PandoraPartyProject

シナリオ詳細

不条理たるアレクト

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――息を潜める。
 外にいる者達にバレぬ様に。外の気配を窺うように。
 さすれば聞こえてくるのは――苛立つ様な声が一つ。

「『奴ら』はどこへ逃げた! 追え!
 絶対に逃がすな――ワシの前に生かして連れて来い!」

 恰幅の良い男が暴言を周囲にぶちまけていたのであった。
 ……事の始まりは幻想南部、イブリス地方。
 魔物の出現が多いとされるこの地にイレギュラーズ達は訪れていた事から始まる――
 それはローレットに依頼が持ち込まれたが故、だ。なんでも一つ目にして巨人の様な体躯を持つ大型の存在……俗にいうサイクロプスの類が交通の要所たる地に出没し、商人などが困っているが為に。
 そうして始まった激戦。
 複数のサイクロプスらは膂力凄まじく、中々の難敵であったが。
 イレギュラーズ達には敵わず、やがて討伐された。
 そこまでは良かった――のだが。

 直後にイレギュラーズ達は『別の勢力』に襲撃されたのだ。

 魔物ではない。大勢の人間たち……装備や身なりを見るに、傭兵などの類であろうか。銃撃や弓矢の雨あられが注がれた直後に、網や鉤縄などが放たれ、それは明らかに『捕縛』することが目的だと察された。
 疲弊した直後に、どれだけ敵がいるかも分からない状況で戦うは下策。
 ひとまず近くに見えていた廃墟群の中にイレギュラーズ達は逃げ込み……そして今に至る。
「えぇい、高い金を払っているのだぞ! 早くイレギュラーズ達をワシの前に引き摺り連れて来い! 分かってるだろうな!!」
「承知しております、ハーリー様。しかしここはどうにも古い街だった様で。
 あちらこちらに隠れやすそうな場所ばかり……すぐには見つからないかと」
「それをなんとかするのがお前達の仕事だろうが!! ぐぐぐ……イレギュラーズめ。連中の所為でワシは貴族の地位から堕とされたのだ! この恨み、絶対に晴らさでおくべきか……!!」
 ――どうにも。聞こえてくる言から察するに、ハーリーという男は元々貴族であったらしい。が、ローレットのイレギュラーズによりその地位を追われた……? 何か後ろ暗い事でもしていて、それをなんらかの依頼で暴露でもされたか。
 いずれにせよ粗暴にして短気な様子を見るに碌な男でないのは確かそうだ。
 逆恨みして、イレギュラーズを襲撃までするとは……
「……全く、どうしたものかね。まだサイクロプスとの戦いの疲れがあるんだが」
「あの様子だと諦める様子はなさそうだな――隠れたままじゃ状況は好転しなさそうだ。どうにか敵の目を盗んで脱出するか、それともあのハーリーって奴をぶちのめすか……」
 ともあれ、捜索している者達に聞こえぬ様に小声で言を交わす。
 今の所隠れ潜んでいるイレギュラーズ達の位置はバレていないようだ……が、敵の数は見える範囲だけでもかなりの人数が動員されている。このままではいずれ発見されて囲まれるのがオチだろう。
 そうなると少し厄介だ――魔物達との激戦を終えたばかりのイレギュラーズ達の身は、やはり疲弊している。この状態で多数の敵を相手取る余裕は、はたしてあるか。もう少しばかり『休息』できれば話は別だろうが……
 故にイレギュラーズ達が取るべき方針は概ね二つあると言えた。

 一つは敵に見つからぬ様に街の外まで脱出を果たす事。
 一つは敵のリーダー格である――ハーリーを打倒する事。

 敵は今の所こちらの位置を見失っているのだ。街の外に到達した時、敵に発見されていなければ……そのまま逃げ切れるかもしれない。特に此処は廃墟の街であり、隠れる場所は多い事が幸いである。
 或いは、指揮を執っているハーリーを倒せば敵の統制は大きく乱れる事が想定される。
 混乱が生じれば脱出は容易であろうし、粗暴な雰囲気のハーリーに忠誠を誓っている者はあまり多くない筈だ――雇い主が倒れれば集団としても瓦解するだろう。英雄と名高きイレギュラーズにそれでも立ち向かってくる者などどれ程いるか。
 いずれにせよ懸念はイレギュラーズ達の疲弊。
 動かず、息を整えて少しでも戦う力を取り戻すか。
 それともゆっくりとでも進んで脱出を目指すか……
「さて。どうしたものかね」
 零す言。イレギュラーズ達の思考が、巡らされようとしていた……

