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シナリオ詳細

<Stahl Gebrull>払う者、或いは、払われるべきモノ

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


「此処に集まった以上、既に現状に対しては理解しているな?」
 ――問うた情報屋の言葉に対して、『ローレット』に集まった特異運命座標達は然りと首肯一つを返す。
 発端は先ほどの事。
 鉄帝国と『ローレット』による共同作戦……通称「鋼の進撃<Stahl Eroberung>」作戦の折、両者を裏切った末に古代遺跡の奥へと消えていった『特務大佐』パトリック・アネルが、アーカーシュそのものを介して鉄帝国の帝都、スチールグラートへの進撃を始めたと言う。
 パトリックはその姿を隠していた間にアーカーシュの最高権限(システム・メタトロン)を掌握し、遺跡内に眠る多くの古代兵器を操ることに成功していた。特にパトリックが擁する兵器の中でも随一の火力を誇るエネルギー砲、『ラトラナジュの火』の威力は特に恐るべきものであり、これによる被害を生まないためにも一刻も早い対処が求められている。
 自身が掛けた依頼への募集に対して即座に応えた特異運命座標達を前に、情報屋は一瞥のみをくれると即座に依頼資料へと目を落とす。
「特務大佐……否、『元』特務大佐、パトリック・アネルが発したアーカーシュによる侵攻作戦に対して、エッダ・フロールリジ(p3p006270)は『鋼の咆哮(Stahl gebrull)』作戦を宣言した。
 その内容は大きく分けて三つ、エピトゥシ城の防衛、飛行能力を持つ古代兵器軍との交戦、そしてショコラ・ドングリス遺跡への再侵入だ」
「俺たちが担当するのは?」
「一つ目、即ちエピトゥシ城の防衛だな。
 現状、あそこはアーカーシュに於ける我々の唯一の拠点であると同時に、レリッカの住人たちの避難場所でもある。この状況でネズミ一匹とて通すわけにはいかん」
 冒険者の問いに対して淡々と答える情報屋は、確認していた資料の内から一枚を彼らにも見えるよう差し出す。
「敵は先の遺跡深部にて眠っていたゴーレム……通称ラースゴーレムと呼ばれるタイプの古代ゴーレムが8体だ。
 元来の戦闘能力が高くないとされていたそれらの中でも、今回貴様らが相対するタイプはそもそも農作業や遺跡内のメンテナンスなどを行う非戦闘用のモデルだったらしい」
「……実力的には与し易い部類だ、と?」
「生憎、そうもいかん。
 彼奴等は憤怒の魔種であるパトリックの影響を受け、その性能を大きく向上されている。その分機体としての寿命も相当縮まっているだろうが……」
『いつか』倒れる。そんな不透明なタイムリミットを待ってやれるほど、現在の特異運命座標達に余裕はない。早期の撃破が求められるのは必定と言えよう。
「攻撃方法はシンプルだ。近距離からの格闘攻撃に因る単体攻撃、これ一つのみ」
「『他には?』」
「……可愛げが無い質問だ。当然、他にもギミックは在る。
 先ず、単純に物理・神秘を問わず防御性能と体力が非常に高い。それだけでなく、自身から半径5mを超える攻撃に対するジャミング能力を備えているらしく、それらの命中率は1割を大きく切るとのことだ」
 必然、近距離での戦闘が求められる。前衛陣をサポートする支援・回復役を除けば、後衛役はほぼ不要とされるであろうが。
「……一応聞くが」
「何だ」
「ゴーレムたちの目的は?」
「遺跡内への侵入、内部の非戦闘員を可能な限り殺傷せしめること」
 ――それはつまり、敵の数に応じたブロッカーの用意が為されなければ、前衛を抜けたゴーレムたちによる遺跡内での虐殺が発生すると言うことだ。
 脅威ではないが、厄介。それを理解した特異運命座標達に対して、情報屋は言葉を投げかける。
「貴様らは地獄を見るだろう。
 だが、それで終わるか、その果てに在る何某かを見るかは貴様ら次第だ」
 この苦境、乗り越えて見せろと。


