PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<希譚・別譚>若宮分霊

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●肉体
 アンドロイドボディを駆使しR.O.Oデータの定着を行う事で世界に認められた存在は『生物』となる。
 アンドロイドであるか秘宝種であるか。人工定着で命を生み出すという手法はある種の禁忌のようにも感じられたがDr.マッドハッターに言わせれば「実に興味深い現象」だという。
 此れまでのイレギュラーズの功績がそれを混沌(せかい)に認めさせたのだ。非常に愉快そのものであろう。

 さて、再現性東京<アデプト・トーキョー>202X街、希望ヶ浜には旧く真性怪異と呼ばれる異形の者が存在した。
 それらは神と呼ぶに相応しく他者の信仰によって強大な力を増す存在だ。再現性東京以外の地では神霊などがそのルーツを同じくしていることであろう。閑話休題である。
 その一端であった『ハヤマ様』――両槻の地に生まれ落ちた真性怪異はその在り方を途中で変えて仕舞った。信仰が別の軸に移ったのだ。ハヤマ様と呼ばれていた真性怪異から別たれた脆弱な神性。若宮と称する其れは人の姿を依り代とし、降霊術を行った者を媒介にこの世に影響を及ぼし続けた。
 その討伐に乗り出したイレギュラーズは無事、依り代であった『鹿路 美咲』という少女を解放し――

「こうなったわけです」
「……どうなった訳です?」
 ちょこんと椅子に腰掛けていたのは10歳程度の少女であった。黒く長い髪はふわふわと揺らぎ、澄んだ水色の瞳をぱちりと瞬かせた愛らしい少女。
 彼女の前で澄原 水夜子 (p3n000214)は待ったと言わんばかりに頭を抱える。澄原病院の診察室。聴診器を手にしていた澄原 晴陽 (p3n000216)は「夜妖ですね」と淡々と返答する。
「いえ、姉さんそうではなく」
「姿こそ、幼い茄子子さんのようですが……その色彩は別の誰かを宿したのでしょうね」
 ちら、と見遣る晴陽に楊枝 茄子子(p3p008356)は「げえ!」と驚愕を滲ませ、少女は思い出したように「シェアキ――」と言い掛けた口を茄子子に塞がれる。
「もご……」
「だ、誰でも良いんじゃないかなあ!?」
「……ま、まあ、良いのですが」
 目の前の少女――『怪異のカケラ』若宮 蕃茄 (p3n000251)は真性怪異『ハヤマ・分霊』を茄子子が力尽くの奇跡で連れ帰った存在だ。茄子子の想像でその外見が固定されては居るが希薄な精霊のような存在である夜妖の肉体は余りに脆い。
「ハヤマ――ではなく蕃茄さんでしたね」
「蕃茄だよ。茄子子がそう名乗ると良いって言ってた。
 はるちゃんと従妹のみゃーこちゃんがハヤマの儘だと神様の影響が出るって言ったんでしょ?」
 はるちゃん、と呼ばれたことに晴陽が少しばかり痛ましい表情を滲ませた。その様子を背後で眺めている國定 天川(p3p010201)は「心咲嬢の影響ってのは躯に残ってるのか」と蕃茄に問い掛ける。
「うん。多分、心咲(もとのよりしろ)のカタチは残ってる。
 けど、蕃茄が蕃茄として過ごせば、だんだん薄れていくと思うよ。口調だって、蕃茄が『人間性』を手に入れれば蕃茄だけのものになるし」
 今は心咲が混じって居るけれどね、と彼女は天真爛漫な笑顔を浮かべて見せた。
「それで、可愛いトマトちゃんはこれからどうするのです? 此の儘放置してたら、何時、ハヤマに戻るか分かりませんよね」
「んー……ラダちゃんが言ってたけど躯が欲しいな。
 蕃茄を蕃茄として固定する為の躯。魂のカタチをそのまま蕃茄として固定させて、蕃茄を真性怪異じゃ無くすんだ」
「ああ、ラダさんが言っていた『秘宝種の技術』を無理矢理当て嵌めてみるという……。
 出来なくはないと思うのです。何せ貴女は『異質』な存在ですから。そういう事があってもいい」
 水夜子はうんうんと頷いた.その提案を両槻の地で行っていたラダ・ジグリ(p3p000271)は「真逆出来るとは」と呟く。
「じゃあ、蕃茄の新しい躯を探しに行こう。
 この姿で蕃茄を固定しなくっちゃならないから。みゃーこちゃんも、茄子子もみんなも着いて来てくれる?」
 良いともと拳を振り上げた茄子子は慌てた様に診察室から飛び出していった。

