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シナリオ詳細

ココメロ、ココロ、ウミのイロ~夏の思い出、スイカ割り~

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●夏、海、スイカ
  波音がゆったりと繰り返される。
 途切れることなく、永遠につづくような音の中、潮の香りを含んだ風が頬から耳へと肌をやさしく撫でて、後ろへと駆け抜けていく。
 遠くまで伸びやかな海景色の海面ラインが強い日差しにキラキラと輝いて光の色を教えてくれる。
 水は、色をもたぬように思われる透き通る綺麗な水で、浜辺近くでは下の浜色を潤ませて艶やかに濡らし、遠くは空の色に対抗するみたいな、圧倒的な青を湛えているのだ。
 平らかで雄大な、たっぷりとした海の水は、ひとが溢れる浜の近くに寄るにつれ表面をひだのようにゆるゆると緩ませて、白い飛沫を艶めかしく魅せながら浜辺の砂地を白い泡めく薄い水の手をさすり、表面を戯れに攫ったり撫でるように弄んで蹂躙しては、あっさりと引きさがっていく。
 物足りぬと浜が思う暇もなく次の波が寄せてきて、また表面を優しく穏やかに揺すり、さすってくれるのだ。

 空には薄くふわふわとした小ぶりの雲が群れていて、互いの境界を重ねて溶かし合うように輪郭をわかりにくくしながら風と光にその白さを際立たせている。
 太陽は燦然と上空に君臨して、苛烈な白さで地上の自然と人々を睥睨していた。
 
「107君、こっちこっち!」
 再現性東京の希望が浜に住む少年、『命を抱いて』山本 雄斗(p3p009723)はビビッドカラーの水鉄砲を手に浜辺に繰り出していた。
 明るい日向にさらけ出す少年の肌は健康的で、夏模様のシャツの袖口や裾、ひらけた前がひらひらと潮風を孕んで、見ている者のこころに清涼の気を感じさせる。
 気質をあらわすように軽やかさを毛先に魅せる黒髪を留める柑橘果物の色のヘアピンが陽光にきらきらしている。
 手足に揺れるミサンガめいた飾りは溌剌とした動きに揺れて、砂佩くサンダルがさくさくと柔らかな地を蹴り、楽し気だ。

  雄斗少年のあとに続く『107』は、ぎこちない歩みを見せていた。
 遠くから見れば人間に視える其れは、よくよく観察するとちょっと歪で、硬質で、無機質だ。
 肌は毛穴がなくてつるんとしているし、目も似せてはいるけど造り物っぽさが出てしまっている。髪はまあまあ、ひとらしい――関節部位は人形のような球体関節で、それを隠すように布が巻かれていたりする。

(エメスさんはもしかして、この子をあまり目立たせたくないとかッスかね?)
 ふとそんなことを思いつつ、『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)はちょっぴりお姉さんなかんじでニコニコ、ほんわか、後ろからついていく。
「怖がることはないッス、意外とみんな他人のことなんて気にしないッス」

 さらり、心地の良い風が吹く。
 イルミナの青空を溶かしたような綺麗で爽やかな水色の髪がすこし湿り気をおびて、しっとりしている。
 今日の彼女は大胆かつクールな美しい青の水着姿。
 スタイルの良さ、きめこまやかな肌の色が水着の青に際立って、清潔感と色香が同居する魅力溢れる佇まい。煌めく瞳はまるで世に二つとない希少な宝石めいて潤い輝き、優しく見守るような眼差しに出会った民間人たちが思わず目を奪われて見惚れてしまうほど。

 イレギュラーズと『107』の進路上には、スイカがあった。
 スイカだけではない。
 目隠し用の布と、棒もある。

 つまり何をするかというと、スイカを割るのである。
 ……実はこの依頼、それだけなのであるッ。


●SUIKAッ!
 明るい陽射しが窓から注ぐ、あったかなギルド・ローレットにて情報屋の少年が依頼表を手に参加者を集めていた。

「スイカ割り~、スイカ割りです~!」 
 情報屋の野火止・蜜柑(p3n000236)が端的な依頼表を読み上げた。
「依頼人は研究者のエメス・チャペック様。イルミナ様と雄斗様を優先でご指名ですよう!」
 