 ――障害を払う。
 遺跡を出て後、進路を邪魔したエレメンタルを吹き飛ばす。消滅する残滓から聞こえた音は哀惜にも聞こえた。

『おうい、デカいの。この瓦礫を除けてくれんかね。昨晩の嵐で壁が崩れちまってな』

 障害を払う。
 此方に警戒の鳴き声をあげていた幾らかの動物を薙ぎ払った。首の骨が折れたそれらは、悶えるように蠢いたのち、軈てその動きすら止めた。

『貴方達のお陰で運行も順調です。今度確りとメンテナンスしてあげますからね』

 障害を払う。
 城外で戦闘していたと思しき敵兵の一人を轢殺する。血と涙を綯い交ぜにしたその表情から、末期の言葉が零れることは無かった。

『ごーれむさん、あたまにお花、あげるね! かわいいでしょ?』

 障害を払う。
 敵は八名。装備も無く、前回から碌な整備もされていない躯体を全力で稼働させ、この身を突き動かす。



 だが、果たして。
『障害』とは、誰に対してのモノか。
 そもそも『障害』とは、彼らなのか、我々なのか。

GMコメント

 GMの田辺です。
 以下、シナリオ詳細。

●成功条件
・『ラースゴーレム』8体の撃破

●場所
 空中都市アーカーシュに存在する『エピトゥシ城』、その城門前の広場です。時間帯は昼。
 遺跡側から送られてきた数多くの古代兵器との戦闘が各所で行われている為、戦闘中は毎ターンの開始時、以下のイベントのうち一つがランダムで発生します。

・流れ弾:戦闘に参加しているすべてのPC、エネミーが「最大HPの5%(端数切り捨て)」のHPを失います。回避、軽減不可能。
・足場不安定:戦闘に参加しているPC、エネミーから各1名が行動不能状態になります。対象はランダム。
・偶然の支援:戦闘に参加しているPCの内、最も体力が低い対象に「最大HPの20%」のHP回復、「BSの解除判定」が入ります。
・武装拾得(敵):戦闘に参加しているエネミーの内、ランダムで1体がターン終了時まで「高威力の遠距離単体攻撃(物理・神秘選択可能)」を手に入れます。

●敵
『ラースゴーレム』
 ショコラ・ドングリス遺跡内にて休眠状態にあり、今回憤怒の魔種であるパトリック・アネルによって強制的に呼び動かされたゴーレムたちです。数は8体。
 元々は人間に代わって力仕事などを行うための個体であったため、武装は無し。但しそれらを扱うための知識は有しております(上述「武装拾得」(敵)など)。
 ステータスは物理・神秘双方の防御と体力面、また攻撃力にも特化しているオールラウンダーな格闘タイプです。攻撃方法が近接対象への単体攻撃のみと言うシンプルな手段ながら、それを補うように「5m超からの攻撃、妨害手段を無効化する」能力を持っている為、単純にやりにくいタイプの敵と言えるでしょう。
 また、このゴーレムたちは自身に与えられた命令の遂行に全力を尽くします。必要であれば他の個体にブロックを任せ、その内に残ったゴーレムが遺跡内に侵入することも厭わないでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。



 それでは、ご参加をお待ちしております。

  • <Stahl Gebrull>払う者、或いは、払われるべきモノ完了
  • GM名田辺正彦
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年09月01日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
浮舟 帳(p3p010344)
今を写す撮影者