GMコメント

 夏あかねです。若宮(ハヤマ分霊)は『蕃茄ちゃん』という新しい名前を与えられました。
 AAたくさんありがとう御座いました。次は彼女の魂を定着させるべく肉体を手に入れに行きましょう。
 死体……だとアレなので練達のアンドロイド技術を頼って。

●目的
 蕃茄に肉体を与えた上で、彼女の生活の支援を開始する

●蕃茄
 若宮(ハヤマ分霊)は真性怪異から毀れ落ちた異形というカタチです。詰まり存在そのものがイレギュラーです。
 其の儘、ハヤマ分霊と呼び続けるといつ穏やかではない状況になるかは分かりませんのでその在り方そのものに影響を与えるべく呼び名を変更されました。
 便宜上の名字が『若宮』ですが、基本的には『蕃茄』とお呼び下さい。何ならトマトでも大丈夫です。
 彼女から少しばかり滲むのは鹿路 心咲と呼ばれた少女の性格や性質です。
 走ることが好きで、何時も明るく元気いっぱい。晴陽や燈堂 暁月が見れば思わず眉を顰めるような、魂の混ざりっぷりです。
 蕃茄は心咲の影響を多分に受けていますが生まれ落ちたばかりの神様そのものです。
 お買い物を手伝ってあげたり、新しく食べ物を与えてあげたり。『人間らしい生活』をレクチャーしてあげて下さい。
「蕃茄、何も分からない」
「服とか、食べるものとか、学校とか? 人間は寝ることもするらしい。蕃茄はしないけど」

●肉体を与える
 Dr.マッドハッターの支援を受けれます。何やら饒舌にお話ししてきますが、彼は実験に協力してくれるはずです。
 アンドロイドのボディに蕃茄を定着させます。
 その際に蕃茄から『夜妖の残滓(残穢)』のようなものが溢れ出しますので、その討伐を行ってあげて下さい。
 決して強いものではありません。ノーマル相応の残穢が飛び出してきます。
 其れ等を討伐しきることで蕃茄は無事に肉体を得ることが出来る筈です。

 ・溢れ出る残穢
 夜妖相応です。それらは桜吹雪と共に現れ、人々の願いを口々に叫びながら襲いかかってきます。
 大体約10体程度。それほど苦戦する存在ではありませんが、溢れ出している間は蕃茄自身が苦しそうな表情を見せます。

●NPC 澄原 水夜子
 ついて行きます。希望ヶ浜在住。希譚研究者ガール。距離感が割と近い誰とでもフレンドタイプです。
「私のことは『みゃーちゃん』でも『みゃーこ』でも『みやちゃん』でもなんとでも呼んで下さいね」と微笑みます。
 蕃茄の事をサポートすべくやってきました。蕃茄の新生活への資金は澄原が負担します。
 『窮奇』と呼ばれた武器を駆使して夜妖をばちこーんと殴ります。

 ・夜妖『窮奇』
 鞭の形をした厄災を滅ぼすと信じられたあやかし。鎌鼬を作り出し風の加護を纏います。

●NPC 澄原 晴陽
 蕃茄が心咲っぽい所を見せるととても嫌そうな顔をします。基本的には病院で待機しています。
 水夜子に色々と任せています。
 蕃茄の事を心配しているようですので何かあればお声かけ下さい。