GMコメント

●依頼達成条件
1:街から脱出する。
2:ハーリーを打倒する。

 いずれかを達成してください。

●フィールド
 幻想南部、イブリス地方に存在する廃墟群です。
 家屋が立ち並び、元々はなんらかの街だった様にみえますが……魔物の襲撃などにより廃墟と化した雰囲気があります。その為一般人はいません。どこを見ても廃墟ばかりな為、身を隠す事が出来る場所は多々あるでしょう。

 時刻は昼ですが、空は曇っており若干薄暗い事も身を隠しやすくなっています。また、 気配遮断などの非戦スキルがあればより隠れやすくなるでしょうし、罠を仕込んだりする事も出来る余地も多くありそうです。

●特殊ルール
 皆さんは一つの戦いを行った直後であり『疲弊』しています。
 本シナリオ開始時、皆さんのHPとAPは『最大値が半分』になっている状態からスタートします。最大値自体が低くなっていますので、つまりHP回復などで半分以上回復する事は出来ません。(HP1のキャラクターは特に影響はありません)

 しかしこの状態は『非戦を除くアクティブスキル』を使わない状態を維持し続けると、少しずつ最大値が元に戻っていきます。ただし『最大値』に余裕が戻っていく状態で『HPが回復』する訳ではないので、回復の為には別途治癒スキルなどが必要となります。

●ハーリー・フォン・バランド
 元・幻想貴族です。
 領民に圧政を敷いており犯罪組織との繋がりもあった、いわゆる悪徳領主……でしたが。過去にイレギュラーズによってあらゆる悪事を暴露され、貴族の地位を追われた人物です。(ちなみにフレーバー扱いですが、プレイングでこの一件に関わっていた、と言う事にしてもOKです)
 その一件を恨みに思っており、今回イレギュラーズ達の襲撃計画を実行しました。

 イレギュラーズ達を跪かせ、自らの復讐を遂げんとしています。
 その為に配下の面々には『必ず生かして連れて来い』と命じているようです。
 戦闘能力はありません。が、彼の周囲には護衛が常に控えています。

●傭兵・私兵×??名
 ハーリーの雇った傭兵や、彼の私兵などの混成部隊です。
 一部の者達は『捜索』などの非戦スキルを宿している者もいる様です。ただし数は多いですが、全般的に戦闘能力は優れていません。数で押し包んでくるタイプばかりです。また、傭兵と私兵では連携が取れてない様にも見えます。
 ハーリーの指示によりイレギュラーズを殺そうとはせず必ず捕縛を試みてきます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 不条理たるアレクト完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エマ(p3p000257)
こそどろ
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
長谷部 朋子(p3p008321)
蛮族令嬢
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ

