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シナリオ詳細

●港を開け、海へ行け! 或いは、真昼に見る夢、霧の海…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●霧の中
 ラサ南端部。
 凪いだ海を船が行く。
 風は微弱。
 波は弱い。
 時刻は昼過ぎ。
 だというのに、薄暗い。
 周囲は濃い霧に覆われており、ほんの数十メートル先さえ見通せない。
「これで4日目。嵐に見舞われるよりはマシだな」
 舵を握るジョージ・キングマン (p3p007332)が、思わずといった様子でそう呟いた。
 方位磁石に視線を落とせば、針はくるくる回っている。
 霧のせいで星も見えない以上、迂闊に舵を切るわけにもいかない。咥えた葉巻に火を着けて、ジョージは操舵席から降りた。
「よぉ、今日の航海はもう終わりか?」
「義弘か。あぁ、この霧じゃ進めないからな……悪いが錨を降ろしてくれるか?」
「あいよ。仕事なら大歓迎だ。船旅も4日目ともなれば、筋トレ以外にすることも無くなってきたからな」
 そう言って亘理 義弘 (p3p000398)は、錨を降ろしに歩いて行った。船が走行しているのなら、帆の操作など仕事はいくらでもあるのだが、風も波も無いとなれば義弘の手は空いている。
 もっとも、錨を降ろすだけなので数分もすれば再び彼には“耐え難い退屈”が訪れることになるのだろうが。
「ラダの方はどうだ? 何か見えたか?」
 帆の頂点へ視線を向けてジョージは問うた。
 帆の上にある見張り台からラダ・ジグリ (p3p000271)が顔を覗かせる。霧で視界が利かないとはいえ、ここは未知の海域だ。見張りの1人は立てておかなければならない。
「ジョージか。いいや、残念ながら何も見えない。魔導船ならもう少しどうにかなったんだろうが……まぁ、修理には時間がかかるからな」
「ま、仕方ねぇさ。魔導船の修理完了を待ってる余裕は無かったんだ。航路の選定はともかく、教徒会の離反者どもは早めに討っておかなきゃならねぇ」
 溜め息混じりにそう言ったのはジェイク・夜乃 (p3p001103)だ。
 船室で休んでいたはずだが、船が停まったのを感じて様子を見に出て来たのだろう。その後ろには蓮杖 綾姫 (p3p008658)の姿もある。
「教徒会はうちの港から手を引くそうですが……妄信的な離反者となると、組織の規則では抑えきれませんからね」
 “教徒会”
 『キングマンズポート』と『アイトワラス』が共同開拓した港町の利権を狙っていた組織の1つである。占い、予言、教義によって人を導くことを主な活動とする彼らは、より広い世界へ影響力を広げるために、自分たちが好きにできる港を得ようとしていたらしい。
 しかし、紆余曲折の末、教徒会は港から手を引くことに決めた。
 港の復興と治安維持、そして近海の調査を終えたイレギュラーズは海洋と傭兵を繋ぐ航路の選定に乗り出すことを決めた。
 しかし、事はそう簡単には運ばない。
 いざ出航という段階になって、教徒会より1通の手紙が届いたのだ。
「教徒会所有の武装船5隻と、“宿曜師”と呼ばれる教団幹部、それから彼の弟子たちが行方不明になった……と。タイミング的にうちの邪魔をするつもりなんだろうな。いや、復讐といった方が近いか」
 紫煙を燻らせ、ジョージは海へと視線を向ける。
 宿曜師と呼ばれる幹部は、教徒会の中でも一等、過激な思想を抱く者であったらしい。
 教徒会から届いた手紙には、宿曜師が『キングマンズポート』と『アイトワラス』、そしてイレギュラーズの協力者たちに強い恨みを抱いていると記されていた。
 とはいえ、行方知れずの宿曜師を警戒し続けて、いつまでも船を出さないというわけにもいかない。港や近海の調査は終えたが、航路の選定や調査といった仕事がまだ残っているからだ。
 宿曜師が敵対するつもりなら、きっとどこかでぶつかるはずだ。
「宿曜師たちは【塔】【封印】や【魔凶】を付与する術を行使する。武装船には【炎獄】【飛】【ブレイク】効果の大砲と【ショック】【出血】の付いた機銃と……教徒会からの手紙で、敵のてのうちも知れているわけだしな」
 焦る必要はないか。
 そう言ってジェイクは、甲板の隅に腰を下ろした。
「航路の調査を進めるついでに、邪魔をするなら討てばいい。そう決めて、海に出たわけですが……この状態では、焦っても仕方ありません」
 のんびりと霧が晴れるのを待ちましょう。
 くぁぁ、と欠伸を1つ零して。
 サルヴェナーズ・ザラスシュティ (p3p009720)は、ハンモックの上でごろりと願えりを打つのであった。
 
