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シナリオ詳細

<光芒パルティーレ>深海よりのマレビト

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●フェデリアより発して
「海! 白い砂浜! 夏の日差し!」
 ばっ! とプライベート・ビーチでその両手を広げるのは、カヌレ・ジェラート・コンテュール(p3n000127)その人である。
 隣には、同行を求められたラーシア・フェリル(p3n000012)も居て、苦笑しつつも、足元のさらさらとした砂の感触を楽しんでいた。
「そう、こここそ、まさにコンテュールが誇るプライベートビーチ! なのですわ! 皆様!」
 と、胸を張るカヌレに、あなた達ローレット・イレギュラーズ達は苦笑した。
 突如としてカヌレに呼び出されたあなた達ローレット・イレギュラーズと、情報屋であるラーシア。しかも水着で、という事で、突然の招待に困惑していたが、しかし単なるわがまま……というわけではないらしい。
「今回は、私直々に、お仕事のお願いをいたしたく、およびいたしまして」
 と、カヌレが言うのへ、あなた達は真面目な顔をする。
「あ、お仕事なんですね」
 ラーシアが苦笑するのへ、
「もちろん、お話が終わりましたら、皆様私たちのプライベートビーチでひと時の休息をとっていただきたい所ですが……さておき。
 ダガヌ海域のことはご存じですわね?」
 もちろんだ。フェデリアと豊穣の間に浮かぶ、広大な海域は、今は多くの船舶が行方不明となる死の海域となっている。
「皆様にも調査は行ってもらっておりますが、私どももただ皆さんにお任せするというわけにもいきません。
 そこでこの度、海洋軍から選りすぐりの調査部隊を派遣して、大規模な調査を行うことになったのですが……」
「そこに、同行してほしい、という事ですか?」 
 ラーシアが尋ねるのへ、カヌレは頷いた。
「はい。もちろん、私ども海洋軍の艦船も修練は積んでいますが……やはりそこは、歴戦の皆様のような、窮地の際に頼れる存在が欲しい、というのは本音。
 そこで、皆様ご自慢の船でも良いですし、私どもの船に同船してもらっても構いません。
 兎に角、この大規模調査に付き合っていただければ……と思った次第です」
「それは、勿論構いませんよ。
 フェデリア付近の平穏を取り戻すためにも」
 ラーシアが微笑むのへ、カヌレもまた満面の笑みを浮かべた。
「ありがとうございます! 頼りにしておりますわ!
 さて、今日は壮行会という事で! 私どもの自慢のプライベートビーチで、心行くまで休息をとってくださいまし!」
 そう言って笑うカヌレ……もしかしたら、此方の方こそが、本音だったのかもしれないけれど。
 さておき、カヌレと共にプライベートビーチで英気を養ったあなた達は、翌日早速の、大規模調査へと同行するのであった。

●深海より、発して
 ダガヌ海域――。
 今や、海洋でも有数の危険地帯となったその海の中。深いディープブルーの青の中を、一人の『海種(ディープシー)』の少女が泳いでいた。
 外見年齢で言うなら、17前後と言った所だろうか。その目は真っすぐと前を向いて。後ろを振り返ることなく、ただただ真っすぐ。
 決意に満ちた表情は、しかし後方への恐怖の色がにじんでいたのは事実だ。前を向いてい進むという決意はあれど、恐怖を簡単に殺せるほど、強い人はまれだ。少女はそう言った意味では、強い人ではなかった。だが、それでも必死に、この危険海域を泳ぐだけの覚悟と意味は、持ち合わせていた。
「待ってて、待っててね、メーア。あたしが何とかしてみせるから……!」
 力強く、足で水を蹴った。下半身は魚のそれ。マーメイドタイプの海種である彼女は、自由自在に海を泳いでみせる。それでも、ダガヌ海域は危険だ。事実、あちこちに『深怪魔(ディープ・テラーズ)』と呼ばれる怪物が徘徊しているのだ。現に今も、数匹の穢れた以下のような怪物が、彼女を追っていた。
「……! 『深き魔』……! あたしをおってきたの!?」
 追跡に気づいた少女が声をあげる。深き魔、と彼女は言った。追跡する深怪魔を指して。ならば、彼女は我々、海洋や豊穣と言ったシレンツィオに関わる人間とは別口で、深怪魔を認識し、独自に名をつけた……ということが予測される。
 それはさておき、少女は思いっきり水を蹴って、速度をあげた。すでに体力は限界に近く、身体は悲鳴を上げている。それでも、必死に泳いだ。目的が、彼女にはあった。
「……あれ、外の人の船だ!」
 少女の目が希望に輝いた。少女は目を閉じて一気に上昇すると、海面に顔を出す。
 少女の前にあったのは、海洋軍の、ダガヌ調査船だった。相応の武装をしているその調査船から、慌てたように船員たちが顔を出す。
「何やってんだ嬢ちゃん! 海水浴なんて場所じゃないぞ!!」
 船長らしき男が叫ぶのへ、少女は叫び返した。
「助けて! お願い! 追われてるの!」
「ああん!?」
 船長が声をあげる――刹那、少女を追って、海面に巨大なイカのような怪物が姿を現した。
「深怪魔か!?」
「ロープ降ろせ! 嬢ちゃんを回収!」
「オーライ、お嬢ちゃん、掴まって! 放すなよ、こっちで持ち上げる!」
 水着のような奇妙な服を着た少女が、船上へと釣り上げられる。マーメイドの脚を人のそれに変えて、少女は叫んだ。
「お願い、近くの島まで連れてって! できれば偉い人がいる所!」
「まずはあれから逃げてからだ! 総員、転回! さすがにこの船であの怪物の相手は荷が重い!
 魔術通信! 近くを通ってる調査船に連絡付けろ! たしか、ローレットのイレギュラーズが乗ってる船が近くにいるはずだ!
 ローレットのイレギュラーズなら、何とかしてくれる!」
「ローレット? イレギュラーズ? 聞いたことあるやつだ!」
 ぱぁ、と少女が目を輝かせる。
「なんか豊穣とかをたすけて、あと、りばりば? を倒した人たちでしょ!? ねぇ、知り合いなの!?」
 船長の腕にすがり着くように言う少女、船長は慌てて返した。
「おい、くっつくな、邪魔だ! 知り合いってわけじゃあねえが、今フェデリアを中心に仕事についてもらってるんだ。
 俺たちゃ、海洋軍の船だからな、連絡付けろってなら、つけられるが……」
「お願い、連絡つけて! あたしたちの都が大変なの! それから、メーアも大変! ああ、あと神器もバラバラになっちゃったし、あとあいつ! ほら! 深き魔は目覚めちゃったし、それで……!」
「わかった、とにかくいったん落ち着け……嬢ちゃん、あのイカ野郎についてなんか知ってるんだな!?」
「そう! とにかく大変なの!」
「分かった! 魔術通信! 至急援軍を呼んでくれ!
 こっちはVIPのお嬢様を保護の可能性! 最悪、お嬢ちゃんだけでも連れ帰ってもらうぞ!」

