PandoraPartyProject

シナリオ詳細

亜竜のワルツ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「なぁ、イレギュラーズの皆。一緒に着いてきてほしいんだ」
 そういったのは亜竜種の少年だった。
 名をベオと名乗った彼は、数ヶ月ほど前にイレギュラーズとともにグレンデルという名の亜竜の討伐に赴いていた。
 戦士だったという彼の父や兄を殺したグレンデルを倒して敵討ちをしたかったのだという。
「小僧、久しぶりだな」
 そういったのはウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)である。
「うん! あんたの言うとおり、俺、誰かを守るために、
 苦しんでる人を一人でも多く救えるような戦士になれるように、いろんなことをしてるんだ」
「そうか、ならば努力せよ。ところで今日は何の用だ?」
「うん……俺と一緒にフリアノンの外にある高台に来てほしいんだ。
 そこにある薬草が欲しいって人がいてさ。
 あんまり敵が来ないようだとはいえ、やっぱり危険だからさ、一緒に来てほしい」
「危険はなさそうか……まぁ、いいだろう」
 ロックが短く頷けばベオはほっと安堵の息を漏らす。


 大空に影がかかる。
 岩肌の陰に隠れ、空を見上げた。
 影の正体――有翼の亜竜が2つで一組をなし、円を描くように回り出す。
 くるくるくるくる、大空のダンスホールを貸し切るは、大翼を走す亜竜。
 くるり、くるり、くるり、くるり。
 7体の亜竜が、円を描くように互いの尻尾を追うような軌道で空を泳いでいる。
 1体の亜竜がぽつんと一人ぼっちになっているが、ワルツを終えた1匹がぼっちの個体とくるくる回りだす。
 大空を行く亜竜の動くは特徴的で、しばしの間そちらを眺めていた。
「……もしかしたら亜竜のワルツってやつかも」
 突如として始まった不思議なその光景にベオがそんなことを言った。
「亜竜のワルツ? なんだそれは」
「うん、俺も兄ちゃんから聞きかじっただけなんだけどさ。
 ちょうど繁殖の時期、5~6月ぐらいがピークで、相手を見つけるためにああやって踊る個体がいるんだってさ」
「興味深いな……いや、待て。今、5~6月がピークと言わなかったか?」
「うん、そうだよ。だから……ジューンブライド? みたいだなって、兄ちゃんは言ってたけど」
「今、7月も7月……どころか8月が近いぞ」
「そうだよな~時期外れだよね。
 ……あれ? そういえば、兄ちゃんからなんか言われてた気が……なんだっけ?」
 首をかしげ、うぅんと唸るベオから視線を外して空を見上げる。
 くるくるくるくる、大空の輪舞は相手を見つけた個体から一対となって飛び去って行く。
「……ぁ」
 小さくベオが声をもらす。
「……な、なぁ……」
 申し訳なさそうに声を漏らすベオは、声が震えている。
「……俺、思い出しちまった」
「落ち着け、何を思い出した」
「時期外れの7月とかに会ったら、気付かれないように帰れ。
 特に、相手を見つけられなかった個体だけには見つかるなって」
 ベオの発言に、思わず顔をあげる。
 そこにはついぞ相手を見つけられなかった亜竜がいた。
「……なるほど、貴様の兄が何を言わんとしたのか、何となくわかったぞ」
 ロックは空を見上げながら、自らの本性が肉の内から軋むのを感じた。
「……ただでさえ繁殖の時期を過ぎた時の求愛に失敗した個体はさ、すげえ気が立ってるんだってさ」
 ベオのいうとおり、ただ1体だけ残った亜竜は、大きく羽ばたきながらぐるぐると旋回を繰り返す。
『グゥルゥァアア!!!!』
 大きく羽ばたく亜竜が咆哮をあげる。
『グゥガァァ!!』
 再びの咆哮。
 見上げるその亜竜は、こうして落ち着いて見やるに大きな傷が幾つか見えた。
 例えば、その頭部。右目が大きく裂傷を刻まれ、恐らくは片目は見えていまい。
 例えばその腹部。幾つかの刺傷と火傷の痕跡が走っている。
 どの傷も完全に癒えており、受けてからかなりの時間を経っていよう。
 よく言えば歴戦――だが『大きな傷を受けている』というのはそれだけ劣勢だったともとれる、というのだろうか。
 そういう意味で見れば、傷だらけのあの亜竜は番いにするには古強者が過ぎる――というような、そんな気配がある。
 そして――その健在の瞳が、こちらを映した気がする。
 大きな旋回と共に、亜竜が空へと舞い上がる。
 くるりとした旋回の後、亜竜が矢の如く放物線を描いて突っ込んできた。
「あっ……バレた! ご、ごめん! もっと早く思い出して、さっさと逃げるべきだった!」
「――上等、ちょうど帰るだけではつまらんと思っていた所だ」
 恋に敗れて自棄を起こした古強者が、宙がえりの勢いがままに尻尾を振り下ろした。
 硬い性質の地面が弾けて破片を散らせば、ロックは破片を槍で叩き落とした。

