＜潮騒のヴェンタータ＞吸血流れ藻を刈り開け！

オープニング

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　最初は小さな塊だった。
　気が付くと、枝の一本に何かが絡まっていた。それはキラキラと輝き、それにつられた小魚が集まってきた。
　面白いように枝に小魚が絡み、それは塊の栄養となった。塊はどんどん大きくなった。やがては小魚につられた大きな魚もからめとることができるようになり、いつか、それを狙ってきた深海獣もからめとるようになった。
　一は全、全は一だった。
　からめとったものの骨さえ土台にして塊は大きく厚くなる。
　キラキラは塊の中心で今日もきらめいている。
　そして誘われて寄ってきた何かが今日も塊を大きくするのだ。

　波間に巨大なホンダワラの塊が浮かんでいる。
　赤紫のとげを四方八方に突き上げ、数多の生き物を飲み込んだ姿は死にいざなう海上ステージのようだった。

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「皆様。各国の思惑が交錯する宝探しに興じていただけませんこと？」
『そこにいる』アラギタ メクレオ（p3n000084）が茶をあおりながら言う。
　なぜ、お嬢様言葉。
「地上の楽園ことシレンツィオリゾートは開拓二周年の時を迎え、各国の威信をかけたクルーズツアーが始まろうとおりますの」
　要するに客の取り合い、ゼロサムゲーム。うちのお船に乗っていってよ。
「ですけれど、クルーズ最初のルートにしてフェデリア南島に広がるダカヌ海域には未知なる『深怪魔（ディープ・テラーズ）』が。後は御察し下さいませ」
　大体、数年前死闘を演じたのだ。その上の方にいたのをイレギュラーズが片付けたのだからその下からさらに浅い海に縄張りを拡充しようと及んでもさもありなんだ。
「困っておりましたら、深海の『都』なる場所からある少女がいらっしゃいましたの」
　異邦者である。
「彼女の都もまた深怪魔に脅かされており、都に伝わる神器『玉匣（たまくしげ）』をもってすれば深怪魔を追い払うことができるとのこと。そういうものがないと、『都』など維持できるわけもありませんものね」
　ですけれど。と、お嬢様言葉を駆使しながら、いつもの調子で菓子を食うのでバグ感がひどい。
「玉匣は破壊され、その力がコイン状の竜宮幣（ドラグチップ）となって周辺の海底や一部の島へと散ってしまったとおっしゃいますの。悲劇ですわ」
　竜宮城からの願いはこの竜宮幣を集め、再び玉匣を完成させること。
　そして同時にシレンツィオリゾートに関わる各国代表の願いもまた、その神器によって深怪魔を追い払うことであった。
「こうして利害の一致した中、二周年記念のサマーフェスティバルが開幕いたしますわ」
　シレンツィオリゾート各国代表者たちはイレギュラーズたちにチップの回収を依頼すると共に、『どの代表者が最もチップを集めるか』の勝負を始めたのだった。それも、愉快なマニフェシュトと共に。
「マニフェスト、以下の通りになっておりますの」

　霞帝「かむいぐらが優勝したらここに銅像を立てよう！！　瑞の！！！！」
　ラサ「なら我々は大使館を得ましょう」
　鉄帝「リトル・ゼシュテルに自治権を！」
　ソルベ「海洋が勝利した暁には、ふふん。私が入っていた卵の殻をお見せしましょう」

「どこがとっても愉快になるでしょうけれど、深海魔を相当しなくてはならないのは皆さまですわー！　せめて、自分の楽しそうなところにチップを積み上げるとよろしくてよ！」

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「――という訳で、依頼の詳細なんだが」
　メクレオは何の説明もなくいつもの様子に戻った。
「海藻がですね、ジャングルになってまして。その中に例のコイン状の竜宮幣（ドラグチップ）があります」
　中とは。
「胞子と一緒にくっついちゃった雌株が」
　コインを胞子と勘違いする大きさとは。
「一応視認できるから手の届くところにひっかかってるんだけど。そこに行くまでが――」
　腕力勝負と、情報屋が言った。
「深海魔だから、そりゃでかいわなっつ―ことで。ホンダワラっつったら普通のでも船のスクリューに絡みついて沈める」
　飛んで行ってもいいんだけどさ。と、情報屋は唸る。
「やっぱり、足場としての船はいると思うんだよね。空中から海に引きずり込まれたら助けるにも拠点ほしいじゃない」
　空母、大事。
「なので、手漕ぎボートを用意いたしました」
　絡むスクリューもない。余計な機械もない。結局、確実なのは己の力（直喩）だけ。
「そこに至るまでを刈り払い、誰かがダイブして拾って来て、速攻逃げるという流れが想定されます。言っとくけど、数が多くて辺り一面切り払うとか海の中に大火球ぶっこむとかやめてね。生態系狂って高級リゾート地がぱぁになるから。必要最低限にしてね。ここも観光の目玉になるからね！」
　まあ、大丈夫と思うけど。
「――賠償請求来たら、個人に回すから。火じゃなきゃいいんだなとか言ってビームとか氷とかプラズマとかもだめだぞ。高出力範囲攻撃は禁止だ。復唱！」

