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シナリオ詳細

<潮騒のヴェンタータ>スカイグレイに陽気な歌を

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 白い。深く、濃い白だ。
 人はこれを霧と呼び、船乗りであれば避けたい天候でもあった。見えない周囲に岩場があるかもしれない。浅瀬があるかもしれない。座礁してしまえばすぐの復旧は難しいだろう。
 けれどそんな中で、明るい男たちの歌声が聴こえる。耳を澄ますまでもない大きな声だ。まるで場所を知らせるように、こちらへ来いとでも言うように。
 ひどく寒かった。どうしてだろう。今は夏で、あんなにも暑かったのに。太陽は照りつけ、ベタつく潮風は熱を孕んで。だから海の波飛沫が何よりも気持ち良い。
 それが今はどうだ。太陽の光は厚く覆いかぶさる霧によって阻まれ、潮風は眠りについたかのように沈黙を返す。波はまるで嵐の前のように、ぴたりと凪いでいた。
 静寂をたっぷりと満たした夜のような状況で、場違いなほどに陽気な声が近づいてくる。男はいけないと思いながらも、霧で船を動かすこともできずに声の方向を睨みつけた。
 霧の向こう、ゆらりと巨大な影が見え始める。薄く、それから段々と濃く――。

 ――現れたのは、海面に浮かんでいることも難しいような戦艦であった。

 船体に穴が開き、帆はボロボロで、よく見れば戦艦を構成する木材すらもぐずぐずに朽ちている場所が少なくない。そんなことが見えるようになってようやく、男は慌てて舵を切った。
 ここまで来たら亡霊戦艦に沈められるか、岩場に激突するか、座礁するかだ。一か八かで濃霧からの脱出を図る他ない。
 男は自身の勘頼りに元来た海路を逆走する。逆走していると信じるしかない。

 海の女神が救ってくれたに違いない。ほうほうのていで帰還叶った男は、のちにそう語った。


「……それで、その亡霊戦艦に竜宮幣(ドラグチップ)があるって?」
「おそらくは。入れ違いにキラキラしたものが飛んでいったと言っていたので」
 本当かなぁ、とぼやく『Blue Rose』シャルル(p3n000032)。もしかしたらその海域のどこかに落ちているかも知れないじゃないか。
「それが飛んでいったあと、後ろで歓声が上がって、それから亡霊戦艦の速度が落ちたんですって」
 ブラウ(p3n000090)は不思議な話ですよねと首を傾げた。ドラグチップが特別なのか、はたまた光り物が好きだったのかはわからないが、それによって船乗りの男が助かったのであれば、やはりそれは船にあるのだろう。
「聞いた限り、船もまともな状態ではなさそうです。船の上にいる亡霊が操っているか、船自体が亡霊化していると思います」
「船の亡霊ってあまり……聞いたことないけれど」
「まあ、なんでもあるのが混沌なので」
 なんとも言えない表情のシャルルだが、元の世界について大した知識があるわけでもなく、ブラウの言う通りでもある。
 あり得ないなんて言葉こそがあり得ない――無辜なる混沌はそういう世界だろう。唯一、死者蘇生を除いては。
「ともあれ、シャルルさんと皆さんには亡霊戦艦と亡霊たちを倒して、ドラグチップを回収して頂くことになります」
「あ、ボクも行くんだ……万が一船になかったら?」
「その辺りの海域に潜ってもらうことになるでしょう。安心してください、水中でも問題なく活動できる装備をお貸ししますので!」
 自身も向かうと知って顔を引き攣らせたシャルル。海に落ちても大丈夫と聞いて、ほっとした表情を浮かべる。海が嫌なわけではないが、植物を纏っているので塩水に浸かるということに抵抗がある。実際、シャルルが海に潜っても蔓薔薇は枯れないので気分の問題だ。
 それはさておき。亡霊船に突入するとなれば、足元の心配や広さに対する戦術を考えなくてはならない。突入方法もまた然り。
 一同はお互いの顔を見遣り、ブラウの持ち込んだ情報をもとに相談を始めるのだった。

