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シナリオ詳細

<Stahl Gebrull>擲弾鉄火の硝煙に鋼は吼えよ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●Einleitung
 季節は過ぎ、苛烈な太陽が地上を余すところなく照らし炙らんとする、夏。
 天に座す者、地を馳せる者、旗色は明らかにて歴史書には空の色は記されぬ。
 
 宙空に出現せしは、幻影。
「私はパトリック・アネル――」
 叫ぶは簒奪と進軍の野心にて、この時魔種は高らかに宣言せり。
「――鉄帝国の次期皇帝となる男だ!」
 
 天を多うは古代の遺産、決戦兵器。
 向かう先は、厳しい気候に強き鋼民の心根ぞ息づく蒸気と機械佩くゼシュテルの核心、国土の心臓、北の帝都――スチールグラード。

 強きを尊ぶ鉄血は憤りて、フロールリジ騎士団長エッダ卿はその時、かく演説したのである。

「共に怒りを抱く我らは、これより共に一つのうねりとなって戦いに赴く。
 傾聴せよ!!
 この戦いは叛乱の討伐では断じてない。
 復讐だ。
 報復だ。
 パトリック=アネル特務大佐の弔い合戦だ!!
 諸君らは何者だ!!
 その魂を汚辱したものは何だ!!
 我らの怒りを、鋼の咆哮を、敵に聴かせてやれ!!」
 
「――『鋼の咆哮(Stahl gebrull)』作戦、開始!」

 紫煙、硝煙に鉄血は旗を掲げよ、ここに闘争ぞある。
 ならば戦う者は皆美しく踊るべし――此れは、そんな夏の闘争であった。

●Schlachtfeld
「エピトゥシ城の防衛をお願いいたします」
 情報屋の野火止・蜜柑(p3n000236)が依頼表を手に参加者を募り、説明をした。
「エピトゥシ城は、ジェック・アーロン(p3p004755)様によって命名された魔王城です。イレギュラーズによって完全制圧され、現在はローレットの新たな拠点となっているお城です。そちらを攻略せんと、古代兵器、セレストアームズ(天空機兵)が進軍しているので、皆様には防いで頂きたいのです」

 黒曜石のような不思議な素材で出来た城、エピトゥシ城内部は艶やかな漆黒で、ところどころに水晶があり、水晶内で光る紫の電流が灯りになっている。
 イレギュラーズが制圧、改築を完了させたその城は堅牢な防壁を持つ。

 ダークエレメンタルが二機の天空機兵の周囲を守るような形で群れていた。
 
「こっちにダークエレメンタル多数と天空機兵二機が来るよ……あれって、ボクたちが名前をつけたゴーレムじゃない?」
 可愛らしいリボンを揺らし、『魔法騎士』セララ(p3p000273)が苺めいた赤い瞳をまんまるにした。
 
 防壁内部に布陣するイレギュラーズ8人のチームの周囲には、砲台が設置されている――、

 軍務派の軍人たちが緊張感を高めている。
「若、『閃電』と張り合って前に出過ぎてはなりませんぞ」
「うん? 僕は何を心配されているのかな? 前に出ないと僕の拳は届かないわけだが? そもそも心配するなら妹のほうでは?」
 軍務派ユーリ・フォン・ヴァイセンブルグは手足を伸ばし、妹『空の守護者』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)を見た。

「セララガーデン・ゴーレム。ハイデマリーガーデン・ゴーレム……!」
 ハイデマリーはセララと身を寄せ合うようにして、二人が一緒に見つけて名をつけた対のゴーレムの名を呟いた。

「ほう。魔種の命令に従って敵対行動を取っているようだね」
 旗色を同じくする軍務派『閃電』バルド=レームが試すような視線を愛息に移した。
「ヨハン。3秒で策を献上するように」
「なんて無茶ぶりっ……?」
 『約束よ?』ヨハン=レーム(p3p001117)は一瞬びくりとして、秒を待たずにこたえを響かせた。
「一、純粋なる戦闘での破壊、無力化。二、呼びかけるなどして正気を取り戻させる。三、みんながんばれ」
「ははっ……! だ、そうだ! 皆、聞いたか! 我が息子の策を! 聞いたか! 聞いた? もう一度言ってもらうか? よしヨハン、もっと詳細に演説を……」
 バルドは誇らし気に肩をそびやかし、はしゃいでいた。