参加者 : 8 人

冒険が終了しました！　リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧（8人）

リプレイ

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　どこまでも青い海に赤紫の海上ステージ。厚さ５メートル、直径３０メートルのホンダワラだ。絡めとった海洋生物で若干カルシウム多めかもしれない。ぬめぬめのとげのような胞子嚢が絡み合い、分厚く堆積しているのだ。
　そのほぼ中心部からフットライトのように淡い光が空に向けて突き立っている。夜に見たらきれいかもしれない。あるいは海の中からなら。なかなか幻想的な眺めだろう。ホンダワラにからめとられたりしなければ。
　絨毯が７、海が３だ。色が露骨に違う。ゆったりゆったり動いている。

　それぞれ、イレギュラーズを乗せた三艘。
『超合金おねーさん』ガイアドニス（p3p010327）はパワフルにボートをかいでいる。
「手漕ぎと言えどボートでかつ海にでるんだから、おねーさんの操船技術と航海術、活用しちゃうのでっす！」
　戦陣に頼もしいことこの上ない。
『優穏の聲』ゲオルグ＝レオンハート（p3p001983）と『殿』一条 夢心地（p3p008344）もガンガン漕いでいる。
「光るの見つけて追いかけるのだわ！　追いついたら二人に刈り開いてもらうわ！」
「ホンダワラは煮ても酢のものにしても美味いが、麿のオススメはやはり味噌汁じゃな」
　謎多き御仁である夢心地は、ホンダワラをたしなむ世界から来たとお見受けする。
　やる気をにじませ、手なずけるのが難しい妖刀の二刀流。目にもとまらぬ三撃を見舞い、切り開く。
　表層――食べるに向いている柔らかさを保った辺り――が波に揺られて離れていく。ガイアドニスがその隙間に抜け目なく舳先を向ける。
「私は二人のサポートが役目だな」
　ゲオルグは、夢心地が切りやすいようオールを漕ぐ。戦闘が伸びれば回復で忙しくなるだろう。
　その後方。
　『半透明の人魚』ノリア・ソーリア（p3p000062）が竜宮弊回収の任を担っている。同じボートで介添えにつくのが『散華閃刀』ルーキス・ファウン（p3p008870）だ。漕ぎ手として大きな期待が寄せられる。足を踏ん張り慣れていない幼気な人魚にオールを持たせても進むまい。
　というか、ルーキスもひたすらオールを漕いでいるといらん事ばかり浮かんでくる。
「何か、メクレオさんの口調が一瞬おかしかった気もするけど……きっと暑さのせいだな、そうに違いない」
　もうこれ以上考えるのはよそう、少なくとも、作戦が終了するまでは。
　情報屋の気まぐれが生真面目なイレギュラーズを困惑させた。
「疲れてたのじゃないでしょうか」
　ノリアが律儀に返した。メクレオのところには割と変な仕事が舞い込むのだ。かつて依頼でうっかり低温調理でおいしくなりかけたことがある。
　今回もホンダワラにからめとられて吸血されたらしわしわにされてしまうけれど、
「海のなかの　町だなんて　わたしには　親近感が　ありますの。ですから…　おこまりなら　すこしでも　おちからになれるように　わたしも　全力を　つくしましょう」
　さらに、少し離れた位置に一艘。
「俺が手配した。予備のオールが載せてある」
『永炎勇狼』ウェール＝ナイトボート（p3p000561）が細やかな心遣いを見せた。
　オールを失くしたら、式神が新しいオールを船までデリバリーしてくれるのだ。このもふもふ、できる男。きっと想定不能な事態を幾度も乗り越えてきたのだろう。この場合は、二児の父的に。
『雷光殲姫』マリア・レイシス（p3p006685）が舵を取り、『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト（p3p010126）が三艘の位置取りを指示する。
「それでは、そろそろ私は行くよ」
　この世界、いろんな理由で飛ぶ者がいるが、マリアも飛ぶのである。つまびらかにされていないが多分磁力的何かで。あるいは虎的何かで。
　
　いつもなら、それぞれなじんだ武装をしているところだが、今回――いや、この一連の騒動が終息するまでは――水着だ。
「水着で戦えば戦闘力が増す加護……夏の海ともなれば水着で戦闘することも多いだろうし、なんともありがたい事だな」
　ゲオルグの水着は目のやり場に困るのでぜひ何か羽織ってほしい。変なヒトにはモフモフを連れていてもついていってはいけないと固く言いつけたい。
「今年の水着で触手に絡まれるとか父親として避けたいし」
　ウェールは、R.O.Oのヒロイックファンタジーステージで見た気がするような風体だった。中世の王座で斜に鉄の王冠かぶってこっちを睥睨してくる奴。
　需要が想定される以上、絶対に負けられない触手との戦いだ。
「「麿の剣は中々に切れるぞ、調理されたくばかかってくるが良い。　なーーーっはっはっは！」
　殿の高笑いがこだまする。
「レーザーソードであの藻切れるでありますかね……？」
　そんなムサシのつぶやきをかき消すような勢いで、向こうのボートに立ったルーキスが海中に身を躍らせようとしている。手にしているのは、武蔵の目には工芸品に見えるほどの優雅な刀が二振りだ。あれで藻を切るというのか。
「水の中とて、我が刀に斬れぬものは無し。行くぞ！」
　そう叫んで身を躍らせていった。
「――――」
　ガントレットとレーザーコーティングされている伸縮自在の警棒がムサシのサプレッション・ユニットの根幹だ。レーザーブレードは斬撃だ。水に入れたら交戦が乱れるとか考えちゃだめだ。よしんば、そうだったとしても。そもそも、広い宇宙を守る保安官さんの基本装備が汎用でない訳があるだろうか。否。いかなる現場でも一定の成果が上げられる。それが宇宙の保安官さんだ。むしろ、切れないなら切れないなりにダメージを与えればいいのだ。たとえ効率が悪くても、今その手ににぎる装備を使うのだ。そうとも。宇宙保安官はいつでも全力全開で戦うのだ！
「藻の動きは任せて！」
　上空から、藻の動きを把握しているマリアが、ムサシの死角から忍んでくる藻を切り開いた。
『殿！　後ろ！　後ろ！』
　聞き覚えのないいくつもの声が重なったような声がムサシとマリアの耳に届いた。
「巨大な相手だからと言って、雑な作業は厳禁じゃ。コレは観光資源保全のような、高尚な考えで言っておるのではない。ぬめぷり海藻は丁寧に、かつ大胆に刈り取らねば、味が落ちるのでな」