●真昼に見る夢
 トントン、トントン。
 包丁がまな板を叩く音がする。
 ゆったりとした動作で、しかし手際よく調理を進めるチヨ・ケンコーランド (p3p009158)が、煮立つ鍋へと魚の切り身と野菜を沈めた。
 今日の夕食は、パンとスープ、それから果物を使ったサラダと焼いた魚となるらしい。
「リコリスちゃん。今日で何日目かの?」
 手元から視線を逸らさないまま、チヨはそう問いかけた。
 魚の切り身を摘まみながら、リコリス・ウォルハント・ローア (p3p009236)は視線を天井へ向ける。
「4日目だね」
「うむ、4日目だのう。霧の海域で足止めを喰らっておるわけじゃが、そうなったのはいつのことじゃね?」
 ぐつぐつと鍋が煮立つ。
 丁寧に灰汁を掬いながら、チヨは魚の焼き加減にも注意を払う。
「霧の海域に突っ込んだのは初日の夜だよ」
「初日の夜か。つまり丸3日の間、この船は碌に進んでおらんということじゃな」
「うん? それがどうかしたの? だって天候はボクたちにはどうにもできないじゃない?」
「そうじゃのう。しかし、魔導船による調査では、近海に霧が出るような海域などは存在しないとなっていた。ついでに言うなら、わしらは天気にも気を配っておったからのう」
 霧が出るような空模様では無かった。
 今、自分たちが置かれている状況はおかしいと、チヨはそう言いたいのだろう。
「リコリスちゃんは、2日目の予定を覚えておるかのう?」
「もちろん。教徒会の離反者たちの捜索と、船に積んでる資材を使った武器の建造だったよね? 宿曜師たちは5隻の船を奪って行ったそうだから、海戦の準備をしておこう、って」
 元々は航路の調査が目的だったので、乗っている船に大砲などの武装は積まれていないのだ。
 出航直前に宿曜師たちの存在を知ったので、準備にかけられる時間も足りず……苦肉の策として資材を持ち込み、航海中に武装を組み上げることに決まった。
 皆で話し合って決めたことだ。
 当然、リコリスもそれは覚えている。
「うんうん。そうじゃったのう。それじゃあリコリスちゃん……」
 タン。
 包丁が、魚の頭を斬り落とす。
「なぜわしらは武装の建造をしておらんのじゃろうな? なぜ、霧の中で足止めを喰らったまま、3日間ものんびりしておるんじゃ?」
「それはもちろん……それは、あれ?」
「なぁ、リコリスちゃんや? わしら、その宿曜師とか言う奴の攻撃を受けておるんじゃないか?」
 食料の備蓄は僅か。
 とくに飲み水の残量は限界に近い。
 加えて、用意するはずだった武装の建造も一切、進んでいない。
「リコリスちゃん。ちょっとひとっ走りして、今の話を皆にしてきてくれんかの? それから、武装の建造に移ろう……きっと向こうさん、そろそろ仕掛けて来るんじゃないか?」
 あまり長い時間が経つと、霧の仕組みに誰かが気付くかもしれない。
 食料が尽きれば、港への帰還を開始するだろう。
 警戒心が薄れ、水や食料が尽きかけている今が仕掛け時なのだ。
「残された時間は僅かかもしれんのう。となると、造れる武装は1つが限度か?」

GMコメント

●ミッション
“宿曜師”およびその弟子たちの捕縛or討伐

●ターゲット
・宿曜師×1
教徒会の元幹部。
現在は離反し、港の利権を奪ったイレギュラーズへの復讐のため行動している。
失われかけている宿曜という占術を広く世界に広めるためには港が必要だったようだ。
星の位置や曜日をもとに吉凶を占うことを得意としている。
そのため、宿曜師たちが攻めて来るということは、その日はきっと彼らにとって“幸運な日”であるということだ。
対象に【塔】【封印】を付与する術を行使する。

