＜潮騒のヴェンタータ＞海原に抱かれて

オープニング

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「……本当にこんなに薄い衣装で加護が与えられるのですか……？」
　身体を抱くようにして所在為さげにシンシアがぽつりと言った。
　聞けば、彼女は水着というものを着込むのが初めてであるという。
　元々アドラステイアでオンネリネンの傭兵をしていたという彼女には、水着はもちろん、それ以前に夏を楽しむこと自体が初めてだという。
　それもあって、これが夏の正装だとばかりに着た水着に少なからぬ羞恥心を覚えているようだ。

　さて、そのような状況になったのは深海の『都』なる場所からきた少女がもたらした情報に起因する。
　夏――地上の楽園ことシレンツィオリゾートが開拓二周年の時を迎え、各国が威信をかけクルーズツアーの決行を試み、そして一時的な計画の中止を余儀なくされた。
　フェデリア南島に広がるダカヌ海域に出現した『深怪魔（ディープ・テラーズ）』である。
　その脅威を完全に取り除くに至らなかった所に姿を見せたその少女は都に伝わる神器『玉匣（たまくしげ）』をもってすれば深怪魔を追い払うことができると語った。
　しかし、玉匣は破壊されたらしく、その力がコイン状の竜宮幣になって周辺の海底や一部の島へと散ってしまったというわけだ。
　――となれば、やることなど唯一つ。そう、竜宮幣の回収である。
　だが、ただ集めるだけでは芸がない。
　そこでシレンツィオリゾートに利権を有する四国――豊穣、鉄帝、ラサ、海洋、各々の代表者は各々に公約を掲げた。
　それら１つ１つは言ってしまえば殆どが大したことはない。
　サマーフェスティバルそのものにおける行事の１つにしてしまえという何とも大胆な考えから来たものだ。
　そして、もちろんというべきか、竜宮幣回収の実行役はローレット――すなわちイレギュラーズである。

「……という話は、理解しました。
　でも、なんでこの服を着てたら強くなれるんです……？
　えっ、水との接触面が多くなって……？　そう……なんですか……」
　ほんとに？――と怪訝そうにしながらも、とりあえず諦めたシンシアだった。

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　いざや竜宮幣と、大海原に出た君達は、ダガヌ海域へと帆を張り駆り出した。
　やがて曇天の帳を降ろす不穏なる海原へと突入して、事前に説明を受けていた小島へと辿り着いた。
　何かの死骸やら漂流物やらが散乱する砂浜を踏み越え、島の中央へ。
　ビョウと音を立てる木々が尋常じゃないしなりを見せ、折れずに済んでいるところには生命の神秘を感じざるをえまい。
「――さん、だぃ――う――か――」
　恐らくは安否を問うたであろうシンシアの声は耳にまともに入りはしない。
　吹き付ける風は互いの声を掻き消すばかりか、口の開け方を間違えれば呼吸すら難しい。
　歩き方を工夫しなければ前に出ようとするだけで転倒しかけるほど。
「――て――あそ――――つ――――」
　前の方を歩く誰かが声を出す。
　視線を上げれば、そこにはぽっかりと開いた黒。
　洞窟の類だろう。
「ひ――ず――――に――はい――」
　相変わらず何も聞こえないが、指をさす姿を見れば、大体の予想はつくものだ。
　足を進め、辿り着いた洞窟――そこに入った瞬間、イレギュラーズはその空間の異質さを理解する。
「……風がありません。この洞窟、きっと奥で行き止まりですね」
　そう口に出せば、お互いに相手の声を聞こえて、それが事実であることを認識する。
「……先、進んでみませんか？」
　外の烈風と打って変わった無音の洞窟は明らかに異質であり――前に進む選択を取るのは充分だ。
　――ぴちょん、と水の滴る音が奥の方から反響したならなおさらに。

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――

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　あれから、少しばかり奥へ進んでいたイレギュラーズの眼前、突如として開けたその空間には、一面の水面がある。
「……地底湖、でしょうか？」
　首を傾げたシンシアに頷いたところで、水面にきらりと光る光。
「――あれ、もしかして」
　その光は、ゆっくりと輝きを失っていく。
　ちょうどそれは光を持っている何かが水底へ帰るように――
「追いかけよう！」
　誰かが言って――ストレッチだけ済ませて走り出す。
　そこは、想像していたよりも遥かに深かった。
　キラキラと輝く光を追いかけて、イレギュラーズはまるで『来た道を戻るように』泳ぎ出す。

