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シナリオ詳細

高級リゾートビーチで極寒実験って正気ですか?

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「そんなたいして」
 『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)はお茶をゆっくり飲み込むと恵比須顔を浮かべた。
「――難儀な話じゃないさ」
 指先で口元についた焼き菓子の粉を払い落とす。
「ただ、ちょっと、椅子に座り続けてくれればいいだけなんだ」

 度を越した快適さというのは、時として生涯を危うくする。
『とっても暖かい外套』というのが出来てしまった。
 あなたの体形にぴったりフィット。無理ない感じに常に微調整。どこまでも続く快適。皮膚への負担も少ないしっとり触感。
「これがべらぼうに暖かいので、どのくらい寒いとこで効くかの試験をしたい」
 熱いうちにやって、シーズンに間に合わせましょう。それが機能実験。
「それで、それを脱いだ後の反動実験をやりたい。ここの研究所、以前めっちゃ快適な椅子を作ったら余りの快適さに椅子から立たせようとすると喪失感からバーサークする椅子をこしらえたところでね」
 だめじゃん――だが、ボツにするには快適すぎて。
「この前段階での実験では、被験者が片時も脱ごうとせず、着替えを拒否。風呂にも入らず、異臭騒ぎ。魔法で眠らせ、強制脱衣。という事態になって――ユーザーを社会的に殺しちゃダメでしょ」
 それはそう。
「もちろん辛いばかりの実験じゃない。――皆さんにはシレンンツィオ・リゾートに行ってもらいます」
 海洋の『静寂の青』に開発された、今最もアツい一大リゾート地!
「フェデリア、アクエリア、コン=モスカ。一言で言っても広いですが、今回は――」
 情報屋は、本当にじゃじゃんと言った。
「フェデリア海域四番街、リヴァイアス・グリーン!」
 島の北に位置する自然豊かな地区です。ほぼ手つかずの自然が残されており、穏やかな空気を楽しむにはもってこいの場所になります。(ガイドブックより引用)
「自然記念公園でリヴァイアサンと握手!」
 あくまでキャッチフレーズなので、リヴァイアサン像に上らないでください。
「さすがに公園内部には無理なんだけど、ビーチの一部を借り切って、特別実験室をしつらえます」
 情報屋、実験仕様書、読み上げ。
「極寒の部屋でその外套を着てもらって、一定時間経過後測定。しかる後、ビーチリゾートを満喫してもらいます」
 悪くない。
「その間に実験室の温度をさらに下げまして、更に一定時間、以下繰り返しになります。全員がおやばくなるまで続きます」
 おやばく。とは。
「先方のBS回復術のかかりが『無効』にならなくなるまでかなあ」
 極寒地獄の後のスペシャルリゾートのシャトルラン。天国と地獄。いや、外套は超快適なのだ。それ、外套への依存値を上げるだけでは!?
「いや、目の前の素敵リゾートが外套脱げば満喫できるのに、それでも脱がないって言い出したらそれはガチでおやばい状況ってわかりやすいでしょ?」
 一利なくもない?
「まあ、最終的には御素敵リゾート成分多めだからさ。頑張ろうよ。俺も日焼け止めやら経口液やらサポートするから。実験中は文字通り持ち込みなし。武器は己の肉体オンリーだから。まあ、実験室に持ち込めないもの持ってきたときは俺が預かるから心配するな」
 メクレオは、薬物系スタッフとしての参加なのでリゾートを満喫できないのだ。
「持っていくならリゾート用品とか見ると正気を取り戻すモノとかがいいんじゃないかな」
 そう言って、情報屋はにっこり笑った。
「砂浜に行くとき渡してやろうな」