・宿曜師の弟子たち×20人前後
宿曜師の弟子たち。
教徒会の元構成員。
教徒会の中でも過激派に分類されるグループだったようだ。
対象に【魔凶】を付与する術を行使する。

・教徒会の武装船×5
4~5人で操舵可能な小型の武装船。
速度と装甲に優れている反面、最大積載量が少ない。
武装は大型の大砲と小型の機銃。
大砲には【炎獄】【飛】【ブレイク】、機銃には【ショック】【出血】が付与される。
 
●フィールド
霧に覆われた海域。
港からさほど遠くへは離れていない。
周囲に島や岩礁は無い。
波は穏やかで、風は弱い。
視界が通らず、帆船の機動力も制限される。

●帆船の装備
船に積んだ資材を使って、以下から1つを建造できる。

・破壊砲
特大威力の大砲。総弾数は1しか無いが、1発で敵船を破壊できる。甲板上であればどこにでも設置することができる。

・急造パドル
船の両脇に取りつける車輪状の推進装置。風や波が無くとも船が動かせるほか、少しなら後退もできるようになる。

・外部装甲
後付けの装甲。船体から甲板を亀の甲羅のように覆う。船の防御力が大幅に増すが、船員の出入りや配置位置に制限がかかる。

・対船スナイパーライフル×2
射程と命中精度に優れたスナイパーライフル。貫通力は高いが、弾丸の装填には時間がかかる。甲板上であればどこにでも設置することができる。

・大型プロペラ&ライト
強風を起こすプロペラと目が眩むほどの強光を発生させる装置。船首か船尾に装備可能。

・魔導レーダー
周辺の状況を詳細に把握するための装置。船の位置、人の位置、付近の風や海流なども鮮明に知ることが出来るが、破損しやすい。船内のどこにでも設置可能。

・タイヤ型自走爆弾×10
鉄帝国の兵器開発者・パンジャンによって考案された破壊兵器。タイヤの中に火薬を詰めて、ロケットの推進力でターゲットに転がっていく。破壊力は高いがまっすぐ転がらない欠点がある。1つずつなら持ち運び可能。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • ●港を開け、海へ行け! 或いは、真昼に見る夢、霧の海…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年08月13日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
チヨ・ケンコーランド(p3p009158)
元気なBBA
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇

リプレイ

●霧中航路
 霧の海域。
 力強く響く鎚音。
 風はなく、海は凪。
 2隻の船が、ただそこにある。
 1隻の甲板には都合8名の男女の姿。
 もう片方の無人の船は、ロープで牽引されて並走している。
「俺も随分と勘が鈍っていたようでなさけねえぜ。こんな異常な状態に気づけていなかったなんてよ」
 溜め息を1つ。
 短く刈り込んだ頭髪を、乱暴な手つきで搔き乱しながら『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)が悪態を吐いた。霧の中、進むも退くも出来ないままで数日の時間を無駄にした。
 今になって思えば、風も波もない海域で何をのんびりしていたのだろう。明らかな異常事態に気づけなかったのは、きっと霧そのものに思考を鈍らせる術式が組み込まれていたせいだ。
「仕方ねぇさ。この霧は“幸運な日”を迎えるまでの足止めってわけだ」
 だからどうした?
 咥えた煙草に火を着けて『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は甲板を歩く。向かう先には、突貫工事で造り上げたスナイパーライフル。限られた時間の中で、どうにか組み上げた騎船唯一の兵装である。
「奴らから来るのなら迎え撃てばいい」
 甲板の左右に取り付けられたスナイパーライフルは、人の手で操るには些かに巨大なものだった。甲板に固定せねば、反動でまともに扱えないほどの威力を誇り、射程も上々。弱点としては、弾丸の装填に手間がかかる点が挙げられる。
「霧と凪、遭遇戦日和です。敵ながら、随分と工夫をしたものです」
 甲板前部へ身を乗り出した『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)が、黒布に覆われた目を海へと向けた。
 風も波もない静かな海。
 数十メートル先も見えない濃い霧と、機能しない方位磁石。十中八九“教徒会”の離反者たちの手によるものだ。
 港を奪われた異種返しにしては、随分と手の込んだ真似をする。
 それだけ、港の奪取に心血を注いでいたということなのだろう。
「ですが、ここで気づけたのは幸いだったということで……仕掛けて来るのなら、そろそろだと思いますが」
 腰の剣に手を伸ばし『悲嘆の呪いを知りし者』蓮杖 綾姫(p3p008658)がそう言った。
 知ってか知らずか、剣の柄を握る綾姫の手には力がこもっているようだ。
 感覚的に、開戦の時が近いことを察しているのかもしれない。
 となれば、姿は見えずとも“教徒会離反者”たちの船が、接近しているということだ。
「まともに交渉さえするなら、宿曜師相手でも席に着くんだがな。野が狭くなった相手は、対処に困るものだ」
 燻る紫煙がまっすぐ空へと立ち昇る。
 資材を抱えた『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)は、甲板左舷……『お師匠が良い』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)の元へそれを運んでいった。
 船に装備されたスナイパーライフルは2丁。
 その片方の操作を担うリコリスだが、開戦までの間にライフルの改造を試みるらしい。
「おさかな……おさかなおいちい……おさかな……フライ、お刺身、たたきになめろう」
 当の本人は、未だ霧の影響を色濃く受けているようだったが……。野生的な性質を残す者にほど、霧は影響しやすいのかもしれない。ある種の催眠術のようなものだろうか。