　それに気づいたらしい、その影がこちらを見た。
　ずんぐりとした肉体をしたそいつは、青色の魚だった。
　空から見た時、水面に映るであろう範囲は水面のような深い青、海底から見上げた時には煌く陽光の如き白。
　よく見れば、比較的小型だがフォルムだけ見れば鯱のようにも見えた。
　こちらを振り切れぬと理解するや、それはくるりと旋回してこちらを見る。
　刹那――口を開いた。
　海水が波を打ち、イレギュラーズめがけて衝撃を撃つ。
　同時、気配を感じて下を見れば――海底から、人の影が差していた。

参加者 : 8 人

冒険が終了しました！　リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧（8人）

リプレイ

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　ぴちょんと水滴が天井から落ちる音が鳴る洞窟でイレギュラーズは改めての自己紹介タイムに入りつつあった。
「では、改めて。シンシア様、初めまして。
　その水着もお似合いで敵を惹きつけるには十分すぎる程魅力的、共に舞台に立てて嬉しいです」
「そ、そうでしょうか……うぅん……ではなく！　それは貴女も同じだと思います！」
「ふふ、ありがとうございます」
　白磁の如き美脚を惜しげもなく披露する『銀月の舞姫』津久見・弥恵（p3p005208）は恥ずかしそうにする少女に微笑むのだった。
「シンシアちゃん初めまして！　仲良くしてくれると嬉しいな！」
「初めまして！　はいっ……！　こちらこそ、仲良くしてもらえると嬉しいです……！」
　新調した水着に着替えた『正義の味方』皿倉 咲良（p3p009816）がシンシアへ声をかけると、少女からは元気よく、けれど徐々に気恥ずかしそうにしながらそんな答えが返ってきた。
「何が潜んでるかわからないけど、やられる前にやっつけちゃおう！」
「はいっ！」
「ほう……これはなかなか。水着姿も大変可愛らしいですね、シンシア殿。良くお似合いです！
「あ、ありがとうございます……」
　そう率直な感想を述べた『疾風迅狼』日車・迅（p3p007500）に、シンシアが恥ずかし気にそっと身じろぎする。
「おっと、乙女の肌をじろじろ見るものではありませんでしたね。失礼致しました」
「い、いえ……やっぱり慣れないだけです……大丈夫です……」
　紳士的に視線を外す迅はそういってシンシアが首を振った気配を感じるのだった。
「さー水着戦闘どんとこいですヨー！　シンシア君ももっと恥ずかしがって！　ほら！
　恥ずかしさが一線を『越え』たら一線を『超え』られますから！　さあさあさあ！」
　夏のテンションぶち上げな『刹那一願』観音打 至東（p3p008495）は未だにちょっぴり恥じらいを隠せぬシンシアにぐいぐい行っているところだった。
「そうはいいますけど……貴女はその……恥ずかしかったりしないのですか……？」
「ええまぁ、一線『超え』ましたから」
　まるで動揺することなく澄ました顔で頷いた至東はシンシアから尊敬の目を向けられて。
　――それは越えちゃ駄目な方の線なんじゃないかなぁというツッコミはどこからも来ないのである。
「シ、シンシアさんお久しぶりです。お元気そうでなによりです。
　み、水着での戦闘ともなれば、不慣れでしょうが、が、頑張りましょうね？」
　幾分か声が震えている印象があるのは『燻る微熱』小金井・正純（p3p008000）である。
「お……お久しぶりです。その、この島まで来てから言うのも今更で申し訳ないですけど……
　大丈夫ですか？　震えておられるような……」
「い、いえ別に震えてないですよ私。泳げないだけなので。
　これほんとにこのまま入って溺れたりしませ……」
「おぼれる心配はないらしいですけど……」
　恐る恐る足を進め、泉のようになったそこに踏み込んでいく。
「ごぼぼっ……無事だ」
　ぎゅっと目をつぶって、見ようによっちゃあ死ぬ覚悟決めたぐらいの顔で突っ込んでった正純。
　直ぐにその成果に気付いて目を瞠り。
「こほん。ええ、これなら大丈夫です。
　さあ、さっさとあの鯱を倒しましょう！　さっきまでの醜態は忘れてください！」
「よ、良かったです……？　はいっ！　行きましょう！」
「竜宮の加護、ねぇ……水着になるだけでこうやって力があがるプロセスを是非とも知りたいわね」
　水の中を泳ぎながら『紅蓮の魔女』ジュリエット・ラヴェニュー（p3p009195）はぽつりと呟くものだ。
　一応理由はあるみたいなことを言われてはいるが、そもそもその理由とやらも納得しがたいのだからしょうがない。
「メイ、初仕事が( ‘ᾥ’ )で次のお仕事が水着で、って。しょくぎょーせんたくをまちがえた気がするです！」
　そりゃあもう大変だった。( ‘ᾥ’ )の仕事を思い出しながら、『ひだまりのまもりびと』メイ（p3p010703）は追わずにはいられなかった。！
（ねーさま。ローレット、こわいです……でも、がんばります！　ねーさま。応援してくださいね）
　そっと遠い目をした先でクラリーチェおねーさまが優しく笑ってたような気がする。
　多分、応援してくれるってことなんだと思う！
　そっちだって信じたい。