GMコメント

●成功条件
 ドラグチップの回収

●情報制度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。

●フィールド
 ダカヌ海域付近です。濃霧が立ち込め、船を進めるのは非常に危険です。座礁したり、岩場に激突する可能性があります。
 しかし濃霧の中で待っていれば、歌声と共に亡霊戦艦が向こうからやってきてくれます。亡霊戦艦を倒せば霧は晴れます。
 ドラグチップの行方は不明ですが、船内にあると思われます。

 亡霊戦艦は非常に巨大ですが、全体的に脆いです。突然床が抜けたりします。亡霊たちは足場の影響を受けませんが、船から出ることができません。

 皆様には水中でも活動可能な装備が貸し出されるため、必要スキルを取得せずとも通常と同じ行動・力を発揮することが可能です。また、水中行動を自前で用意していると有利になります。
 また、戦闘にあたりイレギュラーズ全員が乗れるほどの船が1隻貸し出され、ある程度の砲撃が可能です。(砲弾は有限です)
 各々が船を持ち込んでも可とします。ただし、船の性能が大きく変わることはありません。(貸出の船よりは良いでしょう)

●エネミー
・亡霊戦艦『ペルセヴェランテ』
 かつて絶望の海踏破を目指し、沈没した戦艦。それ自体が亡霊として実態を持ち、船員の亡霊たちを乗せて海域を航海しています。
 非常に実体は脆いですが、不思議と沈没しません。亡霊たちを沈ませまいとしているようです。
 また、強力なエネルギー弾を砲弾として発射してきます。戦艦自体が攻撃すればするほど壊れますが、その威力は甚大でしょう。

・パドゥロニィ
 半透明で人の形をした亡霊です。アンデッド系のモンスターとなります。触ることができ、当然ながら斬れます。イレギュラーズたちを見れば邪魔をしにきた者として武器を取るでしょう。
 彼は銃と剣の両方を器用に使いこなします。率先して前へ出て、襲いかかってくるでしょう。
 基本的なステータスはどれも高めですが、特に命中とEXAに優れています。また、銃による通常攻撃に【スプラッシュ3】がついています。
 彼と戦うことによるBSは不明です。また、マリラーナレイスたちへ号令のようなものをかける場合がありそうです。

・マリラーナレイス×20
 半透明で人の形をした亡霊です。アンデッド系のモンスターとなります。触ることができ、当然ながら斬れます。誰もが陽気に歌って騒いで、イレギュラーズたちを見れば邪魔をしにきた者として武器を取るでしょう。
 初動が遅く、段々素早くなるという不思議な敵です。また回避に優れています。武器は剣や銃、杖などを持っているようです。
 歌を聞くと【不吉系列】【足止系列】のBSが、攻撃を受けると【麻痺系列】【痺れ系列】のBSが付与されます。

●友軍
・『Blue Rose』シャルル(p3n000032)
 旅人の少女。中〜遠距離の神秘アタッカーです。回復はできません。
 皆様の後方より援護攻撃を行います。亡霊なんて怖くない。怖くないったら!

●ご挨拶
 愁と申します。
 亡霊戦艦からドラグチップを回収しましょう!
 それではどつぞ、よろしくお願いいたします。


●特殊ルール『竜宮の波紋』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―による竜宮の加護をうけ、水着姿のPCは戦闘力を向上させることができます。
 また防具に何をつけていても、イラストかプレイングで指定されていれば水着姿であると判定するものとします。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 このアイテムは使用することで『海洋・鉄帝・ラサ・豊穣』のうちいずれかに投票でき、その後も手元にアイテムが残ります。
 投票結果が集計された後は当シリーズ内で使える携行品アイテムとの引換券となります。
 ※期限内に投票されなかった場合でも同じくアイテム引換券となります

  • <潮騒のヴェンタータ>スカイグレイに陽気な歌を完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月06日 22時11分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
武器商人(p3p001107)
闇之雲
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日のフルール
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
ウルリカ(p3p007777)
高速機動の戦乙女
燦火=炯=フェネクス(p3p010488)
希望の星
桐生 雄(p3p010750)
流浪鬼