「こんな殺し合いがしたくて商会作ったわけでも事業始めたわけでもないんだがな。
流石に少々むなしくなる」
 マスト上部から海を見渡し『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)はため息を零した。
 港の開拓を始めてからこっち、連戦に次ぐ連戦で気の休まる暇もない。
 どことなく、表情を暗くするラダの隣にワイバーンが近寄った。その背に跨る『元気なBBA』チヨ・ケンコーランド(p3p009158)は、そんなラダに優しさと厳しさがない交ぜとなった視線を送った。
「新しいことを始めようと言うんじゃから、それも仕方あるまいて。今回は偶々、競合することになった組織の中に過激な連中が混じっておったというだけのこと」
 ラダやジョージが開いた港は、元々4つの組織が奪い合っていたものだ。組織間の抗争で、結構な数の犠牲者も出たと言う話である。
 現在、港の争奪戦には一応の決着がついている。4つの組織のうち“教徒会”と騎士団は港から手を引き、学者団とは協力体制を築くことが出来た。遊び人たちのグループは港の発展待ちといったところだろうか。
 土地も資源も、無限には存在しないのである。
 それを取り合うとなれば、自然と争いに発展することもある。人類の誕生から今まで、世界中で起きた数多の戦争の歴史が、それを証明しているはずだ。
「……虚しさは拭えないが、今はそれどころじゃないのも事実か。あぁ、分かっている。早急に迎撃態勢を整えよう。そのまま波に乗り押し切ればこちらのものだ」
 戦闘準備は9割がた完了といったところだろうか。
 ライフルに弾丸を装填し、ラダはスコープを目に当てた。霧の中では大して遠くも見渡せないが、船影程度は確認できる。
「あぁ……来た。派手に迎えてやろう」
 遥か遠くで霧が揺らいだ。
 戦闘開始の気配を前に、ラダはライフルの引き金に指をかける。
 開戦の時はすぐそこだ。

●霧の中の海戦
 空気を震わす轟音が、視界を遮る霧に大きな穴を穿った。
 業火の赤が朧に瞬く。
 先制攻撃を仕掛けて来たのは“宿曜師”率いる離反者たちだ。
 狙いを定めるには射程が遠い。
 帆船近くの海面に砲弾は着弾。
 巻き起こる波と衝撃が、船を激しく傾ける。
「はっ!ボクは今まで一体何を……!? これも奴らの罠かっ!」
 頭から海水を被ったリコリスが、どうやら正気を取り戻す。
「罠ではなく攻撃です。まだ遠いですが……狙えますか?」
「もちろん! ゆるさないぞ!」
 甲板を駆ける綾姫の問いに、リコリスは「応」と気勢を吐いた。
 霧の中に見える船の影は4。宿曜師たちが補修する船は全部で5隻ということなので、1隻はきっと未だに霧の中にいる。
 4隻の船は、徐々に左右へ進路を広げているようだ。
 イレギュラーズの乗る船を、四方から取り囲むつもりだろうか。
「囲まれちゃ厄介だ。俺達を散々邪魔しやがった報いを受けさせてやるぞ!」
 短く、そして鋭い砲撃の音。
 スナイパーライフルに取り付いたジェイクが、慣れた手つきでトリガーを引いた。
 音速を超えた砲弾が、船影へと撃ち込まれたのだ。
「えーとえーと、とりあえずジェイクさんがやってるのと同じようにすれば良いんだよねっ!」
( ‘ᾥ’ )と視線をジェイクへ向けて、リコリスも迎撃態勢に移る。
 甲板左右のスナイパーライフルで狙い撃てる敵船は3隻。
 船同士の距離が近いということは、それだけ狙いも付けやすいということだ。
「子羊も狼も船も、皆どれもお腹が弱点なんだよっ!」
 狙撃を回避するためか、そのうち1隻が大きく舵を右へと切った。回り込むようにして、イレギュラーズの船の後方へ向かうつもりか。
 しかし、側面を晒したのは悪手であろう。
 ズドン、と。
 リコリスの放った弾丸が、敵船側面に大きな穴を穿つ。

