PandoraPartyProject

シナリオ詳細

誰が悪か。誰が善か。

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●誰が悪か。誰が善か。
 幻想山中。そこには近頃、山賊が出没していた。
 通りがかる商人などが既に幾度も被害に遭っているという……
 故にローレットへと依頼が持ち込まれた。故にイレギュラーズが出向いた。
 ――何のことはない普通の依頼だ。
 後は山賊団を壊滅させれば全てが終わり……その筈だった。しかし。
「なんだこれは」
 山中を歩き、おびき出されてきた山賊団を打ち倒して……残党をも退治せんと彼らのアジトへと踏み込んだ咲々宮 幻介(p3p001387)が見たのは――
 やせ細った女子供達の姿であった。
 ……いずれもが此方を見て怯えている。とても、悪逆を成す粗暴な山賊団の根城とは思えぬ。なんだこれは。一体如何なる事だ? いやそもそもこのアジト自体が妙だ……よく見れば古ぼけた小屋か何かを無理やり増築して住まいとしている様な……幾ら山中に住まう山賊とは言え、あまりにお粗末な印象が……
「ひぃ……! 待って、子供達にだけは手を出さないで……!!
 もう、もう私達には食べるものもないのに……!!」
「――まさか、貴方達は……」
 然らば。子供達を庇う様に抱きしめる母親らしき人物を見て、リディア・T・レオンハート(p3p008325)は悟るものだ――此処にいる者達は、貧困の果てに追われた者達なのだと。
 税を払えなかったか、それとも何かの事情で財産を失ったか。
 ……では先程の、襲い掛かって来た山賊団の面々も彼らの親類であろうか。
 今思えばこそ彼らもどこか痩せていた様な――そんな印象を受ける者達であった。
 最早誰かを襲うしかなかったか。
 そうしなければ生きられなかったか。
 ……だからと言って他者を蹂躙する賊の行動が許される訳ではない、が。
 微かに。その指先に抱く剣の力が――緩んだ気がして。

 その時。

「――ッ! リディアッ!」
 幻介が気付いた。横合いより超速にて至る――殺意の塊が在ると。
 斬撃一閃。それはリディアらの首筋を正確に穿たんとする極撃……当たれば首など吹き飛ぶやもしれぬ一閃は、しかし。幻介の介入と、反射的に反応せしめたリディアが刃を割りこませて衝突するに留まる。
 ――甲高き金属音。鍔迫り合う、その影の正体、は。
「……! 貴方は、あの時の……!」
「――正体を現しましたね、悪逆非道の輩めが」
 かつて出会った事のある女性――鵠 薙刃(くぐい・なぎは)であった。その身からは依然として大滝の様な殺意が垂れ流されている……いやそればかりか……狂気に到達せしめる『気配』すらある程だ。
 つまり彼女は、世界より零れ落ちた滅亡因子――魔種が一角。
 過去に受けた非道により、猛る様な焔を身に宿した存在である。
「弱者を追い打ちし、嬲るは気持ちがいいですか? ――死すべき大罪であると知りなさい」
「待ってください、私達は……!」
「例え其方が依頼だろうがなんだろうが『手先』になった時点で同罪なのですよ」
 抗うリディアの剣を、怒り狂う膂力によって押し込まんとする薙刃。
 ……その瞳には只管憤怒の色だけが映っていた。
 『二度』は繰り返させぬのだとばかりに。
 ――弾く。互いに距離を取れば薙刃の方はまるで。
 イレギュラーズ達に怯える、民らを庇う様に立ち塞がるものだ。
 ……彼女の思考は全て『弱者』に注がれている。彼らがかつて罪を成したか否かに関わらず『弱きを屠る』は許さぬのだ。ましてや貧困に喘ぎ、野盗の類に成らざるを得なかった者達を、斬る、など――
「――ッ、ぐ」
 刹那。薙刃の視界が微かに揺らぐ。あぁ『前』にもこんな事があった、と。
 あの日もそうだった。
 悪党の征伐と信じ。命じられ、手に掛け、これは正しい事なのだと目を逸らし。
 そして――実際には税を納める事が出来なかったというだけの理由の無辜の民達を。
 己が斬り捨てていた日の事だ。
 ……あの日から己は変わったのだ。あぁ――