「あぁ? 重要人物らしきお嬢さんを保護?」
 と、あなた達、ローレット・イレギュラーズが乗船する海洋軍艦船の船長は、部下からの報告を受けてそう声をあげた。
「はい! なんでもそう言ってます! それ以前に、大型の深怪魔に襲われているようです! このままではまずいと!」
「VIPってのはよくわからんが、すぐに向かうと伝えろ! 当該船は南西側から……オーライ、そのままこっちに向かうように伝えろ!」
「ハッ!」
 と、部下が出ていくのへ、船長はあなた達イレギュラーズへと視線を移した。
「というわけで、すまんが状況が変わった。もともと、この辺りの海域調査をお願いしていたんだが……」
「はい。他の船が襲われたのですね?」
 同行していたラーシアがそういうのへ、船長は頷いた。
「ああ、しかも重要人物を保護してるらしい。
 それはよくわからんが、とにかく助けに行かないと不味い事は確かだ」
「敵の総数は分かるか?」
 仲間のイレギュラーズが言うのへ、船長は頷く。
「ああ。デカいイカ……クラーケンタイプだな、その深怪魔が一体。子供みたいな小さいのもつれてるらしい。
 ガキどもは俺たちでも相手できるが、大型と、とりまきのガキどもはお願いする必要があるな。頼めるか?」
 その言葉に、あなたを始めとしたイレギュラーズが頷く。どうやら、状況は一刻を争うようだ。
「よし、アンタらの仕事は、第一に深怪魔を倒し、味方船を救う事だ。
 それがかなわない場合は、重要人物とやらを回収、海域から離脱してフェデリアへ護送することだ。
 自前の船はあるか? 最悪此方から船を一隻貸し出す。それに乗って、アンタらだけでも離脱しろ」
「そんな、それじゃああなた達を見捨てることに……!」
 仲間のイレギュラーズが叫ぶのへ、船長は頷いた。
「そうなる。今襲われてる船の船長とは知り合いだが、アイツはつまらん嘘はつかんし、判断力とカンは確かだ。
 奴が重要人物だというなら、間違いない。俺たちの命を代わりにしてでも、重要人物は連れ帰ってもらにゃならん。
 それに、最悪の場合、だ。アンタらがうまく働いてくれれば、全員命は拾える!
 全員を助けてくれるなら、願ったりかなったりだ。あてにしてるぜ」
 船長の言葉に、あなた達は再び、力強く頷いた。見捨てて逃げる、などはしたくない。
 できればすべてを、全員を救う!
「よし、それじゃあ準備頼む!」
「わかった! 皆、やるぞ!」
 仲間の言葉に、あなたは頷いた。
 かくして、突然の救助作戦の幕が上がるのであった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 ダガヌ海域で、深怪魔に襲われた調査船を救出してください。
 なんでも、重要人物が乗っているらしいですが……。

