シナリオ詳細
亜竜種アーティスト、新しい絵の具を欲しがる。
オープニング
●亜竜種アーティスト、今日も暴れる
「うごあああああああ!!! 絵がかけねぇぇぇえぇっぇええええ!!」
頭を抱えて、亜竜種が部屋の中を飛び回った。突如として空中で回転、そのまま四つん這いに着地し、かさかさと家庭内害虫みたいな動きで部屋の中を駆けずり回るや、キャンバスにしている石板に頭突きをかました。ばきり、と描きかけの絵の描かれていた石板がへし折れ、亜竜種の女性――自称アーティスト、自称リン・チューニルが額から血を流しながらのたうち回った。
「痛い! 思った以上に! 痛い!!!」
「ねーちゃん馬鹿なんじゃねーの」
と、窓の外から亜竜種の少年が声をかける。ここはフリアノンからは遠い、田舎の集落。日々人は生きるのに精いっぱいで、アートを楽しむほどの余裕はないような、そんな場所。
そこでアートを嗜むリンは間違いなく変人であり、そうじゃなくても変人だった。そんな変人の家に通う少年もまた少し変わっているようだったが、まぁリンほど変ではない。
「少年! いたのか!」
「かーちゃんに野菜もってけっていわれたんだよ。おすそ分け」
「ありがてぇ~~~~! ねぇ、キャベツって絵の具になる!?」
「ねーちゃん、キャベツくわねーで絵具にしたら集落長にチクるかんな」
そういう少年に、リンがぐわーって叫んだ。
「やめて! ただでさえ目をつけられてんのに! ギリギリの綱渡りをいつもしてるの! ぎりぎりで! いつも! 生きてるの私!!!」
「しらねーよ、所で今度は何で絵が描けねーの?」
少年がめんどくさそうに尋ねるのに、リンはこくこくと頷いた。
「前回サァ、トルマリン・ワイバーンの絵の具でイレギュラーズの絵を描いたじゃんか? あれが傑作でね!!!
なんかラサ? とか言う所の商人とパイプのあったイレギュラーズの人が持っててくれて、それでそこそこ? 評判で? 私もやる気でてきちゃって? それで一枚絵をかいてまた売り込みに行ってもらおうかなー、って思ったんだけど?」
「だけど?」
「描けねぇ~~~~~~~~!! あの傑作を! 越えられないッ!!!!」
ずがんずがんとリンがベッドに頭を打ち付けた。布団はともかく、マットレスは石なのでくそ痛かった。
「ねーちゃん死ぬよ?」
「死ぬ! このままじゃ絵が描けなくて死ぬ! 知ってるか少年、絵描きにとって絵を描くのは呼吸なのだ!」
ぐわー、と自らの首を締めつつ、リンが叫んだ。少年はめんどくさそうに首をかしげると、
「じゃー、あれじゃない? また新しい絵の具でインスピレーション? とかいうの? やればいいんじゃないの?」
そういう少年に、リンはくわ、と目を見開いた。
「天才か……?」
「ねーちゃんが馬鹿なんじゃねーの……?」
●亜竜種アーティスト、イレギュラーズに依頼する
「えーと、また絵の具を探したい……のかな?」
そう尋ねる秋霖・水愛(p3p010393)に、リンは頷いた。リンの部屋には、大慌てで設置されたイスとテーブルがあって、そこに水愛を始めとした八名のイレギュラーズが座っていた。
「そうそう! 前の時はありがと! おかげでめっちゃ助かっちゃった!」
がくがくと頭を下げるリン。そのままコーヒーをカップに入れてイレギュラーズつに勧めた。
「あ、おいしいコーヒーなので飲んで。多分そのコップ、筆洗にはしてない奴だから……」
「はぁ……」
水愛は苦笑しつつ、コーヒーを口に含む。ちゃんとしたコーヒーだった。
「でねでね、今回はまた外に出たいわけなのよね。で、絵の具になりそうなブツを見つけたい!
欲を言えば! ワイバーン2,3匹仕留めて鱗剥いで絵の具にしてぇ~~~~~! って思ってるの!」
リンがそういう。ワイバーン2,3匹、とは大きく出たところだが、イレギュラーズの力を信じている……という事なのだろう。リンの瞳は、年齢に似合わず、子供のようにキラキラとしていた。
「……まぁ、無理してワイバーン捕まえてとはいわないけど。私の気分転換? も兼ねて、外出たいのよね!