 ――貴方達は正しいのか。
 ――誰かの為であれば正しいのか。何ぞやの為であれば何をしてもいいのか。
 ――貴方達は、ただの殺人鬼と……

「どう違うのですか」
 応えよ。
「どう違うのですか! 英雄などと謳われるその手が汚れていないと言えますか――!」
「……なんたる殺意。なんたる闘志か。しかし今背を向ける事は出来んな」
「ッ……ええ。今迂闊な動きを見せれば、斬られて終わりでしょう……!」
 薙刃の身に炎が纏う。その様を見据え……幻介やリディアは彼女と相対するものだ。
 ――言が届くだろうか。分からない。しかし、少なくとも表面上は言の葉は通じている。
 上手く彼女の心になんぞやが響けば退く事もあるかもしれないが……
 いずれにせよ一戦交える他はない。
 軽々に背でも見せれば、きっと薙刃はその隙を見逃さぬから……

 さぁ。何か言い訳があるなら言ってみなさい悪逆非道の愚か者が。

 ――薙刃の背後では赤子の泣き声も聞こえている。闘争の気配か、ただならぬ様相が故か。
 あぁあぁ――だが。その声が耳にこびり付いて離れぬから。
 薙刃は『もう間違えない』と決めたのだ。決めて、堕ちて、此処にいるのだ。
 だから戦おう。例え敵が誰であろうと、この焔は許しはせぬ。

 応えられぬのならば焼き捨てよう。
 きっと、この身と魂を焦がす様な蒼き焔は。
 その為に宿っているのだから……

 彼女の炎はより強く猛り狂っていた。
 まるで万物全て焼き尽くすが如く。全て塵にしてしまうかの程に。

GMコメント

 依頼によっては弱い者を打ち倒す事もあるかもしれません。
 時によって事情がある者達を捻じ伏せねばならぬことが在るかもしれません。
 ――彼女は。鵠 薙刃はしかし、そんな事には耐えられなかった人物です。

 ご縁があればよろしくお願いします。

●依頼達成条件
 鵠 薙刃の撃破、撃退。

●フィールド
 幻想山中に存在する山賊団のアジトです。
 しかしアジトとは言っても、木材で作られた古ぼけた小屋(を更に無理やり増築した)程度であり、戦場としての主体はそのアジトの前で繰り広げられることでしょう。薙刃はアジト(厳密にはその中で怯えている女子供)を護る様な動きを見せています。

 時刻は夜。しかし月明かりは在る為に、灯りは特別に必要はありません。
 ……むしろ猛り狂う様な薙刃の焔が、彼女の存在をこれほどかと示す事でしょう。

●鵠 薙刃(くぐい・なぎは)
 元々は獣種の少女――でしたが『ある出来事』を経て魔種へと堕ちた者です。
 『ホムラミヤ』なる魔種に影響を受けた人物とされています……
 類稀な剣の才を持っており更には『蒼い炎』を常に纏っている様です。その炎は、彼女の感情によってより強く猛り狂う事があります……また実際に熱量を持っているのか、炎の度合いによっては周囲の木々などが燃える事も。

 超接近戦型で、鋭い県の冴えは針の穴を突くかの如く。
 刹那の隙すら見逃さぬ技量は正に天賦の才と言えるでしょう――
 更に先述の炎を組み合わせて周囲一帯を薙ぎ払う様な事も可能となっています。これは魔種以降になった上での能力の様です。

 彼女は弱者を虐げる者を決して許しません。
 理由? 主義? 主張? 芥程の価値もあろうかそんな塵屑。
 ああ――弱者は全て救ってやらねば。

 ただし。今回の一件に関しては彼女が魔種へ堕ちた折と状況が些か似ており、若干思う所があるようです。皆さんの姿が、彼女にとっては『あの日の己』と見えているかもしれません。ただ命じられるままに弱者を切り伏せてしまった――己の過去の様に。

