をあげて集めれば相応の物は揃うだろうか。

 川の下流。
 暗闇にぽうと光が灯る。
 深海に住む魚のように、その光は“ソレ”の額に繋がっていた。
「皆を助けたいでっすけど、この下流まで流れてくるってことは“相応の覚悟”はしておくべきでっすよね?」
 誰もいない河原で1人。
 声を上げる小さな影の正体は、エイリアンと呼ばれるそれだ。頭にタコでも乗せたみたいな、子供のような小柄なそれの名は『かけだしのエイリアン』ことはる(p3p010563)。
 豊穣においては、古い時代に“虚船”と呼ばれる空飛ぶ円盤に乗って、飛来するとされるっ未知なる生物であるが……こうしてそこにいる以上、未知とは過去の話であろう。
「……って、暗いの禁止ー!そうならないために、仲間が頑張ってまっす!それに、大人の河童さんなら助かる可能性があるんでっすから、信じてやれることをやるだけでっす!」
 河原に停めた馬車の近くで火をお越し、荷台に積んだ毛布やロープといった物資に手を伸ばす。
 
●溺れる者
 川を流れる河童は12。
 子どもが7人、大人が5人だ。
「5人以上救出出来れば上々…だったか、否! 全員救助してこそ成功と呼べるだろう?」
 上流の流れは急だった。
 狭く、曲がりくねった川の形がそうさせるのだろう。
 用意した鉤縄を、水着に着替えたエーレンへと手渡すと鬼灯は視線を背後へ向ける。
 練が声をかけてくれた付近の村人たちが、今頃こちらへ向かっているはずだが……悪路とあって、到着は遅れているらしい。
 もっとも足場となる陸地が少なすぎるため、そう大勢を人力として数えることは出来なさそうだ。せいぜいが4、5人ほどか。
「この流れに逆らって河童を引き寄せるとなると……いや、やるしかあるまい」
「私も河童さんの手当のお手伝いするのだわ!」
 ロープを握る章姫が言った。髪も衣服もびしょ濡れで、あまりにも無残な姿であるが彼女は一切を気にしていない。
 衣服の汚れも、泥に塗れた髪も後で洗えばいい。
 失われた命は2度と元には戻らないのだ。それに比べれば、髪や服など安いもの。
「来たぞ」
 鬼灯の脳裏に、助けを求める誰かの声が聞こえた気がした。
 濁った川の中に河童の姿が見える。
「あぁ、では始めよう」
 そう言ってエーレンが走り出す。
 その体や手足には、数本のロープが巻き付けられていた。
 
 跳躍。
 エーレンは、濁った川へと飛び込んだ。瞬間、身体にかかる激しい圧力は、川の流れによるものか。
 上下の区別さえ、アッという間に定かでなくなる。
 視界は濁流に覆われて、流れる木っ端が身体にぶつかる。尖った木材がエーレンの腹に突き刺さり、流れた血で視界が僅かに紅く染まった。
 けれど、慌てることは無い。濁流へ身を投げたのだから、この程度は想定の内だ。
「っぷはっ! ……っ大丈夫だ、助けにきた。しっかり捕まっていろよ!」
 胴に走る激痛に顔を顰めながら、エーレンは1本のロープを河童へ巻き付ける。
 半狂乱の状態にある子どもの河童だ。助けを求めるようにそれが、エーレンの腕を必死の形相で掴む。
「っ……すぐに助けてやる。もう大丈夫だ!」
 腕を封じられてエーレンの頭が水に沈んだ。
 側頭部に走る激痛。岩か何かがぶつかったのか。
 河童を宥めながら、エーレンは2本目のロープを別の河童へ握らせた。
「後ろから倒木が流れてきているのだわ!」
 章姫の声が耳に届く。
 背後を確認する暇は無い。しかし、河童を守る必要はある。
「いいぞ鬼灯、引いてくれ!!」
 2人の河童を胸の前で抱くようにして、エーレンは合図の言葉を叫ぶ。

「貴殿らの異形を恐れず、助けたいと思う心の清らかさはとても稀有で得難いものだ。どうか彼らの救出に力を貸してほしい」
 集まって来た村人たちへ鬼灯は言葉を投げかける。
 それから、ロープを手渡すとエーレンからの合図を待った。
「いいぞ鬼灯、引いてくれ!!」
 雨音に紛れ、エーレンの声。
 直後、倒木がエーレンの後頭部を打った。
 途端にエーレンはぐったりと顔を俯かせるが、前に抱えた2人の河童はおかげで無傷だ。
「っ……今だ」
「せーのっ!」
 鬼灯の号令に従って、2本のロープが強く引かれた。