GMコメント

 田奈です。
 水着依頼の季節ですね! 今年は海水浴していいです! 四捨五入すると、リゾートですよ!
 さっきまでの素晴らしかったリゾート体験の思い出と実験が終わった後のリゾート体験への期待でヒトは生きていけます。大丈夫です。
 天国と地獄をいったり来たりして、「いやだー! もう実験室には入らない―」とか「この外套を脱ぐとかありえない。リゾートとかどうでもいい」とか世迷言を言う心の準備が大事だと思います。
 拙作「座ると死んでしまう椅子を立証せよ!」を読んでいただけると雰囲気はつかめるかなあという気はしますが、フレッシュな気持ちで挑むのも悪くないと思います。
 新鮮な悲鳴はご褒美です。
 
場所・冷凍実験室
 貸し切りビーチのど真ん中にドーン! ドア一枚でリゾートビーチです! 超親切設計!
 だだっ広い何もない部屋に椅子が離れて八脚置かれています。
 隣の椅子までは、五メートルはあります。抱き合って暖を取るとかは実験結果に誤差が生じるのでなしの方向でよろしくお願いします。
 平たく言うと、業務用冷凍倉庫です。
 振り回したタオルが凍るくらいの低温は想定しています。
「冷え切って凍えるまで出られない部屋」です。ちなみに時計はありません。サーモグラフィーで観察し、皆さんが冷え切るまで。が基準なので、いつ出られるかイレギュラーズにお知らせすることができません。
 ですので「あと何分――!」という踏ん張り方はできませんがご了承くださいね。
 防寒着は実験結果に影響しますのでこちらで用意させていただきます。あしからずご協力ください。

 休憩所・高級リゾートビーチ
 実験の合間に満喫してください! 美しい砂浜から眺められるフェデリア自然記念公園の景色を楽しみながらの海水浴をお楽しみください。
 咲き乱れるトロピカルな花々。美しい木々の木漏れ日や椰子の木の葉擦れの音。
 メクレオ提供のノンアルカクテルや椰子のみジュースもございます。
 アルコールは実験結果に影響しますので実験中はご遠慮ください。
 水着、新調なさってくださって結構ですよ?
 もちろん全年齢なので、田奈のいかがわしいのは恥ずかしいセンサーに引っかかった場合は容赦ないマスタリングを致します。

アイテム・とっても暖かい外套
 試作品なので、外見は中綿ジャケット。
 とても暖かい。冷凍実験室の中であなたはその快適さのとりこになるでしょう。君がいなくては生きていけない。
 それを「ビーチリゾートだから」って脱げとか言います。
 至極当然の文言ですが、どんどん過酷になっていく状況でも変わらない暖かさを提供してくれる外套を脱ぐのがどんどん困難になってきます。
 あなたはどのくらいの寒さでその外套が脱げなくなりますか? お外はいい感じの日差し刺すリゾートビーチです。水着がマストアイテムです。そこで外套を脱ぐ。当り前のことがどのタイミングでできなくなるか。そこのラインの見定めが実験目的ですので、よろしくお願いします。
 なお、プレイングに記述がない場合、田奈がその場の雰囲気と面白さの神様のお告げに従いますので、ぶれないキャラ造形の為明記をお勧めいたします。

 実験結果に影響しますので、環境を快適にする装備品を持ち込まれた場合、メクレオが責任をもって任務中お預かりいたします。
 持ち込むなら、ビーチボールとか満喫グッズの持ち込みを推奨いたします。せめて海岸にいる間は正気を取り戻すためのアイテムも大事ですね。

 <重要>
 プレイングが薄い場合、田奈が穴が開くほどキャラクターシートを眺めて新たな一面を開発してしまうかもしれません。脳裏に浮かんでも外には意地でも出さないNG、リプレイ内で触れないでほしいNGをきちんと書いていただけると田奈も安心してコメディに走れます。よろしくお願いいたします。
 プレイングは根性で拾いますので、安心して死ぬ目に遭ってください。後遺症が残ることはありません。
 徹底的に吹っ切れたい場合、「覚悟完了」と書いていただけると、田奈が神妙な顔をして頷きます。よろしくお願いいたします。 