●山賊団
 この付近を荒らしていた山賊団です……が。
 その正体は、生活が立ち行かなくなった者達の集いで、やむなく山賊活動に身を落としていた様です。勿論彼らの行動は合法などではなく、裁かれるべきものですが薙刃にとっては関係ありません。
 現在、アジトには戦う事も出来ない女子供が残っているだけの様です。
 男衆達は、シナリオ開始前に皆さんに討伐されています。
(彼らを殺害したか、命は助けて捕縛したかはプレイングで自由にして頂いてOKです)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 誰が悪か。誰が善か。完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年08月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

郷田 貴道(p3p000401)
喰鋭の拳
咲々宮 幻介(p3p001387)
背で語る
※参加確定済み※
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
リディア・T・レオンハート(p3p008325)
勇往邁進
※参加確定済み※
マリカ・ハウ(p3p009233)
トリック・アンド・トリート!
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
解・憂炎(p3p010784)
通行止め

リプレイ


 ――炎舞う。
 血飛沫の様に。或いは涙の様に。薙刃の剣閃に迷いはない――
「クスクス……なぁに、大罪って? 好きなようにお菓子を食べて、好きなように『お友達』を作るのがそんなにイケないコト? マリカちゃんは好きだよ――『お友達』を作るの♥ これからもずーと、ずーとね♪」
「――外道がッ!!」
 その殺気は真っ先に『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)に向けられていた。挑発せしめる様な……或いは心の儘に応える彼女の言は薙刃にとって見過ごせぬモノであったか――
「だって『お友達』がいーっぱい居たら楽しいもんネ♪ キャハハっ!」
 距離を取りながら紡ぐマリカの一閃。
 振るう鎌の威が薙刃へと降り注けば、薙刃も迎撃せしめる様に刀を返すものだ。
 許すまじとする憤怒と共に――
「応えなさいイレギュラーズ。其方の正義はどこにありますか――ッ!
 悪逆非道を成し、それでも尚に自らが正しいと謳いますか――!」
「――悪逆非道とは、これは異な事を申すものよな。
 であれば、この者達が行ってきた盗賊行為は許されるという事で御座るか?
 声高に語るその舌こそ、非道を見過ごし、無法を是としているものではないのか」
 その薙刃の勢いを止めんとするのは『刀身不屈』咲々宮 幻介(p3p001387)だ。
 交わる剣閃。瞬く様に鳴り響く金属音は、互いが超速へと至っている絶技の証左であり。
「ちゃんちゃら可笑しい、笑わせてくれるものよな……
 破綻した理念は身を滅ぼすというものよ、今のお主の様にな」
「HAHAHA! お嬢ちゃんはそっちの味方かい?
 だがよ悪党に強いも弱いもありゃしねえ。
 その山賊どもに同情が無い訳じゃあないが――それじゃあ筋が通らねえんでな!」
 更に続くは『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)の拳だ。
 言を拳に乗せながら薙刃の身を狙い往く。無数の打撃と無数の斬撃――打ち勝つはいずれか。しかし、奥にいるのが最早非戦闘員の女子供であるならば残るはコイツだけなのだ。
「押し切らせてもらうぜ。嫌なら抗ってみせなッ!」
「誰も彼も……弱者を鑑みないとは、一体何様のつもりですか……!」
「弱者? ククッ……これはまた面白い事を。
 貴方の言う『弱者』を鑑みて、何があると?」
 故にこそ貴道らの撃を防ぐべく足が微かに淀んだ所へ『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)は追撃の一手を紡ぐものだ。彼女の活力を削りうる一手を……同時に思考を巡らせるは彼女の言そのもの。