リプレイ


 そこかしこでイレギュラーズを探す気配がする――全く、やれやれ。
「逆恨みもいいところよね。全部自業自得じゃない!」
「ハーリー・バランド……データを検索し思い出す程度ですが、いましたねそんな方。
 まぁ――あともう少しすればその情報も削除されていたかもしれない保全優先度ですが」
 どこまでも盛大に迷惑をかけてくれるものだと、かのハーリーを追い詰めた『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)と『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)は身を潜めながら周辺の状況を窺う。
 貴族の立場を追われたハーリーから『フォン』の情報が削除されている珠緒は、彼の事を思い出すのにも一苦労だったようだ……ひとまず蛍が用意していたセーフハウス内にて体力を整えようか。他の空き家よりも整えられているその隠れ家は隠密性にも優れ、一息つく間を与えるもの――
 然らば同時に珠緒は周辺の偵察をも成す。
 ファミリアーによる使役。飛ばす鳥らの視界により周辺を理解せんと……
「あーもう! せっかく強敵と戦えていい気分だったのに水を差されちゃったなぁ。
 邪魔をしてくるだなんて、覚えておきなよ……後でたっぷりと返してもらうから」
「しかし何はともあれまずは息を整えてからですね……流石に連戦は厳しいかと」
 同時。『蛮族令嬢』長谷部 朋子(p3p008321)や『覇竜剣』橋場・ステラ(p3p008617)も蛍のセーフハウス内で体力の回復に務めつつ次なる行動へと移る。
 珠緒より齎される周辺情報を基に、気配を隠しながら朋子は周辺の廃材を回収。
 それらを用いて罠を設置するのだ――迂闊に扉を開けた者があらば大量の瓦礫が襲う様に。一方のステラは、珠緒と同様に偵察の鼠らを使役し、先行させつつ……セーフハウス内で医療行為に勤しもうか。
 応急処置にて皆の傷を塞ぎ少しでも『後』の為に。
 何より己はあまり継戦に向いた『型』ではないのだからと……足手まといにならぬ様に、体力と活力の回復の為に全霊を尽くして。
「オイラ達に復讐だなんてやめてほしいけれど、降りかかる火の粉は払わないとね」
「ええ――囲まれたのは想定外ですが、幸いなのは敵にも隙がありそうな所でしょうか」
 さすれば『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)は周囲を俯瞰するかの如き視点と共に、セーフハウス周辺に近付く敵がいないか監視を続けるものだ。傭兵にしろ私兵にしろ気付かれれば雪崩れ込んでくるだろう……
 故にこそ警戒は崩せない。窓よりこっそりと外を見据えつつ、体力が回復し始めれば『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)と共に治癒の術を行使しようか――
 あともう少し。もう少しだけでも万全たりえてから行動だ。
「ひひひ。ちょっと恨みを買いすぎて、ハーリーなんて人がいたかどうか……ちょっと覚えてませんねぇ。でもなんだか屋敷に忍び込んで高そうな壺とかを持ち帰らせてもらった所だったような……そうでないような……」
「ハーリー・フォン・バラント……はて? ……ああ、そう言えば、そんな方も居ましたねえ。間抜けにも尻尾を出していたので、イレギュラーズの仕事として失脚させたんでした。命だけは助かったのに、わざわざまた来るだなんて――余程構ってほしいと見えます」
 そして。過去を想起しながら『こそどろ』エマ(p3p000257)に『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)は準備を整えるものだ。
 此方に向かってくる? あぁならばいいだろう相手をしてやる。
 だが――逃げ惑う獲物と思うなかれ。
「皆さん食い破る気満々ですもんねぇ、ひひひ!」
「逃げる等と、まさかまさか。此方を甘く見過ぎでしょう」
「勿論。罠は食い破る物、ですので――!」
 狩るのは此方であるのだと。武器を携えるエマにリースリット、そしてステラ。
 ――さぁ。軽率に攻撃を仕掛けてきた連中に……思い知ってもらうとしようか!


