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シナリオ詳細

熱帯草原のレフェリー。或いは、奪われた騎士の遺体…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●熱帯草原のレフェリー
 1人の騎士が命を落とした。
 ラサの辺境、熱帯気候の草原地帯で野生の獅子と戦ったのだ。
 疎らに生い茂った草木と、背の低い樹木。
 草むらに伏せた肉食獣に、樹木の葉を食む大型の草食獣。
 それから、そこかしこに散らばった獣や人の白骨死体。
 肉食獣に喰らわれたのか、それとも飢えと渇きに命を落としたのか。
 どちらにせよ、白骨死体は負けたのだ。
 過酷な自然の世界において“生”とは無条件に享受できるものではないのだ。それらは、己の武力や知力を総動員し、勝ち取らなければならないものだ。
 先に述べた1人の騎士は、つまり敗者ということになる。
 騎士を討ち取ったのは、草原の一角を縄張りとする獅子の王だ。都合20を超えるメスと子を従えた、傷だらけの巨躯の獅子。そこらの魔物さえ蹴散らすという圧倒的な武力を聞きつけて、獅子は1人の従者を伴い、草原へと赴いた。
 討伐のためか、それとも腕試しのつもりだろうか。
 けれど、死闘の末に騎士は命を落としたのである。
「私は万が一、主が敗北した際に遺体を回収するよう言付かっておりました。ですが、死体は奪われたのです」
 憔悴した表情で、従者の男はそう呟いた。
 肩を落とし、項垂れて、震える両手で頭を抱える。
「長い槍を持った女だった。日に焼けた肌に伸び放題の黒い髪、身体中に木の実か何かで模様を描いていたように思う。そいつは獅子と主の決闘を、少し離れた場所から見守っていた」
 そして、騎士が命を落とすと同時に歩き出すと、獅子を槍で追い払い、遺体を引き摺って行った。当然、従者は主の遺体を回収しようと追いかけただろう。
 遺体を返せと言ったのだろう。
 だが、従者の願いは叶わなかった。
「私は一撃で昏倒させられ、気づけば草原の外に投げ捨てられていた。意識を失う直前、彼女に“お前は何者だ”と問いかけたよ」
 はぁ、と重たいため息を1つ。
「女の応えはこうだった……曰く“私は公平なレフェリーだ”」

●騎士の遺体を取り戻せ
「んあー! この暑い時期に、ずいぶん暑そうな場所へ行かされるんっすね?」
 そう言ってイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)はくっくと肩を揺らして笑う。
 まるで他人事のような口ぶりだ。
 事実、他人事なのである。
「さて、騎士殿の目的は不明っすけど……件の遺体泥棒の目的は、おおよそ2択と言ったところっすかね? 1つは取得物として騎士の遺体を回収していった。もう1つは、葬送のために騎士の遺体を回収していった。それとも別の目的があるんっすかね?」
 分からんっす。
 そう言ってイフタフは胸の前で腕を組む。
「女の方は長い槍を持っていたって話だったっすね。従者の話を聞く限りだと、随分な手練れのようだったっす」
 なにしろ女は、肉食獣のうろつく草原を槍1本で歩き回っているのである。
 腕っぷしが強いのか、感知能力が高いのか、それともそのどちらもか。
「従者殿が言って駄目だったんだから、素直に遺体を返してくれる気はしないっすね。ただ、会話には応じてくれたみたいっすけど……うぅん? 物々交換とかに応じてくれないっすかね?」
 その場合、交換物は何が良いだろうか。
 例えば、件の獅子の王はどうだろう?
「3メートル近い巨大な獅子っす。激闘を潜り抜けたのか、全身には幾つもの傷。爪や牙には【滂沱】と【ブレイク】、体当たりには【飛】と【崩落】ってところっすかね? それから、20匹からなる群れを率いているとかなんとか」
 獅子の群れにおいて、狩りをするのはメスの役目だ。
 オスの獅子の役割は、群れの存続を脅かす敵を追い払うことだ。
 獅子の王が勝負を受けたところを見るに、件の騎士はかなりの実力者だったのだろう。
「獅子の群れが暮らしている区画は分かるっす。でも、女の住処や遺体の行方は不明のまま……遺体が喰われたり、腐ったりしてしまう前に回収したいとこっすね」