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「死人に指示、か……元悪役として洗脳されたことがある身として止めてやらなきゃな。
　水着姿だとなんかシリアスが減るが……」
　海底より上りくるバッカニアレイスを見下ろすような形で『永炎勇狼』ウェール＝ナイトボート（p3p000561）はぽつりと呟いていた。
　これも加護の効果か、なぜか微塵も濡れていない狼札から一枚を取り出しつつ、向かってくるレイス達の距離を確かめる。
「今回はアレを仕留めればいいのですね。
　加護のおかげでそれほど動きに支障は無さそうですし、頑張って殴ります！！」
　跳び出したのは迅だ。
　群がるようなバッカニアレイスを振りほどき、握りしめた拳で思いっきりオルカを殴りつけた。
　覇竜を穿つ弾丸の如き拳に体勢を崩したオルカだが、迅の方もただでは済まない。
　殴りつけた拳には傷が増えて行くことなどお構いなしに、引き戻した拳を今度は掌底に開いて叩き込んだ。
「遠慮したところでどうせ押し負けるだけです。ならば、構わず撃つのみ！」
　質量を持つ残像の如き連撃を受けたオルカは、体勢を崩して後退する。
　そのまま下へ落ちて行ったオルカはその場で泳ぎ出そうとし始めている。
「あまりきれいな海に合わない感じするねぇ……
　もしかしてあれかな？沈没した船の乗組員だった、的な……。ひえぇ、怖い怖い」
「そうかも……しれませんね」
　海底より迫りくるバッカニアレイスを見て咲良は軽い調子で呟くと、こくりとシンシアが同意する。
　オルカの方へと肉薄し、空へ打ち上げるようにして殴りつければ、ざりりとした感触が手に刻まれる。
　追撃に放つは残影。振り抜く拳にオルカがキュゥイと声をあげた。
「さっさと決めましょう。
　加護で大丈夫だとしても、こんなところにはあまりいたくありませんので！」
　オルカやレイスの頭上を取るようにやや上の位置を取った正純は弦を引き絞り、手放した。
　刹那、弓は弦を揺らして海中にて波紋を描く。
　こぽこぽと泡が爆ぜ、ある種の衝撃波となった波紋がオルカの身体を強かに打ち据えた。
「ついでです。たいそう立派な角、破壊出来れば誉れとなりましょう」
　引き絞ったままに打ち込んだ死神の魔弾が身をよじらせるオルカへの追撃を担う。
　放たれた矢は海水を切り裂きその角へと炸裂する。
　反撃の衝撃波が正純を襲う頃、合わせて、オルカが小さな声をあげて、角を大きく見せた。
　それに呼応するようにしてレイス達がこちらに向かってくる。
「……もしや、レイスへと命令を告げるのはその角ですか？」
　異様な仕草にモンスター知識と未知への解析力が直感を生む。
「その変わり果てた姿だと生前の知り合いや家族に会ったら、気まずいどころかトラウマを与えるだろうし、
　傷つけたり殺すなんて死んでも死にきれないだろう。
　だからここで終わらせる……もう意味は伝わらないかもしれないが安心して眠れ」
　そう告げるや、ウェールは手札にしたカードから２枚、真下に投げるようにして放つ。
　放たれたそれは各々がマリンスノーに鋭さを帯びたような強烈な吹雪を起こして大量のレイス達を撃ち落とす。
「さぁ、泡沫なるは人魚姫、流水の舞を堪能あれ！　津久見弥恵の参上です！」
　弥恵はオルカの方へと近づきながら美脚を披露する。
　美しき肢体を晒すようにして見せるその仕草はオルカを引き付けるには十分の作用を齎した。
　キュゥイッと謎の音に合わせるようにして、美しき歌を歌えば、それは海中に反響するようにしてキュゥイという音と重なりあい、交じり合う。
　弥恵の肉体美に魅了されたのか、あるいはバッカニアレイスへの命令を阻害されたことに不快感でも覚えたのか、オルカが突っ込んでくる。
　迫りくるシャチの顔、食らいつかんと牙を剥いてがぶり。
　弥恵はそれを天性の直感を以って躱していく。
　２度、３度と躱そうとしたその３度目、酷い激痛が弥恵を襲った。
　攻撃を受けた様子はない――のだが。
　合わせて動いたシンシアが剣を掲げて光を放てば、その光に照らされるようにバッカニアレイスの一部がそちらへ向かっていく。
「海の中でこんなふうに自由に動けるのも中々機会が無くて面白いわね」
　ジュリエットは海中を泳ぎ、肉薄するなり手にした宝石に魔力を籠めれば、海中で姿を見せたスピネルサーヴァントがオルカの身体を握り締めた。
　それがもたらす呪縛、そのままジュリエットが指を鳴らすと、スピネルサーヴァントは核の宝石を残して破裂する。
　破裂した身体はそのままキューブ状に変質し、オルカを丸々飲み込んだ。
『キュゥクゥォ！！』
　箱より解き放たれ、姿を取り戻した刹那、オルカの牙がジュリエットに食らいつく。
（……うん、だいじょうぶ。こわくない）
　きゅっと結んだ手、メイはふるると顔を振ってから視線を下へ。
「もう眠っていいんだよ」
　放たれた光は海に注ぐカーテンのようにバッカニアレイス達を照らす。
（ねーさまのような、送り人にはなれない、けど。
　安らかな眠りを祈るくらいならできるから）
　その祈りがバッカニアレイスへと届いているかはまだ分からないけれど。
「装備の都合上、楠切村正の鞘は持ってこれませんから、つまりは常時抜き身の刀な私です。
　寄らば斬る、寄らずば寄って斬るが観音打三劫流の基本だと、怪物連中にお教えして差し上げましょう！」
　若干の仄暗さを暗視でよりカバーしながら至東は戦場を泳ぐ。
　刀身となるビームを放ちながら振り払われた斬撃は海水を斬り裂き、その空間ごと斬り捨てた。
「――２度目の死などヒトには不要（いらず）。雷轟より疾く、分からぬままに逝かれませ――」
　二度目の斬撃を振り払った後の残心。
「ふぅ、破壊した空間に水が流れ込んで……なんてことにはならないはずですヨ」
　――そう言い放った。
　刹那、亜空間と化した海中の一部に触れたバッカニアレイスが消し飛んでいく。