GMコメント

こんばんは、春野紅葉です。

●オーダー
【1】『古強者』ローディウスの撃退または撃破

●フィールドデータ
 切り立った岩肌に囲まれた比較的小さな渓谷です。
 人間が戦闘を繰り広げるには充分ですが、亜竜が戦闘をするにはやや手狭なところがあります。
 ローディウスにとってはかなり手狭のため、切り立った斜面を足場にするなどの挙動が見受けられます。
 また、斜面などの土はローディウスの攻撃で破壊される可能性があります。


●エネミーデータ
・『古強者』ローディウス
 全長7~10m、前足にあたる翼を広げた時の横幅は15mを超えています。
 空のような青いと雲のような白の鱗が特徴的な美しいワイバーンタイプの亜竜です。
 鱗も大きく、微かに逆立っているようにも見えます。
 別種の亜竜ないし亜竜種などの戦いで傷を受けたのか、
 右目は大きな傷跡が刻まれて見えておらず、その他幾つかの傷が痕跡を残しています。

 豊富なHPとAP、群を抜いて高い物攻の他、神攻、EXA、防技、命中、反応が高度にまとまっています。
 その一方で回避と抵抗はやや低めで、FBも意外と高め。
 また、EXFも意外と高めです。

 分かりやすくデカくて強力、粘り強いタイプです。

 普通に戦えばHARD相当には強力な亜竜……なのですが、
 非常に気が立っており、BS抵抗とは別に、怒り付与に対してはかなり通りやすい部分があります。

 加えて冷静ではないためか戦闘のスタミナ配分を気にせず動いてしまい、数ターンに一度、疲労により行動を放棄します。
 一方で苛立ちから攻撃は激しいものが予想されます、ご注意ください。

 戦闘方法はその巨体を利用した突進、尻尾による薙ぎ払い、
 強靭な顎を使った噛みつき、踏みつけなどの通常攻撃の他、以下のようなスキルを用います。

<スキル>
斬裂風(A):一帯に向けて強烈な切り裂く風を巻き起こします。
物中扇 威力中 【万能】【乱れ】【流血】【窒息】

斬裂咆(A):その雄叫びはそれだけで身体を切り刻む旋風となるでしょう
物遠貫 威力大 【万能】【多重影】【邪道】【痺れ】【崩れ】

尾撃(A):硬い鱗に覆われた尻尾を地面に叩きつけると同時、破片を辺りへ吹き飛ばします
物中範 威力中 【追撃】【邪道】【流血】【致命】

霧氷転身(A):自らの体に氷を纏い、一帯を薙ぎ払います
神自域 威力中【氷結】【氷漬】【流血】【麻痺】【自身に霧氷状態を付与(ブレイクで解除可能)】

霧氷槍(A):神秘に満ちた氷の槍を投射します。
神遠単 威力大 【万能】【災厄】【邪道】【絶凍】【出血】【霧氷状態を解除】

●NPCデータ
・『守護竜になりたくて』ベオ
 10代後半程度の亜竜種の少年。 武器は長剣です。
 以前よりは明らかな成長を感じますが、まだまだ発展途上。
 頑張って皆さんに着いていきますし、皆さんの指示には素直に従います。
 防技タンク寄りのバランス型です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 亜竜のワルツ完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月01日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)
復讐の炎
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
熾煇(p3p010425)
紲家のペット枠
ヴュルガー(p3p010434)
フラッチェ