 川の中流。
 まっすぐに伸びた川を遥か見渡して、錬がロープを持ち上げる。
 ロープの先端に括りつけられた浮具は、近くの村から調達して来たものである。河原が相応に広いこともあり、錬を中心にイレギュラーズや村人たちが広く配置されていた。
 川はまっすぐだが段差が多い。
 滝のようになっている箇所など、特に注意が必要だ。流れに身を任せ、段差に体を打ち付けたなら大きな怪我もするかもしれない。
「もう直ぐ来るぞ、もうちょっと奥側で待機してくれ!」
 そう叫んで、錬は川面へ手を向ける。
 一瞬、錬の手元が光って無数の魔弾を射出した。魔弾で狙うのは、濁流に押されて流れる倒木。放置したままでは、救助の際の邪魔になりかねない。
「行け! タイミングを外すなよ! 誰か、川の反対岸へ跳べないか!? そっちに数人流れている!」
 視線を左右へ走らせながら河童の位置を把握する。
 その数は全部で8人。
 だが、もしかすると数人は流れに飲まれて視認できないだけかもしれない。
「反対岸へは己れが行く!」
 命は真っ先に流れに飛び込み、川の反対岸へと泳ぐ。
 腰に括ったロープがピンと川面に張れば、残る仲間たちもそれを伝って川の各所へ配置。
 それぞれの腰にはロープが結ばれ、それぞれの手には浮具を持っている。
 それを使って、河童たちの救助活動を行う心算である。
「君達の救助に来た冒険者だ! 今からそちらへ向かうからもう少しだけ待っていて欲しい!」
 流れて来る河童たちへ向けカインが叫ぶ。
 カインの声に気が付いたのか、河童の1人が反対岸を指さした。溺れかけながらのため、何と言っているのかは非常に聞き取りづらいが、どうやら「そっちを先に助けてほしい」というような意図であるらしい。
「もう大丈夫であります。手足の力を抜いて、キサに任せるでありますよ」
 叫ぶ河童を、待ち構えていた希紗良がしっかと受け止める。
 沈む心配がなくなった河童は、希紗良の肩に手をかけて必死の形相で口を開いた。
「子供が1人、沈んじまった! あ、あ、あいつを引き上げてくれ!」
「っ!? なんと……コータ殿っ!」
「聞こえていた! 任せてくれ!」
 希紗良と河童の会話を耳にしていたのだろう。
 コータはタコの脚をくねらせ、濁流の中へと潜っていった。

 川の底に両の足を突き立てて、命はその太い両腕を大きく広げた。
 濁流に押し流されそうになる。
 身体にぶつかる木や岩が、命の皮膚を傷つける。
 けれど、彼は1歩たりともその場を引かず伸ばした両腕で2人の子河童を抱き止めた。
「もう大丈夫だからな、己れがいる」
 ぐったりとした河童たちに、努めて優しく声をかけた。
 河童たちからの返答は無い。体力を使い果たして、今にも意識が途絶えそうになっている。
「引いてくれ! それから、誰か治療を!」
「了解であります! さぁ、もう少しであります! 頑張るでありますよ!」
 河童2人にロープを巻き付け、村人たちにそれを引かせた。
 これ以上、河童が傷つかないよう希紗良が声をかけつつ、瓦礫を排除する。
 そうして新たに2人の河童が陸へと引き上げられた。
 先に陸へと上がったカインは、錬と協力して毛布で2人を包み込む。
「よく頑張った!」
 カインの声を聞いた河童は、薄く目を開け口を開いた。
 感謝の言葉でも口にしようとしているのか。
 そんな河童の頭を撫でて、カインはもう1度「大丈夫だ」と言葉を投げる。
「この子たちを頼むよ」
 毛布で包んだ2人を練へと預けると、カインは再び川の流れへ身を躍らせた。

 コータは川の底にいた。
 胸に手を当て、自身を治療し、そうして再び川底を這うようにして移動を開始。
(……見つけた。くそ、意識が無いのか)
 川底の岩に引っかかっている子供の河童へ手を伸ばす。
 淡い燐光が散って、河童の体へ降り注いだ。
 治療が成功したということは、まだ命は失われていないということだ。けれど、すっかり体力が減った現状では、時間的な猶予もさほど残されていない。
 急いで河童を抱き上げると、ロープを伝って川面を目指す。
「引け!」
「引けぇ、でありまぁす!」
 コータと河童を目視するなり、希紗良が声を張り上げる。

「体力気力への消耗が大きい。誰か火を大きくしてくれ! 乾いた毛布は余ってないか!迅速に行動しなきゃ、助けられない!」
 河童の容態を確認しながら、特に弱った1人をカインは抱き上げる。
 カインの声は、河童の耳に届いただろうか。
 或いは、その声は深い闇の底に沈んだ河童の“意識”を震わせたのか。
 薄く、今にも閉じてしまいそうなほどに薄く。
 目を開いた河童の視界に、必死の形相で叫ぶカインの横顔が映った。
 助かった、と。
 そんなことを、河童は思ったことだろう。
 目を覚ませ、しっかりしろと、カインは必死に声を投げかけ、焚き火の傍へと疾駆する。