　快刀乱麻で快進撃の夢心地の背後に、お命頂戴と必殺の吸血攻撃をお見舞いしようと忍び迫る藻。夢心地は全く気付かず、どばびばきりまくっている。派手なオレンジ色のシャツと白塗りのコントラストがまぶしい。はだけた腹の紫外線対策が気になる。
「夢心地君、後ろ、後ろ―！！」
　マリアは叫んだ。
　ギフトの声が届かずとも、きっと仲間の声は届く。
「おねーさん、おっきいですので！」
　そして、仲間の助けの手も届くのだ。
「かばうのは任せて！　まとめてかばっちゃえるのだわ！」
　ガイアドニスは、花が咲くような笑顔を浮かべた。
　決死の盾だ。重傷をおしてなお「おねーさん」の愛は止まらない。やがて、たぐい稀なる至宝と呼ばれる日が来るだろう。守るという意志を実現するため、冷徹な計算をしながら前に出る。自分が生きていれば、かばえる者は全てかばえる。
「では、その命を守ろう」
　ゲオルグが呼んだ光輪は、ガイアドニスの傷を癒し、その動きを後押しする。
　頑張るあなたに冠を。
　
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　ルーキスが人間の割にはかなり上手に動いているのを確かめて、ノリアは竜宮弊に向けて泳ぎ出す。
　赤黒いホンダワラ層の下。基底部は真っ白い骨が鎖帷子のように絡み合い、一つの塊のように動いている。完全に癒着しているわけではないので波にぶつかり割れることもない。
　キラキラと浮くホンダワラ層を失った基底部がしらしらと海中に沈んでいく。
　清冽な白と淀んだ赤。海の底から見上げると生と死のせめぎあいが美しい。こちらを襲ってさえ来なければ。
　基底部から伸びてくるホンダワラは、ノリア目掛けて伸びてくる。
　栄養補給の後は砕けた基底部の補強材にちょうどいい。やがて潮に潤びた肉は更なる補強材を呼ぶ撒き餌となるだろう。
　それが海の弱肉強食。ギガントサルガッソーだけを特別残忍とは思えない。現にギガントサルガッソーが今刈られているのだから。主にみそ汁の具として。
　ルーキスが、先行する。と、指を動かし、斬撃を咥えつつ、ホンダワラを自分にひきつける。
「ゆでてしまえば動きも止まりますし　もろくなって　切りやすくなるはずですの！」
　ノリアは熱水噴出杖をホンダワラに向け、躊躇なくぶっ放した。吹き出すのはそこらの水ではない。深海熱水噴出孔から高温高圧の熱水流を召喚しているのだ。深海の底からこんにちは！
　あくまで部分なので、生態系に影響はありません！　水温がじわっと上がってますがあくまで一時のものです！
　ゆで上げられて変色したホンダワラがザクザク刈り取られていく。ルーキスが放ったのが風の殺人剣。空の中でも水の中でも変わりはない。場を支配する者の指がホンダワラをつかみ、その穂を刈り取っただけだ。
「俺のことは気にせず、今の内に竜宮幣をお願いします！」
　ノリアは頷き、手を伸ばす。陸に上がり、空中を泳ぐようになったとはいえ、ノリアとて海の生き物だ。
　大いなる海は、身をゆだねるものに恩寵を、牙向くものに報いを与える。
　ノリアの姿を隠すように契れたホンダワラの胞子嚢が水中を漂う。透ける人魚が流す体液は定かに見えないが、水着と定めて身に着けた白いTシャツが痛々しく変色している。
　伸ばす指。届きそうで届かない竜宮弊。
（わざわざ　「水着！」なんて　気合をいれるといとしのゴリョウさんに　見せるための　お洒落なものに　なってしまいますの…！）
　指先が生む柔らかな水のうねりが、絡んだホンダワラをほどき、竜宮弊をノリアの下へ運ぶ。
（普段のおよぎには　向きませんの……）
　腰回りにまとわりつかないTシャツ。
（やっぱり　およぎ慣れた服こそが　いちばんの　水着ですから）
　指先に固いものが触れる。それをぎゅっと握りしめた。
　ノリアの手に包まれて、放出される光の量が落ちる。
「とりましたのー！！」
　竜宮弊の輝きに劣らない笑顔を浮かべて、人魚はホンダワラを切り払い続けたルーカスに手を振った。
　その真上。毛むくじゃらの手がノリアの鼻先につっかまれた。
「ウェールさん？」
　竜宮弊がある光の柱から飛行しつつ直下掘りしてきたのだ。
　毛並みにホンダワラが大量に絡んでいる。あちこちに小さくない吸血痕。
「回収したか？」
「はいですの！」
「――よし。ちゃんと持ってろよ。そして、口を開けるな。舌をかんだらいけない」
「はい？」
「それを守りながら戦闘離脱は大変だろう」
　はっしと抱え上げられる。これは、明らかに子供を扱いなれている人の抱っこの仕方っ！
「ボートまで一気に離脱する。呼吸の切り替えに気を付けなさい」　
　ほえという間もなく、ホンダワラのトンネルをかいくぐり、空中へ。そこからボートまでひとっ飛び。灰色狼宅急便は竜宮弊とノリアを迅速に回収したのだった。
　水面のボート上では夢心地とムサシが迫りくるホンダワラを刈り払っていた。上から押しつぶして水没させようとする保崎は上空からマリアが切り捨てた。
「え？」
　水柱が立つ破裂音にマリアは振り向いた。
　海から灰色の塊がホンダワラを突き破って飛び出してきた。
　ウェールとか替えられたノリアを刹那の速度で視認する。それに追いすがるホンダワラのが四方八方から伸びる上から抑え込まれたら逃げ場はない。
　即時にひかれる電磁レール。
　白雷式電磁投射砲・「雷閃葬華」。
　ホンダワラの胞子嚢一つ灰色狼に追いすがることもなく、焼き尽くされた。
　辺りにはオゾン臭が立ち込めた。
「私がからめとられたら遊撃の意味がなくなってしまうので、気を付けなくてはね」
　水面直下から忍び寄る触手が足元をかすめ、ボートに絡みつき、イレギュラーズたちの足場を不確かにする。
　海生生物と長丁場など悪手も握手。電撃作戦に限る。ご用が済んだら即離脱だ。
　ボートに絡みついたホンダワラを刈るべく、水中で行動できるイレギュラーが海中に飛び込む。
「ルーキスさんを　おねがいします……わたしだけ　さきにきてしまって」
　ノリアではルーキスを引っ張り上げるのは体格的に手間がかかるだろう。第一、ホンダワラに小さくかじられ続けた傷が思ったより深い。
「ルーキスの帰還ルートは上空から確認してきたよ。このあたりを通るはず。上から見ていたら、下からぼこぼこ動いていたからね！　間違いないよ！」
　上空からマリアが下りてきて、ガイアドニスにルートを示した。
「心配しないで！　おねーさん、水の中でも得意だし、泳ぐのだって上手なんだから！　そもそもおねーさん、ダイブ役なので！　ちょうどいいのだわ！」
　ガイアドニスがそういって潜っていった。

