PandoraPartyProject

シナリオ詳細

夢のまほろば

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――くそ! もう少しでシレンツィオに辿り着くのに!!
 ――駄目だ! 船がもたないぞ! 乗客を避難させ……うわああああッ!!

 悲鳴。怒号。嗚咽。数多の感情が吹き荒ぶ。
 船が揺れ、軋む。異常なる音が響くのは、終焉への足音か。
「にーちゃん、怖いよ……!!」
「大丈夫だ! もうちょっとで、もうちょっとで着くんだからな!」
 渦中において、寄り添うのは小さな命。
 彼らは信じていた。これは只の嵐。もう少しすれば、夢に夢みた地に着くのだからと。
 最期の最期まで。寄り添い合って信じていた。

 夢のまほろばは――あと少しなのだからと。


「……んだこりゃ。夢じゃあないわよね?」
 夜に至り。天に星の輝きが満ちる頃合い。
 今話題のフェデリア島に存在するシレンツィオ・リゾート――への途上に存在する無人島にて、コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)は見た。
 己らの眼前に突如として大型の客船が出現したのを……
 ――時を戻せば、コルネリアを含めたイレギュラーズが何故無人島にいるのか。それは元々シレンツィオまでの航路上において魔物が出現し、船の往来を阻害せんとする動きがあったが故に……ローレットに依頼が持ち込まれたのが始まりである。
 そしてその魔物達が拠点としている島の存在が判明。
 故なる討伐を果たした――それまでは良かったのだが。
 しかし無人島までに至った小型船が、魔物との戦闘の最中に破砕してしまったのである。
 これでは移動がままならない。
 さてどうしたものかと思っていた最中に現れたのが……件の客船であった。そして客船側もコルネリアらの存在に気付き、救助の為に乗せてくれた。そこまでは良かった――のだが。
「幸運でしたね。これで無人島に立ち残され……なんて事態は避ける事は出来そうです。
 ……ただ、少し妙な気配を感じますね。これは……」
「うん。なんかこの船……おかしい? なんていうか、その……」
 突如現れた船の存在を訝しみながらも、乗船するは小金井・正純(p3p008000)やタイム(p3p007854)である。彼女らは即座に気付いた。『何か』が、おかしいと。
 助けてくれた乗組員達は親切であった。
 同じく船に乗っている一般客と思わしき者達も友好的――だが。

