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シナリオ詳細

借金のカタにマグロを釣りに行かされる依頼

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●借金のカタにマグロを釣りに行かされる依頼ってなんだよ
 突然だがご想像いただきたい。
 ニワトリ頭の男が左右の目で別々の方向をぼんやり見つめながら半笑いの顔で舌を出し、おもむろに黄金虎柄ジャケットの内側から折りたたみナイフを取り出す様を。
 片手で器用にパチンと刃を出すと、やけに穴だらけのテーブルにパーにした手を押しつける。
 自分の手をではない。海パン一丁の咲々宮 幻介(p3p001387)の手をである。
 そしてどこを見ているのかわからない顔のまま、刃を彼の指と指の間に高速でタカタカタカタカやりはじめた。
 今まで敵をみじん切りにしてきた剣豪幻介といえど、このぬめっとした質の恐怖にふるえ、そしてその震えにすら恐怖していた。
「いつかなァ、こうなる日が、また来ると思ってたんだよ」
 テーブルの向かいの席にはシラス(p3p004421)。
 それも、海パン一丁のシラスが両手を膝に置いたまま幻介の指がまだ五本あってよかったなー(可能な限り前向きな表現)て考えながらタカタカを見つめている。
 そんな彼の肩に、先ほど囁いた男が手を置いた。
 ヌッと肩越しに顔を出し、その牛頭鬼めいた牛頭でシラスの横顔を覗き込む。
 歯を見せて笑顔をつくるが、笑みの形を作ったのは口元だけだ。ギザギザの白い前歯がのぞく。
 彼はミノザウワー。混沌ヤミ金融ミノファイナンスの社長である。
 ちなみにさっきから無言でタカタカやってるのはミノファイナンスの社員にして取立人のトリヤマである。
「この島のことは知ってるな? いま世界で最も多くの金が交わる島だ。ここじゃあ石を投げれば金持ちにあたる。そこらじゅうにカジノがたち、そこらじゅうに高級ホテルが建つ。欲望を持て余した奴らは金でなんでも買おうとする。シラス……お前……」
 肩に置いた手がゆっくりと腕をつたって下りていく。
「『そっち』の仕事に興味は」
「ないです」
 シラスが普段ださない声と口調で答えた。秒だった。
 一秒ほど間を置いてから、ミノザウワーは幻介に顔を向けた。
 すっげえ顔のパーツを中央によせ、ぷるぷると首を横に振る幻介。
 そしてミノザウワーは『だよな』と言ってから……夢野 幸潮(p3p010573)にも顔を向けた。
 全員の視線が幸潮へ移る。
 穴だらけ(穴の理由はさっき実証済み)のテーブルにコトンとビールの缶を置き、全員の顔を一通り眺める幸潮。
「いや、そもそもなんでこの場にわしがいるんじゃ?」

 背景を説明しよう。
 借金まみれの男こと幻介&シラスは、ローレットは島の英雄だからカジノに行けばVIP待遇で儲けさせてくれるというありもしない噂を信じて大金をベットし結果として海パン一丁となった。
 『絶対勝つから! 倍にして返せるから!』とミノザウワーたちに金を借りていた彼らは、その返済のためにシレンツィオリゾート無番街にある酒場へと連れ込まれていたのだった。
 世界の富が集まるシレンツィオリゾートの、影の部分。無番街は富という強い光によってできた濃い影だ。アウトローたちが集まり徒党を組んで、島の汚れ仕事を請け負っている。ヤミ金融もまたそのひとつだ。
 そして今から行われようとしているのは、ハイリスクな代わりに儲かるという仕事であった。
 幸潮はそんな依頼を、数ある依頼書のなかからよりによって選んでしまったのである。