  • <希譚・別譚>若宮分霊完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年07月17日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
ロト(p3p008480)
精霊教師
浅蔵 竜真(p3p008541)
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
月夜の魔法使い
山本 雄斗(p3p009723)
命を抱いて
國定 天川(p3p010201)
決意の復讐者

リプレイ


『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)の事を母と慕い、本来の名で呼ぶ『怪異のカケラ』若宮 蕃茄 (p3n000251)に澄原 晴陽 (p3n000216)はこう言ったらしい。「二人きりの時だけ、ナチュカとお呼びなさいな」と。
 茄子子と澄原 水夜子 (p3n000214)と共に診察室から走り去っていった蕃茄を見送ってから『求道の復讐者』國定 天川(p3p010201)は肩を竦める。
「おーおー。あいつらロケットみてぇに飛び出してったな……。若いってのはいいもんだ。
 ところで先生、蕃茄の嬢ちゃんは心咲嬢ともあの若宮とも別物って認識でいいのか?」
 驚いた様子の晴陽は「ええ、一応は別物だと考えて良いかと」とは返しはしたが質問の意図を読み取れては居ないようである。
「そうか……。続きは帰ったら話そう。あの時ぶった斬る気満々だった手前、バツは悪いがそろそろ行ってくる。またな先生」
 成程、と頷いた晴陽は天川を見送った。確かに真性怪異であった手前、彼女を殺そうとした者は多く居た。
 ああ、けれど。蕃茄はあれだけ天真爛漫だ。心咲の欠片は感じられるが――それでも、別物であると考えても良いだろう。

「いやー、結婚前に子持ちになっちゃったねぇ。会長に似て可愛い。母性本能って会長にもちゃんとあったんだなぁ……。
 よし、蕃茄が蕃茄でいられるように頑張るよ」
 にこりと笑った茄子子は蕃茄と手を繋いでいた。幼く見える蕃茄と手を繋ぐ茄子この様子を見れば少し年の離れた姉妹のようにも見える。
『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)はまじまじとその様子を眺めてから「少し距離があるから迷子にならないように」と声を掛けた。
「どんな風に生まれつこうが、どう生きるかは自由だ。
 過去をなかったことにはできないが、それに縛られ生きる必要はない。折角チャンスを掴めたんだ、堂々と生きて欲しい」
 その通りだと頷いたのは『精霊教師』ロト(p3p008480)。ハヤマ分霊と呼びかけてはいけないとロトは「蕃茄ちゃん」と彼女に視線を合わせる。
「事件の役には立てなかったけど、この結果を齎した皆には驚かされるばかりだよ。
 だから此れからは蕃茄ちゃんの役に立てるように尽力させて貰おうかな、教師として、ね?」
「蕃茄は教師ってしってる。先生って奴だ」
 知っていると胸を張る蕃茄にえらいえらいとロトはその頭を撫でた。そうしていれば普通の小学生だ。
「こんにちは、蕃茄様。僕の事はジョセでもなんでも呼びやすいようにどうぞ。
 事情は詳しくありませんが蕃茄様に新しい体が必要なのですね。それと生活のレクチャー……。僕が知っている事でもお力になれるといいですが」
 その前に体を手に入れなくてはならないのですね、と『千紫万考』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は柔らかに微笑んだ。
「蕃茄ちゃんが望んでることだもんね! すごいね、真性怪異の分霊? 僕も全力でお手伝いするからね、よろしくね。
 蕃茄ちゃん! みやちゃんも、晴明さんの案内ぶりだよね、今日もよろしく!」
 明るく手を振った『命を抱いて』山本 雄斗(p3p009723)に水夜子は「ええ、宜しくお願いします」と微笑んだ。
 真性怪異から別たれた『分霊』と呼ぶべき存在である蕃茄は依り代を必要としている。現時点で肉体ではなく『精霊』のような形でその姿を茄子子に似せている彼女の魂を秘宝種達のようにアンドロイドボディに定着させる必要があるのだ。
「成程……素体を選んでから定着させる際に残穢を払除ける必要があるのですね。
 素体の候補も幾つかあるというならば核の確認などはお任せ下さい。動きたい、彼女と共にありたいと思う躯こそ蕃茄さんにぴったりでしょうから」
 その在り方に偏見などはないのだと『愛知らば』グリーフ・ロス(p3p008615)は小さく頷いた。練達の生まれではないが秘宝種である身の上だ。蕃茄が『特異』な性質を持っていようともアンドロイドのボディさえ得てしまえば同胞であろう。
「分霊のままだと言霊まで絡んで危険だから、ここで余分なものを削ぎ落して素体に定着させる、というわけか。
 一種の神降ろしと封印に近いんじゃないか、これ。名前も蕃茄と呼び変えて別物にするというのも中々……」
 その為に、R.O.Oの関連の管理者であったDr.マッドハッターと水夜子がこの場に揃っているのかと『救う者』浅蔵 竜真(p3p008541)は合点がいったように頷いたのだった。