「……どことなく、生気がないような。これではまるで客船というよりも」
「――そうです。この船はですね『亡霊船』なのですよ」

 どことなく只人ではないとすずな(p3p005307)が思えば。
 彼女の疑問に答えたのは客船クーベル号の……船長であった。
 老齢で、しかし船乗りとしての歴戦味を感じさせる人物――だが。その彼にもまた生気がない。どことなく体が透けて見えているような……それはやはり彼自身が言った様にこの船が『亡霊』の船であるからか。
 しかし亡霊船と言う割には一切、生者に敵対的ではない。
 今もイレギュラーズ達に対して友好的な様に見えるし――実際そうだ。
「何か訳ありの様ですわね?」
「ええ――本船クーベル号は暫し前に海洋本土より出港した客船でした。
 しかし……我らはシレンツィオに辿り着く前に魔物に襲われ沈没してしまったのです。
 それ以来この船は、シレンツィオを目指して彷徨う亡霊船となりました」
 で、あるが故にこそヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は船長に問いかけた――一体何があったのかと。さすれば彼の口から語られた内容から察するに……シレンツィオに辿り着けなかった未練が亡霊船と化したのであろうか。
 だが、妙な点もある。暫く前から既に亡霊船となっていたのなら。
「もうシレンツィオに辿り着いていてもおかしくないんじゃないかい?」
「……其処なのです問題は。我らがこの海を未だ彷徨っているのは『辿り着けない』からなのです。この海域を荒らしている魔物に阻まれ……そして幾度となく沈んでいる」
「あっ。それなら私達が魔物は倒したよ! ならきっと今度こそ大丈夫――」
 直後。マリア・レイシス(p3p006685)が船長へと言を紡ぐ――が。
 船長は力なく首を振るだけであった。
「いえ。感じるのです――『奴』はまだ生きていると……
 この海域を荒らしている『奴』は……まだ我らをきっと狙っています。
 あの、人の魂を幾度となく喰らう事を好む、悪魔は……」
 まだ『いる』のだからと。
 ――ディブルグング。この海域に根差す、巨大なウミヘビの様な個体で……船を横転させ、溺れた者らの魂を喰らう魔物がいるのだと。奴はクーベル号を襲い、それ以来咀嚼する様に幾度も幾度もこの船を付け狙っている。
 その魂が、絞り滓になるまで。
 その魂が、最早舐める価値もない芥になるまで。
 絶対にシレンツィオには辿り着かせぬ、と。
「ですのでお願いがあります――皆様をシレンツィオまで移送します。代わりに、ディブルグングを打ち倒し……我々もシレンツィオまで連れて行ってほしいのです」
「……一応聞いときたいんだけど。シレンツィオに着いたらアンタらはどうなんの?」
「この船は最早未練の力によってのみ動いています。本懐が遂げられればその時は――」
 消えるでしょう、と。船長はコルネリアへと告げるものだ。
 だけどそれでいいのだ。正しいのだ。もうこの船が生きてかの地に辿り着く事はなくても。
 黄金の様に夢見たシレンツィオに辿り着ける、それだけで……
「ねー船長さん、シレンツィオってまだー!?」
 と、その時。
 元気の良さそうな声が響き渡った――正純らが見据えた先にいたのは、子供達だ。
 小さな子供達。年が10に満ちているかも分からぬ程の……その子らは。
「シレンツィオってすげーんだよな! きれーで楽しい場所なんだよなー!」
「楽しみだねーにーちゃん!」
「……あの、この子達は」
「――実は。この船が既に亡霊船である事に自覚があるのは、一部の者達だけなのです。大半はまだ……『いる』のです。夢の狭間に。もう少しすれば、夢のシレンツィオに着くのだと」
 その子らも――また、亡霊だ。
 ディブルグングに襲われ、刹那に喰われ、魂だけの存在になってしまった者達。
 ……彼らは夢見ている。あとどれぐらいでシレンツィオに辿り着けるかと。
 無邪気なままに。
「なー! ねーちゃん達、シレンツィオから来たの!? あそこって楽しーの?!」
「教えて教えてー! おねーちゃん達、おしえてー!」
「……」
 そして。彼らは――イレギュラーズに問う。
 シレンツィオの様子を。もう絶対に辿り着けぬ事を、知らぬ儘に。
 ……だからこそ船長はイレギュラーズに懇願するのだ。この夢を終わらせてほしいと。
 たった一度だけでいいのだ。
 夢のまほろばに――シレンツィオ・リゾートに。

 私達を連れて行ってほしいと……

GMコメント

 お待たせしました、リクエストありがとうございます。
 以下詳細となっております。よろしくお願いします。

●依頼達成条件
 亡霊船を運行完了させる。

●フィールド
 フェデリア島付近の海域上を航行中の亡霊船クーベル号です。
 少々大きめの亡霊客船で、クルーを含め結構な人数の乗員がいる様です。
 ただし戦闘が出来る者達はいません。

 その途上で、後述する魔物たるディブルグングが襲い掛かってきます。
 やがて撃退できれば……シレンツィオが見えてくるでしょう。

●敵戦力『ディブルグング』
 シレンツィオへと向かう船を時折襲っている魔物です。
 巨大なウミヘビとも言うべき姿をしており船に巻き付き、横転させんとしてきます。
 そして海に落ちた者を喰らうのです……

 この個体は『人の魂』の類を好むらしく、強い未練を抱いているクーベル号を何度も襲い、少しずつその未練や魂を食している様です。絞り滓になるまで、嬲り殺す様に奴の所業は続く事でしょう……