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　レイス達が海底へと墜ちて行く。
（おやすみなさい……今度は穏やかに眠ってね……）
　それを見下ろしたメイは内心で告げる。
　ねーさまのようなおくりびとにはなれない、けど。
　それでも安らかな眠りを祈るくらいならできるのだ。
「まだ倒れませんか――ならば！」
　迅はグッと拳を作る。
　迫力の籠った双眸に闘志を漲らせ、雨の如き拳の連打を叩きつける。
　想像を絶する高速、あらゆる守りを無視し――或いは破砕して撃ち抜く拳打が、オルカの身体を刺し貫く。
『キュゥ――クォォ』
　悲鳴のようなものを上げながら、身をよじったオルカの牙が身体に突き刺さる。
「このまま、一気に！」
　咲良は拳を握り締めると、一気にオルカの腹部――真下へと潜り込む。
　ひとまずは自分の身体を弾丸のように体当たりを叩きつける。
　超常的な加速からもたらされた超新星爆発の如き一撃から続けるは蹴撃。
　しなりを上げた脚線美を魅せ、振り抜かれた軌跡は死神の大鎌の如く。
「不思議ですね、力が湧いてくる。この一射を持って、撃ち砕かれなさい」
　正純は更に弓を引き絞る。
　天より打ち下ろすようにして繰り出した矢は波紋を描き戦場を馳せる。
　それは下から見れば流星群さながらに見えただろう。
　　ウェールはカットラスを握る狼獣人のカードを一枚、山札から抜き取ると、それを払うように振り抜いた。
　瞬間、カードは姿を変えてカットラスへと変じれば、それを握り締めておるか目掛けて突っ込んだ。
　自らの意志を無視して利用される苦しみを、ウェールは嫌と言うほど知っている。
　だからこそ――
「超音波で人だった体に指示を与えて駒のように動かす……
　生きる為にそんな風に進化したのかもしれないがそのやり方には個人的な理由で怒りが沸く。
　無念にも死体を利用され続けた人たちの分も――お前を断ち切る！」
　凄まじい速度で海中を突っ切り、その慣性をそのままに、斬撃を見舞う。
　強烈な斬撃を受けて、オルカが反撃の牙を剥いた。
　その勢いを利用してもう一太刀浴びせて、一つ息を整える。
「さぁ、行きましょうか」
　弥恵は未だにオルカの意識が自分へと集中していることを確信すると、美脚を晒すようにしてオルカの前で太刀を振るう。水を切る剣先は仄かな光を吸い取り反射するように美しく煌き、オルカに大きな隙を生んだ。
「調べたいことは山ほどあるのよ。さっさと片付けさせてもらうわ」
　ジュリエットは右腕の術式回路を活性化させると、掌に魔力を集束させていく。
「灰燼に帰すといいわ、カーディナルサイン。焼き尽くす――」
　それは海中を以てして燃え上がる殲滅の炎、聖なる篝火。
　振るい放つ灰の炎がオルカの身体へと叩き込まれる。
　メイはその様子を見ながら祈りを捧げる。
（ねーさま……力を貸してください……）
　祈りは幻想的な光となって降り注ぎ、仲間の傷を癒していく。
　バッカニアレイスの数も多かったが、それ以上にオルカとの戦いで反撃も含めた攻撃の傷は深いものが多い。