「鉄帝の漁船が人手不足でな。人食いマグロ漁の船が出るらしいんだ。一緒に乗っていくか? 安心しろ、働けなくなったら簀巻きにして海に放り込むだけだ。長くは苦しまねえ」
 いいそうな台詞だなあと思いながらシラスが現実逃避をしていると、ミノザウワーが今回の趣旨を話し始めた。
「その、人食いマグロを釣ってくればいいと?」
「そういうこった。船は?」
「ある。自前のドレッドノートがな」
 タカン――とトリヤマのナイフが止まった。テーブルに刺さったナイフを引き抜き、刃を畳む。
 交渉成立とでもいわんばかりに。
 幸潮はあらためてテーブルとそのまわりの面々をみた。
 シラスたちのように借金にまみれやむなくこの仕事を受けた者ものいれば、たまたま手に取った依頼書がこれだったという者もいる。自分は後者だが……その中間みたいなやつも見えた。
 しかし、なんというのか。
(借金返済のためにリゾート地の近海でマグロ釣りをさせられる。なーかなかエキサイティングな経験じゃなー)
 そうそう体験できない非日常。これはまた、愉快な一日になりそうである。

GMコメント

 地獄の、人食いマグロ釣りが始まる!

 オープニングの空気感からお察し頂けたかもしれませんがこのシナリオは全面ギャグテイストでお送りします。
 借金まみれのかたは水着姿のまま椅子に座って虚空を見上げていてください。そうでない方は同じテーブルについて『なんて依頼に参加しちまったんだ』という顔をしてください。そんなかんじで相談を始めましょう。

●人食いマグロ釣り
 ひとくいまぐろっつたらひとくいまぐろです。
 船で海域へやってくるとすんげー勢いで海面から飛び出して人を食います。
 飛行能力とか水中での戦闘能力とか今日は考えないでいいってことにしませんか。なぜならマグロに浚われて悲鳴をあげるのが楽しいからです。

 これを殴ったりぶん回されたりしながら何匹か手に入れて帰ってきてください。
 船は幸潮さんが出してくれるそうです。二隻以上あっても全然いいけど、今回はあんまり必要ないきがします。

  • 借金のカタにマグロを釣りに行かされる依頼完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月25日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
咲々宮 幻介(p3p001387)
刀身不屈
シラス(p3p004421)
超える者
夢野 幸潮(p3p010573)
敗れた幻想の担い手
雑賀 千代(p3p010694)
立派な姫騎士

リプレイ


「いちにいさんしい、ご……五本! 五本ある! あるでござる!? 拙者の指五本あるでござるかあ!?」
 『刀身不屈』咲々宮 幻介(p3p001387)が右手をぷるぷるさせながらクレイジーなことを言っていた。
「うんうん。大丈夫、あるある」
 『太陽の翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)が幻介のゆびをつまむ。
「ウワアアアアトリダアアアアアアアア!」
「トラウマになりすぎだろ」
 カイトは優しいまなざしで幻介の肩にぽんと手を置いた。
「安心しろ。俺はなんといっても海軍少佐の息子にして技術士官。海洋王国における栄光の代名詞ともいえるシレンツィオで不祥事が起きないように見張る役割を今回は任されている」
「ホントォ……?」
 デフォルメされて三頭身になった幻介が涙目で見上げてきた。顔とか(;ω;)になっていた。
「ほんとほんと。とりさんうそついたことないから」
「ヤッタァ……」
 笑顔のカイトが、キッと猛禽類の目をした。
「もし不祥事が起きたら事件ごと簀巻きにして鮪の餌にする役目だから」
「ウワアアアアァァァァァァァァ!!!!」