「やあ、特異運命座標(アリス)達。話は澄原嬢から聞いているよ。彼女の無茶な願いだとは思ったが、成程、名を改めておくことで定着を促すというのはそれ程難しくは無さそうだね。私もR.O.Oのヒイズルでの一件で再現性東京の夜妖には深く興味を(以下、長尺の台詞)」
 相変わらずの様子であるDr.マッドハッターを前にして「マッドハッター様、よろしくお願いします」と茄子子は微笑んだ。
 ボディを選ぶのは簡単だった。幾つか用意されていたがグリーフの協力もあれば、蕃茄に一番似合う者を選べたからだ。次に待ち受けているのは彼女の魂を定着させることである。だが、其れは容易ではないらしい。真性怪異であった彼女を定着させて全く別物にするとなれば『真性怪異であった要素』を打ち払わねばならないか。
「あー……嬢ちゃん、俺のこと覚えてるか?
 あの時は悪かったな。嬢ちゃんが良い子にしてる限り二度とあんな真似はしないと約束するし、嬢ちゃんとお母さん? に何かあればいつでも力になる。だから良い子にしてるんだぜ?」
「茄子子のことも助けてくれる? 有り難う」
 目線を合わせて蕃茄に声を掛ける天川は名刺を手渡しておいた。蕃茄はそれを首から提げていたポシェットに丁寧に仕舞い込んでから、仕舞っておくのが大事だと聞いたとポシェットの中身を見せてくれる。ハンカチやティッシュ、それからキャンディが入ったポシェットに渡したであろう晴陽の顔を思い浮かべて随分と過保護だと天川は思わず笑った。
「蕃茄さん、お守りします。どうか気を楽にして下さい」
「痛いって聞いた。蕃茄頑張れる。良い子って頭撫でてね、皆」
 親が子にするそうした動きに憧れでもあるのだろうか。天川が思い出せば院長室には幼児向けの絵本が幾つか広がっていた。
「子供の苦しむ顔は見たくない。速攻でケリを付ける」
 天川に頷いたのはロトだった。術式を刻んだ懐中時計を手にし最高効率で倒すだけ。
「願い、乞うのは結構――けれど、大切な新しい生徒を苦しめる訳にはいかない。最速、最高率で終わらせるよ」
 蕃茄が目を伏せてから苦しげな表情をした事に気付きジョシュアは「蕃茄様」と名を呼んだ。ううと呻いた彼女がどうしても可哀想で仕方がないのだ。
「フォーム、チェンジ! 暴風――ターゲットロック! ファイア! 速攻で終わらせるよ」
 直ぐさまにヒーロースーツを身に纏ってから雄斗は距離を取り鋼の弾丸を放ち続ける。スーパーヒーローとして蕃茄の苦しみを拭い去ってやるのだ。
「溢れてる、ということは秘宝種の体には入りきらなかった分か?」
 ラダは苦しげに俯いた蕃茄を覗き込んだ。溢れ出した残穢は『蕃茄』を構成する要素には影響を大きく及ぼさず、器に入りきらぬ真性怪異の力の欠片なのだろう。改めて彼女がどの様な存在であるかを感じ取りながら引き金を引いた。
「辛かったら楽にしてていいよ蕃茄」
 これが母性なのだろうか。蕃茄の苦しげな表情に茄子子の胸もつきりと痛む。必ず会長が護ると口にして宝冠を頂き、白紙の免罪符に慈愛の息吹を刻み込む。
「中々……残穢というものの相手も苦しいものだな。蕃茄の苦しむ顔も見ていられないが、」
 骨が折れると呟いたの竜真は器用に隠密刀で周囲の仲間達の攻撃から漏れた残穢を打ち払う。涙を流すことはないが、苦しげに表情を歪める蕃茄の浅い吐息は彼女から残穢が溢れるが故だったのだろう。その痛みまでもを変わってやれないことに苦心しながらグリーフは直接的な攻撃を全て受け止め続けた。
「はいはい願いを叶えたければ羽衣教会へどうぞー。うちは来るもの拒まずだよ」
 蕃茄の肉体が手に入ることを願う。茄子子は去る者は止めるけれど、とジョークを混じらせながら残穢を只払除け続けた――


