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シナリオ詳細

<深海メーディウム>勇者志望の女の子たちと、青い海の心残り

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●深海の大冒険
「ぶくぶくぶく……」
 深い海に沈みながら、少女が息を吐く。
 ふわふわのピンク色の髪は、今は海のそれにぬれて、柔らかく泳ぐよう揺れている。
「そんなことしなくても、この辺だと息ができるみたいよ? レィナ」
 そういうのは、黒髪の銃使い、ユーリィだ。ぐっ、とレィナと呼ばれたピンク髪の少女の手を引っ張って、自分の身に寄せる。
「ほら、怖がらないで、すーって吸ってみなさいよ」
「うう、そんなこと言っても、海って初めてなんだよ? 私達。
 初めて来たときは、ユーリィだってびっくりして、しっぽがピーンってたってたじゃない!」
 むぅ、とそういうレィナに、ユーリィは顔を赤らめて声をあげた。
「そ! それは、だって仕方ないじゃない……!」
 ぱたぱたと、可愛らしい羽根がはためく。そう、彼女たちは、亜竜種の冒険者、イレギュラーズだ。未だ実力は半人前なれど、いつかは勇者として、皆の役に立つ冒険者になる……というのが、彼女たち、亜竜種四人娘の夢だった。
「でも、海の中ってのは、どきどきっすね。うちは水属性な感じなんで平気っすけど、皆ははじめてっすからね」
 そういう青い髪の魔法使い風の少女は、ネネナという。ひひひ、といたずらっぽい表情で笑って、
「今日はうちが先輩っすね。皆はうちの言う事をちゃんと聞くっすよ」
「もう、調子に乗っちゃだめですよ、ネネナちゃんも」
 そういうのは、金髪のヒーラー、キッツェだ。
「それに、本当の大先輩の皆さんも居るんですから。ちゃんと言う事をきかなきゃダメですからね」
 そういうキッツェの視線の先には、あなたを始めとしたイレギュラーズ達がいる。あなたは苦笑しつつキッツェに頷くと、はるか眼下の海底を見つめた。そこには沈没船があって、キラキラと輝く謎の存在……『フリーパレット』の姿があった。

 シレンツィオで起こる数々の事件。その解決を図る過程で、ローレット・イレギュラーズは様々な存在と遭遇した。その内の一つである幽霊『フリーパレット』は、海で死んだ者たちの、思念の集合体、のようなものである。ありていに言ってしまえば、残留思念がエコーを響かせているようなもの、だろうか。死人の記憶や想いは残っていれど、正確には死人そのものではない。会話のキャッチボールはできないが、その想いを昇華させてやることはできる。
 ダガヌ海域で沈んだ沈没船に、フリーパレットが発生していると知らされたのは、つい先日だ。
「なんでも、『たからもの さがして』って言ってるらしい。要するに、フリーパレットの未練である宝物とやらが、その沈没船にあるんだろうな」
 と、ローレットの情報屋が告げる。フェデリア出張所、クーラーのきいた涼やかで豪華な一室だ。そこには、あなたを含めた八名のイレギュラーズ、そしてレィナ、ユーリィ、ネネナ、キッツェの四人がいた。
「宝! すごいね! 沈没船の宝なんて、物語で読んだくらいだよ!」
 レィナがそういうのへ、ユーリィがその袖を食い食いと引っ張った。
「まって、今はお話を聞かないとダメ!」
「もう、わかってるよユーリィ。でも、わくわくしない?」
「それは……少しくらいは」
「でしょ!」
 ユーリィの手を握ってぶんぶんとふるレィナと、わたわたと慌てるユーリィ。
「話続けていいっすよ」
 と、ネネナがにひひ、と笑いながら言うのへ、情報屋は肩をすくめた。
「仲が良さげで何より。ま、そういうわけだから、アンタら12人で、沈没船を探索してほしいのさ。
 周辺は、例の竜宮城の乙姫の加護が聴いてるから、まぁ呼吸に関しては問題ないらしい。もちろん、元々水中で行動できる奴の方が、ずっと自由に動けるだろうけどな」
「では、特別に準備は必要ないのですね?」
 キッツェが尋ねるのへ、情報屋は言う。
「ああ。お前ら四人じゃ心配だったが、ちょうど先輩方がいてくれて助かるよ」
 そういって、情報屋はあなた達八人のイレギュラーズへと視線を移す。半人前の彼女たちは、まだまだ修行中の域を出ないのだろう。今回は、実質彼女らのお守りも感情に入れられている仕事に違いなかった。
「えー、私達だけでもできるよ~!」
 どん、と胸を叩くレィナに、ユーリィが慌てて頭を下げた。
「ごめんなさい! 最近上手く言ってるからって、ちょっと調子に乗ってるみたいで!」
「そんなこと言って、意外とユーリィも自信がついてきたみたいなんすよね」
 ネネナが笑うのへ、ユーリィが「もう!」と声をあげた。
「え、えと、ごめんなさい。騒がしくて……」
 キッツェがそういうのへ、あなたは苦笑して返した。まぁ、こう言った新人たちも慣れたものだ。
「というわけで、依頼としてはこうだ。フリーパレットを護衛しつつ、沈没船内で「たからもの」を探す。
 おそらく、深怪魔が巣くってるだろうから、油断はするな」
 その言葉に、あなたたちは頷いた。