「くくっ……もしかして貴方、自分が正義だとでも思ってます? 弱者を救いうる英雄だとでも――まったく、滅びのアークを貯める尖兵が何を狂っていらっしゃるのか。何をしようが貴方の行動は全て滅びに繋がる因子ですよ」
「いいえ。この力は、弱者を嬲る強者の滅びにのみ繋がる――
 そう、貴方達の様な外道にこそ振るわれるのです!」
 愚かだと。ウィルドは蝕みの術を放ちて薙刃と相対するものだ。
 されど薙刃は聞かぬ。自らが世界を滅ぼす? 否。
 仮にそうだとしても、まずもって滅びるのは己が忌み嫌う強者からだ。
 世の強者全てを滅ぼし得ることが出来るのならば本懐だと――彼女は信じている。
 愚か。愚かだ。ウィルドの言った様に、幻介が言った様に。
 ……ただ、薙刃の言に感じ得る者もいる。
「弱い立場の人は守られるべきだ。そこにいかなる理由があってはならない――あぁそれは分かるよ。正直……君の言っている事は理解できるし、同調できる所もある」
 例えば『僕には生ハムの原木があるから』解・憂炎(p3p010784)だ。
 彼女の怒り、嘆き……それは嘘偽りなきモノだろう。
 だが……
「――だけれども。それでも。歩みは止められないんだ」
 『カモミーユの剣』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)も告げる。
 刃を振るう手を――止める事はないのだと。
 己らが追っていた山賊は……彼らは追い詰められていただけの人達だった。もしかすれば『また』僕は奪うべきじゃない未来を奪ってしまったのかもしれない。
 けれど。目を瞑る事だけはしない。
 応じる言葉は変わらない。変えちゃいけない。
 ――憂炎とシャルティエは薙刃の動きを自由にせぬ為に動く。
 彼女の進路を阻み、身を穿たんと撃を紡ごう――さすれば。
「なんにも思わない訳ではないけれど……正義だなんて言葉は、虚ろなものよね」
 既に終わらせていた山賊共らの事を想起しつつ『狐です』長月・イナリ(p3p008096)も動く。不殺の心得と共に簀巻きにして転がしていたが……斯様な事情があったとは。
 なんともやる気が半減だわね――だけれども。
「正義なんてのは勝った連中の言う事なのだわ。一方から見れば正義でも、一方から見れば悪でもあり……互いの立ち位置によって見方なんて転がるもの。そうそう『人を一人殺せば人殺しであるが、数千人殺せば英雄である』って言葉があるけど、英雄なんて言われてもそんなもんでしょ――? 英雄だから、正義の味方じゃないのよね」
「――だから弱者を幾ら殺してもよいと?」
「そうは言ってないのだわ。ただ、情状酌量でフォローぐらいの道はあるのだわよ。
 救うか殺すかだなんて二極の面しかない――とでも思うのだわ?」
「貴方は世の非道を知らない。そんな事をする良心が強者にあるのならば……彼らは元よりこのような身に落ちていないでしょう!」
 激突。踏み込んだイナリが暗冥を裂く斬障を放ち込み、薙刃もまた――イナリの言諸共、両断せんばかりの勢いで彼女へと刀の切っ先を向け穿つ。聞かぬ。知らぬ。戯言を弄すな――とばかりに。
 あぁ。やはり、彼女の怒りは、嘆きは……
「何より他人の幸福を願っていたからこそ!
 ……心を読まずとも、視ずとも分かります。貴方の抱く魂の色が……
 ですが……そんな貴方が、どうして……!」
 直後。奥歯を噛みしめながら往くは『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)だ。リディアの声色に混ざるのは、なんだろうか。薙刃とは異なる嘆き、悲しみ――?
 どうして『そう』なってしまったのかと言う、想い。
「そんな『戦い方』では限界があるでしょう! 例え目指したい夢があるとしても!」
「限界? いいえ――限界などありはしない。この想いが、熱が! 絶えるものか!」
「――分からず屋ッ!」
 瞬間――真正面より打ち合う。激しい衝撃が生ずる程に。
 譲れぬ想い。譲れぬ信条と共に。
 それぞれに信ずる果てが――あるが故に。