そこでみんなの出番ってわけ! 皆はやっぱりスペシャリストなので! お願いしたいッ!」
ぐわん、と頭を下げたので、水愛は苦笑した。
「ええと、わかったよ。とにかく、今回は護衛のお仕事、だね」
水愛の言葉に、仲間達は頷く。
とにもかくにも、これも人助けだし、正式な依頼だ。断る理由もない。
にこにこと笑うリンを見つつ、水愛たちはさっそく、護衛プランを練るのであった――。
- 亜竜種アーティスト、新しい絵の具を欲しがる。完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年07月31日 22時07分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●亜竜種アーティスト、再びお外に出る。
「うひゃっほーーーーい! 久しぶりのお外だぜーーーい!!!」
とか叫び出しながらリン・チューニルが吹っ飛んでいきそうになったので、『雨に舞う』秋霖・水愛(p3p010393)はリンの首根っこを掴んだ。
「だめだよ」
「ひゅんっ」
リンが奇声をあげる。ダメである。
「くぅ、この感覚、久しぶりだわ……ふふふ、久しぶりだねぇ、水愛くん! また依頼を受けてくれてめっちゃ嬉しい! イズマくんもそうッ!」
びしっ、と指さすリンに、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が苦笑する。
「相変わらずみたいだね。でも、元気そうで何より」
「おう、元気! まぁ、スランプ中なんだけどね……」
どんよりと肩を落とすリンに、イズマは笑った。
「誰にでもそういう時はあるよ。とくに芸術塚なんて、出力を続けないといけないからね」
「当然だし続けると出がらしになっちゃうからねぇ。アウトプットしたらインプットしてぇのさ!」
リンがそういう。水愛がふふ、と笑った。
「前のワイバーンの鱗、いいインプット? って奴になったのかな?」
「もちもち! おかげでめっちゃいい絵が描けた!」
わーはっはは、と笑うリン。どうやら、絵に関してはさておき、体と心は健康そのもののようだ。
「というわけで、今回も刺激とインプットがてら、新しい顔料を探したいってワケ」
「うむ。新しい色を希求する……その気持ち、わかるぞ」
うむうむ、と頷く『殿』一条 夢心地(p3p008344)。
「芸術家が『色』にこだわるのは当然のことよ。
麿も陶芸を嗜むが、望む色の為に釉薬を探し求めたことは一度や二度では済まぬ」
「え、殿くん陶芸できんの? すげーい! 陶芸の表現する『色』もほんと独特って言うか。私達の使う表現とは違う色合いが出んの。魔法みてー、って思うわ!」
「うむ! やはり芸術を嗜むモノ。ジャンルは違えど分かってくれるか!」
「わかるよー! 今度殿くんの作品みせてくれ~! いい刺激になりそう!」
「ほっほっほ、よいぞよいぞ!」
上機嫌の二人に対して、苦笑してみせるのは『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)だ。
「芸術、かぁ。私、絵の方は苦手なんだよね」
音を愛する精霊種たるアリアだ。その歌声は最上のものだが、絵の方はあまり得意ではないらしい。
「え、そうなん? じゃあ、一緒に描いてみる? おしえるよー!」
カバンからスケッチ用の軽い石板を持ち出し、リンが言う。
「まずこう……ばーって世界を捉えるじゃん? したらとくに描きたい所に注視して、そいつと世界のバランスを考量してキャンバスの上に生み出してくわけよ」
「う、うん……」
アリアが真面目な表情で聞いているのへ、『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)が嘆息する。
「感覚で描いている系の教え方だな……あまり参考にならんかもしれんぞ」
「あはは……でも、リンちゃんのお話、興味があるよ。
リンちゃんが捉える世界は、どんな風に見えてるのかなぁ、とかね」
アリアの言葉に、ジョージが頷く。
「独特なのは確かそうだな」
「うん、独特って言うか……リリーにもわかるよ、ほっといたら大変な事になりそうなタイプだって」
苦笑しつつそういうのは、『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)だ。
「だから、護衛……というか、お守りというか……」
リリーの言葉に、皆は頷く。子供のお守りに近い感覚かもしれない。
「そうだ、出発前に」
