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シナリオ詳細

撫子色の君から~山中の納涼キャンプ~

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 豊穣――神威神楽の一角、そこに存在する小さな山の中。
 そこに一軒のログハウスが建っていた。
 蝋燭だろうか、揺れ動く光が外へと漏れ出している。
 そんなログハウスの様子を、木の上から見つめる影が合った。
 酷く悲しげな、それでいてどこか恨めしそうな瞳を揺らしたその影。
 木々が風に吹かれてざわざわと揺れ動き――かと思えばその影は既にそこから掻き消えていた。


 月明かりが窓辺から差している。
 木々がざわざわ、ざわざわと鳴り、虫たちの音楽が漏れ聞こえている。
 胡坐を組んで座るのは端正な顔立ちに額に傷のある紅髪の女。
 片手に杯を握り、目を閉じている。
 外の虫の音に耳を澄ませているのだろうか。
 その隣では、金髪の女が杯に酒を注いでいる。
 リラックスするようでいて、2人とも傍らには太刀を置いている。
「このログハウスを拠点にしてもう半年だっけ? いやはや、数ヶ月前までの困窮が嘘みたいだね」
 たん、と叩きつけるように置いた紅髪の女の杯に別の女が酒を注いでいく。
「全く、近頃は刑部省の連中も真面目になりやがって……鬼人種どもを虐げてた頃が懐かしいですね」
「あぁ、全くだね……でもまぁ、しかたないさ。
 今まで鬼人種どもの連中が睨まれてたのが変わっちまったってこった。
 元々、うちらみたいなのが大手を振って生きてられたのがおかしいのさ」
 杯に並々と注がれた酒を呷り、女は深く息を吐いた。
 酒気を帯びた吐息が生暖かい。
「それで、紅緒様。こっからどうするんです? このままこの山に籠るってわけにもいかないでしょう」
「そうさねえ……けれど、どうしようにも下山しちまっても刑部に取っ捕まっちまうだけ……」
 トトト――と酒の注がれた杯を再びあおって、女――紅緒はため息を吐く。
「紅緒様、美波様、少しよろしいでしょうか」
 そう言って扉を開けて顔を出した別の女に、2人が顔をあげる。
「はい、なんでしょうか?」
「晩酌の最中、申し訳ございません。
 これまで切り詰めておりましたが、遂に保存食が付きました。
 酒も今日の晩酌分で終わりです……」
「……そうかい。しゃあないけど、一旦下山するしかなさそうだね……美波、行くよ」
「えぇ、分かりました」
 そう言って2人が立ち上がる。
 立ち上がり改めてみれば、2人が腰に差した太刀は、驚くほど似た小拵をしていた。


「皆様、豊穣の山に納涼へおでかけになるのはいかがでしょうか?」
 高天京へ訪れ依頼を捜していると情報屋のアナイスからそう声をかけられた。
「納涼? 海じゃなくて?」
 納涼――その単語に当てはまる事業といえばサマフェスが思い当たるが。
「うぅ……そうですよねぇ……えぇ、分かります、夏は海だと。分かりますよ。
 煌めく太陽に照らされた輝く一面の青い海原は、冷たくて心地よいことでしょう。素晴らしいことです。
 えぇ、それに比べれば、山にはこの時期、多くの虫が出たり危険動物に遭ったり、そう言うのがあるかもしれない。
 だから、やっぱり海だって……そういうことはわかっているのです」
 芝居がかったようにも聞こえる声にそちらを向けば、そこには月人(げんそうしゅ)の思わせる妙齢の女性がいる。
 およよとばかりに涙を流す銀色の瞳は美しく、外に跳ねた撫子色の髪が光に反射しているのか美しく煌ているようにも見える。
「なんでも彼女は豊穣のさる山の所有者とのことなのですが……
 今までは山に来てくれていた人も皆が海に行ってしまい、この2年はひどく寂しく、生活にも困っているとのことで……」
「その上、その事態をこれ幸いと、山賊? 盗賊? まで住み着き始めた始末。
 このままではただでさえ人が来なくなりつつあるのに、治安が悪くなる一方……どうか、どうかお願いします。
 奴らを捕まえていただきたいです」
「それは構わないけど……納涼っていうのは?」
「山中には以前に狩人や木こりが使っていたログハウスがあるのです。
 そちらを皆様にお貸しします。仕事が終わりましたら、キャンプをするというのはいかがでしょうか」
「キャンプか……」
「キャンプ用の物資はこちらでもご用意しますし、ご自分で持ってくるのも楽しいかもしれません。
 どうか、お願いできませんか……」
 泣き腫らした潤んだ瞳で、女性はそう言うと、そっと涙を拭った。

GMコメント

 こんばんは、春野紅葉です。
 さくっと山賊をなんとかして納涼キャンプと参りましょう。

●オーダー
【1】紅狐盗賊団を鎮圧する。
【2】山で!!納涼!!じゃい!!