 戦いが進む程に薙刃の炎は苛烈へと至っていた。
 ……鵠 薙刃は魔種だ。其の存在は単騎にて数多を凌駕する怪物の証。
 人に非ざる力は、例えイレギュラーズが数で勝ろうとも打ち破るに容易くない。
「くっ、なんて勢いだ……! けれど、此処ではまだ退けない……!!」
 そして彼女の前面を抑える者達への被害もまた大きかった――
 憂炎の身に幾つもの刀傷が生まれれば負傷の跡が目立ち始める。
 ――だが。
「君の言う事も分かる。分かる、けれど! もう君は護れる側の人間じゃない!
 ――山賊団の人達は、ちゃんと裁かれてから僕たちが守る。
 不当な扱いはさせないと約束する。だから、もう下がってくれ……!」
「今この瞬間こそが悪ではないとでも? 無理にでも屈服させんとしている、今この瞬間が……!」
「――どうしても退かないというのなら、死力を尽くして相手をしてやる!
 この盾も、この鎧も、竜を簡単に打ち取れると思うなよッ!」
 彼は退かぬ。彼は倒れぬ。
 例え君がどれだけ許さなくても、それでも僕たちには守りたい世界があるのだと。
「さて――しぶといものですが、数で勝ればこそ成し得る手もあるもの。
 お相手を代わらせていただきますよ。どうぞお手柔らかに」
「永久に紡がれる悪縁を断ち切る……その概念を知らぬ者に、折れてはやれんな」
 さすればウィルドが憂炎に代わりて薙刃の眼前へ。
 引き続き彼女の動き縛らんと魔性たる一撃を紡げば幻介も前へ。
 ……弱きを守り悪しきを挫くは端から見れば善行だろう。
 だが。その『弱き』に非道はなかったか?
 彼らに奪われ、同じく明日の我が身も知れぬ様になった者達はどうなる?
「同じく盗賊に身をやつして他者からまた搾取する……終わり無き負の輪廻の始まりというもの。それを是とするか? 悪縁という名の蛇が尾を喰らう様を分からぬか? 背負う覚悟も無く、目についた弱者を救おうというだけなら馬鹿でも出来るというもの」
 故に、と彼は告げる。彼女の怒りを己に引き付けんとしつつ……
 ――敢えて此方からも問わせて貰おうか。
「『言い訳があるなら言ってみるが良い、悪逆非道の愚か者が』!
 未来を視ず! 現在にしか興味がなく! 己が通った道のりを鑑みぬ愚者よ!」
「黙りなさい!
 現在の悲鳴を見過ごす愚か者にはならない! 私はもう二度と瞼を閉じない――!」
「そう思いたいだけであろう! 眼を逸らすな――『貴殿は悪である』と知れッ!」
 肌を、肉を焼く炎が誰しもを襲う。
 憂炎を、ウィルドを、幻介を――それでも薙刃相手に一歩も臆さぬ。
「……僕の手は汚れています。貴方からすれば、僕はきっと悪なのでしょう」
 そしてシャルティエもであった。
 きっと己の手は赤黒く血の色に浸かっているのだろう。
 弱きを救う為に、守る為に剣を振るっているのに……守るべき人達を斬る事もあった。
 魂の背後を振り向けば、もしかすれば其処には血の湖が広がっているのかもしれない――後ろを振り向くのは怖いし、迷うし、苦しい。正しいかどうかも不安になる。
「でも」
 迷っても、まだ僕は救いたいと思っていたから。
「救えなかったなら、次は。それもダメならまたその次は。
 救えなかった罪を背負って、それでも次はと、歩き続けるしかないんです」
「間違え続けても尚に進むことが正しいとでも!」
「過ちのない完璧な人生なんて歩む事は出来ないんだ。
 失敗も、後悔も、未練も、どうしたって無くなる事はないし……
 『こうすれば必ず皆が幸せになる』なんて楽な道は――きっとこれからも無いんだ」
 だから僕は諦めない。
 救う事を。自分の進む道がきっと正しいと。僕は僕の答えから――逃げない。
 故に彼は一歩踏み込む。注意を引き付けんとする幻介を護る立ち位置に。