「やあ、俺の名はシラス。『竜剣』のシラスだ。
 幻想のスラム育ちだった俺はローレットを通して依頼を受けるなかで大貴族にして元老院議長レイガルテ・フォン・フィッツバルディの目にとまった。
 王威をかけた戦いの中で頭角を現した俺はその成績から新世代勇者の筆頭として王に認められ、レイガルテ派筆頭としての『双竜の猟犬』にして新世代勇者『竜剣』の名で知られているんだぜ。
 王都では早速吟遊詩人が歌にして、絵本やトレーディングカードも出た。勿論、あのビッツに挑んだりリヴァイアサンに挑んだりした歴史もしっかり語られここシレンツィオのローレットショップ(アイドルショップのローレット版)にもグッズが並んでるんだぜ。ぬいぐるみがクレーンゲームの景品にだってなったくらいだ。ハハッ」
 『竜剣』シラス(p3p004421)は前髪をふぁさあってかきあげ、そして振り返った。
 海パン一丁かつロープで簀巻きにされた状態で。
「だから下ろしてくれねえ?」
「無理だな」
 ロープをいつでも下ろせるように回転レバーに手をかけた『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)が、なんともいえない目でシラスを見ていた。
「この目知ってるぞ。『この豚さん、可愛そうだけどこのあと出荷されちゃうのね』って目だ!」
「いや違うな。盛者必衰の理を観察しとるんじゃ。汝、言っとったよな……」
 ふわふわふわーって回想の雲があがる。
 少女漫画のイケメンかなってくらいのタッチで描かれたシラスが前髪パサッてやりながら振り返る絵だ。
『借金取りは本当にしつこい、飽き飽きする、心底うんざりした。
 口を開けば金を返せと馬鹿の一つ覚え、返済が焦げ付いたから何だと言うのか。
 俺は幸運だと思い元の生活を続ければ済むこと』
 こと――こと――こと――。
 エコーが残った現実で、幸潮はそーっとレバーをまわす。
 おりるロープ。海面に近づくシラス。
「あーーーーやめろ! 見える! 俺を狙って回遊してる人食い鮪がすごい距離で見える!」
 すこしでも水面から離れようと海老反りになるシラス。
「もっと光れよー。獲物が集まらねえだろーォ?」
「それイカの釣り方! てか集まってんだよ! 死ぬほど!」
 シラスがきゃーきゃーいってる声をBGMにして、『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)と『立派な姫騎士』雑賀 千代(p3p010694)が体育座りで並んでいた。
「あなたの漁船はどこから?」
「イベシナでカジノぶんまわした辺りから」
「なんの話ですか?」
 そう、エイヴァンはちょっと前にカジノで大賭けしまくった後大酒飲んでふらふらしてたら謎の現場を目撃。遊園地になんでかしらないけど黒ずくめの男二人組でジェットコースターに乗るような奴らを見かけたエイヴァンは好奇心から後を追い、なんか数百回くらい聞いたような流れで眠らされ気付けば船に乗せられていた。
「時系列どうなってんだ!」
「ひいっ!? 何の話ですかこんどは!」
「おれ、この漁から帰ったらホテルで寝るんだ。オーナーが気を利かせてくれてな、スイートルームになってるんだよ。ベッドが信じられないくらいふかふかで……やわらかくて……」
 でけえシロクマ男が体育座りしながら徐々に小さくなっていく風景。
 その横で、千代が思い出したように泣き始めた。
「ぴぇぇぇん!? ナンデ! ナンデ!? 人食いマグロ釣りに強制参加!?
 私、ちょっとカジノで大負けして借金しちゃっただけじゃないですかー!?
 悪い事なんて何にもしてないのにこんな仕打ち…あんまりですよー!!!
 これならAV(アニマルビデオ)堕ちとかの方が何倍もマシだったよー!」
 誰かたすけてー! と言いながら転げ回る千代の頭には既にうさ耳がついていた。
 具体的にはいえないけどなんかの覚悟がキマった様相であった。
 が、約束の時間はやってくる。
「鮪が出たぞー!」
 ブオーっとホラ貝の笛の音が聞こえ、餌一歩手前のイレギュラーズたちは顔をあげたのだった。