●フィールド
 山中に存在するログハウス。
 室内はもちろん、外にも庭らしき空間があり、戦闘やキャンプに適した立地です。

●エネミーデータ
・紅狐盗賊団
 元々は八百万(精霊種)を中心とする女性のみで構成された盗賊団です。
 武闘派の野武士、忍崩れで構成されています。
 皆さんがログハウスを訪れる頃には持ち込んだ分の食料と酒が無くなり、
 下山して山麓の集落などの襲撃を目論むころです。

 なお戦闘をするかは皆さん次第ですが、相手は盗賊団です。
 投降したとしても刑部省のお縄となるのはほぼ確実、素直に降伏してくれるかは分かりません。

・『紅狐』紅緒
 紅色の長髪と額の斬痕、狐を思わせるケモ耳が特徴的な比較的線の細い女性。
 これでも二つ名が付く程度には名の通る女傑であり、紅狐盗賊団の頭目です。
 豪放磊落ですが同時に冷静な思考も出来る手合いです。
 なお、握る刀はなぜか美波の物と瓜二つです。
 タイマンでイレギュラーズと拮抗したりしなかったりします。

 美しい妖刀使いであり、線の細さからは想像の出来ないパワーアタッカーです。
 刀使いだけあり、戦闘する場合、基本は近接物理戦闘ですが妖力を使って斬撃を飛ばす遠距離攻撃などを用います。

・『金狐』美波
 金色の短髪と狐のケモ耳、狐のような瞳孔をした女性剣士。
 二つ名が付く程度には名の通る女傑であり、紅緒の傍仕えをする盗賊団のナンバー2。
 冷静で慎重、真摯な性格です。
 なお、握る刀はなぜか紅緒の物と瓜二つです。
 タイマンでイレギュラーズと拮抗したりしなかったりします。

 美しい妖刀使いであり、紅緒とは逆に手数で攻め立て、トドメに大技をぶち込むテクニカルアタッカーです。
 戦闘する場合は基本的に近接戦闘ですが、なぜかすべての攻撃が神秘攻撃の様子。

・紅狐盗賊団×10
 盗賊団の構成員、野武士風6人、忍崩れ4人。
 野武士風は槍や刀剣を用いた近接物理戦闘や弓を用いる中遠距離戦闘を行います。
 忍崩れは暗器を用いた中距離戦闘、忍術による神秘戦闘を行います。

●NPCデータ
・撫子の君
 依頼人です。幻想種を思わせる双眸の女性、銀色の瞳と撫子色の髪が特徴的。
 何やら不思議な雰囲気をもった女性です。

●その他
 盗賊団の処理後、皆さんは一夜限りの納涼キャンプを楽しめます。
 依頼人に物資を提供してもらえますが、皆さんで物資を持ち運んでも楽しいかもしれません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 情報に嘘偽りなどはありませんが、何やら不思議な秘密が潜んでいそうです……夏なので。

  • 撫子色の君から~山中の納涼キャンプ~完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月20日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

岩倉・鈴音(p3p006119)
タコ助の母
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
シガー・アッシュグレイ(p3p008560)
紫煙揺らし
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
変わる切欠
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
未来への葬送
三鬼 昴(p3p010722)
筋肉こそ至高
大江山 伊吹(p3p010779)
酒天童子