メクレオについて
 メクレオとは実験室の出入りの時に接触できます。実験室に引きずり込んでも、環境が変わるので実験は開始されません。一蓮托生できませんのであきらめてください。
 また、メクレオは薬師として参加しているのでビーチで遊べません。
 イエス・トーク、ノー・タッチでよろしくお願いします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 高級リゾートビーチで極寒実験って正気ですか?完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2022年07月13日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
高槻 夕子(p3p007252)
クノイチジェイケイ
御子神・天狐(p3p009798)
鉄帝神輿祭り2023最優秀料理人
ミリアム・リリーホワイト(p3p009882)
白い影
リドニア・アルフェーネ(p3p010574)
たったひとつの純愛

リプレイ


「夏だ! 海だ! 冷凍室だ!!」
『善なる饂飩屋台』御子神・天狐(p3p009798)、おうどんは用法、用量を正しく守ってお召し上がりください。
「常夏のビーチが私を呼んでいますわ!!」
『夢先案内人』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)、この依頼でギャグキャラ属性持ちはギャンブルが過ぎる。
 滾る情熱と迸る気合&根性が織り成す一夏のアバンチュール、陽気な日差しと冷凍室の飴と鞭。と、天狐は独り言ちた。
「ツンとデレの振り幅が大きすぎて風邪引きそうじゃな!?」
 万全の態勢で実験をいたしますが、万が一の体調不良時には適切な治療と保証は致します。ご安心ください。
「上等! 熱さと寒さを交互に繰り返すと涅槃に至れると最近話題なのは知ってましてよ!」
 整う気満々のリドニアが気炎を吐いている。
「なんでそんな実験が必要なんだ……?」
『白い影』ミリアム・リリーホワイト(p3p009882)が、実験の意義を問う。外套の下は下着ではなく、水着だ。リゾートビーチを満喫する気だ。
 件のコートはとあるヤバい椅子の派生の産物。詳細はローレット資料室で。
「前の椅子もそうだが、どうしてこう極端なものばかり開発するのだろう」
『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)の疑問はもっともだが、生まれながらに極端になるものもある。もこもこは生まれながらにかわいい――そんな感じだ。ゲオルグならお分かりいただけるって信じてる。
「どうよ。この水着! ぎりっぎりを攻めてみたわ!」
 小悪魔風ビキニの『クノイチジェイケイ』高槻 夕子(p3p007252)は、蠱惑的な魅力に満ち溢れていた。ぜひ、実験後に役立ててほしい。ビーチ貸し切りだからアバンチュール無理なのだ。
「へ? 何、このコート? へ、実験室?」
 さあ、どんどん行こうね。どんどん着ようね。
「あーしこんな事するなんて聞いてなーい!」
 契約書と録音機は情報屋の必須アイテム。『高槻裕子さん、この依頼受けてくれますか』『いーよー。高級リゾートビーチにいるだけでしょー?』
 そう。ただ座る場所と着るものが時間単位で指定されるだけだ。
 『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は、小声で恋人に囁きかけていた。若干早口。
「マリィ、無理しなくても良いんですのよ? にゃんこが寒さに弱いのはみんな知っているのですから、コタツで丸くなっていても誰も文句は……」
 心配そうな目。そこに愛がある。
「ヴァリューシャぁ!? 私は猫じゃあないんだよぉ!」
『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)にはそれを感じながらも、譲れないものがある。
「見ておいておくれ! 私が真の虎ということをこの実験で証明してあげようじゃあないか! これで君も私に惚れ直すこと間違いなし! 虎まっしぐらさ!」
 求、マリアと同世界出身の客観的視点を持ったウォーカー。
 実験をさっさと終わらせて愛しのヴァリューシャとリゾートを楽しむ気満々のマリアから突きあがるフラグのでかさに、リドニアは小さく感嘆を漏らした。
 見える。派手な転落フラグが。
「はーん? 私を舐めるんじゃあないよ! 私は神殺しの軍人で! 雷光殲姫と呼ばれた女だよ! 寒さなんてへっちゃらさ!」
 旗で浜辺が埋まっていく。ビーチフラッグ、全員優勝状態。
「コートをどの段階で脱げなくなるかだって? そんな甘っちょろいことを言わずとも最初から水着でも何の問題もありはしない!」
 そういう人にコート着せたらどうなるかっていう実験な訳で。実際、その枠は極寒超越を持つヴァレーリヤと『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)だったりするんだが。
「いつなんどきだって私はコートを脱げるということを証明してあげよう!」
 その時、リドニアは、天を覆わんばかりの巨大な旗が屹立したのを見た。ここから先は悶え苦しみ脱衣とヌクモリティの狭間で足掻き苦しむ姿をさらすことになるのだ。あがくことすら無意味な現実カミングスーン。
「どれだけコートを着なくても耐えられるかってショウブってことだよね! オレは寒さには強いからね! 負けないよ! え? 違う?」
 いそいそコートを着るイグナートにスタッフによるかくかくしかじか。趣旨理解って素晴らしい。
「趣旨は勘違いしていたけれど、精神ホウカイする前にちゃんと生還しようね! ミンナも身体には十分気を付けてね!」
 イグナートの笑顔がまぶしい。これから冷凍室に入るなんて思えない。
「はぁ、つらい……でも、こんな時のために……」
 ミリアムの手に携帯端末。あの子の秘蔵の激写や録画データがみっちり。
「事前の充電とデータ保存をしておけば、圏外でもどこでも使えるんだよねぇ。どんな地獄でも、これさえあれば生きていける……! あぁ、いい、いいぞ……!うへ、へへ、うへへへぇ……」
 ミリアムの肩を叩くスタッフ。差し伸べられる手。
「は? なんでこれまで……? 本体が放熱するからNG!? ふざけるな! どこまで自分から生きがいを奪えば気が――」
 そんなこと言っても温度管理大事だし、低温が過ぎると端末の動作保証対象外になるし。掛け替えのないデータが飛んだらとりかえしがつかないでしょう?
「待って! 持ってかないで! それだけは、それだけはぁ……!!!」
 さあ、どんどん大切な物保管箱に入れちゃおうね。
 ミリアム。泣いてはいけない。涙が凍ってまつげ折れちゃうから。