リプレイ


 襲撃の後、大きく旋回してローディウスが距離を取る。
 いや、恐らくは立地の狭さゆえに着陸できなかったが正しそうだ。
「それにしても、生存競争に敗れ八つ当たりとは……
 仕方ない、降りかかる火の粉は打ち払わなければなるまい。
 ベオ、敵をよく見ておけ」
 逆骸をしならせ『復讐の炎』ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)は向き合うローディウスに視線を合わせたまま、ベオへ声をかける。
「う、うん!」
 少年――ベオはそれを受けて緊張気味に頷き、長剣を握り締めたようだった。
「まぁ、これが必要な戦いだったかと言われれば否だと思うけど、
 売られた喧嘩を買わなくていいのかと言われれば、それも否よね」
 その風に髪を流す『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)は2冊の教科書に戦意を見せる。
「珠緒も、蛍さんと出会うことができなかったら荒れた生活をしていたことでしょう
 お相手が見つからず当たり散らすお気持ち、ある程度は想像ができます」
 愛しき人の様子を見つつ微笑を零す『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)もまた髪を風に躍らせる1人である。
「た、珠緒さん……!?」
 それが耳に入ったらしい蛍が少し照れたように声をあげるのも愛おしい。
『グゥルゥァアァ!!!!』
 激昂が戦場を劈いて、大きな羽ばたきが風を生む。
「……等と言う間に対応せねばこちらの身が危ういですね!?」
 刹那、珠緒は後ろへと跳躍する。
 隆起した岩を空踏呪で飛び越えて後退し、それとは対照的に愛刀をローディウスへ向ければ。
 濃淡のある二つの紅の刀身が一気に伸びてローディウスの身体に炸裂する。
 確かに当たったはずの一撃だが、ローディウスが傷ついたように見えないのはいかにその生命力が高いのかよくわかる。
「ローディウスー! かっけー! たくさんの傷があって、たくさん戦ったんだな!」
 此方の様子を窺うように、けれど威圧的にある亜竜へ『紲家のペット枠』熾煇(p3p010425)もまた素直にそう感じていた。
 仔竜の姿のまま、リトルワイバーンに跨る姿は兄弟のようにも見えなくもない。
「繁殖ー、したかったのか。なんかかわいそうだなー。
 繁殖のワルツ? してたら他の雄と雌を取り合ったりして戦うんだろ?」
「わかんない……けど、繁殖期だったら次の機会を待つし、それが無理だったら……どうなるんだろ?」
 熾煇の疑問にそうベオというらしいその少年が首を傾げる。
「こいつ、死なずに逃げて、来年ツガイを見つけて子作りすれば一番俺は嬉しいぞ。負けたら逃げてくれないかなー?」
「俺達もその方が無事に帰れそうだしいいと思う……でも、やっぱり覇竜だしなぁ……そもそも、来年まで生き延びるかどうかわかんねえし……」
「それもそうかー……だよなー」
 ベオにうんうんと頷き熾煇はローディウスの姿を見る。
 ドラゴニアである2人はこの領域で生きていくということの危険性を多少なりとも知っているつもりだ。
 今日を、昨日を生き抜いても明日が生きていられるかわからない。
「いくぞー」
 ワイバーンに乗って飛翔した熾煇は口に魔力を蓄え、一気に放射する。
 ブレスは魔力砲撃となって真っすぐにローディウスへと炸裂する。
『グルゥ――ギャァォ!!』
 衝撃を受けたローディウスが微かに身体を揺らす。
「しかし大きいな。どこを撃っても当たりそうだ」
 戦闘に足る距離まで近づいたことで改めて感じる大きさに『フラッチェ』ヴュルガー(p3p010434)は静かにサイト越しのローディウスを見る。
 此度の戦闘で、いつかは開く可能性がある傷口の1つ1つ。
 それらをつぶさに見据え、現状を把握する。その上で、静かに引き金を引いた。
 放たれた魔弾は直線上を貫き、その身体に微かな傷を入れる。
 連続する速攻に一瞬怯んだローディウスが大きく羽ばたき、空へ。
『グゥルォ!!』
 大きく羽ばたいた亜竜の旋風が戦場を切り裂く旋風となり多くの傷をイレギュラーズへと齎す。