 冒頭の描写に戻る。すでに沈没船の甲板に到着した一行は、その船の巨大さに圧倒されていた。恐らく、荷運びの船だったのだろう。ダガヌ海域を航行中に、深怪魔に襲われ、沈んだに違いない。
『たからもの』
『さがして』
 そう、フリーパレットが言う。
「まかせて! 私達がなんとかするから!」
 レィナが得意げに言うのへ、あなたも頷いた。
 お守りはともかく、フリーパレットの無念は晴らしてやらなければならないだろう。
 深海の涼やかな冷を感じながら、あなたたちは一歩を踏み出した。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 フリーパレットに導かれ、亜竜種の少女たちと、その無念を晴らしてあげてください。

●成功条件
 『家族写真』の発見。

●特殊失敗条件
 フリーパレットの戦闘不能

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 海の幽霊、フリーパレット。無念を残した思念の集合体。そのフリーパレットが言うのは、海底に沈んだ沈没船に、『たからもの』を残してしまったのだといいます。
 フリーパレットを昇華してやるため、皆さんは亜竜種四人娘と共に、沈没船へと乗り込みました。
 沈没船は、元々荷運びようの船として活動していたらしく、ちょっとした建物くらいの広さを誇ります。
 そのため、探すエリアは広大です。同時に、深怪魔も徘徊しているらしく……。
 亜竜種四人娘と協力して、フリーパレットの宝物を探してあげてください。ちょっとしたダンジョンアタックと同等のシナリオです。準備万端で行動するとよいでしょう。
 メタ的な事をいってしまうと、たからものとは、船員たちの『家族写真』になります。どこにあるかはわかりませんが、見つけてあげてください。

●エネミーデータ
 ディープ・スケルトン ×???
  深怪魔のスケルトンタイプです。薄汚いからだと、汚れたサーベルを持った、人間敵に相当する相手です。
  一体一体の戦闘能力は低く、亜竜種四人娘でも戦えるでしょう。が、数は多めですので、一気に襲われないようにご注意を。

 ディープ・ウーズ ×???
  スライムのような形状をした深怪魔です。低位の神秘系術式を使用し、遠距離から不意を打ってきます。
  此方も、亜竜種四人娘でも対処は可能な程度ですが、やはり多い数と遭遇することになるでしょう。

 ディープ・サハギン ×???
  穢れし深怪魔のサハギンです。通常のサハギンより強化されており、エース級の敵となっています。
  亜竜種四人娘では厳しい相手です。此方を優先的に処理するのがいいでしょう。
  数は少ないですが、エース級です。ご注意を。