●成功条件
 調査船『白の荒熊号』が健在の状態で、すべての敵を倒す。

●特殊失敗条件
 調査船『白の荒熊号』が航行不能のダメージを受ける。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 ダガヌ海域調査のために、海洋の調査船に同行していた皆さん。
 さっそく任務に取り掛かろうとしていた所、突如付近を航行中の船からSOSが届きます。
 なんでも、重要人物を回収した所、それをおってきた深怪魔に襲われてしまったとの事です。
 このままでは調査船は沈み、重要人物とやらの命も危うい……。
 そこで、皆さんは速やかに救助に向かい、敵を撃退。調査船を助けてあげてください。
 作戦決行地タイミングは、日中。戦場は水上・或いは船の上、となります。
 船は貸出されており、水上での移動は問題ないものとします。持ち込みのアイテムとしての個人所有の船があれば、より素早く現場に着くことが可能となり、戦闘や救助面で有利になるでしょう。

●エネミーデータ
 深海より吠えるもの ×1
  一言でいうならば、巨大なクラーケンです。ぬるぬるとした体表は、特殊抵抗高めの特殊な皮膚であり、BSへの抵抗がやや強めとなっています。
  EXAが高い……というか触手が多いので、複数回の連続攻撃も可能としています。
  特殊ルールとして、『触手の切断』を狙う事ができます。ハードヒット以上で命中させることができれば、触手が切断され、深海より吠えるもののEXAが一定値低下します。
  が、狙いをつける必要があるため、この行動を起こした場合は、自身の回避値が1ターン低下してしまいます。
  『毒』系列や『痺れ』系列のBSも付与してくるほか、意図的に『白の荒熊号』への攻撃も行います。攻撃を引き付け、『白の荒熊号』へのターゲットを反らす必要もあるかもしれません。

 深海よりの落とし子 ×20
  上記の敵の眷属的な存在です。深海より吠えるものをミニマムに、人間代くらいのサイズにしたイメージです。
  親と同等に特殊抵抗高めで。『毒』や『痺れ』啓礼津の攻撃を行いますが、EXAは高くありません。
  また、こちらはある程度、味方NPCである海軍兵士や海軍船が応対してくれるので、多少は、数を減らしてくれるでしょう。
  もちろん、まかせっきりは良くありませんが、頼れるはずです。

●味方NPC
 海洋海軍船員 ×20
  『白の荒熊号』所属の海洋海軍船員です。主に落とし子の相手をしてくれます。
  戦力としてはそれなり。守らなくても死ぬことはないですが、まかせっきりで状況を打破してくれるほど強くもないです。
  放っておいても、適切に落とし子と戦ってくれます。的確に指示をすれば、実力以上に動いてくれる可能性もあります。

 深海より来る少女 ×1
  今回、深海の『都』からやってきたと語る少女です。重要人物、と目されているようですが……。
  『白の荒熊号』の船室に隠れています。最悪の場合は、彼女を連れて、海域から離脱する必要があります。

 ラーシア・フェリル ×1
  同行していたローレットの情報屋の女性です。
  戦闘能力はそれなりですが、一緒に深怪魔と戦うというよりは、重要人物の少女を護衛するのに任せた方が色々と安心でしょう。
  特に指示がなければ、そのように行動しています。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加を、お待ちしております。

  • <光芒パルティーレ>深海よりのマレビト完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年07月15日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

レッド(p3p000395)
赤々靴
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
リディア・T・レオンハート(p3p008325)
勇往邁進
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)
陽気な骸骨兵
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘

サポートNPC一覧(1人)