リプレイ


 ザザ、と波の音がそこかしこから響く。霧が出るとは思えないほどの快晴だ。
「戦艦まで亡霊化している、ね……よくある亡霊話だと思ったんだけど、少し厄介そうだね。ヒヒ!」
「え、武器商人がそう言うって相当じゃない……?」
 『闇之雲』武器商人(p3p001107)の言葉に『Blue Rose』シャルル(p3n000032)の表情がこわばる。
 武器商人は熟練のイレギュラーズだ。そんな人物が厄介というからには、それ相応に準備が必要だということだ。
「けれど、そんな場所に竜宮幣があるんですよね」
 『深緑魔法少女』リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)の言葉にシャルルは頷く。亡霊をどう思っていようと、その亡霊戦艦とやらに乗り込んで探さなければならないのだ。
「シャルルさん、戦艦の中はきっと亡霊でいっぱいですよ〜。海は広く全てを飲み込みますから」
「うぇ、本当?」
「嘘なんて言いませんとも」
 多少誇張はあるかもしれないが、と『諦めない』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は心の中で呟く。けれど海が生者・死者問わずに全てを飲み込むことは事実だ。海中で多くの時間を過ごすものであれば、溺死者を見ることはさほど珍しいというわけでもない。
「大丈夫です。亡霊なんて私たちも一緒なら怖くないですよ」
「そうだ、ビビんなよシャルル。飲まれたら負けだ。一発ブチかましてやれ!」
 リディアと『流浪鬼』桐生 雄(p3p010750)の言葉にシャルルは目を瞬かせて、それから頑張るよと頷いて見せた。ここまできたのなら、怯えてばかりもいられない。
「それならわたしの『モルティエ号』は――」
「我(アタシ)は戦艦を相手取るから、見ておこうか」
「あたしも船を守りつつ戦うわ! 沸かせてちょうだい!」
 武器商人と『希望の星』燦火=炯=フェネクス(p3p010488)の言葉にココロはホッとした様子で頷く。流石に誰も見ていない状況では不安だから、よかった。
「にしたって、海賊からお宝を奪いにいくたぁ豪気な話じゃねえか」
「ええ。肝試しにしては派手が過ぎるけど」
 燦火が雄の言葉に肩を竦めれば、『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)が豪快に笑う。
「HAHAHA!! ノープロブレムだ、辛気臭いボロ船をズタズタにしてやりゃあいいんだろ?」
「ヒヒ、ドラグチップを回収する条件付きでそんなところかね」
 武器商人が付け足せば、そんなモンもあったなあと貴道は頷いた。
「簡単なお仕事、というわけにはいかなさそうね」
 『青鋭の刃』エルス・ティーネ(p3p007325)は航路の先を見る。
 この海には無数の船や人が沈んでいる。今回のも『そのうちの誰か』なのだろう。前回の海洋大号令だけでなく、過去に繰り返された大号令でも犠牲者はいる。
 いつ頃霧が出てくるかわからないが、なら逆にいつでも戦えるように準備しておかなければ。
「…………だからね? いつ来てもいいようにしておくのは大事だし、場所が場所だとは思うけれどね?
 ――どうして水着なのよ!」
 エルスが叫ぶ。いささか顔が赤い。シャルルは冷静に『加護があるから?』と返した。
 わかってはいるのだ。たとえ歴戦のイレギュラーズと言えど死ぬ時は死ぬ。ならば死なないように準備するのは当然で、加護も今回の依頼を有利にかつ安全にするためのものであると。
 わかってはいても、飲み込むには時間がかかるのである。
「ま、派手に行くぜ野郎ど……女多いな。行くぜ皆の衆!」
「「おー!!」」
 雄の声に拳を天へ突き上げる。船は順調に進み――いつしか、どこかもわからない霧の中にいた。
「さっきまで晴れていたのに……!?」
「もう相手の領域ってことですね」
 辺りを見渡すココロに気を引き締めるリディア。ウルリカ(p3p007777)はいつでも行けます、と頷く。
 歌声は近く、戦艦の影も霧の向こうに見える。この状況で船を動かすなんて正気の沙汰ではないが、亡霊戦艦ならあり得るのだろう。
「それじゃ、お互い頑張ろうね」
 武器商人と燦火は外側から。その他のメンバーは内側から。状況はある程度なら武器商人が把握できる。
「それでは皆さん、こちらへ!」
 水中でも動けるように準備してきたメンバーはココロに続き、水柱を上げて海へ飛び込んでいく。水面に浮かぶ影を追いかけるように砲撃の音が響いた。
「おやおや、困るねぇ。そんなことをしちゃいけないよ」
 ヒヒ、と武器商人が笑う。それは決して大きな声ではなく、だというのにひどく心の内へ忍び込む――否、まるで心の中から響くようだと燦火は思った。
(いけない、ぼーっとしていられないわね)
 彼らが無事に戦艦まで辿り着けるよう、自分も動かなくては。燦火は翼を広げて、潮風に身を晒して大気中のマナを集める。
 先ほどの砲撃は仲間の影と別の場所に落ちたが、そう何発も撃ち込ませるわけにはいかない。
「蒼空の下に在りし力の座、其は我が。蒼き光を掴み取り、握りて凝らし、輝かす。