 しかし、自身より弱い個体を狙う為か、あまり戦闘自体には優れていません。耐久力だけはそれなりに在りますが、徹底的に攻撃していればいずれは倒せる事でしょう。

●亡霊船『クーベル号』
 しばらく前にシレンツィオへと出港した客船です。
 連絡が取れなくなった……と言う事で、別件で捜索活動が行われていたのですが、どうやら魔物に襲われ亡霊船となっている様でした。

 シレンツィオに辿り着くと未練が晴れて――消失します。
 しかしそれでいいのです。それが彼らの望みでもあるのですから。

●乗客(亡霊)達
 船には多くの乗客がいます――皆、死んでいますが。
 船長など一部の人物達は状況を理解している様ですが、大半の人物達は自らが死している事を自覚していません(ディブルグングに何度も咀嚼された影響もあるのかもしれません)

 彼らは純粋に――シレンツィオに辿り着く事を楽しみにしているのです。
 ……中には小さい子供達もいます。
 彼らはシレンツィオを楽しみにしている様であり、皆さんに問いかけてきたりもするかもしれません。何か話してみてもいいかもしれませんね……

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 夢のまほろば完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年08月21日 22時10分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈りの先
すずな(p3p005307)
忠犬
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
タイム(p3p007854)
この手を貴女に
小金井・正純(p3p008000)
燻る微熱
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤

リプレイ


 死して尚囚われるとは如何な心で在ろうことか。
 知ってか。知らずか。
 何れにせよ『外』より見うる者にとって其は見過ごせず――
「……私達で終わりを齎しましょう」
「えぇ、そうね……彷徨い続ける魂を貪る卑しい魔物の好きになんざ、これ以上させられないわ」
 言を紡ぐは『憤怒』すずな(p3p005307)に『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)だ。彼女らの周囲には――事態知らぬ、無邪気な子供達もいる。
「ねぇねぇシレンツィオってどんな所なのー? たのしい?」
「ええ勿論。シレンツィオには沢山の人がいて今とても賑やかなの!
 豪華なホテル、おいしい食べ物、コンサートや遊園地が大人気!
 ――きっと楽しいわよ。きっと、ええ、大満足しちゃうんだから!」
「それからやっぱりシレンツィオと言えば――ビーチではしゃぐのが一番! 私はこないだバレーと……あぁ、自然がある地区の方ではサバゲーもやってきました! あそこは色んな事が出来るんですよ。それからお土産屋さんも充実しててですね……」
 故にすずなは『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)らと共に、子供達へと語り掛けるものだ。彼らがまだ見ぬシレンツィオの地を。せめて、その情景が彼らの魂に映る様に。
 然らば子供達は『すげー! たのしそー!』と大はしゃぎ。
 タイムは椅子に掛け、子供達の一人を膝に乗せれば……彼らがこの先不安を幻視せぬ為に陽気なる声を紡ぎ続けようか。さすれば――彼らの瞳の眼差しは、どこか煌めいている。
 『其処』に行けるのだと彼らは信じているから。
(……あまり期待させてはいけないかしら? でも……)
 刹那。タイムの胸奥にて疼く重みがあれ、ど。
 彼女は微笑みを絶やさぬ。
 純粋に楽しみにしている子供達の笑顔があるのだから。
「夜でもとても賑やかで、明かりが絶えず、人々が活気に溢れている。
 そんな場所ですよ――ええ。きっとあなたがたも楽しめるでしょう。
 あぁ美味しいものも沢山ありました。シレンツィオ名物の御魚屋さんもあってですね……」
「ああ、他にも……えぇ。シレンツィオにはこんな怪談もあってですね……VDMランド・シーって所があるんですけど……其処にはですね白くてモフモフで、立って歩く未確認生物がそこに出没するんですよ――一部の人には色んな意味で厳しい、UMAです。行くなら気を付けるがいいですよ。うん」
「わーすげー! そんなのいるの――!? ぜって見て――!」
「ふふ! 良い子にしてたらきっと会えますわよ、ね。マリィ」
「そうだねヴァリューシャ! VDMランドは……どんな子だって受け入れてくれるよ!」
 更に続けて『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)もシレンツィオの情景を、すずなと共に語るものだ。彼女らにとっても縁深い地の噂話もすれば、年頃の少年少女達は和気藹々。
 ……暗い顔をしていては、彼らに心配をかけるかもしれない。
 だからタイムと同様に、正純は己が心を精一杯『笑顔』で務めるものだ。
 そして『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)に『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は子供らを歓迎するかのように言を紡ごう。
 嘘は語らぬ。きっといい子にしていれば――シレンツィオに辿り着けるから、と。