 一閃。
 綾姫の放つ魔力の砲が、霧を大きく搔き乱す。
 開けた視界に、敵船の影がはっきり映った。即時にジェイクとリコリスによる精密狙撃が慣行される。
 前面に2発の弾丸を受けて、敵船が揺れる。同時に敵船より発射された砲弾は、大きく狙いを外す結果になる。
 大口径の砲弾だ。
 装填にも時間がかかるとなれば、連射はまず不可能だろう。
「リコリスちゃんとジェイク坊は頼んだぞい! カチコミをかける者は付いてこい!」
 甲板を駆けるワイバーン。
 その背に跨るチヨが叫んだ。
 ワイバーンが離陸する瞬間、その両脚にジョージと義弘が飛びつく。
 航空戦力を目視したのか、機銃の掃射がチヨを襲った。ワイバーンが身を翻して射線を回避。多少のダメージを受けながらも、着実に敵船との距離を詰めていく。
 けれど、しかし……。
 ドン、と空気が激しく揺れた。
 霧の中に潜んでいた最後の1隻が、ワイバーンへと砲弾を撃ち込んだのだ。
「おチヨさん!」
 甲板上で綾姫が叫んだ。
 爆炎の中、ワイバーンが身を捩って悲鳴を上げる。
 ダメージこそ大きいが、飛行能力は健在だ。
 そして……。
「ぬぅうう! やってくれたのう、悪ガキども! じゃが此処で会ったが100年目! 今度こそ拳骨落としてやるぞい!!」
 爆炎の中を突っ切って、チヨの操るワイバーンが疾駆する。
 煤けた顔に、全身に負った火傷。流れる血が割烹着を斑に染めた。しかし、戦意は挫けていない。まっすぐに、最高速度で空を駆け抜け、仲間たちを手近な船へと送り込む。

「縦に並んだ! ジェイク、弾は!?」
 マスト上部でラダが叫んだ。
「問題ねぇ! 誰か乗り込めるか!」
 スナイパーライフルの銃身を旋回させながら、ジェイクは敵船に狙いを定めた。
 機銃の掃射にも怯まず、ジェイクはライフルの引き金に指をかける。
 敵の銃撃は、甲板上の虚像目掛けて放たれていた。虚像を操るサルヴェナーズが汚泥のごとき暗光を纏い離陸する。
 機銃の掃射を受けながら、敵船へと飛んで行ったのだ。
「私が参ります!」
 褐色の精霊が叫ぶと同時に、ジェイクが弾丸を撃ち出した。
 音を置き去りにした弾丸が、船体に小さな穴を穿つ。衝撃で船が激しく揺れる。船体を貫通した弾丸は、背後のもう1隻にも着弾したようだ。
 宿曜師の弟子たちが悲鳴をあげる。
 船の動力を撃ち抜かれたのか、船体からは濛々と黒煙が立ち昇っていた。しかし、彼らの身にさらなる災厄が降り注ぐ。
「撃て! 敵は孤立しているぞ!」
 指揮官らしき女が叫ぶ。
 宿曜師たちの放つ魔弾が、サルヴェナーズの顔面を撃ち抜いた。
 だが……。
「どうしましたか。私達を倒して雪辱を果たすのでは? そのようなことでは取り逃がしてしまいますよ」
 はらり、と。
 顔を覆っていた黒布が甲板へ落ちた。
 禍々しくも目を光らせるサルヴェナーズの足元から、大じゃの群れが溢れだし……。
 バクン。
 巨大な顎が操舵輪を食いちぎる。