 直後、更なる激昂が響き、戦場に向けて亜竜の尻尾が振り下ろされた。
「不死身のタフネスも今は仮初だが我は死んでも死なない……そう誓っているからな」
 ロックはそれを知った事かと、闘気を全身に張り巡らせた。
 そのままローディウスから視線を外さずエルゥドリンに跨れば、一気に突っ込んでいく。
 握りしめた狂骨がギチギチと軋みを挙げれば、すれ違いざま、思いっきり殴りつけるように振り払う。
 その手に剣と手甲を備え、蛍はローディウスの左側面――亜竜の視界の中に己を晒す。
「小さき人間の力、見せてあげるわ!」
 桜雲を以って握りしめた御桜が鮮やかな光を放ち、斬撃を見舞う。
 美しき桜の軌跡を放つ斬光は美しくも目をくらますほどの輝きを放ち、その天運に影を差す。
「古強者……覇竜の地においては、もし劣勢であっただろうと傷だらけであろうと生き抜いてきたことがすごいと思うんです」
 その雄叫びを聞きながら『誰かと手をつなぐための温度』ユーフォニー(p3p010323)は素直にそう感想を抱いていた。
 生態系の頂点にあの竜種を望むこの地で、弱肉強食を絵に描いたようなこの領域で生き延びているということそのものへの感嘆である。
「でも1人だけひとりぼっちは寂しいですよね……どうか、いてはくれませんか。
 あなたが退いてくれるなら、無闇な戦いはしたく無いんです……!」
『グルゥゥ……ガァァ!!!!』
 試みた動物疎通はけれど効果を見受けられない。
「……やはりこれだけ気が立っていると通じるものも通じませんすね……」
 薄々と分かっていたけれど、切り立った渓谷の断崖に着地した亜竜からはヒシヒシと敵対心が感じ取れる。
 ぎゅっと握ったハチワレにゃんこのバッグチャーム。
「今井さん、今日もよろしくお願いします。いつもありがとうございます……!」
 姿を見せた長身の男性。両手に無数の書類を抱えて姿を見せた今井さん。
『……グゥルゥゥ?』
 今井さんを見た亜竜が、不思議そうに首を傾げた。
『え、もしかして恋仲の方に手伝ってもらう系の方……?』
 ――きっと、多分、そんなわけはないが、そんな感じの意図を感じ取って。
「ロ、ローディウスさん違いますよ? 攻撃だけの後腐れない関係です」
 ユーフォニーは思わずそう言った。
 言ってみてなんか逆に言い訳っぽくて怪しいが。
『ガァァ!!!!』
 身体を低くして伸びるように雄叫びを上げたローディウスに、仕事の邪魔をされたことに苛立つように今井さんが書類をぶちまける。
 書類たちは空を伸びるように駆けぬけ、亜竜の周囲を取り囲む。
 怯んだような亜竜が僅かに後退すればその身体に傷が入る。
 血が零れ、毒が内側に回っていく。
「知ってる? 生ける屍もワルツは得意なのよ♪
 相手が『お友達』になるまで永遠に、ずっとず~っと踊り続けるの。くすくす♥」
 『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)は笑いながら大鎌を振り払う。
 薙ぐように撃った斬撃が『お友達』の怨嗟を呼び起こし、ローディウスへとけしかけるように飛んでいく。
 けしかけられた怨嗟の声は、亜竜の周囲を取り巻きながら渦を巻き、その周囲に呪いとなって揺蕩う。
 それは亜竜の動きを封じ込めんとするように。
「自然界では、生き残るならば余計な戦いは避けたい場合もある。
 それなのに傷付いても止めない好戦的な性質。戦って生き抜く戦闘力。
 そりゃあ、手に負えない訳だ。誰も付き合いきれないんだ」
 飛んできた土の破片を愛剣で弾いて『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は冷静にその在り方に注目する。
「その青空みたいな姿が綺麗だと思う。青い者同士、興味が湧かないか?
 ヤケなら俺にぶつけてみなよ。こう見えてタフなんで、耐えてみせるからさ……!」
 紡ぐ旋律はソステヌート。鋭く駆け抜けた旋律の斬撃が美しくローディウスの身体を刻む。
 その旋律は心を魅了し、搔き乱す狂気となり――ローディウスの視線が巡る。
『ギャァァ!!』
「そうだ、それでいい!」
 突っ込んでくる亜竜めがけ、イズマは声をあげた。