 冷凍庫はほどよく冷えていた。
「ア!」
 リドニアが死んだ。この人でなし!
「極寒! 悟る死! このジャケットが無ければ深緑決戦以来の死を覚悟していましたわ! help! もう凍ってますわ!」
 ただ今の設定温度、寒冷地ならパジャマにつっかけで新聞取りに行くレベルである。寒冷耐性が、ヴァレーリヤの酒に関する言い訳を聞くマリア並みにちょろい。
「これじゃ、全然代わりにならない……こんなの、はやくおわればいい……暖かいはずなのに、何も満たされない。早く脱ぎたい……」
 ミリアムの様子がおかしいのは、愛用外套からの脱衣ロスに携帯端末没収ロスも含まれている。
 比較実験的にはいいかもしれない。プラシボ効果完全排除状態でもコートが暖かいことは立証されました。心の支えにならないだけで。
「あ、でも結構快適。やーん、全然寒くないじゃないの。これなら許してあげるわ」
 コートの下は水着一枚の夕子ちゃんもにっこりのぬくぬくさ!
「それにしてもこのコート、まるで日向ぼっこで太陽の光をたくさん浴びた羊さんの毛のように暖かいな」
 形容のかわいらしさに定評があるゲオルグは、ふわふわ生地に鼻をうずめた。
「いや、これ本当にどういう技術なのだろう」
 深く考えない方がいいんじゃないかな。その生地の感触、ゲオルグは覚えがあるでしょう?
「おほ、おほほほ、余裕でございますわーー! 鉄騎たる私に、この程度の寒さで挑もうなど無力! お酒なしで一日を過ごすが如き無謀!」
 ヴァレーリヤは余裕。北国の酔っぱらいは極寒超越入れておかないと道端で寝込んで凍死の可能性があるのだ。本日の実験はノンアルコールで。つまり無謀な一日です。契約に基づいて行動してもらいます。
「どうしましたの、そんなに震えて? なんであれば、私のコートを差し上げてもよろしくてよ?」
 無言で二の腕をさするリドニアには、話しかけてくるヴァレーリヤの背後ではためく旗が見えた。これは慢心べっきりフラグ!
「ヨユウがある時に高い酒と食事を食べとかないとね! 後は水泳でトレーニングと行こう!」
 マリアはビーチをガラス越しに眺める。
「あぁ……コート暖かい~♪ ――でもいつ脱げと言われても応じることが出来る猛虎さ!」
 巨大な旗と旗をつなぐように万国旗まではためき始めた。まだ最初なのに。満艦飾の気配さえしてくる。
 リドニアの歯の根が合わない。冷やされているからなのかフラグの数におののいているのか自分でもわからなくなってきた。