「蕃茄、気分は悪くないか?」
「ラダ達が護ってくれた。蕃茄は元気」
 大丈夫と頷いた彼女にホッと胸を撫で下ろす。
「蕃茄、うちの子になったからには羽衣教会に入信して貰わないといけないんだ。
 宗教二世ってやつだよ。神様でもなんでも羽衣教会はウェルカムだからね。そも神を祀る宗教でもないしね。一緒に翼生やせるように頑張ろう」
「蕃茄、この躯なら何時でも羽が生えるよ」
 そうじゃなくて、と茄子子は蕃茄に笑いかけた。目線を合わせて、蕃茄を真っ直ぐに見詰める。躯を手に入れたことにより触れれば少しだけ血が通ったような気配がした――流石は練達のアンドロイド技術と言えるだろうか。
「でね、羽衣教会信者にはこなしてもらわないといけないことがあるんだ」
 可能な範囲でだよ、と付け加える茄子子に蕃茄はこくこくと頷いた。書き足した教義は彼女を思ってのものだった。
「まず三食しっかりたべること。規則正しい生活を送ること。夜更かし……はいいか」
「眠らない、ですものね。蕃茄さん」
 グリーフに蕃茄はこくりと頷く。睡眠を必要としない肉体なのだ。蕃茄が望むなら茄子子は何時だって傍で見ていてあげるからとその手を握る。
「ともあれ、元気にすくすく育つこと。できるかな?」
「できる」
 良いお返事だね、とロトは蕃茄の頭を撫でた。頭を撫でてと言って居たことを思いだし天川もわしゃわしゃと乱雑に彼女の頭を撫でる。
「お疲れさん。ほれ。飴でも舐めるか?トマト味らしい。面白い偶然もあったもんだな。
 俺にお前さんのことを教えてくれ。なんでもいい。俺も自分のことを話そう。そうすりゃもう友達だ」
「友達?」
 ぱちくりと瞬いた蕃茄は「友達、できた」と茄子子を嬉しそうに見遣る。雄斗は「僕も友達だよ!」と微笑みかける。
「蕃茄ちゃんに人間生活のレクチャーだね、うんん何を教えたらいいかな……そうだ特撮を見ようよ。
 特撮には人生に必要な愛と勇気と友情が詰まっているからこれを見て善悪の判断や人について学べると思うんだ。
 色々とオススメはあるけど勇者アイオンをモチーフにした仮面勇者アイオンとか僕も出ているヘビーラッシュVSヒーローズとかも面白いよ」
「雄斗は其れが好き?」
「うん。一緒に見る?」
 蕃茄は頷いて「約束というのが出来た」と茄子子に誇らしげに語りかける。その様子は愛らしい。グリーフは蕃茄の核は腰の辺りにひっそりと存在して居るのだと教えた。
「私が教えられるのは人としての生き方ではなく、『ヒトと共にある秘宝種』としての生き方の工夫なら、伝えられるのかもしれません。
 核は腰ですから洋服を着ていれば隠せます。水着などでは注意して下さいね。秘宝種ネットワークでも、実際生活している方の声を聞いてみましょうか」
 希望ヶ浜で暮らす秘宝種達の情報だって重要だろうと微笑みかける。人の生活への溶け込み方や人へのなりかたを伝えてくれるであろう仲間達。
 グリーフはその中でも無理に人を燃さなくても良いと感じていた。楽しそうだと思うなら人に溶け込んでしまえば良い。
 だが――それが息苦しくなるときもきっとあるだろう。グリーフが彼女を普通の秘宝種であるように接するように、竜真には彼女には『神様』としての感覚が残っているのだろうと感じていた。
(神様の感覚っていうのは複雑だ。正直常人が理解しきるのは難しい部分が多い。
 だが若宮……蕃茄は幼子に近いんだと思う。それならまだまだ分かりやすいし、やり方も色々ある。……この子だけの人間性の獲得も、か)
 今は色々と混じってしまっている彼女が希望ヶ浜で人間らしく生活するには勉学を営み、交通機関とルールについても慣れなくてはならない筈だ。
「希望ヶ浜に行ったら、電車の乗り方や信号の渡り方、その辺からでいいだろうか。多分本当に基礎からしっかり教えていかないといけないだろうか」
「そうだね。後で希望ヶ浜に向かおう。蕃茄ちゃんに僕も教えてあげるね。学力的なものは――そう、予想通りだけど」
 ロトは彼女には高校生平均レベル程度の『学力』と呼ぶべき者は存在して居そうだと感じていた。だが、社会常識が欠如している。
 水夜子にサポートを任せて、確認をした範囲では学力は鹿路 心咲の影響を受けているのだろうが、社会常識や竜真が危惧した一般的な交通機関やルールなどが欠落している。
「これからの生活に必要なその部分は一長一短では身に着けられないしね。教えれば直ぐに把握は出来そうだけれど……。
 此れからは土日以外は家庭教師をしようと思うよ。まぁ、僕は非常務だし、校長に言えば時間は取れるさ、よろしくね」
「先生。よろしく」
 頷いた蕃茄は茄子子を見詰めてからどやりと自慢げな表情を見せた。