 ――見よ、打ち砕く奔流は今此処に!」

 詠唱により方向を定め、マナを放出する。霊撃魔術は先ほどの砲撃を放った砲台まで一直線に飛び、早速どデカい破壊音を響かせた。
「跡形もなくぶっ潰せばいいんでしょ?」
「お見事。まだあるようだからね、任せても?」
「ええ、もちろん!」
 武器商人が戦艦の標的となり、仲間が向かっている間に燦火が砲台をぶち壊す。あとは早く彼らが船まで至ることを願わんばかりだが――。

「皆さん、船はこっちで――」
 先導していたココロの声が途切れる。どうしたのかとウルリカが問えば、侵入する隙間もないくらいに船底は塞がっている。劣化が激しそうとは言え、これでは解除穴上がるしかないか。
「シンプルに行こうぜ。殴り込みをかけてドラグチップを探す。ついでに戦艦ともども亡霊をぶっ潰すんだろ? ならこれも戦艦をぶっ壊すのと変わらねえさ!」
 貴道が行くぜ、と力を込め渾身の一撃を船底へ叩きつける。元より大した強度もなかった板は、イレギュラーズの一撃に呆気なく屈したのだった。
「わ……他の部分も脆そうですね」
 そこから次々と船内へ上がっていくが、リディアは船底の危うさに息を呑む。これは思った以上に慎重でなければいけないかもしれない。いざとなったらココロにしがみつかせてもらおう。
(貴道さんには悪いけど、女の子同士だから多めに見てもらおう)
 幸い、周囲に敵の影はない。おそらく甲板で歌い踊り騒いでいるのだろう。一同は最下層を手分けして捜索し、早々に次の層へ上がる。
「海賊の財宝なんかもあったらいいんですけどね」
「ええ。一番はチップだけれど……はてさて」
 エルスは周囲を見回すが、ドラグチップなるものは見当たらない。そこらにある木箱の中はどこか海中でひっかけてきたのか海藻やら石やらが転がっている。この戦艦も、一度は海底にあったのだろう。
 とはいえ、敵陣にいる以上はのんびりしていられない。いつ敵が降りてくるとも限らないのだから。
 ああけれど、どこにもドラグチップは見当たらない。あとは甲板に出るのみだ。
「行きましょう」
 一番槍で飛び出したのはウルリカだ。一気に甲板まで駆け上がり、陽気に歌い続ける亡霊の一体へ奈落の呼び声を放つ。
「宴会中、失礼します!」
 続いて飛び込んだココロ。周囲で霧が濃くなる。これは亡霊戦艦のものではない。ココロの放った魔術の類だ。
(敵は――多いですね)
 この船と運命を共にしたものたちだろうか。だとすれば、これはこの船と船員たちの最後の光景ということだろうか。
 真実は海の藻屑になって、もうわからない。けれど彼らはもう"送られなければならない"のだ。
「冥府下りの銭を得たなら仲良く成仏するものですよ?」
『俺たちゃ歌って騒ぎ続けるのさ!』
『なんだぁ? 邪魔しようったってそうはさせねぇぞ!』
 亡霊たちが騒めく。楽しい雰囲気から物々しく、殺伐としたそれへ。そこへ空からやってきた雄が甲板向けて滑空した。
「竜宮幣は!?」
「まだ見つかってないぜ!」
 貴道の返事に頷き、雄は再び飛び立つ。けれど向かうのは遠い場所ではない。彼らが下からやってきたのなら、残るは甲板から繋がる部屋だ。
 その後を亡霊たちが追わないよう、エルスはココロの挑発に乗らなかった亡霊へむけて肉薄する。