　高速の跳躍――いや、海中故のその軌道を跳躍と呼ぶのかは不明だが。
　それを為した至東は、そのまま一気に遠距離からオルカの正中を切り払う。
　夥しい出血を伴う必中の斬閃も収まらぬままに、連撃を見舞う。
「――刀尋東至若無量劫――」
　置き去りにするように、静かに告げた名号。
　落ちて行くシャチの姿を見下ろして、終わりにはただそれだけでいい。
　それこそが己なりの称賛であった。

●
「まさか、あの海底から島の外に繋がっていたなんて……」
　咲良は不思議そうに言うと、島の方を見た。
　島の中に合った洞窟に入り、泉を通じて折り返すように進んだイレギュラーズは、オルカやレイスとの戦いの後、そのまま島の外まで出ることが出来た。
「不思議な事もあるものね」
　それに頷くのはジュリエットである。
　空へと翳すようにして竜宮幣を眺めみながら、くるりと弄って掌に収める。
（初めてのお仕事でもらったもの。メイの宝物にしよう。
はじめての、頑張った記念）
　竜宮幣を掌に収め、きゅっと握りしめるのはメイである。
「水中での戦いも面白かったですけど、やっぱり硬い地面はほっとしますね！」
　ホッと一息を吐く迅はぐっと身体を伸ばす。
「これだけでも、持ち帰れたのならそれで十分か……」
　そういうウェールの手元には、バッカニアレイスから回収できたいくつかの遺品らしいものが収められている。
「そろそろ帰るとのことですよ」
　そういうシンシアの言葉と同時、角笛が鳴り、船が旋回を開始した。

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。