GMコメント

●ミッション
騎士の遺体を回収すること

●ターゲット
・熱帯草原の獅子の王×1
3メートルほどの巨大な獅子。
数多の激闘を潜り抜けてきたのだろう。その全身には幾つもの傷が残っている。
獅子の群れは20匹ほど。
敵であれば獅子の王が、獲物であれば群れのメスが相手をするようだ。
※牙や爪には【滂沱】と【ブレイク】、体当たりには【飛】と【崩落】が付与される。

・長槍を持った女
日に焼けた肌に伸び放題の黒い髪、身体中に木の実か何かで模様を描いている女。
名前は不明、目的も不明、住処も不明。
長い槍を携えているところから、それを得物としているものと思われる。
獅子と騎士の決闘を見守っていたらしい。その後、騎士の遺体をどこかへ持ち去った。
遺体を奪われた従者曰く、彼女は「公平なレフェリー」を自称していたらしい。

●フィールド
ラサの辺境、熱帯気候の草原地帯。
疎らに生い茂った草木と、背の低い樹木ばかりが目立つ。
時々だが雨も降るらしい。
肉食、草食を問わず多くの獣が暮らしている。
草むらであれば伏せれば身を隠すことも可能だろうか。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 熱帯草原のレフェリー。或いは、奪われた騎士の遺体…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
ミリアム・リリーホワイト(p3p009882)
白い影
イルマ・クリムヒルト・リヒテンベルガー(p3p010125)
生来必殺
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ

●熱帯草原の掟
 からりと熱い、渇いた空気。
 背の低い草木と、疎らに生えた樹木が見える。
 ところどころに、動物の骨が転がっている。
 飢えたか、渇いたか、それとも獣に喰らわれたのか。
「公平なレフェリー……死体を戦利品とするならば、女が持ち去る必要はなく、その場で獅子に与えるべき……しかし、彼女はそれをせず持ち去った。はて、いったい何が起きたのやら」
 遠くの茂みに潜む獣を眺めつつ、『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は首を傾げる。
「流石に例の女が死体を四六時中引き摺り回してる、というのは考えづらい。だから住処にでも放置されているのだろうね?」
 マリエッタと肩を並べる『白い影』ミリアム・リリーホワイト(p3p009882)が、仄暗い笑みを浮かべてみせた。
 ラサの辺境、熱帯草原。
 イレギュラーズは、ある騎士の遺体を回収するためにこの地を訪れているのである。
 熱帯草原を縄張りとする巨躯の獅子に挑んだ騎士は、奮闘虚しく命を落とした。己の武勇を試すための戦いか、それとも危険な獣を駆除するつもりであったのかもしれない。
 どちらにせよ、騎士はこの地で敗者となった。
 そうなれば後は、遺体を持ち帰り然るべき手順を踏んで葬送するだけ。
 ところが、騎士の遺体は突如として現れた現地民らしき女性に奪い去られてしまったのだという。

 件の女は、自身のことを「公平なレフェリー」と称したらしい。
 その発言の意味するところは不明だが、彼女が何らかのルールに基づき騎士の遺体を持ち去ったのは事実である。
 つまり、まずは女を見つけなければ遺体の回収は不可能に近いということだ。
「死体泥棒とは随分行儀が悪いじゃないか」
 憤りを隠さぬままに『含牙戴角』イルマ・クリムヒルト・リヒテンベルガー(p3p010125)がそう告げた。
 とはいえ、憤りを向ける相手……つまり、件の女の姿は見当たらない。
 対面すれば、少しは事態も進むだろうが……例えば、交渉するにしても、まずは相手を見つけないことには始まらない。
「話ができるなら……お互い何を望み何を譲れないのかが分かるなら、交渉は可能なはずだが」
「そう簡単な話だろうか? 野に生きるものには野に生きる者の掟がある。レフェリー殿の登場を待つために、同じ状況を作るのが一番。ならば、獅子退治といくべきではないか?」
 マルク・シリング(p3p001309)と『葬送の剣と共に』リースヒース(p3p009207)が言葉を交わす。2人の視線は、草むらで寝そべる数匹の獅子に向いていた。
 どれもメスの獅子である。
 この一帯は、獅子の群れが縄張りとしている区画なのだろう。
 現状、見える範囲には騎士を殺めた獅子の王は見当たらない。
 それから、遺体を持ち去った女の姿も……。
 