●味方NPC
 亜竜種四人娘
 剣士タイプであるレィナ、狙撃手であるユーリィ、魔法使いであるネネナ、回復士であるキッツェ、の四人です。
 皆さんに比べて半人前もいい所ですが、スケルトンとウーズくらいなら何とかなります。
 レィナはEXF高めで盾役も可能。ネネナはちょっとだけ死霊魔術を会得しており、霊魂疎通(弱)を使えたりします。
 ユーリィは素直なスナイパータイプ。キッツェも同様に回復タイプです。

 フリーパレット
  たからもの を探してほしいと皆さんに伝える幽霊のような存在です。
  戦闘能力はありませんので、守ってあげてください。

●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 このアイテムは使用することで『海洋・鉄帝・ラサ・豊穣』のうちいずれかに投票でき、その後も手元にアイテムが残ります。
 投票結果が集計された後は当シリーズ内で使える携行品アイテムとの引換券となります。
 ※期限内に投票されなかった場合でも同じくアイテム引換券となります

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <深海メーディウム>勇者志望の女の子たちと、青い海の心残り完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
シラス(p3p004421)
超える者
ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)
生イカが好き
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
彼方への祈り
型破 命(p3p009483)
金剛不壊の華
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
裂(p3p009967)
大海を知るもの

リプレイ

●深海の宝探し
「沈没船に宝物と来たぜ、ひょっとすると大した財宝なんじゃあないか?」
 そう、すこしばかりわくわくとした表情で言うのは、『竜剣』シラス(p3p004421)だ。ダガヌ海域の海底。光届かぬはずの此処に、しかし陽光が指すようにさわやかな蒼さが広がるのは、遠い竜宮の乙姫の加護ゆえか。何にしても、どこか冒険心をくすぐられる光景があり、同時に『お宝』という言葉に期待を寄せてしまうような雰囲気も、確かにあった。
「たからもの! どんなのかなぁ。わくわくするね! シラス先輩!」
 そういう亜竜種の少女、レィナに、シラスは頷く。
「そうだな、元は貨物船って話だ。とんでもない値打ちものを運んでたかもしれないからな」
『たからもの たいせつ たいせつ』
 ふよふよと揺れるようにそういうフリーパレットに、『魔法騎士』セララ(p3p000273)が尋ねる。
「ねぇねぇ、フリーパレット。キミの宝物ってどんな形をしてるのかな?」
 小首をかしげつつ尋ねるセララに、フリーパレットはふわふわと揺れながら、
『たいせつ どきどき きゅー』
「きゅー? 胸がキューってなるって事なのかな……?」
 むむむ、とセララが唸る。
「きゅー、となる? ……毒のトラップかしら……?」
 何やら真面目にユーリィが言うのへ、セララは苦笑した。
「いや、そうじゃないと思うけど……真面目そうに見えて、ユーリィちゃんってずれてない……?」
「ユーリィはけっこう天然っすからね」
 にひひ、とネネナが笑った。
「きゅーってなるなら、おっきいイカだよな! 間違いない!」
 うんうん、と頷くのは『生イカが好き』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)だ。
「きっと超高級なイカのお寿司とかが遺されてるんだぜ! 勿体ないな!」
「遺されてたとして、食べらんねぇだろうなぁ……」
 苦笑する『金剛不壊の華』型破 命(p3p009483)。「けどよぉ!」とワモンが頭を振った。
「竜宮の加護? とかで保存されてる可能性があるだろ!?」
「ある……か? いや、でも……どうなんだい? フリーパレット?」
 そう尋ねる命だが、フリーパレットはふよふよと揺れるばかりだ。