そう言って、『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)がカバンから何かを取り出す。
「とりあえずこれをあげるよ。ワイバーンの鱗が絵具になるなら、
竜の鱗も良い絵の具になりそうだしね、特にこの竜だと」
そう言って差し出したのは、とある『竜』から零れ落ちた鱗である。
「竜……間違いない、亜竜とは違う色だ……!」
流石のリンも、その竜の鱗という事実には、畏怖と敬意を抱いてしまうのだろう。先ほどまでの賑やかなテンションはどこへやら、静かに黙りこくり、恐る恐る、破片七晶石を手に取る。
「……炎、いや、もっと怖い赤だ……でも赤だけじゃない、違う変色も感じる……何だこれ……」
「うん、しばらく観察しているといいよ。草原までは、ちゃんと連れてくから」
そう言って、リンの片手を握る。リンはすっかり竜の鱗片に魅了されたのか、ぶつぶつ呟きながらそれに見入っている。
「……狙ってやってたわけじゃないけど、期せずして、しばらく静かになりそうだね」
Я・E・Dの言葉に、『希望の星』燦火=炯=フェネクス(p3p010488)が笑って頷く。
「そうね。とりあえず、目的地までは黙っててくれそう。
……でも、変な人だと思ってたけど、やっぱり芸術家なのね。
凄い集中力……」
まるで自分の世界に入っているようなリンは、しばらく戻ってこないだろう。燦火は感心半分、呆れ半分でそう言いながら、
「じゃ、引っ張って目的地の草原の方にいきましょうか。
皆、警戒、充分にね。亜竜が出てきても、おかしくはないはずだから」
その言葉に、皆は頷く。かくして、亜竜種アーティストにインスピレーションを与えるため、些か危険な散歩ははじまったのである――。
●草原のアーティスト
「さて、じゃあ、ここから」
と、イズマがあたりを見回す。此処は草原。そのまま少し遠くへ視線を移せば、森が見える。
「あそこの森まで行こいう。大体、それ位で色々見つかるんじゃないかな?」
「おっけー! ふふ、なにがみつかるかな~!」
子供のように笑うリンに、リリーはくすくすと笑う。
「気をつけてね! しっかり守るけど、それはそれとして、自分でも注意する事!」
リリーの注意に、リンは「はい!」と大きく返事をする。
「本当にでっかい子供って感じだな……」
ジョージが苦笑する。
「さておき、どんなものが、顔料に適しているんだ?」
尋ねるジョージへ、リンは頷いた。
「そうだねぇ、例えば変わった色の石とか、花。草木もそう!」
「あとは、昆虫なども使えるのじゃぞ」
夢心地が声をあげる。
「昆虫、って、虫? 絵の具になるの?」
燦火が尋ねるのへ、夢心地は頷く。
「大体の顔料はそうじゃが、乾燥させて砕いたり潰したりしたものじゃ。昆虫も顔料として利用されてきた歴史があるのじゃ。他にも、動物じゃったり。想像しやすいのは、リンも言っておったが、鉱石や花、草木じゃな」
「おお、殿くん博識だね。よく知ってる!
そう、昆虫も使ったりするよ。それを、溶剤で溶いたのが、皆が想像する絵具になるの。
私は『亜竜の唾液』って呼ばれてる樹液と油で溶いて、油絵具みたいにして使ってるのね」
「へぇ、そうやって作るんだ。
えーと、じゃあ、花とか虫とか、そっちを探した方がいいのかな?
集落だと、鉱石とか土、石の方が身近でしょ?」
燦火の言葉に、リンは頷いた。リンの集落は、洞窟に築かれたタイプのものだ。
「うん! あ、でもいい色してるのあったら教えて! 場所によって、石とか土も全然違うからね!」
「そうだね。楽器も、少し作られた場所や素材が違うだけで、随分と音が変わることがある」
イズマが頷く。
「そこはこだわりたい所だよね……音色の柔らかさが違うだけで、音楽も随分と表現したいことが変わるんだ」
「そうだね。優しい音、勇敢な音。作られた音楽にあった演奏って、重要だからね」
アリアがうんうんと頷くのへ、リンが「ほほー」と感心した声をあげる。
「やっぱり同じ芸術家どうし、こだわりたいよね! そう、空を演出するにも、いろんな『青』がある……!」
「うん! 歌や音も一緒だよ! 声、演奏、全然変わって来るの……!」
「あー、芸術家同士、シンパシーもあるんだろうけど」
Я・E・Dが苦笑した。
「此処でやったら日がくれちゃうよ。そうなると危ない。
みんなでお話しててもインスピレーションは得られるだろうけど、今日は散歩をしよう」
「おう、ごめんねЯ・E・Dくん! おっしゃる通りだぜい!」
リンががくがくと頭を下げた。
「じゃあ、早速いこうか!
