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シナリオ詳細

<深海メーディウム>フリーパレットのねがいごと

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●名も無き者の詩
 いまから詩を朗読します。
 ――土。
 ――寝転ぶ猫。
 ――猫の食べ残した魚。魚はアジに分類されるもので、アジ科アジ亜科に属する魚を総称します。セレにティ・ブルーにて発見されたアジは厳密にはトラシュラス・セレニティと呼ばれ同種の生物は熱帯及び温帯域にて食用に漁獲されます。非可食部にはタンパク質を多く含みます。ぼくたちはアジを食べたことがありません。
 ――猫が寝ています。
 ご静聴ありがとうございました。

「ぱちぱちぱち」
 などと、口で擬音語をいいながら拍手をする。ホネの手と革手袋ではろくに拍手の音がでないからだろうか。
 しかし最後にパチンとフィンガースナップをしてみせると、それはもう綺麗に音が鳴った。
「いーい詩だなあ。心にグッときてドキドキするぜ。ま、心臓ねえんだけど」
 ファニー(p3p010255)はお決まりのスケルトンジョークを言うと、肩をすくめて下顎をカタカタとやった。
 そんな様子に、詩を朗読していた『それ』は振り返った。
 子供がきままに絵の具を混ぜ合わせたような、かき氷にすきなだけシロップをかけてしまったような。いくつもの『色』が混ざり合って拒み合ってできたそれを――この辺りの人々は『フリーパレット』と誰からともなく称した。
「ところでアンタ、こんな所で何をしてるんだ? フラミンゴ・ゴルフの順番待ちかい? それともカエルオセロの途中かい?」
 まるで想像できないゲームの名前を言いながら、ファニーは両手を広げて翳してみせる。
 ここ。
 そう、ここ。
 シレンツィオリゾート四番街。リヴァイアサンの放った光線によって島の一部が激しく断裂したことでできたという谷、通称『大断裂』の縁である。
 フリーパレットは縁に腰掛け、両足をぷらぷらとさせながら底で波打つ海の様子を眺めているようにも、あるいはうなだれているようにも見えた。
 ふたつの丸と三日月型の口。要するに(・◡・)な顔をしたフリーパレットの表情(?)から感情を読み取ることはできない。
 ファニーはHAHAと小さく笑うと、フリーパレットの隣に腰掛けた。同じように脚をぷらぷらとさせ、底の海面を見つめる。彼の髑髏むきだしの頭に表情はない。そう指摘すれば、表情筋がないからなと彼は笑うだろうか。それともチープな駄洒落を言うだろうか。いずれにせよ、きっと彼は笑うだろう。
 そうやっていると、やっとフリーパレットはファニーのほうを見た。
「ぼくたちは、なんでここにいるのかわらかないんです。けど――」
 言葉の途切れたフリーパレットに対して、ファニーはほんの少しだけ顔を向けるだけに留めた。先を促すでも、聞くことをやめるでもない。
 しばらく波の音がして。
 海鳥が鳴いて。
 フリーパレットは僅かに顔をあげた。
「アジが、食べたいなあ」

●アジ?
 ファニーの紹介でシレンツィオ・ローレット支部へとやってきたフリーパレット。
 なんでもこの幽霊みたいな存在はアジが食べたいらしい。
 たまたまその場にいたイレギュラーズたちによって調べてみると、どうやらこのフリーパレットは『幽霊』の一種らしく、思念が集合してできた存在らしいとわかった。
 更に興味深いのは、身体のなかに竜宮幣がり、磁石に対する砂鉄のようにすいついてフリーパレットが実体化しているということである。
「霊魂だったのか。霊魂疎通が使えない俺様でもこうして喋れるんだから、都合の良いボディだな」
 ヘイといってハイタッチを求めると、フリーパレットはファニーの革手袋の手にぱちんとカラフルな手をぶつけた。
「でだ、このフリーパレットはアジが食べたいらしいぜ。料理してやるもよし、いい店に連れて行ってやるもよし、なんなら釣ったり素手で捕まえるところから見せてもいいだろうな。
 俺様か? そうだなあ、テキトーに喋りながらアジバーガーでも奢るかね? ま、考え中さ」
 肩をすくめてみせるファニー。
 イレギュラーズたちはよりオーダーに答えられるようにと質問を重ねるが……フリーパレットは幽霊でありながら故人が持っているような記憶や人格を有していないらしい。
 竜宮幣に吸い付いたのは『願い』や『想い』といった思念だけなのだろう。
「願いを叶えてやればこいつは満足するだろうぜ。満足した思念ってやつはパッと消えちまうもんだ。つまり、跡に残るのは竜宮幣のみって寸法さ」
 オーダーがあって、報酬があって、俺たちがいる。
 なら受けない道理はないんだろ?
 ファニーはそう言って、かたかたと笑って見せた。