 その時。

「う、うわあああ――! 出たぞ、魔物だ――!」
 船員らしき者の声が張り上げられると同時、船が大きく響き揺れた。
 ――話に聞いていたディブルグングか!
「皆落ち着いて! 大丈夫、私達が必ず守るからね!
 皆で中央広間に集まってくれ! そこが一番安全だ!
 外には近付かない様にッ! 私達が……魔物を倒してくるまでね!」
「えぇ!? おねーちゃん達……いっちゃうの!? あぶないよ!?」
「うん――でも大丈夫よ。お姉さん達が悪いやつをやっつけて、すぐに戻って来るから」
 だからいい子で、待っててね。
 素早くマリアが乗客の安全確保の為の指示を飛ばせば、同時にタイムは膝に乗っていた子の頭を穏やかに撫ぜるもの……笑みを崩さぬ儘に。彼らが不安がらない様に。
 例えこの先、魔物を……順当に倒せたとしても。
 未来が変わらぬとしても。
 せめて一時でも彼らに安堵の刹那を与えん。
「大丈夫、安心して下さいまし。絶対に守って差し上げますわ。
 ええ……必ず。必ずシレンツィオに辿り着きますからね。
 ――行きましょう。悪い夢を、終わらせる為に」
 故にこそヴァレーリヤは願う。この子らに祝福を、と。
 例えどれだけ悪い夢であったとしても……
 夢はきっと、覚めねばならないのだから。