「まぁ、わからんよな。けど、宝探しってのは、何だろうな、って思いながら探してる時が一番楽しいもんだ」
 そう言って、命は笑う。ワモンが同意した。
「ま、そうだよな! オイラはイカかもって予想はしてるけど、やっぱりドキドキするもんな!」
「ふふ。分かります。どんなのだろう、ってわくわくしますよね」
 キッツェがそう言った。おとなしそうな印象を受ける彼女だが、しかし今は随分と前のめりな印象を受けた。やっぱり、亜竜種四人娘は、結構わくわくに浮足立っているのだろう。
「ふふ。元気なのは良いですが、どうか気をつけてくださいね。
 此処は深怪魔の縄張りとなってしまっています。
 戦闘は避けられないでしょうから」
 そう、優しくくぎを刺すのは『想光を紡ぐ』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)だ。レィナが、「はーい!」と手をあげて返事をする。ピンクの髪が深海の水に揺れた。
「マグタレーナさんって、すっごくお母さんって感じがする! 気を付けるね、おかーさん!」
「ちょ、レィナ!?」
 ユーリィが慌てた様子でレィナの口を抑える。申し訳なさそうにこちらを見るユーリィに、マグタレーナは、ふふ、と笑ってみせた。
「いいえ、いいえ。元の世界では、孤児院などで子供たちからそう呼ばれてもおりましたので。お気になさらず。
 では、おかーさんらしく。気をつけるのですよ、皆」
「も、もう……ごめんなさい!」
 ユーリィが気恥ずかしそうに顔を赤らめながら頭を下げた。マグタレーナはくすくすと楽しげに笑ってみせる。その様子を見た『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)は、穏やかに頷く。
「まさに、たからものといっても人それぞれ……だな。
 フリーパレット、安心してくれ。君の宝物も、俺達で見つけてみせよう」
 そういうのへ、フリーパレットはふよふよと揺れながら、
『ありがと たからもの ふわふわ』
 と返して見せたので、エーレンも微笑する。「それから」と言葉を紡ぐと、
「俺達は新たな戦友を歓迎する。頼りにさせてもらうぞ、4人とも」
 そう力強く言うのへ、四人娘は『はい!』と元気よく返事をした。
「ふふ。本当に、頼りにしているわね?」
 優しく笑う『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)。
「私たちも、素敵な後輩に負けてはいられないわね?
 探索、冒険……今まで培ってきたものを、しっかりとみせてあげる番だわ」
「よろしくお願いします。参考にします!」
 キッツェがそういうのへ、ヴィリスは頷く。回復の杖をギュッと握りしめるキッツェに、『大海を知るもの』裂(p3p009967)は力強く頷いて見せた。
「おう、任せな。
 しかし、フリーパレット、か。
 そいつら自体に思うところがないわけでもないが、どいつも願いが子供みたいなんだよな。
 だから、きっちり叶えてやらねぇと寝ざめも悪いってもんだ!
 嬢ちゃん達の世話も含めて、まとめて面倒見てやらぁ!」
 うんうん、と力強くそういう裂へ、レィナがむふー、と胸を張る。
「私も頑張る! 護衛もできるように、ちょっと鍛えたからね!」
 身の丈くらいなおっきな大剣を掲げて言うレィナに、裂は笑った。
「おう、頼むぜ!
 フリーパレットも守らなきゃならんからな」
「そいつは俺が担当しようか。
 レィナは俺と一緒にフリーパレットのお守りな」
 シラスがそういうのへ、レィナが頷く。
「はーい! 頑張るね!」
「おう、いい返事だ。
 今回はお宝さがし。普通ならお宝を見つけたら依頼主に返却しないといけないが、今回は依頼主のフリーパレットは昇華されてしまうという。
 ならば残ったお宝の所有者は無し! 俺たちのご自由に、ってわけだ。俄然やる気がわいてくるってな」
 少しだけ悪い笑みを浮かべるシラスに、レィナがうんうん、と頷いた。
「なるほど……皆で山分けだね!」
「いや、7:3……6:4くらいにならないか? 働きに応じてさ」
 からかうように言うシラスに、レィナがむぅ、と頬を膨らませた。
「じゃあ、私たちがなな? の方をもらうよ!」
 シラスが愉快そうに笑った。そんなやり取りを、フリーパレットは楽しそうに、ゆらゆらと揺れながら見つめていた。