 Ein bisschen Freundschaft ist mir mehr wert als die Bewunderung der ganzen Welt――此処に戦いの火蓋は切って落とされたのである。

 空の上、雲が流れる高き場所。
 彼らの拠点とする城はそんな頂きにあった。
 美しき世界が広がりて、されど戦いの書に刻まれるのはひとりひとりの心の輝きでこそ、あれかし。
 

GMコメント

 いつもお世話になっております、透明空気です。
 今回は鉄帝の全体シナリオ<Stahl Gebrull>をお届けします。

●目的
・エピトゥシ城の防衛
・二機のゴーレム(天空機兵)の無力化

●フィールド
・エピトゥシ城
 黒曜石のような不思議な素材で出来たとげとげしく禍々しい城です。
 内部はやはり艶やかな漆黒で、ところどころに水晶があり、水晶内で光る紫の電流が灯りになっています。
 イレギュラーズが制圧、改築を完了させています。
 堅牢な防壁を守りとして、自由に戦うことが出来るでしょう。

 敵は外から城に向かってきます。
 罠を設置して罠に引き込んだり、内部で迎え撃つもよし、外にいる敵を砲撃や遠距離攻撃などで撃ち落とすもよし。
 罠や大砲などの設備が利用できます。PCが活用することもできますし、関係者に指示を出して動かすこともできます。

●敵
・二機のゴーレム(天空機兵)
 セララガーデン・ゴーレム。ハイデマリーガーデン・ゴーレム。
 『魔法騎士』セララ(p3p000273)さんとハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)さんが発見し、命名したゴーレムです。
 アーカーシュに眠る古代の防衛兵器です。今回は飛行機能を稼働させられており、空中を滑るように飛び回ります。
 二機のゴーレムは同等の戦闘力を持っており、遠距離では擲弾(グレネード)=焼夷弾、散弾。中~近距離では格闘戦闘を行います。
 この二機は魔種の命令に従って敵対行動を取っていますが、命名者のみに限らず、イレギュラーズが呼びかけると正気を取り戻す可能性があります。

・ダークエレメンタル
 魔種パトリックの影響で荒れ狂う精霊です。自然現象のようなものですが、倒すことで鎮めることが出来ます。
 神秘単体攻撃や範囲攻撃を行います。不吉系統のBSを保有しています。

●味方NPC
・ユーリ・フォン・ヴァイセンブルグ
  ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク (p3p000497)さんの関係者です。『軍務派』の鉄帝軍人です。格闘が得意なお兄さん。配下がちょっと「若、前に出過ぎてはいけませんぞ!」的に心配しているようです。本人は「格闘するには前に出ないと」と言っています。

・『閃電』バルド・レーム
 ヨハン・レーム(p3p001117)さんの実父です。
 閃電の異名を持つゼシュテル鉄帝国の剣聖。引退済の身でしたが、再調整・改良した義手義足の調子が良好だったので、『軍務派』として調査隊に協力しています。バルドは配下に息子の活躍を見せて自慢したいようで、ちらちらと期待の眼差しを送っています。
 
●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 それでは、イレギュラーズの皆様、ただ一度きりの防衛戦をぜひお楽しみください。
 いってらっしゃいませ!