●これホントに借金のカタなのか? 生贄とかじゃなく?
「マグロォ!」
 海面から飛び出したマグロがシラスへと食らいついた。
「デカ! 速! こんなの絶対マグロじゃねえ! てかマグロの鳴き声って『マグロ』じゃねえだろ絶対!」
 ウオーと言いながら海老反り姿勢のまま身体を左右にふってなんとか回避するシラス。
 カイトが真顔で自分の顎をなでた。
「あいつ、やるな……あそこまで拘束されながら回避するとは。死地に瀕して俺並みの回避能力を発揮したか……」
「冷静に分析してる場合か」
 エイヴァンはゆーっくりとカイトの腰にロープを巻いていた。
「だがローレットの中でもトップレベルのビルドバランスを維持するシラスといえどこのまま回避し続けるのは困難だろう。こういうとき絶大な回避能力を発揮する仲間が居れば局面は大幅に有利になるはずだ」
「回避……ほう、それは俺のことか?」
 猛禽類の目をしたカイト。
 北極熊の目をしたエイヴァン。
 二人はキランと目を光らせると頷き合い……。
「じゃ、行ってきてくれ」
 簀巻きにしたカイトをエイヴァンがよいしょって肩に担いだ。
「ああああしまった乗せられた!」
「おいしい鳥肉だぞ! 喰らえぇ!」
 たぶん人生でも初めてってくらい言葉通りに『喰らえ』て言いながらカイトを投げるエイヴァン。オリンピック選手が槍を投げるときのフォームでご想像頂きたい。
 そんな古代ギリシャ式の美しい投擲によって青いお空に放物線を描く鳥。カイト。
 スローモーションになる風景のなかで、カイトはギエーと口をあけ涙を天空に散らした。
 散った涙の滴は遠く無限の水平線をきり、時に太陽の光を通してプリズムを作った。
「ふん!」
 かと思ったら途中で身体をぴーんと伸ばして空中に停止。
 のびたロープの端っこを持っていたエイヴァンが『おお』と声を漏らした。
「お前……その状態でも飛べるのか!?」
「いや、なんで飛べてるのか俺にもわからん!」
「わからんのかい」
 冷静に考えたら二メートル近い人間がちょっと羽根ぱたぱたしたくらいで空を飛べるはずないので(できたらライト兄弟あんなに苦労してないので)、羽根以外のなんかで飛んでた可能性はちょっとあった。
 カイトは『ハーッハッハー!』と笑うとよく悪役がする笑顔を浮かべた。
「所詮は魚! 空を飛ぶ鳥を食うなんてことはできないんだよ! お前達は大人しく釣り竿につられて俺たちの餌になるのがお似合――」
 ザパァって海面から顔を出すマグロ。
 マグロの顔をアップでみる機会ってそうないと思うんだけど、もし怖いのとか苦手じゃなかったら『マグロの顔』とかで画像検索するといい。
 正面から見たマグロ、めっちゃこええから。
 その辺の魚とかイカとか食ってるだけあって歯はのこぎりみたいにギザギザしてるし速く泳ぐために鋭い顔とでかい目をしてるし何より嫌に銀色だし。
 それが突如尾びれのキックで加速したかと思うと空中のカイトの腹へと食らいついた。
「ギエーーーーー!?」
「カイトーーーー!!」
 などといいながらロープを引っ張りまくるエイヴァン。両腕でいーとーまきまきの動きをしてロープをたぐり寄せるとすごい勢いでひっぱられたカイトがびたーんと甲板によこたわった。くらいついてるマグロを一生懸命そのへんのハンマーで殴りつける。
「ざっけんなよ、なーにが人喰いマグロだ!
 最強の魚はこのシラス様よ!
 海のヒエラルキーを静寂の青にも刻んでやろうじゃねえか!」
 とかいってたらシラスがマグロを挑発しはじめた。
 どういう理屈か簀巻きのロープを腕力で引きちぎると、とびかかってきたマグロを押さえつけその頭にかじりつく。
「シラスがマグロを食ってる!」
「字面だけで見ると天変地異でござるな!」
 幻介はさっき倒したマグロの尻尾を掴むと、キリッと顔をクールな人斬りのやつにした。
「裏咲々宮一刀流・漆之型――陰炎」
 幻介の振り抜くマグロと共に韋駄天の如く駆け抜けマグロの間合いの内側へ入り込みマグロによって斬り伏せる。マグロからマグロへ移り動くが如きその様は、さながら猛炎に揺らめきし鮪炎(マグロウ)。
「一つだけ……言っておくでござる」
 鋭いまなざしで、人喰いマグロたちへと振り返る。
 その冷たい目は刀が人の形をとったかのように無機質で、自動的で、そして触れれば切れる刃のそれであった。
 あったけど。
「どうか拙者だけは見逃してほしい御座るぅー! 鳥も熊も小魚(シラス)も食って良いから! そこの女子供も食っていいからぁー!」
「最低だ!」
「リクエストだ。いってこい」
 幸潮は千代の腰周りにぐーるぐーるってロープを巻き付け始めた。
「何で縛ろうとするんですか!? なんで吊り上げるんですか!? 餌はいやー!? いーやー!」
 ドップラー効果をかけながら高い所でぐるんぐるん回された千代はそのまま海へドン。
 突然だけどみんな水族館に行ったことある?
 マグロが展示してある水族館って日本に三つしかないらしいんだけど、東京の葛西にある水族館はマジでマグロに囲まれた気持ちを疑似体験できるんだけど、あのどこ見てるかわからん目が一斉に自分を見てると想像すると、結構な気持ちになれるよ。
 マグロは食い物だから自分が上、みたいな気持ち秒で跳ぶよ。
「ぼばばー!(いーやー!)」
 口からめっちゃ空気泡出しながら暴れる千代。
 えっちな目にあうとか言ってる場合じゃねえ。このままだと露出度200%(内臓の裏側まで晒すことをさす。胃カメラ写真がこれにあたる)の目にあいかねない。
「おっと沈めすぎた」
 回転レバーをまわしてウィンチ(重いものをワイヤーロープで上げたり下ろしたりするやつ。よくマグロやサメを吊した写真に出てくる)をあげると、ぐったりした千代がざばあって海面からあがってきた。
「無事か?」
「無事に見えますかあ!?」
 あんよにマグロがくいついていた。
 右足に一匹。左足に一匹。
 あと両腕にも一匹ずつ。あとうさ耳に一匹。計五匹のマグロがつれた。
「大漁だなあ」
「他にコメントないんですかあ!?」
 タスケテーと言いながらマグロを振り回す千代。
 すげー遠くから見たら子供の考えたオリジナル超人みたいに見えるかもしれない。マグロマン的な。
「こんな絵がほしかったんじゃなーい!」
 たぶん本人っていうかそのずっと向こうにいる神的なやつのお気持ちがうっかり口から漏れ出た千代。
 一方、幸潮は箱入り羊羹のカバーをむいて切らずに端からがじがじ食うっていう平成初期の贅沢みたいなことをしていた。
「あー羊羹うめー。しっとりとした餡子の甘味が口の中に広がる」
「このひとでなしー!」
 千代が勢いよく四肢(というかマグロ)を振り回した途端、力加減なのか振り子の法則なのか、幸潮の乗っていた船ドレッドノートがすんごい勢いで傾いた。
「うおおお!?」
 羊羹もったまま転げ落ちる幸潮。
 そして船上の全員。
 必死に甲板にしがみついてよじ登ろうとする幸潮が振り返る。