リプレイ


 哲学の歴史に於いて、『ライプニッツによる風車小屋の思考実験』と言う論証が在る。
 ヒトと同じように思考し、知覚し、感覚する機械があるとして、その構造を内部から観察したとしても、その精神構造や感覚の働く様を見出すことは出来ないと言う意見である。
 ――――――そのような、此度の戦いとはまるで縁遠い論拠を、今臨む者たちの何れもが抱いているなどとは誰が思おうか。
「『彼ら』は、私が仲良くなったゴーレムたちとは違う個体だろうけど」
 周辺の戦況は苛烈だ。
 ともすれば自らの周囲に砲弾や魔術の残滓が飛び交う中に於いて、けれど寧ろ凪のごとく静謐とした『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)は淡々と言葉をこぼす。
「それでも、思うんだよね。
『折角彼らと仲良くなれたのに』『彼らとも、ひょっとしたら仲良くなれたのかもしれないのに』って」
「うん。それに何だか、このゴーレム達は……」
「物悲しい気が、して」。戦闘開始直後、最後の一言を口中に残した『ノームの愛娘』フラン・ヴィラネル(p3p006816)の表情には、焦燥よりも躊躇じみた感情が見て取れる。
 双方が『敵』を視認して後、行動は恐ろしく速かった。城内に侵入する際の障害へと疾駆するゴーレム達よりも早く、真っ先に挙動したのは五人である。
「……民間の戦闘転用って聞かない話ではありませんからねー。私の世界でもそういった話は聞いたことありまスよ」
 命を賭す鉄火場に於いて、いっそ気だるげな口調でそう呟く『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)は、しかしその所作に一切の淀みがない。
 戦場を動く際、自身が見出す最適のルートを『ステルス的二十二式自動偵察機』によって戦場各所にポイント。「同様に動け」とばかりに示されたそれを他の仲間たちが的確に進めば――それは即ち疑似的な機動力の引き上げに他ならない。
 連鎖行動。自身に並び走る『カモミーユの剣』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)の背に一瞬潜んだ彼女は、その刹那を以て即座に術式を構築、展開した。
「本来望まれたその仕様とは異なる働きを強いられて。アンタを作った人やアンタに感謝していた人は何を思うのか。
 ……興味が無いと言えば嘘になりまスが、生憎、今の私らにそれを気遣う余裕は無いもんで」
 敵方は、中・遠距離からの攻撃を無効化する能力を備えている。
 それを理解している美咲が至近距離に飛び込んだ後、叩きこむは神翼獣の残滓。権能からなるミニハイペリオンの群れが強かにゴーレム達を打つが、流石にそれで揺らぐほど柔な性能をしてはいない。
 そして、それは特異運命座標達にとっても織り込み済みのこと。
「無辜の民が危険だって言うなら、助けにならない訳にはいかないな!」
「ラースゴーレム 尊厳 奪還。
 人類ノ敵トシテデナク 友トシテ」
 戦闘開始時と言う事もあり、敵方が固まっていたことが幸いした。
 シャルティエが、『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)が、そしてフランと『愛知らば』グリーフ・ロス(p3p008615)までも。
 計四人によるハイ・ウォール。壮麗足る四壁を以て初手の前進を完全に封じられたゴーレム達。ならばと拳を振り上げ叩きつける様を、グリーフは躊躇うことなく受け止める。
「私も秘宝種。被造物です。違いは造物主の望みに沿って生きているか否かというだけ」
 骨が軋む。白肌が裂けて吹き出したる血液―――――否。
「……貴方達は、それをどう感じていますか?」
 答えはない。当然のこと。
 傷口から漏れ出したのは赤黒の鎖であった。葬送曲・黒。呪詛の群れが応報であるとばかりにラースゴーレムを縛り上げれば、手足を封じられたそれは今この時に於いて『多少硬い木偶』と変わりはない。
 ……なればこそ。
「造られたものが、そう命じられたのです。ただ、其れだけのこと」
 隙を逃さじと。辿り着いたのは翠の薄翅を背負った少女。
 連鎖行動から外れていた『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)が追いついた。中空を舞う彼女が閃かせた繊手からは、煌々と迸る赫の雷を顕現させた。
 単体を対象とする其れの威力は絶大だ。軋むゴーレムの身体を何の表情も無く(或いは、「そうあれかし」と堪えるように)見下ろすアッシュの瞳に迷いはない。
 ――戦線は構築された。ゴーレム達は障害から脱するために動き、特異運命座標達はそれを許さんとばかりに追い縋り食らい付く。
 それを戦いだと呼べる者は、きっと、この中には居なかった。