  • <Stahl Gebrull>擲弾鉄火の硝煙に鋼は吼えよ完了
  • GM名透明空気
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月31日 21時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
観音打 至東(p3p008495)
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
月瑠(p3p010361)
未来を背負う者
シェンリー・アリーアル(p3p010784)
戦勝の指し手

リプレイ

●キミと、手を繋ぐ
 ゴーレムらは、人がいない場所で長く停止していたらしい。
 それは、寂しいように『刹那一願』観音打 至東(p3p008495)には思えた。
 これからの彼らが人と共にあるならば、それは喜ばしいように思えた。
 ――自分も、目に見える範囲に誰かがいないと、無性に寂しくなる瞬間があるから。
 
 
 太陽の熱は近く、風は上空に硝煙と鉄錆の臭いを巻き上げていた。
 
 守るべき皆の城では、優しい緑と花の香りを友に『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)が大きな体で悠然と捕獲装置を設置している。その体に白銀色の月片花を咲かせて。
「アーカーシュの花だね。きれいだな……花は、居心地がよさそうだね。安心できる場所なんだ。……捕獲装置かい、フリークライ君」
「ン コエ トドケヤスイヨウ」
 『僕には生ハムの原木があるから』解・憂炎(p3p010784)は「なるほど、動きを止めたら話しやすいものね」と優しく頷く。
「僕は砲撃担当として、罠ノ起動担当のフリークライ君と一緒に頑張ろう。防衛線戦というのなら僕の得意分野だ」
 雨垂れめいてあたたかに、フリークライの声が降る。メガホンやスピーカーを用意して。
「アンカーフックニ スピーカー仕込ンデ 声 届ケレルヨウスル?」
「いいね……ゴーレムは、きっと何とかなるさ! だってこんなにも愛されているのなら、感情を持った彼らが答えないはず、ない!」
 
 『空の守護者』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)が軍で使う捕縛道具を手配させ、設置指揮を執っている。
(兄さま、みないでください……軍隊として公式に魔法少女が実装されてはいるものの、直近で家族の前でやるのは結構しんどいのですが……!?)
 相方魔法少女『魔法騎士』セララ(p3p000273)はそんなハイデマリーと一緒にニコニコと準備していた。
 
「ああは言ったが策、策と言ってもねぇ。良いかね? 閃電」
 『約束よ?』ヨハン=レーム(p3p001117)は父に「あれ? 反抗期?」とか言われている。
「イレギュラーズが本気になった時、小賢しい策など出番はないさ」
 言いつつ、淡い春色のトパゾスをぽぉんと投げれば、キャッチして宝食した『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)が尾先を春色に染めて振る。
「パッション! おいしー!」
 ――ピュアな瞳を輝かせ、やる気をみせている。
「何があったのかはよく知らないけど、お友達と戦わされるなんてあっちゃだめだよ! 誰かの意思を奪われてその人の好き勝手されるなんて許せなーい! ――それに空は竜が飛ぶ場所だって教えてあげないとね!」
 
 ――僕はその情熱の手綱をひっそりと握るだけだよ。
 ヨハンが笑む。その薄青の瞳はよく真理と心理を見透かすがゆえに、冷笑と併せれば嫌悪感を覚える者も存在するものだ。
「ま、友人の知人だ。セララならあれもトモダチとでも言うのだろうが、それを破壊しようなどと冷徹な判断を下す方がバッドチョイスかな」
 友人という言葉を紡ぐ一瞬、瞳が柔らかな光を宿す。
 凪いだ湖畔めいた髪を自らの手でくしゃりと乱して、軽い調子で言う声は幼さを残しつつも幼いままではいられない、けれど大人にもなりきれない少年の気配。
「僕は勝ち目の高い選択肢しか選ばない――ゴーレムの説得は極めて打算的であり? そして僕だって後味の良い方を選ぶんだよ! 行くぞ!」
 月の魔力が籠められた外套の袖が揺れ、前を向きながら、期待の圧を感じていた。
 ――剣聖の息子、という期待。
 父から寄せられる、愛情めいた――ヨハンに対する誇りのようなもの。
(そんな目で見るから)
「僕の読みではビシッとゴーレムに命令を与え直す事が大事だと思うね。主人が誰だか教えてあげなよ」