 スローモーションの世界の中で、ずっと昔の名曲が流れた。
 ――今夜俺は心底楽しむつもりだ
 ――生きてて良かった。天と地がひっくり返ったような気分を味わうんだ
 みたいな英語の歌詞で。
 それに合わせて海面から無数のマグロがゆーっくり顔を出す。
 脳内でニワトリ頭のトリヤマさんと牛頭のミノザウワー社長が『ハバナグッタイム!』とか叫び始めたと同時に全部一斉にすっ飛んできた。
「「ウワーーーーーーーーーーー!」」
 次々と船の側面に刺さるマグロ。
 放物線を描いて高く飛んだマグロが今度は甲板へと刺さりまくり、刺さったそばから尾びれをビュイーンって振動させたかと思うと船の中を掘り進んだ。
 そういやあいつらノコギリみたいな歯ぁしてたなと思ったのもつかのま、マグロの一匹がエンジンだかガソリンタンクだかに命中。
 ドッという音と共に船体が僅かにふくらみを見せたかと思うと構造的に脆い部分や先ほどあいた大量のマグロ穴から赤い炎と煙が、次いで白い閃光のごとき高熱が噴き出し船体まるごとが爆発した。

 海上にあがる爆煙。そんな爆発を背に、大型バイク(多分船内にあったんだとおもうよ)に跨がった幸潮が真顔で飛び出してきた。バイクの後部座席には千代。シートにしがみつく形でシラスが。その脚にしがみつく幻介が。そのまた脚にしがみつくエイヴァンが、そのまた脚にしがみつくカイトが。その脚にくらいつくマグロがあった。
 その後、どうやって彼らが人喰いマグロの海から帰ってきたのか……よく知らない。
 カイトに食いついていたマグロだけは持ち帰り、全員の報酬ぶんにはなったということだけは確かである。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete!

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