「河童の治療はカインと練に任せておけばよさそうか」
 頬を濡らす血を拭い、命はそう呟いた。
 陸にあがったカインと練が慌ただしく駆け回っているのが見えた。カインが容体を確認し、錬や村人が治療や手当に奔走している。
 水中では、コータと希紗良が今も救助活動を続けているが……見える範囲に河童は1人しかいない。
 中流で救助した河童は6人……上流で救助が成功したのは2人か3人ほどだろうか。
 水中を捜索するべきか。
 それとも下流へ向かうべきか。
「こっちは3人助けたのだわ!」
「残る3人が下流へ流された! 追え!」
 樹々の間を縫うように跳ぶ、黒い影がそう叫ぶ。
 その声を聞くなり、命は慌てて下流へ向かって駆けだした。

 下流。
 広い川の畔に立ったことはるが、両手のロープを頭上で振った。
 川の流れは上流に比べて緩やかだが、それでも十分に激流だ。加えて風も強いのでは、狙った場所へロープを放るのも一苦労。
 上流と中流ですべての河童を救助で来ていたならいいが……。
「そう上手くはいかないみたいでっす」
 川岸を駆ける命の姿を視界に捉え、ことはるは川へ近づいていく。
 どうやら命は、水中の河童たちへ回復術を飛ばしているようだ。
「聞こえますか! 今、ロープを投げ込みまっす!」
 河童たちに声を投げかけ、2本のロープを頭上で大きく旋回させる。
 ことはるの存在に気が付いたのか、水中から河童の1人が手を挙げた。
「同胞か!? すまぬ! 恩に着る!」
 ことはるの外見を見て、妖の類と思ったのだろう。
 その手首へ向け、ことはるはロープを投げつけた。

 3人の河童をロープで捉えた。
 しかし、川の流れが速くロープを岸へと引き上げるのが難しい。
 それどころか、ロープを括った馬車が少しずつ川へ向けて引き摺られている。
広い河原にはロープを結ぶ木も無かったのだ。しかし、ぬかるんだ地面では車輪をしっかり固定することは出来なかったらしい。
「ぬぅっ! う、腕が引き千切れそうでっす!」
 ずるり、と。
 足元が滑って、ことはるは大きく姿勢を崩した。
 顔面から地面に激突し、ピンと張っていたロープが弛む。直後、河童たちが急流に捉われてしまい……そうなるともう、ことはる1人では3人を引き上げるのは至難となった。
「諦めるな! 姿勢を整えろ!」
 ことはるを鼓舞し、ロープを掴んだのは鬼灯だ。
 河原を走る章姫は、河童たちへ必死に声援を送っている。
「もういい! おめぇさんらも流されちまう!」
「子供を助けてくれたんだ! 十分だよ!」
「ありがとうなぁ、見知らぬ者らよ!」
 河童たちが、ロープを離せと言っている。
 自分たちを見捨てろと、河童たちはそう言っている。
ギリ、と歯を食いしばり、ことはるは思考を巡らせた。どうにか手はないか。起死回生の1手は無いか。
「っ……馬車ごと吹き飛ばせば」
 河童3人をまとめて水上へ上げられるかもしれない。
 一時でも川の流れから解放すれば、どうにか助けられるかもしれない。
 しかし、そのためには手数が足りない。
 時間が足りない。
 上流の方から、仲間たちが今頃こっちへ向かって来ていることだろう。
 けれど、到着を待っているだけの余裕は無い。足場が悪く、鬼灯と2人がかりでも徐々に川へと引き寄せられているからだ。

●起死回生の一手
「己れごと飛ばせ!」
 そう告げたのは命だった。
 ことはるの手からロープを奪うと、それを体に巻き付ける。
 ことはるは、長い触手を振りかぶり……。
 ドン、と。
 命の胴へ向け、渾身の殴打を叩き込む。

「……と、飛んでるぞ」
 そう言ったのは、錬だった。
 目に映るのは、ロープに引かれて宙を舞う河童たちの姿。
 ロープの先端は、河原を滑る命の胴に巻かれている。
 しかし、すぐに練は「まだ終わっていない」ことを悟った。
「急げ! ロープを引け! このままだとまた川に落ちるぞ!」
 雨音に負けぬ練の号令が響き渡った。
「えぇ、すぐに!」
 地面を蹴ってエーレンが跳ぶ。
 その額には血の滲んだ包帯が巻き付けられている。
 川から離れた今ならば、河童たちを陸へ引き上げるのも容易だ。
 希紗良とカインも後に続いた。
 万が一の事態に備え、コータは川へと飛び込んだ。

 重症1人。
 軽傷11人。
 死者0人。
 建物、作物被害は甚大。
 
 河童救出劇は、以上のような結末を迎えた。
 雨が上がって、数日ぶりに昇る朝の光を見上げ……誰にともなく、拳を空へ突き上げる。
 

成否

大成功

MVP

天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師

状態異常

型破 命(p3p009483)[重傷]
金剛不壊の華
エーレン・キリエ(p3p009844)[重傷]
特異運命座標

あとがき

お疲れ様です。
河童12人は無事に救助されました。
依頼は大成功となります。
数の力は偉大ですね。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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