 何故と言って。
 全ての結末はもう、この時に決まっていたのだから。


 敵方の目的が「城塞への侵入、非戦闘員の殺害」であるとするならば、特異運命座標達が取るべき作戦は分かりきっていた。
 初動で美咲が先導する形で連鎖行動、先にもあったようにシャルティエら四名の機動性を引き上げ、ゴーレム達が動くよりも早くそれぞれをマーク、或いはブロッキングする。
 以降の行動は単純だった。上述した者たちに加え、他の面々も万一の際のブロックを備えつつ、空いた主行動で攻撃と回復を行い、少しずつ敵の体力を削っていくこと。
 戦法としては非常に消極的とも言えようが、それも当然のこと。この戦いには時間制限などと言ったものは無いのだから。
 成る程敵方は確かに事前情報から耐久性に優れていると言われていたが、それでも小さなダメージとて積み重なれば倒れることは必至。
 対し、特異運命座標達の側は受けた損傷を回復する手立てを有している。尚且つそれがメンバーの中で最高能率を誇るフリークライであるならば、気力の枯渇に於いても心配が要らない。
 特異運命座標らがこの差異を理解し、尚且つそれを突ける最適な構成を活かした作戦を取った時点で、最早ゴーレム達は退き潰される麦粒と大差ない存在となってしまったのだ。
 ……無論、それでも一切の支障が無いとは言えなかったが。
「また……!」
「うーん、『これ』を繰り返されるのも厄介っちゃ厄介っスねえ」
 アッシュが臍を噛む。美咲が軽く頭を掻く。
 特異運命座標達のマークによって後退以外の移動を封じられたゴーレム達は、「だから、そのようにした」。
 恐らくは一人による複数体のブロック、乃至マークは警戒されていたのだろう。ゴーレム達のうちおよそ半数の個体が自身をマーク、或いはブロックしている存在をそれぞれブロックし返し、残った半数が一時後退したのちに別方向から城内への侵入を果たそうとしてきたのである。
 効果の持続時間が短いマークと、ハイ・ウォールの相性の悪さがここで露呈する。今回のように敵が自らの損害を恐れず、一体でも目標地点に侵入させようとしてくる依頼では特に。
 これに対して、特異運命座標達の動きも素早かった。それまでマークに加えブロックも視野に入れていた者たちは即座に其方へとシフト、時同じくして非常時のブロッキングを考慮していた者たちも半数の侵入役に向かって足止めに臨んだのである。
 こうなれば、懸念点は二つ。
 即ち「一対一のブロック同士から漏れた者の討伐」と「回復役がブロックに回った状況下でどちらがより長く耐え続けられるか」である。
 これは主に、ブロック役を他に任せたアタッカーの迅速な討伐が重要視される。それを理解しているからこそ先のアッシュと美咲は苦悩し、Я・E・Dは焦燥を隠し切れない。
 究極の光が敵を灼く。高威力の具現であるアルティメット・レイ、アッシュの赫雷、美咲のハイペリオンオーバーライドを立て続けに受け、腕部を脱落させ、装甲を剥離されたゴーレムは、それでも使命に殉じて只管に動く。
「……わたし達には、この子達を破壊するしか止める手立てがないんだね」
 謝罪の言葉を、Я・E・Dは言わない。幾たびを繰り返そうと、このフェアリーテイルはきっとここで戦うことを選んだだろうから。
 二次行動。最早幾ばくも動けないであろう躯体にマスケット銃の弾丸を見舞えば、それを最後に漸く一体のゴーレムが動きを止める。
 ――再び言うが、だから、これは戦いとは呼べぬものにしかなり得なかったのだ。
 特異運命座標達が取り得た行動は基本的に二つ。一つは少数による複数体のブロックで僅かな時間の足止めをしている間に、多数の火力で一気に削り切るか、若しくはその逆に多数のブロックで敵の大半の動きを制限したのち、その範囲から漏れ出た少数を集中攻撃で削り切った後に持久戦を以て制するか。
 今回はその二つの折衷案とでも言ったところだろう。前者は少数のブロック役が追うダメージの大きさが、後者はブロックから漏れ出た敵を削り切れなかった場合の失敗のリスクが考えられたが、特異運命座標達は最早これを乗り越えた。
「……ラースゴーレム 戦闘用 違ウ。非戦闘用」
 ヒトならば、此処で敵わじと投降したかもしれない。
 ただ、ゴーレム達は違う。与えられた命令をこなすこと以外に何も求められなかったそれらは、今や達成不可能と判断された任務に於いても臨み続けなければならない。
「命 助ケル ゴーレム 使命。キット 沢山 感謝サレタ」
「もしそうなら、彼らに人を傷つけさせないように。それが救いになるなら、せめてその救いだけは叶えさせる」
 フリークライの言葉に、頷くシャルティエ。
「だから、僕が君たちを止める」などと。小さく静かな名乗り口上に、幾たびも殴りかかるラースゴーレム。
 元が非戦闘用とは言え、魔種に強化されたスペックはやはり脅威であった。フランやフリークライの回復も先のような敵の動きを考慮すれば合間合間にしか撃てず、その結果としてパンドラを消費した者や、『今を写す撮影者』浮舟 帳(p3p010344)のように膝を屈することを余儀なくされた者も居る。
 ――――――それでも。
「ごめんね、あたし達もここは通せない」
 静かに、事は終着していく。
 また一体が倒れ、二体が倒れ。遅々としながらもしかし確実に数を減らしたゴーレムは、最後の最後まで城の方角を向きながらその活動を停止させていく。
「救いたくても手が足りないから、手遅れだと人を見捨てた。
 痛い、苦しい、熱い。そんな言葉、回復手なんだからいっぱい聞いた」
 そうして、最後に残った一体すらも。
「……何でだろうね。今こうして倒した、敵である筈のゴーレム達にも、その時とおんなじ気持ちを抱いたんだ」
 誰ともなく。そう呟くフランへと、唯一人語り掛けたのはグリーフ。
「作業用として生み出され、役目を終えて眠っていたのに、本来の意図とは別の形で目覚めさせられる。
 ……それに対して、もし彼らが抱いた感情があるのなら」
 戦闘による熱で赤く染まった装甲に手を添える秘宝種。己の手が焼けるのも気にせず、ただ一言の言葉を添えた。
「彼らの心を、私は記憶し、弔いましょう」
『それは、私が歩むかもしれなかった道なのですから』と。
 稼働が停止するその間際、明滅した瞳の光は、何処か光を照り返した涙にも思えた。