リプレイ


「ログハウスを占拠してる盗賊団の捕縛ね。
 結構長い事占拠されてるようだが、その間刑部省の役人等は動かなかったのかね?」
 不思議に首を傾げるのは『紫煙揺らし』シガー・アッシュグレイ(p3p008560)である。
(まぁ、何かしら事情があってイレギュラーズに頼んでる可能性もあるし、聞くだけ野暮になるか)
「なんとなく、ですけれど。彼女達もこうやって山賊をしなきゃいけない理由をもって山賊をしているんですよね」
 悩まし気に目を細め、『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は静かに思う。
(どうにか…と思いながらも、自分の立場と力の無さに悩んでしまいます)
 とはいえログハウスの中に潜んでいるという山賊たちへと思いを馳せるのはマリエッタだけの話ではない。
「如何なる理由があろうとも、他人を脅かすとなってしまえば罰せられるべきであります」
 そう小さく呟くのは『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)である。
(とはいえ、事情があるならばそれは考慮されるべきもの。故に)
 まだ太刀は抜かず、希紗良は静かにその時を待っている。
「海よりも山派である我としては此度の納涼はとても楽しみじゃな!」
 故郷のお山を思い出すように、『酒天童子』大江山 伊吹(p3p010779)はログハウスまでの道のりを楽しんでいる。
「僕も緑のある場所の方が親しみを感じて好きですよ」
 頷くようにそう言ったのは『千紫万考』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)である。
「森生まれなので虫も別に見慣れてますし。
 とはいえ、山にキャンプに来てもらえるよう治安を改善する必要があると」
「うむ! しかも、そこに巣くう紅狐盗賊団は女ばかりと言うではないか。
 是非とも我のハーレム……もとい人手不足な我が領地の領民にスカウトしたいものじゃ!」
 ジョシュアの言葉に同意して伊吹は目を輝かせながら盗賊団のことを思う。
「俺は海賊であり、商人だ。国を出て海に来る気があるなら、面倒を見てやる。
 国外なら、刑部も追って来ないだろう」
 それに同意する『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)もまた、説得を試みようとする側だ。
「私は人と話すのは苦手だから、説得は任せる」
 そう言って『力こそパワー』三鬼 昴(p3p010722)は腕を組んでそっと後退しておく。
「黄昏キャンプ! 納涼とくればお化けやら殺人鬼の襲撃でしょ!」
 折り畳み式のテントを携えた『元憑依機械十三号』岩倉・鈴音(p3p006119)はログハウスを見つけるやひとまずそれを降ろして。
「誰そ彼ェェェーッ」
 そう大きく声をあげる。
「なんだい、なんだい? 刑部省の連中……ってわけでもなさそうだね」
 鈴音の言葉に反応したのか、ログハウスの中から女が2人、姿を見せる。
 紅色の髪をした女――あれが『紅狐』紅緒なる者であろう。
 であれば、傍に控えるようにして立つのが『金狐』美波か。
「貴様らの鎮圧を依頼されている。
 素直に下るようなら、相応に対応しよう」
「へぇ、刑部の命令ってわけじゃないなら、それはあれか。麓の連中の依頼かい?
 どこの連中かは知らないけどねぇ……うちらは回りまわって盗賊稼業。
 降ったらそっ首落とされてお終いさ」
 ジョージの言葉に続けるようにして鈴音も重ねれば、それに対する紅緒は穏やかな声色のまま。
 けれど臨戦態勢に移ったのか、鯉口を切ってみせてくる。
「そうでしょうか? 積極的に付近へ被害を出そうとされて来てないような気がします。
 お二人の身なり、どこかに属していたような印象を受けます。
 元々いた場所に居られなくなったからこちらに来た、というように感じるのですが」
 2人の様子を見つつ、ジョシュアが言えば。
「へぇ……それで?」
「事情があるなら処遇については僕達も刑部省に掛け合いますし、話していただけませんか?」
「うちらはね、この国が腐り切ってたあの頃に、お偉いさんに仕えてたのさ。
 あんた達、この国が腐り切ってた頃を知ってるかい?」

「あの頃……巫女姫が高天京の頂点にいた頃か?」
 鬼人種たる昴は少しばかり身に覚えがある。
 山籠もりをしていた頃で、自分はほとんどその問題に直面したことはほとんどないが。
 その頃は、鬼人種――この国の古い言語で言うところの獄人に対して強烈な差別が横行していた。
 巫女姫やその頃の権力者の多くは先達のイレギュラーズによって討ち果たされた。
「当時のうちらは命じられて鬼人種達への弾圧もやってきたものさ。
 捕まって殺されることぐらい、なんとも思っちゃいないけどね……
 解雇されて流浪の身になった以上、ただで死ぬわけにゃ行かない」
「解雇されたのなら猶更、何の問題もあるまい!
 多少の罪の償いはしてもらうが、我が領地にてそなた等を領民として保護するのじゃ! 悪くない話じゃろ?」
 続けて伊吹が言えば、紅緒がすぅ、と目を細める。
「領地にて保護……まるで統一性のない衣装と種族、身分……あぁ、なるほど。
 おぬしら、神使の集団と言うあの……ろぉれっとか。なるほどねえ……」
「うむ! ローレットのイレギュラーズじゃ! どうじゃ? 投降する気になったかじゃろ?」
「わたし等も血を流した後にキャンプをしたいわけじゃない。投降し、罪を償うことだ。
 今イレギュラーズと戦うことを選ぶなら『死』も覚悟すべきだ」
 鈴音が重ねて言えば、紅緒は静かに目を閉じて頷いた。
「たしかにね……けど。ローレットならばなおの事、ただでは降れないね。
 うちらは罰せられる立場。でもね――確かにうちらに生きてほしいって、そう言ったやつもいたのさ」
「交渉は決裂、でありますか」
「――端的に言えば、そうさね!」
 すらりと愛刀を抜いた希紗良に合わせるように、紅緒が刀を抜いた。
 妖気揺らめくその太刀が業物の類であることは目に見えてわかる。
 刹那、紅緒が踏み込んだ。