 外駆ける。さらばコルネリアやヴァレーリヤの視界には、船をも包まんとする魔物が目に映ろうか――これがディブルグング。魂の絞り滓まで喰らう魔の一角。
「成程。大層な大きな事で……しかし。彼らのささやかな幸せを奪い取り、魂となってからも付け狙うだなんて……許されるものではございませんわ」
「業が深いわね、全く」
 されど臆さぬ。ヴァレーリヤはメイスを構え、船を軋ませんとする魔物へと一閃叩き込み。同時にコルネリアは自らに祝福の力を齎しながら――奴の身へと銃撃一つ。
「ハイエナですらそこまで喰い汚くないっての! 死肉喰らいも大概にしときなさい!」
「夢を、希望を乗せて旅立った彼らを何度も――自身の欲の儘に食らいて満足ですか?」
 次いで間髪入れずに向かうは正純だ。
 彼女が構える弓の狙い先。まずは頭――放たれる矢の一筋が闇夜を穿ち貫いてゆく。然らば反撃という概念を想定していなかったのか、コルネリアや正純の一撃をマトモに受けしディブルグングは悶える様に身を捩じらせており……
「貴方の悪食も此処までです。
 彼らを解放しなさい――さもなくば一足先に黄泉を渡って頂きましょう」
『――――!!』
 直後。奴めは正純たちを憎悪の瞳で眺めるものだ。
 ああなんだお前達は。煩い事ばかりのたまって――
 お前達の魂も、喰らってやろうか。
 牙をもってして彼女らを呑まんとする――しかし。
「シレンツィオ・リゾートまであと少しなんだ……彼らの旅路の邪魔はさせないよッ!」
 其を防ぐのはマリアだ。ディブルグングの横っ面を弾く様に彼女は瞬く。
 紅き雷光の如く。自らを弾丸に見立て行使する力の一閃は並みの砲撃など遥かに凌駕しようか。
 ――魔物の身体が揺らぐ。再度、奴の瞳が此方を睨みつけてくれ、ば。
 思う事が一つあるものだ。あぁ、君も生きる為に食べているタイプかな?
「だったら生物としての正しさもあるかもしれない。
 生存本能は誰しもにあって然るべきものだからね――でも!」
 だが。マリアの闘争の意志に一寸の陰りも現れぬ。
 雷速必中。雷光振盪。雷撃一閃――ッ!
「彼らはやらせない。躱せるものなら躱してみたまえ! 文字通り雷速必中の蹴りだ!」
『ガァ、アァアア――!』
「ッ! 来るわ! 皆――どこかに掴まって!」
 正に猛攻。ディブルグングを押し切らんとする超撃が幾度も襲い――しかし。
 奴めも反撃の一手を紡ぐ。足場たる船を一刻も沈めんとするのだ。
 ――激しく船体に衝撃が走り、故にこそタイムが即座に警告の一声を飛ばす。
「させないわよ……! さぁこっちを見なさい! 私が相手をしてあげる――!」
「頼んだよ、タイム君! 落ちそうになってる子達は任せて!」
「最悪泳いででもなんとかしてみせましょう……!」
 タイムはディブルグングの眼前に立ち、声を張り上げながら治癒の術を振るう。
 攻撃を受け止め被害を自らに集中させるのだ――それでも船に衝撃がある程度走ってしまうものであるが、しかし其処はマリアやすずながカバーする。
 誰ぞが海に放り出されぬ様に注意しているのだ。
 特にすずなは水中を自在に往く技能がある……というか、まぁ。前から思っていたが、周囲に泳げない人も多いのだから己が往くしかないと……! マリアが忙しい折には自らが回収しに行かんとし。
「だから――もしそうなったら下手に暴れないでくださいね、ヴァレーリヤさん! 正純さん!」
「安心してくださいまし! この大一番で……仕損じたりしませんわッ――!」
「それに、ええ、速攻を決めれば問題もないでしょうし、ねッ!」
 同時。『泳げない』組にすずなが視線を滑らせれば――ヴァレーリヤに正純は『その前に殺し切る』勢いで魔物へと撃を紡ぎ続けるものだ。聖句を唱え、炎と共に往くヴァレーリヤは、船に巻き付かんとする動きを止めるべくメイスを振るい。正純も引き続き口や牙を狙いて奴の攻勢を削がんとする――
 然らばすずなもディブルグングを叩き斬るのみ。
 暗冥を裂く斬障を此処に。神速に至りし居合の一閃は――蛇の身を裂き血飛沫舞わすか。
 ――攻勢に次ぐ攻勢。滅ぼすに足る意思の激突が運命を超える。
 幾度も航海して来た。シレンツィオへ辿り着かんと。
 幾度も目指して来た。誰もが楽しみにしていた、安息の地へと。
 その度に阻む悪意の権化が――今。
『ギ、ィィィ、イイ――!』
「Shut up。魂喰らいが……運が悪かったわねぇ。
 餌にありつく前に、アンタは此処で終わりさぁ!」
 終焉を迎えんとする。
 コルネリアの銃撃がディブルグングの傷を抉る様に叩き込まれ続けているのだ。
 特に正純が狙い続けた頭や口、牙より迸る傷跡を……正確無比に。
 故。船の中で寄り集まる者達の魂を感じ取り。其れを喰らいて体力を付けんと――
「この船の人達はもう誰一人……渡さない! 貴方なんかに弄ばせたりしないわ……!」
 した瞬間。タイムが立ちはだかるものだ。
 これ以上、誰一人として好き勝手にはさせない――!
 踏みとどまり抑えつけて。さすれば。
「タイムさん――! 今、参りますッ!」
「海の魔よ……貴方の相手は、私達でしょう!? 此方を見なさいッ!」
 最後の反抗を潰すかのように、すずなの斬撃とヴァレーリヤの放つ衝撃波が敵を襲う。
 既に死している乗客を庇う事に大きな意味はないかもしれない。
 けれど。それでも。最後の航海くらいは――!
「無事に辿り着いて欲しいと思っていますの……! だから!」
「うん――! 彼らを辿りつかせるんだ! この先に――! 彼らの明日へ――!」
 届かせると。マリアが蹴撃にて敵の顎を打ち上げるものだ。
 ――見える腹。無防備にして数多の疲労が在らば最早防御は間に合わず。
「例え。仮に、貴方が生きる術で彼らを襲っているだけだとしても。
 何度も魂を犯すなど許されてはならないのです。故に――」
 ここで消えなさい。
 幕引く一撃。正純が狙い定める渾身の一閃が――放たれた。
 ……されば直後。天突く様な咆哮は、死間際の断末魔であったのだろうか。
 奴の身が――海原へと倒れ伏して。
「あ、あぁ……! 魔物が! 奴が倒れた!」
「行ける、行けるぞ――! 我々はシレンツィオへ、往けるんだ――!」
 であれば。船の側より歓声が挙がるものだ。
 ああ――遂に我々は往けるのだと、イレギュラーズを称える様に。