　ルーキスは水面を目指していた。
　ルーキスの視界から急にノリアが消えたが、突き出された腕はウェールの物だった。
　触手が待ち構えている海中を戻るよりも、空中を一気に離脱した方がいい。
　後は、ルーキスが離脱するだけだ。
　ホンダワラの動きは止まらない。竜宮弊を握った人魚事取り込めば何の問題もない、むしろ、握り献立の骨が加護になってより安定する。ただの植物にそんな志向があるわけもないが、ホンダワラに食われた骨が言っている気がする。
　オマエタチモナカマニオナリ。
　弱肉強食の海にそんな概念がある訳がないが、ヒトの想像力は一度思いついたらなかなか降り払えないものなのだ。
　ルーキスの視界に巨大な影がかかった。ホンダラ輪の基底部とも違う。光によって来た大型肉食魚か水生獣か！？
　振り向きざまに人達と思った鼻先に、ガイアドニスの笑顔があった。
　ニコニコしながらルーキスを4に武具をしっかり抱えるよう身振りをする。ルーキスが従うとガイアドニスはルーキスを抱え込んだ。そのまま一気に水面まで身をひるがえす。
「ただいまなのだわ！　ね？　ぱぱっとだったでしょう！　盾役のおねーさんがいない間、か弱い二人が心配だったのだけどふんばっててとても偉いわ！」
　傷つきやすくてすぐ怪我して死んでしまいやすいのに、なんてけなげに戦うんだろう。召喚されて早く手助けできるようになって本当に良かったとガイアドニスは思う。
「さあ、みんな帰るのだわ！」
　各々ボートに乗り込み、全速力でこぎ出した。
　殿を務めるボートの上。ムサシは、追いすがるホンダワラに正対した。
「最後にこれを持っていけ……っ！　ゼタシウムブレイザーッ！　Vッ！」
　かつての自分を超えていく改良技。相手をV字に切り裂き、残心と共に流し込んだエネルギーを爆発させる。
　ホンダワラの触手は切り裂かれ、爆発し、破片が辺りに霧散した。
　確かに切れた。