「いい頃合い。さあ、コートを脱いでビーチを楽しんで?」
 まずは常温のノンアルカクテルで体調を整えて。と、自律神経が死なないように投薬してくるメクレオの笑顔が胡散臭い。
「脱ぐの? まああーしの水着を隠すのもアレだし」
 夕子は脱いだ時一抹の寂寥感を感じた。これ、あーしのね。と着ていたコートに目印を付けた。
「こうして日差しを浴びながらノンアルカクテルを飲むのは至福でしてよ」
 今年は水着を新調したヴァレーリヤにマリアは目を細めている。
 キャッキャうふふの休憩時間。熱い砂浜。吹き抜ける潮風。飛び散る水しぶき。
 おいしいドリング、みずみずしいカットフルーツ。
 ああ、まごうことなき高級リゾートビーチ。
「ふう。心が癒えますわ。さて、もう一回実験室へ」
 冷凍実験室に冷気を送り込む装置がさっきより大きな音を立てている。
「ア!」
 リドニア以下略。
「馬鹿!!! さっきから下げる奴があるか!」
 事前通達済みだが、そういう実験である。
「こんなの耐えきるのそこの赤い聖女様くらいですわ! 私達は通常の体温しか持ってませんのよ!? メクレオ! help! emergencyですわ!」
メクレオは笑顔で手を振っている。まだ慌てるような気温ではない。
「『まぁイレギュラーズなら平気平気多分余裕で耐えるよあいつ等』とか思ってません!?」
 のじゃロリ天狐もお嬢様口調になる程度の寒さ。
 いやいやそんな。でも、イレギュラーズ奈良限界まで頑張ってくれるって信じてる。スタッフ達のあらあらウフフな薄い笑いがそう言っている。
「えぇ耐えれますとも!! 耐えてみせましょうとも!! 実験に役立つのなら!!」
 これも技術発展のため。皆さんの尊い献身に感謝します。
「あぁ……さむい、さむい。つらい、つらい……あたたかくない……どうして、どうして……はやくおわって……」
 ミリアムさん、サーモグラフィーではぬくぬくですよ。心が寒いのね。
「あかんわ。これ、寒さじゃなくて、愛着対象なくなっておやばくなってるわ」
 心理的観点から、ミリアム、リタイヤ! 浜辺で携帯端末と自前の外套を着てゴロゴロするがいい。
「というか、もう少し後のあいつらの姿かもなあ」
 メクレオが言った。寒さにやられるんじゃないんだ。物ロスに苛まれるんだ。
「とらぁ…」
 マリアが連れてきたマスコットのとらぁ君が鳴いた。マリアはまだ元気だ。とらぁ君に手を振っている。
「ああ。うん。そうならないように祈ろう。それじゃ一般普及商品にならない。素敵拷問具の未来しか見えない」