「ん、なんだこの家は。他よりも随分と綺麗な様な……ぐぁああ!!?」
 そして。朋子が仕掛けていたトラップにかかった馬鹿がいた悲鳴を皮切りに。
 イレギュラーズ達は本格的に動き出すものだ――
「ふふっ、確かに体力的には厳しいですが……他人を罠に嵌めるのは悪徳貴族の得意分野ですとも。兵だけに頼った半端者には真似できぬ心算を――お見せするとしましょう」
 言うはウィルドだ。敵の兵は罠で攪乱しつつバランド本人への道を開かんと画策。
 味方より齎された情報を精査し、言を用いぬ念話にて皆と意志を交わすのだ――
 これよりは隠密と迅速こそが肝要たればこそ敵に一切気取らせようものか。
「疲弊した機を突けばどうとでもなる……などと思われているのであれば、誤解は正さねばなりませんね。対人鑑識能力がその程度だから容易に足を掬われたと――そう自らの愚鈍さを自覚させるべきです」
 更に珠緒もウィルド同様に皆との連携を繋がんとする。
 舐められたままで終われるものか。何度も蛍の手を煩わせてなるものか。
 言葉の節々は平静なれど、心には確かなる意志を携えながら……彼女は無数の使役存在より齎される情報を高速に処理していく。彼方まで見据える視力により敵の位置を把握し、自らの周囲に展開される仮想画面が数多を補助。
 更に使い魔より念話を経由して伝達速度すら早めようか。
 紡ぐは先行している者達へ。気配を殺し、敵の裏をかかんとしている――
「売られた喧嘩は買う主義だよあたしは。
 そっちが殴って来たなら、確実に落とし前はつけてもらわないと、ね――?
 今更吐いた唾が飲み込めるとは思わない事だよ。さ、思い知ってもらおうか。」
 誰に喧嘩を売ったのかをね。と紡ぐ朋子などへ、だ。
 彼女は引き続き手頃な廃材を探し当て、即席の罠を設置。
 余裕が在らば二段構えの代物にまで引き上げようか。一つは発見しやすく、分かりやすい罠……しかし本命はソレを躱した先に存在する本命だ。例えば落とし穴がある様に見せかけ――飛び越えた先に放たれる、矢の様な一閃を仕掛けるのである。
 本命は見せ札の後に切ってこそ。
「ついでにどれだけ命を奪わずに傷を負わせるのかも、ね――」
 そればかりか彼女は敵の戦力を奪い取る狙いもあろうか。
 穿つ先は足など。上手く当たれば敵の機動力を削ぎ、歩けなくなれば救援の手が必要に。
 ――なるべく治りにくい傷を敵に負わせれば、それだけで敵の負担となるのだから。
 更には活動の痕跡を徹底的に消す工作をも用いれば……彼女の跡を追うのも至難の技であり。

『ちっ、給料分の働きさえも出来ねぇじゃねぇかよ。これだから傭兵ってのはゴミなんだ』
『やっぱ没落貴族のお抱えじゃまともな仕事はできねぇな。主人に尻尾振るしか頭にねぇワンコロ如きは、邪魔しねぇように縮こまってりゃいいのによ』
「なんだとぉ……今言ったのは誰だぁオイ!!」

 そして。罠に掛かりて救いを求める声が響けば、どこからか舌打つ様な声が。
 私兵と傭兵。立場の境目にて不協和音の陰りが見え始めている……のだが。
 発端となったその声は演じられたものだ。誰に? それは――エマと蛍によって。
「やれやれ、この程度ですぐ諍いを始めるだなんて……隙があり過ぎなんじゃないですかねぇ。ま、もう少しばかり火種を投下していくとしましょうか」
「そうね。あぁ――『ったく、足はノロマの癖に耳だけは達者かよ。流石御貴族様の生ぬるい私兵は俺達とは格がちげぇなぁ!』――ってね」
 彼女らが醸し出す声は、近くを偵察した折に聞いた者らの声の模倣である。
 近似の声。ただ単純に彼女らが自身の声を出しただけであれば敵に勘付かれただろう……が、その『声』たれば、むしろ積極的に不和を広げる事が出来るものだ。足音を殺し、気配を押し留めれば注意が散漫となった敵共から隠れ潜むも難しくはない。
 さすれば――朋子により仕掛けられる数々の罠。エマと蛍により紡がれる攪乱。
 そしてウィルドと珠緒がその渦中の隙を見据え、ルートが導き出される。
 連中の頭目たるハーリーへの道を。
「では、参りましょうか! 驕り昂った者への逆襲です!」
「さぁ退いた退いた! オイラ達を狙うなら、覚悟してくる事だね!!」
 故に踏み込むのはステラやアクセルである。
 一直線に最短ルートで敵を討つ。邪魔立てする者があらば捻じ伏せてでも。
 ステラの剣撃が咲き乱れ。追い打つようにアクセルの一撃も放たれれ、ば。
「道を開けなさい。用が在るのはバランド卿のみ――貴方達に用は有りません。
 どうしても退かないというならば……相応の痛みが降り注ぐと知っていただきます」
 駄目押しとばかりにリースリットの精霊剣が舞うものである。
 それは絶凍の意志が込められし死の権化。風と氷の祝福が敵陣を乱そう――

「う、うわあああ! イレギュラーズだ、イレギュラーズがいたぞ!」
『こっちだ! こっちに逃げろ! 一旦態勢を立て直して、迎撃するんだ!』
「おぉ! 急げ、集まれば数はこっちが上……ぐぁ!!? なんだ、落とし穴――!?」