 夏も本格的となりうだるような暑さの続くある日、練達在住のウォーカーで、ロボット工学、特に機構部分を得意とする所謂「天才」タイプの研究者、エメス・チャペックからギルド・ローレットへ依頼が来たのであった。

「場所は、混沌大陸南部に存在する小島を勢力とする探求都市国家アデプトの海水浴場。エメス様からは『新作ロボットの動作確認を手伝ってもらう名目でスイカ割りを楽しんでね』と……要するに、ロボット連れてスイカ割りです」
 依頼内容はシンプルであった。
「連れて行くロボットは『試験用107番』、通称107(イチマルナナ)。人型ロボットで、性別なし。人の簡単な命令を遵守し、人間の子供レベルの知能で簡単な会話が可能。これに命令をしてスイカを割らせたり、自分たちで割ったり、まあまあぶっちゃけ何してもいいから現地でとにかくスイカ割りしてくれと。そんな依頼です。ちなみに依頼者ご本人様はご多忙らしく、現地には行かれません! 皆様だけでごゆっくりどうぞ、と」

 少年の声は、のんびり、のほほんと紡がれた。
「『ロボットとスイカ割り』だけしてくださったら、あとは現地で自由に飲食を楽しみ、海にはいって泳いだりしても構わないのだそうです」
 ――簡単!

 蜜柑はにっこりとした。
「この依頼はエンジョイ系ですねえ! 間違い、ないっ! やったぁ! ほな、楽しんできてくださぁい!」
 おまけとばかりに、蜜柑は花火セットなども渡してくれた。手でもって火をつけてしゅわしゅわ楽しむアレである。
「これはほら、ね。夏の思い出的なものにはピッタリでしょうっ。まあ、まあ、持って行って遊んでいらしてくださいませ」

 こうしてイレギュラーズはエンジョイスイカ割り依頼に乗り出すのであった! SUIKAッ!

GMコメント

 いつもお世話になっております、透明空気です。
 今回は練達の海でスイカ割りとなっております。平和!

●目的
・海で107と一緒にスイカ割りしてください。107に割らせてもよいですし、イレギュラーズPCが割ってもよいです。

●フィールド
・練達(探求都市国家アデプト)の海水浴場。
 周囲には海の家があり、飲食物の購入も可能。
 家族や恋人連れといった一般人もいます。
 
●味方NPC
・エメス・チャペック
 イルミナ・ガードルーン(p3p001475)さんの関係者です。
 練達在住のウォーカーで、ロボット工学、特に機構部分を得意とする所謂「天才」タイプの研究者です。少年めいた外見ですが年齢不詳。イレギュラーズ(特にロボット系)を気に入っており、よく依頼をしてきます。現地には同行せずに研究所で報告待ち――お仕事をしています。

・『107』試験用107番
 エメスがつくった人型ロボット。性別はありません。人に似せた見た目で、肌がじゃっかん毛穴がなくてつるつるしすぎかなーって感じと、目をよくよく見るとバレちゃうなーって造り、関節部位は球体関節ですぐにロボットだとバレてしまいます。
 人の簡単な命令を遵守し、人間の子供レベルの知能で簡単な会話が可能との触れ込みです。
 残念ながらものを食べることはできません。
 エメスは依頼内容として特に書いていませんが、球体関節部位を布などで目立たないようにさせたりと、なんとなーくできるだけこのロボットを「あっ、ロボットだ」みたいに目立たせたくないのかな? という雰囲気が察せられます。
 特に「目立たないようにしろ」とかはエメスからは言われていません、察した後の行動はあなたにおまかせッ。

●スイカ
 沢山用意があるので、遠慮せず割ってください。割ったあとは美味しく召し上がれ。

●花火セット
 情報屋からのプレゼントです。もしよかったらおまけ程度にお楽しみください。

●海の家
 近くにあります。
 「こんな飲み物や食べ物があるだろう」と思うものはたいていあるので、冒険のお供にどうぞ。
 「俺は海の家でバイトするぜ」……OKですッ! ただし、スイカ割りもぜひお願いしますッ!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。安心!