 声を背に、友人セララが飛び立つ。
 ――作戦行動を開始するというのだ。

「みんなで改築したエピトゥシ城を背に戦う心強さといったら! 何にも! どこにも! 負ける気がしませんネ!」
 鉄帝軍属の家系である『拵え鋼』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)が空に愛されるオーラを纏い、黄金を蕩けさせたような金眼をキラキラさせている。
「斬ることに躊躇がないのが私なんですが、さすがに今回は自重いたしますネ」
 艶やかな黒髪をしっとりと靡かせて、至東がリュカシスをサポートしようと後ろを飛ぶ。
「このゴーレム達は対象ではないです。守るべき友です。この観音打至東、悪縁をこそ斬り落としましょう♪」
 ちらりと振り返るリュカシスがにこりと笑む。
「ボクがオトリに!」
「私がサポートしますヨ!」
 掛け合う声は、互いの背を押すように、守るように。

「捕縛開始であります」
 ハイデマリーが号令を放つ。
「セララ、おやつ……タイムっ!」
 春色の‎ポン・デ・ストロベリーが甘酸っぱい。『セラフィム』のカードをインストールしてピュアホワイトな魔法少女に変身したセララが愛らしくポーズを決める。
 一緒に飛ぶハイデマリーは身内の目を意識した羞恥交じりの魔法少女ポーズで。
「マリー、ボクはマリーと一緒に魔法少女ができて、うれしいよ」
 ほわりとセララが笑む。ぜんぜん恥ずかしくないって顔で、誇るように、嬉しそうに。満開のひまわりのお花みたいに、好意全開で笑うのだ。
 
「アイズ キタ」
 縄が四方から飛び、敵を絡めとっている。ネットにかけられ、トリモチまでふよんと絡みついた精霊へと至東が楠切火忌村正のビーム刀身を躍らせている。それは待機する大砲担当への合図でもあったので、味方からの援護砲撃が一斉に撃ち込まれた。
「ユーエン テキ シャテイ?」
「いかにも」
 憂炎が照準をあわせ、黒闇の群れへと砲撃を放つ。空間を支配するように音が連なる。味方の兵が共に撃ってくれているのだ。前線に命中の火花が咲いて、精霊が足並みを乱すと、近くにいた者同士が手応えに頷きを交わした。
(僕の役割は盾だ。堅牢な城と同じく、動かぬ存在だ)
 ――生ハムの原木の様に、柔らかくはいかないよ。

 憂炎は、故郷を失うショックを体験済だ。
 あの時は、丁度外にいた。けれど、もしあの時、集落の内部にいたら? もし集落にこんな風に防衛隊がつくられて、それに参加できていたら?
(たら、ればの話なんて、らしくないね)
 原木に邂逅した瞬間、その香りと重さを想うと、不思議な気持ちになる。
 それは、特別だった。
 絶望の中で、世界から「他の誰でもなく、『お前が』これを持ち、これからを生きるのだぞ」と言われたような、そんな奇跡だったのだ。

「ボクのこと、わかる?」
 セララがゴーレムの前に姿を見せて声をあげている。
 敵を惹き、魔法少女のセララとハイデマリーが一緒になって逃げるのは、罠を設置した地点。

「セララ様達がゴーレムを捕縛しやすくするためにも……!」
 巨音を鳴らし、雪のような白髪をふわりと揺らして、リュカシスがちょこまかと動き回りながら敵の意識を惹いている。

 仲間に釣られるゴーレムをみて、至東が眉を寄せている。
「かれらの内に潜むメイド魂を呼び起こさねば……!」
 リュカシスが「ん? メイド、です?」と首を傾げる中、続く言葉は。
「種族が違えど我々は奉仕存在。それが、友を傷つけるように強制されるなんて! どうか目を覚ましなさい! 君の仕えるべきはこちら! 同じ名を持つ彼らなのですよ!」
 深緑に領土を持つ至東は、館を空けて流れのメイドとして旅する事も多いのだ。
 