ラーシア・フェリル(p3n000012)
星翡翠

リプレイ

●深海より来た者達
 調査船、『白の荒熊号』は全速全開でダガヌ海域を航行する。マストを大きく広げ、ありとあらゆる風を拾い、最悪は船員総出でサブ動力のスクリューを回転させた。兎に角一刻も早く、味方船と合流する必要があったのだ――。
「お客さんはどうした! でかい方だ!」
 船長が叫ぶのへ、船員が答える。
「つきっきりで泳いできてますよ! 疲れねぇのか、あのイカ野郎!」
 後方を見れば、巨大なイカのような怪物・クラーケンが海を割って船舶を追っている。ぐねり、とクラーケンが身をよじると、その身体が泥のようにはじけ飛び、人型サイズの巨大なイカのような怪物が生み出される!
「増えんのかよクソが! ガキが増えました! 数は――大漁!」
 毒づくように悲鳴を上げる船員たち。小クラーケンは、まるでジェット推進のボートのように高速で海を泳ぐ。
「まずいな、とりつかれるぞ!」
 船長が叫んだ。
「何匹か確実に上がって来るぞ! 接近戦用意!」
「オーライ、接近戦用意!」
「わわ、凄い事になっちゃった!」
 目を丸くして、少女が声をあげる。金色の髪と、真っ青な瞳。まん丸の瞳は、目の前で怒号をあげて走り回る船員たちを必死でおっている。
「目ぇ回すぞ嬢ちゃん! 船室に居な! 最悪、嬢ちゃんだけでも逃がすぞ! 脱出艇用意しとけ!」
「そんな、ダメだよ! おじさんたち、怪我しちゃうよ!
 ってか、そうか! あたしが狙われてたんだから、あたしが囮になれば――」
 そういう少女に、船長は小突くような真似をした。
「嬢ちゃん、そりゃ希望的観測だ! ありゃあ行き掛けの駄賃に俺たちを食って、それから嬢ちゃんを追うぞ!」
 船長の言葉は事実だろう。あのクラーケンたちにとって、既に船長たちは獲物なのだ。
「ご、ごめん、あたしがよく考えずに助けなんて求めちゃったからだ……!」
「お嬢ちゃんが助けを求めなくたって、俺らは助けてたよ!」
 船員が声をかけた。
「海の上じゃ助け合いだ。それに、そう悲観するものでもないぜ!
 前方から小型船が高速接近! やや遅れて大型船も!」
 船員たちが大声をあげる。
「援軍だ! 助かったぞ!」
「先頭の船……はやいな! あの赤い頭巾の乗ってる奴! かなりの技術を持ってる奴だ!」
「なら、ローレットの奴だろう! この海で俺たちより速く走れる奴なんざ限られてる!」
 船長が叫ぶ。ほぼ同時に、赤い頭巾のイレギュラーズを乗せた小型船を先頭に、白の荒熊号の後部へ小型船が滑り込む。そのまま速度を合わせると、盾となるような位置に陣取った。真っ先に飛び込んできた船には、赤い頭巾のイレギュラーズの他に、和服のイレギュラーズの姿もある。
「あー、聞こえる!? こちら増援! ローレット・イレギュラーズ!」
 叫ぶ赤ずきん=『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)。和服のイレギュラーズ=『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)がマストのロープを掴みながら、
「そのまま直進して、此方の母船と合流してください」
 声をあげる。二人が見上げれば、船長と思わしき壮年の男と共に、金髪の、水着のような薄着の少女が覗き込んでいるのが分かる。その海のような青い瞳と、Я・E・Dと正純の瞳が交差する。まるで深い、深い海を思わせるような、不思議な瞳。深海(ディープ・シー)の目。
「その子が重要人物?」
 Я・E・Dが声をあげるのへ、船長ががなった。
「そうだ! こいつだけは何とか助けたい!」
「もう! ちゃんとオジサンも助けて!」
 懇願するように叫ぶ少女に、正純は頷いた。
「もちろん、皆助けますよ。まずは、船室あたりに隠れていてください。間もなく、リディアさんとラーシアさんという方、が直掩につくために船に乗り込みます。以降はその二人の指示に従ってくださいね。えーと――」
 一瞬、正純が言いよどむと、
「まぁ、緊急事態ですから、お名前は後でお聞きします、重要人物さん」
 正純がそう言ったのを確認して、Я・E・Dが正面を見やる。巨大な、草ったぶよぶよの身体を持った半透明の何かが、高速で接近してくるのが見える。
「あれは……イカ? でしょうか?」
 正純の言葉に、Я・E・Dが首をかしげた。
「イカのタイプかなぁ? クラゲ……ぽいけど違うか。
 なんにしても、美味しくなさそう。
 そう言えば、正純さん、泳げたっけ?」
「いえ、海での経験は」
 肩をすくめる正純。
「ですので、信頼していますよ、Я・E・Dさん。沈めないでくださいね、この船」
「りょうかーい」
 Я・E・Dがそういうのへ、小型船二隻が接近する。頭上から声が聞こえる。
「わ、凄い! ガイコツの人が乗ってる!」
 驚くような少女の声。小型船の方に目を向ければ、ガイコツの人――『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)の姿がある。その小型船は 出張店舗船ステラビアンカII号。屋形船のような形状をしたそれには、ヴェルミリオの他に、主である『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)、そして『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)の姿があった。
「こちらステラビアンカII号。C(チャーリー)号、準備よろし?」
 魔術通信機から聞こえるモカの声に、正純が応答した。
「よろしい、です。B(べぇた)号の姿も見えます」
 その声に、ステラビアンカの船上で、ヴェルミリオが声をあげる。
「相手は……うーん、かなり巨大なイカですなぁ!」