●沈没船の探索
「ふむふむ、結構広いみたいね」
 ヴィリスが言う。流石荷運び船というだけあり、多くの荷物と多くの船員を賄うための、広く大きな構造をしていた。深海に沈んだ船には、内部にトロピカルな魚たちと、甲殻類などの類があちこちを闊歩している。セララがつん、とカニをつつくと、カニはびっくりしてひょこひょこと部屋の奥に隠れていった。セララがのぞき込むと、どうやら倉庫の様だった。とはいえ、ほとんどがガラクタばかりのように見える。
「フリーパレット、此処に宝物はあるの?」
 セララが尋ねるのへ、フリーパレットはふるふると首を振った。足下を拾ってみれば、少額のゴールドが転がっている。落とし物だろう。
「んー、一応拾っておこうか」
「一応とは言わず、値打ちのあるもんは全部拾いたいな」
 シラスが言う。ネネナが頷いた。
「そうっすね……魔術書とか欲しいっす。
 霊魂疎通であたりを探るっすね」
 むむむ、とネネナが意識を集中させる。あたりの霊魂と簡単な対話をするが、
「うう、自分じゃ『奥』『宝物』みたいな断片的な情報しか得られないっすね……」
 あくまでまだまだ半人前。イレギュラーズ達ほど有用にスキルを扱えるようではないらしい。
「いやいや、わかるだけでもすげぇぜ。天才だな!」
 シラスがおだてるのへ、ネネナが少しだけ嬉しそうに、にひひ、と笑った。
「やっぱり、奥の方にあるのかしら。地図だと……船員用の船室があるわね」
「個人でお宝を持ってたのかな?」
 ワモンがいう。
「なるほど、晩酌の高級するめとかじゃねぇか!?」
 ぴこーん、と電球を光らせるようなイメージでワモンが言う。
「するめの無念か……」
 命がそう呟いてフリーパレットを見やるが、フリーパレットはふよふよと揺れて答えない。どうあれ、現物を持ってこないと反応はしないだろう。
「なんにしても、奥に向かいつつ、辺りを探しながらそれらしいものを持っていく、という方針は変わりなさそうだ。
 深怪魔も居るんだろう? 気をつけて進もう」
 命の言葉に、皆が頷いた時――ゆっくりと刃に手をかけたのは、エーレンだった。
「そう言っているうちに、お客様のようだ」
 エーレンが廊下の奥を見やる。すると、カタカタという音と共に、薄汚れた4体のスケルトンが姿を現した。同時、辺りの壁から泥のようなものがしみ出し、ぐちゃり、と盛り上がる。それは邪悪な魔力の残滓を感じさせる。ディープ・ウーズだ!
「フリーパレットを頼む。裂、マグタレーナ、散らせるか?」
「ええ、勿論。裂君、わたくしの後に飛び込んでくださいね?」
 マグタレーナがそういうのへ、裂が頷いた。
「応――よし、ひよっこたち、俺たちが散らしたら一気に攻撃だ!」
 裂の言葉に、四人娘が頷く。
 エーレンが刃を手に、構えた。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。ついでと言ってはなんだが、お前たちにもご退場願うとするか」
 同時、マグタレーナがメイスを掲げる。その先端から撃ち込まれた雷の鎖が、スケルトンとウーズ、それをまとめて打ち据えた。間髪入れず飛び込む裂が、竜斬の刀を振り払い、スケルトンたちを薙ぎ払う! 隙をついたエーレンの居合切り。宙を飛び悪を裂くその斬撃が、スケルトンの頭部を横一文字に斬り払った。頭部を破壊されては、スケルトンもどうしようもないだろう。そのままバラバラと崩れ、泥のようなものに姿を変えて消えていく。
「す、すごい……手が追い付かない……!」
 鮮やかな先輩たちの動きに、四人娘は流石に追い付けない様だ。未だ攻撃に転じる隙間を見つけることができないが、そんなユーリィにヴィリスはゆっくりと笑ってみせた。
「バレエをともに踊るなら、相手の呼吸を見ることよ。
 合わせて見なさい?」
 アドバイスと共に、ヴィリスが飛び込む。その足技の冴えは、たとえ水中であろうとも健在。邪悪な魔の砲弾を躱しつつ、ウーズを蹴り上げ、その刃で細切れへと変えて見せる。
「アン・ドゥ・トロワ。さぁ、今よ?」
「ういっす!」
 ネネナが声をあげ、氷の魔弾を撃ち放つ。突き刺さったそれがウーズを凍らせ、同時にユーリィの銃弾がそれを粉砕した。
「やった……!」
「まだ、油断しないでね!」
 声をあげるユーリィに、セララは笑いかけた。そのまま飛び込み、スケルトンに大上段からの一撃を見舞う! 強烈な斬撃が、スケルトンを粉砕した!
「わ、カッコイイ!」
 レィナが声をあげるのへ、シラスが反応する。
「前を見な、まだ終わってないぞ!」
 残るウーズの邪悪な魔弾を、レィナは大剣で受け止めた。シラスはレィナには追い付けぬような速度で行動、フリーパレットを守りつつ、そのまま攻撃に転ずるという神速の行撃を放つ!
「うそ、はやい……!」
 レィナが目を丸くする。自分では追い付けぬほどの速度。一方で、残されたスケルトンを、ワモンの突進が砕く!
「オイラはアシカじゃねぇぇぇぇ!」
 ズガン、と大きな音を立てて爆散するスケルトン。その衝撃で壁に打ち付けられた残るウーズを、命はその腕で以って粉砕した。
「よし、ひとまずは終わりだ」
 その言葉に、四人娘が驚きのため息を吐く。
「や、やっぱり……私たち、まだまだですね……」
 キッツェがそういうのへ、命は笑った。
「筋は悪くないさ。後は経験だな」
『すごい すごい』
 フリーパレットが嬉しげにそういうのへ、ワモンが得意げに笑った。
「おう! オイラたちはすげーんだぜ!」
「じゃあ、このまま奥へと進むか」
 裂が言うのへ、仲間達は頷く。
 果たして探索行は良いスタートを切ったのである。