GMコメント

 幽霊のちいさな願いごとをかなえて、報酬の竜宮幣(ドラグチップ)を貰いましょう。

●オーダー
 フリーパレットは『アジが食べたい』と言っています。
 どんなアジをどんなシチュエーションで食べたいのかは分からないのですが、皆思い思いの方法でアジをごちそうしてみてください。
 場所はシレンツィオリゾートとその近海内。三番街には高級レストランが山ほどあり、二番街には庶民的な店が、無番街も穴場があったりします。港はいくつもあり二番街の楽園港はかなりの水揚げ量があります。魚市も毎日賑わっているようです。
 当然自分で船を出して吊り上げたり、いっそ潜ってつかまえたりもできるでしょう。
 自分なりの方法を、自分らしくやってみてください。

●フリーパレット
 カラフルな見た目をした、海に漂う思念の集合体です。
 シレンツィオを中心にいくつも出現しており、総称してフリーパレットと呼ばれています。
 調査したところ霊魂の一種であるらしく、竜宮幣に対して磁石の砂鉄の如く思念がくっついて実体化しているようです。
 幽霊だとされいますが故人が持っているような記憶や人格は有していません。
 口調や一人称も個体によってバラバラで、それぞれの個体は『願い事』をもっています。
 この願い事を叶えてやることで思念が成仏し、竜宮幣をドロップします。

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●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 このアイテムは使用することで『海洋・鉄帝・ラサ・豊穣』のうちいずれかに投票でき、その後も手元にアイテムが残ります。
 投票結果が集計された後は当シリーズ内で使える携行品アイテムとの引換券となります。
 ※期限内に投票されなかった場合でも同じくアイテム引換券となります

  • <深海メーディウム>フリーパレットのねがいごと完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月24日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
裂(p3p009967)
大海を知るもの
ファニー(p3p010255)
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女

リプレイ

●いまこのときに、ぼくたちは生きていた
 海鳥の声が聞こえるだろうか。
 シレンツィオリゾート二番街、希望港。
 死と廃滅の海であったこの場所を開拓し、人類未到の海からとれる莫大な資源を我が物としたのだから、希望どころではないのだが。
「…………」
 ベンチに腰掛け、手の中でツナクレープを弄ぶ『スケルトンの』ファニー(p3p010255)はフウと小さく息をついた。
 骸骨そのものである彼がどうクレープを食べるのか、どこから息を吐いているのか。そんなことを、となりの『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は考えもしない。彼も彼で、似たようなものだからだ。
 極論すればおおきな石の塊と、骨の塊。
 二人はベンチに座り、行き交う人々をただただ眺めている。
 このえらく賑わう希望港の活気。もしかしたら名前の由来はこの活気なのだろうか。
「由来といえば……」
 それまで黙っていたファニーが声をあげ、フリークライが小さく顔を向ける。肩にとまった青い鳥がチチチと鳴いた。
「『フリーパレット』……言い得て妙だと思わないか?
 好き勝手に絵の具を混ぜたような、かき氷のシロップを好きなだけ掛けたような。
 真っ白なものを極彩に彩るのは芸術であり、物語であり、人生だと俺様は思っている」
「――ン」
 肯定するように目の光をチカッと点滅させるフリークライ。
 表情がないかわりなのだろうか。ファニーはすこしオーバーなリアクションで手をかざし、首をかしげて見せる。
「あいつらは思念の集合体。それは幾つもの終わりを迎えた人生であり、完結した物語だ。興味深くて面白そうな生き物……あーいや、死に物? だよな」
「フリック 墓守」
 脈絡のない単語を突然述べたのかとフリークライの顔を覗き込んでみると、目を点滅させながらフリークライは続けた。
「フリーパレット 墓標眠ル 誰カ 違ウ。
 デモ。沢山ノ誰カノ夢。誰カノ願イ。誰カノ未練。
 ナラ 叶エル。想イ 叶エル。心 満タス」
「ふうん?」
 終わった物語の、いわばこれはアフターストーリーだ。
 心があるとするならば、それはフリーパレットの中にではなく……。
(”あの方”がこっちの世界に居たら、会わせてみたかったよな)
 今から語るのは、終わった誰かの物語だ。
 主人公じゃなくなった、どこかの誰かの物語。