 精霊の群れへと、リュカシスが煌月の双眸を向ける。
「あなたがたの事も忘れていませんよ!」
 凛とした声を響かせる。
 精霊への敬意と優しさを真摯に響かせれば、敵意が鉄の肌にひしひしと感じられた。
「荒ぶる島の精霊達、お鎮まりください!」
「リュカシス君、罠にかかった子は任せてくださいネ!」
 精霊を引いて罠に押し込むリュカシスと空中ですれ違うようにして、至東が前へ飛び、敵を足場として跳ねるようにしながら片手をあげる。一瞬の交差にハイタッチの音をパシンと生み、抜刀の光が美しく軌跡を描いた。鞘走る音は静か。獲物に飢えた獣が待ちかねて飛び出すように、抜くは一瞬、げに恐るべき速度。常人なれば気付かぬほどの鮮やかさ。気付けば精霊に裂傷刻まれ、攻撃が走り抜けたのだとようやく悟る手並みにて、飛翔の速度で駆け抜けたのち、一拍遅れて精霊たちが散華するさまは、華麗。

「彼らは倒すことで鎮める事ができるから、言うならば強制再起動! ゆえに」
 リュカシスが腰だめに飛ぶ。距離を詰め、最後は跳ぶようにして敵のふところに斬りこむ姿は狩りに肢体を躍動させる野生の黒豹めいていた。
 鋭い鞭のように脚を奔らせて精霊を薙ぐ。勢いそのままに独楽めいてくるりと廻り、子猫のような身軽さで跳んで振り上げた両手を組み、全身まるごと縦回転しながら組んだ拳をしたたかに叩きつける様は痛快で、強靭でしなやかなフィジカルが成せる技。
「全力を込めて倒します! パワー!」
 無駄も妥協もない鋭い拳が鋭く突き出される。
「……戦うのは私達の役割!」
 全てを見通す視座に、ハイデマリーが白い死神の銃口を定めて魔弾の咆哮を轟かせる。次元多重思考は、常人では脳が焼き切れてしまうような多情報を同時に扱い、情報処理を並行処理していた。
 白銀のライフルから放たれる魔弾は命を刈り取る白き死神の宣告――白い死神と人は呼ぶ。
 
「精霊たちもこんな事に巻き込んでごめんね。どうかこれで静まってくれ」
 憂炎が柔らかな口調で散華する精霊たちに別れを告げている。
「次会った時は、皆と仲良くやろうね。生ハムをご馳走するよ」
 
「エネルギー オクル」
 フリークライが後方から活力を送ってくれる。

 どん、どんと腹に響く音が連なる中、ユウェルが精霊に斧槍を突き立てている。外の世界に憧れ夢見るパワーでアクティブに依頼をこなしてきた空竜少女は、今やその実力と愛らしい内面外見ともに広く知られる『アンペロス』の綺羅星。
 義母から譲り受けた折れず曲がらず壊れずの山崩が暴風めいて突撃する。間近な敵をユウェルが恐れる事はない。体を動かすのは、得意だ。身の丈より大きな、先が重い山崩を力いっぱい振り回せば、遠心力が伴って全身が持って行かれそうな勢いがつく。勝気に押し込んで、叫ぶ。
「どけー! あなた達はおよびじゃないの!」
 
 大声と山崩の初撃の快音に、胸がスカッとする――おかーさん、わたし、頑張ってるよ!
 山崩は、最前線でみんなを守ってくれるんだ!
 
 切っ先を弾むように跳ね上げて、自在に舞う。
 おおきな翼で力強く羽搏き、時を制したように空中で廻りながら鋼の斬軌跡を描いていく。尾が跳ねて、元気いっぱいの声が響いた。
「いなくなってくれないなら倒しちゃうからね!」
 まだまだ止まらないよ! と宣言するように苺色の瞳が昂然として、淡青色の髪が踊る。
 ――おかーさんの山崩がわたしと一緒に戦ってくれるんだもの。頑張れないわけが、ないじゃない!
「何があったのかは知らないけど、誰かに言われてお友達と戦うなんてダメだよ! 自分のやりたくないことはやっちゃダメ!」
 声を掛ける先には、二対のゴーレムがいる。リュカシスも近くで懸命に声をかけている。
「セララガーデン・ゴーレム! ハイデマリーガーデン・ゴーレム! 二機とも痛めつけたくないので止まってください!!!」