……あ、おとなしくしてるから、水愛くんは首もとから手を離して……」
「ふふ、じゃあ、ゆっくり行こうね?」
そう言って、水愛は笑った。
草原には、やはり多くの花や草木の類がある。そう言ったものを一つ一つ確認しながら、皆は散歩の感覚で、路を歩く。
「じゃあ、せっかくだし色々と材料を探してみようか。
植物と鉱石も良いけど、虫も絵の具の材料になるんだよね」
Я・E・Dがそういうのへ、リンが頷く。
「あ、でも変な虫触る時は、手袋してね! わたしも刺されてめっちゃはれたりするから」
「それは、確かに」
ふむふむ、とЯ・E・Dが頷く。
「虫、か。甲虫の類か?」
ジョージが言うのへ、
「後は、カタツムリみたいな……貝類だよね」
「貝、か。そう言えば、海洋からいくつか貝を持ってきている」
ジョージが荷物袋から取り出した、小さな袋。その中には、色とりどりの貝殻が入っている。
「うおおお! すげぇぜ! なんだこれ!」
リンがその中を覗き込む。
「ああ、海洋じゃあ一般的な貝だけどな。こっちじゃ珍しいだろ?」
「うん! すごいなぁ、外はこんなのがあるんだ……羨ましいぃ。
私も海みたいー!!」
「前も言ってたよね。気持ち、分かるなぁ」
水愛が笑う。
「だよね! 水愛くんはうらやましいなぁ。もう他の国には行ったの?」
「まだまだだけど……この間大事件があった、深緑にはいったよ。
でも、大変な時だったから、のんびりはできなかったけれど……」
「あたしも外には出たわよ! 幻想、鉄帝……シレンツィオにも!」
燦火がそういうのへ、リンが驚いた顔をした。
「海か! いいなぁ。どうやってイレギュラーズってなるんだ? 二人ともインゲン豆食べられるの?」
「逆にアンタ、インゲン豆食べられないの……?」
苦笑する燦火。三人娘がきゃいきゃいやりつつ、一行の散歩は進む。やがて森に到着した時に、リリーが、ふと声をあげた。
「……気をつけて。気配を感じる。大きなのが飛んでる音……」
「まさか、ドラゴン……じゃないよね。此処は安全ルートのはずだし」
Я・E・Dの言葉に、皆は頷く。此処にドラゴンが出るはずがない。だが、巨大な物体が空を飛んでいるならば、それは間違いない――。
「ワイバーンだ。警戒を」
ジョージが言う――同時! 空から飛来する、二つの影! さらに間髪を入れず、巨大な影が木々を粉砕して飛び込んでくる!
「三体……! 陸生種が1に、通常種が二体!」
イズマが叫んだ! そう、現れたのは、フレイムナックル、ディープデプス、アイスブルー、三体のワイバーンだ!
「ええっ! 顔料が三種類も!?」
リンが飛び跳ねて喜ぶのを、流石にイズマが制した。
「いや、流石に警戒して! まだ危ないよ! ステイ!」
「くぅーん」
流石にいう事を聞くリン。とは言え、テンションの上下は激しい人なので、警戒はした方がいいだろう。
「三体か。事前調査通りだな。ならば、此方も予定通りに対処すればいい」
慌てた様子などは一切なく、ジョージが言う。他の仲間も、もちろん警戒はしているが、慌てた様子はない。情報屋の事前調査ならば、三体のワイバーンが徘徊しているという事は齎されていたからだ。
「ジョージ君は青い奴を抑えて! 私は紫のを抑えるから、その間に皆は、赤い奴からやっつけて!」
アリアの声に、仲間達は頷いた。
「よし、リンとやら! 教えよう。
職人がスランプに陥る原因として、使う道具に問題がある場合が一点。
そしてもう一点は、表現したいと思えるモチーフが無いというもの!
そうであれば、此度のこの、一条夢心地の活躍を描けば良い!!!」
なーっはっはっは! と笑う殿! 「おお!」とリンは叫んだ。
「楽しみにしてる! 頑張れ殿くん!」
がっ、とスケッチ用の石板を構えるリン。それを満足げに見やりつつ、夢心地が叫んだ。
「行くぞ皆のもの!」
言葉に応じ、イレギュラーズ達が跳ぶ! 紫のワイバーンが毒のブレスを吐き出すのを華麗に回避しながら、アリアは勇敢にその前に立ちはだかった!