 同時、クラーケンがその上体を起こした。澱んだ汚泥のような目が、イレギュラーズ達を見つめる。クラーケン――深海より吠えるもの、と通常種との区別のために後の報告ではそう呼称されることとなる――が、そのいくつもの足を持ち上げた。ずだだん! 一気にふりおろせば、強烈な複数の打撃が、海上を叩く! イレギュラーズ達が身構える。衝撃波が、身体を穿ち、痛みを走らせた。
「複数回攻撃ですか! いや、手足が沢山で羨ましいですな!」
 ヴェルミリオがカタカタと歯を鳴らして笑ってみせた。
「予定通り、あの触手を切り落としましょう」
 ルーキスがそういう。
「手数を落とせれば、それだけこちらに有利に働くはずです。ただ、狙いをつけるのは少々難しいですが――」
「サポートはいたしますぞ!」
 と、ヴェルミリオ。
「了解。食材には使えなさそうなのが残念だけれどね。
 ……おっと、忘れてた」
 モカはそういうと、白の荒熊号の船上から覗いていた、少女に向けて笑ってみせた。
「ごきげんよう、お待たせいたしました!
 Stella Bianca デリバリーサービスです!
 あなたが呈茶とボディーガードをご注文のお嬢様ですね!」
 そう伝えると、花咲くように、少女の顔が輝いた。
「わ、カッコいいおねーさんだ! おねがい、皆をまもって!」
 少女の言葉に、モカは笑う。
「ご注文、承りました――それでは、しばしお待ちを!」
 小型のクラーケン=落とし子たちが飛び掛かってきたのを、モカは蹴り飛ばした。ばしゃん、とはじけた落とし子が、泥のように消えて失せる。
 本体のクラーケンを守る様に落とし子たちが次々と襲い掛かってくる。三隻目の小型船が、その中を突っ切ると同時、『戦飢餓』恋屍・愛無(p3p007296)は、己が爪を使い、その落とし子を斬り落とした。ぶしゃ、と泥のように溶けて消える落とし子。「ふぅむ」と愛無は唸る。
「奴らは『重要人物を狙っている』のだな? となれば、明確な『意志』を持っているとみるべきか」
「意志……という事は、普通の魔物のように本能のままに襲ったのではなくて、誰かに命令されている……ですか?」
 『誰かと手をつなぐための温度』ユーフォニー(p3p010323)がそういうのへ、『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が頷いた。
「可能性は高い、とみるね。深怪魔っていうのはまだ謎だらけだ。
 何者かに使役されている可能性は捨てきれない」
「うむ。奴らが現れたのは、ここ半年ほどと聞いている。
 少なくとも何者かの悪意を、僕は感じる」
「そんな……!」
 ユーフォニーが悔しそうな顔をした。
「あの怪物が現れてから、この海域でたくさん、人が亡くなった、行方不明になった、ってきいているんです……!」
「そうだ。その現象に何者かの悪意があるのなら――」
 ゼフィラの言葉に、続いたのは『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)だ。
「許せない、っすね! 少なくともいろんなところに確実に迷惑をかけてるっすから!」
 レッドの言葉に、ユーフォニーは頷いた。
「その悪意から、皆を守ります……!
 俺たちの命を代わりに、なんて、誰にも言わせない。
 私は最悪から、皆を守ります!」
「同感っす! さぁ、あの親玉をぶっ飛ばしに行くっすよ!
 愛無さん、スピード全開!
 ユーフォニーさん、ゼフィラさん、やるっすよ!」
「了解だ。僕のドラテクを見せてやろう――船の操縦もドライビングでいいのか?」
 愛無がジョークを言いつつ、舵をいっぱいに切った。船がぐわり、と右に身をよじり、僅かにあいた空間を、落とし子の攻撃が擦過する。
「さぁて、皆を守る、と仲間が言ったんだ。
 ヒーラーとしては、腕が鳴るね。
 背中は任せてくれ。誰一人、死なせはしない!」
「お願いします! もう、繋いだ手は無さなさい……!」
 ユーフォニーが声をあげる。山積の小型船が『吠えるもの』へと突撃する中、包囲を抜けた落とし子たちが、荒熊号に飛び乗っていた。
「ちびイカが来たぞ! 接近戦――」
 船員が叫ぶ――同時、鋭く輝く剣閃が瞬き、落とし子を切り裂いた!
「リディア・レオンハート推参!
 勇猛果敢な荒熊の皆さん、力を合わせてこの難局を切り抜けましょう――必ず、全員で!」
 剣閃の主――『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)が、高らかな声をあげた。輝剣を掲げての、勇敢なる声。船員たちの視線が、リディアへとうつる。
「すごい、あの一声で、まるで雰囲気が変わったみたいに……!」
 少女が驚いたような声をあげる。突如現れたリディアの声は、緊張と恐怖に綱渡りの正気を保っていた船員たちを、ぐいと正気側に引き上げた。まるで、勇者の一声、勇気の旗印のごとく。
「ラーシアさん! 重要人物さんの保護を!」
 リディアが叫ぶのへ、ラーシアは頷く。ラーシアが少女の傍に駆け寄ると、
「私から離れないでくださいね。何があっても」
 というので、少女はキラキラとした瞳で、ラーシアを、そしてリディアへと視線を送り、
「うん! 皆頑張って!」
 そう声をあげた。リディアはにっこりと頷いて見せると、
「船長、戦闘指揮は私がとっても?」
「もちろんだ! お前さん方の方がうまく俺たちを使えるだろうよ!」
 銃を構えた船長が頷く。
「ありがとうございます! では、これより指揮はローレットのリディアが引き継ぎます!
 各員、個人行動は控え、協力して敵の各個撃破を! 数の優位を確保して押し切りましょう!
 負傷した方は無理せず後退! 大丈夫です、私を――仲間を信じて!」
『応!』
 船員たちが一斉に頷いた。統率の取れた動きを見せる船員たちに、落とし子たちは攻めあぐねるかのような様子を見せた。リディアは船員たちの先頭に立ち、落とし子をその輝剣で切り裂く!
「絶対に、みんな生きて帰りますよ!」
 その言葉に、船員たちは雄叫び(ウォークライ)で返答とした。果たして始まった衝突は、ダガヌの海上を戦の熱気で包み込んでいた。