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • ココメロ、ココロ、ウミのイロ~夏の思い出、スイカ割り~完了
  • GM名透明空気
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
山本 雄斗(p3p009723)
命を抱いて
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ

●焼きそば、ラーメン……たこ焼きにアイス!
「全部食べてたら食べすぎになっちゃうから、マリアちゃんと半分こがいいかしらね?」
「ああ。マリアは賛成する、ぞ」
「ふふ、決まり~!」

 蠱惑的な肌色に映える白の水着が愛らしい『宝玉眼の決意』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が、海の家の椅子にちょこんと収まっている。
 陽光を紡いだような髪を楽しげに波打たせるエクスマリアに、ままがひとくち、シェアしてくれる。
「はい、マリアちゃん。支那竹。あーん」
「はふ……ん、」
 スープが絡むあったかな口触り、しゃきりとした歯触り。口いっぱいに美味しさが広がり、髪先が振れるエクスマリア。
 夏陽に煌めく緑葉と柑橘系を想わせるホルターネックの水着姿の『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)はそんなエクスマリアの髪を優しく撫でて、ハンカチを取り出してお口の回りを拭いてあげる。
「マリアちゃん、拭いてあげるわ」
「ん……」
 素直にされるがままといったエクスマリアに、華蓮はニコニコした。

(これはむしろ、私の方が大好きなマリアちゃんに甘えてるのだわね)
 本当は、マリアちゃんはままの甘やかしが必要なお年ではないかもだから。

 そんな華蓮に上目がちな眼差しを返したエクスマリアは、優しい気配に心地よく睫毛を伏せる。
(見た目通りの歳でもないという、のに……ままには、つい甘えてしまう、な)
(お返しに、マリアからも、目一杯ままを、甘やかそう) 

 虎斑の卓上に並ぶ料理を二人一緒に頂いて、声が連なる。
「特別珍しいメニューではないのに、こういった場で食べると格別に感じる、な」
「海で食べるとお家で食べるよりもおいしいのだわよねぇ……」
「特にこのラーメンは、美味しい――ままと一緒だから、というのもあるのだろう、が」
「ふふ、そうね。周囲の雰囲気のお陰かもしれないし、マリアちゃんが一緒に食べてくれてるからかもしれないのだわ……マリアちゃん、この味が好き? 帰ったら、作ってみようかしら」

「皆さんの細かい好みはわからないですが……色々買っておきますか」
 『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が皆のために飲み物を仕入れている。
(きっと沢山遊ぶでしょうから。遊ぶ為にも栄養補給は大事……)
「107号さんは……ええと、食べ物はわかりませんが、飲み物はあったほうがいいでしょうか。せめて体を冷やすように……!」


●「暑い夏でありますからね、海を楽しまなくては!」
「ヤッフー!! 海だー!」
 『命を抱いて』山本 雄斗(p3p009723)が燥いだ声をあげている。
「海だーっ!!!! であります!!!」
 『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)が同様に声をあげれば、自然と視線が噛み合って、笑顔に笑顔が返された。
「にしても、これが自然の海なんだね! 再現性東京の人工の海と比べてそんなに変わらない気もするけど、それだけ練達の技術が凄いってことかな?」
「技術力は日々高まっているようで……と任務を忘れるわけにはいかないでありますよね」
 ムサシがハッと任務に意識を戻し、照れくさそうに笑った――ついつい、はしゃいでしまった、と。
「107さんとスイカ割りをすること! ……なんでスイカ割りなんでありましょうか……? ちょっと気になるでありますけど……」
『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)がくすくすと肩を揺らし、「エメスさんはそういう人ッス」と零している。