「私達の道のりが、行動が本当に正しかったのか? なんて未来の歴史家や小説家の飯の種として放り投げればいいのだわ。どんな行動だってケチを付ける事は出来るし、称賛する事も出来る――だから今を生きる者は、今自分が正しい、と思った事をするだけだわ」
 直後。イナリが放つは武の一閃。優れし聴覚にて周囲の様子を窺いながら、薙刃へと言と一撃を放ち続ける――まぁ自らが信じるとは言え。『これ』をやり過ぎると恐怖政治とか、力による支配とか、面倒くさい事になるから。
「程々にするのが一番なんだけどね。匙加減が難しいわ」
「ミーも一々やった事を振り返って悩むなんてガラじゃないからな。
 やりたい事をやらせてもらうぜ? 別に俺達だってそこに居る連中を皆殺しにしようっていうんじゃないが……そいつらの仲間が虐げた『弱者』の仇は取らなきゃならねえ。それが『弱者』から頼まれた事であり――そういうルールだ」
 そして貴道もまた超速の拳を叩き込むものだ。
「黙りなさい大罪人共……! 聞こえませんか彼らの嘆きが!」
「だから、そっちが仕掛けた分があるって言ってるだろう――? 耳はちゃーんと聞こえてるかい? ま、元々聞いちゃいねえだろうけどな。それならそれでいいさ。別にミーも、無理に退けとは言わねえ――土手っ腹に風穴開けられても、邪魔できるってんならなぁ! さぁ、見せてみな、そっちの意地ってヤツを――!」
 刃も火炎も鈍らせてくれるなよ? おっと、鋭くしてくれるのは大歓迎だぜ、HAHAHA!
 ――貴道は、指摘すればするほどに、より強靭に意思を固める薙刃を歓迎するものだ。死闘であればこそに見える境地もあるのだから……薙刃の剣撃が貴道の肉を抉り。貴道の拳が薙刃の腹を打ち抜き――彼女の身を宙にすら放らん。
「……ねぇ。なら改めて訊くけど、あなたの言う大罪って何かしら?
 誰がそれを罪だと決めたの? 誰がそれを断じろと命じたの?
 それって。全部あなたが勝手に定めた、あなたの国のルールなの?」
 そして。其処へと間髪入れずに撃を放つのが――マリカだ。
 大鎌振るいて、同時に巡らせる思考と言は薙刃の歪みに。
 ……教法も法律も――その庇護下の人間が勝手に作り出したものでしかない。
 惨めな追い剥ぎに戻るか鎖に繋がれるか。
「あなたは弱者にそんな苦を強いるの?」
 好きなように生きて好きなように死ぬ事がそんなに悪い事?
「善って何よ。悪って何よ」
「善とは虐げられぬ事。悪とは誰かを虐げる事――! それ以外にありますか!」
「言ってるでしょ。その物差しこそ何処に在るのよ」
 そんなくだらない罪の線引きで。
「――“わたし”たちを縛らないで頂戴」
「――言っても分からない愚者ばかりッ!!」
 直後。薙刃の炎と動きがピークへ至る。
 神速の動きが数多を切り裂き、マリカにすら届かんとする程だ――
 それでも動じない。自らの周囲を『淀ませ』マリカは薙刃の動きを乱さんとし。
 ――そこへ一斉に攻勢を集中させる。
「全く。いい加減にしていただきましょうか――魔種である事を自覚し、自らの行いを今一度鑑みると良いでしょう。自分が本当に正しいか否かを、ね。そして疑問が生じるなら……最初からしなければ宜しい。
 ――ささ、どうしました? ほら、悪徳貴族ならここに居ますよ?
 鏡を見ても尚に自分が正しいと思うなら掛かってきなさいな」
「憎しみの炎に包まれ続けているのは……あんまりだよ。
 誰かを護るために身を費やした果てに得たのが――そんな姿なのかい?」
 ウィルドが挑発する様に言を放ち、憂炎は己が感情を込めつつ。
 だが、薙刃は朽ちぬ果てぬ。
 理不尽なる状況を至る程に――彼女の闘志もまた燃え上がるのだから。
「黙れ……黙れ黙れ黙りなさい誰も彼も!」
「――薙刃!」
 そして。彼女の感情は特に――マリカやウィルドに向くものであり。