「はい、休憩! 外に出てコート脱いで!」
 冷気にさらされた椅子から立ち上がった夕子の上目遣いの目がぐるぐる。コートに指が食い込んでいる、
「ギダっち! 後でいろいろいーことしてあげるから、あーしを見逃してくんない?」
 夕子さん、それ以上はいけない。
「ほらほら、あーしのおっぱ……コート脱ぐの、むり……!」
 焼けた砂の上。降り注ぐ太陽光。水着がユニフォームのリゾートビーチ。サーモグラフィーは急上昇。今すぐ脱げ。熱中症になるぞ。
「このコートがないとあーし何もできなくなっちゃうぅ」
 脱いだらぬくぬくが逃げちゃう。いや、逃げていいんだよ。炎天下。
「コートのぬくぬくに全部支配されちゃうぅ! あーし、もうどうなってもいいのぉ!」
 メクレオが時計を確認して書類に時刻を書き込み、裁ちばさみでコートの後ろ見頃を背骨に添って真っ二つに切り裂いた。
 ビーチにこだまする夕子の悲鳴。ライフセイバーさん、違います。
 今回のメクレオの仕事は「超級トラの実績があるイレギュラーズの心身を守ること」だ。
 あなたの異常行動は資料として記録されます。
「んでも、ナイスおっぱいだわ。もったいないから、みせるなら俺以外にしとけ。お疲れ」
 夕子、リタイヤ! 震えて眠れ!
 天狐がおうどんをゆで始めた、いい匂い。
「メンタルが中程度やられてきたら回復に勤しむぞ。なぁに饂飩のストックならいくらでもある、茹で放題じゃ」
 お鍋の中でくるくる回るおうどんを見てる。癒される。いつまででも見ていられる。
「ビーチで食べる分はいくらでも食べていいけど、実験室への持ち込みはなしな。環境変わるから」
「は?」
「冷え切った体を温めるのはありだけど、実験室の中であつあつのおうどんで耐久するのはなしだよ」
 つまり、ビーチで灼熱我慢大会はありだよ。と、メクレオは笑顔で言った。
「端末没収されたミリアムの献身が無駄になる」
 リタイアしたあと、ミリアムは自分の外套をがっちり着込み、一瞬も携帯端末から目を離さないままトロピカルドリンクを飲んでいる。思い出に海にも入るんだよ。
 イグナートは、脱ぐ動作が緩慢になったと感じていた。
(そろそろ脱ぎたくないキモチが強くなって来たね……他のミンナはどうだろう?)
 リタイヤが二人、おうどんの山を築いているのが一人。
「もう既にちょっとおかしくなってるメンバーも居るなぁ……」
 強者の余裕だ。鉄帝、めっちゃ寒い。
「天狐、うどんもらえる?」
「――おお! たんと食うがいい! ビーチでしか食ってはならぬと」
「頑張ろうね!」
 うどんのおつゆをすすりながらイグナートは言った。
「正直、なんでコートを脱がなきゃならないのかギモンになって来てる!」
 そう言うイグナートの横に、ゲオルグが並ぶ。おうどん一丁。
「まったくだ。だが、そんな状態でもねこたんを見ると一瞬で正気ににもどれてしまう」
 抱っこされてる、くろくてはねのはえたかわいくてむがいなねこたんです。×4。
 イグナートは、もの言いたげにしながらも無言でうどんをすすった。天狐もである。ずるずる。
「え、それはそれで正気は失ってるだろ、だと? 失敬な、これは私の平常運転だ!」
 モフモフをめでるために世界を癒す男なのだ。ヒトにはいろんな生き方がある。
「もはやこれは勝負。私と実験、どちらが先に音を上げるのか勝負だ!」
 ねこたんがにゃあと鳴いた。
「なに。これ以上ヤバ目になったら、特製クソマズカクテル作ってショック療法ヨロシク的な『ブレイクリミットオーダー』込みの反応1200による勢いで口に流し込むぞい」
 天狐の心遣い。みんな元気に実験クリアしたいという心意気は尊い。が、おめめが鍋で踊るうどんのようにぐるぐるだ。
 天狐、強制終了。うどんの山だけが残った。
 ゲオルグが陥落したのは冷え切ったゲオルグのほっぺすりすりからねこたんが逃げた次のターンだった。