 然らば敵の主力たる私兵や傭兵の間には大混乱が生じるものである。
 先述の通りエマらの攪乱が果たされていたが故もあるが……なによりリースリットを筆頭に、イレギュラーズ達の体力はかなりの回復を見せていた点も大きいだろう。それは蛍の隠れ家たるセーフハウスが機能した事も大きな要因で。更にはリースリットやアクセルの治癒術……体力や活力を満たす技能もあらば、かなり万全に近い状態へと戻れたか。
 その状態で使い魔らによる偵察を行い、気配を押し殺し移動を重ねていたイレギュラーズが一気に踏み込んできたのだ。
 止められようものか。今でさえ蛍やエマらの声によって導かれ、朋子の張り巡らせたトラップの数々に引っかかる者もいるというのに。
「イ、イレギュラーズ!!? 何をしている! 早く囲んで連中を捕らえ……!!」
「――初めましてバランド卿。私、リースリット・エウリア・ファーレルと申します」
 そして。まだ正確に事態を把握できてすらいないハーリーが慌てふためきながら声を荒げれば――渦中にリースリットが到達。邪魔立てせんとする私兵を一人切り伏せながら、優雅に一礼すれ、ば。
「愚かな事をなさいましたね。
 拾った命を使って成す事がこのような事ですか……
 命さえ失わなければ未来もあったでしょうに――――理解、しておられますか?」
「なにぃ……!? ファーレル家の薄汚い小娘如きが誰に向かってモノを……!」
「未だにその程度の、負け犬の様な吠え方しか出来ないとは実に愚かですねぇ。
 悪徳貴族たるもの、自らの悪事くらい隠す能がなければ務まらないというのに……
 ああ、まぁ。この期に及んで逆恨む、その意地汚さだけは褒めて差し上げましょう」
「――煩いぞイレギュラーズ如きが! 追え! 奴らを叩きのめせえええ!!」
 剣を向け。最後通牒の様に――リースリットは告げるものだ。
 次いでウィルドも壁を透過し敵陣の裏を掻くように現れる。ハーリーを侮蔑し、挑発する様な言を用いて……だ。さすれば激怒する様に顔を真っ赤にするハーリーが命じてウィルドを追わせる――やれやれ。この程度の言に対する耐性すらないとは。
「いやあ、こういった小技も使いようですね。
 些かあちら様が、此方の思うように動いてくれて歯ごたえが無くも思いますが」
 まぁ良いでしょう、と。ウィルドは口端を吊り上げながら攪乱するものである。
 再び壁を透過し逃げ道を確保しながら。敵を吊り上げ、集まった所に――魔力を放出。
 闇夜の魔にて敵を覆うのだ。
「元々悪事をしてたそっちが悪いんだろー! オイラ達を追いかけてくるなんて八つ当たりは止めろよな! どーしても諦めないなら、ちょーっと思い知らせてやるからな!」
「さ――て。ようやく直接ぶん殴れそうだね! 一発や二発で済むと思ったら大間違いだよ!」
「今度こそ報復なんて考えられないように……とことんやってやるわ!」
 更に続けてアクセルが敵陣の中央に強靭なる不可避の雹を叩きつけ。
 朋子も至れば、傭兵らを引き付けんとするが如く――大いなる咆哮と共に往く。
 撒き散らされる振動波が彼女の存在を否が応でも示そうか。さすればハーリーの周辺に展開していた護衛達の陣形にも乱れが生じ始めるものである……『え、援軍はまだかぁ!?』とハーリーが見苦しく喚く、も。
 続け様に蛍の桜技(おうぎ)も繋がればそれ所ではない。
 ハーリー周辺の者達はその対応に精一杯だし――街に展開している側では。
「ひひひ。来るわけないじゃないですか――もー皆さんの頭の中は、どこに罠が在るかも分からない不安と焦燥だけですからね! さ、もうあと少しだけ私に付き合ってもらいましょうかね、えッ、ひひッ!」
「今の内に退くなら許してあげましょうか。
 ですが……もし拙達の邪魔をするなら命はないと思って頂きましょう。
 ――此方の力が続く限り、皆様を全て討伐せしめてもいいのですが?」
 エマの本領が十全に発揮されているものである。