●澱む魔
 無数の触手が、海を叩ききるように振るわれる。衝撃が、イレギュラーズ達の身体を叩く。直撃すればただではすむまい。いや、直撃したとしても、耐える事の出来たものはいる。例えば、ヴェルミリオ――。
「スケさんは見ての通りガイコツですが――」
 身体を叩く、巨大な触手。ヴェルミリオは勇敢にもたてを構え、その振り落ちてくる壁にも似た一撃を耐えしのいだ。
「ただのガイコツではありませんぞ! 当たって砕けるタイプではありませんが故に!」
 カタカタと歯を鳴らして笑うヴェルミリオ。一方、振り落ちてきた触手を、二つの剣閃が切り裂いた。白百合と、瑠璃雛菊。二つの刃。
「はぁぁっ!」
 ルーキスの斬撃が、この時触手を斬った。根元から斬り落とされた触手が、海中に没して海を揺らす。跳躍していたルーキスが船上に飛び降りると、吠えるものさらに触手を振り下ろした。
「モカさん!」
「了解だ」
 モカが操舵する船が、僅かにその身をよじらせる。落ちてきた触手が海を叩いた。
「やれやれ、衝撃だけでも大惨事だね!」
 モカが叫ぶ。
「ステラビアンカ、あなたは強い子だろう? これからもいろんなお客さんを乗せて海を行くんだ。まずは、深海の瞳のお嬢さんから。だから、こんな所で沈んだりはしない!」
 モカの操舵により、一歩前へ。その後方から解き放たれる二つの星。天星弓。マスケット銃。
「みんなー、一斉攻撃をお願いね。触手を先に切っておけばだいぶ楽になるはずだよ」
 マスケット銃の主、Я・E・Dが声をあげる。
「例え一の矢二の矢が外れたとしても、三の矢で仕留めればよいのです!」
 正純の放つ矢が、触手へと突き刺さる。そこへ追うように放たれた閃光。マスケット銃かな放たれた究極の光が、まばゆい刃のごとく触手を切り取る。触手が海に落下した。
「あの足、あとどれだけあります?」
「1,2,3……たくさん!」
 二人が船の物陰に隠れる。ずだだん! 音を立てて飛来する水滴は、銃弾のように物陰に突き刺さった。触手だけが攻撃の能ではない様だ。
「体内で圧縮した海水を、散弾のように撃ち込んできましたね」
「けど、足を斬ればそれだけ手数は減るはずだよ」
 物陰から銃口を出して、Я・E・Dが引き金を引く。けん制も兼ねた銃弾は、狙わずとも巨大な吠えるものの身体に容易に突き刺さる。とは言え、それで致命打は狙えないが、注意を引き、回避の能を下げられればまずは良い。
「それで、脚はあと……たくさん、でしたか。
 私の知る限り、イカの脚は十本でしたが――」
「あれ本当にイカなの? わたしたち、騙されてない?」
 軽口をたたきつつ、射撃を続行する二人。一方、小型船B号の4人もまた、吠えるものへと肉薄していた。
「近づけば近づくほど、取り巻きもずいぶん突っ込んでくるぞ!」
 ゼフィラが叫ぶ。人型サイズの落とし子たちは、空を飛ぶように器用に海水を吐きながら、ジェット噴射めいて突っ込んでくる。ユーフォニーが、中空のそれに視線を移すと、空から現れた今井さんが飛び蹴りをくわえる。落とし子を海へと叩き落した今井さんが、その勢いのまま上昇、次の落とし子を、ダブルジャンプのように蹴り落とした。
「今井さん、意外と動けるんですね……じゃなくて!」
 ふるふるとユーフォニーが頭を振る。
「落とし子をやっつけながら、吠えるものにも攻撃を……!」
「分かっているとも。少々忙しいが、やってやれないことはない」
 愛無が頷く。
「イルカさん、皆さんを手助けするっす!」
 レッドが呼び出した小さなイルカが、仲間達に守護をもたらす。水上と水中の行動にプラスを与えるその加護が、仲間達の背中を押した。
「これで海におりても大丈夫っすよ! 結構機敏に動けるはずっす!」
「ありがたいね、助かるよ」
 ゼフィラが笑った。
「となると、私も負けてはいられないな。さぁ、祝福と行こうか」
 ゼフィラの歌う聖詩が、深海の魔よりその身を守るための障壁となる。光の中に包まれて、疲労と傷が癒えていくのを理解した仲間達は、吠えるものへ懸命な攻撃を続ける。
「しかし……やはり狂王種とは違うね。詳しくは、解体して調べてになるだろうが……知識と直感が、まるで違うものだと告げているよ」
「また新手の厄介なお客さんか。この世界も難儀なものだな」
 愛無が相槌を打つ。
「あれの正体を知るためにも、今この場は切り抜けなければなるまいよ。
 ユーフォニー君、君がこの船の『主砲』だ。君の威力は、僕たちが最大限に活かす。
 だから君は、攻撃することだけに注力してくれ。露払いも、護衛も」
「ボクたちがやるっすよ! だから、頑張りるっす!」
 レッドがその言葉を引き継いだ。ユーフォニーは頷く。
「はい……! レッドさん、ゼフィラさん、援護をお願いします!
 愛無さんは、船と、落とし子たちを!」
「任せてくれ」
 ゼフィラが頷き、
「では、雑魚を引き付けようか。
 やれやれ、海生物どもめ。大人しく海の底で微睡んでいれば良いものを。のこのこ起きてくるから喰われる事になる」
 愛無は水上に着地すると、大きな吠え声をあげた。数体の落とし子達が、愛無を狙って飛び込んでくる。愛無はそれを、爪で迎撃しつつ、
「道は開いた」
「ボクが護るっす!」
 レッドが続けるのへ、ユーフォニーが頷く。
「行きます! 悲劇を、恐怖を、塗りつぶす……これが、私の世界――!」
 その海を思わせる瞳が、僅かに輝いた。現実を塗りつぶすような、万華鏡の世界が顕現する。ユーフォニーの世界。色と音に彩られた世界。輝くそれが、吠えるものを包み込んでいた。