 甲板に転がる木箱が砕ける。
 機銃の掃射を浴びたのだ。木箱の影に隠れたラダが、操舵席へと駆けていく。
「サルヴェナーズは上手くやったか? では、あれを盾にしよう」
 砲撃により発生している波や風を上手く掴めば、船も幾らか走らせられる。
 サルヴェナーズが無力化した敵船の影に潜り込めば、即席の盾の出来上がりだ。しかし、すぐ近くには手負いの敵船が1隻。
 残念ながら、そちらからの射線は遮れそうにない。
「撃って来た!」
「っ……リコリスさん!?」
 敵船甲板で業火が爆ぜた。
 放たれた砲弾は、左舷のスナイパーライフルに命中。甲板が砕け、リコリスの体が宙を舞う。
 数度、甲板を跳ねて転がるリコリスが海へと転落していった。
「これを狙っていた……いや、流れ弾が直撃したのか」
 なるほど、確かに今日は宿曜師たちにとって“ツイている日”なのだろう。
 だが、次弾の装填までの間、砲手は隙だらけだ。先の砲撃で、霧の中でも大砲の位置は確認できた。
 ラダは甲板に膝をつき、ライフルのストックを肩へと押し当てる。
 銃声。
 数瞬後、霧の中から悲鳴が聞こえた。
「綾姫! 船底を斬れるか?」
「無論。船体ごと真っ二つにしてみせましょう!」
 大上段に機械の剣を振り上げて、綾姫が腰を低く落とした。
 溢れる魔力が剣身を覆い、闇より黒く輝いた。
 一閃。
 踏み込みが甲板に罅を走らせる。
 放たれるは、魔力で形成された斬撃。
 ザクン、と。
 それが、敵船に深い裂傷を刻む。

 降り注ぐ銃弾の雨の中、リコリスはぐるると唸りをあげた。
 機銃の掃射を浴びながら【パンドラ】を消費し意識を繋いだのだ。小型船の甲板に転がるリコリスが目にしたのは、眼前にまで接近している敵船の影。
「来たねぇ足で人の船に上がるんじゃねぇ」
 甲板から響く怒声と銃声。
 どうやら敵たちは、ジェイクの抗戦にあって進行を阻まれているようだ。
「捕まるんじゃ」
 海面すれすれを飛ぶワイバーン。その背でチヨが手を伸ばす。
 リコリスの伸ばした血塗れの手を確と掴むと、飛竜の首を空へと向ける。
「跳び移れ!」
 その一言を合図に、宿曜師の弟子たちが跳ぶ。
「調子に乗るのはそこまでじゃ!」
 甲板へリコリスを放り投げると、チヨは硬く拳を握った。
 空中にいた敵の1人に肉薄すると、渾身の拳骨をその顔面へ叩き込む。

 まずは1隻。
 乗っていた5人の男たちは、片っ端から殴り倒した。
 返り血を浴び、自身も顔に痣をつくった巨漢が2人、最後に残った1隻の甲板へ乗り込む。迎え撃つは4人の男女。
 その最奥には、ローブを纏った細身の男が立っていた。
「ありゃ豊穣の服か? 随分と値の張る布を使ってんな」
「関係あるか? ぶっ飛ばす相手がなに着てようがよ」
 ジョージと義弘が見据える先で、黒衣の男が肩を揺らしてくっくと笑う。
 それから、彼は……宿曜師はゆっくりと片腕を持ち上げた。
「やぁ。よく来たね。招いても無いが……そういえば顔を合わせるのは初めてだな。あんたらが、私たちの宿敵ってことで合っているかな?」
 宿曜師の手に魔力が渦巻く。
 同時に、配下の3名も攻撃準備を整えた。
「自己紹介は最早必要ないだろう。さぁ、掛かってこい! 今日が貴様にとっての厄日だと教えてやる!」
「ヤクザの怖さを教えてやるぜ!」
 男2人が空へと吠えた。
 まるで獣の咆哮だ。