 女も獅子も見つけられぬまま、暫くの時間が過ぎ去った。
「……まるで獣から身を隠す草食動物の気分だな」
 空を見上げて『獅子斬りの勇士』ルーキス・ファウン(p3p008870)がそう告げる。視線の先には飛竜が1匹。その背に跨る『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)が、ルーキスの視線に気づいて両手で「×」を描いて見せた。
 現状、ラダの方でも女や獅子の王の姿は発見できていないらしい。
「獅子連中からすりゃ俺らは縄張りを荒らす侵入者か、餌でしかねぇからな」
 そう言ったのは黒い獅子だ。
 現在、『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)とルーキスは獅子の群れへと姿を隠して接近中だ。
 獅子王へと勝負を挑むことにより、件の女を誘い出す心算なのだろう。

●公平なレフェリー
 1匹の雄を中心に形成された獅子の群れを“プライド”と呼ぶ。
 騎士が挑んだ大獅子の群れは、20匹ほどで構成された大規模なものだ。
 そして、獅子の世界において狩りをするのはメスの役目なのである。
「獅子王は騎士を『敵』として遇し倒した。獲物であれば群れの雌が相手するはずですし、獅子たちは騎士を食べようとしなかった」
 そう言ってマルクは右手を掲げる。
 嵌めた指輪が燐光を放ち、鐘のそれに似た音色を響かせた。
 視線を巡らせてみれば、茂みに潜んだメスの獅子が10数頭。襲って来ないと油断していたわけでも無いが、こと草原での狩りにおいては獅子たちに適うはずもない。
 気が付けば……というより、気づかぬうちに獅子の狩り場に誘い込まれていたという状態である。
「やはり獅子との戦闘を中心に動く必要がありますね。獅子さえ狩ってしまえば……ひとまずこの場は乗り切れるのですから」
 マリエッタが自身に付与をかけると同時に、数頭の獅子が駆け出した。
 動き始めた獅子は群れの半分ほど。
 残りは未だ周囲を取り囲んだまま……狩りのための包囲網を崩さないつもりだ。マリエッタが両の腕を広げると、刻印が赤く濡れたような光を放つ。刻印より溢れた血で鎌を形成し、跳びかかる獅子の眼前に突き出した。
 獅子は地面に爪を突き立て急停止。
 狙いをマリエッタの首から足元へと変えた。
「……っ判断が早い」
「餌として見られているのか……それとも、縄張りに立ち入った私たちへの警告か」
 そう言ってリースヒースは、獅子の眼前に黒剣を突き出す。
 獅子の牙が剣にぶつかり甲高い音が鳴り響く。
 爪に裂かれて、リースヒースの手首から血が飛沫いた。
 血を流しながら、リースヒースは体を反転。
 再度の放った斬撃は、獅子の爪に受け止められる。
 それと同時に、獅子は後肢で地面を蹴った。
「……っ!」
 メスとはいえ4本脚の獣である。
 衝撃で、リースヒースの体が揺れる。
 首と頭を庇うべく、リースヒースは剣を体の前へと翳した。獅子を迎撃するために、マリエッタが血を操作して、糸状に広げる。
 しかし、獅子はそれ以上の追撃をせずに跳び退る。
 刀を抜いたルーキスの存在に気付いたのだ。
「……獅子を倒す必要性をあまり感じないが」
 きっと、獅子も同じことを考えている。
 断続的な攻撃を加え、獲物たちの疲労とミスを誘っているのだ。