●昨日や明日にとらわれることが、幸せになるってことなの?
「ありがと」
 『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)は共通硬貨を数枚手に取ると、それを一度に相手の前に翳す。パッと手を広げ、落ちるそれを無骨な手をした漁師がすくいあげるように受け取った。
「あんたこそ。進む道に光りあれだ。
 ……それにしても、わざわざ市場の評判を聞くなんて変わってるな。あんたくらいの娘は普通レストランのほうに行くもんじゃあねえのか?」
 漁師の言うことはもっともで、セレナがチップを渡して尋ねたのは希望港を初めとするシレンツィオ各所の港の魚市場に関する情報だった。
 大きな島といえどさすがに東と西で漁獲に大きな違いがあるとは思えないが、大きな湾になっている希望港はやはり安定性が高く一部では養殖場も整っているという。つまりは観光のための海ではなく、生活のための海なのだ。
「いいのよ。ちょっと、食べさせたい相手がいるから」
 セレナはそう言うと南の通りへと歩き出す。
 歩きながら開いた手帳には市場の情報をまとめたメモ。露天で買ったクレープ(棒状に丸めた食べやすいタイプ)を囓りながらページを眺めると、メモ書きの端に落書きがあった。
 もわもわした雲みたいな、スマイルマークのはいったなにか。フリーパレットの落書きだ。
「幽霊……と言うより、残留思念の塊のような感じなのね、フリーパレット。
 竜宮弊が核となっているらしいけれど……不思議なものだわ」
 とはいえ、未練があるなら晴らしてあげたいというのが人情である。
「きっとみんなでとびきりのアジ料理を食べさせてあげるわ」
 セレナがそう『問いかける』と、彼女の肩越しに覗き込んでいたカラフルなアストラル体が現れた。フリーパレットである。
「あじ?」
「ええ。楽しみにしててね」

「無番街の穴場ならこの顔役サマに任せときな。揚げたアジと野菜を甘酢に漬けたのを挟んだサンドイッチを出す店がある。そしてハイ買ってきたものがこちらになりますっと」
 『最期に映した男』キドー(p3p000244)は紙袋からホットサンドを取り出してみせた。
「わあ。それがアジ?」
「アジ知らねえのに食いたがってたのか?」
 キドーは手元のホットサンドと、それをじーっと見つめるフリーパレットを交互に見た。
 『全部が穴場』とまで言われる無番街のサンドイッチ屋の裏メニューで、魚を持っていくとほぐしたアジの天ぷらと甘酢に漬けたにんじんや大根といった野菜をホットサンドに挟むとかいう、豊穣と海洋が混合しきったシレンツィオ無番街らしいレシピだ。
 無番街の子供を使いっ走りにしたのでキドーは入り口からろくに動いていないし、腕を伸ばせば今にも食いつくそうな顔(?)でフリーパレットが見つめている。
 フリーパレットにアジを食わせるというミッションをほぼ零歩で達成できそうだ。
 キドーはしばらく黙ったあと、あーむと大口でホットサンドを頬張った。一口で。
「あーっ!」
「ふもももも(こいつはやらねえ。気が変わったぜ)」
 ごくんと無理矢理飲み込むと、キドーはどこかワルそうに笑った。
「欲望ってのはさ、もっとこう……あれだよ」
 手をかざし、わきわきとさせる。脳裏によぎったのは、この海で出会った――いや、別れた者たちだ。
 フリーパレットが亡き何者かのアフターストーリーだというのなら、それが安易に叶ってはなるまい。いや、そうであってほしくない……だけかもしれない。
「足掻こうぜ! 最期まで! 強欲にな!」