「悪いけど行かせられないわ」
「HAHAHA!! 邪魔する気ならまとめて掛かってきな!」
 嬉々とした表情の貴道もまた、亡霊の群れへと突っ込んでいく。鍛え抜かれた肉体は何者にだって負けられない。しかも半透明な――存在すらも危うい亡霊になんて絶対に負けられるものか!
 鋭い拳圧による連続の刺突が亡霊たちを撃ち抜いていく。その様は全てを巻き上げる竜巻のようだ。
「どうしたレイスども! さっさとミーを止めないとエラいことになっちまうぜ!」
「ええ。最悪、この船も炎上してしまいますからね」
 ウルリカが容赦なく甲板をぶち抜いていく。船でありモンスターでもあるならば、この攻撃は確実に効くはずだ。
 亡霊たちの数は多く、されどイレギュラーズの攻勢も負けてはいない。徐々に亡霊たちの動きが速くなっていることを感じながらココロは仲間たちを回復する。
「まだ……まだ先手を取れますっ」
 そろそろ危ういか。しかしまだ動き出しで混ざったリディアが神気閃光で亡霊たちを焼いた。
『おいおいおい、てめーら! こんな奴らに負けられねえだろうが!』
 不意に響いた言葉に亡霊たちがはっと息を呑む音が聞こえた。同時に銃声がひとつ、ふたつ。あわやなところでココロがそれから逃れる。
「船長ってところか? 強いんだろうなあ!?」
『負けたらそこで終わりだからな! ここに立ってるってことはそういうことさ!』
 実際は死んでいるのだが――おそらく、彼らにその意識はない。まだ自分達は生身の体を持っていて、航海を続けているのだと思っている。
「へえ? だが歌の方は随分お粗末じゃないか。がなり立てるだけじゃ宝も逃げていくぜ!」
『なんだとォ!?』
『これが海の男の歌だってわかんねーのかぁ!?』
 甲板から繋がる部屋にもないことを確認した雄は聞きやがれ! と自信の鍛えた歌声を披露する。それは確かに技術のある歌だと聞くだけでわかる――が、それも亡霊たちには通用しない。
『そういうのは俺たちにあわねーの!』
『これから死ぬってのに歌の指導ご苦労様ってなあ!!』
「おわっと! 死ぬ予定ないからな!」
 刀で攻撃をどうにか受け流した雄。小さく深呼吸しながら、彼はしっかりと刀を構え直した。

「あっちは……ヒヒ。賑やかだね」
 広域俯瞰で空から見下ろした武器商人は甲板の様子に笑う。あちらもこちらもボロボロだが、敵も負けず劣らずと言ったところか。ドラグチップは見つかっていないようだが――いや。今ココロが何かを拾い上げ、叫んでいる。あれはおそらく"そう"だろう。
「こちらも負けていられないようだよ」
「ええ……あの厄介なマリラーナレイスたちをどうにかしないとね!」
 武器商人は一気に戦艦へ近づき、旧き夜の一撃を繰り出す。大きく戦艦に穴が開き、先ほどの貴道が船底へ開けた穴もあってか、戦艦が大きくぐらつく。何人かの亡霊が船から落ち、水面へ叩きつけられる前にふっと掻き消えたのを武器商人は見た。
「凍てつきなさい!」
 残った亡霊には燦火のダイヤモンドダストが襲い掛かる。そのまま甲板へ乗り込んだ燦火は味方の状態を見て咄嗟に幻想福音を響かせた。
「そのまま押し込めると思った? 私達は、そんなに甘くないわよ!」