「獅子の王と騎士は一騎打ちを演じたそうだが……今回、獅子の王は現れないな」
 竜の背から草原を見渡しラダは言う。
 騎士は1人で獅子の群れへと向かって行った。
 一方、仲間たちは数名で纏まって獅子の縄張りへ踏み込んでいる。
 王が出張ってこないのは、その辺りが関係しているのかもしれない。
「騎士のせいか? 人の戦い方を理解しているようだが……まぁ、仕方あるまいな」
 そう呟いて、ラダはライフルの銃口を空へと向ける。
 装填した弾丸は殺傷力のない信号弾だ。

 空高くで閃光が散った。
 銃声を耳にした獅子たちが、一斉に空へ視線を向ける。
「撤退だ。支援する!」
 草むらに潜んだイルマが叫ぶ。
 信号弾に反応し、空を見上げた獅子の足元へ銃弾を撃ち込んだ。地面が弾け、土塊が飛び散る。
 銃声に怯んだ獅子がピタリと動きを止めた。
 それはつまり、包囲網に穴が空いたということだ。
「走って! 多少の傷は気にするな!」
 マルクの指示に従って、ルーキスとリースヒースが走り始める。
 ルーキスは刀を、リースヒースが黒剣を振るい、接近して来る獅子を牽制。
 イレギュラーズが包囲を抜ける。

 イレギュラーズが包囲網を抜け出した。
 獅子の群れは、積極的にそれを追い駆けることはない。
 集団を相手に戦うことのリスクを理解しているのだろう。
 だが、単独で草むらに潜んでいるイルマは別だ。
「……こっちには向かって来るのか」
 牙を剥き出し、爪を伸ばして、いかにも猫科らしい俊敏な動きで2匹の獅子がイルマへ迫る。
 牽制のために銃弾を放つが、獅子は素早い身のこなしでそれを回避。
 射線を迂回するようにして、左右から同時にイルマへ襲い掛かった。
「私を餌にするつもりか? 上等だ、蹴散らしてやる!」
 獅子の爪を肩と脚に受けながら、イルマは後方へと跳躍。牽制のために再び銃弾を放ち、獅子の動きを阻害する。
 しかし、2頭同時に襲い掛かられてしまえば、どうしても後手に回らざるを得ない。
 片方を牽制すれば、もう片方が距離を詰める。
 脚を銃弾で撃ち抜いても、獅子は一向に怯まない。
 すぐに命を取られることは無いだろうが、着実にイルマの傷は増えていく。
 もっとも、ダメージを負っているのは獅子も同様。
 否、ダメージ量でいえば獅子の方が重症に近いだろうか。
 そしてついに、獅子の爪がイルマの腹部を深く斬り裂き……イルマが地面に倒れ込む。
 トドメのつもりか。
 首を狙って、獅子が爪を振り下ろし……。
「ここの獅子は随分と強いね。危ないところだ」
1体の人形が割り込むと、獅子の顎へと蹴りを放った
「ここは命が次々に生まれて消える過酷な自然だ」。
 当然、敗者は喰われるし、孤高を気取っていては長く生き抜けない。
 唸る獅子の眼前に、ミリアムがゆっくりと歩を進める。
 獅子はミリアムを見やり、若干であるが警戒を解いた。
「自分達以外の、人間の居る場所を教えてほしい。今の生死は問わないよ」
 ミリアムが問う。
 獅子からの返事は無い。
 暫くの沈黙の末、獅子は視線を西へと向けて……踵を返して、群れの方へと戻って行った。

「獅子の王は出て来なかったね。例えばキミが、件の騎士より大きく劣るなんてことは無いと思うんだけど」
 そう言ってミリアムは、視線をルーキスへと向ける。
 武器を持った人間という括りであれば、イレギュラーズと件の騎士に大きな違いは無いはずだ。
「そうすると、相違点は我々と騎士の目的だろうか? 騎士殿ははじめから、獅子の王と戦うつもりでこの地に赴いたそうだからな」
「となると、少人数で勝負を仕掛けてみるのがいいかな? それと同時に、西の方向を探ってみよう」
 ラダとミリアムが言葉を交わす。
 先の一戦において、レフェリーを名乗る女は姿を現さなかった。
 獅子の王の出陣と、女の登場には、何らかの法則があるのだろう。
「だったら、俺ァ獅子の対応に回るぜ」
「では俺も。獅子への対応は任せてください」
 方針が決まれば、後は行動に移すだけ。
 ルナとルーキスは肩を並べて、獅子の群れへと向かって行った。