●開港するにはいい季節
 甲板はひどい有様だった。
 乗り込んで来た男女たちが、重なるように倒れ込んでいるからだ。
「な、何で……今日は、俺たちにとって幸運な日のはずなのに」
「あぁ、確かにお前達は運が良かった。そう、さっきまではな」
 拳銃をホルスターへと納め、ジェイクは煙草に火を着ける。
 倒れた男へ向けるのは、哀れな者へと向ける憐憫の視線であった。

 魔弾の掃射を浴びながら、甲板を駆ける男が2人。
 割れた額から血を流し、顔面を真っ赤に染めた義弘が防御も捨てて渾身の殴打を手近な1人に叩き込む。
 硬い拳を顔面で受けて、男の前歯が砕け散る。
 鼻から血飛沫を噴きながら、よろけた男の腹部へ向けてヤクザキックをぶち込んだ。
 男は海へと転がり落ちて、義弘は次の獲物へ向かう。
 刹那、義弘の背に衝撃が走った。
 ミシ、と背骨が軋む音。衝撃に貫かれた内臓が痙攣し、義弘は口から血を吐いた。
「ぬぅぉおお! なめた真似してくれんじゃねぇか!」
 舐めた奴には鉄鎚を。
 疾走からのラリアットを、男の喉へと叩きつけて昏倒させた。

 血を吐きながら、ジョージは前へ、前へと進む。
「な、何で止まらねぇ! 痛みを感じてないのか!?」
「そんなわけないでしょう! 撃ち続けなさい!」
 怯んだ男を叱咤して、宿曜師はジョージへ向けて魔弾を放つ。
 それを拳で打ち払い、ジョージは口角を吊り上げ笑う。
「生憎、封印程度は問題にしていない……俺の武器は、この拳だからだ!」
 霧による消耗戦。
 船に備えた大砲に機銃。
 術師たちの使う魔弾に、占術により導き出した“襲撃に丁度いい日時”。
 それだけの準備を整えてなお届かない。
 まずは1人。
 鳩尾に叩き込む殴打のラッシュと、アッパーカットの一撃が配下の意識を奪い去る。
 血反吐を吐いて、甲板に転がる部下を見下ろし……宿曜師は舌打ちを零した。
「あぁ、知っていました。“教徒会”の選択は正しい。厄ネタには近づかないのが“吉”だって言うのは、私たちの世界じゃ常識ですからね」
 手に魔力を集約させて、宿曜師は歪んだ笑みを浮かべて見せる。
 知っていたのだ。
 イレギュラーズと敵対すれば、己が破滅することを。
 知っていてなお、吉凶よりも己の矜持と宿曜道の繁栄にむけた希望を捨てられなかった。
「哀れな奴だ」
 拳を握る。
 宿曜師が手を翳す。
 放たれた魔弾が、ジョージの胸部を撃ち抜いた。
 首元から顔にかけて、黒い痣が広がっていく。
 内臓を絞るような激痛を、歯を食いしばって耐え抜いた。
 1歩。
 甲板を踏み砕きながら、さらに前へと突き進み。
 渾身の殴打を、宿曜師の顔面へと叩き込む。

「本当に……このような暴挙にでなくとも」
 縛り上げられた宿曜師の弟子たちを一瞥し、綾姫はそう呟いた。
 捕縛者20名。
 自決者1名。
 重傷者はそれなり。
 なお、リコリスは船内でチヨの治療を受けている。
 小規模とはいえ海戦の結果としてみるならば、被害は警備なものである。
「一度、帰港して打ち上げでもやるとしようか。腹が減っただろう。今日は、俺の奢りだ。存分に食うといい」
「食料と酒がいるな。うちの商会からの仕入れで構わないか?」
 ゆっくりと霧が晴れていく。
 おかしかった方位磁石も、先ほど機能を取り戻した。
 ジョージとラダが宴の計画を練る横で、サルヴェナーズがくっくと肩を震わせる。
「ふふ、言いましたね? 後悔しても知りませんよ。あぁ、甘い果実はあるのでしょうね?」
 揚々と。
 イレギュラーズを乗せた船が、風を受けて海を行く。

成否

成功

MVP

ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海

状態異常

亘理 義弘(p3p000398)[重傷]
侠骨の拳
ジョージ・キングマン(p3p007332)[重傷]
絶海

あとがき

お疲れ様です。
宿曜師たちとの抗争に勝利しました。
依頼は成功となります。
これにて、港を狙う全勢力は沈静化されました。

この度はシナリオのリクエスト、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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