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「とんずらじゃ。早く戻って味噌汁を作らねばならんからの」
　夢心地がうそぶいた。
　これ以上に何かして、この基底部が見事なサンゴ礁の上に不時着したりしたら――観光資源保全、超大事。竜宮弊がなくなれば、寄ってくる生物も減って、いい感じな大きさに淘汰されるだろう。時間が解決してくれる。きっと。多分。
　ウェールは背後を振り返る。
　離れていくジャイアントサルガッソー。
（現場としては文句を言いたいが、高級リゾート地がぱぁになったら路頭に迷う人が出そうなんだよな）
　国家のメンツのかかったビッグプロジェクトである。人生賭けてる人たちも結構いるだろう。
　ウェールは現場労働者の哀惜を背負い込み始めた。
（血が繋がらないとはいえ二児の父親として、不幸になる家族はいない方がいいし――）
　息子たちよ。お父さんは毛並みびちょびちょにしてホンダワラ家に巻き込みながら頑張った！
「観光の時は、遠くから見るだけにした方が良さそうですねこれ……」
　ルーキスは呟いた。傷は皆ゲオルグが癒してくれたが、出来立ての柔らかい皮膚に海水はやさしくない。
　遠くからとか、空から見る分にはスペクタクルって感じだけど、近くで見るもんじゃない。骨だったし。それとも、骨に用がある人が来るんだろうか。需要と供給。
「なまがいいですの」
「乾燥したものも良いが、やはり生の味は格別よ。味噌汁をつくろうとな――」
「なまが　いいですの」
「――認めよう。だが、調理したものも捨てがたいぞ。誰ぞ調理に長けたものに知り合いは？」
　ボートのあっちとこっちからノリアと夢心地はホンダワラのおいしい食べ方について論議している。
ぽーっと警笛の音がした。迎えの船はすぐそこだ。

成否

成功

ＭＶＰ

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。竜宮弊は無事回収。ギガントサルガッソーも、メガ位に落ち着くでしょう。ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。