「体調が落ち着いたら一緒に買い物に行ってみないか?
 再現性東京で暮らすなら私達以外の人がいる場所にも慣れていく必要がある。最初は知った相手と一緒に行こう。みゃーこも来るだろう?」
「ええ。一緒に行きましょう」
 再現性東京の人間の多さに蕃茄が参ってしまわないかと気遣いながらラダは水夜子が用意していたミネラルウォーターを蕃茄に手渡した。
「ああ、そうだ。辛いのを我慢した後は外に出て何か甘い物でも一緒に食べましょう。
 食事は必須ではないかもしれませんが生きる上での楽しみとしてですね。水夜子様、近くにそういうお店があれば教えてくださいますか?」
「ええ、皆で休息のために行っても良いですね」
 ジョシュアへと頷いた水夜子がマッドハッターに礼を言ってから扉を開き――ジョシュアが転ばないように、はぐれないようにと手を繋いだ途端に蕃茄は「外!」と走り出す。斯うした部分がアンバランスなのだろう。学力と精神の発達が見合っていない。少しずつその乖離を会わせてやるのも必要だろう。
「蕃茄さん、食べたいものやチャレンジしたいものは教えて下さいね。僕と分け合っても良いですし。
 流れやお金の使い方などは一通り教えますが食事は楽しんでもらう事が大事ですよね。食べてみてどうでしょうか?」
「あまい」
 もぐもぐとパンケーキを食べる蕃茄はジョシュアが注文したチョコレートケーキをまじまじと眺める。見た目は子供同士、親しくなれればと感じていたジョシュアに「友達?」と蕃茄は期待を込めた瞳を向けた。
「はい。皆友達ですよ。ここから先は希望ヶ浜で交通ルールを教わりながら行きましょう」
 竜真が走らないようにと手を繋げば、蕃茄はこくこくと頷いて、希望ヶ浜でのショッピングに出掛けて行く。
 ラダはこの町では異邦人である自分も色々と気をつけることが多いのだと告げた。街で過ごす中で注意する事を経験を交えながら少しずつ注意をする。グリーフの『人との混ざり方』も大変興味深い内容だろう。
「服とか生活用品とか、蕃茄は自分の好きな物とか思いつくか? 私やみゃーこが勧めた中から選ぶのでもいい。
 最初はあれこれ試すのもアリだ。そうやって好みを探ればいい。ちなみに私のお勧めだと伝統柄とか装飾多めのになるかな。
 ああ、茄子子に選んで貰っても良いかもしれないな。蕃茄はさっきから茄子子に許可を取っているから」
 母を思うように振り返る蕃茄は愛らしく感じられる。ラダは「土産を買おう」と蕃茄に提案した。
「会長にとか、蕃茄が選んでごらん。はっきり思いつかなくても、例えばその人に合いそうなものや自分と揃いのものでもいいだろう」
「全員に、おそろいというのがしたい。蕃茄、一緒は嬉しいと思う」
 ふんすと胸を張った蕃茄は小さなトマトの根付を選んだ。その隣のぶさいくなぬいぐるみを手にしていた天川は蕃茄と目があってから「趣味が合いそうだな」と揶揄うように肩を竦めて。