 ふわっと香しい匂いが風に運ばれる。
「ロボットの一体や二体そこまで珍しくはないが……海だとまた別だな」
『戦支柱』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)だ。
 涼し気な羽織を風に靡かせ、大人っぽさを感じさせる黒ビキニにスタイルの良さを魅せながら、ふわふわの尻尾を揺らす声は、若干の困惑をのぼらせいる。

「へぇ、練達にもこんな海が……本当に世界は広いですね。こんなところでお仕事をもらえるのもありがたい限りです」
 マニエラの隣でマリエッタが麦わら帽子を軽くおさえて、陽光充ちる海景色に眩しげに目を細めた。
 良い仕事――と思った耳に、マニエラの呟きが届く。
「というか、割りのいい依頼と聞いたが……まじ? 唐突に変なスライムが出たりしない? 薬の治験に急に参加することになったりしない?? ……練達の依頼何て騙して被験が大半(偏見)だろ?」
「えっ。練達の依頼は、そういった油断のならないものが多いのですか」
「いや、まあ。……まあ、まあ」
「警戒しておきましょうか……?」
「あ、いや……」

「流石エメスさん。この混沌でこんなものを造り上げるとは……」
 イルミナの呟きに、雄斗が振り返る。
「エメスくんも来れれば良かったけどお仕事なら仕方ないね、エメスくんの分まで遊ぶぞー!」
「ふふ、この調子で行けばいつか、イルミナのようなロボも作れるかもしれませんもんね! そしたらイルミナは先輩……いや、お姉ちゃん……?」
 イルミナは107に親しみの籠った眼差しを向け、手を握って揺らした。

「イルミナおねえちゃん!」
 107があどけない風情でイルミナを呼ぶ。繋いだ手に体温は感じないけど、不思議とあたたかい。

「ふむ……よしっ、あだ名を付けましょう! いえね、やっぱりこういうのって気持ちの問題といいますか……イルミナが呼びたいといいますか……」
「賛成!」
 雄斗が乗っている。
「なーくん、とかダメッスかね? ささ、早速登録名を増やして貰って……!」
「107って呼び難いからイオナ君って呼んでいい?」
「おっと、同時に二案が……?」
「色んな名前で呼ばれるのも経験ッスよ、たぶん!!」

(ロボット……ゴーレムとは違うのですね)
 マリエッタは軽く首を傾げ、107に近寄った。
(どうしてか彼らの様な血の通わない人型には興味がわきづらいのは……私もまだよくわからないのですが)
 ――私個人としては、彼らに対して嫌悪感は何一つないですし。正体を隠してあげましょう。

「ケープをどうぞ」
 優しい微風のように笑み、マリエッタがケープを貸すと、107はまるで人のように「ありがとう」とお礼を言った。
 機械的な声は感情が薄いけれど、マリエッタにはその感謝の気持ちが伝わり、いっそう気配を優しくしたのだった。


●「え、録画? ポーズ取る?」
「スイカ割りって実はやったことなくて……まさか今になって機会を得られるとは思わなかった。交代でやろうか?」
 引き締まった体を陽光に魅せる『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が107を中心に仲間たちが過ごす1日を録画している。雄斗も一緒になって撮影し、エメスへの提出用の資料にしようとしていた。
「間近で見た皆の様子をエメスさんにも見せたい!」
 イズマは端正な顔立ちに優しい感情を湛えて微笑んだ。
「良いッスね! いやー! 実に夏らしくていいッスね、スイカ割り! ふっふっふ、イルミナにかかればスイカの1つや2つ、すぱぱーんと割ってみせるッス!」
 イルミナが頷き、早速107に目隠しをしている。