 獅子の群れの中央を、ルナとルーキスが突き進む。
 ただまっすぐに前だけ見つめる2人の歩みを、メスの獅子たちは阻まなない。
 威風堂々とした2人の様子から、何かしらの感情を読み取ったのか。
「さて、出てきますかね……そして、勝てそうでしょうか?」
「さぁな。テメェの方が強ぇ、そんな慢心はねぇ」
 ルーキスが問い、ルナが答えた。
 群れの中央で足を止めた2人の前に、巨躯の獅子が現れたのはそれから暫く後のことだ。
 傷だらけの獅子。
 騎士を殺めたプライドのボス、獅子の王だ。
 王は2人をじっと見やると、空へ向かって咆哮をあげた。
 ビリビリと空気が震える。
 王に呼応し、メスたちも次々と吠え猛る。
 気の弱いものならば、これだけですっかり委縮してもおかしくない。しかし、ルナもルーキスも平然とした様子で、獅子の王を真正面から見据えている。
 しゃらん、と。
 ルーキスは鞘から刀を抜く。
 王は姿勢を低くして、太い脚に力を溜めた。
 どうやら王は、たった1頭で2人を相手にするつもりらしい。
 
 獅子の王が咆哮をあげた。
 それは雄と雄の決闘の合図だ。
 咆哮を聞いて、女は穴を掘る作業を中止する。それから女は、地面に突き刺していた長い槍を手に取って走り出す。
 決闘には見届け人が必要だ。
 それが命を賭したものだというのなら、例え敗者であってもその名誉と誇りは護られるべきだ。
 生まれた時から、女はそうして過ごして来た。
 既に亡くなった家族たちも、女と同じようにしていた。
 いつか、どこかの戦士らしき男性は女のことを「公平なレフェリー」と称した。
 その言葉の意味するところは分からない。
 けれど、以来彼女は自分のことを、自分の役目を「公平なレフェリー」だと認識している。

 黒い獅子と、獅子の王がもつれるように地面を転がる。
 体格の上では獅子の王が優勢か。
 一方、ルナとルーキスは、速度と手数で獅子の王と見事に渡り合っている。
「……驚いた。奴がこれほど手を焼いているのを見るのは随分と久しぶりだ」
 なんて。
 男たちの決闘を、遠目に眺めながら女はそう言った。
 そんな彼女のすぐ近くには、都合6人のイレギュラーズが立っている。密猟者か何かだろうか……そんなことを考えて、女や槍を頭上に掲げた。
 獲物であれば、放置する。
 誇りと名誉のある者ならば、自分が勝負を見届けよう。
 草原の獣を狙う密猟者ならば、この槍でもって追い払う。
「……? なんというか、戦意のない者たちだな。どこかの部族の者か?」
 なんて。
 問うた女の眼前に、マリエッタが歩み出た。

●騎士の遺体
「こういう自らを“公平”だと思い込んでる奴には大体ロクなのがいないんだよねぇ……」
 そう呟いたミリアムへ、女はじろりと視線を向ける。
「なに?」
「……公平とは、良くない意味の言葉なのか? 以前、戦士らしき男より貰った言葉なのだが」
 はて? と首を傾げる女を一瞥し、ミリアムは肩を竦めてみせた。