 喧騒に気付いたのか、続々と盗賊たちが姿を見せる。
「紅緒様! 今御助力いたします!」
 各々の反応を見せつつも、次々にログハウスの外へと躍り出てくる。
 打ち出された斬撃、一瞬の遅れを潜り抜けてジョシュアは先手を奪い取る。
「話は後ほどお聞きします。まずは落ち着いていただきますね」
 シナモンの髪を揺らして、後方よりリボルバーをぶっ放す。
 弾を使い果たせば次を装填して、瞬く間に打ち出された無数の弾丸は文字通りの雨となって戦場を馳せた。
 打ち出された弾丸が出て来たばかりの構成員たちを瞬く間に撃ち抜いていく。
 踏み込みの刹那に打ち出された斬撃が、希紗良の身体を強かに斬り裂いた。
「一手願いたくも思いますが……此度はお預けします」
 希紗良は後ろ髪を引っ張られるような気持ちを抱きつつも紅緒との間合いを切り、構成員たちの方へと踊りこんだ。
「命までは取りませぬ……お覚悟を」
 小躯な身体で潜り込むようにして間合いを詰めれば、皓月の輝きが太刀に映える。
 変幻を思わせる連撃が忍び装束の者、野武士風の者を問わずに切り裂き、薙ぎ、撃ち抜く。
「聞かぬというなら仕方ない」
 鈴音は静かに魔術書に魔力をこめると、祝福の光を導いた。
 温かに輝く光が傷を受けた仲間のそれを瞬く間に癒していく。
「俺はジョージ・キングマン! 海賊だ。来い狐共、相手をしてやる!」
 ジョージは腰を落としたままに真っすぐに視線を美波に向けた。
「海賊……なるほど、そうですか。であれば、私がお相手しましょう」
 笑うように目を細めた美波が微かに踏み込み――その姿を消した。
 刹那の肉薄、ジョージは咄嗟に拳を前へ。
 真っすぐに首筋に伸びた太刀筋と拳を合わせ、驚くほどの神秘を内包した斬撃の勢いを殺し続けていく。
「強い! 名乗りを上げるだけはあります!」
 笑った女に合わせるようにして、ジョージは踏み込んだ。
(今回の役目は多い……ですが、落ち着いて行けば大丈夫……)
 マリエッタは深呼吸をして、魔力を籠めた。
 美しい聖印が清らかなる光を生み出していく。
 乙女が聖血がもたらすは彼女の抱く思いを思わせる福音の輝き。
 伊吹は妖刀を構え、構成員たちの下へ肉薄すれば。
「我は強欲じゃからな! 絶対そなた等を領民にしてやるのじゃ!」
 鬼らしく強欲に――そう言って笑うと同時、童子切外道丸を振り抜いた。
 回避困難な風の刃が一円を描いて切り結び、構成員たちの身体に傷をつける。
「悪いけど、サクッと捕縛させてもらうよ」
 シガーは精霊刀を顕現させるや、姿を見せた盗賊団の構成員たちの方へと一気に駆けだした。
 武士風の女が刀を構える。
 それに合わせるように、滑るような斬撃は守りを選んだ女性を絡めとり、その動きを封じ込めながら縫い付けるような軌跡を描く。
「先手必勝!
 見敵必殺!!
 攻撃こそ最大の防御!!!」
 昴はその身に抱く闘争心をあらん限り叩き起こすと、構成員なぞ目もくれず、一気に走り出す。
 目指す先は紅の髪。
「……ふんっ!」
 膂力の全てを左に籠めて。真正面からの力押しでぶん殴った。