 一方、荒熊号の船上でも、激しい戦いが繰り広げられていた。接舷した落とし子たち、およそ10を、船員とリディアが相手取る。戦いつつ、船員の一人が声をあげた。
「リーダーの指揮通りだ! 多数で一体に当たれ! こっちに来てる数は多くねぇぞ! 死ぬ気で――」
「死んだらダメです!」
 リディアが叫ぶ。
「ご命令だ、死ぬな!」
『応!』
 一体に対して、おおむね五人ほどで一斉攻撃を仕掛ける船員たち。総数自体は此方の有利にあり、イレギュラーズ達に比べれば戦力として心もとない船員たちでも、複数で協力すれば一体一体を確実に減らせることは見ての通りだ。また、リディアの指示通り、深いダメージを負ったものは早々に戦線から離脱している。その離脱分を考慮しても、此方の戦力はまだまだ充分であり、何より船上に残り、船員たちを率いて戦うリディアの存在も大きい。戦力としては最大であると同時に、船員たちはその声によりより効率的に、強力に動けたからだ。
「落とし子たちの戦力はさほどではありません!」
 敢えて勇気づけるように、リディアは声をあげた。
「複数で当たれば、絶対に勝てます! こんなの相手に泣き言を言っていたら、海の男が廃るっていうものでしょう?」
「ちげぇねぇ!」
 落とし子と戦いながら、船員が頷く。
「リーダーもお気をつけて!」
「もちろんです! 全員無事に生きて帰ります! あなたも、私も、ですから!」
 輝剣が、落とし子を切り裂く。その様子を見ながら、ラーシアに護られた少女が、瞳を輝かせる。
「す、すご……! さっきまでもうだめって感じだったのに、あの人たちが来てから、一気に空気変わった……!」
 少女が、声をあげる。
「あの人たちが、ローレット・イレギュラーズ……!
 あの人たちがいれば、メーアも、竜宮も、何とかなる……!」
 少女の言葉通り、些か悲観的な空気が支配していた逃亡戦から、イレギュラーズの参戦により、瞬く間に雰囲気は変わっていた。もちろん、イレギュラーズも相応に傷をおってはいたが、それでも懸命に戦う姿は、人々に希望を持たせるには十分すぎるほどの姿だった。
 あれが、イレギュラーズ。可能性の存在、現代の勇者。
 少女は確信していた。
「この人達なら、きっと……!」
 少女の心に、明確な希望が生まれた、その瞬間だった。