「後片付けをする為のゴミ袋も用意しておかないと……」
 マニエラと華蓮がスイカをセッティングしている。この二人は基本サポートに回るようで、揃いの「サポーター」腕章まで付けていた。

「ブルーシートを持ってきたよ」
 イズマがばさりとシートを広げると、マニエラが尻尾を揺らした。
「ああ、それなら割ったスイカが砂塗れにならないな」
「飛び散ったあと食べられるので、シートは大変有効でありますね」
 ムサシがイズマと一緒にシートを広げる。

 華蓮がブルーシートの上にスイカを並べていく。
「こっちと、あっちと、向こうにも置いたのだわ」 

「スイカはたっぷりありますからね! 皆さんそれぞれ割れるッスよ〜!」
 イルミナが明るく言って、目隠しをぶんぶん振る。
「いざスイカ割りをするとすれば全力を尽くすのが礼儀というもの!」
 ムサシは凛然と声を響かせ、「えくすかりばー」と書かれた棒を試し振りした。
「ただの棒なのに、様になりますね」
 マリエッタがくすっと笑った。
「なんでも全力で楽しんでこそ! でありますからね!」

「目隠しをして! 始める前にこう……ぐるぐる回すのも作法というやつでありますよね!」
「イルミナおねえちゃん、どうして目隠しをするの。どうしてぐるぐる回すの」
「なーくん、これがスイカ割りの作法ッス! そーれ、ぐーるぐるっ」
「まわ、まわ、まわ……」
「大丈夫? イオナ君バグってない?」

 そんな107へとイルミナが細かく指示を出して、スイカ割りが始まった。
 
「あと30°くらい右方向旋回ッスよー!!」
「躓かないようにな? そのまま左に……あっ止まって! 今度は右に3歩くらい行ってみて」
 イズマが一緒になって声を出し、雄斗が続く。
「いいよ! そのまま真っ直ぐ、ああ、もうちょっと右に……そこ!」
 マリエッタが混ざる。
「右とか左とか……あっ、もっと細かく言うほうがいいでしょうか。数値単位とか……ダメです?」
 紆余曲折の末、107はすぱーんとスイカを割った。
「凄い、お見事! 綺麗に割れた!」

 さて、イレギュラーズも、といったところで雄斗が持ってきた台を披露した。
「じゃーん!」

「僕、思ったんだ。イレギュラーズのみんなだと、普通に十回位回った位じゃ効果薄いよねって。で、エメスくんの所の研究所で作って貰ったんだ。1分間に2400回転で10秒で40回転出来る台だよ! これで回ればしっかりと効果出ると思うから、早速僕から使うね」
「えっ雄斗くんそんな用意周到にいつオーダーして特注の台を用意して……作ってって言ってホイホイ作ってくれるなんて凄……1分間に2400回転で10秒で40回転出来る台!?!?!? 命に関わるレベルの回転じゃないであります??? 雄斗くん? 雄斗くん、それは危険じゃないでありますか? 雄斗く」
「れでぃ、ごー!」
 ムサシの言葉を背景に雄斗がしゅたりと台に乗り、しゅばばばっと回されながら言葉にならない悲鳴をあげてふらっとなる。
「~~ッ!」
「雄斗くんッ!? しっかり~~っ?」
 ムサシが腕と背を支えて、ちょっと心配そうな顔をしている。
「うぅ~、速すぎ、気持ち悪い……けど、行く!」 
 ふらふらと雄斗がスイカと真逆の方向に前進する。
「気持ち悪いで済……えっ、本当に大丈夫であります? 動かない方がよいのでは?」
「転ばないようにな?」
 ムサシとイズマがそわそわと声をかけ、「あと、向きが反対」と冷静なつっこみをした。