 数多の束縛を振り切って彼女は憤怒の斬撃を成さんとすれば。
 ――止めたのはリディアだ。
「山賊の方々の命は無事です。奪ってなどいません……!
 正しく罪を償わせた後、必ず更生の道を歩めるようにします。
 そうする事で私は、この手が届く人達を――今も泣くあの赤子を、本当の意味で助けたい!」
「戯言を!」
「戯言などではありません!
 リディア・レオンハートの名と――その魂の誇りに懸けて誓います!」
 だから。
「だから、ここは私に預けて!」
 ……この手は既に穢れているでしょう。
 如何ほどの正義を掲げても、この剣で"力"を押し付け、誰かの大切を、誰かの特別を奪ってきた事は事実。それに言い訳はなく、それから逃れるつもりもない――
 大義大罪の定義すら、あるいは人によって異なるもの。
 だとしても!
 私は己が心と誇りに従い、善しと決めた行いを、自らの責任で最後まで貫き通す!
「薙刃ッ!!」
 再びに紡ぐ彼女の名。彼女の魂。
 分かってほしいのだと。紅蓮の炎に蒼き焔を紡ぎ、打ち合えば。
 互いに互いを呑まんとする濁流の如き炎の奔流が顕現する――その時。
「ッ……! まずい、家屋の方に、炎が燃え移ってる!」
「燃えるわよ――なにもかも」
 刹那、シャルティエに、優れた三感を持つイナリが気付いたものだ。
 薙刃の炎が――木造の、山賊の拠点へと燃え移っている。
 ――彼女の憤怒が『弱者』を焼かんとしているのだ。
「な――! あ……あぁ……ッ!」
 轟く悲鳴。我先にと脱出せんとする弱者達。
 火の勢いは燃え移ったばかりであり、中まで一気に焦がしたりはせぬ。
 弱者達は犠牲になる事なく、皆逃げ出せる事だろう。
 ……だが斯様な事実よりも、その光景が薙刃の記憶をフラッシュバックする。
 自らが――弱者に手を掛けんとしてしまった――?
「おやおやこれが貴方の正義の結末ですか――ご立派な事だ」
「ぬ、ぁ、ぁああああ――!」
 直後。ウィルドが見逃さず薙刃の心を抉らんとする。
 ……であれば薙刃はリディアの剣を弾いて、跳躍するものだ。
 森の奥へ。成してはならぬ事を成してしまったのだと――悲鳴を挙げる様に。
「おっと――ぉ! 逃げやがった! チッ、姿はもう視えねぇ……!」
「……だが、なんとなし奴の底が見えた気がするな。次は――必ず」
 薙刃の消えた方を見据える貴道に、幻介。
 流石に魔種と言うべきか……一筋縄ではいかぬ相手であった、が。
 憤怒せし強靭な意志の狭間に見えた心の乱れは、彼女が完璧でないことを指し示す。
 ――いつか討ち果たす事もあろうと思案を巡らせれ、ば。
「あぁ、やはり……彼女はきっと……」
 リディアもまた心中にて想うものだ。
 彼女は――薙刃は、私なのでしょう。
 私にも在り得た可能性の一面。
 何か一つボタンが掛け違えば、己がああであったかもしれない。
 けれど――それでも。

「私には、貴方がいましたから」

 ……ね、活き餌侍さん?
 滑らせる視線の果て。心の拠り所の有無が別ったのだろうと――彼女は思うものであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

郷田 貴道(p3p000401)[重傷]
喰鋭の拳
リディア・T・レオンハート(p3p008325)[重傷]
勇往邁進
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)[重傷]
微笑みに悪を忍ばせ
解・憂炎(p3p010784)[重傷]
通行止め

あとがき

 ――ありがとうございました。

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