「いいぜ、もっと攻撃してみろ!!」
 貴道は傷だらけになりながらなお拳をふるう。無数の打撃な重なって衝撃が走り、パドゥロニィがたたらを踏みながらも拳銃らしきものを貴道へ向ける。
「ココロさん!」
 咄嗟にリディアがココロを庇えば、貴道を狙っていたと思われた銃弾がリディアの腕をかすめていった。
「さっさと仕留めましょう」
「ああ。勢いで押していくしかねえ!」
 エルスに続く雄。イレギュラーズになりたてともなれば、先輩たちの背中は広く、まだ遠く。距離を埋めるにはまだまだだ。それなら勢いとノリで突っ込んでいくしかない。
 パドゥロニィの銃弾に込められた呪いが仲間達を苛むも、ココロの癒しがその苦しみをはらっていく。
(大丈夫。みなさんが、郷田さんが私を助けてくれると信じているから)
 敵を惹きつけることに一歳の躊躇いもない。ココロはきっと周囲を睨みつけた。
「竜宮幣は頂きました。あとはあなた方に還って頂くだけです――来なさい!」
 残る亡霊たちがココロへとたかっていき、リディアがココロの前で構える。ウルリカは集まってきたところへ衝撃波を放った。
(幽霊船……所謂物にも魂が宿るという迷信の最たるものですが、ヤドカリの殻が偶々沈没船だったようなものですね)
 このまま海を彷徨わせるのも可哀想だ。ここで全て破壊することで今度こそ安らかに眠れるだろう。
「HAHAHA!! ミーの勝ちだ!!」
 貴道が声を上げ、再び戦艦がぐらつく。エルスは残る一体へ肉薄した。
「そろそろお終いにしましょ! いつまでも現世で悪さをしてるなんて見苦しいわよ!」
 その一線が亡霊を空へ跳ね上げる。見上げた空は――いつしか、澄み渡った青空が見えていた。

 ぐらり。ぐらり。
 亡霊全てを倒し切ったイレギュラーズたちは、大きく揺れる戦艦にたたらを踏む。
「これは……」
「戦艦が崩れています!」
 周囲を見渡すウルリカの耳に、へりを掴んだリディアの叫びが聞こえる。そこから見たならば、次々とその身を崩壊させていく戦艦が見えたことだろう。
「皆さんこちらへ! 脱出します!」
 ココロの声に空を飛べぬものは手を取り腰を抱え、せーので戦艦から海へと飛び込む。大きな水柱が上がり、ややあって一同は少し離れた場所で水面へ出た。
「船が……沈んでしまいました」
 少し残念そうなウルリカの声が落ちる。船の身元を表すものがあれば持ち帰りたかったのだが、なくなってしまったものは仕方がない。
「皆ー! 怪我してる人は手当てするから、早く上がって!」
 燦火と武器商人が船を回してくる。エルスはハッとしてココロを振り返った。
「竜宮幣はあるわよね……!?」
「ええ」
 ここに、と出されたチップにホッとする。うっかり船に落としていたら、これから皆で潜水しなければいけないところだった。
(あの人たちも、これで眠れるのかしら)
 振り返れば、そこには跡形もなく。大きな戦艦がつい先ほどまでそこにあったのだなんて、見ていなかったものは信じないだろう。
 亡霊は怖いものではないし、かと言って特別見たいわけではない。
 それでも――この海に沈んだ嫉妬の少女だけは浮かばれていればと、思うのだった。

成否

成功

MVP

リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日のフルール

状態異常

リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)[重傷]
木漏れ日のフルール
桐生 雄(p3p010750)[重傷]
流浪鬼

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 無事にドラグチップ回収となりました。

 それでは、またのご縁をお待ちしております、

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