●青い海の心残り
 ヴィリスが踊るように廊下を進んでいく。エーレンやマグタレーナが安全を確認し、最終確認を素早いヴィリスが行っているわけだ。そう言った探索を進みつつ、時に敵と相対し、時に敵を避け、一行は進んでいった。
 道中で見つかるのは、ちょっとしたアクセサリーや、運行記録。とにかく片っ端からフリーパレットに見せていく。が、その都度帰ってくるのは、『ちがうよ』という言葉のみだった。
「そこそこの値打ちものだと思うんだけどな」
 そう言って、首飾りを見やる命だが、これも『たからもの』ではないらしい。
「やっぱりイカだぜ! もう間違いない!」
 ワモンがうんうんと頷く。もしかして本当にするめとかなのでは……という気持が、一行にも流石に沸いて来るというものだ。
「これで本当にするめとかだったら目も当てられねーぞ」
 流石に渋い顔をするシラス。おこづかいくらいは回収できたかもだが、当初の予定は達成できない気がしてきた。
「まぁ、まぁ。意外なものが、人にとっては宝物だったりするものなのですよ」
 マグタレーナがくすくすと笑う。マグタレーナは『子守』を楽しんでいる様だ。
「むー、本当に、宝物って何なんだろうね? ドーナッツかも」
 セララもそういう気持になって来るというものだ。
「ドーナッツ! 美味しいよね。うーん、確かにお宝なのかも……」
 レィナがむむむ、と目を細めて見せた。セララが笑う。
「おいしいよね! 再現性東京のおすすめのドーナッツ屋さんとか教えてあげようか?」
「え、ほんとに! 今度皆で遊びに行きたい!」
 きゃっきゃと楽しげに会話する少女たち。ヴィリスが笑った。
「あらあら、楽しそうね。でも、まだ舞台は続きそうよ?」
「ここから敵の気配も濃くなっている……警戒は怠らないでほしい」
 エーレンの言葉に、皆は頷く。深くなるにつれ、深怪魔たちの気配も濃くなっていくのだ。
「ここから先は……船室か」
 裂が言う。商品や倉庫を保管していたエリアを抜けて、船室のあたり。ここはもう、船でも奥の部分だ。
「部屋が多いな。不意打ちされないように、注意していこう」
 裂の言葉に、皆は頷いた。