「つまり、お前たちは先日の男を引き取りに来たのか?」
 そう言って女は、長い槍を地面に刺した。
 自分たちとは異なる文化を持つであろう女との会話には難儀したものの、どうにかイレギュラーズの目的は伝わったらしい。
「此度の屍は届けるべきところに届けねばならぬ」
「届けるべき場所とは、この地ではないか? あの者はこの地で命を落としたのだ。本来であれば野に放置して喰われる時を待つばかりだが……誇りと名誉を重んじて、私が墓を作っている。それで良しとすべきではないか?」
「……なるほど」
 リースヒースは口下手だ。
 視線を横へ……マリクへ投げた。
「獅子たちにとって、件の騎士は獲物だった……というわけじゃ無いのだよね?」
「あれは狩りではなく決闘なのでな。獅子たちは、名誉ある死を迎えたあの男を喰わない。あそこで戦っているお前たちの仲間も、死して喰われることは無いだろう」
「……お前が遺体を葬ることを、獅子たちは認めているのか? 獲物を横取りにしたと、そう思われているなんてことは?」
 マリクの言葉を引き継いだのはラダだった。
 女は少し思案して「それは無い」と断言した。
「獅子たちとの取り決めでそうなっている。決闘の果てに散った命は、獅子たちに代わり私が葬るとな」
「なるほどな……しかし、遺体は近しい人々に弔わせてやって欲しいのだが」
 いざとなれば実力行使で遺体を奪い去るしかない。
 ラダとマルクは、それぞれの得物に手を伸ばす。
「そうだな……獅子の王に勝って、それを伝えたらどうだ? 獅子たちに力を認めさせ、獅子たちがそれを許すなら、遺体をお前たちに託そう」
「そうか。であれば、僕らは殺さずに勝つ。その形であれば、十分に力を見せた事になる筈だ」
 そうと決まれば、後は獅子に勝つだけだ。
 ルナとルーキスが勝利して……獅子との交渉はミリアムに任せればいいだろう。

 王の爪がルナの側頭部を裂いた。
 ルナの体が地面に倒れ、砂埃が舞い上がる。
 その首を足で踏みつけながら、獅子の王は視線をルーキスへと向けた。
「かつて『獅子王』と呼ばれる魔種と会った事があったが……こちらは本物の獅子か。野生の力がこれ程とはな」
 2対1という人数の差を、王は微塵も己の不利とは思わない。
 そもそもの話として、獅子の狩りがそういうものだからだ。
 ルナの頭部から流れた血が地面を濡らす。
 王の全身も傷だらけ……2振りの刀を構えながら、ルーキスは熱い息を吐く。
 疲労はそろそろ限界だ。
「……いざ、勝負!」
 地面を蹴って、ルーキスは駆けた。
 迎え撃つべく、王が牙を剥き出しにする。
 ルーキスの放つ斬撃は2つ。
 1つを王は鬣を駆使して受けきった。
 続く2撃目。
 爪で捌いて、ルーキスに牙を突き立てる。
 そんな未来をルーキスは瞬時に予見した。
 けれど、しかし……。
「悪ィが、死ねねぇんだわ」
 倒れていたはずのルナが、地面を四肢で強く叩いて跳びあがる。
 反動で王の姿勢が傾いた。
 その鼻先へ、ルーキスは刀を叩きつけ……王の眉間から血が飛沫く。
「結果は潔く受け入れろ。二度と貴公らと殺し合うつもりはないが、騎士の亡骸は返してもらう」
 王が倒れ伏すと同時に、イルマの声が草原に響く。

 交渉の末、騎士の遺体はイレギュラーズに引き渡された。
 ルーキスの前へ首を差し出し、王はぐるると唸りをあげる。この首を落とせとそう言っているのだろう。プライドのメスたちは、悲しそうな目でその様子を見守っていた。
「……そう熱くなるなよ。俺もアンタも、お互いそんな青臭い若造じゃねぇだろ」
 守るべき群れがそこにいる。
 そんな王を殺める気にはなれないと、ルナは静かに首を振る。
 感謝の意を示すためか……獅子たちは咆哮をあげ、ルナとルーキスを見送るのだった。

「お前たちは信用できそうな気がするな」
 まずはラダを、次にリースヒースを、そして最後にマルクとマリエッタへと視線を向けて女は言った。
「ンゴロンゴロ・ウィーだ。草原に来ることがあれば、歓迎しよう」
 なんて。
 そう言ってウィーは、3人の手を握るのだった。

成否

成功

MVP

ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

状態異常

ルナ・ファ・ディール(p3p009526)[重傷]
ヴァルハラより帰還す
イルマ・クリムヒルト・リヒテンベルガー(p3p010125)[重傷]
生来必殺

あとがき

お疲れ様です。
騎士の遺体は無事に回収されました。
また、草原の獅子と“公平なレフェリー”との間に交流が生まれました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば別の依頼でお会いしましょう。

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