 夢にまで見たシレンツィオに……行けるのだと。


 船は進む。邪魔の入らぬ海域を真っすぐに。
 ……間もなくシレンツィオが見えてくるだろうか。彼方に街の光が、見えた気もして。
「さぁ――もうすぐシレンツィオに着きますわよ。
 ふふ。貴方は何がしたいですか? あそこには沢山、遊び場もありますわよ」
「あのねー! 僕、四番街の記念公園にいってみたいなー!」
「わたしはビーチにいってみたーい! とっても広いんでしょー?」
「そうですわね――ええ。一つずつ、ゆっくりと巡って行きましょうね」
 そして。その前にと、ヴァレーリヤは乗客に……特に子供達の話を聞いてみるものだ。
 彼らが抱いていた夢が如何であったか、知っておく為に。
 覚えておく為に。
 ……可能な限り、一人一人の話を聞いて回るのだ。
 叶えさせてあげることはできなくても。
(……代わりに叶えてあげることはできるかも知れませんしね)
 例え自己満足にしか過ぎねども。でも、彼らがどんな人達だったのかを――
 必ず。覚えておきたいから。
「おねーちゃん達、ありがとー!」
「あぁ、助かりました本当に……! ウチの子が無事なのは皆さんのおかげで……!」
「――ううん、お礼は要らないわ。
 だって、あなた達の強い想いのおかげでわたし達は助けられたんだもの」
 そして。戦い終えたタイムも同様に乗客と語らっていた。
 こちらこそありがとう、と。
 彼らが居なくば己らもまだ島で立ち往生していたかもしれないのだ。
 ……ただ、一つだけの違いはもうすぐ彼らとはお別れである事。
「えぇいガキ共め、うるせぇなぁ……もうすぐ着くってのに、そんなに我慢できねーのかよ」
「うん! 遊園地! 遊園地いくんだー! 早く着かないかなー! おねーちゃんも行く?」
「あたしは……あぁ、まぁ楽しみがあるのは良い事だけどよ。
 そら。騒ぐのは良くねぇだろ? 相手してやるから静かにしな――
 なぁに。待ってればすぐに着くさ。なっ?」
 全く、はぁ。どこまでも――キラキラとした顔をしやがって。
 到着は彼らの夢が叶うという……成仏の一端であるとコルネリアは分かっている。
 ……だから暫し。暫しの間だけでも相手をしてやろうか。
 これが救いか?
 最良の結果か?
(……ハッ。今更何を想うんだ、つー話だよな)
 そうだ。そうに違いない――アタシたちは基本的に『事後処理』が仕事なんだから。
 言うなれば『負け戦』がスタートなのだ。
 こうなる前に……なんざ、ただの傲慢に過ぎねぇ。
 手の届かない領域を想った所で――何が変わる訳でもなし。
(ただ、それでもよ)
「わぁ!? おねーちゃん何? くすぐったいよ!」
 どこまでも煌めく子供達一人一人。
 生意気そうな口を聞く彼らの頭を乱暴に掻いてやりながら――彼女は思うものだ。
 このガキ共が、もしも生きていたのなら。
 なんも知らないままバカみてぇに遊んでる面があったのなら……
 そんなあり得たかもしれない未来を――護りたかったって。
「なんでもねぇよ。オラ、そっちの坊主はどこ行くんだ? あっ? VDMシー……?
 さっき言ってた所かよ。あー……まぁいいけどよ、そこに行きてぇのか? ホントに?」
「うん! だって楽しそうだし!」
「え? VDMシー? ……それでしたら、あっちの赤髪のおふたりとかきっと詳しいですよ。ええ。私はその――ええ。はい。ちょっと存じてる様な、存じてない様な」
 ともあれ。後一時を語りあかせば、冒頭にてすずならが指摘していたVDMシーの話もでるものだ。さすれば、口淀む正純。取り囲む子供達の期待する様な視線を……赤髪らの方へと誘導しようか。
「ふふん! 私が経営するテーマパークに来たいのかい?
 なら盛大に歓迎するよ! ほら! この特別パスポートをあげよう!
 ――これがあれば、いつだって遊べるからね。私と君達だけの特別な品だよ!」
「ええ。いつだって……一緒に遊べますからね」
「わーい! ありがと――! やった! パパ、ママ――!」
 さればマリアは子供達に、特別な券を渡して微笑み。
 ヴァレーリヤもまた……待っていると伝えるものだ。
 いつか。もしも魂が巡る事があるのならば。
 きっと遠い未来で――来てくれる事もあるかもしれぬから。