 戦いは続いている。
 とはいえ、盗賊団の多くは瞬く間にイレギュラーズの手で無力化されていった。
 手ごたえのあまりない連中を相手に、後れを取る面々ではない。
「トドメは皆さんにお任せしますね……私、ふとやりすぎてしまうことも……あるので」
 すぅ、と気持ちが落ち着いていく。
 マリエッタはその瞳を金のヘリオドールへ変じて飛び込んでいく。
 その状態から隠影血華を呼び起こすや、一気に美波へと肉薄し、一閃を描いた。
「はっ、はっ、死ぬわけには……いきません。紅緒様の前で……」
 肩で息をする美波の身体は、不思議と血のようなものが見受けられない。
 それに違和感を覚えたのは彼女と戦っていたジョージだ。
「……本当に惜しいな。それだけの力があるなら、俺のもとで振るって見る気はないか?」
 連撃に合わせていたジョージは、一つ呼吸を入れると、拳に力を籠めた。
 海のような広大なる魔力を籠めた拳でもって、波濤の如き闘気を叩きつけた。
「もうそろそろ良いでしょう? さっさと降参しろ! 死んでしまいますよ?」
 頌歌を歌い、紅緒と美波の攻撃を受ける面々の補助をしていた鈴音は、真っすぐに美波へ視線を向ける。
「……死ぬ、のは……ごめんですが」
 ゆらゆらしながらも立ち続ける美波が小さくため息を吐いた。
「いつまでも不殺で抑えられないぞ」
「……ふ、ふふ」
「良い。もういい、美波。納めてくれ。私も収めるよ」
 そう言って、先に太刀を手放したのは紅緒だった。
 驚いた様子を見せる美波もまた、そっと太刀を納めて跪く。
 戦いは終わりを告げた。


「私、一つ考えがありまして……盗賊団の皆さんと、一緒にキャンプを楽しみたくって」
 戦いの終わった後、すっと手を挙げたマリエッタの言葉を受けて、驚いた様子を見せるのはほかならぬ盗賊団たちだった。
「もちろん、監視はありますけど……やっぱり、楽しむっていいじゃないですか」
「……分けてくれるのかい?」
 恐る恐る、紅緒が言う。
「どうです?」
「……あぁ、もう食料も飲みもんも尽きちまった、分けてくれるなら、ありがたく受け取らせてもらうよ」
 ほっと胸をなでおろしたように見えるのは気のせいではあるまい。

「薪は……用意されているようだな。いつの間にか山菜や茸、あと動物の肉もあるようだ。
 ……もっとあってもいいか?」
 本来の数ならば――イレギュラーズだけであれば事足りる量だが、盗賊団連中を加えると些か少ないような気がして、昴は立ち上がった。
「……獲物、取ってくる」
 一同からの返事を受けて昴はそっとログハウスを離れて行く。
 どれくらい経っただろう。少しだけ離れた辺りで鹿を見つければ、速攻で静めて血抜きまで終わらせる。
「……足りませんか?」
 いつの間にそこにいたのか、撫子色の君からそう声をかけられたのはその時だった。
「あぁ、盗賊団の連中にも分けてやることになった」
「そう、ですか。それは考えてませんでした……」
 申し訳なさそうに言う彼女に、気にしないように告げ――振り返る。
 けれど、そこには誰もいなかった。立ち去った気配すらなかったのに。

「盗賊団の今後は、なるようになる……でありましょうか。気にならないと言えば嘘になるでありますが……」
 希紗良は捕縛されている盗賊団に向けていた視線を外して火打石に移した。
「……むむ?」
 カチ、カチと打てども火打石からは望むべき点火の瞬間は訪れない。
「火打石が言う事を聞いてくれないであります」
 幾度か試してみるものの、やはり上手くはいかない。
「……火、点きそうにないかな?」
 バーベキューの準備を進めるシガーは何やら悪戦苦闘する希紗良へと声をかける。
「火花は出てるから、多分火口に問題がありそうだねぇ」
「火打石を貸してごらん?」
「わ、分かったであります……」
 希紗良から受け取った火打石で火花を打ち、自前の火口を使ってみると直ぐに火が付いた。
「やっぱり火口がダメだったみたいだね」
「おおー! ありがとうであります! 流石アッシュ殿。
 これで沢山の野菜を焼けるであります!」
 そういうと、いつの間にか材料を姿を見せ、いつの間にか姿を消した依頼人の持ってきた野菜を切って串にさしていく。
「魚や肉もあるようだから、各自好きな物を焼いて食べるのが良さそうだ」
 串に刺した牛肉らしいものを焼きながら、シガーはそれはそれとして煙草に火をつけた。
 ゆらゆらとした煙が空へと立ち上っていく。
「折角の機会。この場にいる皆と食事しがてらあれこれ語りたいものでありますな」
「そうだねぇ、面白い話も聞けそうだねぇ」
 希紗良に頷きながら、シガーはちらりと視線を盗賊たちの方へやった。
「アッシュ殿」
「うん?」
「キサは少しばかり川の方へ行ってまいります」
「着いて行かなくて大丈夫かい?」
「はい……その」
「ん、いいよ、行っておいで」
 希紗良の様子に何となく察して、シガーはその場で頷けば、少女はそっと影の方へと消えて行った。