「ふふん、私もBSの使い手だからその対策もばっちり! かかっておいで!」
にっこりと笑うアリア。紫がブレスを吐き出すのを回避しつつ、冷気の礫で応戦する! 一方で、青のワイバーンと相対するジョージが、大刀を抜き放ち、青に斬りかかる!
「お前はこっちだ」
振り下ろされる斬撃が、青を叩いた! ぎゅお、と悲鳴を上げる青が、ジョージを睨みつける――。
そんなヒリついた空気の中、かちん、と音がする。赤のワイバーンの手の骨がぶつかり、激しい火花を散らしたのだ。それは、重い一撃を想起させるに充分な迫力を持っている!
「Я・E・D! 援護を頼むぞ!」
「了解。
えっと、たしか鱗はあんまり傷つけない方が良いんだよね?
翼とか足とか頭とか、あんまり鱗が無さそうな場所を狙った方が良いかなぁ」
そう呟きつつも、その瞳は鋭く敵を覗き込む。間髪入れず放たれた銃撃が、赤の腕、被膜を貫いた! 間髪入れず二発目! ばち、と貫かれた翼、赤は悲鳴をあげつつ、その拳を振り下ろす! まるで爆発したような衝撃が、あたりに響いた。強烈な一撃! その衝撃に耐えつつ、夢心地は刃を振るう!
「ち――ぇぃ!」
呼気一閃。閃く東村山が、赤の首を切断。赤の首がするり、と滑り、どすん、と落下。その音を合図にしたように、リリー、そしてイズマが奔った。
「青い奴を狙うよ!」
「了解だ!」
ジョージが激戦を続ける青へ、二人は飛び込む。青と、青。期せずして到来した、イズマとワイバーンの対峙。
「なんだか、青いワイバーンに縁があるのかな……!」
ぼやくイズマ。一方、リリーは複数種のBSを、まるで絵の具を塗り重ねるように、青へと叩きつける。
「一杯塗って塗って――そしたら黒くなっちゃうかもって?
いいの、そうしたら、この一撃で――!」
放つ魔道銃、銃弾に込められた呪力が、BSの威力を受けて激しく爆発した! 内部から叩きつける、呪殺の一撃! キラキラと光るのは、漏れ出る魔力の残光か。
「弾けて、消える! そう思うともしかしてBSって芸術……な訳、ないよねっ、うん」
えへへ、と笑うリリー。一方、青の生命力は高い。だが、止めのイズマが、細剣と共に飛び込んだ。
「正々堂々、狩りをしよう。その綺麗な鱗をいただくよ!」
振るう剣に魔力の衝撃を乗せて、叩きつけられた一撃が、青の息の根を止める。きゅお、と悲鳴を上げた青が、ずしん、と森に倒れ伏した。
「水愛! リンを守ってて! 最後の一匹はあたしがきめるわ!」
燦火の言葉に、水愛は頷く。
「はい! リンさん、ダメでーす、ステイステイ。
燦火さん、援護を!」
水愛の号令を受けて、燦火が跳ぶ。察知したアリアが、此処がキメ時とばかりに、魔力の奔流を、上段から紫へと叩きつけた。堕ちた紫が地面に押しとどめられるのを、
「今!」
「おっけー!
運が悪かったわね。その鱗、置いていきなさい!」
叫びと共に放たれる、蒼の奔流! 空の大気のマナが、とめどない濁流となって、紫へと押し寄せる! その強烈な奔流は、ワイバーンとて耐えらえるものではない!
二人の連携に、紫はその生命を絶たれるのであった――。
●亜竜種アーティスト、満足する
「うっひょー! 大漁の鱗だぜ~!」
ばっしばっしと、ワイバーンから鱗をむしり取るリン。
「そういえば、私の鱗も絵の具になるのかな……?」
小首をかしげる水愛に、燦火は、
「確かに、鱗だし……いや、あたしは嫌よ? 絶対!」
と尻尾を抱きしめるように言う。リリーは笑いながら、
「じゃあ、リョクのはどうかな?」
というのだが、ワイバーンのリョクは、嫌そうに「クゥ」と鳴くのみである。
「鱗だけじゃなく、他の部分も使えない? 爪とか、被膜とかさ」
Я・E・Dがそういうのへ、リンは頷いた。
「なるほど、天才か~~~? ちょっと採取しておく!!」
そんなようすに、苦笑するようにイズマが、
「満足いただけたなら良かったよ。それからこれも、プレゼント」
と、真っ白な布キャンバスを差し出す。リンの顔が、花咲くようなそれへと変わる。
「え、え、マジで? こんないいの? 貰っちゃっていいの?」
「ああ。石板だけじゃなく、いろんなものに描いてみたいだろ?」
そういうイズマへ、リンは笑った。
「ありがてぇぇ~~~! これ、とっておきの時に使うね!