●海域突破
 イレギュラーズ達と深怪魔たちの激しい戦いは、いよいよ佳境へと突入しようとしていた。取り巻きの落とし子たちは今やすべてが刈り取られており、荒熊号へと向かった落とし子達も、リディアに率いられた船員たちによって、全滅に近い状態に追い込まれていた。
 吠えるものは、その脚を次々と斬り落とされている。その為、本来の行動力の半分も発揮できぬ状態になっていた。これはイレギュラーズ達の作戦が、上手くハマった形と言えるだろう――。
「こうなれば、まな板の上のなんとやらっす!」
 レッドが叫ぶ。程よく足を解体された吠えるものは、まさに後は調理されるのを待つばかりと言った所か。いや、そこでおとなしく切り刻まれるのを待つような、諦めの良い怪物ではあるまい。吠えるものは、身体に海水を取り込むと、巨大な砲弾のように圧縮して打ち出してきた。海上に落下するそれが弾けて、海原を揺らす。小型船が大きく揺れるのへ、レッドはマストにしがみついた。
「まったく、なにをそんな執着してるかわかんないっすけど! しつこいっすよ!」
 レッドが叫ぶのへ、ゼフィラは頷いた。
「よっぽど、あの少女に興味がおありらしい」
「知っているぞ、そういうのは。ロリコンというのだな」
 愛無がいうのへ、レッドが肩をすくめた。
「なんか違うような気もするっすが! さておき――ユーフォニーさん、止めの一斉攻撃と行くっすよ!」
 レッドがそう言いながら、ユーフォニーを庇う位置に立つ。倒れることはない、と豪語するとはいえ、傷と痛みは確実にあるはずだ。それでも、自分を庇って立つという決意のままに戦うレッドの意気を、ユーフォニーは受け取った。
「お願いします、レッドさん!」
 ユーフォニーの『世界』が世界を上書きする。音と色に彩られた世界。その中を、一陣の星の光が奔る! 天星の一矢、究極の狙撃の一!
「縫い留めます!」
 正純の放つ矢が、吠えるものの触手を貫いた。荒れ狂う波に立つ船、その船上から狙撃の一矢を放てるのは、正純の技量故の事。正純はすぐに次の矢を番えると、ふ、と息を止め、全神経を集中。一点のみを見て、正射! 必中! 突き刺さる矢が、触手を撃ち抜く!
「イカの脳って、眉間にあるらしいよ」
 ずだん、と音を立てて、Я・E・Dのマスケット銃が光を放つ。眉間に通じる道、それを邪魔する触手を、次々と撃ち、叩き落とす!
「あれ、イカかどうかはいまいち疑問だけど。
 まぁ、似たようなものなら眉間にあるんじゃないかな?」
「承知ですぞ!」
 ヴェルミリオが叫ぶ。
「では、スケさんとモカ殿で道を作りますぞ! ルーキス殿、止めを!」
「わかりました!」
 ルーキスが声をあげて、跳躍! 同時、モカがステラビアンカを一気に接近させた。
「ヴェルミリオさん! 正面の触手、打つぞ!」
「承知ですぞ!」
 叫び、跳ぶ。モカの脚が、ヴェルミリオの持つ盾が、道をふさぐ触手を叩きつけ、眉間への道を作り上げる!
「今!」
 モカが叫んだ! ルーキスが、二振りの刃を頭上高くに構える!
「一か八か。この一撃で止める!」
 翻る、二振りの刃! 刹那の三撃! すなわち、猪・鹿・蝶!
 華麗に振るわれる、必殺の殺人剣! 猪が表皮を裂き、鹿が肉をこそぎ、蝶がその臓腑を抉る!
 きゅううういいい、と、吠えるものは悲鳴を上げた! ぐるり、と濁った眼が天をむく。ぐちゃり、ぐちゃりととけるように、その身体がぼだぼだと海に溶けて沈んでいった。
 ルーキスは、その吠えるものの身体を蹴って、再度跳躍。ステラビアンカの船上へと着地。同時、吠えるものが倒れ込み、ざばああん、と海の飛沫をあげた。まるで雨のように降り注ぐ海水を見に受けながら、ルーキスは二振りの刀を素早く納刀する。
「確かに、狩りとりました」
 ルーキスがふぅ、と息を吐く。倒れ込んだ吠えるものが、ぐずぐずと汚泥のように溶けて、海に流されていく。
「戻りましょう! 荒熊号に、まだ敵が残っているかもしれません」
 ルーキスの言葉に、仲間達が頷く。慌てて引き返した小型船たちを、しかし出迎えたのは、笑顔のリディアと船員たちだった。
「こっちはもう大丈夫です!」
 リディアが声をあげるのへ、船員に一人が声をあげる。
「助かったぜ! けが人こそいるが、死人は無しだ! まったく、あの状況をひっくり返すとは……本当にすげぇや、ローレットってのは!」
 リディアと船員たちのコンビネーションにより、荒熊号の船上に乗り移った落とし子たちは、すべて殲滅されていた。今は、悪臭を放つ汚泥となって、船上を汚している。
「ただ、あー……ちょっと、臭いがしばらく取れなさそうですけど」
 リディアが苦笑するのへ、船長が笑った。
「新人が船酔いして吐いた後を片付けるよりはましさ。
 それより、アンタらもあがってきてくれ。お嬢さんも、アンタらにお会いしたいだろうからな」
 そういうのへ、少女は好奇心を抑えられぬような、少しばかり子供っぽい表情で頷く。
 果たしてイレギュラーズ達は、自分たちの小型船のえい航船員たちにを任せると、荒熊号の船上へとあがる。
 果たしてそこにいたのは、船長と――一人の少女だった。先ほどは戦闘中という事でまじまじと見ている余裕はなかったが、なんとも、水着のような、奇妙な薄着をした少女だった。
「えーと」
 そうЯ・E・Dが名前を訪ねようと声をあげた刹那、少女は躊躇なく、その腕を広げて飛び込んできた。端的に言うと、抱き着いたのである。
「はい?」
「す~~~~~~~っ、ごい! すごい! 深き魔でも、結構強い奴だったんだよあれ!? あたしなんて逃げるのに精いっぱいだったのに、皆を守りながらたおせるなんて、すっごい!」
 キラキラした瞳は、子供のようだった。年齢の頃なら、16前後だろうか?
「あ! さっきの骨の人だ! ばしーん、って叩かれても平気で立ってるなんて、かっこいいよね!
 和服のおねーさんは豊穣の人なのかな!? 弓がかっこよかった! あれ、あたしにもできるかな!?
 ねね、そっちの赤い靴の子、イルカを出せるの!? ちょー可愛い! ね、また出せる!?」
「ちょっ、ちょっと、落ち着き給えよ」
 流石のゼフィラも、少女の様子に面食らった様子を見せた。その言葉に、少女は「あはは」と苦笑する。
「ごめん、つい……えっと、自己紹介だよね。こほん」
 少女は咳払い一つ。にっこりと笑って、言葉を紡いだ。
「あたし、マール。マール・ディーネー!
 竜宮城から来ました!」
 と――。

成否

成功

MVP

ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 重要人物たる少女マールは、皆さんと共にフェデリアへと移動し、総督府にて保護されているようです――。

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