「何とかスイカ割り出来たけどあれは速すぎて流石にダメだね、使いたい人だけ使う位が良さそうだよ」
 雄斗が言えば台はまるっと放置され、皆がワイワイとスイカ割りに興じる時間が訪れた。

「イズマさん、ぐるっと回り込むように。深く抉るようにいこう!」
 謎のテクニカルな指示に、イズマが律儀に応じている。 
「目が回る……」
「いいぞ、そのまま三歩前!」
「イズマさん、右ッスー!」
「前、右……」
「行き過ぎぃ!」
「えっ進みすぎ?」
「そこだー!」
「わ、解った。ここかっ?」
「ナイスー!」

  目隠しを取って息をつき、イズマが戦果に口の端をあげる。
「ははは、現実の俺でよかったな。ROOの俺だったら音だけで判って遊びにならない」
 ――エコーロケーションは反則技だな。

「次はマリエッタさん!」
「……できるでしょうか」
「がんばれ!」

 賑やかな声を背景に、マニエラがスイカをカットする。
「それは割った欠片? じゃあ、水洗いしてミキサーにかけようか。スイカジュースになるよ」
 それは良い、とムサシがグラスを並べて微笑んだ。
「暑いでありますから、水分補給の方も忘れないようにしないとでありますね」

「マリアちゃーん、すこぉし、右なのだわ!」
 目隠しをしたエクスマリアが華蓮の声を信じて右に寄る。
「ここか……っ」
 声にまっすぐ棒を振り下ろす。一刀両断――確かな手ごたえ!
「お見事! ばっちり、大当たりなのだわ、マリアちゃん!」
「やった……!」 
 華蓮が手を叩いて喜ぶのが目隠し越しにもわかって、エクスマリアは髪の動きに喜びを溢れさせた。

 華蓮がスイカをお皿に移している。
「まあ、まあ。なんて美味しいのかしら! マリアちゃんが割ったスイカだけあって、特別な感じがするのだわ」
「ふふ……」
 はしゃぐような声に、エクスマリアはくすぐったがるみたいに髪の毛先を丸めたり波打たせたりした。

「そのまま食べても最高だが、少し塩をかけてみるのも良いよ。……おっと、種と皮はこの袋に入れてくれ!」
 イズマがそう言って、107にスイカを食べる感覚を伝えている。
「シャクシャクしててサッパリする、甘くて疲れが取れる、水分があってクールダウンできる……みたいな感じ?」
「しゃくしゃく」
 107は真似をするみたいに言って、頷いた。

「では自分も塩をかけて頂きましょう! 店主さん! 自分にラムネ、一本、お願いしますっ!」
 ムサシが爽やかな気泡を煌めかせるラムネを煽りつつ、スイカを楽しんでいる。
「しゅわっと爽快!」
 イズマを真似て食レポすれば、107が「しゅわっ」と言ってから、周囲を少し気にした。 
「俺も機械の身体だし、秘宝種や旅人にも球体関節の人はいるし、気にしなくても大丈夫だよ」
 イズマはそっと安心させるように言って、自身の機械部位を示した。
「あとは色々な経験をして、中身から人間らしく成長できるといいかもな」

 マニエラがスイカジュースを配っている。
「日差しにきらきらして、綺麗だね」
「美味しい、ありがとう!」
 華蓮が楽しそうに笑っている。

 涼風めいて、明るい声が誘う。
「ビーチバレーする人~?」
 雄斗が107とビーチボールで遊びながらメンツを集めていた。

「落とさない様に」
 107が雄斗の真似をしてトスをあげる。雄斗はにっこりとした。
「そうそう。返すよ!」 

「ビーチバレー、乗った! ッス」
 イルミナがぱたぱたと駆けて混ざる。
「言っておきますけど、本気ッスからね! 負けたらラーメン奢りッス!」 

 パラソルの下、マニエラは見守る姿勢。
「私はパスさせて貰おうかな。うん。暑いの苦手でね!! その代わりなんだ、審判は承るよ」
「じゃあ、私と一緒に審判を?」
 華蓮がスイカジュースを手にホイッスルを渡してくれる。