「――崩させはしません」
 珠緒の双眸は穏やかに、静かに戦場を照らす。
 亜竜の暴力的な猛攻を受けるイズマを見やれば、その周囲を包むように温かな桜色の輝きが照らされる。
 それは幻想福音を鳴らす美しき光。
 多くの傷を癒していく。
「こいつ、神秘と物理を両方できるのか! 
 俺と一緒だな!俺が雌だったらツガイになれたかなー? ならんけど」
 ワイバーンの背中越しに燭輝はからりとそう言い放つ。
 そのままある程度の距離まで近づくと、ワイバーンの背中から飛び降りた。
 口元に集束する魔力が美しき白竜の頭部を黒竜に塗り替えた。
 頭上から首筋を抉り取るように喰らいつけば、ローディウスが雄叫びを上げ、着いてきた亜竜の背に乗って空へ。
「――開いた」
 刹那、ヴュルガーは宙を蹴り飛ばす。
 高速を以って駆け、亜竜の腹部に開いた傷口へ。
「そんなにすぐムキになるようでは、女もめんどくさがって近寄ってこないのも当然だ。
 求愛のワルツを死のダンスにかえてやる!」
 零距離に詰めて引いた引き金。
 放たれた弾丸は躱すただでさえの巨体、躱すことさえ許さずその肉を穿つ。
『グゥロロォ!!!!』
 天へ向け、ローディウスが低く猛る。
 その瞬間、一帯を包む空気が澄んでいく。
 冷気が辺りに立ち込め、呼気が白んだ。
 雄叫び一つ。低く唸ったかと思えば、ローディウスはその場で大きく尾を振り払った。
 周囲を薙ぐ尻尾は冷気を纏い、イレギュラーズの身体を凍てつかせていく。
『ガァルゥゥ――――アァ!!!!』
 ローディウスが唸り始めれば、その頭上辺りに冷気が集束していく。
 巨大な槍を思わせる氷柱と化した冷気は、そのまま真っすぐにヴュルガー目掛けて射出される。
 鮮血が地上に降り注いだかと思えば、強靭な顎が牙を剥いた。
 食らいつかれた己をそのままに挑発を重ねたヴュルガーに怒れるように、亜竜は思いっきり崖目掛けて投げつけた。
 ロックは前へとエルゥドリンへ指示を与える。
 守りなどせぬ。暴力装置の如きローディウスの攻撃でその身には多くの傷が浮かんでいる。
(正直な話、今回の戦いはただの八つ当たりに過ぎない。
 恨みがある、復讐の対象ということでもない貴様と戦う理由もないが――)
 顔を挙げたローディウスと視線を交えながら、傷の浮かぶその右目を貫くように刺突を叩き込む。撃ち抜く刺突は、撃たれた分の怒りを破壊力に変えて亜竜を苛む。
「ボクを忘れるな!」
 蛍は裂帛の気合とともに愛剣を以って振り抜いた。
 狙うはローディウスの古傷。その中でもひときわ大きく映る腹部の裂傷。
 薙ぎ払うように撃ち抜くように、己の身体に宿る神秘を、守りの粋を反抗の狼煙に変えて切り開く。
 強かに打ち据えた強烈な斬撃に、ローディウスが悲鳴にも似た雄叫びを上げる。
 ユーフォニーの姿は戦場の右側、ローディウスが見えていない右目の方にあった。
 心を落ち着かせるように深呼吸を繰り返す。
 戦場に揺蕩う魔力に触れるようにして、眼を閉じる。
 触れる、荒波の海のような魔力を凪いで、滴る一雫、撫でるは揺蕩う安寧の音。
「今井さん――」
 刹那、ユーフォニーに代わって今井さんが放った魔力はローディウスを包み込んだ。
 それは世界。揺り籠の如き万華鏡の内側、壮絶な天運が齎す脅威。
「亜竜の『お友達』も悪くはないけど……
 仲間はずれにされた子供が妬いちゃうかもしれないからねぇ」
 マリカは小さく呟きながら生ける屍の鎌の鎌を振るう。
 それはただの薙ぎ払い。
 おおよそ触れる事すらない位置からの斬撃は死霊たちの神経を逆なでするには十分の切り払い。
 死霊達の呪詛は毒性を持ち、呼吸すら忘れさせる不吉なる呪い。
 一度至れば泥沼のように執拗に襲い掛かる呪いの攻勢。
 亜竜が震えるように吼えた。
「俺はまだ倒れないぞ。お前はその程度か!? もっと全力で来い!!」
 視界のある左側、常にそこに身を置くようにイズマは移動し続け、夜空を抱く細剣を振るい続ける。戦場を形作る指揮者の旋律に亜竜は今のところ素直に従っているように見えた。
「今だ、畳み掛けろ!」
 イズマが叫んだのはその時だった。
 マリカの攻勢を受けた亜竜の動きは、著しく低下し、ぜぇぜぇと息を切らしていた。
 スタミナ切れであろう。