 リドニアは結構しぶとかった。
「このジャケットあってもくたばりましてよ! 自律神経整うどころかオーバードーズでしてよ!」
 死にもしないで、元気に怒鳴っている。ナニカを突き抜けたらしい。
 規定時間はすぐに来るような気がする。体内時計はもはや信用できない。
「このジャケット脱げ? お前は何言っているんだ?」
「なんだって!? 嫌だよ!? 寒いじゃないか!!!」
 リドニアとマリアが声を荒げた。極寒超越を持たぬ者の限界。
 とらぁ君がとらぁと鳴いた。マリアの世界の虎の顔が見たい。
「リゾートビーチなので」
「殺す気か?」
「逆に脱がなきゃ熱中症で死ぬが?」
「でも、いやですわ!」
 それでも脱げなかったリドニア、陥落。
「私はこのコートに包まれて暮らすんだい!!!」
 コートごと自分を抱きしめるマリアの様子に心配のあまり青ざめるヴァレーリヤ。ヤベーですわ。
「はっ!? ヴァリューシャ!? 寒いのかい!? はい! 私のコートあげるね!」
 バサァ! 止めるに間もあろうこそ。ああ、マリア。あなたこそ電光石火。マリアはコートを脱げた。よし。休憩後、もう1セット行ってみようか!


「さむっ!? さっむ!? 何だいこれ!? バカじゃないのかい!? 早く出したまえ!」
「くぅ……もうダメなのか? この程度の誘惑に勝てない程度なのかオレは? 暖かいコートに負けるなんて……!」
「うおーーーー、そのコートを寄越しなさい! さもないと、タダではおきませんわよ!!」
「うわぁ!? 寒いよぉ!」
「ミンナの地獄絵図は見えてないよ! 見なかったことにするのがブシのナサケ!」
「あくまで抵抗するつもりですのね!
「最後は自分とのショウブ!」
「であれば、この場で捕まえて、永久凍土に埋めて、延々と冷凍うどんをかじってもらう……ことに」
「ヴァリューシャ、私のコート上げるね。私は大丈夫だよ。虎だから」
「……お花畑……綺麗ですわ……」
「――こんなこと絶対に許すことができない! 出さないと怒るよ!」

「もういいよ。外に出て」


 砂浜は熱く、波の音は耳にやさしかった。
「はっ、お花畑は!? 永久凍土で延々と冷凍うどんを食べ続けるイグナートの面白映像はどこに行きましたの!?」
 ヴァレーリヤが周囲を見回すと、一緒にビーチに来た仲間はみんなデッキチェアで長々と寝そべっている。
「アルハラ? アルコールを取り上げるハラスメントのことかな?」
 イグナートはメクレオを仕事上がりの酒に誘い、ゲオルグはねこたんの腹に顔をうずめ、天狐は夕子とリドニアにうどんを勧めている。ミリアムは携帯端末を凝視してドリンクを飲んでいる。
 そして、ヴァレーリヤのマリィがとらぁ君を抱きしめて安らかな寝息を立てている。
「暖かいですわ……天国って、ここにありましたのね」
 神に感謝する言葉を口にして、ヴァレーリヤは椅子の背に体を投げ出す。背中にもふっとした触感。着ている。コートを。暖かい。快適なコートを。高級リゾートビーチで。マリアの匂いがする。
「目が覚めたかい、ヴァレーリヤ。あんたで最後だ」
 メクレオが笑いながら近づいてきた。
「さあ、仕事は終わりだ。コートを脱いで渡してくれるかな」

成否

成功

MVP

マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。おかげさまでよいデータが取れました。きっと素敵な商品になるでしょう。ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。

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