 ルールはわかりますが、と言いながらマリエッタが恐る恐る参加している。
「実は魔法で身体強化を施さないと運動は苦手で……きゃっ。お、落としてしまいました、すみません」
「マリエッタさん、楽しけりゃいいんス!」
「はい、イルミナさん……っ」

「ジュースのお代わりは、あちらにたっぷりあるから各自どうぞ――水分補給は大事だぞ? 熱中症対策は万全に、だ」
「はーい」

「僕の超反応アタックについて来れるかな?」
 雄斗が挑戦的に言い放つ。
「マリアとて、歴戦のイレギュラーズの、一角。研ぎ澄ませた力を、今こそ発揮する時、だ……!」
(ままが、見ている……!)
「ふわっと頼む、マリエッタ……!」
「はい、ふわっ……ですね、エクスマリアさん」
(素晴らしいプレイで、あとで褒めてもらう、ぞ)
 エクスマリアが風を読み、エンドライン際にディープショットを決めている。
「わ、わぁ……っ」
 華蓮が頬を紅潮させ、拍手した。
「審判?」
「あっ」
 微笑ましく、笑い声が咲く――、 

「はー、だいぶ遊びましたね! 夏休みの思い出にまた1ページ、というやつです! イルミナは大丈夫ですけど、皆さん……ちゃんと日焼け止め、塗りました?」
「イオナ君楽しかった? 僕はとても楽しかったよ」
 イルミナと雄斗がイズマのカメラに手を振って、スイカを食べる。
 暑さの中で遊んだ心地よい疲労感に、瑞々しい甘さが染みていくようだった。



 時が過ぎ、
 昼から夜に、世界が移ろい彩と熱感を変えていく。

「ああ、楽しかった、な。また次の年も、こんな風に遊ぶとしよう、か」
 エクスマリアは華蓮と後片付けしながら柔らかな声をかけた。

「107。お前も楽しかった、か?」
「たのし?」
 お姉さんな顔をしたエクスマリアに、107が稚い声を返している。
「まだわからないなら、また、遊ぼう。その時は、またマリアも付き合ってやろう……子供はそうして、覚えて、育っていくもの、だから、な」

「すっかり暗くなったなあ」
 マニエラが線香花火を手に、静謐な夏海の夜を見つめている。
「ぱちぱちと弾けるのが私は好きでね」
 魔術ではない、自然の火――深い大自然の夜の暗さに、ほんの小さく燈火を咲かせ、あっけなく静かになっていく、その灯り。
 色を見つめるオッドアイは、過去の現在の狭間に彷徨うようだった。

「……まぁ、理解できるかどうかはおいといて」
 永遠のような一瞬。思うのは、貴族としての時間、恋人――圧倒的な淋しさ。
「もしかしたらいつかは理解できるかもしれない――データとしては残しておいて損はないだろう。感受性なんて、まともなヒトでも持ちきれていないものさ」

 マリエッタはそんな声に静かに目を細め、夜風に長い髪を靡かせて微笑んだ。

 影が砂浜に伸びて波と戯れる。

 この時間を楽しむ――
 そんな淡く優しい吐息が風と共に波間を彷徨い、星空に翔けて、ひと夏の思い出を残して消えていく。

成否

成功

MVP

マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

状態異常

なし

あとがき

 おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆様。

 依頼お疲れ様でした!
 107は無事スイカ割りをこなし、すこし人間に慣れたようです。結果を待っていたエメスも録画をみたり報告書を楽しみ、満足している様子で「ボクの大好きなイレギュラーズが楽しんでくれた様子なのが、いちばん嬉しい」と言っています。
 MVPはクライアントであるエメスが「ケープを貸してくれてありがとう」と特に喜んだあなたに。

 ご参加、ありがとうございました!

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