 亜竜の動きは止まっている。
 激戦に疲弊したのか、地上に降り立ち、ぜぇぜぇと荒い息を零していた。
「蛍さん、畳みかけましょう!」
 疲弊を見せるローディウスを見て珠緒が声をかける。
 前線で亜竜を相手に真っ向から殴り合う蛍からの返事はないが、十分だ。
「逆立った大きな鱗は敵でなければ美しいのでしょうが、今は隙間を狙える弱点と言えます」
 愛刀に手を添える。
 美しく、鋭く研いだ刃は自身、柔らかく受ける地金は愛するひと。
「理は混沌各地にて学び、技はネクストにて祖と共に振るい――四象を束ねた赫き刀は比翼の双極」
 祝詞を紡ぐように重ねる言の葉。
「これは、私達が共に作り上げた技。おひとり様には出せない力、なのです!」
 その圧倒的な反応速度を以って振り払われた斬撃は藤桜剣・一ノ太刀。
 続くはもちろん、蛍の桜咲。
 温かく自らを包む桜技に導かれるように、振り抜いた神威為す攻勢防御。
 それを受けた亜竜の古傷が、大きく開いて流血を迸らせた。
「次はこっちが相手だ」
 ヴュルガーはそう言い放つや、銃弾を再び叩きつけた。
 それはローディウスの身体に傷をつけるには到底足らないが、その意識を持ってくるには十分すぎる威力。
 猛り狂う亜竜が起きあがろうとする刹那、ヴュルガーはその背中越しにいる少年へ声をかけた。
「ベオ! 行きなさい。一太刀でいい。
 復讐を為した。それはいい。だが次はあちらからの復讐が始まるでしょう。
 その時に己と大事な人を守れるのはその剣でしかないのです。
 その力があるか、ここで見せなさい!」
 その最中、ヴュルガーは声を挙げる。
「お、おう!」
 亜竜の背中へ跳躍したベオが亜竜を切りつける。
 致命傷には至らぬ斬撃に、けれどローディウスの身体が地に伏した。
 再度のスタミナ切れだ。
「なぁ、もうそろそろ終わりにしようぜー?
 このままやってたら仕方ないけどトドメ刺すしかないぞー?」
 熾煇はワイバーン諸共に着地すればそう声をかける。
『ぐぅ……ぎゃぁぅ……』
「そんで、来年またもうちょっと早く求愛のダンスをしよう。
 今年失敗したのは、相手がここにいなかっただけだから、もっと雌がいる時にやったら絶対成功するぞ。
 だって、同じ雄の俺から見てもかっこよかったからな! それに強いし! きっと良いおとーさんになるぞ!」
『ぎゃぁ……ぐぅ……?』
 ロックはその様子を見ながらエルゥドリンに密かに指示を与えた。
 エルゥは意図を察したのか、ゆっくりとローディウスへ近づいて、唸りながら何やら鳴いて見せる。
(奴にとっても子孫繁栄は生物として一生を掛ける命題だ、唯一この世に残せる己の存在の証だからな。
 だからこそ、今回は敗れたことを素直に認め己を磨くしかない……出来るか?)
 そんな意図をもった問いかけをさせるつもりだった。
『ぐぎゅぅ……ぐるる』
 唸り、ローディウスがゆるゆると起き上がる。
 臨戦態勢を取った所で、青い亜竜は空へと舞い上がる。
「はぁ~、ず~っと一緒に踊っていたかったけどなぁ~。
 マリカちゃんつまんな~い。ぶ~。
 ドラゴンゾンビとかスカルドラゴンとか『お友達』に欲しかったナぁ~……」
 空へと消えて行った亜竜を眺め、頬を膨らませるマリカの鼻の頭に、冷たい物が触れた。
「……雪?」
 季節外れのそれは、数度の旋回を見せた青い亜竜が纏っていた冷気が雪へと変わって降り注いだもの。
 ローディウスはそのままこちらに降りてくること無くどこかへと飛び去って行った。
「ベオ、貴様もだ」
「うぇっ!?」
「自信がないから自暴自棄を起こすと結局何も自身の周りには何も残らない。逆に離れて行ってしまう」
「……うん」
 ロックの言葉に、ベオがしばしの沈黙の後で頷いた。

成否

成功

MVP

イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

状態異常

イズマ・トーティス(p3p009471)[重傷]
青き鋼の音色

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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