 強欲に。
 そう述べてからやってきたのは鉄帝開拓予定地の小島である。
 コの字型をした直径20m弱の小島で、他の島に比べて陸地が少なく建物も作りづらい島……っていうかもはや岩礁である。
 キドーはその縁に腰を下ろし、持ってきた釣り竿を一本フリーパレットに渡した。
「?」
 手に取り、首をかしげるフリーパレット。
「ああ、アジも知らねえんだったな。釣り竿ってのは……」
 言いかけたところで、フリーパレットはまるで毎日繰り返してきたかのように器用に素早く針に餌をつけ、手首をシュッと返すうごきだけで海に釣り糸を垂らした。
「出来るんじゃねえかよ。ったくよー」
 並んで座る。静かな時間が……何分だろう。幾ばくか続いた。
「俺はさ、黄泉返りってのが大っ嫌いなんだ」
 ぽつりと呟くキドー。
「でもお前は……死人を騙らない。
 そんな企みの源になる人格も記憶も無ェんだからな。
 だから、お前のことは嫌いじゃないね」
「?」
 よくわからないという顔(?)で振り返るフリーパレット。
 釣り竿を上げてみたが、二人とも餌のない針だけがあがった。
 しかし、フリーパレットは無邪気に笑っている。
(竜宮幣……こいつは一体何なんだ? どうして死人の思念なんかを引き寄せる。
 玉匣ってのは……加護を与える為に必要な力ってのは何が源になっているんだ?)

●アンダー・ザ・シー
 船が港を出た。ウィーディーシードラゴンの船首像のシルエットを見れば、この辺りの漁師なら誰でも気付く。人によれば『俺はアレに金を出したことがあるんだぜ』と自慢したかもしれない。
 『蒼海龍王』という名前のその船は有名で、そしてその持ち主はもっと有名だった。
「お前、顔が広いんだな。魚を食わねえって言うから漁師町じゃアウェーかと思ったのによ」
 『大海を知るもの』裂(p3p009967)は船のデッキから海を眺め、羽織っていた衣を風に靡かせている。
「ま、海にゃ色々あってね。別に魚や漁師が嫌いってわけじゃねえのさ」
 『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は舵を取りつつも、メモ帳に書き込んだエリアを目指す。
 ここ希望港は資源豊かな漁港だ。大きな湾となった海には魚が集まり濃厚に繁殖し、凄まじく永くのあいだ人の手が入っていなかったせいか漁獲はよく、漁師風の言い方をすると『魚がスレていない』ということだ。
 当然人手も多くいるからと、海洋や豊穣の漁師たちが参入して早速巨大な組合を作ったらしい。十夜と裂がそれぞれ顔なじみの漁師やそのツテを辿ったところ、どういうわけか(あるいは必然か)組合長の屋敷へ通され、丁寧にもてなされた後に二人に漁の正式な許可とアジがよくとれるとされるエリアの紹介を受けたのだった。
「にしても『アジが食べたい』たぁピンポイントな願い事だな。なんでアジなんだ? そりゃあ美味い魚だけどよ、他にも色々魚はあるだろ」
「さあね、本人に聞いて見ちゃどうだ?」
 十夜が振り返ると、フリーパレットが海鳥をぼうっと眺めていた。ニコニコしているようにも、しげしげ観察しているようにも見える。
 こちらに気付いて振り返り、首をかしげた。
「アジって、魚なの?」
「その前提が崩れたら俺らはお手上げだぜ? そりゃ色々言葉の意味はあるんだろうが、食うアジつったら魚だ」
「そうなんだあ……」
 このフリーパレットは、他の個体に比べてかなり知識が希薄であるらしい。
 本当に、願い事だけでできているのだろう。
 ある意味で、フリーパレットは純粋な願い事結晶なのだ。
「この辺だな。船はみとくから、潜ってこいよ」
 裂が海を指さすと、十夜とフリーパレットは一緒に海中へと潜った。
 見ると、船の下を進んでいたらしいフリークライのクラゲ型潜水艇がふよふよと近づいてくる。
 中はハイビスカスがいっぱいに咲いていて、まるでフラワーポットのようだ。
「自分 釣ッタ魚 ヨリ美味シイカモ?」
「だそうだぜ。お前さんはどれが食いたいんだい?」
 十夜たちが指をさすと、アジが群れをなして泳いでいるのが見えた。
 光さす青い青い海の中、エメラルドグリーンにきらめく帯。
 それらは大きくうずまくと、巨大な球体のように群れを固め始めた。
「こりゃあ、食い切れないほどとれそうだ」
「別にそこまでいらないんだ。漁師の仕事を奪ってもいけない。小さい網で細かくとろうぜ」
 船の上からファニーが通信管ごしに声をかけてくる。
「それに、デカい網を俺等だけで引っ張るのは”ホネ”が折れるんでね」
 得意のスケルトンジョークも交えて。
 一方のフリーパレットは、アジの群れる様子をぼうっと……そしてどこか哀愁を感じさせる色合いで見つめていた。