 ユウェルがゴーレムの周りをくるくると飛び回り、背面下部に狙いを定めた。
「壊しちゃうつもりはないけど……ごめんね! 飛行装置だけは狙わせてもらうから! 飛んでばっかりいないでちゃんと地上の皆ともお話しないと!」
 破壊音とともにゴーレムが罠の設置された地面へと降りていく。
「調子が悪くなって飛べなくなってくれればそれでいいの! さぁ、下にいる皆に会いに行こうよ!」

 リュカシスが声をかけ、寄り添っている。
「難しいよね。苦しいよね。でも大丈夫だよ、ボク達がゼッタイ助けてあげるから!」
 遠くから憂炎が声を放っている。
「さあ、起きる時間だよ。君たちの悪夢は、此処で終わりにしよう――フリークライ君の罠は、ちょうどよい場所だったみたいだね」
「ユーエン ホウゲキ セイレイ ヘッタ」
「……あぁ、正気に戻すのはゴーレムたちだけではないね。精霊たちもだ」
 ヨハンの魔術書がその魔力でふわりと浮いて、ぱらぱらと独りでに頁をめくる。一瞬、星々の瞬きを幻影が魅せて、仲間の心身を癒していく。
「荒ぶる精霊は自然現象のようなもの。だが、倒すことで鎮めることが出来る――僕は疲れるので遠慮させてもらうが、……頑張ってくれたまえ?」
 味方に送る言葉は気取った風で偉そうにも感じられるが、その声は優しく、なにより支援ぶりは配慮が行き届き、かゆい所に言われずとも手を伸ばしてくれる熟達の腕の良さ。
「ユウェルちゃん、『頑張っているね』」
 ――八重歯を悪戯めいてチラリとさせて贈る光が流星めいて戦場を翔ける。
「もっと頑張ってねってきこえたよ!」
「ふふ! わかった?」

 ゴーレムに視線を合わせ、リュカシスとユウェルが言葉を交わす。
「落ち着いたらちょっとお話したいね」
 何を話そう、呟く声はあどけなく、心配そうに。
「痛かった? ごめんね、もうだいじょうぶって、言おうかな」
 リュカシスは微笑み、頷いた。
「ボク、故障の点検、修理のお手伝いをしたいです!」
「一緒にしよう!」
 小さな約束と共に、笑顔が咲く。
 
 前線では、ハイデマリーの兄ユーリもバルドと背合わせに戦っていた。育ちの良さから来る匂い立つような気品をまとい、闘気に猛る拳は鉄帝の気風に充ちて、力強い。

「妹も頑張っているんだ。手は抜かないよ!」
「それを言うならこっちは息子が頑張っている……!」 
 バルドの剣閃を背景に、ユーリがまっすぐな拳を突き出して、連続の脚撃を続けさせている。
 膝を柔らかに使い、長身を低く屈めて敵の攻撃をやりすごす頭上に光閃が走ってカウンターが成る。ユーリがダンスでも披露するかのようにその姿勢から蹴り上げるのは、残党めがけて。そのまま逆上がりめいてくるりと全身を縦回転させ、しゅたりと着地すれば、暴風に巻き込まれたように周囲に集いし精霊らが吹き飛ばされる。飛ばされる軌道へとバルドが剣を奮い、役割分担でもしているかのように打ち合わせ無しの連携を見せていた。

(味方の背中が大きく見える、頼もしいね) 
「我はイルナークが解・憂炎。全てを護る盾なり」
 憂炎が無双の防御攻勢を取って後方支援の盾となっている。
「ミンナ 集中デキルヨウ」 
 フリークライはそんな憂炎の背を守るように存在感強く佇んで、前線に幻想福音を届けている。不吉を祓うあたたかな光が一瞬眩く咲く。
 
 フリークライの大きな指が、自らに咲く花にそっと触れる。
 霞めいて儚く、永遠の少女が思い出される。
 睫毛が目元に繊細な陰を落とし、慈しむあの気配――主は被造物の心を大切にしていた。
 ――フリック……、
 こころに熱が燈っている。
「セララガーデン・ゴーレム。ハイデマリーガーデン・ゴーレム。……使命 何? シタイコト 何?」