 ジョシュアは伊吹と共にカレー作りの担当になっていた。
「キャンプでの定番はカレーなのだと、この前聞きました。
 スパイスも持ってきていますし、これは美味しいものが作れる予感がします」
「調理器具ならこれを使ってくれれば良いぞ!」
 腕まくりをしてやる気を見せるジョシュアに対して、伊吹が取り出したのは調理器具付食材セット。
「我に手伝えることはあるか?」
「そうですね……それではまず……」
 少しばかり考えて、分担するべき工程を考えて軽い相談を重ねて行く。
「あぁ、それから……各々の好みの辛さを知っておいた方がいいですね……」
 折角持ってきたスパイスを使うのだから――ジョシュアはそういうと、いよいよとばかりにスパイスを取り出した。

「かつ丼、食うか?」
 かつ丼とお茶を紅緒と美波に差し出しながら、鈴音は笑っている。
 希望ヶ浜辺りであればよく見られたりするかもしれない尋問スタイルだ。
 ――ただある1点を除いては。
「なぜバニー……?」
 顔を上げた紅緒が訝しげに鈴音を見る。
 そう、鈴音の今の姿はバニーガールである。
「キャンプといえばバニーだ。竜宮城にまけるな山って感じだね」
「……そうか」
 鈴音の言う事に納得したように呟いている紅緒だが、顔を見る限りどちらかというと『分からんがそういうものか』と書いてある。
「さて、刑部に報告書ださんといかん。バニー刑事が緊急取調だ。
 キミ達の持っている刀について。そっくりだが、双子なのか契りの証とかだろうか」
「それについては私が説明しましょう」
 紅緒に代わってそう言ったのは美波である。
「双子でも、契りの証でもありません。その二本は……私達は同一の刀なのです」
「……私達、だと?」
「私は神人……旅人(ウォーカー)です。
 私の名前は狐丸。私は意思を持つ刀――と言うべきもの。
 美波(このからだ)は私が魔力を用いて操っている依り代に過ぎません」
「それと紅緒が持っている刀が同一というのは?」
「紅緒様が握る刀は私がこちらに来てから、私の模造品として作られたものです」

「なるほど、不思議な物と戦っている気がしていたが……狐が化けているようなものか」
 鈴音と美波の話を聞いていたジョージはある種、納得したようにうなずいた。
「そうだね、そういう言い方も出来るかね」
 ジョージの話に紅緒が小さく笑う。
「対の狐に妖刀。まるで、噂に聞いた稲荷神に仕えるという狛狐のようだ」
「はは、そんなにいい物じゃないさ。私らは居場所を失った盗賊にすぎないよ」
 そう言って紅緒が自嘲気味に笑う。
「貴女もどうです?」
 マリエッタは紅緒にそっと徳利を手渡した。
「おお、酒とはありがたい……うちの連中にも、わけてくれたのか」
「ええ、一緒に飲む人は多い方がいいですし……私強いんですよ?」
「ほう……楽しみだね」
 お猪口を手渡せば、酒が注がれていく。
「酒と言えば、我もこれがあるのじゃ!」
 そう言って伊吹が取り出したるは神便鬼毒酒。
 人には美味すぎるだけの、妖魔にとっては猛毒足りえる酒。
 瓢箪からお猪口に注いで一同へと配り歩けば。
「……ところで、あの依頼人、撫子色の君は一体」
「私ですか?」
「わっ!?」
 一瞬驚きそちらを向けば、撫子色の女が頬に片手を添えてきょとんとしている。

成否

成功

MVP

ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
変わる切欠

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ

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