●本に挟んだ付箋のように
 料理が始まった。希望港の食堂バックヤード、大きな厨房を借りる形で行われたこれは、もはやちょっとしたイベントごとのようだ。
 魚を食べないという十夜は見学。ファニーも端に用意した椅子に座り、キッチンを楽しそうに観察するフリーパレットの様子を眺めていた。
「私が作るのは、アジフライよ!」
 アジといえばコレでしょとばかりに、衣をつけたアジを熱した油に滑り入れるセレナ。
「それにしても、なんでアジなのかしら?
 アジに思い出とか、あったりするのかしらね。
 例えば、日ごろからよく食べてたとか……?」
「どうなんだろうー」
「食べる本人が覚えてないのね」
 セレナはくすくすと笑い、丁度良く揚がったフライを網にあげていく。
 フリークライも負けじとアジの切り身を作っていた。
 あの大きくて無骨な腕でなんとも器用なものである。刺身包丁が綺麗にはしり、美しい皿に並べられていく。
「トレタテホヤホヤ 鯵 開イテ オ刺シ身。
 ホラ 頭モ 尻尾モ アル。
 ワクワク シナイ?
 主 ワクワクシテタ。
 ン。フリック 料理 ソコソコ デキル。
 良ク 主 作リ合イッコトカ シタカラ。
 鯵 食ベテル感 MAX 気分 上々 思ウ。
 ドウゾ 召シ上ガレ」
「俺の住んでるところだとアジは刺身に塩焼きに干物にとやったもんだが……。
 あとは新鮮な奴は薬味を混ぜ込んでなめろうにしたり、それを茶漬けにしたりするな?
 あとはつみれにして鍋物なんかもうまいが今は夏だからこれはちとやめとくか」
 一方の裂は、こちらは流石プロと言うべきなのだろう(漁師だが)。
「ということで包丁一本で作れる刺身となめろうだ。船盛クラスにでもすればまた違うだろ。人数もそこそこいるから食い尽くすには問題なさそうだしな」
 凄まじい手際で作り上げた料理を抱え、テーブルへと持っていく。
 テーブルを囲んだ彼らは酒をなめたり刺身をつまんだりフライをさくさくとやったりと楽しい時間を過ごし始めた。
「どうだい。アジは」
 ファニーが飲みもしないグラスを掲げてフリーパレットの方を向く。
 刺身やフライをてにとって、ぱくりと口(?)に入れたフリーパレットはしばらくもぐもぐとやって……そして。
 ほろり、と虹色の涙がこぼれ落ちた。
「?」
 周りの反応よりも、フリーパレット自身がそのことに驚いているようだ。
 顔に手を当て、くにゃくにゃと歪み始める自分の姿に動揺しているようでもある。
「おい……」 
 つい手を伸ばしてしまったファニーに、『それ』は流れ込んできた。

 食卓。
 手を合わせる子供。その頭を撫で、自分も手を合わせる女性。
 二人は『こちら』を向いて、何かを言ったようだ。
 自分も手を合わせて、アジのフライをとる。
 やがて、音があった。
 海鳥の声と、遠い海の波。ふと見れば窓が。その向こうに水平線があった。
 きらきらと光って、その向こうに何かがある気がして。
 『パパ!』
 声をかけられて、振り返る。
 顔はわからない。けれど、愛しい愛しい『我が子』が――。

「――」
 ハッと気がつくと、フリーパレットの身体がふわふわと消え始めていた。
 まるで蒸発するように薄く、しかし満足したようにおっとりとした顔をしている。
「ねえ、アジ好きのフリーパレットさん。あなたの一番好きなアジ料理は、なんだった?」
 セレナが問いかけると、フリーパレットは『わからなかったけど』と前置きをしてから、にっこりと笑った。
「全部が一番だったなあ」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――竜宮幣がドロップしました

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