「如雨露 持ッテ機能停止シテイタ 聞イタ。花散ラス 任務? 違ウ。花咲カス 求メラレタ 求メタ」
 ぽつり、ぽつりと染みるような声に、二対のゴーレムが明らかに反応をみせている。
「ナラ 守レ。主 満開 笑顔 守レ。……二人ノ花 守レ」
 主を想い、このゴーレムを視ると、フリークライの心に波風が立つ。
 それはきっと、怒りと呼ぶのだ。
 あるいは、悲しみと呼ぶのだ。
 
 セララガーデン・ゴーレムをセララがマークして、優しい声で呼びかける。
「君達を見つけて、新しい友達が出来てボクはとっても嬉しかったんだ」
 ハイデマリーは、そんな聲に確信めいた想いを抱いた。

 ――私達の言葉は、届く。
 ――そう信じている。
 
「貴方達も、二対。きっと、ずっと一緒にいたのでしょう――貴方達は戦うために再び起きたわけではないのであります。故に、戦いをやめていっぱいに花や植物を育てるのです」
 ハイデマリーが呼びかけている。セララが体温を寄り添わせ、指先をそっと触れ合わせた。心もからだも成長途中の指先が、近くてあたたかくて、少し切ない。
「一緒に遊んで、色んな植物を育てたり、料理したり、建物を建てたり……君達とはそういう事をして過ごしたい。君達は兵器でも操り人形でも無く、ボクの大切な友達なんだよ――だから戦闘をやめて。そして一緒に歩んで行こうよ」
 お互いに、傷付く覚悟ができている――うまくいくまで何度でも挑戦するのだと、心が励まし合うように手をつなぐ。
 温もりを感じながら、ハイデマリーは清廉な眼差しをゴーレムに注いだ。
 大切な仲間で、友達で、相方で、一緒に二人で色々な冒険をしてきたのだ。
 ひとつひとつ、ふたりの大切な思い出なのだ。しんどくても、恥ずかしくても。セララが一緒にいて、二人でいろんなことを話しながら頑張ってきた。
「貴方達は、自然を育んで豊かにするために見つけたのであります――もう、あなた達に武器は必要ないのであります」
 
 二人分の声が、打ち合わせしたみたいに綺麗に重なる。
「「私は、私達は、君たちを戦いを求めない」」

「破壊ではなくもっと平和に幸せに、未来のために」
「いっぱい楽しい思い出を作ろう!」
 セララとハイデマリーが一緒に手を差し伸べる。お互いの顔を見なくても、想いは同じだった。

 ――輝く魔法、みんなの笑顔! 魔法騎士セララが、ここにいるよ。
 マリー、漫画はね、読んだひとに笑顔を贈ることができるよ。
 ただの娯楽として楽しむこともできるし、励ますこともできる。胸に勇気を燈すことだって、できちゃう。
 それがマリーとボクのお話だったら、すっごく嬉しいと思わない?
 
 赤いリボンをぴょこりと揺らし、セララがにっこりとゴーレムを見つめる。
 
 ねえ、このお話も、誰かにやさしい気持ちを届けることが、できるかな。
 ボクは、信じるんだ。
 だから、さあ、……手を取って。
 
 ゴーレムの手がゆっくり動いて、指先が触れた。
 
 手を握り、抱きしめれば、少し冷たくて硬くて――敵意を人と寄り添う存在感に塗り替えた気配と、湧く歓声、友と仲間の歓びを感じて――ほら、胸の奥があったかい。

成否

成功

MVP

セララ(p3p000273)
魔法騎士

状態異常

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)[重傷]
無敵鉄板暴牛
シェンリー・アリーアル(p3p010784)[重傷]
戦勝の指し手

あとがき

おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆様。
依頼お疲れ様でした!
無事、防衛成功となっております。
MVPは罠の具体的構想と説得が光るあなたに。
ご参加、まことにありがとうございました!

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