 戦闘を繰り返しながら、奥へ。船長室が近い。現れたディープ・サハギンの群れと激闘を繰り広げながら、一行は船長室へと向かっていった。
 薄汚れたディープ・サハギンのトライデントが宙をきる。すんでのところで回避したセララが、そのままサハギンの頭に大剣を振り下ろして泥へと返した。
「残りは!?」
「二体です!」
 マグタレーナがそういう。振り下ろしたメイス、その軌跡に沿うように振るわれる雷の鎖が、叩きつけるように宙を這い、サハギンを叩いた。
「四人娘は無理せずフリーパレットの防御に全力!」
 命の声に、四人娘は頷く。一方で、裂の斬撃が、サハギンの腕を切り裂いた。そのままの勢いで蹴り飛ばすと、転倒したサハギンをワモンのガトリングがぶち抜いた。
「イカまでもう少しなんだからな! 邪魔すんなよ!」
「イカかどうかは分からないけど、もうすぐ終点なのは確かだ!」
 裂が叫ぶ。飛び込んできたヴィリスが、その足でサハギンの心臓を貫いた。ぎぎ、と吠えたサハギンが、しかし動きを止めずに襲い掛かって来るのへ、命の拳が顔面を殴りつけて止めを刺す。
 すぐに静かになった船長室に、一行は歩を進めた。入ったとたんに、フリーパレットが、泣きそうな声で声をあげた。
『たからもの』
「あるのか? 此処に?」
 シラスが声をあげる。フリーパレットが、のそのそと歩いていく――その先に浮かんでいたのは、一つの写真立てだった。フリーパレットが、それを手に取る。『たからもの あった たからもの』そう言って胸に抱くそれは、船長の家族写真のようだった。
「は? 家族写真だとォ! そんなもんに……」
 シラスがたまらずに声をあげた。わずかに、胸に何かがこみあげてくるのを感じ、くそっ、と声をあげる。それから無言でぱちり、と指を鳴らすと、フリーパレットの前に、幻影が現れた。家族写真に乗っていた、女性と、少女。恐らく、船長の妻と娘なのだろう。
『たからもの たからもの』
 フリーパレットは嬉しそうに揺れると、幻影のもとにのろのろと歩いていく。到着すると、そのままふわり、ふわりと、光に溶けて、消えていった。
「なんでぇ、イカじゃなかったのか」
 ワモンが言う。
「でも、ま、悪くないんじゃないのか? なぁ、シラス?」
「うっせ。くそ、手に入ったのはガキの小遣いくらいか……」
 ポケットに突っ込んでいたゴールドに手を伸ばす。臨時収入だが、それ以上でも以下でもなさそうな額だ。
「でも……よかった。無念がはれた、んですよね?」 
 ユーリィがそういうのへ、ヴィリスが頷く。
「ええ。とっても素敵なたからものだと思うわ」
「……写真は持ち帰ってやるか。もしかしたら、他の船室にも、誰かの写真があるかもしれない。
 陸に戻ったら、探して渡してやってもいいだろ」
 裂がそういうのへ、仲間達は頷いた。
 それから少し時間をかけて、他の船室で遺品を探した。それらを集めて、沈没船を後にする。
 思いは昇華され、それでも残されたものは、残された者たちの元へと還っていくのだろう――。

成否

成功

MVP

マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
彼方への祈り

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆さんの活躍により、フリーパレットはその未練を解消され、陸に残った家族にも、遺品が届けられたそうです。

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