「――ぁ。遂に、見えてきましたね」

 と、その時。
 正純の視界に、見えた。シレンツィオの――港だ。
 ……大望していた、港だ。
「ありがとう皆さん……皆さんのおかげで、我々は辿り着けました……」
「……此処まで案内仕りました。光栄な任でした――然らば此れにて」
 であれば。船体が……いや乗客も含めて皆が薄らいでゆく。
 感謝を述べる船長の身が。先程まで話していた親子らの影が。
 光の泡の様になりて……逝くものだ。
 故にすずなは最後の言を彼らへと。
 ……せめて、終わりだけでも幸福な夢を見る事が出来たのならば、幸いです、と。
「……皆様の魂に、星の導きがありますように」
「? おねーちゃんにも、みちびきがありますよーに!」
「――じゃあなガキ共。元気に、しとけよ」
 同時。正純も想う――彼らの想定より長くなった旅路も終わると。
 祈れば、消えゆく一人の子供が正純の真似をする様に――身振り手振りするものだ。
 ……あぁどうか。皆さんの魂が、今後新たな船出へ漕ぎ出せる事を、祈っております。
 返す様に。コルネリアも共に軽く手を振り――そして。
「さぁ。着いたよ皆……どうだい? 感想は。
 とても美しい所だよね……あっちもこっちも、とっても広いんだ!
 ね、皆――」
 そして。マリアが船より降りて振り向け、ば。
 もう。皆の魂は天上へと昇り始めていた。
 彼らの姿はもう消えかけの狭間。だけど、耳には子供達の声がどこまでも残りて。
 だから。

 ――いつか遊びに来ておくれ……歓迎するよ。

 誰しもが光の果てへと消え歩く、その光景に――胸の内で思いを告げるものだ。
 泡沫の様に。うたかたの果てに。
「どうか皆が安らかな気持ちで征けますように」
 タイムもまた、祈りを捧げる様に。
 彼らの楽しみにしていた声を――心の中で反芻しながら。
 きっと彼らは幸福であっただろうと……信ずるものだ。
 夢のまほろばへ。
 彼らは確かに、辿り着いたのだから……

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――ありがとうございました。

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