そう、イズマくんを描くときとかさ!」
そう言って笑う。
「ん~……できた、かな?」
と、アリアが声をあげた。手にした石板と筆は、リンから借りたものだ。
久しぶりに絵をかいてみたい。そういうアリアに、リンは道具を貸したのだが。
「どれどれ、見せて?
おお、おお、よくできてるじゃん!」
本心から褒めているのが分かったのだろう、リンの言葉に、アリアは恥ずかしげに笑った。
「ほんとに?」
「うん! めっちゃ怖い! さっきのワイバーンでしょ?!」
その言葉に、アリアが恥ずかし気に目を伏せた。
「……それ、猫……なんだけど……」
「えっ」
リンが固まる。その様子に、皆は思わず、笑い声をあげるのだった――。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
皆さんのおかげでスランプを脱した彼女は、また素敵な絵を描いているようです――。
GMコメント
お世話になっております。
自称亜竜種アーティスト、リンのお願いを聞いてあげてください。
●成功条件
リンが満足するまでお外で絵具の素材集めをする
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●状況
リン・チューニル。自称アーティスト。スランプに陥った彼女は、気分転換と絵具の具材集めに、外を散歩したい、と言い出しました。
もちろん、覇竜領域は危険な場所。イレギュラーズでもないいち亜竜種のリンには、外に出るのは難しい……。
というわけで、皆さんに護衛をお願いしてきました。
皆さんは、リンを守りつつ、一緒に絵の具の材料になりそうなものを探してあげてください。
もちろん外なので、ワイバーンの襲来も充分に警戒してください。メタ的な事を言えば、ワイバーンには遭遇するでしょう。戦闘の準備はお忘れなく。
作戦決行タイミングは、昼から夕方にかけて。作戦エリアは、集落付近の平原、森などになります。絵の具の具材になりそうなものは、木の実や木の葉、草や石片など。また、外から持ってきた具材などにもリンは興味津々なので、外の植物や、絵の具そのものをもって行ってあげたりすると喜ぶでしょう。
●エネミーデータ
フレイムナックル・ワイバーン ×1
燃える赤い鱗をした、陸生種のワイバーン。翼は強烈な『拳』に進化しており、獲物を殴り殺して捕食します。
前述した拳の一撃はすさまじく、『飛』や『ブレイク』を持ちます。
攻撃力は高めですが、反面防御面ではやや弱いです。一気に攻めてしまいましょう。
もちろん、鮮やかな色の鱗に釣られて、リンが飛び出していかないようにご注意を。
ディープデプス・ワイバーン ×1
深い紫色の鱗をした、飛空種のワイバーン。常に毒の瘴気に覆われており、その毒で以って獲物を狩ります。
BSによる搦め手を得意としており、『毒』系列や『痺れ』系列、『窒息』系列のBSを、様々な攻撃によって付与してきます。
しつこく戦場に居座るタイプです。BS解除の手段を用意すると、楽に戦えるでしょう。
アイスブルー・ワイバーン ×1
冷めた青い色をした、飛空種のワイバーン。シンプルなワイバーンで、凍り付く青のブレスが得意。
神秘系の、ブレスを多用してきます。攻撃範囲が広いほか、『凍結』系列のBSも付与してくるでしょう。
上記三種が、草原か森、どちらかで群れなして襲い掛かって来るでしょう。
常に警戒は怠らないようにしてください。
●護衛対象NPC
リン・チューニル
エキセントリックな亜竜種の自称アーティスト。まだらに染めた長髪が印象的。
亜竜種の伝統を古いものだと考えており、あえて変わった言動をしている……と言っていますが、多分根が面白い人です。
絵のことになると早口になるタイプ。
戦闘能力はないので、しっかり護衛してあげてください。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
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