 一つの戦場が終幕を迎えても、大局においての『作戦』は終わってはいない。
 少しの時を経て、応急処置を済ませた彼らはきっと、すぐさま次の戦場へと向かうのであろう。
 ……だからこそ。
「美咲さん、何してるんだ?」
「ん-? 使えそうなパーツがあったら持って帰ろうかな、と」
 問うシャルティエに、答える美咲。言葉とは裏腹に、破損したゴーレムの部品をかき回すようなこともせず、慎重に使えそうな部品を目視で見定める美咲は、その過程で一度だけ小さく問うた。
「……意地汚いって思いまスか?」
「いや」

 ――「その欠片だけでも、次はヒトの役に立てるように」。それが、貴方から彼らに対する弔いなのだろう?

 そう口にすることを、シャルティエは控える。ただこの機人たちの凶行を止めようとした自分よりも、よほど情のある行いだと苦笑しながら。
「……グリーフ、読メタ?」
「いえ。彼らは、それを拒んだようですから」
 その傍らで。また別のゴーレムの残骸へと、静かに寄り添い続けていたグリーフに、フリークライが問いかける。
「拒ンダ」
「ええ。記憶や思いを読み取られることだけでなく……或いは、それによって自らが報われることを」
 使命に殉じ、人の援けとなり、使命に殉じ、人の敵となった。
 其処に『自らがこう在りたかった』という思いを発露しなかった時点で、ゴーレムたちは自らを理解してもらうことを放棄したのだろう。「そんな末期の救いは、あまりにも私たちに都合がよすぎる」のだと。
「けれど、彼らが狂ってしまったのは、彼ら自身のせいではないから」
 つぶやいた声は、二人の背後から。
 根ごと掘り返した小さな草花をゴーレムの近くに持ってきたのはЯ・E・Dであった。せめてもの手向けにとそれを植えて、ぽつり、もう一言を。
「いつか、また違った形で。貴方達とともに遊べる日が来ることを祈るよ」
「……そうですね。このゴーレムたちが何を思おうと。私は彼らを記憶し、弔おうと思います」
「ン。地獄 モウ無イ。鉄ノ墓標ダケ 在ル」
 一人、また一人が戦場を後にする。
 その中で、最後までゴーレムの一体のそばに居続けたフランへと、アッシュが声をかけた。
「……フランさん」
「うん、行こう」
 答えは簡潔に。笑いながら振り返ったフランの向こう側を見て、アッシュは微かに目を見開いた。
「……フランさんは、凄いですね」
「そうかな?」
「はい」
 人の力となるべく造られたモノが在った。
 それを一人の魔手が歪め、人を傷つけるモノへと変質したとき、アッシュはそれを破壊することを躊躇わなかった。その存在意義がこれ以上、他者の血によって穢されることがないように、と。
 ――――――だから、今。
 その亡骸に幾多の花を飾り、再び人を喜ばせるものとなるよう祈りを込め続けたフランの心根を、彼女は尊いと思ったのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

浮舟 帳(p3p010344)[重傷]
今を写す撮影者

あとがき

ご参加、ありがとうございました。

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