 彼女の役目は万全のイレギュラーズ達をハーリーにぶつける事。故にこそ誰にも邪魔はさせまいと……街の各地に展開してた者達を引き付け続けよう。軽やかに飛び跳ね、幾重もの声を操り、罠へと誘導して阿鼻叫喚の地獄絵図の最中へと。
 更にはステラの撃が立ち向かってくる者達へと振るわれる。
 絶大なる武と、確かなる意志が込められた言を共に……これ以上拙らの邪魔をするならば『全滅させてでも――』という意を込めれば脅しにもなるものだ。彼女の巧みなる声色にはより実感が込められ……さすれば臆す私兵共もいて。
「ひ、ひぃぃい! 駄目だ! こんなの勝てるかよ!!」
「ぁ! お、おぃ! 馬鹿共が退くな! もういい、イレギュラーズ達を殺せ!!」
 逃げ出さんとする者も出始める。ハーリーが最早、捕らえる命令を撤回し、殺害を促すが……時すでに遅し。士気の高くない兵達をリースリットが斬撃にて払い、ステラは蹴撃も交えて戦意を挫かんと動き続け。
 残り続ける者にはアクセルが邪悪を祓う光によって薙ぐものである。
 それは敵のみを穿つ光。朋子らの動きによって集まった所へと放たれるアクセルの光と、ウィルドの闇が混ざり合いて敵陣を粉砕せしめれば……
「――元より、理解力が欠如した方だとは思っていましたが、事ここに至っても状況を整理する事ができないとは……最早引導を渡すしかないようですね、蛍さん」
「ええ本当に残念ね――あの時はあんなに“穏便に”済ませてあげたのに……」
「ぬぁ!? お、お前達は……!!」
 ハーリーへと向かうは、珠緒と蛍だ。
 彼女らは思い起こさせる。かつての恐怖を。
 ああ――どうすれば、心から反省して二度とこんなことをしないって思ってくれるのかしら?
「とっても悲しいし心苦しいけど、言っても分からない以上、心と体に刻み込むしかないのよね……今度はあの時と違って、ガタガタ震えて命乞いしても許してあげられないかもしれないけど――覚悟の上よね?」
「だ、黙れぇ! 私は、あの日の屈辱を返す為に……お前達の頭を踏みつける為に此処まで来たのだ!」
「無意味なる想像ですね。どうやら誇大な妄想癖もあるようですし――
 やはり、そろそろ終わらせて頂きましょうか」
 喚くハーリー。そんな奴めの様子を、冷たき視線をと共に二人は見据え。
 やがて――往くものだ。
 歩調を合わせ。珠緒が四象を束ねた赫き刀を此処に。
 乱れ果てた敵陣を食い破り、さすれば蛍が更に踏み込もう。
 彼の心に。二度と解けぬ傷跡を刻む為に。
「ひ、ひ、ひぃぃぃぃ!!」
「――まぁ。命までは取らないでいてあげるわ」
 強く当たる一撃。
 死線を見出し、されど三途を渡らぬ撃がハーリーへと放たれ――
 そして。地に倒れれば意識が刈り取られるものだ。
 ……後はあっけないものであった。
 統制を失えば私兵は混乱の極みに至り、依頼主を失えば傭兵らは見限って撤退するもの。
「さて。良い遊び相手でしたよ、あなた方は。ええ――
 くくっ、必死になって私を追い回してくる姿など、笑わせてもらいましたとも。
 あぁ。誰ぞを手玉に取るというのは……こういう事なのでしょうねぇ。
 いやあ、自分が安全だと思っている馬鹿な貴族を叩き潰すのは爽快です――」
 然らばウィルドは状況を見据え、妖しき笑みを浮かべるものだ。
 敵の行動全てがまるでこの手の平の上に在ったかのよう……
 機会があればまた『遊び』ましょうねと――風に蕩ける様に紡ぐものだった。

成否

大成功

MVP

藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 多くの技能を用いた隠匿や攪乱などなど、素晴らしい工夫の数々であったと思います。
 正に敵は粉砕されました。お見事でした。

 ありがとうございました。

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