「ただいま、先生。探せばあるもんだな」
 トマトの頭にのっぺりとした体に『とまと』と書かれた何ともチープなぬいぐるみを手にして晴陽はその腹を押してみる。
 ぴゅーうと鳴いたトマトのぬいぐるみに「何でもありますね……」と彼女は呆然と呟いたのだった。
「やあ。浮かない顔だな、晴陽さん。複雑そうにしてる。……紅茶、淹れようか。ちょっと練習してて。味を見てほしいんだけど、どうかな」
「……有り難うございます」
 帰還したイレギュラーズを出迎えた晴陽は蕃茄から手渡された根付を見詰めてぎこちなく笑う。
「やはり複雑か……? だがその気持ちに蓋をする必要はないと思うぜ。誰だって嫌なもんは嫌だ。
 こういうのは時間が解決してくれるもんだ。もし駄目なら駄目で愚痴くらいいつでも聞いてやる。そん時は俺の小言にも付き合ってくれよ?」
 笑った天川に晴陽は竜真の入れた紅茶に口を付けながら頷いた。
「皆さんに心配を掛けてばかりですね。……蕃茄が『ただの蕃茄』として歩む未来を私は期待しています」
 そうして、彼女が『蕃茄』となった時、本来の意味で心咲は開放されるのだろうから。そう口にした晴陽の顔を見てから蕃茄は「がんばる」と茄子子の手をぎゅうと握りしめたのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度は蕃茄ちゃんの肉体確保へのご協力ありがとう御座いました!
 本当に小さな子供の様な精神性+αといった神様未満ですが、支えて下さるととても嬉しいです。

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